特許第6236653号(P6236653)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236653
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】焼却灰安定化方法および装置
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/00 20060101AFI20171120BHJP
   B01D 53/64 20060101ALI20171120BHJP
   A62D 3/38 20070101ALI20171120BHJP
   A62D 101/43 20070101ALN20171120BHJP
【FI】
   B09B3/00 304G
   B01D53/64
   A62D3/38ZAB
   A62D101:43
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-103893(P2013-103893)
(22)【出願日】2013年5月16日
(65)【公開番号】特開2014-223586(P2014-223586A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2016年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 研一
(72)【発明者】
【氏名】藤川 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】菱沼 宣是
(72)【発明者】
【氏名】森 純一郎
【審査官】 岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−086087(JP,A)
【文献】 特開2003−200132(JP,A)
【文献】 特開2000−210637(JP,A)
【文献】 特開2005−334764(JP,A)
【文献】 特開2011−056500(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0086930(US,A1)
【文献】 特開2003−200022(JP,A)
【文献】 特開昭51−011068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00
A62D 3/38
B01D 53/64
A62D 101/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却灰に含まれる重金属類を安定化する焼却灰安定化方法であって、
前記焼却灰にオゾンガスを供給すること、
前記オゾンガスを177℃乃至800℃の範囲に加熱して分解すること、
前記オゾンガスの分解により生じた酸素ラジカルと前記焼却灰に含まれる重金属類とを反応させ、前記焼却灰に含まれる重金属類を安定化すること
を含む焼却灰安定化方法。
【請求項2】
前記焼却灰中に予め水分を導入することで、前記オゾンガスの分解によりさらにOHラジカルを生じさせ、前記OHラジカルと前記焼却灰に含まれる重金属類とを反応させることを特徴とする請求項1記載の焼却灰安定化方法。
【請求項3】
焼却灰に含まれる重金属類を安定化する焼却灰安定化方法であって、
焼却炉からの焼却灰を含む排ガスを通過させる管内にオゾンガスを供給すること、
前記管内を加熱して前記オゾンガスが分解される高温領域とすること、
前記オゾンガスの分解により生じた酸素ラジカルと前記焼却灰に含まれる重金属類とを反応させ、前記焼却灰に含まれる重金属類を安定化すること
を含む焼却灰安定化方法。
【請求項4】
焼却灰に含まれる重金属類を安定化する焼却灰安定化装置であって、
前記焼却灰にオゾンガスを供給するオゾンガス供給手段と、
前記オゾンガスを177℃乃至800℃の範囲に加熱して分解する加熱手段と、
前記オゾンガスの分解により生じた酸素ラジカルと前記焼却灰に含まれる重金属類とを反応させ、前記焼却灰に含まれる重金属類を安定化する安定化部と
を有する焼却灰安定化装置。
【請求項5】
前記安定化部は、中空円筒形の筒体と、前記筒体を回転させる回転手段と、前記筒体を前記オゾンガスが分解される温度まで加熱する加熱手段とを有する請求項4記載の焼却灰安定化装置。
【請求項6】
前記安定化部は、焼却炉からの排ガスを通過させる管と、前記管内を前記オゾンガスが分解される高温領域とする加熱手段とを有する請求項4記載の焼却灰安定化装置。
【請求項7】
焼却灰に含まれる重金属類を安定化する焼却灰安定化装置であって、
焼却炉からの焼却灰を含む排ガスを通過させる管と、前記管内にオゾンガスを供給するオゾンガス供給手段と、前記管内を前記オゾンガスが分解される高温領域とする加熱手段とを有し、前記オゾンガスの分解により生じた酸素ラジカルと前記焼却灰に含まれる重金属類とを反応させ、前記焼却灰に含まれる重金属類を安定化する安定化部と
を有する焼却灰安定化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼却灰に含まれる重金属類を安定化する焼却灰安定化方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本国の焼却処理施設より、年間合計約800万トンもの一般廃棄物焼却残渣(焼却底灰、焼却飛灰や溶融飛灰等の焼却灰)が排出されている。これらの焼却灰は、高濃度の重金属類(特に鉛)を含有しているため、薬剤(キレート剤)を用いて不溶化(安定化)処理を施した後、管理型処分場に廃棄処分されているのが現状である。
【0003】
ところが、薬剤処理では、コストがかかること、一度不溶化させたものが、環境変化に伴い再溶出する可能性があることや、環境条件によっては硫化水素ガスが発生すること等の問題がある。そこで、本発明者らは、薬剤に代わる不溶化(安定化)処理方法として紫外線照射処理による方法を提案している(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4952928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、紫外線を用いた安定化方法では、処理日数が2ヶ月近くかかるという課題を有する。そこで、本発明においては、薬剤を使用することなく、かつ、紫外線を用いた安定化方法よりも短期間で安定化することが可能な焼却灰安定化方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の焼却灰安定化方法は、焼却灰に含まれる重金属類を安定化する焼却灰安定化方法であって、焼却灰にオゾンガスを供給すること、オゾンガスの分解により生じた酸素ラジカルと焼却灰に含まれる重金属類とを反応させ、焼却灰に含まれる重金属類を安定化することを含むことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の焼却灰安定化装置は、焼却灰に含まれる重金属類を安定化する焼却灰安定化装置であって、焼却灰にオゾンガスを供給するオゾンガス供給手段と、オゾンガスの分解により生じた酸素ラジカルと焼却灰に含まれる重金属類とを反応させ、焼却灰に含まれる重金属類を安定化する安定化部とを有するものである。
【0008】
これらの発明によれば、焼却灰に供給されたオゾンガスの分解により生じた酸素ラジカルによって、焼却灰に含まれる重金属類が短時間で酸化され、安定化する。
【0009】
ここで、焼却灰中には予め水分を導入することで、オゾンガスの分解によりさらにOHラジカルを生じさせ、OHラジカルと焼却灰に含まれる重金属類とを反応させることが望ましい。これにより、OHラジカルによって焼却灰に含まれる重金属類がさらに短時間で酸化され、安定化する。
【発明の効果】
【0010】
焼却灰にオゾンガスを供給し、オゾンガスの分解により生じた酸素ラジカルと焼却灰に含まれる重金属類とを反応させ、焼却灰に含まれる重金属類を安定化することにより、薬剤を使用することなく、かつ、紫外線を用いた安定化方法よりも短期間で焼却灰を安定化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態における焼却灰安定化装置の概略構成図である。
図2】本発明の第2実施形態における焼却灰安定化装置の概略構成図である。
図3】試験装置の概略構成図を示す図である。
図4】処理時間と鉛(Pb)溶出濃度の関係を示す図である。
図5】処理時間と鉛(Pb)溶出濃度の関係を示す図である。
図6】処理時間と鉛(Pb)溶出濃度の関係を示す図である。
図7】焼却飛灰の含水比を変えた場合の処理時間と鉛(Pb)溶出濃度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施の形態1)
図1は本発明の第1実施形態における焼却灰安定化装置の概略構成図である。図1において、本発明の第1実施形態における焼却灰安定化装置1は、両性金属である鉛(Pb)や亜鉛(Zn)等の重金属類を含む焼却灰Aが内部に保持される中空円筒形の筒体2と、筒体2を回転させる回転手段3と、筒体2内にオゾン(O)ガスを供給するオゾンガス供給手段4と、筒体2をオゾンガスが分解される温度まで加熱する加熱手段5とを有する。
【0013】
回転手段3は、筒体2を中空円筒形の中心軸周りに回転させることによって、筒体2内に保持された焼却灰Aを攪拌するものである。オゾンガス供給手段4により筒体2内に供給されたオゾンガスは、加熱手段5によってオゾンガスが分解される温度(室温〜800℃程度)まで加熱されることで分解され、酸素ラジカルを生じる。筒体2は、このオゾンガスの分解により生じた酸素ラジカルと焼却灰Aに含まれる重金属類とを反応させ、焼却灰Aに含まれる重金属類を安定化する安定化部を構成する。
【0014】
上記構成の焼却灰安定化装置1では、焼却灰Aに供給されたオゾンガスの分解により生じた酸素ラジカルによって、焼却灰Aに含まれる両性金属である鉛(Pb)や亜鉛(Zn)等の重金属類が短時間で酸化され、安定化する。例えば、溶解度の高い鉛化合物(例えば、塩化鉛(PbCl))を酸素ラジカルの強酸化力を利用して酸化させることにより、溶解度の低い鉛化合物(例えば、PbO、PbO等)へと形態変化させ、安定化する。したがって、この焼却灰安定化装置1では、薬剤を使用することなく、かつ、紫外線を用いた安定化方法よりも短期間で焼却灰を安定化することが可能となる。
【0015】
また、焼却灰A中に予め水分を導入し、加水雰囲気中でオゾンガスを分解する構成とすることが望ましい。これにより、さらにOHラジカル(ヒドロキシラジカル)を生じさせ、OHラジカルと焼却灰Aに含まれる重金属類とを反応させ、酸素ラジカルによる効果との相乗効果により、さらに短期間で焼却灰を安定化することが可能となる。第2実施形態においても同様である。
【0016】
なお、本実施形態においては、オゾンガスの分解は加熱によって行っているが、例えば紫外線照射などの他の方法により行うことも可能である。要するに、焼却灰に供給するオゾンガスの分解により酸素ラジカルを生じさせることができれば良く、さらにOHラジカルを生じさせることができればより好ましい。第2実施形態においても同様である。
【0017】
(実施の形態2)
図2は本発明の第2実施形態における焼却灰安定化装置の概略構成図である。図2において、本発明の第2実施形態における焼却灰安定化装置6は、廃棄物Rを焼却する焼却炉10と、焼却炉10から排出される排ガスに含まれる有害物質を除去する排ガス処理部(スクラバー)11とを接続する配管の途中に設けられたものであり、焼却炉10からの排ガスを通過させる管7と、管7内にオゾンガスを供給するオゾンガス供給手段としてのオゾン源8aおよびオゾン供給管8bと、管7内をオゾンガスが分解される高温領域とする加熱手段9とを有する。加熱手段9は、バーナーやヒーターなどの加熱装置を用いることも可能であるが、焼却炉10により生じる予熱を利用することも可能である。
【0018】
焼却炉10から排出される排ガスには、焼却灰としての飛灰Bが含まれており、この飛灰Bを含む排ガスが通過する管7内にオゾンガスを供給し、管7内をオゾンガスが分解される高温領域とすることで、管7は、オゾンガスの分解により生じた酸素ラジカルと飛灰Bに含まれる重金属類とを反応させ、飛灰Bに含まれる重金属類を安定化する安定化部を構成している。
【0019】
これにより、第1実施形態と同様、飛灰Bに供給されたオゾンガスの分解により生じた酸素ラジカルによって、飛灰Bに含まれる重金属類が短時間で酸化され、安定化する。したがって、この焼却灰安定化装置6では、薬剤を使用することなく、かつ、紫外線を用いた安定化方法よりも短期間で焼却灰を安定化することが可能となる。
【実施例】
【0020】
本発明の焼却灰安定化方法による効果について確認試験を行った。図3は試験装置の概略構成図を示している。
【0021】
図3に示すように、この試験装置20は、焼却灰としての飛灰Bを導入し、オゾンガスの分解により生じた酸素ラジカルと飛灰Bに含まれる重金属類とを反応させるテストセル21と、テストセル21を加熱し、オゾンガスを熱分解する加熱手段としてのマントルヒーター22と、テストセル21内に供給するオゾンガスを発生するオゾナイザー(オゾン発生装置)23とを有する。
【0022】
テストセル21は、チャンバー内に攪拌フィン(図示せず。)を備えており、その攪拌により飛灰Bに含まれる重金属類の酸化を促進するようになっている。また、テストセル21の前後の配管30,31にはそれぞれ排気コック24,25を介してオゾン濃度測定器26a,26bが接続されている。また、オゾナイザー23にOガスおよびNガスをそれぞれ供給する配管32,33の途中には、それぞれ流量計27a,27bを備えている。また、テストセル21には、内部の温度を測定する温度計28が設けられている。
【0023】
(1)オゾン濃度特性
図4図6は処理時間と鉛(Pb)溶出濃度の関係を示す図である。Pb溶出濃度の測定は、以下の手順により行った。
(1)安定化処理後の飛灰Bを、環境庁告示第46号法試験に則り、液固比(L/S)=10で純水と混合し、6時間振とうさせた。
(2)その後、回転数3000rpmで遠心分離し、上水を採水し、0.45μmのろ紙を用いてろ過した。
(3)ろ過してできたろ液を、JIS K 0102に準拠し、ICPプラズマ発光分析装置(ICP7000−Ver.2:島津製作所製)を用いて定量した。
【0024】
なお、図4に示す例では、分析しやすくするため、液固比50で検液を作成した。図5は実際に土壌環境基準や埋立基準と比較するために液固比10で検液を作成し、分析した結果である。また、図5には亜鉛(Zn)の溶出濃度についても同様に測定して示している。図6はテストセル21内温度が373℃の場合を示している。
【0025】
図4から分かるように、テストセル21内の温度が177℃の場合には、オゾン濃度500ppmのときのPb安定化効果が300ppmのときよりも大きく、20℃の場合には、同等であった。20℃では、熱分解による酸素ラジカル生成処理限界がオゾン濃度300ppm以下であったと考えられる。一方、177℃では酸素ラジカル生成処理限界が増大したため、オゾン濃度500ppmのときの方が処理能力が高かったと考えられる。
【0026】
また、図5から分かるように、鉛(Pb)と同じ両性金属である亜鉛(Zn)でも同様の効果が得られており、他の重金属類であっても同様に、酸素ラジカルの強酸化力を利用して酸化させることにより、安定化することが可能であると考えられる。
【0027】
また、図6から分かるように、テストセル21内温度373℃、オゾン濃度1400ppmのときが最もPb安定化効果が高かった。酸素ラジカル量が大きくなったこと、および、それに見合う酸素ラジカル生成処理を実現する温度が設定されたためと考えられる。なお、373℃のとき、処理開始時のPb溶出濃度が500ppmのときが大きくなっているが、飛灰Bに含まれるPb濃度が元々不安定であること、温度が高い方がオゾンの分解速度が大きいため、Pb濃度のばらつきの影響が大きく出てしまったと考えられる。
【0028】
(2)温度特性
図4から分かるように、オゾン濃度500ppmで、テストセル21内の温度が177℃のときのPb安定化効果が20℃のときよりも大きかった。さらに、373℃(1400ppm)の方がPb安定化効果が大きく、温度が高いほど、オゾンガスの熱分解(酸素ラジカル生成量)が大きくなることが確認できた。なお、温度が高すぎると酸素ラジカルの寿命が短くなってしまうため、上限としては800℃程度がPb安定化には適当であると考えられる。
【0029】
(3)加水処理
図7は焼却飛灰の含水比を変えた場合の処理時間と鉛(Pb)溶出濃度の関係を示す図である。図7から分かるように、水分が含まれている方が、Pb安定化への高速処理が可能であった。オゾンガスの熱分解の際、水分雰囲気にあるため、酸素ラジカルの他にOHラジカルも生成され、このOHラジカルがPb安定化に寄与していると考えられ、処理速度も向上している。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、焼却灰に含まれる重金属類を安定化する焼却灰安定化方法および装置として有用であり、特に、薬剤を使用することなく、かつ、紫外線を用いた安定化方法よりも短期間で安定化することが可能な焼却灰安定化方法および装置として好適である。
【符号の説明】
【0031】
1,6 焼却灰安定化装置
2 筒体
3 回転手段
4 オゾンガス供給手段
5,9 加熱手段
7 管
8a オゾン源
8b オゾン供給管
10 焼却炉
11 排ガス処理部
20 試験装置
21 テストセル
22 マントルヒーター
23 オゾナイザー
24,25 排気コック
26a,26b オゾン濃度測定器
27a,27b 流量計
28 温度計
30,31,32,33 配管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7