特許第6236651号(P6236651)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236651
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】電力パルスシーケンスを提供する方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/54 20060101AFI20171120BHJP
   H05H 1/24 20060101ALI20171120BHJP
   C23C 14/35 20060101ALI20171120BHJP
   H05H 1/46 20060101ALN20171120BHJP
【FI】
   C23C14/54 C
   H05H1/24
   C23C14/35 Z
   !H05H1/46 R
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-537511(P2014-537511)
(86)(22)【出願日】2012年10月8日
(65)【公表番号】特表2015-501383(P2015-501383A)
(43)【公表日】2015年1月15日
(86)【国際出願番号】EP2012004203
(87)【国際公開番号】WO2013060415
(87)【国際公開日】20130502
【審査請求日】2015年10月6日
(31)【優先権主張番号】102011117177.4
(32)【優先日】2011年10月28日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,プフェフィコーン
【氏名又は名称原語表記】OERLIKON SURFACE SOLUTIONS AG, PFAEFFIKON
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クラスニッツァー,ジークフリート
(72)【発明者】
【氏名】レンディ,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】レヒトハーラー,マルクス
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−116578(JP,A)
【文献】 特開昭61−041766(JP,A)
【文献】 特開平02−213467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/54
C23C 14/35
H05H 1/24
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PVD吹き付けカソードを作動させるために、拡大縮小可能な電力パルス間隔を有する電力パルスを提供する方法であって、前記PVD吹き付けカソードは電力消費素子と第1カソードとを有し、前記カソード用の最大平均電力負荷は予め決められていて、前記電力パルス間隔の長さは予め決められていて、前記方法は、以下の工程、すなわち、
a)少なくともスイッチを入れた後および電力立ち上げ間隔の経過後に、所定の一定の電力出力を行う発電機を提供する工程と、
b)前記発電機のスイッチを入れる工程と、
c)前記電力消費素子を前記発電機と接続する工程であって、その結果、前記電力消費素子が、前記電力立ち上げ間隔の間、前記発電機からの電力で負荷される工程と、
d)前記電力立ち上げ間隔の経過後に、前記発電機を前記電力消費素子から切り離す工程と、
e)前記第1カソードを前記発電機と接続する工程であって、その結果、前記第1カソードが前記発電機からの電力で負荷される工程と、
f)前記第1カソードに対応する所定の第1電力パルス間隔の経過後に、前記発電機を前記第1カソードから切り離す工程と、
を含む方法において、
前記第1カソードを前記発電機に接続する際に第2電力立ち上げ間隔が生じず、これが、前記電力立ち上げ間隔と前記第1電力パルス間隔とが時間的に重複し、前記発電機からの電力出力が中断されるには及ばないことにより達成されるように、前記工程d)と前記工程e)とが実施されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1カソードは、部分カソードであり、前記PVD吹き付けカソードは、第2部分カソードをさらに含み、前記方法は、さらに以下の工程、すなわち、
g)前記第2部分カソードを前記発電機に接続する工程であって、その結果前記第2部分カソードが前記発電機の電力で負荷される工程と、
h)前記第2部分カソードに対応する所定の第2電力パルス間隔の経過後に、前記発電機を前記第2部分カソードから切り離す工程と、
を含み、
前記発電機からの電力出力が、中断なしに前記電力立ち上げ間隔の開始から前記第2電力パルス間隔の終了まで一貫して存在し続け、かつ第2電力立ち上げ間隔は生じず、かつこれが、前記第1電力パルス間隔と前記第2電力パルス間隔とが時間的に重複し、前記第1電力パルス間隔が、前記第2電力パルス間隔より時間的に前に開始し、前記第1電力パルス間隔が、前記第2電力パルス間隔より時間的に前に終了することにより達成されるように前記工程f)と前記工程g)とが実施される
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記PVD吹き付けカソードは、さらなるn個の部分カソードを含み、前記さらなるn個の部分カソードが、一列で並ぶさらなる部分カソードに割り当てられた電力パルス間隔が、それぞれ、その列の直前に並ぶ部分カソードに対応する電力パルス間隔と時間的に重複するように、前記工程f)、g)およびh)にしたがって、前記発電機に順次接続され、かつ前記発電機から接続が切断され、n−1番目の電力パルス間隔が、n番目の電力パルス間隔と時間的に重複する
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
アーク放電を検出する手段が設けられていて、アーク放電検出時には、前記電力消費素子が前記発電機に接続され、その時点で接続されている前記部分カソードが前記発電機から切り離され、これにより、前記発電機からの電力出力が中断されないことを特徴とする、請求項2または請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力パルスを生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電力パルスは、例えば、HIPIMS技術分野で必要とされる。HIPIMSとは、高出力インパルス・マグネトロン・スパッタリング(High Power Impulse Magnetron Sputtering)の略語である。この方法は、真空被覆方法であり、非常に高い放電電流を用いてカソードの材料を吹き付け、これにより、吹き付けられる材料が、高い度合いで確実に正イオン化される。同時に、被覆されるべき基板に、負の電圧がかけられると、吹き付けにより生じた正のイオンが、基板の方向に加速され、これにより緻密な層が構築される結果となる。この場合、例えば40kW以上の電力が用いられる。しかしながら、このカソードからの材料の吹き付けは、電力パルスが短い場合にのみ可能であるが、これは、電力作用がより長い場合には、過熱により損傷が生じうるからである。したがって、高い電力でカソードから吹き付けが行われうる期間は限定されねばならず、これより、最大許容可能なパルス幅が導かれる。
【0003】
これを実現するある方策は、カソード全体を部分カソードに分け、電力を順次連続的に、複数の部分カソードにもたらすことである。この概念は、複数の互いに絶縁されているカソード(ここでは、部分カソードと称する)が被覆設備中に設けられていて、その結果、局所的に限定的に高い放電電流を発生させうることを意図している。この方策の可能なある実現方法は、独国特許出願第DE102011018363号中に記載されている。
【0004】
1つの部分カソード上に1つの電力パルスが作用している間、このカソードから高い放電電流密度で吹き付けが行われる。同時に、1つまたは複数のそれ以外の部分カソードは、これらの上に新たに電力パルスが作用される前に冷却されうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
然るに、発明者らは、パルス幅自体が、マグネトロンスパッタリングにより構築される層の層特性に対して大きな影響を与えることを突き止めた。したがって、非常に短い電力パルスも、比較的長く続く高い電力パルスも出力することができる発電機が必要とされる。
【0006】
発電機は、通常、一定の電流において、確実に一定の電圧を供給する。英語では、これは「power supply(電源)」と称されるが、これは、給電部とも翻訳され、そのような意味を有する。上述のように高電力の短い電力パルスを発生させる状況に対する要求は高い。例えば、40kWの電力を出力するべき給電部のスイッチを入れる際には、市場で入手可能な電圧源では、完全にこの電力が出力されるまでに、桁としては約700マイクロ秒が経過する。本件のように、より短いパルス幅を有する電力パルスが必要である場合には、この時間は、完全に電力が整備される前にすでに経過してしまう。この種のパルスの電力形状は、したがって、制御不可能なほどに動的であり、これに基づいて構築される吹き付け方法では、再現性が悪く、最適ではない特性の層が生じてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明による方法では、規定の形状を有する電力パルスに容易に達することができ、電力パルス幅は、広い間隔にわたって容易に拡大縮小可能であるべきである。
【0008】
本発明によれば、この課題は、以下により達成される。すなわち、第1部分カソードに割り当てられた電力パルス間隔が、第2部分カソードに割り当てられた電力パルス間隔に、時間的にわずかに重複し、これにより、電力が第1部分カソードから第2部分カソードに転ずる際に、この電力を供給する発電機のスイッチを切るには及ばず、発電機からの電力の引き出しが中断なしに行われ、したがって、新たな電力立ち上げを行うには及ばないことにより達成される。双方の電力パルス間隔が重複している間、プラズマは第1部分カソードにおいてのみ燃焼するが、これは、第1部分カソードに関するインピーダンスが、まだ点火されていない第2部分カソードのインピーダンスよりも明らかにより低いからである。第1電力パルス間隔の終了時に第1部分カソードが発電機から切り離されて初めて、プラズマは第2部分カソードに点火されるが、これは、発電機からの電力引き出しが実質的に連続的に行われるように迅速に行われる。第3部分カソードが存在する場合には、この第3部分カソードに割り当てられる電力パルス間隔が、第2部分カソードに割り当てられる電力パルス間隔と(好ましくは、わずかに)重複し、その結果、第2部分カソードから第3部分カソードに電力が転じる際にも、発電機からの電力の引き出しの中断は生じないように設けられている。わずかな重複とは、この場合、x×0.01ミリ秒(0.5<x<10)の領域の重複を意味している。一般的に表現すると、n番目の部分カソードに割り当てられた電力パルス間隔が、(n−1)番目の部分カソードに割り当てられた電力パルス間隔と(好ましくは、わずかに)重複し、これにより、電力が、(n−1)番目の部分カソードからn番目の部分カソードに転じる際に、発電機からの電力の引き出しの中断が回避されるように設けられている。電力が最後の部分カソードに転じて、かつ、この最後の部分カソードに割り当てられる電力パルスが出力されて初めて、すなわち1つの電力パルス周期(以下では、群とも称する)が終了して初めて、発電機からの電力引き出しが中断される。これに続く電力休止期間は、第1部分カソードに対して、この第1部分カソードに割り当てられる電力パルスが相応の間隔の間、新たに負荷される前に、これらの部分カソードを冷却するために利用される。
【0009】
しかし、このような手順により、少なくとも、第1部分カソードに出力される電力パルスは、発電機の電力立ち上げの時間範囲内に存在し、これに対応する電力パルスは、これに従って望ましくない形状を有することになってしまう。したがって、本発明の好適なある実施形態によれば、第1部分カソードに電力を負荷するのに先立って、少なくともほぼ電力立ち上げ間隔の間、いわゆるダミーカソードに電力を負荷する。これは、実質的に、電力吸収部であり、応用に使用されるカソードではない。その後、第1部分カソードに割り当てられる電力パルス間隔が、電力立ち上げ間隔とわずかに重複するように設けられ、これにより、ダミーカソードから第1部分カソードに転ずる際に、発電機からの電力引き出しの中断が回避され、第1電力パルス間隔の枠内では、実質的に、すでに完全な電力が利用可能である。上述のダミーカソードは、例えば、オーム抵抗を有する電流回路で実現可能であり、この抵抗においては相応の電圧が低下し、したがって電力が熱に変換される。
【0010】
上述のように、電力立ち上げ間隔は、700マイクロ秒あたりの桁内であれば十分でありうる。この間隔内に発電機からダミーカソードに出力される電力は、被覆プロセスには利用されず、したがって失われてしまい、損失となる。この点は、電力パルスの周期すなわち群の間隔が、電力立ち上げ間隔に比して大きく、従って、電力損失が数%のみである場合には問題にはならない。しかし、電力パルス間隔が非常に小さく、群の間隔に比して電力立ち上げ間隔が十分重要になる場合には問題になる。このような場合には、有意な、したがって受け入れがたい電力損失が生じる。
【0011】
この点は、本発明のさらなる好適な実施形態により回避可能である。すなわち、発明者らは、電力パルス間隔が短い場合には、部分カソードの冷却は必須ではないという点を認識した。この場合には、第1電力パルス周期に第2電力パルス周期が続く。この際、第2電力パルス周期(すなわち、第2群)の第1電力パルス間隔が、第1電力パルス周期すなわち第1群の最後の電力パルス間隔とわずかに重複し、その結果、上述の最後の部分カソードから第1部分カソードへの電力が転じるのは、発電機からの電力引き出しの中断なしに可能となるように設けられている。このようにして、第2群については、電力立ち上げ間隔と、電力をダミーカソードに導くことによる電力損失とが回避される。相応の方法で、部分カソードで生じる発熱がゆえに、実際に電力供給の中断を起こさねばならない、または、起こすべきとなるまで、多数の群を続けて並べることができる。このように群を隊列にすると、電力立ち上げ間隔時に電力をダミーカソードに導くのは、一度のみ隊列の開始時に必須であるようになる。
【0012】
以下に、本発明を、吹き付け技術(スパッタ技術)に基づいて、例示的に図面に基づいて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】この種の隊列を概略的に提示した図である。
図2】ある実施形態による構造を示す図であるが、これによれば、給電部3が、発電機g1〜g6を有し、これらは、マスタースレーブ装置として構成されていて、スイッチS1〜S6を介して部分カソードq1〜q6と接続可能であることを示す図である。
図3図2の構造を示す図であるが、この場合には、マスタースレーブ装置は解散していて、各部分カソードが、直接1つの発電機から給電されうることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の実施例では、以下の省略記号を用いる。
Pavg 平均スパッタリング電力
Pmax 最大スパッタリング電力(パルス電力)
tpn パルス長
tdn パルス遅延
N 群の数(N=0〜500)
n チャンネル数(=部分カソードの数、n=0〜6、n=0はダミーカソードに相当)
fr 繰り返し周波数
tr 繰り返し時間=1/fr
カソードの過熱を回避するために、一連の電力内で、部分カソードに電力がかけられる全時間は、例えば100ミリ秒未満でなければならないと想定される。
【0015】
【数1】
【0016】
第1実施例
第1実施例の枠内では、ダミーカソードに0.5ミリ秒の間電力が負荷され、すなわち、損失間隔tp0は0.5ミリ秒であり、したがってこの損失間隔はその中に約0.25ミリ秒の電力立ち上げ間隔を確実に含んでいる。ダミーカソードに加えて、6個の部分カソードが用いられる。1つの群中で電力が1つの部分カソードにかけられる電力パルス間隔は、tp1〜6=0.2ミリ秒に定められ、電力パルス間隔の重複は、td1〜6=0.02ミリ秒に定められる。全部で10回の電力パルス周期が経過し、すなわち、10個の群が、損失間隔と共に1つの隊列を形成する。これにより、全隊列間隔は、10×6×(0.2ms−0.02ms)+0.5ms=10.8ms+0.5ms=11.3msである。
【0017】
これにより、0.5ミリ秒の損失間隔は、10.8ミリ秒の被覆目的に用いられる電力出力時間に相対する。したがって、ダミーカソードにおける電力損失に比較して、20倍を上回る電力が被覆目的用に投入される。
【0018】
ここで、この電力パルス間隔の間に、1つの部分カソードに40kWがかけられ、5kWの平均スパッタ電力が各部分カソードに予め与えられる際、全隊列間隔は、69.4Hzの周波数で繰り返されるべきであるが、なぜならば、
【0019】
【数2】
【0020】
であるからである。
これは、ダミーカソードにおける最大0.5ms×40kW×69.4Hz=1.39kWの平均電力損失に相対する。69.4Hzの繰り返し周波数は、14.4ミリ秒の繰り返し時間に相当する。全隊列間隔の長さが11.3ミリ秒である場合、これは、隊列間に3.1ミリ秒の休止期間が置かれるべきであることを意味する。
【0021】
第2実施例
第2実施例の枠内では、電力パルス間隔は、0.07ミリ秒に低減され、群の数は100個に増やされる。これ以外のパラメータは等しく保たれる。したがって、全隊列間隔は、100×6×(0.07ms−0.02ms)+0.5ms=30ms+0.5ms=30.5msである。
【0022】
これにより、0.5ミリ秒の損失間隔は、30ミリ秒の被覆目的に用いられる電力出力時間に相対する。したがって、ダミーカソードにおける電力損失に比較して、60倍を上回る電力が被覆目的用に投入される。
【0023】
ここで、電力パルス間隔の間に、ある部分カソードに40kWがかけられ、5kWの平均スパッタ電力が各部分カソードに予め与えられる際、全隊列間隔は、25Hzの周波数で繰り返されるべきであるが、なぜならば、
【0024】
【数3】
【0025】
であるからである。
これは、ダミーカソードにおける最大0.5ms×40kW×25Hz=0.5kWの平均電力損失に相対する。25Hzの繰り返し周波数は、40ミリ秒の繰り返し時間に相当する。全隊列間隔の長さが30.5ミリ秒である場合、これは、2つの隊列間に9.5ミリ秒の休止期間が置かれるべきであることを意味する。
【0026】
第3実施例
第3実施例の枠内では、電力パルス間隔は、0.05ミリ秒に低減され、群の数は1000個に増やされる。これ以外のパラメータは等しく保たれる。したがって、全隊列間隔は、1000×6×(0.05ms−0.02ms)+0.5ms=180ms+0.5ms=180.5msである。
【0027】
これにより、0.5ミリ秒の損失間隔は、180ミリ秒の被覆目的に用いられる電力出力時間に相対する。したがって、ダミーカソードにおける電力損失に比較して、360倍を上回る電力が被覆目的用に投入される。
【0028】
ここで、電力パルス間隔の間に、ある部分カソードに60kWが予めかけられ、約5kWの平均スパッタ電力が各部分カソードに予め与えられる際、全隊列間隔は、2.7Hzの周波数で繰り返されるべきであるが、なぜならば、
【0029】
【数4】
【0030】
であるからである。
これは、ダミーカソードにおける最大0.5ms×60kW×2.7Hz=81Wの平均電力損失に相対する。2.7Hzの繰り返し周波数は、360ミリ秒の繰り返し時間に相当する。全隊列間隔の長さが180.5ミリ秒である場合、これは、2つの隊列間に179.5ミリ秒の休止期間が置かれるべきであることを意味する。
【0031】
第4実施例
第4実施例の枠内では、電力パルス間隔は0.05ミリ秒に、群の数は1000個に保たれる。これ以外のパラメータも保たれる。したがって、全隊列間隔は、1000×6×(0.05ms−0.02ms)+0.5ms=180ms+0.5ms=180.5msである。
【0032】
これにより、0.5ミリ秒の損失間隔は、180ミリ秒の被覆目的に用いられる電力出力時間に相対する。したがって、ダミーカソードにおける電力損失に比較して、360倍を上回る電力が被覆目的用に投入される。
【0033】
ここで、電力パルス間隔の間に、ある部分カソードに、実施例3のように60kWではなく33kWのみがかけられ、約5kWの平均スパッタ電力が各部分カソードに予め与えられる際、全隊列間隔は、5.05Hzの周波数で繰り返されるべきであるが、なぜならば、
【0034】
【数5】
【0035】
であるからである。
これは、ダミーカソードにおける最大0.5ms×33kW×5.05Hz=83Wの平均電力損失に相対する。5.05Hzの繰り返し周波数は、198ミリ秒の繰り返し時間に相当する。全隊列間隔の長さが180.5ミリ秒である場合、これは、2つの隊列間で、17.5ミリ秒の休止期間のみが置かれるべきであることを意味する。
【0036】
上で略述した実施例が示すように、本発明の方法では、損失電力がごくわずかである一方で、パルス幅、パルス高、パルス繰り返し周波数を容易に拡大縮小可能で、かつパルス形状を正確に規定することが可能である。拡大縮小可能なパルス特性曲線というキーワードでまとめることができるこれら全てのパラメータは、スパッタリングにおいて、とりわけHIPIMS技術の枠内で、生じる層の特性に直接影響を及ぼす。本発明の説明は、スパッタリング技術の枠内での電力パルスの提供に関して提示しているが、これは、パルスの枠組において比較的高い電力を負荷せねばならない場合には、いずれの場合でも有用に適用可能である。
【0037】
図1は、上述の実施例に対応する状況を、単一の隊列としても、また、損失間隔(0)と部分カソードにおける電力パルス間隔(1〜6)とに分けたものとしても示している。ここで、水平軸は時間軸を示し、垂直軸は、発電機から出力された電力に相当する。いずれにせよ、図中には3つの群しか示されていない。
【0038】
上述したように、ダミーカソードを導入することにより、各部分カソードを正確に規定された電力パルス形状で負荷しうることが可能になるが、この理由は、ダミーカソードが、電力立ち上げ間隔中に出力された電力を処理することができるからである。発明者らが突き止めたように、このダミーカソードは、スパッタ時にいわゆるアーク放電が生じた場合にも非常に有用である。すなわち、検出装置により、この種のアーク放電(電弧放電とも称される)が認識されると、通常発電機のスイッチは切られるが、これは、1つの隊列内に発電機による中断のない電力出力がもはや存在しないことを意味する。これに反して、ダミーカソードを用いると、このカソードに電力を転じることが可能になり、発電機は、妨げられることなく、かつ中断されることなくその電力を出力することが可能になる。
【0039】
本発明の電力パルスシーケンスを提供する方法は、単純な発電機を使用することができる点にも留意される。したがって、発電機は、例えばマスタースレーブ装置として構成されている給電装置でありうる。マスタースレーブ構成とは、2つ以上の発電機の出力を並列接続することであると理解され、発電機のうちの1つ(マスター)において、設定されるべき電力が選択され、これ以外の発電機は、その設定がマスターの設定に従うように電子的に接続されている。これは、例えば、HIPIMSスパッタリングが従来のスパッタリングに切り替えられるべき際、マスタースレーブ構成が解散され、かつ、部分カソードにマスターまたは1つのスレーブがそれぞれ割り当てられうるので、とりわけ有利である。
【0040】
好ましくは、部分カソードは、ターゲットの後方にそれぞれ可動の磁石システムを有し、各レーストラックが各部分ターゲット上で漂うようにこれらの磁石システムが設けられている。設備がHIPIMSモードで作動される場合、本発明によれば、好ましくは回転する磁石システムが、部分ターゲットの後方である周波数(この周波数は、好ましくはスパッタ源の繰り返し電力パルスの周波数と有理比率を形成しない)で動く。これにより、確実に、材料がターゲット表面から均等に削り取られる。
【0041】
PVD吹き付けカソードを作動させるために、拡大縮小可能な電力パルス間隔を有する電力パルスを提供する方法を記載したが、このPVD吹き付けカソードは、第1部分カソードと第2部分カソードとを有し、これらの部分カソード用の最大平均電力負荷は予め決められていて、電力パルス間隔の長さは予め決められていて、この方法は、以下の工程、すなわち、
a)好ましくは少なくともスイッチを入れた後および電力立ち上げ間隔の経過後に、所定の一定の電力を出力する発電機を提供する工程と、
b)発電機のスイッチを入れる工程と、
c)第1部分カソードを発電機と接続する工程であって、その結果、第1部分カソードが、発電機からの電力で負荷される工程と、
d)第1部分カソードに対応する所定の第1電力パルス間隔の経過後に、発電機を第1部分カソードから切り離す工程と、
e)第2部分カソードを発電機と接続する工程であって、その結果、第2部分カソードが発電機からの電力で負荷される工程と、
f)第2部分カソードに対応する所定の第2電力パルス間隔の経過後に、発電機を第2部分カソードから切り離す工程と、
を含み、
第1電力パルス間隔が、第2電力パルス間隔より時間的に前に開始し、第1電力パルス間隔が、第2電力パルス間隔より時間的に前に終了する方法であって、
第1電力パルス間隔と第2電力パルス間隔とが時間的に重複し、全ての電力パルス間隔が共になって第1群を形成し、その結果、発電機からの電力出力が中断なしに第1電力パルス間隔の開始から、第2電力パルス間隔の終了まで一貫して存在し続け、かつ第2電力立ち上げ間隔は生じないように工程d)と工程e)とが実施される。
【0042】
第1電力パルス間隔と第2電力パルス間隔との時間的重複は、好ましくは電力パルス間隔のx%以下であり、ないし、第1電力パルス間隔と第2電力パルス間隔との長さが異なる場合には、重複は、より短い方の電力パルス間隔のx%以下であるべきであり、xは20以下であり、好ましくは10以下である。
【0043】
PVD吹き付けカソードは、少なくとも1つのさらなる部分カソード、好ましくは複数のさらなる部分カソードを有することができ、これらのさらなる部分カソードは、工程e)および工程f)に従って発電機に接続され、および接続を切り離され、一列で並ぶさらなる部分カソードに割り当てられた電力パルス間隔は、それぞれ、その列の直前に並ぶ部分カソードに対応する電力パルス間隔と時間的に重複し、第1電力パルス間隔と、第2電力パルス間隔と、1つまたは複数のさらなる電力パルス間隔とは、共になって、時間的に中断しない第1群を形成し、その結果、発電機からの電力出力は、第1群により形成される群間隔の間、中断なしに一貫して存在し続け、かつ第2電力立ち上げ間隔は生じない。
【0044】
第1群には第2群が付いていることができ、第2群内では、第1群と相応に、第1部分カソード、第2部分カソードおよび場合によってはさらなる部分カソードが、重複している電力パルス間隔内で、電力パルスで負荷され、第2群の第1電力パルス間隔が第1群の最後の電力パルス間隔と重複していて、その結果、発電機からの電力出力は、第1群の第1電力間隔から第2群の最後の電力間隔の終了まで、中断なしに一貫して存在し続け、かつ第2電力立ち上げ間隔は生じないように、第2群は第1群に付いている。
【0045】
群1および群2に関して形成される条件にしたがって、N個の群が互いに付いていることができ、NはN>1の整数である。
【0046】
群の数Nは以下のように選択されるべきである。すなわち、好ましくは最大でも次のようになるようにのみ、すなわち、各部分カソードnについて、各部分カソードに割り当てられた電力パルス間隔tpnの合計が、全ての群1〜Nにわたってそれぞれ1つの重複tdnを差し引いた上で、100ミリ秒の最大時間を上回らないように群の数Nは選択されるべきである。
【0047】
損失間隔の間は、発電機から出力される電力が、例えば被覆用に利用される負荷のために出力されることはできず、損失間隔は、少なくとも電力立ち上げ間隔を含み、損失間隔は第1群の第1電力パルス間隔と重複し、損失間隔は複数の群と共に中断のない1つの隊列を形成する。
【0048】
上述の方法を複数回繰り返すことができ、最後の群の最後の電力パルス間隔の後にそのつど、休止期間の間発電機のスイッチを切り、部分カソードに出力される時間的な平均電力が、休止期間を考慮した上で所定の値に一致するように、休止期間の長さが選択されうる。
【0049】
上述の方法を用いてHIPIMS方法を行うことができるが、発電機の所定の電力は、少なくとも20kW、好ましくは少なくとも40kW、特に好ましくは60kWである。
【0050】
このHIPIMS方法では、好ましくは部分カソードに出力される時間的な平均電力は10kW以下、好ましくは5kWであり、部分カソードに一時的におよび局所的に優位となる放電電流密度は、好ましくは0.2A/cmを上回るようにパラメータが選択されうる。
【0051】
PVD吹き付けカソードを作動させるために、拡大縮小可能な電力パルス間隔を有する電力パルスを提供する方法を開示した。この方法では、PVD吹き付けカソードは電力消費素子と第1部分カソードとを有し、部分カソード用の最大平均電力負荷は予め決められていて、電力パルス間隔の長さは予め決められていて、この方法は、以下の工程、すなわち、
a)好ましくは少なくともスイッチを入れた後および電力立ち上げ間隔の経過後に、所定の一定の電力出力を行う発電機を提供する工程と、
b)発電機のスイッチを入れる工程と、
c)電力消費素子を発電機と接続する工程であって、その結果、電力消費素子が、電力立ち上げ間隔の間、発電機からの電力で負荷される工程と、
d)電力立ち上げ間隔の経過後に、発電機を電力消費素子から切り離す工程と、
e)第1部分カソードを発電機と接続する工程であって、その結果、第1部分カソードが発電機からの電力で負荷される工程と、
f)第1部分カソードに対応する所定の第1電力パルス間隔の経過後に、発電機を第1部分カソードから切り離す工程と、
を含む。
【0052】
この方法は、第1部分カソードを発電機に接続する際に第2電力立ち上げ間隔が生じず、これが、好ましくは、電力立ち上げ間隔と第1電力パルス間隔とが時間的に重複し、発電機からの電力出力が中断されるには及ばないことにより達成されるように、工程d)と工程e)とが実施されることを特徴とする。
【0053】
本明細書中では、「ダミーカソード」という用語をしばしば用いた。この用語は、現実のカソードである必然性はなく、電力消費素子と同じものであると理解されうる。この電力消費素子にとって特徴的であるのは、被覆されるべきまたは加工されるべき基板のための材料供給部として採用されているのではないという点である。
【0054】
本明細書中では、部分カソードという用語は、複数の電気的に絶縁しているカソードが1つのカソードシステムを形成し、これらのカソードがシステムの部分として存在し、したがって、部分カソードとして称されると理解されうる。
【0055】
この方法は、さらに以下の工程を、すなわち、
g)第2部分カソードを発電機に接続する工程であって、その結果第2部分カソードが発電機の電力で負荷される工程と、
h)第2部分カソードに対応する所定の第電力パルス間隔の経過後に、発電機を第2部分カソードから切り離す工程と、
を含むことができ、
発電機からの電力出力が、中断なしに電力立ち上げ間隔の開始から第2電力パルス間隔の終了まで一貫して存在し続け、かつ第2電力立ち上げ間隔は生じず、かつこれが、好ましくは、第1電力パルス間隔と第2電力パルス間隔とが時間的に重複し、第1電力パルス間隔が、第2電力パルス間隔より時間的に前に開始し、第1電力パルス間隔が、第2電力パルス間隔より時間的に前に終了することにより達成されるように工程f)と工程g)とが実施される。
【0056】
さらなるn個の部分カソードが、工程f)、g)およびh)にしたがって、発電機に順次接続され、かつ発電機から接続が切断されることができ、この場合に、好ましくは、n−1番目の電力パルス間隔が、n番目の電力パルス間隔と時間的に重複する。
【0057】
アーク放電を検出する手段が設けられていることができ、アーク放電検出時には、電力消費素子が発電機に接続され、その時点で接続されている部分カソードが発電機から切り離され、これにより、発電機からの電力出力が中断されない。
【0058】
本明細書中では、アーク放電とは、大概、突然の電圧の崩壊および/または電流の上昇を導く電気絶縁破壊であると理解される。
図1
図2
図3