特許第6236630号(P6236630)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236630
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】モノフルオロマロン酸誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/307 20060101AFI20171120BHJP
   C07C 69/63 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   C07C67/307
   C07C69/63
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-34410(P2014-34410)
(22)【出願日】2014年2月25日
(65)【公開番号】特開2015-157788(P2015-157788A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2017年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591180358
【氏名又は名称】東ソ−・エフテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】北村 二雄
(72)【発明者】
【氏名】香川 巧
【審査官】 池上 京子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−091331(JP,A)
【文献】 特表2008−536926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(式(1)中、R1及びR2は各々独立して、メチル基、エチル基、炭素数3〜6の直鎖、分岐若しくは環式のアルキル基、フェニル基又はベンジル基を示し、R3は水素原子、メチル基又はエチル基を示す。)で表されるマロン酸エステル誘導体を、
一般式(2)
【化2】
(式(2)中、R4、R5、R6、R7及びR8は各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜4の直鎖分岐若しくは環式のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、炭素数3〜4の直鎖、分岐若しくは環式のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基又はニトロ基を示す。)
で表されるヨードシルベンゼン誘導体存在下、又は、
下記一般式(3)
【化3】
(式(3)中、R4、R5、R6、R7及びR8は前記式(2)と同じ。)
で表わされるヨードベンゼン誘導体および酸化剤の存在下、フッ化水素源と反応させる、
下記一般式(4)
【化4】
(式(4)中、R1、R2及びR3は前記式(1)と同じ。)
で表されるモノフルオロマロン酸誘導体の製造方法。
【請求項2】
フッ化水素源が、無水フッ化水素、フッ化水素水溶液、フッ化水素−ピリジン錯体、フッ化水素−トリエチルアミン錯体及びフッ化水素−テトラエチルアンモニウムフルオリド塩からなる群より選ばれる1または複数である、請求項1に記載のモノフルオロマロン酸誘導体の製造方法。
【請求項3】
酸化剤が、過酸及び/又は過酸化物である、請求項1又は請求項2に記載のモノフルオロマロン酸誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモノフルオロマロン酸エステル誘導体の新規製造方法に関する。モノフルオロマロン酸エステル誘導体は、電子材料原料や医・農薬の製造中間体として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来より、フッ素ガスにより直接フッ素化しモノフルオロマロン酸エステル誘導体を得る方法としては、硝酸銅触媒存在下実施する方法(例えば特許文献1および非特許文献1参照)、マロン酸ジエチルを水素化ナトリウムによりナトリウム塩とした後に実施する方法(例えば特許文献2参照)が知られている。
また、クロロマロン酸エチルをアミン類のフッ化水素塩により、フッ素置換する方法(例えば特許文献3参照)、トリフルオロアクリル酸塩をエタノールと反応させ得る方法(例えば非特許文献2参照)等が知られている。
【0003】
さらに、フッ素化剤として、N−フルオロピリジニウム塩を用いる方法(例えば非特許文献3参照)、二フッ化キセノンを用いる方法(例えば非特許文献4参照)、並びに1−フルオロ−2−ピリドンを用いる方法(例えば非特許文献5参照)が知られている。
このような特許文献1及び非特許文献2に記載の方法はフッ素ガスを用いるために、安全上の課題があり、また多くの場合において低収率である。特許文献2に記載の方法は、生成物の分離が困難なモノフルオロマロン酸ジエチルとジフルオロマロン酸ジエチルの混合物となる課題がある。
【0004】
一方、特許文献3に記載の方法は、あらかじめクロロマロン酸エチルを調製する必要があり、多段の反応で製造工程が長くなるという課題がある。非特許文献2に記載の方法は、フッ素原子が3個導入された原料を分解することにより製造しており、高価なフッ素を2個分廃液として廃棄するという課題がある。
さらに、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5に記載の方法は、高価なフッ素化剤を用いるために、工業的規模での生産には適用することができない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2001−510173号公報
【特許文献2】特表平11−507938号公報
【特許文献3】特表2004−537502号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】R.D.チャンバース(R. D. Chambers)ら, ジャーナル オブ フルオリン ケミストリー(J. Fluorine Chem.), 1988, 92, 45
【非特許文献2】T.フチカミ(T. Fuchikami)ら, ケミカル レターズ(Chemistry Lett.), 1573(1984)
【非特許文献3】T.ウメモト(T. Umemoto)ら, ジャーナル オブ アメリカン ケミストリー ソサイティ(J. Am. Chem. Soc.), 1990, 112, 8563
【非特許文献4】T.B.パトリック(T. B. Patrick)ら, ジャーナル オブ フルオリン ケミストリー(J. Fluorine Chem.), 1988, 39, 415
【非特許文献5】S.T.プリントン(S. T. Purrington)ら, ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(J. Org. Chem.), 1983, 48, 761
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来の課題を克服し、工業的に実施可能なモノフルオロマロン酸エステル誘導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、モノフルオロマロン酸エステル誘導体の製造方法について鋭意検討した結果、マロン酸エステル誘導体を、ヨードシルベンゼン誘導体存在下、又は触媒量のヨードベンゼン誘導体及び酸化剤存在下、フッ化水素源と反応させることにより、モノフルオロマロン酸エステル誘導体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、下記一般式(1)
【0009】
【化1】
【0010】
(式(1)中、R1及びR2は各々独立して、メチル基、エチル基、炭素数3〜6の直鎖、分岐若しくは環式のアルキル基、フェニル基又はベンジル基を示し、R3は水素原子、メチル基又はエチル基を示す。)で表されるマロン酸エステル誘導体を、
一般式(2)
【0011】
【化2】
【0012】
(式(2)中、R4、R5、R6、R7及びR8は各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜4の直鎖分岐若しくは環式のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、炭素数3〜4の直鎖、分岐若しくは環式のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基又はニトロ基を示す。)
で表されるヨードシルベンゼン誘導体存在下、又は、
下記一般式(3)
【0013】
【化3】
【0014】
(式(3)中、R4、R5、R6、R7及びR8は前記式(2)と同じ。)
で表わされるヨードベンゼン誘導体および酸化剤の存在下、フッ化水素源と反応させる、
下記一般式(4)
【0015】
【化4】
【0016】
(式(4)中、R1、R2及びR3は前記式(1)と同じ。)
で表されるモノフルオロマロン酸誘導体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、電子材料原料や医農薬の合成中間体として有用な、モノフルオロマロン酸誘導体の工業的な製造方法が提供された。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において用いられる一般式(1)で表されるマロン酸エステル誘導体としては、例えば、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジ−n−プロピル、マロン酸ジ−iso−プロピル、マロン酸ジ−n−ブチル、マロン酸ジ−iso−ブチル、マロン酸ジ−tert−ブチル、マロン酸ジ−n−ペンチル、マロン酸時ジ−シクロペンチル、マロン酸ジ−n−ヘキシル、マロン酸ジ−シクロヘキシル、マロン酸tert−ブチル−エチル、マロン酸ジフェニル、マロン酸ジベンジル、2−メチルマロン酸ジメチル、2−メチルマロン酸ジエチル、2−メチルマロン酸ジ−n−プロピル、2−メチルマロン酸ジ−iso−プロピル、2−メチルマロン酸ジ−n−ブチル、2−メチルマロン酸ジ−iso−ブチル、2−メチルマロン酸ジ−tert−ブチル、2−メチルマロン酸ジ−n−ペンチル、2−メチルマロン酸時ジ−シクロペンチル、2−メチルマロン酸ジ−n−ヘキシル、2−メチルマロン酸ジ−シクロヘキシル、2−メチルマロン酸tert−ブチル−エチル、2−メチルマロン酸ジフェニル、2−メチルマロン酸ジベンジル2−エチルマロン酸ジメチル、2−エチルマロン酸ジエチル、2−エチルマロン酸ジ−n−プロピル、2−エチルマロン酸ジ−iso−プロピル、2−エチルマロン酸ジ−n−ブチル、2−エチルマロン酸ジ−iso−ブチル、2−エチルマロン酸ジ−tert−ブチル、2−エチルマロン酸ジ−n−ペンチル、2−エチルマロン酸時ジ−シクロペンチル、2−エチルマロン酸ジ−n−ヘキシル、2−エチルマロン酸ジ−シクロヘキシル、2−エチルマロン酸tert−ブチル−エチル、2−エチルマロン酸ジフェニル、2−エチルマロン酸ジベンジル等が挙げられる。
【0019】
本発明において用いられる一般式(2)で表されるヨードシルベンゼン誘導体としては、例えば、ヨードシルベンゼン、2−ヨードシルトルエン、3−ヨードシルトルエン、4−ヨードシルトルエン、2,4,6−トリメチルヨードシルベンゼン、2−エチルヨードシルベンゼン、3−エチルヨードシルベンゼン、4−エチルヨードシルベンゼン、2−ヨードシルアニソール、3−ヨードシルアニソール、4−ヨードシルアニソール、1−クロロ−2−ヨードシルベンゼン、1−クロロ−3−ヨードシルベンゼン、1−クロロ−4−ヨードシルベンゼン、1,2−ジヨードシルベンゼン、1,3−ジヨードシルベンゼン、1,4−ジヨードシルベンゼン、1−ヨードシル−2−ニトロベンゼン、1−ヨードシル−3−ニトロベンゼン、1−ヨードシル−4−ニトロベンゼン、1−ヨードシル−2−シアノベンゼン、1−ヨードシル−3−シアノベンゼン又は1−ヨードシル−4−シアノベンゼン等が挙げられ、反応に具する一般式(1)で表されるマロン酸エステル誘導体に対して、0.1〜10モル倍量使用するとよく、1.0モル倍量未満の使用の場合は酸化剤を必要とする場合もある。
【0020】
本発明において用いられる一般式(3)で表されるヨードベンゼン誘導体としては、例えば、ヨードベンゼン、2−ヨードトルエン、3−ヨードトルエン、4−ヨードトルエン,2,4,6−トリメチルヨードベンゼン、2−エチルヨードベンゼン、3−エチルヨードベンゼン、4−エチルヨードベンゼン、2−ヨードアニソール、3−ヨードアニソール、4−ヨードアニソール、1−クロロ−2−ヨードベンゼン、1−クロロ−3−ヨードベンゼン、1−クロロ−4−ヨードベンゼン、1,2−ジヨードベンゼン、1,3−ジヨードベンベン、1,4−ジヨードベンゼン、1−ヨード−2−ニトロベンゼン、1−ヨード−3−ニトロベンゼン、1−ヨード−4−ニトロベンゼン、1−ヨード−2−シアノベンゼン、1−ヨード−3−シアノベンゼン又は1−ヨード−4−シアノベンゼン等が挙げられ、反応に具する一般式(1)で表されるマロン酸エステル誘導体に対して、0.1〜10モル倍量使用する。
【0021】
本発明において、一般式(4)で表わされるモノフルオロマロン酸エステル誘導体は、一般式(1)で表されるマロン酸エステル誘導体を、一般式(2)で表されるヨードシルベンゼン誘導体存在下、又は、一般式(3)で表わされるヨードベンゼン誘導体及び酸化剤存在下、フッ化水素源と反応させることで得られる。このモノフルオロマロン酸エステル誘導体としては、例えば次の化合物が挙げられる。
【0022】
すなわち、フルオロマロン酸ジメチル、フルオロマロン酸ジエチル、フルオロマロン酸ジ−n−プロピル、フルオロマロン酸ジ−iso−プロピル、フルオロマロン酸ジ−n−ブチル、フルオロマロン酸ジ−iso−ブチル、フルオロマロン酸ジ−tert−ブチル、フルオロマロン酸ジ−n−ペンチル、フルオロマロン酸時ジ−シクロペンチル、フルオロマロン酸ジ−n−ヘキシル、フルオロマロン酸ジ−シクロヘキシル、フルオロマロン酸tert−ブチル−エチル、フルオロマロン酸ジフェニル、フルオロマロン酸ジベンジル、2−フルオロ−2−メチルマロン酸ジメチル、2−フルオロ−2−メチルマロン酸ジエチル、2−フルオロ−2−メチルマロン酸ジ−n−プロピル、2−フルオロ−2−メチルマロン酸ジ−iso−プロピル、2−フルオロ−2−メチルマロン酸ジ−n−ブチル、2−フルオロ−2−メチルマロン酸ジ−iso−ブチル、2−フルオロ−2−メチルマロン酸ジ−tert−ブチル、2−フルオロ−2−メチルマロン酸ジ−n−ペンチル、2−フルオロ−2−メチルマロン酸時ジ−シクロペンチル、2−フルオロ−2−メチルマロン酸ジ−n−ヘキシル、2−フルオロ−2−メチルマロン酸ジ−シクロヘキシル、2−フルオロ−2−メチルマロン酸tert−ブチル−エチル、2−フルオロ−2−メチルマロン酸ジフェニル、2−フルオロ−2−メチルマロン酸ジベンジル、2−フルオロ−2−エチルマロン酸ジメチル、2−フルオロ−2−エチルマロン酸ジエチル、2−フルオロ−2−エチルマロン酸ジ−n−プロピル、2−フルオロ−2−エチルマロン酸ジ−iso−プロピル、2−フルオロ−2−エチルマロン酸ジ−n−ブチル、2−フルオロ−2−エチルマロン酸ジ−iso−ブチル、2−フルオロ−2−エチルマロン酸ジ−tert−ブチル、2−フルオロ−2−エチルマロン酸ジ−n−ペンチル、2−フルオロ−2−エチルマロン酸時ジ−シクロペンチル、2−フルオロ−2−エチルマロン酸ジ−n−ヘキシル、2−フルオロ−2−エチルマロン酸ジ−シクロヘキシル、2−フルオロ−2−エチルマロン酸tert−ブチル−エチル、2−フルオロ−2−エチルマロン酸ジフェニル、2−フルオロ−2−エチルマロン酸ジベンジル等が挙げられる。
【0023】
本発明において用いられるフッ化水素源としては、例えば、無水フッ化水素酸、濃度10〜70重量%のフッ化水素酸水溶液、フッ化水素−トリエチルアミン塩[Et3N・(HF)25]、フッ化水素−ピリジン塩[Py・(HF)210]又はフッ化水素−テトラエチルアンモニウムフルオリド塩[Et4NF・(HF)15]が挙げられる。これらは単独または複数を組み合わせて用いることもできる。また、反応に具する一般式(1)で表されるマロン酸エステル誘導体に対して、フッ化水素換算で1.5〜30モル使用する。
【0024】
本発明において用いられる酸化剤としては、例えば、過酸化水素、過酢酸、過安息香酸、m−クロロ過安息香酸、tert−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルキシド、過硫酸カリウム、過硫酸水素カリウム−硫酸水素カリウム−硫酸カリウム混合物(商品名:Oxone、シグマ−アルドリッチ(株)製)等の過酸及び/又は過酸化物が挙げられる。これらは単独または複数を組み合わせて用いることもできる。また反応に具する一般式(1)で表されるマロン酸エステル誘導体に対して、1.0〜5.0モル量使用する。
【0025】
本発明に適用可能な溶剤としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶剤、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素溶剤が挙げられる。これらは単独または複数を組み合わせて用いることもできる。また反応に具する一般式(1)で表されるマロン酸エステル誘導体に対して、5〜100重量倍量使用する。
【0026】
本発明における反応温度及び時間は、用いるヨードシルベンゼンの種類、ヨードベンゼン誘導体の種類、フッ化水素源の種類、酸化剤の種類により異なるが、通常、20〜80℃の温度範囲で、1〜48時間反応を行うことにより反応が完結する。
本発明における反応後の後処理としては、周知の方法で実施可能であり、例えば、炭酸水素ナトリウム水溶液等で中和の後、ジクロロメタン等の溶剤で抽出、硫酸ナトリウム等で乾燥、濃縮することにより粗製物を得、さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィー等の公知の方法を適宜、または複数の処方を組合わせて精製を行っても良い。
【実施例】
【0027】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
なお収率の算出、化合物の同定には、アジレント社製Agilent Technologies 400 MHz NMR system(以下記載の、1H−NMR、13C−NMRおよび19F−NMR)を用いた。
[実施例1] フルオロマロン酸ジエチル(5)の調製
【0028】
【化5】
【0029】
攪拌子を備えた10mlのテフロン(登録商標)製試験管に、ヨードシルベンゼン(550mg、2.50mmol)、トリエチルアミン・5フッ化水素塩(804mg、4.00mmol)及び1,2−ジクロロエタン(2ml)を入れ、室温下、15分撹拌の後、これにマロン酸ジエチル(160mg、1.00mmol)を添加した。次いで、試験管をセプタムキャップで密閉した後、油浴上で70℃に加熱し、24時間反応を行った。
【0030】
反応終了後、室温に戻し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50ml)に添加し中和の後、ジクロロメタン(10ml)で3回抽出、有機層を合わせて飽和食塩水(10ml)で洗浄、硫酸ナトリウム上で乾燥、ろ過、濃縮の後、粗製物を得た。
得られた粗製物を、1,4−ジメトキシベンゼンを内部標準物質として用いた1H−NMR測定において定量したところ、反応収率は100%であった。
【0031】
次いで、得られた粗製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより目的物のフルオロマロン酸ジエチルを収率38%で得た。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ1.34(t,J=7Hz,6H,CH3),4.33(q,J=7Hz,4H,CH2),5.28(d,J=48.5Hz,1H,CHF)。
13C−NMR(100MHz,CDCl3)δ13.9,62.6,85.2(d,J=195Hz),163.9(d,J=24Hz)。
19F−NMR(376MHz,CDCl3)δ−195.17(d,J=48.5Hz)。
【0032】
[実施例2] フルオロマロン酸ジメチル(6)の調製
【0033】
【化6】
【0034】
実施例1のマロン酸ジエチル(160mg、1.00mmol)に替えてマロン酸ジメチル(132mg,1.00mmol)に替えた以外、実施例1と同じ操作を行った。
得られて粗製物を1,4−ジメトキシベンゼンを内部標準物質として用いた1H−NMR測定において定量したところ、反応収率は53%であった。
次いで、得られた粗製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより目的物のフルオロマロン酸ジメチルを単離した。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ3.88(s,6H,CH3),5.34(d,J=48.5Hz,1H,CHF)。
13C−NMR(100MHz,CDCl3)δ53.3,85.0(d,J=196Hz),164.2(d,J=24Hz)。
19F−NMR(376MHz,CDCl3)δ−195.23(d,J=48.5Hz)。
19F−NMR(376MHz,CDCl3)δ−195.17(d,J=48.5Hz)。
【0035】
[実施例3] フルオロマロン酸ジベンジル(7)の調製
【0036】
【化7】
【0037】
実施例1のマロン酸ジエチル(160mg、1.00mmol)に替えてマロン酸ジベンジル(284mg,1.00mmol)に替えた以外、実施例1と同じ操作を行った。
得られて粗製物を1,4−ジメトキシベンゼンを内部標準物質として用いた1H−NMR測定において定量したところ、反応収率は58%であった。
次いで、得られた粗製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより目的物のフルオロマロン酸ジベンジルを単離した。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ5.24(s,4H,CH2),5.36(d,J=48Hz,1H,CHF),7.29−7.35(m,10H,Ph)。
13C−NMR(100MHz,CDCl3)δ68.2,85.2(d,J=196Hz),128.4,128.65,128.7,134.2,163.6(d,J=24Hz)。
19F−NMR(376MHz,CDCl3)δ−195.03(d,J=48Hz)。
【0038】
[実施例4] フルオロマロン酸ジ−n−ブチル(8)の調製
【0039】
【化8】
【0040】
実施例1のマロン酸ジエチル(160mg、1.00mmol)に替えてマロン酸ジ−n−ブチル(216mg,1.00mmol)に替えた以外、実施例1と同じ操作を行った。
得られて粗製物を1,4−ジメトキシベンゼンを内部標準物質として用いた1H−NMR測定において定量したところ、反応収率は58%であった。
【0041】
次いで、得られた粗製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより目的物のフルオロマロン酸ジ−n−ブチルを単離した。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ0.94(t,J=7Hz,6H,CH3),1.35−1.42(m,4H,CH2),1.64−1.71(m,4H,CH2),4.28(dt,J=4, 6Hz,4H,CH2),5.29(d,J=48Hz,1H,CHF)。
13C−NMR(100MHz,CDCl3)δ13.5,18.8,30.3,66.4,85.2(d,J=195Hz),164.0(d,J=24Hz)。
19F−NMR(376MHz,CDCl3)δ−194.91(d,J=48Hz)。
【0042】
[実施例5] フルオロマロン酸ジ−n−ヘキシル(9)の調製
【0043】
【化9】
【0044】
実施例1のマロン酸ジエチル(160mg、1.00mmol)に替えてマロン酸ジ−n−ヘキシル(272mg,1.00mmol)に替えた以外、実施例1と同じ操作を行った。
得られて粗製物を1,4−ジメトキシベンゼンを内部標準物質として用いた1H−NMR測定において定量したところ、反応収率は61%であった。
【0045】
次いで、得られた粗製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより目的物のフルオロマロン酸ジ−n−ヘキシルを単離した。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ0.89(t,J=7Hz,6H,CH3),1.31−1.38(m,12H,CH2),1.65−1.72(m,4H,CH2),4.26(dt,J=4, 7Hz,4H,CH2),5.28(d,J=48Hz,1H,CHF)。
13C−NMR(100MHz,CDCl3)δ13.8,22.4,25.2,28.2,31.2,66.6,85.2(d,J=195Hz),164.0(d,J=24Hz)。
19F−NMR(376MHz,CDCl3)δ−194.90(d,J=48Hz)。
【0046】
[実施例6] 2−フルオロ−2−メチルマロン酸ジエチル(10)の調製
【0047】
【化10】
【0048】
実施例1のマロン酸ジエチル(160mg、1.00mmol)に替えて2−メチルマロン酸ジエチル(174mg,1.00mmol)に替えた以外、実施例1と同じ操作を行った。
得られて粗製物を1,4−ジメトキシベンゼンを内部標準物質として用いた1H−NMR測定において定量したところ、反応収率は18%であった。
【0049】
次いで、得られた粗製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することにより目的物の2−フルオロ−2−メチルマロン酸ジエチルを単離した。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ1.31(t,J=7Hz,6H,CH3),1.76(d,J=22Hz,3H,CH3),4.27(q,J=7Hz,4H,CH2)。
19F−NMR(376MHz,CDCl3)δ−157.53(d,J=22Hz)。
【0050】
[実施例7] フルオロマロン酸ジエチルの調製
攪拌子を備えた10mlのテフロン(登録商標)製試験管に、ヨードベンゼン(102mg、0.50mmol)、トリエチルアミン・5フッ化水素塩(804mg、4.00mmol)、m−クロロ過安息香酸(518mg,3.00mmol)及び1,2−ジクロロエタン(2ml)を入れ、室温下、15分撹拌の後、これにマロン酸ジエチル(160mg、1.00mmol)を添加した。次いで、試験管をセプタムキャップで密閉した後、油浴上で70℃に加熱し、24時間反応を行った。
【0051】
反応終了後、室温に戻し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50ml)に添加し中和の後、ジクロロメタン(10ml)で3回抽出、有機層を合わせて飽和食塩水(10ml)で洗浄、硫酸ナトリウム上で乾燥、ろ過、濃縮の後、粗製物を得た。
得られた粗製物を、1,4−ジメトキシベンゼンを内部標準物質として用いた1H−NMR測定において定量したところ、反応収率は3%であった。
【0052】
[実施例8]
実施例7のヨードベンゼン(102mg、0.50mmol)に替えてo−メトキシヨードベンゼン(117mg,0.50mmol)に替えた以外、実施例7と同じ操作を行い、粗製物を得た。
得られた粗製物を、1,4−ジメトキシベンゼンを内部標準物質として用いた1H−NMR測定において定量したところ、反応収率は3%であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の製造方法は、比較的取り扱いが容易なフッ化水素源を用いるため、工業的規模でのモノフルオロマロン酸エステル誘導体の製造が可能となる。