【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトの掲載日:平成26(2014)年8月14日 ウェブサイトのアドレス:http://www.sciencedirect.com/science/journal/aip/09638695
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記関係評価工程は、数値解析により、前記接触寸法および前記電気抵抗率の関数として前記電位差を求め、さらに複数の異なる電位差のときの各鋼板間の接触寸法を測定することにより、その複数の測定結果を用いて数値解析により前記電気抵抗率と前記接触寸法との関係を求め、その関係と前記電位差の関数とに基づいて、前記接触寸法と前記電位差との関係を求めることを特徴とする請求項1記載の鋼板間の接触寸法測定方法。
前記関係評価工程は、各電極と各鋼板との接触部の電気抵抗率が一定と仮定できる場合、数値解析により、前記接触寸法と前記電位差との関係を求めることを特徴とする請求項1記載の鋼板間の接触寸法測定方法。
前記記憶手段は、数値解析により、前記接触寸法および前記電気抵抗率の関数として前記電位差を求め、さらに複数の異なる電位差のときの各鋼板間の接触寸法を測定することにより、その複数の測定結果を用いて数値解析により前記電気抵抗率と前記接触寸法との関係を求め、その関係と前記電位差の関数とに基づいて求められた、前記接触寸法と前記電位差との関係を記憶しておくことを特徴とする請求項5記載の鋼板間の接触寸法測定装置。
【背景技術】
【0002】
自動車や家電製品などの構造材料として鋼板が広く利用されており、その鋼板の接合には、抵抗溶接の一種であり、迅速で安価なスポット溶接が一般的に用いられている。例えば、自動車では、1台あたり数千のスポット溶接部が存在している。従来、このようなスポット溶接部などの鋼板間の接触部の品質や寸法を評価するために、超音波を使用する方法(例えば、特許文献1参照)や、電位差を測定する方法などが利用されている。
【0003】
電位差を測定して鋼板間の接触部の品質や寸法を評価する方法としては、例えば、鋼板表面の任意の2点間に一定の電流または電圧を印加する一対の電極針と、その電流または電圧によって鋼板に生じる表面電位を検出する一対の電圧電極針とを備えた探針プローブを用い、スポット溶接された鋼材の表面を所定のラインに沿って走査したときに検出される表面電位の変化に基づいて、鋼材に形成されたナゲット(接触部)の径を求めるもの(例えば、特許文献2参照)や、スポット溶接した溶接領域とそこから離れた非溶接領域とに、それぞれ探針プローブを当接させて電気抵抗を測定し、それらの電気抵抗の比に基づいて接合強度を評価するもの(例えば、特許文献3参照)がある。
【0004】
しかし、特許文献1に記載のような超音波を使用する方法や、特許文献2および3に記載のような探針プローブを使用して電位差を測定する方法では、スポット溶接の作業時間と比べて、超音波発生用のトーチや探針プローブを所定の位置に設置したり、探針プローブを走査したりするのに時間がかかり、測定時間が非常に長くなってしまうため、多数の溶接部を有する場合には実用的ではないという問題があった。例えば、自動車製造工程では、一点のスポット溶接がわずか数秒で行われており、そのような現場に適用するのは困難である。このため、自動車製造工程では、溶接電流、電流付与時間、加圧力の3因子を正確に制御することによりスポット溶接部の品質を保証しているのが実情であり、たがねを用いた溶接部の抜き打ち破壊検査が実施されている。
【0005】
そこで、測定時間を短縮するために、鋼板を挟んで配置された溶接用の各電極を、電圧測定用の電極として使用する方法が開発されている。このような方法として、例えば、各電極間に印加される溶接電流と各電極間の電圧とを測定し、この測定値を用いて熱伝導モデルに基づく温度分布および通電径を数値解析して、溶接により生成されるナゲット(接触部)の径を推定するもの(例えば、特許文献4参照)や、溶接後に各電極間に電流を流して電圧を測定し、得られた電気抵抗値を基準値と比較することにより溶接の良否を判別するもの(例えば、特許文献5参照)がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献4に記載のような数値解析を用いる方法では、抵抗溶接などの際に鋼板の表面粗さが変化する可能性を考慮していないため、接触部(ナゲット)の寸法計算に誤差が発生するおそれがあり、正確な接触寸法を計算できないことがあるという課題があった。特許文献5に記載の方法は、鋼板間の接触寸法を求めるものではなく、また、基準値が良否の判別に大きく影響するため、基準値の取り方によっては良否の判別が変わるおそれがあり、正確な判断ができないという課題があった。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、短時間で、鋼板間の接触寸法をより正確に測定することができる鋼板間の接触寸法測定方法および鋼板間の接触寸法測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る鋼板間の接触寸法測定方法は、2枚の鋼板間の接触寸法を測定する鋼板間の接触寸法測定方法であって、それぞれ各鋼板の表面に接触させた1対の電極間に、一定の大きさの直流電流を流したときの各電極間の電位差を測定する電位差測定工程と、各鋼板間の接触寸法と前記直流電流を流したときの各電極間の電位差との関係を、各電極と各鋼板との接触部の電気抵抗率を考慮して数値解析および/または測定であらかじめ求めておく関係評価工程と、前記関係評価工程で求められた前記関係に基づいて、前記電位差測定工程で測定された前記電位差から各鋼板間の接触寸法を求める接触寸法算出工程とを、有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る鋼板間の接触寸法測定装置は、2枚の鋼板間の接触寸法を測定する鋼板間の接触寸法測定装置であって、それぞれ各鋼板の表面に接触可能に設けられた1対の電極と、各電極間に一定の大きさの直流電流を流し、そのときの各電極間の電位差を測定する電位差測定手段と、
各鋼板間の接触寸法と前記直流電流を流したときの各電極間の電位差との関係を、各電極と各鋼板との接触部の電気抵抗率を考慮して数値解析および/または測定で
あらかじめ求め
、求められた前記接触寸法と
前記電位差との関係を記憶しておく記憶手段と、前記記憶手段に記憶された前記接触寸法と前記電位差との関係に基づいて、前記電位差測定手段で測定された前記電位差から各鋼板間の接触寸法を求める接触寸法算出手段とを、有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る鋼板間の接触寸法測定装置は、本発明に係る鋼板間の接触寸法測定方法を好適に実施することができる。本発明に係る鋼板間の接触寸法測定方法および鋼板間の接触寸法測定装置は、各鋼板間の接触寸法と各電極間に一定の直流電流を流したときの各電極間の電位差との関係をあらかじめ求めておく際に、各電極と各鋼板との接触部の電気抵抗率を考慮することにより、抵抗溶接などの際に鋼板の表面粗さが変化する(増大する)場合等にも柔軟に対応することができる。このため、鋼板間の接触寸法をより正確に測定することができる。また、接触寸法を測定する際には、各電極間の電位差を1回測定すればよく、走査や複数点の測定を行う場合と比べて、短時間で測定を行うことができる。
【0012】
本発明に係る鋼板間の接触寸法測定方法で、前記関係評価工程は、数値解析により、前記接触寸法および前記電気抵抗率の関数として前記電位差を求め、さらに複数の異なる電位差のときの各鋼板間の接触寸法を測定することにより、その複数の測定結果を用いて数値解析により前記電気抵抗率と前記接触寸法との関係を求め、その関係と前記電位差の関数とに基づいて、前記接触寸法と前記電位差との関係を求めてもよい。本発明に係る鋼板間の接触寸法測定装置で、前記記憶手段は、数値解析により、前記接触寸法および前記電気抵抗率の関数として前記電位差を求め、さらに複数の異なる電位差のときの各鋼板間の接触寸法を測定することにより、その複数の測定結果を用いて数値解析により前記電気抵抗率と前記接触寸法との関係を求め、その関係と前記電位差の関数とに基づいて求められた、前記接触寸法と前記電位差との関係を記憶しておいてもよい。この場合、抵抗溶接などの際に鋼板の表面粗さが増大して、各電極と各鋼板との接触部の電気抵抗率が大きくなったとき等でも、それを考慮して接触寸法と電位差との関係を求めることができ、鋼板間の接触寸法をより正確に測定することができる。
【0013】
また、本発明に係る鋼板間の接触寸法測定方法で、関係評価工程は、数値解析を用いず、測定のみで接触寸法と電位差との関係を求めてもよい。本発明に係る鋼板間の接触寸法測定装置で、記憶手段は、数値解析を用いず、測定のみで求められた接触寸法と電位差との関係を記憶しておいてもよい。この場合にも、鋼板間の接触寸法を正確に測定することができる。
【0014】
また、本発明に係る鋼板間の接触寸法測定方法で、前記関係評価工程は、各電極と各鋼板との接触部の電気抵抗率が一定と仮定できる場合、数値解析により、前記接触寸法と前記電位差との関係を求めてもよい。本発明に係る鋼板間の接触寸法測定装置で、前記記憶手段は、各電極と各鋼板との接触部の電気抵抗率が一定と仮定できる場合、数値解析によ
り前記接触寸法と前記電位差との関係を
求めて記憶しておいてもよい。この場合、抵抗溶接などを行っても、各電極と各鋼板との接触部の電気抵抗率が変化しないときに、効率良く接触寸法と電位差との関係を求めることができる。
【0015】
本発明に係る鋼板間の接触寸法測定方法および鋼板間の接触寸法測定装置で、前記接触寸法は各鋼板を抵抗溶接で接続したときの各鋼板間の接触寸法であり、各電極は前記抵抗溶接を行うための電極から成ることが好ましい。この場合、抵抗溶接を行う際に使用した電極を、接触寸法を測定するための電極としてそのまま使用できるため、電極の位置決めや設置の時間を省略することができ、より短時間で接触寸法の測定を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、短時間で、鋼板間の接触寸法をより正確に測定することができる鋼板間の接触寸法測定方法および鋼板間の接触寸法測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至
図13は、本発明の実施の形態の鋼板間の接触寸法測定方法および鋼板間の接触寸法測定装置を示している。
図1に示すように、鋼板間の接触寸法測定装置10は、2枚の鋼板1a,1bを抵抗溶接で接続したときの各鋼板1a,1bの間の接触寸法を測定するための装置であって、1対の電極11a,11bと電位差測定手段12と制御解析端末13とを有している。
【0019】
各電極11a,11bは、銅製で、抵抗溶接の一種であるスポット溶接を行うための電極から成っている。各電極11a,11bは、先端に平坦面を有する砲弾形状を成している。各電極11a,11bは、互いに対向して重ね合わされた2枚の鋼板1a,1bの両側から、それぞれ各鋼板1a,1bの表面の対向する位置に、先端の平坦面を所定の圧力で押し付けて接触可能に設けられている。
【0020】
電位差測定手段12は、2本の電流用端子21a,21bと2本の電圧測定用端子22a,22bと測定用電源23と電圧測定器24とを有している。各電流用端子21a,21bは、それぞれ各電極11a,11bの側面に接触可能に設けられている。各電圧測定用端子22a,22bは、それぞれ各電極11a,11bの各電流用端子21a,21bより後端側の側面に接触可能に設けられている。測定用電源23は、各電流用端子21a,21bに接続され、各電流用端子21a,21bを通して各電極11a,11bの間に一定の大きさの直流電流を流すよう設けられている。電圧測定器24は、各電圧測定用端子22a,22bに接続され、測定用電源23により各電極11a,11bの間に直流電流を流したとき、各電圧測定用端子22a,22bの間の電位差を測定するよう設けられている。
【0021】
制御解析端末13は、コンピュータから成り、測定用電源23と電圧測定器24とに接続されている。制御解析端末13は、その機能として、制御手段25と電圧入力手段26と記憶手段27と接触寸法算出手段28とを有している。制御手段25は、測定用電源23から各電極11a,11bの間に流す直流電流の大きさ、およびその直流電流を流すタイミングを制御可能になっている。また、制御手段25は、測定用電源23により各電極11a,11bの間に直流電流を流したとき、電圧測定器24で電位差を測定するよう、電圧測定器24の測定タイミングを制御可能になっている。電圧入力手段26は、電圧測定器24で測定された各電圧測定用端子22a,22bの間の電位差を入力可能になっている。
【0022】
記憶手段27は、あらかじめ各電極11a,11bと各鋼板1a,1bとの接触部の電気抵抗率を考慮して数値解析および/または測定で求めておいた、各鋼板1a,1bの間の接触寸法と直流電流を流したときの各電極11a,11bの間の電位差との関係を記憶しておくようになっている。接触寸法算出手段28は、記憶手段27に記憶された接触寸法と電位差との関係に基づいて、電圧入力手段26から入力された電位差から各鋼板1a,1bの間の接触寸法を求めるようになっている。
【0023】
鋼板間の接触寸法測定装置10は、本発明の実施の形態の鋼板間の接触寸法測定方法を好適に実施することができる。以下、実施例に基づいて、本発明の実施の形態の鋼板間の接触寸法測定方法および鋼板間の接触寸法測定装置10の作用効果について説明する。
【実施例1】
【0024】
[各電極と各鋼板との接触部の電気抵抗率が一定と仮定できる場合−数値解析]
各電極11a,11bと各鋼板1a,1bとの接触部の電気抵抗率が一定と仮定できる場合について、数値解析により、鋼板間の接触寸法測定についての検討を行った。
【0025】
まず、各電極11a,11bから2枚の鋼板1a,1bに電流を流したときの、電極11a,11b上の電位分布を有限要素法解析(FEA)により算出し、各鋼板1a,1bの接触状況の変化に伴う電位分布の変化を調べた。
各鋼板1a,1bおよび各電極11a,11bの内部の電流の流れは、以下に示すラプラス方程式に支配されている。
Δψ=0 (1)
ここで、ψは電位であり、Δはラプラス演算子である。式(1)をFEA解析で解くことにより、ψを求めることができる。以下では、汎用非線形解析プログラムのMarcを用いて、FEA解析を行った。
【0026】
FEAの1/2解析モデルを、
図2に示す。
図2に示すように、Fe製の鋼板(Sheet)1a,1bを、直径17.5mm、厚さ1.2mmの円板とし、2枚の鋼板1a,1bを合わせた中央部に、厚さ0.7mm、直径CのFe円板(Contact)を物理的接触部として挿入した。また、直径Dの各Cu電極(Electrode)11a,11bを、各鋼板1a,1bの外側の表面から長さ20mmの位置に押し当てた。FEA解析では、Cの範囲を1〜6mm、Dの範囲を3〜9mmとし、各Cu電極11a,11bの電気抵抗率を1.68×10
−8Ω・m、各鋼板1a,1bおよびFe円板の電気抵抗率を1.42×10
−7Ω・mとした。また、各電極11a,11bと各鋼板1a,1bとの間の接触部の電気抵抗率を、6.0×10
−6Ω・mで一定とした。また、同じFe製の各鋼板1a,1bとFe円板との間の電気抵抗率を、0とした。また、各電極11a,11bの側面の、各鋼板1a,1bの表面から4mm離れた位置から電流の入出力を行い、付与する電流を1Aとした。各電極11a,11bの表面上にx軸を定め、その原点を各鋼板1a,1bの間の中心とした。
【0027】
FEA解析結果として、D=6mmのときの、C=3mm、6mmの場合の電流密度分布を、それぞれ
図3(a)および(b)に示す。
図3(a)および(b)に示すように、C=3mmの場合に、C=6mmの場合と比較して、相対的に高い電流密度がFe円板近傍で形成されていることが確認された。これは、Cの減少と共にFe円板での電気抵抗が増加することを示唆しており、Cが小さくなるに従って電流経路が長くなるためであると考えられる。
【0028】
D=6mmのときの、様々なCの値に対するψの分布を、
図3(c)に示す。
図3(c)に示すように、Cの減少と共に、ψの絶対値が増加していることがわかる。例えば、各鋼板1a,1bの外側の表面からそれぞれ12mmの位置の2点A、B間の電位差ΔVに着目すると、C=6mmのときのΔVは123μVであるのに対し、C=1mmのときのΔVは592μVであり、ΔVはCの減少と共に増加している。
【0029】
様々なDの値に対するΔVとCとの関係を、
図4(a)に示す。
図4(a)に示すように、全てのDの場合において、Cの増加と共にΔVが減少していることがわかる。また、あるCにおいて、Dの値が小さい程、ΔVの値が大きくなることがわかる。計測したΔVから精度良くCを評価するために、∂(ΔV)/∂CとCとの関係を求め、
図4(b)に示す。
図4(b)に示すように、Cの値が小さい程、∂(ΔV)/∂Cの値は大きくなり、D=9mmで最大となっている。このことから、より太い電極を用いることにより、Cを正確に評価することができるといえる。
【0030】
以上のFEA解析結果から、各電極11a,11bの間に電流を入力したとき、各電極11a,11bの間の電位分布に着目することによりCを評価できることがわかる。以下に、このことを確認するために、鋼板間の接触寸法測定装置10を用いた実験を行った。
【0031】
[各電極と各鋼板との接触部の電気抵抗率が一定と仮定できる場合−測定実験]
実験では、2枚の鋼板1a,1bとして、それぞれ厚さ1.2mmで、60mm正方の鋼板を用いた。また、同じ鋼板からパンチ加工により円板状のシム(Shim)を抜き出し、各鋼板1a,1bの間の接触部として使用した。シムの直径Cは、3〜6mmである。
図1に示すように、各鋼板1a,1bを2つのCu電極11a,11bの間に挿入し、各電極11a,11bの押しつけ力を2.35kN(一定)とした。各電流用端子21a,21bを、スプリングを介して各電極11a,11bの表面の、各鋼板1a,1bの表面から4mmの位置に接触させ、各電流用端子21a,21bの間に2Aの電流を流した。また、各電極11a,11bの表面の、各鋼板1a,1bの表面から12mmの位置に設置した各電圧測定用端子22a,22bを用いて、電流を流したときの各電圧測定用端子22a,22bの間の電位差ΔVを測定した。
【0032】
また、実際の電極形状をモデル化し、
図5(a)に示す解析モデルを用いて、FEA解析も行った。解析では、各Cu電極11a,11bと各鋼板1a,1bとの接触抵抗を、6.0×10
−6Ω・mで一定とした。なお、各鋼板1a,1bとシムとの間の接触抵抗ρ
1は、両者間の面圧によって変化すると考えられる。ここでは、各電極11a,11bの間の加圧力を一定としたため、面圧はCによって変化する。以上を考慮して、ρ
1を次式で与えた。
ρ
1=ρ
0+Q(C−C
0)
2 (2)
ここで、ρ
0は十分な面圧の付与下(C
0)において一定値となる接触抵抗であり、Qは定数である。解析ではC
0=3mm、ρ
0=1.35×10
−5Ω・m、Q=1.8Ω/mと仮定した。また、比較のため、各鋼板1a,1bとシムとの間の接触抵抗を、ρ
2=1.6×10
−5Ω・mで一定とした場合についても解析を行った。
【0033】
電位差の測定およびFEA解析により得られた、シムの直径Cと電位差ΔVとの関係を、
図5(b)に示す。
図5(b)に示すように、実測の結果(Experiment)から、ΔVの測定値はCの増加と共に減少していることが確認された。この傾向は、FEA解析の結果と類似している。特に、各鋼板1a,1bとシムとの間の接触抵抗が変化する場合(ρ
1の場合)の解析結果が、実測値と良く一致している。なお、実際のスポット溶接部の検査では、溶接部は鋼板1a,1bと物理的に接合されているため、両者の接触部での接触抵抗を一定(ρ
2の場合)として良く、この場合は、
図5(b)に示すように、Cの変化に対するΔVの変化がより顕著となる。
【0034】
以上の数値解析および実験結果から、各電極11a,11bと各鋼板1a,1bとの接触部の電気抵抗率が一定と仮定できる場合には、鋼板間の接触寸法測定装置10を用いて、以下のようにして本発明の実施の形態の鋼板間の接触寸法測定方法を実施することができる。すなわち、
図6に示すように、まず、関係評価工程により、数値解析で、
図4(a)や
図5(b)のような、各鋼板間の接触寸法Cと電位差ΔVとの関係を求め、記憶手段27に記憶しておく(ステップ31)。その後、電位差測定手段12により、各電極11a,11bの間の電位差ΔVを測定し(ステップ32)、接触寸法算出手段28により、測定された電位差ΔVから、記憶手段27に記憶された関係に基づいて、各鋼板1a,1bの間の接触寸法Cを求めることができる(ステップ33)。
【0035】
なお、上記の数値解析および実験では、各電極11a,11bの表面の2点間で電流を局所的に付与している。ここで、局所的に電流を付与した場合、および、各電極11a,11bの端部の十分に遠方から電流を付与した場合の電流密度分布をFEA解析により求め、それぞれ
図7(a)および(b)に示す。また、その時のψの分布を、
図7(c)に示す。
図7(c)に示すように、局所的に電流を付与した場合(Local)のC=6mm、1mmのときのΔVの値は、それぞれ123μV、592μVである。これに対して、十分遠方から電流を付与し、各電極11a,11bの内部で電流密度が一様となる場合(Uniform)のC=6mm、1mmのときのΔVの値は、それぞれ147μV、616μVであり、局所的に電流を付与した場合と同程度である。このため、電流の入出力方法は、状況に応じて選択すればよいといえる。
【実施例2】
【0036】
[各電極と各鋼板との接触部の電気抵抗率が変化する場合−数値解析]
実際のスポット溶接等の溶接では、溶接後に鋼板1a,1bの表面粗さが増大するため、各電極11a,11bと各鋼板1a,1bとの間の接触抵抗(電気抵抗率)は一定ではなく、変化することの方が多いと考えられる。一般に、溶接電流を増加させることで各鋼板1a,1bの間の接触部の径は増大するが、各鋼板1a,1bの表面粗さが増大して、各電極11a,11bと各鋼板1a,1bとの間の接触抵抗が増大するため、このことを考慮して各鋼板1a,1bの間の接触寸法を求める必要がある。そこで、まず、各電極11a,11bと各鋼板1a,1bとの間の接触抵抗と、各鋼板1a,1bの間の接触寸法とを変化させた場合の、各電極11a,11bでの電位差を数値解析により算出し、両者が電位差に及ぼす影響の検討を行った。
【0037】
図2の場合と同様に、数値解析には有限要素法を用いた。FEA解析モデルを、
図8に示す。
図8に示すように、2枚の鋼板(Sheet)1a,1bを、直径17.5mm、厚さ1.2mmの円板とし、2枚の鋼板1a,1bを合わせた中央部に、厚さ0.1mm、直径Cの物理的接触部(Weld)を設けた。FEA解析では、各Cu電極(Electrode)11a,11bの電気抵抗率を、1.68×10
−8Ω・m、Feの電気抵抗率を、1.42×10
−7Ω・mとした。また、各Cu電極11a,11bと各鋼板1a,1bとの間の接触部の電気抵抗率ρを、1×10
−6Ω・m〜50×10
−6Ω・mの範囲で変化させた。
【0038】
図2に示すモデルと同様に、各電極11a,11bの側面の、各鋼板1a,1bの表面から4mm離れた位置から電流の入出力を行い、付与する電流を1Aとした。また、各電極11a,11bの表面上にx軸を定め、その原点を各鋼板1a,1bの間の中心とした。FEA解析では、式(1)を解くことで、各電極11a,11bでの表面電位ψを求めるとともに、各電極11a,11bの表面の点A、B間の電位差ΔVを求めた。以下では、汎用非線形解析プログラムのMarcを用いて、FEA解析を行った。
【0039】
FEA解析結果として、C=3mmの場合の、様々なρの値に対するψの分布を、
図9に示す。
図9に示すように、ρが大きい程、ψの絶対値が大きいことがわかる。また、様々なρの値に対するCとΔVとの関係を、
図10に示す。
図10に示すように、ΔVはCが小さい程、またρが大きい程、大きな値をとることがわかる。ここで、ΔVを、それぞれCとρとを独立な変数とする関数の線形和として近似すると、次式が得られる。
ΔV=6.88×10
-8C
-1.2+14.2ρ+1.07×10
-5 (3)
式(3)の相関係数Rの2乗値(R
2値)は、0.9995である。
【0040】
[各電極と各鋼板との接触部の電気抵抗率が変化する場合−測定実験]
実際に各鋼板1a,1bをスポット溶接し、そのときのΔVを測定すると共に、溶接後に各鋼板1a,1bを切断して溶接部の断面観察を行い、各鋼板1a,1bの間の接触寸法Cを実測した。また、実測したΔVおよびCから、
図8に示す解析モデルを用いて、FEA解析により、各Cu電極11a,11bと各鋼板1a,1bとの間の接触部の電気抵抗率ρを算出した。なお、ここでは、実測したΔVおよびCからFEA解析を行って接触部の電気抵抗率ρを算出したが、実測したΔVおよびCを(3)式に代入して接触部の電気抵抗率ρを求めてもよい。
【0041】
算出したρと実測したCとの関係を、
図11に示す。
図11に示すように、Cが増大するほどρが増大しているが、これはCが増大するほど各鋼板1a,1bの表面粗さが増大したためである。
図11の場合のρとCとの関係は、次式で近似することができる(
図11中の実線)。
ρ=2.14×10
-7×exp(947×C) (4)
【0042】
式(3)および式(4)より、
ΔV=6.88×10
-8C
-1.2+3.04×10
-6exp(947×C)+1.07×10
-5 (5)
が得られる。式(5)から、ΔVを測定すればCを評価することができる。なお、式(4)の関係は溶接条件に依存するため、異なる溶接条件ではこの関係を改めて得ることにより、同様の評価式を得ることができる。
【0043】
式(5)を評価するために、新たに52個のスポット溶接を行い、各スポット溶接試料について、電位差ΔVの測定値から式(5)を用いて求めた接触寸法C
Eと、実測して得られた接触寸法C
Mとの比較を行った。その結果を、
図12に示す。
図12に示すように、C
EとC
Mとは良く一致しており、式(5)を利用することにより鋼板1a,1bの間の接触寸法を正確に測定できることが確認された。
【0044】
以上の数値解析および実験結果から、各電極11a,11bと各鋼板1a,1bとの接触部の電気抵抗率が変化する場合には、鋼板間の接触寸法測定装置10を用いて、以下のようにして本発明の実施の形態の鋼板間の接触寸法測定方法を実施することができる。すなわち、
図13に示すように、まず、関係評価工程により、数値解析で、
図10から求めた式(3)のような、各電極11a,11bと各鋼板1a,1bとの接触部の接触寸法Cおよび電気抵抗率ρの関数として、電位差ΔVを求める(ステップ34)。次に、複数の異なる電位差ΔVのときの各鋼板1a,1bの間の接触寸法Cを測定し、その複数の測定結果を用いて、数値解析により、
図11から求めた式(4)のような、電気抵抗率ρと接触寸法Cとの関係を求める(ステップ35)。さらに、その電気抵抗率ρと接触寸法Cとの関係と、電位差ΔVの関数とに基づいて、式(5)のような接触寸法Cと電位差ΔVとの関係を求め、記憶手段27に記憶しておく(ステップ36)。
【0045】
関係評価工程により接触寸法Cと電位差ΔVとの関係を求めた後、
図6と同様に、電位差測定手段12により、各電極11a,11bの間の電位差ΔVを測定し(ステップ32)、接触寸法算出手段28により、測定された電位差ΔVから、記憶手段27に記憶された関係に基づいて、各鋼板1a,1bの間の接触寸法Cを求めることができる(ステップ33)。
【0046】
以上の実施例から、本発明の実施の形態の鋼板間の接触寸法測定方法および鋼板間の接触寸法測定装置10は、各鋼板1a,1bの間の接触寸法と、各電極11a,11bの間に一定の直流電流を流したときの各電極11a,11bの間の電位差との関係をあらかじめ求めておく際に、各電極11a,11bと各鋼板1a,1bとの接触部の電気抵抗率を考慮することにより、その電気抵抗率が一定の場合だけでなく、抵抗溶接などの際に鋼板1a,1bの表面粗さが変化(増大)して電気抵抗率が変化する場合にも柔軟に対応することができる。このため、鋼板1a,1bの間の接触寸法をより正確に測定することができる。
【0047】
また、本発明の実施の形態の鋼板間の接触寸法測定方法および鋼板間の接触寸法測定装置10は、スポット溶接を行う際に使用した電極を、接触寸法を測定するための電極11a,11bとしてそのまま使用するため、電極11a,11bの位置決めや設置の時間を省略することができ、より短時間で接触寸法の測定を行うことができる。また、接触寸法を測定する際には、各電極11a,11bの間の電位差を1回測定すればよく、走査や複数点の測定を行う場合と比べて、短時間で測定を行うことができる。