【実施例】
【0017】
以下に本発明の一実施例を
図1から
図3に示す。
図1は本発明の一実施例による放射性セシウムの処理方法を示す処理流れ図、
図2は同処理方法に用いる吸着材の写真代用図面、
図3は同処理方法に用いる分離装置の概念図である。
【0018】
図1に示すように、本実施例による放射性セシウムの処理方法は、放射性セシウムの回収工程と放射能の低減工程からなる。
【0019】
放射性セシウムの処理方法は、汚染物質が焼却可能な物質である場合には、汚染物質を焼却する焼却ステップS11と、焼却灰から放射性セシウムを水に溶解する溶解ステップS21と、放射性セシウムが溶け込んだ水と吸着材とを接触させ、吸着材に放射性セシウムを吸着させる吸着ステップS30と、吸着ステップS30の後に、放射性セシウムを吸着させた吸着材と、放射性セシウムが除去された水とを分離する分離ステップS40とからなる。
【0020】
汚染対象物が汚染土壌である場合には、汚染土壌の削り取る削り取りステップS12と、汚染土壌から放射性セシウムを水に溶解する溶解ステップS22と、放射性セシウムが溶け込んだ水と吸着材とを接触させ、吸着材に放射性セシウムを吸着させる吸着ステップS30と、吸着ステップS30の後に、放射性セシウムを吸着させた吸着材と、放射性セシウムが除去された水とを分離する分離ステップS40とからなる。
汚染対象物が草木や木材等の可燃物である場合には、草木や木材等を燃焼するステップS13と、草木や木材等の可燃物から放射性セシウムを水に溶解する溶解ステップS23と、放射性セシウムが溶け込んだ水と吸着材とを接触させ、吸着材に放射性セシウムを吸着させる吸着ステップS30と、吸着ステップS30の後に、放射性セシウムを吸着させた吸着材と、放射性セシウムが除去された水とを分離する分離ステップS40とからなる。
【0021】
上記処理工程によれば、汚染物質を焼却する焼却ステップS11を有し、溶解ステップS21では、焼却ステップS11で生じる焼却灰を汚染物質としたことで、焼却によって汚染物質を減容化でき、水への溶解を容易に行うことができる。
また、溶解ステップS22における汚染物質を、地表から削り取った汚染土壌としたことで、土壌表面の放射性セシウムを除去することができる。
また、溶解ステップS22における汚染物質を、草木や木材等の可燃物としたことで、可燃物中の放射性セシウムを効果的に除去することができる。
【0022】
図2に本実施例による放射性セシウムの処理方法に用いる吸着材を示す。
吸着材は、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、金属多孔質体、多孔質粘土鉱物、及びセラミック多孔質体の少なくとも一種を主成分とする多孔質材と、マグネタイト、フェライト、鉄粉、及び磁性ステンレス粉の少なくとも一種を主成分とする磁性体とを有する。
また、吸着材は、プルシアンブルーを有していることが好ましい。プルシアンブルーとしては、大日精化製の「紺青」を用いることができる。一般的な組成式は、AyFe[Fe(CN)
6]x・zH
2O(Aはセシウムイオンなどの陽イオン)であり、金属錯体や配位高分子と呼ばれる物質群の一種である。プルシアンブルーは、多孔質材に対して5〜10%が適している。
【0023】
多孔質粘土鉱物は、セピオライト、スメクタイト、イモゴライト、パリゴルスカイト、カオリン、モンモリロナイト、ゼオライト、ベントナイト、アタパルジャイト、酸性白土、リモナイトから選ばれる少なくとも一種を主成分とするものである。
モンモリロナイト、ベントナイト、酸性白土は、二次元の層状結晶構造物をそのまま用いることができ、特に酸性白土の酸処理誘導体である活性白土を用いることができる。活性白土は、酸性白土の酸処理によって酸性白土の層間に含まれる鉄、マグネシウム及び骨格を構成するアルミニウムの一部を溶出させて得られる比表面積が400m
2/g以下の高活性の酸性白土の粘土鉱物誘導体である。
【0024】
またケイ酸マグネシウム粘土鉱物では、三次元の鎖状の結晶構造を有するホルマイト系の鎖状粘土鉱物を用いることができる。ホルマイト系の鎖状粘土鉱物はその鎖状構造及びその収束体の間隙にできる空孔がBET法比表面積で60から400m
2/gの比表面積を有する。
ホルマイト系のケイ酸マグネシウム粘上鉱物の中では、セピオライト、パリゴルスカイト、アタパルジャイト等の繊維状粘土鉱物(鎖状粘土鉱物)を用いることができる。セピオライト粉体としては、比表面積175m
2/g、細孔容積0.8ml/g、嵩密度0.58g/ml、含水率10.8%のものが市販されている。
【0025】
これらの多孔質粘土鉱物がもつ負電荷の多くは、K
+やNH
4+と結合しているが、Cs
+は、K
+やNH
4+よりも結合力が大きいため、K
+やNH
4+に置き換わって多孔質粘土鉱物がもつ負電荷と結合して固定される。
多孔質粘土鉱物は、焼成し、又は焼成した後に粉末にして用いることで、放射性セシウムの固定効果を高めることができる。
焼成温度は、100℃〜1000℃、通常は200℃〜600℃が好ましい。また、焼成は成型と同時に行うことができる。
粉末は、ボ−ルミル、ハンマ−ミキサ−での解砕、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサ−、擂解機等での練込み粉砕及びアトマイザ−、ジェットミル等での衝撃粉砕等により粉砕処理で得ることができる。
【0026】
以下に吸着材の製造方法について説明する。
平均粒径0.1mm程度の多孔質材に、多孔質材に対して2%〜3%重量の非水溶性バインダを加えて攪拌する。この攪拌によって、多孔質材の粒状物の表面に、非水溶性バインダが付着する。
この状態で多孔質材に対して10%〜20%重量の磁性体を加えて攪拌し、磁性体を多孔質材の表面に付着させる。
その後、再び多孔質材に対して2%〜3%重量の非水溶性バインダを加えて攪拌し、スプレードライによってプルシアンブルーを噴霧する。
従って、磁性体を付着させた粒状物の表面に、非水溶性バインダによってプルシアンブルーが付着する。
プルシアンブルーを付着させた粒状物を、押出成型によって所定長さの棒状若しくは略球状に成型し、または成型後粉砕して吸着材を得ることができる。
【0027】
図2は、このようにして製造した吸着材であり、3mm〜10mm程度の長さで成型される。吸着材は、加圧せずに成型しており、混合や攪拌によって容易に折れるが粉状に崩れることはない程度の硬さである。
加圧せずに押出成型によって製造することで、吸着性能を低下させることなく磁性体を付与することができる。
また、プルシアンブルーを付着させているので、放射性セシウムの吸着能力を高めることができる。
【0028】
図3は同処理方法における吸着ステップと分離ステップで用いる分離装置の概念図である。
ドラム状の容器60は、硝子や樹脂などの非磁性体で構成し、容器60の外周には電磁石70を配置している。容器60の一方の端部には排水管61が設けられ、容器60の他方の端部には吸着材排出口62が設けられている。
【0029】
図3(a)は、吸着ステップS30の処理状態を示している。
吸着ステップS30では、容器60内に、吸着材と水を収容して攪拌又は曝気を行う。なお、溶解ステップS21から容器60内で行ってもよい。
【0030】
図3(b)は、分離ステップS40における排水処理状態を示している。
分離ステップS40では、電磁石70に通電した状態で排水管61から排水する。容器60の一方が低くなるように容器60を所定角度傾けるとともに排水管61を開放する。電磁石70への通電によって、吸着材は容器60内周面に吸着され、排出管61から排出されることはない。
【0031】
図3(c)は、分離ステップS40における吸着材排出処理状態を示している。
排水後に電磁石70への通電を停止することで、吸着材は容器60内周面から離脱する。容器60は非磁性体で構成されているので、通電停止によって吸着材は確実に容器60内周面から離脱する。そして容器60の他方が低くなるように容器60を所定角度傾けるとともに吸着材排出口62を開放する。従って、吸着材は吸着材排出口62から容器60外に排出される。
【0032】
本実施例によれば、高い放射能を有する吸着材を、電磁石70を利用して遠隔操作によって取り出すことができるため、安全に処理操作を行うことができる。
【0033】
以下に本発明の他の実施例を説明する。
本実施例は、
図1に示すステップS30において、吸着材としてリモナイトを用いたものである。
リモナイトは、褐鉄鉱とも呼ばれ、鉄の酸化鉱物である。
リモナイトには、例えば、阿蘇山の近隣地域で産出される暗褐色又は黒色の団塊、土状のものがあり、阿蘇山の近隣地域で産出されるものは、70%程度の赤鉄鉱(Fe
2O
3)、14%程度の珪酸(SiO
3)、3%程度のアルミニウム(Al
2O
3)を含む。
【0034】
リモナイトとして、阿蘇山の近隣地域で産出され、採掘後3年間酸化させ、粉状にしたものを用いて放射性セシウムの吸着性を測定した。比較対象には、放射性セシウムの吸着性能が現在最も高いと言われているプルシアンブルーを用いた。
汚染物質として、Cs137が2,180Bq/kg、Cs134+Cs137が3,570Bq/kg(いずれも測定値)の焼却灰を用いた。
焼却灰800gを2リットルの水に混合し、吸着材として粉状のリモナイトを加えたものを試験区1、吸着材としてプルシアンブルーを加えたものを試験区2とした。リモナイトとプルシアンブルーとはそれぞれ107gとした。
【0035】
試験区1及び試験区2は、吸着材を混合後、3分攪拌とその後20分静置を3回繰り返して焼却灰の洗浄を行った。
焼却灰の洗浄後、焼却灰を除いて放射性セシウムを測定した。
試験区1では、Cs137が817Bq/kg、Cs134+Cs137が1,340Bq/kg、試験区2では、Cs137が888Bq/kg、Cs134+Cs137が1,460Bq/kgであった。
【0036】
その後、自然乾燥を行い、乾燥後の放射性セシウムを測定した。
試験区1では、Cs137が1,270Bq/kg、Cs134+Cs137が2,060Bq/kg、試験区2では、Cs137が1,200Bq/kg、Cs134+Cs137が1,960Bq/kgであった。
【0037】
その後、再び水を加えて攪拌し、濾過を行い、濾過水の放射性セシウムを測定した。
試験区1及び試験区2は、いずれもCs137及びCs134を検出しなかった。しかし、試験区1の濾過水は、加えた水と同等の透明度となったのに対して、試験区2の濾過水は、プルシアンブルーの色が残った。
以上のように、リモナイトはプルシアンブルーと同等の吸着性を示し、プルシアンブルーは濾過では透明性を得られないのに対してリモナイトは透明度の高い濾過水を得ることができた。
【0038】
図4は、汚染対象物が草木や木材である場合の、焼却によるセシウム分離を示す構成図である。
草木や木材等の可燃物は、投入口1から投入され、燃焼炉2にて燃焼される。燃焼炉2における燃焼空気は、冷却塔3で冷却された後に、分離水槽4に導かれる。なお、図示はしないが、冷却塔3の下流側に送風ボイラーを配置して、燃焼炉2からの燃焼空気を、分離水槽4に導くことが好ましい。
冷却塔3には、冷却水管3aが配置され、燃焼空気を冷却する。冷却水管3aで加熱された熱媒体は、温水ボイラーとして利用される。分離水槽4内は、下部に水を蓄えるとともに、上部から水噴射される。水噴射は、多数のノズル4aによって行われ、ノズル4aには、水用ポンプ4bから水が供給され、空気用ポンプ4cから空気が供給される。
燃焼炉2で有機物とともに燃焼して気化したセシウムは、冷却塔3における冷却によって空気から分離される。また、冷却塔3を通過したセシウムは、分離水槽4内で、水中を通過する際に水に溶け込み、更にノズル4aからの水噴射と接触することで、空気から分離される。
冷却塔3で分離し、また分離水槽4で分離したセシウムは、既に説明したように吸着材に吸着させて処理する。