特許第6236593号(P6236593)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6236593
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】金属摩耗修復剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 125/30 20060101AFI20171120BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20171120BHJP
   C10M 105/38 20060101ALN20171120BHJP
   C10M 125/10 20060101ALN20171120BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20171120BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20171120BHJP
【FI】
   C10M125/30
   C10M169/04
   !C10M105/38
   !C10M125/10
   C10N30:06
   C10N40:25
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-20983(P2017-20983)
(22)【出願日】2017年2月8日
【審査請求日】2017年2月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517042081
【氏名又は名称】株式会社HKケミカル
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】特許業務法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 亨次
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−534480(JP,A)
【文献】 特開昭61−115997(JP,A)
【文献】 特開昭62−185792(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101967417(CN,A)
【文献】 特開昭61−117286(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104789297(CN,A)
【文献】 特開2006−137907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基が消失しない温度以下で焼成された無水セピオライトを含有し、鉄系金属表面の摩耗を修復し得る金属摩耗修復剤。
【請求項2】
塊状形態を有するβ型セピオライトを含有することを特徴とする請求項1の金属摩耗修復剤。
【請求項3】
請求項1又は2の金属摩耗修復剤と、 ミクロンサイズの研磨微粒子と、 ポリオールエステルを備えたことを特徴とする金属表面改質剤。
【請求項4】
前記ポリオールエステル1リットル当たり、前記金属摩耗修復剤が1〜20g添加されたことを特徴とする請求項の金属表面改質剤。
【請求項5】
前記研磨微粒子は、シリカ微粒子、シリカゲル微粒子又はアルミナ微粒子の少なくとも1種であり、
前記金属摩耗修復剤が65重量%以上含有され、前記研磨微粒子が35重量%未満含有されたことを特徴とする請求項3又は4の金属表面改質剤。
【請求項6】
前記金属摩耗修復剤の粒径より大きなシリカ微粒子が添加されたことを特徴とする請求項3又は4の金属表面改質剤。
【請求項7】
前記金属摩耗修復剤の粒径より大きな粒径0.5〜10μmのシリカ微粒子と、粒径10〜100nmのナノサイズのシリカ微粒子が共添加されたことを特徴とする請求項3又は4の金属表面改質剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄又は鉄基合金の摺動摩耗面から放出された鉄イオンを金属表面で再金属化し、摺動摩耗面の修復を可能とする摩耗修復剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車に代表される内燃機関では、ピストン、シリンダーライナ、クランク軸、連結棒の軸受、カムおよびバルブリフタなどに摺動部分が存在し、摺動部分に用いられる金属部材には、焼き付き防止、作動円滑化のための潤滑油やグリースなどの潤滑剤が用いられる。
潤滑剤には摺動面の摩耗を抑制すべく耐摩耗剤などが配合されているが、機器の長期間使用により、金属部材の摺動面に摩耗が生じる。摺動面に摩耗が生じると、振動やノイズが増大するといった問題や、シリンダ圧の低下により燃料の燃焼不良によるパワーの低下や燃費の悪化といった問題が生じる。
内燃機関以外に、自動変速機、駆動系機器、緩衝器、パワーステアリング、ギア、油圧機器なども同様な問題がある。
【0003】
かかる状況下、鉄系金属表面から摩擦により放出された鉄イオン(Fe2+)を、金属表面で再金属化する摩擦面改質剤が知られている(特許文献1を参照)。特許文献1に開示された摩擦面改質剤は、蛇紋石族の石綿に属するクリソタイル(温石綿)の結晶化の際に生じるMg原子と
Fe原子の置換反応を用いて、摩擦により放出された鉄イオン(Fe2+)を捕獲し、金属表面で再金属化するものである。
具体的には、特許文献1に開示された摩擦面改質剤は、シュンガイト鉱石あるいは蛇紋石を出発原料にした含水珪酸マグネシウム組成物であり、長さ1.5μm〜20μmの繊維状結晶体である蛇紋石族のクリソタイル(組成式:Mg3(Si25)(OH)4)やアンチゴライト(組成式:Mg(Si10)(OH))を用いている。クリソタイルやアンチゴライトが触媒物質となり、鉄系金属部材の摩擦面を修復する。
【0004】
クリソタイルやアンチゴライトは、蛇紋石族の石綿(アスベスト)に分類される。近年、石綿(アスベスト)の繊維は、肺線維症(じん肺)や悪性中皮腫の原因になると報告され、その使用が制限されており、特許文献1に開示された摩擦面改質剤に替わる鉄系金属部材の摩擦面を修復できる材料が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−137907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の如く、特許文献1の摩擦面改質剤では、石綿(アスベスト)に分類される蛇紋石族のクリソタイル(組成式:Mg3(Si25)(OH)4)又はアンチゴライト(組成式:Mg(Si10)(OH))を含有し、使用が制限/禁止されているものである。したがって、これらに替わる新しい材料が必要とされている。
かかる状況に鑑みて、本発明は、鉄系金属摩耗を効果的に修復でき、安全に使用できる金属摩耗修復剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、本発明者は、研究・実験を繰り返し実施し試行錯誤の上、蛇紋石族のクリソタイルやアンチゴライトに替わるものとして、石綿に分類されない天然鉱物のセピオライト、鉄系金属表面の摩耗を修復する性質を有することの知見を得た。
【0008】
すなわち、本発明の金属摩耗修復剤は、水酸基が消失しない温度以下で焼成された無水セピオライトを含有し、鉄系金属表面の摩耗を修復するものである。
セピオライトは、天然に産出する粘土鉱物の一種である。セピオライトの主成分はマグネシウム珪酸塩である。
また、セピオライトの組成式は、MgSi1230(OH)・(OH)・8HOである
ここで、鉄系金属とは、鉄、鋼、鋳鉄、及び鉄を主成分とする金属材料(合金)が含まれる概念であり、炭素鋼、ケイ素鋼、ステンレス鋼、高マンガン鋼、ニッケル鋼、ニッケルモリブデン鋼などが例示される。
【0009】
セピオライトは、繊維状構造を有し、結晶構造は層状構造と鎖状構造との間を成すものである。セピオライトは、微細孔が多数存在するため、柔軟性があり、多孔質で比表面積が大きく、軽量であるといった特性を有する。
また、セピオライトの結晶表面には水酸基が出ており、水やアルコールに対する親和性がある。また耐熱性に優れている。セピオライトの主な用途は、軽量・多孔質で、優れた耐熱性によって、特に建築材料に好適に用いられる。また、多孔質、水親和性等の特性から濾過フィルターに対しても好適に用いられる。さらに、油やアルコール中の水分除去、パイプライン等の油漏れ防止や摩擦材にも使用されている。
【0010】
本発明の金属摩耗修復剤として、好適には、塊状形態を有するβ型セピオライトを用いる。セピオライトは、結晶度の違いによってα型セピオライトとβ型セピオライトに区別される。α型セピオライトは主に高温高圧化における熱水作用によって生じるもので繊維状の形態を示すのに対して、β型セピオライトは浅海底や湖底での堆積作用によって生じるもので塊状形態を示す。
α型セピオライトは、高温高圧化における熱水作用によって生じるために、同様に高温高圧化における熱水作用によって生じるアスベスト(トレモライト)を含有する可能性が高い。一方で、β型セピオライトは、浅海底や湖底での堆積作用によって生じるために、アスベストが生じるような熱作用を受けておらず、アスベストが混入する可能性が無い。このような理由により、β型セピオライトを用いるのが好ましい。
【0011】
本発明の金属摩耗修復剤は、上述の如く、水酸基が消失しない温度以下で焼成された無水セピオライトを含有する。水酸基が消失しない温度以下で焼成させることにより、鉄系金属表面の摩耗を修復するといった触媒活性をより高めることができる。例えば、セピオライトの場合、250℃未満の焼成で、付着水と沸石水という結晶構造(8面体層の構造)に含まれる水が消失し、大凡250〜600℃の焼成で、8面体層の端に結合している水(結合水)が消失し、セピオライトは無水物となる。このような無水セピオライトの場合、結合水が失われ結晶構造に歪みが生じる。本発明者は、結合水が失われ結晶構造に歪みが生じた無水セピオライトが、より触媒活性が優れていることを見出したのである。
なお、600℃以上で焼成すると、8面体層に位置する水酸基、所謂、構造水が失われ、結晶構造が壊れてしまう。結晶構造が壊れ、再結晶化しない場合は、セピオライトの触媒活性が失われる。
【0012】
本発明の金属表面改質剤は、上述の金属摩耗修復剤と、ミクロンサイズの研磨微粒子と、ポリオールエステルを備える。セピオライトなどの金属摩耗修復剤が65重量%以上含有され、シリカ微粒子、シリカゲル微粒子又はアルミナ微粒子の少なくとも1種の研磨微粒子が35重量%未満含有されたものを好適に用いることができる。
例えば、シリカ微粒子、シリカゲル微粒子、酸化アルミニウム微粒子などの研磨性を有する研磨微粒子を加えて、鉄系金属の摩耗面の凹凸が滑らかにし、Feイオンの吸着を促進する。金属の摩耗面に吸着されるFeイオンが増加することにより、鉄系金属部材の摩耗修復能を更に向上できる。
研磨微粒子の粒径は、金属部材の摺動面の隙間サイズによってデザインされるものであり、特に制限されるものでないが、具体的には0.05μm〜10μmが好ましく、より好ましくは0.1〜5μmである。研磨微粒子の粒径が0.05μm未満であると研磨性能が低下し、10μmより大きいと金属表面を傷付けるリスクが増加するからである。
【0013】
ポリオールエステルは、極性が強く、弱塩基性のものが望ましい。従来、高級潤滑油として、航空機エンジン用に使用されていたが、最近では、自動車エンジン用としても、高級車向けに使用されている。ポリオールエステルは、潤滑特性が優れ、弱塩基性のものは、酸化劣化している潤滑油に添加すると潤滑油の酸化の進行を食い止め、潤滑油の性能を回復させるという利点がある。また、水や油と親和性があるが、水分を吸収しやすく、加水分解しやすいという性質には注意を要する。
ポリオールエステルを溶媒として用いることにより、本発明の金属摩耗修復剤と研磨微粒子を容易に分散させることができる。また、ポリオールエステルは、極性の強さから、鉄イオン(Fe2+)を磁石のように吸収する効果も期待できる。
【0014】
一方、セピオライトなどの結晶体の粒径は、金属部材の摺動面の隙間サイズによってデザインされるものであり、特に限定されないが、研磨微粒子と同様にミクロンサイズが好ましい。
金属部材の摩耗面の表面荒れが大きい場合は、結晶体の粒径は大きい方が効果的に機能する。反対に、金属部材の摩耗面の表面荒れが小さい場合は、結晶体の粒径は小さい方が効果的に機能する。被金属部材が装着された機器の種類や動作状況、摺動部分の相対速度などによって、最適な結晶体の粒径をデザインすべきである。
【0015】
本発明の金属表面改質剤は、具体的には、ポリオールエステル1リットル当たり、セピオライトなどの金属摩耗修復剤は1〜20g添加される。
上述の金属摩耗修復剤や金属表面改質剤を潤滑剤として、鉄系金属部材同士の摺動面に供給し、鉄系金属部材同士を接触させて摺動させると、摺動面から放出されるFeイオンが摺動面上で再び金属化し、摩耗面の凹みを埋め、表面を修復する。
【0016】
また、本発明の金属表面改質剤は、金属摩耗修復剤の粒径より大きなシリカ微粒子を添加することが好ましく、より好ましくは、金属摩耗修復剤の粒径より大きな粒径0.5〜10μmのシリカ微粒子と、粒径10〜100nmのナノサイズのシリカ微粒子を共添加する。
触媒である金属摩耗修復剤のセピオライト微粒子よりも、少し粒径の大きいシリカ微粒子を添加させることにより、セピオライト微粒子のポリオールエステル溶液中での分散性を高め、沈降を軽減することができる。シリカ微粒子をポリオールエステル溶液に分散させて、そのシリカ微粒子の表面上に、触媒のセピオライト微粒子を乗せて、容器の底に沈降しないようにできる。シリカ微粒子の添加によって、ポリオールエステル溶液の粘性(粘度)が少し上がることも、沈降を防止することに寄与する。
また、ナノサイズのシリカ微粒子を添加させることで、ナノサイズのシリカ微粒子が自動車のエンジンやエアコンの圧縮機の摺動面の隙間に入り込み、形状が真球状であることから、ベアリング効果を醸し出せる。例えば、平均粒径10nm、50nmなどナノサイズのシリカ微粒子が好適に用いられる。
さらに、シリカ微粒子やシリカゲル微粒子は、金属表面が修復されたあと、ゼリー状のガラス被膜を形成して、二次的に金属表面を保護し、金属の磨耗を防ぐとともに酸化劣化を防ぐ。
【発明の効果】
【0017】
本発明の金属摩耗修復剤および金属表面改質剤によれば、鉄系金属表面に加わる摩擦エネルギーによって放出されるFe2+イオンを、金属表面で再金属化させて、摩耗面の凹みを埋め、摩耗面を修復できるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】金属摩耗修復剤(セピオライト)の作製フロー図
図2】金属表面改質剤の作製フロー図
図3】金属摩耗修復剤によるFeイオン捕獲とFeイオン放出のサイクルの説明図
図4】実施例A,Bの金属表面改質剤の修復能を示すデータ
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例1】
【0020】
図1は金属表面改質剤の作製フローを示している。
金属表面改質剤は、下記表1に示す配合割合で、β型セピオライト微粒子、シリカ微粒子、シリカゲル微粒子および酸化アルミニウム(アルミナ)微粒子を、ポリオールエステル100mLに分散させて作製したものである。金属表面改質剤は、金属摩耗修復剤として、塊状形態を有するβ型セピオライトを約70重量%含有し、研磨微粒子として、シリカ微粒子、シリカゲル微粒子および酸化アルミニウム(アルミナ)微粒子を合せて約30重量%含有する。
【0021】
【表1】
【0022】
金属摩耗修復剤であるβ型セピオライトの結晶微粒子は、図1の処理フローに示すように、天然鉱物を粉砕し(ステップS01)、磁力によって選別し(ステップS02)、比重選別処理(ステップS03)を経て抽出される。その後、鉱酸処理(ステップS04)と加圧・加熱処理(ステップS05)を行うことにより不純物を取り除き、結晶構造(8面体層の構造)のβ型セピオライト微粒子を得る(ステップS06)。セピオライトの組成式は、MgSi1230(OH)・(OH)・8HOであり、主要元素は、マグネシウム、ケイ素、酸素及び水(結晶水)である。
図2の処理フローに示すように、ポリオールエステルを溶媒として、得られたβ型セピオライト微粒子と、研磨微粒子としてのシリカ微粒子、シリカゲル微粒子およびアルミナ微粒子とを分散させて、金属表面改質剤の溶液を作製した。
【0023】
(実証試験)
作製した金属表面改質剤の溶液25mLを、エアコン室外機1台のコンプレッサーの冷媒に注入し、コンプレッサー内部の摩耗した金属表面が修復されるか否かを確認した。金属表面が修復されるか否かの確認は、エアコン全体の電気代の削減率により間接的に行った。
関東地方における某特別養護老人ホームの施設に設置されているエアコンを用いて試験を行った。施設は、鉄筋コンクリート4階建ての建屋で、100床ある。エアコン室外機14台のコンプレッサーの冷媒に、作製した金属表面改質剤を注入した。エアコン室外機14台の内訳は、建屋1階の厨房に2台、共有リビング2ヶ所に各1台、建屋2階の共有廊下に1台、共有リビング4ヶ所に各1台、建屋3階の共有廊下に1台、共有リビング4ヶ所に各1台である。対象エアコン室外機は、平成22年4月新設後6年経過のビル用マルチエアコンであり、圧縮機出力は10〜12kWである。本施設の老人ホームでは、一日中エアコンを稼働させている。
平成28年8月に、金属表面改質剤を注入し、平成27年9月〜平成28年1月の5ヶ月間の電気代と、平成28年9月〜平成29年1月の5ヶ月間の電気代を比較した。結果を下記表2に示す。
【0024】
【表2】
【0025】
上記表2の期間中に節エネ技術の導入は、金属表面改質剤を注入以外は無く、表2に示す電気代の削減は、注入した金属表面改質剤の効果であると言える。前年の電気使用量(電気代)との比較から、9月〜翌年1月にかけて毎月11%〜29%の電気使用量が削減できていることが確認できた。外気温が下がる12月と1月の電気代の削減率は大きく、特に1月は全体に占める割合で約30%の削減率に達していた。
【0026】
ここで、図3を参照して、金属摩耗修復剤によるFeイオン捕獲とFeイオン放出のサイクルを説明する。摩耗した鉄系金属表面において、セピオライトが触媒となって、セピオライトのマグネシウムイオン(Mg2+)が鉄イオン(Fe2+)に置換する。この鉄イオン(Fe2+)はポリオールエステル溶媒の極性によって吸収され、金属表面でこの置換反応が進むことになる。そして、鉄イオン(Fe2+)は再び金属(鉄)表面から電子(e)を取り込み還元される(この還元反応によって、磁気も帯びる)。鉄イオン(Fe2+)は還元されて金属(鉄)表面の磨耗部分(凸凹)を滑らかにするように、凹部分に入り込む。これにより、鉄が再生(一体化して修復)されることになる。
【0027】
上記表2の結果から、作製した金属表面改質剤は、コンプレッサー内部の摩耗した金属(鉄)表面を再生・修復し、エアコン全体の電気使用量を削減し、電気代の削減を図れたと推察する。
【実施例2】
【0028】
次に、実施例1で作製した金属摩耗修復剤のβ型セピオライト結晶微粒子に関して、更に600℃で焼成し作製した無水セピオライトの金属摩耗修復剤おける修復能について説明する。
実施例1で作製したβ型セピオライト結晶微粒子(金属摩耗修復剤A)、600℃で焼成し作製した無水セピオライト結晶微粒子(金属摩耗修復剤B)とする。
金属摩耗修復剤Aを用いて作製した金属表面改質剤を実施例A、金属摩耗修復剤Bを用いて作製した金属表面改質剤を実施例Bとする。また、金属表面改質剤を添加しない無添加のものを比較例とする。
【0029】
図4のグラフは、実施例A,Bの金属表面改質剤をエアコン室外機コンプレッサーの冷媒に注入し、エアコンの作動電流値の変化を示している。
金属表面改質剤が無添加/添加の場合、共に、エアコンのスイッチを入れると(経過時間0分)、電流値が増加し始め、約4〜5分後、定常値に達する。金属表面改質剤が無添加の場合では、電流値は10.9(A)で安定するのに対して、実施例A(未焼成の金属摩耗修復剤Aを使用)を添加した場合では、電流値は9.7(A)で安定する。さらに、実施例B(焼成された金属摩耗修復剤Bを使用)を添加した場合では、電流値は8.7(A)で安定する。
つまり、未焼成のセピオライトを用いた金属表面改質剤では、電流値(電気消費量)が約11%減少し、焼成された無水セピオライトを用いた金属表面改質剤では、電流値(電気消費量)が約20%減少したことになる。
この結果から、焼成された無水セピオライトを用いた金属表面改質剤を使用することにより、鉄系金属表面の摩耗を修復するといった触媒活性をより高めることができ、コンプレッサー内部の摩耗した金属(鉄)表面をより効率よく再生・修復し、エアコンの電流値(電気消費量)の削減を図れたと推察する。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、鉄系金属の摩耗修復に有用であり、本発明の金属摩耗修復剤や金属表面改質剤は、エンジンオイルの添加剤、燃料(ガソリン、軽油)の添加剤として利用が期待できる。
【符号の説明】
【0031】
1 セピオライト
2 鉄系金属
3 金属表面
4 Fe2+イオン
5 電子

【要約】
【課題】鉄系金属摩耗を効果的に修復でき、安全に使用できる金属摩耗修復剤を提供する。
【解決手段】本金属摩耗修復剤は、セピオライト又はアタパルジャイトの少なくとも何れかの結晶成分を含有し、鉄系金属表面の摩耗を修復する。セピオライトとアタパルジャイトは、共に、天然に産出する粘土鉱物の一種である。セピオライトの主成分はマグネシウム珪酸塩である。一方、アタパルジャイトの主成分も同様にマグネシウム珪酸塩であるが部分的にMgがAlまたはFeに置換されたものである。好ましくは、アスベストの混入可能性がない塊状形態を有するβ型セピオライトを用いる。さらに好ましくは、水酸基が消失しない温度以下で焼成された無水セピオライトを用いる。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4