【実施例】
【0024】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、自動二輪車10は、車体フレーム11と、この車体フレーム11を覆う車体カバー12(「カウル12」とも言う。)とを備える。車体フレーム11と車体カバー12を合わせて車体13を構成する。車体フレーム11は、ヘッドパイプ15と、このヘッドパイプから後方へ延びるメインフレーム16と、このメインフレーム16の後端から下方に延び後輪懸架部22を支持するピボットプレート17と、このピボットプレート17から斜め後上方へ延び、次いで、後方へ延びているリヤフレーム18とを主要素とする。ピボットプレート17の下部に、運転者が足を置く足載せ19が取付けられている。
【0025】
車体フレーム11に、駆動源としてのエンジン31が懸架される。車体13を構成するリヤフレーム18には、運転者が跨って座るシート32が取付けられ、このシート32の車両前方に前輪操向部21が配置される。
【0026】
前輪操向部21は、ヘッドパイプ15に回動自在に設けられ前輪23を支えるフロントフォーク25と、このフロントフォーク25の上端に取付けられ運転者が握って操向操作を行うハンドルバー26とからなる。ハンドルバー26の後方にシート32が配置されている。
【0027】
後輪懸架部22は、ピボットプレート17に車幅方向水平に渡されるピボット軸27と、このピボット軸27に前端が回動自在に取付けられ、後端に後輪24を回転自在に支えるスイングアーム28と、このスイングアーム28と車体フレーム11の間に渡されるクッションユニット29とを有する。
【0028】
ハンドルバー26の車両後方で且つシート32の車両前方にて、車体フレーム11に、エアバッグ33(以下、「エアバッグモジュール33」とも言う。)が備えられている。このエアバッグモジュール33は、車両前方からの衝撃を検知し運転者の前方に膨張展開し運転者を拘束する。
【0029】
エアバッグ装置50は、エアバッグモジュール33と、このエアバッグモジュール33に備えられているインフレータ43(
図2参照)を制御する制御部48と、車体13にかかる衝撃を検出するセンサ部49と、制御部48に電源を供給する図示せぬバッテリとを主要素とする。
【0030】
次に、エアバッグモジュール33の詳細な構造について説明する。
図2に示すように、エアバッグモジュール33は、車体13(
図1参照)に取付けられ箱状を呈するケーシング41と、このケーシング41の底42に取付けられ膨張ガスを発生するインフレータ43と、ケーシング41の底42に取付けられインフレータ43から放出された膨張ガスによって膨張展開するエアバッグ60とからなる。エアバッグ60の入口部44及びインフレータ43は、締結ステー45及び締結ねじ46を介してケーシング41の底42に共締めされている。エアバッグ60は、インフレータ43に接続され、インフレータ43から放出される膨張ガスが入る入口部44を有し、この入口部44がケーシング41の底42に固定される。
【0031】
ケーシング41は、底42と、この底42から立ち上げ収容したエアバッグ60の周囲を囲う前後の壁部53F、53R及び左右の壁部52L、52R(図奥側の符号52Lのみ示す。)と、前後の壁部53F、53R及び左右の壁部52L、52Rを上方から覆う天井部(カバー部材55)とからなる。カバー部材55は、ケーシング41の開口部40を塞ぐものである。すなわち、ケーシング41の上方は、カバー部材55で覆われる。カバー部材55と、前の壁部53F及び左右の壁部52L、52Rの間は、エアバッグ60それ自体が膨張展開したときに、カバー部材55が図矢印a方向に外れるように脆弱部56が形成されている。本実施例では、カバー部材55は、ケーシング41に含まれているが、ケーシング41と別体に構成し、車体カバー12(
図1参照)で兼ねる構造とすることは差し支えない。若しくは、カバー部材と車体カバーとの2重構造とすることも差し支えなく、その構造を適宜変更することは差し支えない。
【0032】
エアバッグ60は、折り畳まれる向きが異なる3つのロール部を有する。3つのロール部は、エアバッグ60の入口部44から車両前方に延びた後、折曲部59で折り畳まれて他方向となる車両後方に延びるようにしてロールされる入口ロール部63と、この入口ロール部63の先63aに連続して設けられ入口ロール部63とは反対方向となる一方向にロールされる第1ロール部61と、この第1ロール部61の先61aに連続して設けられ第1ロール部61とは反対方向となる他方向にロール状に折り畳まれる第2ロール部62とを有する。具体的には、入口ロール部63は、その最外部が車両後方向きにロールされている。説明の便宜上、図に、入口ロール部63、第1ロール部61、第2ロール部62の間を区切る境界線を記載した。入口ロール部63、第1ロール部61及び第2ロール部62は、インフレータ43と共にケーシング41に収容される。
【0033】
次に、インフレータ43の近傍に、エアバッグ60のベントホール64が設けられる点等について説明する。
図3に示すように、エアバッグ60が膨張展開を始めたときに、カバー部材55の前側に設けた脆弱部56が外れ、カバー部材55の後側を中心として前上方へ開くように構成されている。エアバッグ60は、エアバッグ内の膨張ガスを排出するベントホール64を有し、このベントホール64は、エアバッグ60の入口部44に近いインフレータ43の近傍に設けられている。ベントホール64は、エアバッグ60が膨張展開したときに、車体側面視で、ケーシング41の近傍に位置する。ベントホール64は、車幅方向左右に1つづつ設けられている。
【0034】
図2にて、エアバッグ60は、インフレータ43の上方に収容され、入口ロール部63に連続して設けられる第1ロール部61は、折り畳まれた状態のエアバッグ60の後面60dを構成すると共に、この後面60dから連続してエアバッグ60の上面60aを構成している。
【0035】
次に、ロール方向を複数有するエアバッグとすることで、エアバッグの膨張展開がより円滑に行われることを説明する。
図4(a)〜(c)は、実施例に係るエアバッグの膨張展開作用を説明する図であり、
図4(d)〜(f)は、比較例に係るエアバッグの膨張展開作用を説明する図である。
図4(a)〜(c)及び
図4(d)〜(f)は、各々、同一構造のエアバッグが膨張展開する過程を説明するものである。
【0036】
図4(a)の実施例に示すように、エアバッグ60の膨張展開初期では、インフレータ43から放出される膨張ガスによって、エアバッグ60は、先ず、ケーシング41(
図2参照)から飛び出した後、入口ロール部63で車両前方に膨張展開する。エアバッグ60の膨張展開初期で、エアバッグ60は、入口ロール部63で車両前方へ膨張展開されるので、エアバッグ60が運転者Rに干渉することが抑えられる。
【0037】
図4(b)及び
図4(c)の実施例に示されているように、エアバッグの膨張展開中期及び後期では、主に、第2ロール部62(
図2参照)で斜め上方へ展開する。エアバッグ60は、第1ロール部61(
図2参照)とはロール方向を反対にした第2ロール部62で斜め上方へ膨張展開されるので、スクリーン71やメータパネル72との干渉が抑えられる。
【0038】
エアバッグ60は、ケーシング41(
図2参照)から車両前方へ膨張展開し、少なくともその一部がハンドルバー26を越えて展開する。エアバッグ60の一部は、ハンドルバー26を越えて前方に展開するので、エアバッグ60が大きく膨らむことになる。大きく膨らんだエアバッグ60により、乗員(運転者R)を拘束する機能を高められる。
【0039】
カウル12(
図1参照)やメータパネル72との干渉が抑えられることで、エアバッグ60を円滑に膨張展開させることができ、エアバッグ60をより好適に運転者Rに接触させることができる。つまり、本発明では、第1ロール部61と第2ロール部62との組合わせで、エアバッグ60の展開方向を制御するようにした。
【0040】
次に比較例について説明する。
図4(d)の比較例に示すように、エアバッグ60Bの膨張展開初期では、インフレータ43から放出される膨張ガスによって、エアバッグ60Bは、先ず、ケーシング41から飛び出した後、膨張ガスは、エアバッグ60Bの入口部44(
図2参照)から入り、入口ロール部63の折曲部で車両前方に膨張展開し、その後、ロールの外側から内側へと入り、エアバッグ60Bは、入口部44の側から順次膨張展開する。
【0041】
図4(e)及び
図4(f)の比較例で順次示されているように、エアバッグ60Bの膨張展開中期及び後期では、主に、第1ロール部61Bのロール方向が一方向に折り畳まれ、途中でロール方向が他方向に変わる形態ではないため、エアバッグ60Bは、膨張展開したときに、一方向に拡がり易い。展開方向の延長線上に、カウル12(
図1参照)やメータパネル72が設けられていると、エアバッグ60Bの膨張展開の途中でカウル12やメータパネル72に干渉する可能性がある。
【0042】
すなわち、
図4(d)〜(f)において、エアバッグ60Bのロール方向が、一方向に折り畳まれている場合には、エアバッグ60Bの展開方向が一方向に拡がり易い。すると、エアバッグ60Bの膨張展開の最後に、エアバッグ60Bがカウル12やメータパネル72に干渉する可能性があり、エアバッグ60Bを円滑に展開させる点で改良の余地があった。
【0043】
この点、本発明では、
図4(c)に示すように、第1ロール部61と第2ロール部62の間でエアバッグ60のロール方向を変えたので、ロール方向が一方向に折り畳まれている場合に比べ、エアバッグ60が膨張展開する方向も拡がる。このため、エアバッグ60を周囲全体にバランスよく膨張展開し易くできる。エアバッグ60は、周囲全体に膨張展開し易くなるため、エアバッグ60がカウル12やメータパネル72等に干渉し難くなる。結果、エアバッグ60をより好適に展開させることが可能になる。
【0044】
図4(b)と
図4(e)とを比較したとき、ロール方向を変えた
図4(b)の方が、Vb方向だけでなく、Wb方向にも展開している。同様に、
図4(c)と
図4(f)とを比較したとき、ロール方向を変えた
図4(c)の方が、Vc方向だけでなく、Wc方向上下に展開している。
【0045】
次に、ベントホール64の位置を変更することによって、エアバッグが完全に展開できなかった場合でも、運転者Rによってベントホール64が影響を受け難くでき、このようなエアバッグ60によって運転者Rを拘束しつつ緩やかに減速できることを説明する。
【0046】
図5(a)に示すように、エアバッグ60は、エアバッグ60内の膨張ガスを排出するベントホール64を有し、このベントホール64は、インフレータ43(
図3参照)の近傍に設けられている。ベントホール64がインフレータ43の近傍に設けられていることで、インフレータ43から離れた位置にて、ベントホール64がエアバッグ60に設けられている場合に比べて、エアバッグ60が開放する初期にベントホール64が外に出現することになる。
【0047】
これにより、エアバッグ60が膨張展開する初期に、インフレータ43の近傍に設けたベントホール64からエアバッグ60内を膨らませる膨張ガスを排出できるので、エアバッグが完全に展開できなかった場合であっても、運転者Rを好適に拘束させることができる。
【0048】
図3にて、ベントホール64は、エアバッグ60が膨張展開したときに、ケーシング41の近傍に位置する。ベントホール64は、膨張展開したときの初期に、ケーシング41の外側に出現することになる。これにより、エアバッグ60が膨張展開する初期に、ケーシング41の近傍に設けたベントホール64からエアバッグ60内を膨らませる膨張ガスを排出できるので、エアバッグ60が完全に展開できなかった場合であっても、運転者を好適に拘束させることができる。
【0049】
ベントホール64は、エアバッグ60が膨張展開したときに、ケーシング41の開口部40の近傍に位置する。ベントホール64は、膨張展開の初期に、ケーシング41の外側に出現する。これにより、エアバッグ60が膨張展開する初期に、ケーシング41の外側に出現したベントホール64からエアバッグ内を膨らませる膨張ガスを排出できるので、エアバッグ60が完全に展開できなかった場合であっても、運転者Rを好適に拘束させることができる。
【0050】
図5(a)は実施例に係るエアバッグ60が膨張展開完了時の斜視図であり、
図5(b)は比較例に係るエアバッグ60Bが膨張展開完了時の斜視図である。
図5(b)の比較例に示すように、エアバッグ60Bは、膨張展開したときに、運転者に当接する当接面66と左右の側面67L、67Rとを有し、当接面66の車幅方向左右に、膨張展開したエアバッグ60Bを所定位置に支持する支持ベルト68L、68Rが設けられている。支持ベルト68L、68Rは、車体13とエアバッグ60Bの当接面の間に渡されている。
【0051】
ベントホール64は、左右の側面67L、67R(手前側の67Lのみ示す。)の上部に設けられている。この場合に、ベントホール64は、入口部44から離れた位置に設けられるので、エアバッグ60Bが完全に展開できなかった場合には、膨張展開したエアバッグ60Bのベントホール64が出現し難い可能性がある。そうすると、運転者を拘束はできるが、運転者をより適切に減速させるという点で改良の余地があった。
【0052】
図5(a)の実施例に示すように、エアバッグ60及び支持ベルト68L、68Rの構造は、
図5(b)と同じであるが、ベントホール64は、左右の側面67L、67R(手前側の67Lのみ示す。)の下部に1つづつ設けられている。ベントホール64は、入口部44(
図2参照)に近いケーシング41(
図2参照)の近傍に設けられるので、エアバッグ60が完全に展開できなかった場合においても、膨張展開したエアバッグ60のベントホール64が出現し易い。従って、運転者を拘束することができると共に、運転者Rを緩やかに受け止める、いわゆる、減速機能を高めることが可能になる。
【0053】
図5にて、本発明によれば、エアバッグ60のロール方向を複数もたせることに加えて、ベントホール64の位置をインフレータ43(
図3参照)の近傍に設けたので、運転者Rの拘束機能に加えて、運転者Rを緩やかに受け止める、いわゆる、減速機能を高めることができる。
【0054】
尚、本発明は、実施の形態では自動二輪車に適用したが、鞍乗型三輪車にも適用可能であり、一般の鞍乗型車両に適用することは差し支えない。また、各ロールの長さ、順序等を変えることは差し支えない。