(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
交互の少なくとも90at.%AlTiNからなるAナノ層および少なくとも90at.%TiSiNからなるBナノ層のナノ積層構造を備えるコーティングが基板の表面に堆積され、微粒子構造を示す前記ナノ積層構造を堆積するために少なくとも1つのアーク蒸発源を使用する、コーティング本体を製造するための方法であって、
前記微粒子構造の粒子境界は前記コーティングの厚みを横切って前記基板へと延在せず、
前記少なくとも1つのアーク蒸発源は、ターゲット上に設けられ、前記ターゲットの表面の上または上方に磁界を発生させるための磁界構成を含み、
前記磁界構成は周辺永久磁石と、中心永久磁石と、前記ターゲットの後ろに配置される少なくとも1つのリングコイルとを含み、巻線によって規定される前記リングコイルの内径は前記ターゲットの直径以下であり、
前記ナノ積層構造を堆積する間、前記周辺永久磁石は、前記ターゲットの表面上への前記周辺永久磁石の突出が、前記ターゲットの表面上への前記リングコイルの突出と比較して前記ターゲットの表面の中心からさらに離れるように、前記ターゲットから離れて位置決めされ、かつ、前記中心永久磁石は前記ターゲットに対して後退するように後方に位置決めされることを特徴とする、方法。
交互の少なくとも90at.%AlTiNからなるAナノ層および少なくとも90at.%TiSiNからなるBナノ層のナノ積層構造を備えるコーティングが基板の表面に堆積され、微粒子構造を示す前記ナノ積層構造を堆積するために少なくとも1つのアーク蒸発源を使用する、コーティング本体を製造するための方法であって、
前記微粒子構造の粒子境界は前記コーティングの厚みを横切って前記基板へと延在せず、
前記少なくとも1つのアーク蒸発源は、カソードとして用いられるターゲットと、前記カソードの直接の近傍に配置されるアノードと、生成する磁力線が前記アノードに導かれる磁気手段とを含むことを特徴とする、方法。
前記ナノ積層構造を堆積するための原料として用いられる前記ターゲットを各々が有する少なくとも2つのアーク蒸発源を用いることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法であって、
前記少なくとも2つのアーク蒸発源の一方に含まれる前記ターゲットは、少なくともアルミニウムおよびチタンを原子百分率で主原料として含む第1の複合ターゲットであり、前記第1の複合ターゲットは前記Aナノ層を堆積するために用いられ、
前記少なくとも2つのアーク蒸発源の他方に含まれる前記ターゲットは、少なくともチタンおよびシリコンを原子百分率で主原料として含む第2の複合ターゲットであり、前記第2の複合ターゲットは前記Bナノ層を堆積するために用いられる、方法。
前記ナノ積層構造は、少なくとも主原料として窒素を含む反応雰囲気を有するコーティング室内で堆積されることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る硬質ナノ層状コーティングシステム(5)は、1つずつ交互に堆積されたA型のナノ層およびB型のナノ層を含む多層コーティングシステムに関する。A型のナノ層はアルミニウムAl、チタンTi、および窒素Nを含み、B型のナノ層はチタンTi、シリコンSi、および窒素Nを含む。好ましくは、少なくともいくつかのA型のナノ層および/または少なくともいくつかのB型のナノ層は、タングステンWをさらに含む。
【0014】
本発明に係る硬質ナノ層状コーティングシステムに含まれるA型またはB型の各ナノ層は、本質的に、個々の層の最大の厚みが200nm未満である。
【0015】
本発明では、ナノ二重層周期は、繰返し(少なくとも2回)1つずつ堆積された1つのA型のナノ層および1つのB型のナノ層の2つのナノ層の厚みの合計と定義する。
【0016】
上述のような、しかしナノ二重層周期が約300nm以上であるコーティングシステムは、著しく劣る切削性能を示すことが判明した。
【0017】
したがって、本発明に係る硬質ナノ層状コーティングシステムの好ましい実施形態は、本質的にナノ二重層周期が300nm未満であることを特徴とする。
【0018】
さらに、本発明に係る硬質ナノ層状コーティングシステムの好ましい実施形態は、以下の式に係る元素組成を有するA型およびB型のナノ層を含む:
・ナノ層A:(Al
xTi
1-x-yW
y)Nであり、xおよびyはat.%であり、0.50≦x≦0.65および0≦y≦0.10である
・ナノ層B:(Ti
1-z-uSi
zW
u)Nであり、zおよびuはat.%であり、0.05≦z≦0.30および0≦u≦0.10である
さらに、本発明に係る硬質ナノ層状コーティングシステムの好ましい実施形態は、少なくとも4個または好ましくは少なくとも10個の個別のナノ層を含み、これらはそれぞれ少なくとも2個のA型のナノ層および2個のB型のナノ層、または好ましくは少なくとも5個のA型のナノ層および5個のB型のナノ層であり、A型のナノ層およびB型のナノ層は交互に堆積され、すなわちA型のナノ層の各々が対応するB型のナノ層の各々の上に堆積され、および/またはB型のナノ層の各々が対応するA型のナノ層の各々の上に堆積される。
【0019】
本発明に係る硬質ナノ層状コーティングシステム(5)を
図1に示す。
図1の硬質ナノ層状コーティングシステムは、それぞれA
1,A
2,A
3,…A
nである量nのA型のナノ層と、それぞれB
1,B
2,B
3,…B
mである量mのB型のナノ層とを含み、A型のナノ層の厚みはdAとして表され、それぞれdA
1,dA
2,dA
3,…dA
nであり、B型のナノ層の厚みはdBとして表され、それぞれdB
1,dB
2,dB
3,…dB
mである。本発明によると、A型のナノ層の量は好ましくはB型のナノ層の量と等しく、n=mまたは少なくとも
【0021】
である。
本発明に係る硬質ナノ層状コーティングシステムの他の好ましい実施形態では、A型のナノ層の厚みおよびB型のナノ層の厚みはほぼ等しく、
【0025】
であり、A
1=dA
2=dA
3=…dA
nおよびdB
1=dB
2=dB
3=…dB
mである。
特に、B層の厚みがA層の厚みよりも大きい場合に、本発明に従って堆積されたコーティングによって非常に良好な切削性能が観察された。したがって、本発明に係る硬質ナノ層状コーティングシステムのさらに好ましい実施形態では、A型のナノ層の厚みはB型のナノ層の厚みよりも小さく、dA<dBまたは好ましくはdA≪dBであり、それぞれdA
n<dB
mまたは好ましくはdA
n≪dB
mであり、dA
1=dA
2=dA
3=…dA
nおよびdB
1=dB
2=dB
3=…dB
mである。
【0026】
本発明に係る硬質ナノ層状コーティングシステムのもう1つの好ましい実施形態では、A型のナノ層の厚みはB型のナノ層の厚み以下であり、個々のナノ層Aの厚みおよび個々のナノ層Bの厚みはコーティングの全厚みに沿って変化し、dA≦dBであり、それぞれdA
n≦dB
mであり、
a)dA
1≧dA
2≧dA
3≧…dA
nおよびdB
1≧dB
2≧dB
3≧…dB
mであり、または
b)dA
1≦dA
2≦dA
3≦…dA
nおよびdB
1≦dB
2≦dB
3≦…dB
mであり、または
c)コーティングの全厚みの少なくとも一部は、a)に従って堆積されたA型のナノ層およびB型のナノ層を含み、コーティングの全厚みの少なくとも一部は、b)に従って堆積されたA型のナノ層およびB型のナノ層を含む。
【0027】
図1に示されるように、本発明に係る硬質ナノ層状コーティングシステムの構造は、基板(1)と、交互のナノ層Aおよびナノ層Bからなる硬質ナノ層コーティングシステムとの間に、中間層(2)をさらに含み得る。中間層(2)の厚みおよび組成は、たとえば硬質ナノ層状コーティングシステムの組織に影響を与えるように、かつコーティング時の応力を低下させるように選択されるべきである。さらに、
図1に示されるように、交互のナノ層Aおよびナノ層Bからなるナノ層コーティングシステムの最後の層の上に最上層(3)がさらに堆積され得る。
【0028】
本発明の1つの実施形態では、基板(1)と硬質ナノ層状コーティングシステムとの間に中間層(2)が堆積され、中間層(2)は、硬質ナノ層コーティングシステムを形成するナノ層Aと同じAlおよびTiまたはAl、TiおよびWの濃度比を有するAlTiNまたはAlTiWNからなる。
【0029】
本発明の他の実施形態では、特別な表面の色を提供するために、交互のナノ層Aおよびナノ層Bからなるナノ層コーティングシステムの最後の層の上に最上層(3)が堆積される。
【0030】
中間層(2)および最上層(3)の両方とも、可能な限り薄く堆積されるべきである。
本発明に係る(Al
xTi
1-x-yW
y)N/(Ti
1-z-uSi
zW
u)Nコーティングを、PVD技術を用いて高性能固体炭化物ドリル上に堆積した。より具体的には、当該コーティングを、エリコンバルザース社のInnovaコーティング機械でアークイオンプレーティング堆積法によって堆積した。本発明に係るコーティングの堆積に特に好適なコーティングパラメータは以下のとおりである:
・N
2圧力:4〜7Pa
・DC基板バイアス電圧:−20〜−60V
・温度:450〜700℃
・アーク電流は、ターゲット材料の蒸発に用いるアーク蒸発器の種類およびナノ層の所望の厚みを考慮して各実験ごとに定めた。
【0031】
本発明の他の重要な局面は、コーティング堆積に用いるアーク蒸発器の種類の重大な影響である。
【0032】
異なる種類のコーティングを異なる種類のアーク蒸発器を用いて本発明に従って堆積した。特許文献である国際公開第2010/088947号および米国特許出願連続番号第61/357,272号に記載されている種類のアーク蒸発器が本発明に係るコーティングの堆積に特に好適であることがわかった。これらの種類のアーク蒸発器を用いて、最も低い六方晶相含有量と、高すぎない固有圧縮応力と、好ましい組織とを示し、これによって特に良好なコーティング特性および最良の切削性能をが得られるコーティングを得ることができた。
【0033】
上述のアーク蒸発器を用いて、高剛性、高耐酸化性および低固有圧縮応力の優れた組合せを示し、これによって特に穿孔作業に優れた切削性能をもたらす、本発明に係るコーティングを堆積することができた。
【0034】
本発明に係るコーティングはさらに、
図2、
図3および
図4に示されるように、切削試験において最新技術のコーティングよりも優れた性能を示す。
【0035】
上述のアーク蒸発器およびアーク蒸発源の両方とも、本発明に係るコーティングの堆積にとって決定的であった。いずれの場合にも、アーク蒸発源の構成および操作モードがコーティング特性に影響を与えた。特に、ナノ積層コーティングのミクロ構造に影響を与えて当該構造を円柱状ではなく微粒子状にして、このようにして非円柱構造であるが微粒子構造を得ることができた。本発明に従って堆積されたナノ積層膜中のこれらの微粒子構造の形態は、
図5に明確に観察できる。
図5に示される写真は、本発明に従って堆積された2つのコーティングの破断面走査型電子顕微鏡写真に対応し、当該コーティングは、交互のAおよびB層のナノ積層構造(5)を有し、それぞれ層AはAlTiN層、層BはTiSiNナノ層であり、かつ、約50nm以下の二重層周期(少なくとも2回1つずつ交互に堆積された1つのA層および1つのB層、すなわち少なくともA/B/A/BまたはB/A/B/A構造を形成する層の厚みの合計)を有する。
図5aおよび
図5bに示されるナノ積層構造は、コーティング時の基板温度をそれぞれ約570℃および500℃に維持して堆積した。両方のナノ積層構造は、異なる粒径を有する微粒子構造を示す。
【0036】
本発明に係る微粒子構造を示す生成されたナノ積層構造は、円柱構造を示す同様のコーティングよりも、特にクラック伝播を防止するのにより有利である。これは、ナノ積層構造中の粒子境界または結晶境界の分布における差異に起因し得る。円柱構造では、結晶は円柱として平行に成長し、結果としてコーティングの厚みを横切って基板へと延在する長い結晶境界を有するため、基板への方向においてコーティングの厚みに沿ったクラック伝播を促進し、結果としてコーティングの層間剥離またはコーティングの不良がより急速に生じる。円柱構造とは異なり、本発明に従って生成されるような微粒子構造は、その結晶境界または粒子境界がコーティングの厚みを横切って基板へと延在せず、結果として基板への方向においてコーティングの厚みに沿ったクラック伝播を停止する微粒子を含む。
【0037】
おそらく上記に説明した理由のため、本発明に従って形成されるナノ積層構造によって示される微粒子構造は、寿命、耐疲労性、耐クレーター摩耗性、破壊靭性および耐酸化性に関して、穿孔およびフライス作業時に円柱構造よりも特に良好な切削性能を示す。
【0038】
本発明に従って堆積した発明のコーティングに含まれる交互のAおよびBナノ層のナノ積層構造の平均残留応力σを測定した。堆積した発明のコーティングのうちいくつかの測定値を
図7に示す。応力は、sin
2ψ法を用いてXRD測定によって評価した。測定は、約43°2θで200ピークのCuKα線を用いて行った。本発明に従って堆積したナノ積層コーティング構造の残留応力の計算に用いた方法を、発明のコーティング3の例を用いて
図6に例示的に示す。発明のコーティング3は、交互のAlTiNおよびTiSiNナノ層のナノ積層構造を有し、全ナノ積層構造の平均組成は、エネルギ分散型x線分光法によって測定すると、原子百分率で20.3%Ti、14.18%Al、2.15%Siおよび55.37%Nであった。二重層周期は50nm未満であった。発明のコーティング3は、TiAlN層の堆積のための、原子百分率で60%Al/40%Tiの組成を有する粉末冶金複合TiAlターゲットと、TiSiN層の堆積のための、原子百分率で85%Ti/15%Siの組成を有する溶融冶金複合TiSiターゲットとを用いて、アークPVD技術によって堆積した。
【0039】
本発明に係るコーティングの好ましい実施形態では、交互のナノ層AおよびBのナノ積層構造が示す平均残留応力σは2〜5GPa、好ましくは2.5〜4GPa、より好ましくは2.8〜4GPaである。残留応力のこれらの推奨値は、穿孔およびフライス作業に特に有利であり得る。
【0040】
本発明の別の好ましい実施形態では、y=u°=0であるナノ積層される(Al
xTi
1-x-yW
y)N/(Ti
1-z-uSi
zW
u)Nは、それぞれ(Al
xTi
1-x)Nおよび(Ti
1-zSi
z)Nナノ層の堆積のための粉末冶金技術によって作られたAlTiターゲットおよび溶融冶金技術によって作られたTiSiターゲットを原料として用いるアークPVD技術によって堆積される。
【0041】
本発明のさらに好ましい実施形態では、y=u°=0であるナノ積層される(Al
xTi
1-x-yW
y)N/(Ti
1-z-uSi
zW
u)Nは、それぞれ(Al
xTi
1-x)Nおよび(Ti
1-zSi
z)Nナノ層の堆積のための粉末冶金技術によって作られたAlTiターゲットおよびこれも粉末冶金技術によって作られたTiSiターゲットを原料として用いるアークPVD技術によって堆積される。
【0042】
本発明に係るコーティング堆積の例1:
約5〜30nmの二重層周期を有するAlTiN/TiSiNコーティングを、以下のコーティング条件で、エリコンバルザース社のInnova型のコーティング機械で高性能固体炭化物ドリルφ8.5mm上に堆積した。
【0043】
N
2圧力:6Pa
基板バイアス電圧:−40V(DC)
温度:570℃
AlTiNおよびTiSiNナノ層の堆積のために、Al
0.6Ti
0.4およびTi
0.85Si
0.15の元素組成を有するターゲットをそれぞれ用いた。特許文献である国際公開第2010/088947号の
図15においてKrassnitzer等が提案する種類のアーク蒸発器を用いて、材料源ターゲットを蒸発させた。コーティング堆積のためにアーク蒸発器を調節することによって、内部(中心)永久磁石をターゲットに対して後退するように(後方に)位置決めし、外部永久磁石をターゲットに対して8mm離して位置決めした。コイル電流−0.3Aおよびアーク電流140Aを設定してアーク蒸発器を操作した。コーティングした切削工具を、表面品質を改善するために異なる機械的手法を用いて、コーティング後に後処理した。
【0044】
例1に従ってコーティングした後処理済みの固体炭化物ドリルを切削試験1および3によって試験した。これらはすべての切削試験において見事に優れた切削性能を示し(
図2および
図4参照)、操作時間が約50%増加した。切削試験の結果は、後処理の技術によって本質的に修正していない。
【0045】
図2は、以下の切削パラメータによって、コーティングされた固体炭化物ドリルφ8.5mmを用いて行なった切削試験1によって得られた結果を示す:
切削速度v
c:180m/min
送りf:0.252mm/rev
貫通孔の開口:40mm
ワーク材料:Rm=900MPaで1.7225(42CrMo4)
図4は、以下の切削パラメータによって、コーティングされた固体炭化物ドリルφ8.5mmを用いて行なった切削試験3によって得られた結果を示す:
切削速度v
c:100m/min
送りf:0.22mm/rev
貫通孔の開口:40mm
ワーク材料:EN−GJS−600−3(ノジュラー鋳鉄)
本発明に係るコーティング堆積の例2:
約8〜15nmの二重層周期を有するAlTiN/TiSiNコーティングを、以下のコーティング条件で、エリコンバルザース社のInnova型のコーティング機械で高性能固体炭化物ドリルφ8.5mm上に堆積した。
【0046】
N
2圧力:5Pa
基板バイアス電圧:−30V(DC)
温度:570℃
AlTiNおよびTiSiNナノ層の堆積のために、Al
0.6Ti
0.4およびTi
0.75Si
0.25の元素組成を有するターゲットをそれぞれ用いた。例1で説明したのと同じ種類のアーク蒸発器を用いて、材料源ターゲットを蒸発させた。磁石システムの調節については、内部永久磁石もターゲットに対して後方に位置決めし、外部永久磁石はTiAlおよびTiSiターゲットからそれぞれ8mmおよび10mm離して位置決めした。コイル電流−0.3Aおよび−0.5Aならびにアーク電流140Aおよび160Aを設定して、TiAlおよびTiSiターゲットを蒸発させるためのアーク蒸発器をそれぞれ操作した。
【0047】
本発明に係るコーティング堆積の例3:
約5〜30nmの二重層周期を有するAlTiN/TiSiNコーティングを、以下のコーティング条件で、エリコンバルザース社のInnova型のコーティング機械で高性能固体炭化物ドリルφ8.5mm上に堆積した。
【0048】
N
2圧力:6Pa
基板バイアス電圧:−50V(DC)
温度:500℃
AlTiNおよびTiSiNナノ層の堆積のために、Al
0.6Ti
0.4およびTi
0.80Si
0.20の元素組成を有するターゲットをそれぞれ用いた。例1および2で説明したのと同じ種類のアーク蒸発器を用いて、材料源ターゲットを蒸発させた。アーク蒸発器は、例1で使用したのと同じパラメータで操作した。
【0049】
例2および3に従って堆積したコーティングも、切削試験1および3で説明したのと同様の切削試験で非常に良好な切削性能を示した。
【0050】
本発明に係るコーティング堆積の例4:
約5〜30nmの二重層周期を有する本発明に係るAlTiN/TiSiNコーティングを、高性能固体炭化物ドリルφ8.5mm上に堆積した。TiAlおよびTiSiターゲットを蒸発させるために、米国特許出願連続番号第61/357,272号に記載されている種類のアーク蒸発器を用いた。この種類のアーク蒸発器は、カソード(ターゲット)と、アノードと、磁
力線をカソードの直接の近傍に配置されるアノードに導くことを可能にする磁気手段とを含む。コイル電流1.0Aおよび1.2Aならびにアーク電流200Aおよび180Aを設定して、TiAlおよびTiSiターゲットを蒸発させるためのアーク蒸発器をそれぞれ操作した。
【0051】
例4に従ってコーティングした固体炭化物ドリルも後処理し、それらの切削性能を切削試験2によって評価した。切削試験2の結果を
図3に示す。
【0052】
図3は、以下のパラメータによって、コーティングされた固体炭化物ドリルφ8.5mmを用いて行なった切削試験2によって得られた結果を示す:
切削速度v
c:80m/min
送りf:0.284mm/rev
貫通孔の開口:40mm
ワーク材料:Rm=900MPaで1.7225(42CrMo4)
本発明に係るコーティング堆積の例5:
約30,50,75,100,150,180,200,250および300nmの二重層周期を有する本発明に係るAlTiN/TiSiNコーティングを、例4で使用したのと同じ種類のアーク蒸発器を用いて、高性能固体炭化物ドリルφ8.5mm上に数回に分けて堆積した。TiSiおよびAlTiターゲットからの材料蒸発のために、160〜200Aおよび180〜200Aの範囲のアーク電流をそれぞれ設定した。コイル電流もそれに応じて調整した。
【0053】
一般に、約300nmのナノ二重層周期を有するコーティングは著しく劣る切削性能を示したが、100nm未満のナノ二重層周期を有するコーティングは特に最良の切削性能を示した。例4に従ってコーティングした高性能固体炭化物ドリルφ8.5mmの切削試験の結果は、例1〜3に従ってコーティングした固体炭化物ドリルの切削試験によって得られた結果と比較して良好であった。
【0054】
上述のアーク蒸発器を用いて、約36〜46GPaのコーティング硬度値および約400〜470GPaのヤング率値を示す本発明に係るコーティングを堆積することができた。コーティング硬度およびヤング率の両値はナノ圧痕技術を用いて測定した。
【0055】
さらに、本発明に従って堆積されたコーティングは、X線検査によって測定された組織強度200/100≧10を示す。
【0056】
ピーク幅の比PW
I_10/90は、式PW
I_10%/PW
I_90%を用いて計算した。PW
I_10%およびPW
I_90%はそれぞれ最大ピーク強度の10%および90%におけるピーク200の有効幅である。ピーク200は、CuKα線を用いたX線回折を使用して2θ軸において約43°で測定する。回折線は、CuKα
2からの寄与、回折統計(平滑化)および背景に関して修正した。このようにして得られた、発明のコーティング1に含まれる交互のAおよびB層のナノ積層構造において測定されるピーク200を
図8に例示的に示す。
【0057】
本発明に従って堆積された交互のAおよびB層(Al
xTi
1-x-yW
y)N/(Ti
1-z-uSi
zW
u)Nのナノ積層コーティング構造の特徴的なPW
I_10/90の値を表1に報告する。
【0058】
表1:発明のコーティング1,2,3および4に含まれる本発明に従って堆積されたナノ積層コーティング構造(Al
xTi
1-x-yW
y)N/(Ti
1-z-uSi
zW
u)Nについて測定されたPW
I_10/90
【0060】
本発明のさらに好ましい実施形態では、ナノ積層された(Al
xTi
1-x-yW
y)N/(Ti
1-z-uSi
zW
u)Nは、上述の方法に従って、CuKα線を用いたX線回折を使用して、2θ軸において約43°で200ピークで測定したピーク幅の比PW
I_10/90が7.5未満、好ましくは7未満である。
【0061】
本発明は、好ましくは本体(1)を含むコーティング工具であるコーティング本体であって、当該本体の上に硬質の耐摩耗性PVDコーティングが堆積され、コーティングは、それぞれ交互のA層A1,A2,A3,…AnおよびB層B1,B2,B3,…Bmのナノ積層構造(5)を有し、層Aは(Al
xTi
1-x-yW
y)Nであり、0.50≦x≦0.65および0≦y≦0.10であり、x、1−x−yおよびyによって与えられる係数は、層A中の元素量について元素のアルミニウム、チタンおよびタングステンのみを考慮すると、アルミニウム、チタンおよびタングステンの原子濃度にそれぞれ対応し、層Bは(Ti
1-z-uSi
zW
u)Nであり、0.05≦z≦0.30および0≦u≦0.10であり、1−z−u、zおよびuによって与えられる係数は、層B中の元素量について元素のチタン、シリコンおよびタングステンのみを考慮すると、チタン、シリコンおよびタングステンの原子濃度にそれぞれ対応し、ナノ積層構造の厚みは0.01〜30μm、好ましくは1〜15μmであり、AおよびB層の個々の平均の厚みはそれぞれ1〜200nm、好ましくは1〜50nm、より好ましくは1〜30nmであることを特徴とし、交互のAおよびB層のナノ積層構造は微粒子構造を示すことを特徴とするコーティング本体を開示する。
【0062】
より好ましくは、コーティング本体は、超硬合金、サーメット、セラミックス、立方晶窒化ホウ素系材料または高速度鋼の硬質合金の本体(1)を有する切削工具である。
【0063】
好ましくは、交互のAおよびB層のナノ積層構造に含まれるdA1,dA2,dA3,…dAnと称されるA層(A1,A2,A3,…An)の厚みは、dB1,dB2,dB3,…dBmと称されるB層(B1,B2,B3,…Bm)の厚み以下であり、好ましくは、A層の厚みはB層の厚みの3/4以下であり、dA1≦3/4dB1,dA2≦3/4dB2,dA3≦3/4dB3,dAn≦3/4dBmである。
【0064】
好ましくは、ナノ積層構造の全厚みの少なくとも一部において、
−A層の厚みおよび/もしくはB層の厚みは、dA1=dA2=dA3…=dAnおよび/もしくはdB1=dB2=dB3…=dBmであるように一定のままであり、ならびに/または
−A層の厚みおよび/もしくはB層の厚みは、dA1≧dA2≧dA3…≧dAnおよび/もしくはdB1≧dB2≧dB3…≧dBmであるように増大し、ならびに/または
−A層の厚みおよび/もしくはB層の厚みは、dA1≦dA2≦dA3…≦dAnおよび/もしくはdB1≦dB2≦dB3…≦dBmであるように減少する。
【0065】
好ましくは、上述のコーティング本体のコーティングに含まれるナノ積層コーティング構造において、
−1つずつ交互に堆積されてナノ二重層周期を形成するA型のナノ層およびB型のナノ層の厚みの合計は300nm未満、好ましくは100nm未満、より好ましくは5〜50nmであり、
−ナノ積層コーティング構造は、1つずつ交互に堆積されてA1/B1/A2/B2/またはB1/A1/B2/A2の多層構造を形成する少なくとも合計4個の個々のナノ層AおよびB、好ましくはA1/B1/A2/B2/A3/B3/A4/B4/A5/B5またはB1/A1/B2/A2/B3/A3/B4/A4/B5/A5の多層構造を形成する少なくとも合計10個の個々のナノ層を含む。
【0066】
好ましくは、上述のコーティング本体のコーティングに含まれるナノ積層コーティング構造において、
−ナノ積層構造は、最大サイズがナノ積層コーティング構造の全厚みの1/3である粒子を含む微粒子構造を有する。
【0067】
好ましくは、上述のコーティング本体のコーティングに含まれるナノ積層コーティング構造において、
−ナノ積層構造は、平均サイズが最大で1000nm、好ましくは10〜800nm、より好ましくは10〜400nmである粒子を含む微粒子構造を有する。
【0068】
本発明によると、上述のコーティング本体のコーティングに含まれるナノ積層コーティング構造は、粒子が全方向においてほぼ同じ寸法を有する等軸構造であるか等軸構造を含み得る。
【0069】
本発明によると、上述のコーティング本体のコーティングに含まれるナノ積層コーティング構造は、平均残留応力σが2.5〜5GPa、好ましくは3〜4GPaであり得る。
【0070】
本発明によると、上述のコーティング本体のコーティングに含まれるナノ積層コーティング構造は、ピーク幅の比PW
I_10/90が7.5未満、好ましくは7未満であり得、
−PW
I-10/90°=°PW
I_10%/PW
I_90%であり、
−PW
I_10%およびPW
I_90%は、それぞれ最大ピーク強度の10%および90%におけるピーク200の有効幅であり、
−200ピークは、2θ軸において約43°でCuKα線を用いたX線回折を使用して測定される。回折線はCuKα
2線からの寄与、回折統計(平滑化)および背景に関して修正された。
【0071】
本発明に係るコーティングの好ましい実施形態では、コーティングは、
−基板(1)とナノ積層コーティング膜(5)との間に堆積される少なくとも1つの中間層(2)と、および/または
ナノ積層コーティング膜(5)の最も外側のナノ層の上に堆積される少なくとも1つの最上層(3)とを含む。
【0072】
好ましくは、本発明に係るコーティング本体は、穿孔またはフライス削り工具である。
好ましくは、本発明に係るコーティング本体は、穿孔もしくはフライス作業のために、より好ましくは鋼鉄、ステンレス鋼もしくは鋳鉄の穿孔、または硬化鋼もしくはステンレス鋼のフライス削りのために使用される。
【0073】
本発明に係るコーティング本体を製造するための好ましい方法は、アークPVD法であって、基板の表面上にナノ層状コーティング膜を堆積するために少なくとも1つのアーク蒸発源を使用することを特徴とし、少なくとも1つのアーク蒸発源は、ターゲット上に設けられ、ターゲットの表面の上または上方に磁界を発生させるための磁界構成を含み、磁界構成は周辺永久磁石およびターゲットの後ろに配置される少なくとも1つのリング
コイルを含み、巻線によって規定されるリング
コイルの内径はターゲットの直径以下であり、どのような場合でもターゲットの直径よりもかなり大きくはなく、周辺永久磁石はターゲットの表面に対して本質的に垂直にターゲットから離れるようにずらされ得、ターゲットの表面上への周辺永久磁石の突出は、ターゲットの表面上へのリング
コイルの突出と比較してターゲットの表面の中心からさらに離れており、内側または内部の中心永久磁石はターゲットに対して後退するように後方に位置決めされ、外側または外部の永久磁石はターゲットに対して数ミリメートル、好ましくは6〜10mm、より好ましくは約8mm離れて位置決めされる。好ましくは、本発明に係るナノ積層コーティング構造を堆積するためのこの方法を用いることによって、負のコイル電流が印加され、印加されるコイル電流は好ましくは−0.1〜−1Aである。
【0074】
本発明に係るコーティング本体を製造するためのさらに好ましい方法は、アークPVD法であって、基板の表面上にナノ層状コーティング膜を堆積するために少なくとも1つのアーク蒸発源を使用することを特徴とし、少なくとも1つのアーク蒸発源は、カソードとして用いられるターゲットと、カソードの直接の近傍に配置されるアノードと、磁界の流線をアノードに導くことを可能にする磁気手段とを含む。好ましくは、本発明に係るナノ積層コーティング構造を堆積するためのこの方法を用いることによって、正のコイル電流が印加され、印加されるコイル電流は好ましくは0.5〜2Aである。
【0075】
好ましくは、本発明に係るナノ積層コーティング構造を堆積するために適用される方法は、コーティング原料として、
−アルミニウムおよびチタンおよび/もしくはタングステンを含む、粉末冶金技術によって作られた少なくとも1つの複合ターゲットがA型のナノ層の堆積のために用いられ、ならびに/または
−チタンおよびシリコンおよび/もしくはタングステンを含む、溶融冶金技術によって作られた少なくとも1つの複合ターゲットがB型のナノ層の堆積のために用いられることを含む。