特許第6236661号(P6236661)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6236661ボンド磁石から磁性体粒子を回収する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236661
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】ボンド磁石から磁性体粒子を回収する方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/00 20060101AFI20171120BHJP
   H01F 1/08 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   H01F41/00 Z
   H01F1/08 130
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-232037(P2013-232037)
(22)【出願日】2013年11月8日
(65)【公開番号】特開2015-95470(P2015-95470A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年10月31日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 廃棄物資源循環学会誌 第24巻第5号 第379−388頁 発行所 (一社)廃棄物資源循環学会 日本プラスチック工業連盟誌 プラスチックス 第64巻第11号 第28−33頁 発行所 日本工業出版株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513281965
【氏名又は名称】株式会社ジンテク
(74)【代理人】
【識別番号】100193046
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 正彦
(72)【発明者】
【氏名】水口 仁
(72)【発明者】
【氏名】塚田 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏雄
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−198878(JP,A)
【文献】 特開2011−124394(JP,A)
【文献】 特開2005−139440(JP,A)
【文献】 特開2012−211223(JP,A)
【文献】 特開2013−146649(JP,A)
【文献】 特開2007−125459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00−5/00
H01F 1/00−1/117
1/40−1/42
41/00−41/04
41/08
41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボンド磁石から磁性体を粉末状態で回収する方法であって、
ボンド磁石の表面に酸化物半導体を接触させ、酸素の存在下において、前記酸化物半導体が真性半導体領域となる温度に前記ボンド磁石及び前記酸化物半導体を加熱することにより、前記ボンド磁石中のプラスチック成分を分解する第1ステップと、
前記プラスチック成分が除去されて磁性体粉末粒子が焼結された状態となっているボンド磁石を希酸と接触させ、粒子界面を酸で溶解することにより焼結状態を解除し、磁性体を粉末微粒子として回収する第2ステップを含むことを特徴とする回収方法。
【請求項2】
前記酸化物半導体は鉄、ニッケル、コバルトのいずれかを含む金属または合金の酸化物であることを特徴とする請求項1記載の回収方法。
【請求項3】
前記ボンド磁石中の前記磁性体は希土類鉄系磁石であることを特徴とする請求項1ないし2に記載の回収方法。
【請求項4】
前記酸は塩酸であることを特徴とする請求項1ないし3に記載の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボンド磁石からプラスチックを除去し、磁性体を粉末粒子状態で回収する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者の一人は有機物、ポリマー、ガス体等の被処理物を分解する方法として、半導体を真性電気伝導領域となる温度に加熱して電子・正孔キャリアーを大量に発生させ、被処理物を強力な酸化力を持つ正孔に接触させ、酸素の存在下において被処理物を完全分解する処理方法(半導体の熱活性法)について提案した(特許文献1、非特許文献1)。この方法は半導体を350−500℃に加熱すると発現する酸化力により、ポリマー等から結合電子を奪い、ポリマー内に不安定なカチオン・ラジカルを形成させる。次に、このラジカルが被分解物であるポリマー内を伝播することによりポリマー全体を不安定化し、ポリマーは自滅するような形でエチレンのような小分子に裁断化(ラジカル開裂)され、空気中の酸素と反応して水と二酸化炭素に完全分解される。つまり、分解過程は正孔の酸化力によるラジカルの形成、ラジカル開裂によるフラグメント化、そして裁断化された分子と酸素との完全燃焼の3つから構成される。本手法はポリマーの厚味が2cm以上でもラジカルの伝播が起こり、被分解物の内部まで分解効果が及ぶのが特徴である。
また、繊維強化プラスチックに同じ方法を用いて、プラスチックを完全分解し、カーボン・ファイバーやグラス・ファイバーをほぼ無傷で完全回収する方法を提案した(特許文献2、非特許文献2)。この方法はコストの高いカーボン・ファイバー等の繊維を切断するなどのダメージを与えることなくグラス・ファイバーを回収して再使用することができるので、非常に有用であり、グラス・ファイバーに限らず、無機物とポリマーを混合した複合材料から無機物だけを回収できる普遍性のある方法である。
【0003】
ところで、ボンド磁石は永久磁石粉末をプラスチック材料からなる結合剤で固めて成形された複合材料磁石であり、加工が容易であるため現在広く使用されている。また、SmFeNのように高温焼結の際に組成が変化するような材料に対しては比較的低い温度で成型を行うボンド磁石にメリットがある。しかし、磁石の性能を上げるためには磁性粉の充填密度が重要であり、通常はエポキシ樹脂系のNdFeBで97%、またポリアミド樹脂(PPS樹脂)では93%程度である。永久磁石としては典型的には希土類鉄磁石が磁石として強力であるため大量に使用されている。しかし、希土類金属は高価であり、産出国が限られていることから今後の安定供給に不安があるとされているため、使用済となったボンド磁石、あるいは磁石の製造過程で不良品となった廃材から希土類鉄磁石を回収して再使用したいとの要望が強くあった。
【0004】
従来の希土類金属の回収方法として、通常のチタン精錬等で用いられる方法が一般的である。前処理行程としてボンド磁石を不活性ガス雰囲気下において900℃程度で焙焼することによりエポキシ樹脂を炭化し、その後、擂潰機等で粉体化する。高濃度の炭素を含有する粉体、さらには高沸点の酸化物となった希土類は磁気的特性の著しい劣化がある。そのため、900℃程度の温度で、塩素ガス、あるいは熱塩酸と反応させ、まず塩化物とし、その後、酸化と還元のプロセスを経て希土類金属を得ている。特開2003−073754号公報には、ボンド磁石に前処理工程として、不活性ガス雰囲気下において昇温しエポキシ樹脂を熱分解する類似の方法が記載されている。しかし、この方法によれば、多くの煩雑なプロセスを要するため回収コストが高くなってしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4517146号
【特許文献2】特開2013−146649号公報
【特許文献3】特開2003−073754号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T. Shinbara, T. Makino, K. Matsumoto, and J. Mizuguchi: Complete decomposition of polymers by means of thermally generated holes at high temperatures in titanium dioxide and its decomposition mechanism, J. Appl. Phys. 98, 044909 1−5 (2005)
【非特許文献2】水口 仁:半導体の熱活性によるFRPの完全分解とリサイクル技術、加工技術 47巻, 37−47 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の問題点に鑑み、本発明は多くのプロセスを要することなく、安価なコストでボンド磁石から永久磁石のみを磁性体粉末の状態で回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ボンド磁石から磁性体を粉末状態で回収する方法であって、ボンド磁石の表面に酸化物半導体を接触させ、酸素の存在下において、前記酸化物半導体が真性半導体領域となる温度に前記ボンド磁石及び前記酸化物半導体を加熱することにより、前記ボンド磁石中のプラスチック成分を分解する第1ステップと、前記プラスチック成分が除去されて磁性体粉末粒子が軽度に焼結された状態となっているボンド磁石に対して希酸と接触させ、粒子界面の焼結部分を溶解することにより磁性体を粉末微粒子として回収する第2ステップを含むことを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ボンド磁石から永久磁石のみを磁性体粉末の状態で回収できるので、多くのプロセスを必要とせず、安価な方法で容易に永久磁石を回収できる。回収した永久磁石はボンド磁石の原材料である磁性体粉末の特性及び形状を保持しているので、容易にボンド磁石その他の用途に再使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1はボンド磁石の状態におけるSmとFeの比を蛍光X線分析装置で測定した結果である。
図2図2は酸化物半導体としてCrまたはα−Feを用いて回収した磁性体についてSmとFeの比を蛍光X線分析装置で測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0011】
本発明の方法はボンド磁石からプラスチックを分解する第1ステップと、プラスチックが除去されたボンド磁石から永久磁石を磁性体粉末として回収する第2ステップからなる。ボンド磁石として、日亜化学社製希土類鉄系ボンド磁石(商品名:J16:樹脂PA12)を用いた。永久磁石は組成SmFeN/NdFeBからなり、射出成形法により作製されている。大きさは直径10mm、高さ7mmの円柱形状である。このボンド磁石を酸化物半導体である酸化クロム(Cr)の分散液に浸してボンド磁石の外面に酸化クロムの被膜(約5ミクロンメートル)を形成した後、この被処理物を加熱炉の中に置き、空気を毎分50L程度の流量で流しながら500℃の高温化で20分処理した。室温まで冷却して取り出した被処理物のバインダー(結合剤)であるポリマーは完全に水と炭酸ガスに分解されて除去されているが、表面に酸化クロムの被膜が残存している。また、希土類鉄系磁性体粉末の集合体が元のボンド磁石の形状を保っており、ハンマーでたたいても容易に形状が崩れることがない。これは次のような理由によると考えられる。実施例1に用いたボンド磁石は磁性体粒子の間をポリマー・バインダー(結合剤)で固めて成形されているが、高い磁気特性を得るために磁性体粉末の充填率は極めて高く、換言すればバインダーの割合は低いために、僅かなバインダーを介して接している磁性体粒子同士はボンド磁石を成形する過程において軽く焼結した状態にある。そのためポリマー・バインダーが完全に除去された後においても元のボンド磁石の形状を保っている。磁性体を粉末状態で回収するためには以下の第2ステップが必要となる。
【0012】
第2ステップではポリマーが除去された磁性体粉末の集合体(被分解物)を10%程度の希塩酸溶液に浸した。浸漬した直後は被分解物の表面から僅かな気泡しか発生しないが、約1分後には気泡の発生量が急激に増大し、集合体表面に残存していた酸化クロムはすぐに剥離した。集合体の表面はザラザラになり、指で触れると磁性体粉体がとれるようになった。約3分間放置後に水洗して集合体を回収した。回収した集合体はまだ形状を保っていたが、乳鉢ですりつぶすことにより容易に磁性体粉末状態となった。その後乾燥させてさらさらの磁性体粉末として回収した。被分解物を希塩酸溶液から取り出してから磁性体粉末として回収するまでの間の処理は、不活性ガス(N)中で行って希土類元素の酸化を抑制するようにした。この粉末は別途用意した磁石につくことから、元の磁性体としての特性を保っていると考えられる。
【0013】
軽く焼結した磁性体粒子界面は希塩酸と以下のような化学反応を起こして、焼結状態は消滅し、焼結体は粉体化されると考えられる。
2Sm + 6HCl → 2SmCl + 3H
2Nd + 6HCl → 2NdCl + 3H
Fe + 2HCl → FeCl + H
生じた水素はガスとなって散逸し、塩化物は水洗により除去されるので、磁性体粒子はその組成にほとんど変化を生じることなく、焼結していない磁性体粉末状態として残ることになる。
Sm、Nd、Feの表面が酸化されているような場合(例えばSm,Nd,Fe)には反応は金属状態に比べると1−2桁程度緩慢であるが、金属が露出すると反応が急激に進む。磁性体集合体のバルクではポリマーが除去され空洞のチャンネルが形成されているので、このチャンネルを通して、希塩酸が容易に粒子間に浸透し焼結部を溶解する。バルクではSmやFeが酸化されていないため、反応速度は速い。
【0014】
このように第1ステップに続いて第2ステップを実施することにより、ボンド磁石から容易に磁性体を粉末状態で回収することができる。
【0015】
実施例1では第1ステップで酸化物半導体としてCrを用いたが、この他に利用できる酸化物半導体は広範囲にわたり、特にFe、NiO、TiO等の酸化物半導体は安価で毒性がなく使いやすいので好適である。ボンド磁石の外面に被膜として付着した酸化物半導体は微量ではあるが、最終的に回収される磁性体粉末に混じってしまう可能性があるため、希土類鉄系磁石の成分の1つである金属酸化物半導体が好ましい。この例としては特にα−Fe(ヘマタイト、ベンガラ)をはじめ、CoO、NiOなどの強磁性遷移金属の酸化物も有望な酸化物半導体である。また第2ステップにおいて希塩酸を用いたが他の酸、たとえば硫酸や硝酸の希薄溶液であってもよい。また濃度は適宜調製されてよい。濃塩酸、濃硫酸等では往々にして金属表面に不働態が形成され、反応の進行を妨げることがある。
【実施例2】
【0016】
上記実施例1におけるCrの代わりに、酸化物半導体としてα−Feを用い、同様のステップで実施した。実施例1と同様の回収結果が得られた。
【実施例3】
【0017】
ボンド磁石として日亜化学社製ボンド磁石(K12:樹脂PPS)を用いた以外は実施例1と同様のステップで実施した。ボンド形状は実施例1のJ16(直径10mm、高さ7mmの円柱形状)と同じである。成分はSmFeN/NdFeBである。実施例1と同様の回収結果が得られた。
【実施例4】
【0018】
上記実施例3におけるCrの代わりに、酸化物半導体としてα−Feを用い、実施例1と同様のステップで実施した。実施例1と同様の回収結果が得られた。
【実施例5】
【0019】
ボンド磁石として住友金属鉱山株式会社製ボンド磁石(Wellmax S3A−14MH)を用いた以外は実施例1と同様のステップで実施した。ボンド磁石は直径20mm、高さ13mmの円柱状である。組成はSmFeNである。実施例1と同様の回収結果が得られた。
【実施例6】
【0020】
上記実施例5で用いたCrの代わりに、酸化物半導体としてα−Feを用い、実施例1と同様のステップで実施した。実施例1と同様の回収結果が得られた。
実施例5及び実施例6に用いられた磁性体の主要構成成分であるSmとFeの比が、磁性体の回収前後でどの程度変化するかを蛍光X線分析装置で調べた。図1には住友金属鉱山株式会社製ボンド磁石(Wellmax S3A−14MH)の処理前の状態における10の試料(No.1−10)について10箇所ずつSmとFeの比を測定し、平均値と標準偏差値を示した。また、図2には酸化物半導体としてCrまたはα−Feを用いて回収した磁性体について10箇所ずつSmとFeの比を測定し、平均値と標準偏差値を示した。回収前後のSmとFeの比はエラーバーで示した標準偏差値の範囲内で一致しており、有意の差は認められない。これは回収した磁性体が元の磁性体の特性を保持している可能性を示唆しているものである。
図1
図2