特許第6236613号(P6236613)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6236613-HIPIMS層 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236613
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】HIPIMS層
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
   C23C14/34 R
【請求項の数】4
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2014-540343(P2014-540343)
(86)(22)【出願日】2012年10月26日
(65)【公表番号】特表2015-501876(P2015-501876A)
(43)【公表日】2015年1月19日
(86)【国際出願番号】EP2012004498
(87)【国際公開番号】WO2013068080
(87)【国際公開日】20130516
【審査請求日】2015年10月23日
(31)【優先権主張番号】102011117994.5
(32)【優先日】2011年11月9日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,プフェフィコーン
【氏名又は名称原語表記】OERLIKON SURFACE SOLUTIONS AG, PFAEFFIKON
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クラスニッツァー,ジークフリート
(72)【発明者】
【氏名】レヒトハーラー,マルクス
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−533050(JP,A)
【文献】 特表2011−503350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの基板上に、吹き付けを用いて気相からなるPVD層系を析出する方法であって、前記層系は少なくとも1つの第1層を有する方法において、前記方法中の少なくとも1つの工程で、電力密度が少なくとも250W/cm2であるHIPIMS法を適用し、少なくとも5ミリ秒の長さのパルス長を採用し、前記長さ中に、前記基板に基板バイアスをかけ、これにより、当該工程の間に生じる層が、パルス長を250μ秒にしてこれ以外の条件を同じにして析出された比較可能な層形態よりも、明らかに走査型電子顕微鏡中でより粗い形態を有し、前記少なくとも1つの第1層に加えて、少なくとも1つの第2HIPIM層を、最大4ミリ秒までのパルス長で塗布することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記電力密度は2000W/cm2を上回らないことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法中で前記パルス長を変えることにより、様々な形態のHIPIMS層を備えた層系生じさせることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記パルス長を変えることにより、様々な形態の層間の移行は、少なくとも1度は漸次的な移行とされることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相から物理的被覆(PVD=物理的気相成長法)を用いて、かつマグネトロン支援吹き付け(MS=マグネトロンスパッタリング)を用いて加工品上に析出される硬質層に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネトロンスパッタの実質的な2つのプロセス例は、古典的なDC−MS法とHIPIMS法である。
【0003】
HIPIMS法では、吹き付け材料を供給するターゲットには、必ず非常に高い密度の放電電流がかけられ、その結果、プラズマ中で発生する電子密度は高く、吹き付けられる粒子が非常に強くイオン化される。この場合に、250W/cm2〜2000W/cm2の電力密度が採用され、したがって、電力を供給する発電機には、非常に高い要件が存在する。とりわけ、この種の電力をターゲットに持続的に作用させることは不可能であるが、この理由は、ターゲットが過熱し、したがって、損傷が生じるだろうからである。したがって、電力はパルス状でなければならない。電力パルス内では、所望の非常に高い放電密度が生じ、ターゲットは加熱され、パルス休止期間の間にこのターゲットは再び冷却されうる。パルス幅とパルス休止期間とは、ターゲットにもたらされる平均電力が、閾値を上回らないように互いに調整されねばならない。したがって、HIPIMS用に非常に高いパルス状の電力を出力することができる発電機が必要とされる。
【0004】
したがって、HIPIMSでは、大概、コンデンサの放電原理に基づく特殊な発電機が採用され、これにより、パルスの間に変化する放電流が得られる。電流−電圧推移に関する制御プロセスは、この方法では達成されえない。別の方策によれば、プラズマをまず予めイオン化し、これにより、その後高い電力パルスの枠内でパルス幅を長くすることができる。この場合、放電流はかけられる電圧の変調により制御される。このようにして、4ミリ秒までのパルスを維持し続けることができる。
【0005】
低い電力密度、例えば5W/cm2〜50W/cm2で吹き付けを行う場合には、状況は全く違って見える。この場合、ターゲットは持続的に電力で負荷されうる。単純な発電機を採用することができるが、この理由は、高い電力を出力する必要がなく、電力出力をパルス状にする必要もないからである。このような場合には、古典的なDC−MSを用いる。
【0006】
HIPIMS層をDC−MS層と比較すると、著しく大きな構造的な差異が存在する。TiAlN被覆部の例では、DC−MS法では実質的に円柱状の構造のTiAlN被覆部が成長する(図1参照)。これに反してHIPIMS法では実質的にプロセス・ガス・イオンが層中に入ることはなく、気化した金属のイオン化によって緻密な層構造が達成されうるが、なぜならば、負のバイアスが基板にかけられる場合には、イオン化された金属原子自体が基板に向かって加速するからである。この場合、有利な場合には、さらに、HIPIMS層では、吹き付けられる材料中のイオン割合が高くなる結果、負の基板バイアスが層を非常に濃密にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
緻密なHIPIMS層は、粗い円柱状のDC−MS層よりも確かに硬質で、より濃密であるが、層接着および機械特性に関して欠点もある。この種の緻密なHIPIMS層は、DC−MS層と比較して確かに摩耗挙動は改善されていて、その結果耐用年数がより長くなる。しかしながら、欠点として、消耗すなわち層寿命の終了が予告されず、おそらくはその機械特性がゆえに非常に迅速に(例えば剥げ落ちの形態での)現象が生じる。したがって、利用者は、被覆された工具をいつ交換すべきかを見積もるのが非常に難しい。
【0008】
したがって、本発明の課題は、HIPIMS技術での典型的な硬度を有するが、しかしその応用中で消耗を、例えば時間の経過とともに生じる加工効率の低減などにより、利用者に予告をすることができ、その結果、利用者に該当する工具を交換する可能性を与えることができるような層を開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述のように、現在では、最大4ミリ秒までのパルス幅が可能であるHIPIMS発電機が公知である。高電力のパルスを提供する新しい方法では、25ミリ秒以上のパルス幅を難なく実現することができる。
【0010】
この方法では、第1部分カソードと第2部分カソードとを有するPVD吹き付けカソードが作動されるように設けられ、部分カソード用の最大平均電力負荷が予め決められ、電力パルス間隔の長さが予め決められ、この方法は以下の工程を含み、すなわち、
a)好ましくは少なくともスイッチを入れた後および電力立ち上げ間隔の経過後に、所定の一定の電力を出力する発電機を提供する工程と、
b)発電機のスイッチを入れる工程と、
c)第1部分カソードを発電機に接続する工程であって、その結果、第1部分カソードが、発電機からの電力で負荷される工程と、
d)第1部分カソードに対応する所定の第1電力パルス間隔の経過後に、発電機を第1部分カソードから切り離す工程と、
e)第2部分カソードを発電機に接続する工程であって、その結果、第2部分カソードが発電機からの電力で負荷される工程と、
f)第2部分カソードに対応する所定の第2電力パルス間隔の経過後に、発電機を第2部分カソードから切り離す工程と
を含む方法において、
第1電力パルス間隔が第2電力パルス間隔より時間的に前に開始し、第1電力パルス間隔が第2電力パルス間隔より時間的に前に終了し、かつ、第1電力パルス間隔と第2電力パルス間隔とが時間的に重複し、全ての電力パルス間隔が共になって第1群を形成し、その結果、発電機からの電力出力が中断なしに、第1電力パルス間隔の開始から第2電力パルス間隔の終了まで一貫して存在し続け、かつ第2電力立ち上げ間隔は生じないように工程d)と工程e)とが実施される。
【0011】
この方法の応用では、発明者らが驚いたことに、以下を突き止めた。すなわち、5ミリ秒以上のパルス幅で被覆されたHIPIMS層を備えた工具は、より短いパルス幅で被覆されたHIPIMS層を備えた工具に比べて、被覆された工具の寿命の終了近くで有意に異なる挙動を示すことを突き止めた。興味深いことに、長いパルスで塗布された層の破断縁のSEM画像は、粗い形態を示すが、これは、図3で明らかに見ることができる。この場合、この層形態の差異は、単にパルス長を変化させることのみにより達成され、これ以外の影響パラメータに変化はない。
【0012】
5ミリ秒以上のパルス幅により析出された本発明の層は、短いパルスで塗布された層と比較して、弾性率がより高く、かつ硬度もより高い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】マグネトロンスパッタリングによる被覆層の一例である。
図2】マグネトロンスパッタリングによる被覆層の他の一例である。
図3】マグネトロンスパッタリングによる被覆層のさらに他の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
例えば、本発明者らは、HIPIMS法を用いて、一方では250μ秒のパルス長で、他方では、25000μ秒のパルス長でTiAlN層を析出させた。250μ秒のパルス長で析出された層の弾性率は約425GPaで、硬度は2900HVであった。他方、25000μ秒のパルス長で析出された層の弾性率は475GPaで、硬度は3100HVを上回っていた。
【0015】
上述の電力パルスを提供する方法は、非常に容易にパルス長を設定し、かつこれを変化させることもできるので、緻密な形態を有するHIPIMS層と粗い形態を有するHIPIMS層とを交互に配置した層系を被覆部内に構築することが可能である。これは、析出のために短いパルス幅と長いパルス幅とを交互に選択することにより、容易に実現可能である。双方の析出様式についてほぼ同じ層圧力中で測定を行ったので、この種の交互の層系は、期待通りその摩耗を低減することに関して非常に良好な特性を有する。この交互の層系は、突然の移行を示すことができ、その結果、緻密な粒子の層と粗い粒子の層との間で整然とした境界面を形成する。しかし、パルス幅が突然ではなく連続的に変化する1つ以上の漸次的な移行を実現することも可能である。
【0016】
同じ被覆工程中で電力パルス高を変化させることも可能である点について指摘する。とりわけ、DC−MSにとっては典型的である円柱状の成長を有する層を発生させることができるように、一時的に小さなパルス高を選択することが可能である。このようにして、HIPIMS層とDC−MSとからなる交互の層系も実施可能であり、これは、層圧力が異なるがゆえに層系の安定性に貢献しうる。
図1
図2
図3