(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
以下の(1)〜(3)から選択されるいずれかのペプチド又は該ペプチドを発現し得る発現ベクターを含む、癌組織又はそれに伴う新生血管を検出するための画像診断用プローブ:
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列を含み、且つ血管新生促進活性を有する、100アミノ酸以下の長さのペプチド;
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ血管新生促進活性を有する、100アミノ酸以下の長さのペプチド;及び
(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列において1〜5個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含み、且つ血管新生促進活性を有する、100アミノ酸以下の長さのペプチド。
以下の(1)〜(3)から選択されるいずれかのペプチドの発現を特異的に抑制するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現する発現ベクター、或いは(1)〜(3)から選択されるいずれかのペプチドを特異的に認識し、且つその血管新生促進活性機能を阻害する抗体を含む、癌転移抑制剤:
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列を含み、且つ血管新生促進活性を有する、100アミノ酸以下の長さのペプチド;
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ血管新生促進活性を有する、100アミノ酸以下の長さのペプチド;及び
(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列において1〜5個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含み、且つ血管新生促進活性を有する、100アミノ酸以下の長さのペプチド。
癌細胞を含む非ヒト哺乳動物に対し、以下の(1)〜(3)から選択されるいずれかのペプチド又は該ペプチドを発現し得る発現ベクターの有効量を投与することを含む、該非ヒト哺乳動物における癌転移の促進方法:
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列を含み、且つ血管新生促進活性を有する、100アミノ酸以下の長さのペプチド;
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ血管新生促進活性を有する、100アミノ酸以下の長さのペプチド;及び
(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列において1〜5個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含み、且つ血管新生促進活性を有する、100アミノ酸以下の長さのペプチド。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、ヒトの癌転移マーカー、血管新生促進剤等として有用なペプチドを提供する。該ペプチド(以下、「本発明のペプチド」と称する場合がある)は、
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列;
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;又は
(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列
を含む。
【0020】
配列番号1で示されるアミノ酸配列は、ヒトフィブリノゲンα−E鎖(配列番号3)の582〜621位の断片に相当する。しかしながら、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるヒトフィブリノゲンα−E鎖の断片の存在はこれまで全く知られておらず、新規なペプチドである。
【0021】
上記(2)のペプチドに含まれるアミノ酸配列は、配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、更に好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列である。
【0022】
ここで「同一性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する、同一アミノ酸残基の割合(%)を意味する。
【0023】
本明細書におけるアミノ酸配列の同一性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST-2(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(マトリックス=BLOSUM62;ギャップオープン=11;ギャップエクステンション=1;x_ドロップオフ=50;期待値=10;フィルタリング=ON)にて計算することができる。アミノ酸配列の同一性を決定するためのアルゴリズムとしては、例えば、Karlin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993) に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム(version 2.0) に組み込まれている(Altschul et al., Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402 (1997))]、Needleman et al., J. Mol. Biol., 48:444-453 (1970) に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、Myers and Miller, CABIOS, 4: 11-17 (1988) に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム (version 2.0) に組み込まれている]、Pearson et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448 (1988) に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられるが、それらに限定されない。
【0024】
上記(3)のペプチドに含まれるアミノ酸配列は、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列、例えば、(1)配列番号1に示されるアミノ酸配列中の1又は複数(好ましくは1〜10個、好ましくは1〜数(2〜5)個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(2)配列番号1に示されるアミノ酸配列に1又は複数(好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜数(2〜5)個)のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列、(3)配列番号1に示されるアミノ酸配列に1又は複数(好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜数(2〜5)個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(4)配列番号1に示されるアミノ酸配列中の1又は複数(好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜数(2〜5)個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、または(5)上記(1)〜(4)の変異が組み合わされたアミノ酸配列(この場合、変異したアミノ酸の総和が、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜数(2〜5)個)である。
【0025】
好ましい態様において、本発明のペプチドは、血管新生促進活性を有する。血管新生促進活性には、血管新生のない状態から血管新生を生じさせる活性(血管新生誘導活性)及び既にある血管新生を亢進する活性(血管新生亢進活性)が包含される。血管新生促進活性は、評価対象のペプチドをニワトリの有精卵の中へ注入して、胚が発生可能な条件下でインキュベートし、孵化前に胚を採取し、コントロール群(ペプチド非注入群)と比較して、新生血管の形成が亢進しているか否かを評価することにより決定することができる。
【0026】
本発明のペプチドは、ペプチドの検出や精製等を容易にならしめるためのタグを含んでいてもよい。タグとしては、Flagタグ、ヒスチジンタグ、c-Mycタグ、HAタグ、AU1タグ、GSTタグ、MBPタグ、蛍光タンパク質タグ(例えばGFP、YFP、RFP、CFP、BFP等)、イムノグロブリンFcタグ等を挙げることが出来る。付加配列の位置は、本発明のペプチドが有する血管新生促進活性を損なわない限り特に限定されないが、好ましくは、該ペプチドの末端(N末端又はC末端)である。
【0027】
本発明のペプチドの長さは、血管新生促進活性を有する限り特に限定されないが、通常1000アミノ酸以下、好ましくは500アミノ酸以下、100アミノ酸以下、80アミノ酸以下、70アミノ酸以下、60アミノ酸以下、55アミノ酸以下、54アミノ酸以下、53アミノ酸以下、52アミノ酸以下、51アミノ酸以下、50アミノ酸以下、49アミノ酸以下、48アミノ酸以下、47アミノ酸以下、46アミノ酸以下、45アミノ酸以下、44アミノ酸以下、43アミノ酸以下、42アミノ酸以下、41アミノ酸以下、又は40アミノ酸以下である。
【0028】
本発明のペプチドは、最も好ましくは配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む。該ペプチドの長さは、好ましくは53アミノ酸以下である。配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むペプチドの好適な態様としては、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号4で示されるアミノ酸配列の部分配列からなり、且つ配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むペプチド、及び配列番号5で示されるアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。この配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを「本発明のペプチド1」と称する。
【0029】
本発明はまた、本発明のペプチド1を転移マーカーとして、癌患者由来の生体試料におけるその発現を検出することによる、該患者における転移の診断方法を提供する。ここで「転移の診断」とは、既に転移が起こっているか否かの判定だけでなく、まだ転移は起こっていないが、近い将来起こる可能性が高いか否かを判定することを包含する意味で使用される。
【0030】
本発明の診断方法の被検対象となり得る癌患者は、癌の原発巣に特に制限はない。該方法は、転移を生じ得るあらゆる癌(例:乳癌、肺癌、前立腺癌、甲状腺癌、腎癌、胃癌、肝癌、子宮癌、大腸癌、皮膚癌など)に罹患したヒトに適用可能であるが、特に乳癌、肝癌、胃癌、および皮膚癌患者に対して好ましく適用される。患者の年齢、性別等は何ら限定されない。
【0031】
癌の転移巣についても特に制限はない。本発明の診断方法は、転移巣となり得るあらゆる組織(例、骨、骨髄、リンパ節、肺、肝臓、皮膚、脳など)への転移について適用可能である。
【0032】
被検試料となる患者由来の生体試料は特に限定されないが、患者への侵襲が少ないものであることが好ましく、例えば、血液、血清、血漿、唾液、粘膜、涙などの人から分泌されるものや、生検から採取されるものが挙げられる。
【0033】
血清や血漿を用いる場合、常法に従って患者から採血し、液性成分を分離することにより調製することができる。検出対象である本発明のペプチドは分子量約5,800であるので、必要に応じて、スピンカラムなどを用いて、予め高分子量の蛋白質画分などを分離除去しておくこともできる。また、後述するように、検出対象を本発明のペプチドをコードするmRNAとする場合には、採取した血液から常法を用いて全RNAもしくはポリ(A)+RNA画分を抽出・精製しておいてもよい。
【0034】
生体試料における本発明のペプチド1の発現は、該ペプチドもしくはそれをコードするmRNAを従来公知の方法を用いて検出することにより調べることができる。例えば、本発明のペプチドを検出する場合は、該試料を陽イオン交換体に接触させた後、適当な条件で洗浄し、該陽イオン交換体に結合した成分から、分子量約5,800のペプチドを検出することによって行うことができる。ここで「陽イオン交換体」とは、負の荷電基を持ち、陽イオンを捕捉するイオン交換体をいい、その性状により強陽イオン交換体(例えば、プロピルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等を官能基とするスチレン系、アクリル系等の母体構造を有する不溶性担体など)、および弱陽イオン交換体(例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基等を官能基とするスチレン系、アクリル系等の母体構造を有する不溶性担体など)に分けられる。本発明の方法においては、いずれの交換体でもよく、特に限定されないが、好ましくは弱陽イオン交換体が用いられる。
【0035】
洗浄は水または緩衝液を用いて行うことができるが、例えば、pHは、各々の試料のターゲットマーカーの等電点に合わせて使用し、よってpH4〜8のトリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酢酸緩衝液等が用いられる。
【0036】
陽イオン交換体に結合した成分からの分子量約5,800のペプチドの検出は、例えば、陽イオン交換体に塩濃度を変化させながら溶離液(例:100〜1000mM塩化ナトリウム水溶液など)を加えて吸着成分を溶出し、必要に応じて濃縮後、溶出液を各種の分子量測定法、例えば、ゲル電気泳動や、各種の分離精製法(例:イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーなど)、イオン化法(例:電子衝撃イオン化法、フィールドディソープション法、二次イオン化法、高速原子衝突法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、エレクトロスプレーイオン化法など)、質量分析計(例:二重収束質量分析計、四重極型分析計、飛行時間型質量分析計、フーリエ変換質量分析計、イオンサイクロトロン質量分析計など)を組み合わせる方法等に供することにより行うことができる。
【0037】
分子量約5,800とは各測定方法の誤差の範囲を考慮したものであり、例えば、質量分析計を用いる方法による場合は、分子量5,813±0.5%(好ましくは±0.3%、より好ましくは±0.1%)の位置に出現するピーク強度を測定することが好ましい。
【0038】
本発明の診断方法における分子量約5,800のペプチドの検出において、最も好ましい測定法として、陽イオン交換クロマトグラフィーと飛行時間型質量分析(TOF−MS)を組み合わせて、陽イオン交換体に一定条件下で捕捉されるすべての生体試料成分の質量を一括して測定する方法、とりわけ飛行時間型質量分析に使用するプローブの表面に陽イオン交換体を固定し、このプローブ表面と被検試料を接触させ、適当な条件で洗浄した後、該プローブ表面に捕捉された成分の質量を飛行時間型質量分析計で測定する方法などが挙げられる。陽イオン交換体としては、上記と同様のものを用いることができ、弱陽イオン交換体が特に好ましい。弱陽イオン交換体を表面に固定化した飛行時間型質量分析計に適合可能なプローブとしては、前記したサイファージェン・バイオシステムズ社製のCM10またはWCX2 ProteinChip Array(型番:C553−0075またはC553−0026)等が挙げられるが、それらに限定されない。洗浄は、上記した緩衝液等を用いて、室温等で行うことができる。質量分析は適当なマトリックスを用いてMALDI法で行うことが好ましく(MALDI−TOFMS)、使用するマトリックス分子としては、例えばシナピン酸(SPA)、飽和2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)、インドールアクリル酸(IAA)、桂皮酸などが挙げられる。
【0039】
尚、分子量約5,800のペプチドのピークには、本発明のペプチド1に加えて、アズロシジンの断片(WO 2006/036002)が含まれる可能性があるため、この分子量約5,800のペプチドのピークをProFound検索(http://prowl.rockefeller.edu/profound_bin/WebProFound.exe)してペプチドマスフィンガープリンティングを行い、本発明のペプチド1であるフィブリノゲン断片由来のピークであることをアミノ酸配列決定によって確認するか、本発明のペプチド1をアズロシジン断片と分離した上で、本発明のペプチドのピークを測定することが好ましい。
【0040】
本発明の診断方法における本発明のペプチド1の検出は、該ペプチドに対する抗体を用いて行うこともできる。本発明のペプチド1に対する抗体は、例えば、本発明のペプチド1を、これを発現する癌患者由来の生体試料から単離・精製し、該ペプチドを抗原として動物を免疫することにより調製することができる。あるいは、得られるペプチド量が少量である場合等は、該ペプチドをペプチダーゼ等によって部分消化し、得られる断片のアミノ酸配列をエドマン法などにより決定し、その配列を基に該ペプチドをコードする核酸とハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドを合成、これをプローブとして該患者由来のcDNAラリブラリーを鋳型にハイブリダイゼーション法により該ペプチドをコードするcDNAを得るか、あるいは該オリゴヌクレオチドをプライマーとして該患者由来のRNAを鋳型にしてRT−PCRを行うことにより、該ペプチドをコードするcDNAを得て、該cDNAを適当な発現ベクターに組み込んで適当な宿主細胞に導入し、得られる形質転換体を培養して組換えペプチドを採取することによって、本発明のペプチド1を大量に調製することができる。あるいは上記のようにして得られるcDNAを鋳型として、無細胞転写・翻訳系を用いて本発明のペプチド1を取得することもできる。
【0041】
あるいはまた、上記の陽イオン交換体と質量分析を組み合わせた検出法において、タンデム質量分析(MS/MS)法を用いることにより、直接本発明のペプチド1のアミノ酸配列を同定し、該配列情報に基づいて該ペプチドの全部もしくは一部を合成し、これを抗原(ハプテン)として利用することもできる。MS/MS法を用いたペプチド同定法としては、MS/MSスペクトルを解析してアミノ酸配列を決定するde novo sequencing法と、MS/MSスペクトル中に含まれる部分的な配列情報(質量タグ)を用いてデータベース検索を行い、ペプチドを同定する方法等が挙げられる。
【0042】
上述のように、本発明のペプチド1はヒトフィブリノゲンα−E鎖の断片であり、そのアミノ酸配列は配列番号4である。従って、本発明のペプチド1に対する抗体は、例えば、配列番号4で示されるアミノ酸配列の全部もしくは一部からなるペプチドを、上記アミノ酸配列情報に基づき、公知のペプチド合成法を用いて合成するか、あるいは単離したヒトフィブリノゲンα−E鎖を適当なペプチダーゼ等で切断して、配列番号4で示されるアミノ酸配列の全部もしくは一部を含むペプチド断片を取得し、これを免疫原として調製することが望ましい。
【0043】
本発明のペプチド1に対する抗体(以下、「本発明の抗体」と称する場合がある)は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよく、周知の免疫学的手法により作製することができる。また、該抗体は完全抗体分子だけでなくそのフラグメントをも包含し、例えば、Fab、F(ab’)2、ScFv、minibody等が挙げられる。例えば、ポリクローナル抗体は、上記のいずれかの方法または他の方法によって調製された本発明のペプチドもしくはその部分ペプチド(必要に応じて、ウシ血清アルブミン、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)等のキャリアータンパク質に架橋した複合体とすることもできる)を抗原として、市販のアジュバント(例えば、完全または不完全フロイントアジュバント)とともに、動物の皮下あるいは腹腔内に2〜3週間おきに2〜4回程度投与し(部分採血した血清の抗体価を公知の抗原抗体反応により測定し、その上昇を確認しておく)、最終免疫から約3〜約10日後に全血を採取して抗血清を精製することにより取得できる。抗原を投与する動物としては、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、モルモット、ハムスターなどの哺乳動物が挙げられる。
【0044】
また、モノクローナル抗体は、細胞融合法(例えば、渡邊武、細胞融合法の原理とモノクローナル抗体の作成、谷内昭、高橋利忠編、「モノクローナル抗体とがん−基礎と臨床−」、第2−14頁、サイエンスフォーラム出版、1985年)により作成することができる。例えば、本発明のペプチドもしくはその部分ペプチドを市販のアジュバントと共にマウスに2〜4回皮下あるいは腹腔内に投与し、最終投与の約3日後に脾臓あるいはリンパ節を採取し、白血球を採取する。この白血球と骨髄腫細胞(例えば、NS−1、P3X63Ag8など)を細胞融合して該ペプチドに対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。細胞融合はPEG法[J.Immunol.Methods,81(2):223−228(1985)]でも電圧パルス法[Hybridoma,7(6):627−633(1988)]であってもよい。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、周知のEIAまたはRIA法等を用いて抗原と特異的に結合する抗体を、培養上清中から検出することにより選択できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養は、インビトロ、またはマウスもしくはラット、このましくはマウス腹水中等のインビボで行うことができ、抗体はそれぞれハイブリドーマの培養上清および動物の腹水から取得することができる。
【0045】
本発明の抗体を用いる本発明の診断方法は、特に制限されるべきものではなく、被検試料中の抗原量に対応した抗体、抗原もしくは抗体−抗原複合体の量を化学的または物理的手段により検出し、これを既知量の抗原を含む標準液を用いて作製した標準曲線より算出する測定法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。例えば、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法およびサンドイッチ法等が好適に用いられる。
【0046】
標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔
125I〕、〔
131I〕、〔
3H〕、〔
14C〕などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン−アビジン系を用いることもできる。
【0047】
抗原あるいは抗体の不溶化に当っては、物理吸着を用いてもよく、また通常タンパク質あるいは酵素等を不溶化、固定化するのに用いられる化学結合を用いる方法でもよい。担体としては、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラス等が挙げられる。
【0048】
サンドイッチ法においては、不溶化した本発明の抗体に被検試料を反応させ(1次反応)、さらに標識化した別の本発明の抗体を反応させ(2次反応)た後、不溶化担体上の標識剤の量(活性)を測定することにより、被検試料中の本発明のペプチド量を定量することができる。1次反応と2次反応は逆の順序に行っても、また、同時に行なってもよいし時間をずらして行なってもよい。
【0049】
本発明のペプチド1に対するモノクローナル抗体を、サンドイッチ法以外の測定システム、例えば、競合法、イムノメトリック法あるいはネフロメトリーなどに用いることもできる。
【0050】
競合法では、被検試料中の抗原と標識抗原とを抗体に対して競合的に反応させた後、未反応の標識抗原(F)と、抗体と結合した標識抗原(B)とを分離し(B/F分離)、B、Fいずれかの標識量を測定し、被検試料中の抗原量を定量する。本反応法には、抗体として可溶性抗体を用い、B/F分離をポリエチレングリコール、前記抗体に対する第2抗体などを用いる液相法、および、第1抗体として固相化抗体を用いるか、あるいは、第1抗体は可溶性のものを用い第2抗体として固相化抗体を用いる固相化法とが用いられる。イムノメトリック法では、被検試料の抗原と固相化抗原とを一定量の標識化抗体に対して競合反応させた後固相と液相を分離するか、あるいは、被検試料中の抗原と過剰量の標識化抗体とを反応させ、次に固相化抗原を加え未反応の標識化抗体を固相に結合させた後、固相と液相を分離する。次に、いずれかの相の標識量を測定し被検試料中の抗原量を定量する。
【0051】
また、ネフロメトリーでは、ゲル内あるいは溶液中で抗原抗体反応の結果生じた不溶性の沈降物の量を測定する。被検試料中の抗原量が僅かであり、少量の沈降物しか得られない場合にもレーザーの散乱を利用するレーザーネフロメトリーなどが好適に用いられる。これら個々の免疫学的測定法を本発明の定量方法に適用するにあたっては、特別の条件、操作等の設定は必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作法に当業者の通常の技術的配慮を加えて本発明のペプチド1の測定系を構築すればよい。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる。
【0052】
例えば、入江 寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江 寛編「続ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「Methods in ENZYMOLOGY」Vol.70(Immunochemical Techniques(Part A))、同書Vol.73(Immunochemical Techniques(Part B))、同書Vol.74(Immunochemical Techniques(Part C))、同書Vol.84(Immunochemical Techniques(Part D:Selected Immunoassays))、同書Vol.92(Immunochemical Techniques(Part E:Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、同書Vol.121(Immunochemical Techniques(Part I:Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies))(以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。
【0053】
あるいは、本発明の抗体を用いる別の本発明の診断方法として、該抗体を上記したような質量分析計に適合し得るプローブの表面上に固定化し、該プローブ上の該抗体に被検試料を接触させ、該抗体に捕捉された生体試料成分を質量分析にかけ、分子量約5,800のペプチドのピークを検出する方法が挙げられる。この方法を採用することにより、分子量約5,800のペプチドのピークから、アズロシジン断片に由来するシグナルを除き、本発明のペプチドに由来するシグナルのみを特異的且つ正確に定量することができる。
【0054】
本発明の診断方法において、生体試料における本発明のペプチド1の発現を、該ペプチドをコードするmRNA(即ち、分解により該ペプチドを生ずるヒトフィブリノゲンα−E鎖をコードするmRNA、具体的には、配列番号2に示される塩基配列を含むRNA)を検出することにより行う場合、該mRNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸(プローブ)や、該mRNAの一部もしくは全部を増幅するプライマーとして機能し得るオリゴヌクレオチドのセットを用いて、ノーザンハイブリダイゼーションやRT−PCRなどにより行うことができる。プローブとして用いられる核酸は、DNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。好ましくはDNAが挙げられる。また、該核酸は二本鎖であっても一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。該核酸の長さは標的mRNAと特異的にハイブリダイズし得る限り特に制限はなく、例えば約15塩基以上、好ましくは約30塩基以上である。該核酸は、標的mRNAの検出・定量を可能とするために、標識剤により標識されていることが好ましい。標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔
32P〕、〔
3H〕、〔
14C〕などが用いられる。酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、プローブと標識剤との結合にビオチン−(ストレプト)アビジンを用いることもできる。
【0055】
プライマーとして用いられるオリゴヌクレオチドのセットとしては、ヒトフィブリノゲンα−E鎖をコードするmRNAの塩基配列(センス鎖)およびそれに相補的な塩基配列(アンチセンス鎖)とそれぞれ特異的にハイブリダイズすることができ、それらに挟まれるDNA断片を増幅し得るものであれば特に制限はなく、例えば、各々約15〜約100塩基、好ましくは各々約15〜約50塩基の長さを有し、約100bp〜数kbpのDNA断片を増幅するようにデザインされたオリゴDNAのセットが挙げられる。
【0056】
微量RNA試料を用いて本発明のペプチド1の遺伝子発現を定量的に解析するためには、競合RT−PCRまたはリアルタイムRT−PCRを用いることが好ましい。競合RT−PCRとは、目的のDNAを増幅し得るプライマーのセットにより増幅され得る既知量の他の鋳型核酸をcompetitorとして反応液中に共存させて競合的に増幅反応を起こさせ、増幅産物の量を比較することにより、目的DNAの量を算出する方法をいう。従って、競合RT−PCRを用いる場合、上記プライマーセットに加えて、該プライマーセットにより増幅され、目的DNAと区別することができる増幅産物(例えば、目的のDNAとはサイズの異なる増幅産物、制限酵素処理により異なる泳動パターンを示す増幅産物など)を生じる核酸をさらに含有することができる。このcompetitor核酸はDNAであってもRNAであってもよい。DNAの場合、RNA試料から逆転写反応によりcDNAを合成した後にcompetitorを添加してPCRを行えばよく、RNAの場合は、RNA試料に最初から添加してRT−PCRを行うことができる。後者の場合、逆転写反応の効率も考慮に入れているので、元のmRNAの絶対量を推定することができる。
【0057】
一方、リアルタイムRT−PCRは、PCRの増幅量をリアルタイムでモニタリングできるので、電気泳動が不要で、より迅速に本発明のペプチドの遺伝子発現を解析可能である。通常、モニタリングは種々の蛍光試薬を用いて行われる。これらの中には、SYBRGreen I、エチジウムブロマイド等の二本鎖DNAに結合することにより蛍光を発する試薬(インターカレーター)の他、上記プローブとして用いることができる核酸(但し、該核酸は増幅領域内で標的核酸にハイブリダイズする)の両端をそれぞれ蛍光物質(例:FAM、HEX、TET、FITC等)および消光物質(例:TAMRA、DABCYL等)で修飾したもの等が含まれる。
【0058】
上記プローブとして用いる核酸は、ヒトフィブリノゲンα−E鎖をコードするcDNAやその断片(例えば、配列番号4で示されるペプチド等)をコードするDNAであってよく、あるいはその塩基配列情報(配列番号2参照)に基づいて、市販のDNA/RNA自動合成機等を用いて化学的に合成することによって得られるものであってもよい。また、上記プライマーとして用いるオリゴヌクレオチドのセットは、上記塩基配列情報に基づいて、該塩基配列およびその相補鎖配列の一部を市販のDNA/RNA自動合成機等を用いて化学的に合成することによって得ることができる。
【0059】
本発明の診断方法は、癌患者から時系列で生体試料を採取し、各試料における本発明のペプチドの発現の経時変化を調べることにより行うことが好ましい。生体試料の採取間隔は特に限定されないが、転移の早期発見という本発明の目的を考慮すれば、患者のQOLを損なわない範囲でできるだけ頻繁にサンプリングすることが望ましく、例えば、血液(血清、血漿)を試料とする場合には、約1ヶ月間の間隔で採血を行うことが好ましい。各試料について上記のようにして本発明のペプチド1の発現を調べ、経時的に該ペプチドの発現が増加した場合には、転移が起こっている、もしくは近い将来転移を起こす可能性が高いと判定することができる。
【0060】
後述の実施例において示される通り、本発明のペプチド1の発現は、転移の発症後、転移に対する治療が奏効した場合には減少傾向を示す。従って、本発明の診断方法は、転移発症後の患者における治療効果の早期判定にも用いることができる。例えば、転移に対する治療開始から一定期間を経過しても本発明のペプチド1の発現が低下しないか増加し続ける場合には、治療計画の変更等を考慮すべきであると判定することができる。また、実際に転移が起こる前に本発明のペプチド1の発現増加が認められ、転移に対する予防的措置を施した場合に、継続的に本発明のペプチド1の発現をモニタリングすることにより予防効果の成否を判定することもできる。
【0061】
本発明のペプチドは、血管新生促進活性を有しているので、本発明のペプチドや、これを発現し得る発現ベクターは血管新生促進剤として有用である。即ち、本発明は上記本発明のペプチド又は該ペプチドを発現し得る発現ベクターを含む、血管新生促進剤を提供するものである。血管新生促進量の本発明のペプチド又は発現し得る発現ベクターを哺乳動物へ投与することにより、該哺乳動物内における血管新生を促進することができる。
【0062】
本発明のペプチドを発現し得る発現ベクターは、上述のペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド(好ましくはDNA)が、投与対象である哺乳動物(好ましくはヒト)の細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されている。
【0063】
使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物の細胞内で機能し得るものであれば特に制限はない。プロモーターとしては、polI系プロモーター、polII系プロモーター、polIII系プロモーター等を使用することができる。具体的には、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR等のウイルスプロモーター、β−アクチン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーター、並びにtRNAプロモーター等のRNAプロモーター等が用いられる。
【0064】
発現ベクターは、上述のポリヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。
【0065】
本発明において発現ベクターに使用されるベクターの種類は特に制限されないが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。このうち、アデノウイルスは、遺伝子導入効率が極めて高く、非分裂細胞にも導入可能である等の利点を有する。但し、導入遺伝子の宿主染色体への組込みは極めて稀であるので、遺伝子発現は一過性で通常約4週間程度しか持続しない。治療効果の持続性を考慮すれば、比較的遺伝子導入効率が高く、非分裂細胞にも導入可能で、且つ逆位末端繰り返し配列(ITR)を介して染色体に組み込まれ得るアデノ随伴ウイルスの使用もまた好ましい。
【0066】
本発明の血管新生促進剤は、血管新生促進量の本発明のペプチド又はこれを発現し得る発現ベクターに加え、任意の担体、例えば医薬上許容される担体を含むことができる。
【0067】
医薬上許容される担体としては、例えば、ショ糖、デンプン等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル等の滑剤、クエン酸、メントール等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリド等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水等の希釈剤、ベースワックス等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0068】
発現ベクターの細胞内への導入を促進するために、本発明の血管新生促進剤は更に核酸導入用試薬を含むことができる。該ポリヌクレオチドがウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターに組み込まれている場合には、遺伝子導入試薬としてはレトロネクチン、ファイブロネクチン、ポリブレン等を用いることができる。また、該ポリヌクレオチドがプラスミドベクターに組み込まれている場合は、リポフェクチン、リプフェクタミン(lipfectamine)、DOGS(トランスフェクタム)、DOPE、DOTAP、DDAB、DHDEAB、HDEAB、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質を用いることが出来る。
【0069】
経口投与に好適な製剤としては、液剤、カプセル剤、サッシェ剤、錠剤、懸濁液剤、乳剤等を挙げることができる。
【0070】
非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容される担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0071】
医薬組成物中の本発明のペプチド又はこれを発現し得る発現ベクターの含有量は、例えば、医薬組成物全体の約0.001ないし100重量%である。
【0072】
本発明の血管新生促進剤の投与量は、有効成分の活性や種類、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001〜約500mg/kgである。
【0073】
本発明の血管新生促進剤は、好ましくは、血管新生促進量の本発明のペプチド又はこれを発現し得る発現ベクターが、血管新生の促進が望まれる部位に送達されるように、哺乳動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ウシ、サル、ヒト)に対して投与される。
【0074】
本発明の血管新生促進剤を、十分な血管の新生が行われることによって改善されうる疾患の患者に投与すると、該患者において血管新生が促進され、該疾患の治療を行うことができる。ここでいう十分な血管の新生が行われることによって改善されうる疾患としては、虚血性疾患、褥瘡、創傷などが含まれる。具体的には、閉塞性動脈硬化症、バージャー病、血管損傷、動脈塞栓症、動脈血栓症、動脈瘤、脊柱管狭窄症、閉塞性血栓血管炎、狭心症、心筋梗塞、心筋症、冠動脈硬化、心不全、脳梗塞などの虚血性疾患;褥瘡;裂創、擦過創、切創、刺創、挫創、咬創などの創傷;熱傷(熱・化学薬品・放射線などによる)が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0075】
また、本発明の血管新生促進剤はインビトロで使用してもよい。例えば、血管新生促進量の本発明のペプチド又はこれを発現し得る発現ベクターの存在中で、血管内皮細胞や血管含有組織を培養することにより、該血管内皮細胞や血管含有組織における血管新生を促進することができる。このようなインビトロにおける血管新生促進は、癌の転移に伴う血管新生のメカニズムを解析する上で有用である。
【0076】
また、本発明のペプチド又はこれを発現し得る発現ベクターによる、血管内皮細胞や血管含有組織における血管新生促進を阻害する化合物をスクリーニングすることにより、癌の転移に伴う血管新生を阻害する医薬の候補化合物を見出すことができる。具体的には、
(1)被検化合物、及び血管新生促進量の本発明のペプチド又はこれを発現し得る発現ベクターの存在下で、血管内皮細胞又は血管含有組織を培養し、
(2)被検化合物存在下で培養した血管内皮細胞又は血管含有組織における血管新生レベルを測定し、該血管新生レベルを、コントロール(被検化合物不在下であること以外の培養条件は(1)と同一)における血管新生レベルと比較し、
(3)比較結果に基づき、血管新生レベルを抑制した被検化合物を選択することにより、血管新生阻害剤の候補化合物をスクリーニングすることができる。
【0077】
(3)で得られた候補化合物は、細胞毒性により血管新生を阻害している可能性も考えられるため、その効果を生体内において確認してもよい。例えば、該候補化合物を非ヒト哺乳動物へ投与し、該非ヒト哺乳動物における血管新生レベルをコントロール非ヒト哺乳動物(候補化合物を投与しないこと以外の飼育条件が候補化合物を投与した非ヒト哺乳動物と同一)と比較し、比較結果に基づき該非ヒト哺乳動物における血管新生を阻害した候補化合物を、血管新生阻害剤として選択する。
【0078】
本発明のペプチドは、癌細胞の転移を促進する活性を有しているので、本発明のペプチドや、これを発現し得る発現ベクターは癌転移促進剤として有用である。即ち、本発明は上記本発明のペプチド又は該ペプチドを発現し得る発現ベクターを含む、癌転移促進剤を提供するものである。本発明の癌転移促進剤は、インビトロやインビボにおける癌転移モデルの構築に有用である。癌転移促進量の本発明のペプチド又は発現し得る発現ベクターを癌細胞と共に非ヒト哺乳動物へ投与することにより、該癌細胞の血行性の転移を促進し、該非ヒト哺乳動物を用いた癌転移モデルを構築することができる。
【0079】
癌の種類としては、転移を生じ得るあらゆる癌が包含され、例えば、乳癌、肺癌、前立腺癌、甲状腺癌、腎癌、胃癌、肝癌、子宮癌、大腸癌、皮膚癌などが挙げられる。癌は好ましくは、肺癌、乳癌、肝癌、胃癌、又は皮膚癌である。
【0080】
癌の転移巣についても特に制限はなく、転移巣となり得るあらゆる組織(例、骨、骨髄、リンパ節、肺、肝臓、皮膚、脳などが包含される。
【0081】
本発明のペプチドを発現し得る発現ベクターは、上述のペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド(好ましくはDNA)が、投与対象である哺乳動物(好ましくはヒト)の細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されている。
【0082】
使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物の細胞内で機能し得るものであれば特に制限はない。プロモーターとしては、polI系プロモーター、polII系プロモーター、polIII系プロモーター等を使用することができる。具体的には、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR等のウイルスプロモーター、β−アクチン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーター、並びにtRNAプロモーター等のRNAプロモーター等が用いられる。
【0083】
発現ベクターは、上述のポリヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。
【0084】
本発明において発現ベクターに使用されるベクターの種類は特に制限されないが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。このうち、アデノウイルスは、遺伝子導入効率が極めて高く、非分裂細胞にも導入可能である等の利点を有する。但し、導入遺伝子の宿主染色体への組込みは極めて稀であるので、遺伝子発現は一過性で通常約4週間程度しか持続しない。治療効果の持続性を考慮すれば、比較的遺伝子導入効率が高く、非分裂細胞にも導入可能で、且つ逆位末端繰り返し配列(ITR)を介して染色体に組み込まれ得るアデノ随伴ウイルスの使用もまた好ましい。
【0085】
本発明の癌転移促進剤は、癌転移促進量の本発明のペプチド又はこれを発現し得る発現ベクターに加え、任意の担体、例えば医薬上許容される担体を含むことができる。
【0086】
医薬上許容される担体としては、例えば、ショ糖、デンプン等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル等の滑剤、クエン酸、メントール等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリド等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水等の希釈剤、ベースワックス等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0087】
発現ベクターの細胞内への導入を促進するために、本発明の癌転移促進剤は更に核酸導入用試薬を含むことができる。該ポリヌクレオチドがウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターに組み込まれている場合には、遺伝子導入試薬としてはレトロネクチン、ファイブロネクチン、ポリブレン等を用いることができる。また、該ポリヌクレオチドがプラスミドベクターに組み込まれている場合は、リポフェクチン、リプフェクタミン(lipfectamine)、DOGS(トランスフェクタム)、DOPE、DOTAP、DDAB、DHDEAB、HDEAB、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質を用いることが出来る。
【0088】
経口投与に好適な製剤としては、液剤、カプセル剤、サッシェ剤、錠剤、懸濁液剤、乳剤等を挙げることができる。
【0089】
非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容される担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0090】
医薬組成物中の本発明のペプチド又はこれを発現し得る発現ベクターの含有量は、例えば、医薬組成物全体の約0.001ないし100重量%である。
【0091】
本発明の癌転移促進剤の投与量は、有効成分の活性や種類、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001〜約500mg/kgである。
【0092】
本発明の癌転移促進剤は、好ましくは、癌転移促進量の本発明のペプチド又はこれを発現し得る発現ベクターが、癌組織に送達されるように、担癌非ヒト哺乳動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ウシ、サル)に対して投与される。或いは、本発明の癌転移促進剤を、癌細胞と混合し、該混合物を非ヒト哺乳動物へ注入することにより、該癌細胞の血管壁への接着や、癌細胞周辺における血管新生が促進され、その結果該癌細胞の非ヒト哺乳動物への生着率が上がり、転移巣の形成が促進される。
【0093】
また、本発明の癌転移促進剤はインビトロで使用してもよい。例えば、癌転移促進量の本発明のペプチド又はこれを発現し得る発現ベクターの存在中で、癌細胞を培養することにより、該癌細胞の運動性を上げることができる。例えば、癌細胞を本発明のペプチドと混合し、混合物を培養容器へ播取する。そして、該癌細胞が培養容器へ接着した段階で、三次元培養用のゲル(例、マトリゲル、ペプチドハイドロゲル等)を積層する。癌細胞を培養することにより、ゲル中へ癌細胞が浸潤するが、本発明の癌転移促進剤の添加により、この浸潤が促進される。本発明のペプチド又はこれを発現し得る発現ベクターによる、インビトロにおける癌転移促進は、癌の転移メカニズムを解析する上で有用である。
【0094】
また、本発明のペプチド又はこれを発現し得る発現ベクターによる、癌細胞転移促進を阻害する化合物をスクリーニングすることにより、癌転移を阻害する医薬の候補化合物を見出すことができる。具体的には、
(1)被検化合物、及び癌転移促進量の本発明のペプチド又はこれを発現し得る発現ベクターの存在下で、癌細胞を培養し、
(2)被検化合物存在下で培養した癌細胞の運動性のレベルを測定し、該運動性のレベルを、コントロール(被検化合物不在下であること以外の培養条件は(1)と同一)における運動性のレベルと比較し、
(3)比較結果に基づき、癌細胞の運動性のレベルを抑制した被検化合物を選択することにより、癌転移阻害剤の候補化合物をスクリーニングすることができる。
【0095】
(3)で得られた候補化合物は、細胞毒性により癌転移を阻害している可能性も考えられるため、その効果を生体内において確認してもよい。例えば、該候補化合物を担癌非ヒト哺乳動物へ投与し、該非ヒト哺乳動物における癌転移の程度をコントロール非ヒト哺乳動物(候補化合物を投与しないこと以外の飼育条件が候補化合物を投与した担癌非ヒト哺乳動物と同一)と比較し、比較結果に基づき該非ヒト哺乳動物における癌転移を阻害した候補化合物を、癌転移阻害剤として選択する。
【0096】
本発明のペプチドは癌細胞や癌周囲の新生血管に結合するので、本発明のペプチドは癌組織やそれに伴う新生血管を検出するための画像診断用プローブとして用いることができる。従って、本発明は上記本発明のペプチドを含む癌組織又はそれに伴う新生血管を検出するための画像診断用プローブを提供するものである。本発明のペプチドを、適当な標識剤で標識して被検動物に投与し、生体内での該ペプチドの局在化を該標識剤を直接検出(画像化)することにより、癌組織又はそれに伴う新生血管の有無や程度を評価することができる。このような標識剤としては、例えば、適当な半減期を有する放射性同位元素を用いることが好ましい。より好ましくは、放射性同位元素は、シンチグラフィや、単光子放射計算断層撮影(SPECT)およびポジトロン断層撮影(PET)などの各種断層撮影において通常使用される核種である。シンチグラフィやSPECTに用いられる核種としては、例えば、
99mTc、
201Ti、
67Ga、
111In、
123I、
131I、
125I、
169Yb、
186Re、
99Mo等が挙げられる。特に好ましくは、
99mTcが挙げられる。PET核種としては、例えば、
15O、
13N、
11C、
18F等が挙げられる。
【0097】
放射性同位元素によるペプチドの標識は、各放射性同位元素について自体公知の方法をそれぞれ用いて行うことができる。例えば、
99mTcでペプチドを標識する場合、例えばRADIOISOTOPES, 53: 155-178 (2004) に記載の手法に従って行うことができる。即ち、ペプチドに、必要に応じてリンカーを介して適当な配位子(例:DTPA、HMPAO、DMSA、MAAなど)を結合し、これをバイアルなどの容器に封入する。
99Mo-
99mTcジェネレータより溶出した過テクネチウム酸イオン(
99mTcO
4-)を適当な還元剤(例:塩化第一スズなど)を用いて+1、+3、+4もしくは+5価の酸化数の状態にまで還元し、これをトレーサー化合物を封入した容器中に注入して振とうすることにより、
99mTc標識されたトレーサー化合物を得ることができる。
99mTcは目的の配位子と直接反応させてもよいし、あるいは最初にグルコン酸や酒石酸などの配位能の弱い配位子と反応させて該配位子との錯体を生成させた後、配位能の強い配位子を作用させて配位子交換を行ってもよい。リンカーとしては、テクネチウム錯体の製造に通常用いられているものを適宜選択して用いることができる。
【0098】
SPECTやPETなどの放射性同位元素を用いる画像診断以外にも、本発明のペプチドは、MRIやCTに使用される非放射性の造影剤、例えば、ガドリニウム、ヨード、フッ素などで標識することにより、MRIやCTなどの画像診断用の造影剤として調製することもできる。あるいは、緑色蛍光蛋白質(GFP)などの蛍光物質や化学発光物質を生成するレポーター(例、ルシフェラーゼなど)で本発明のペプチドを標識することもできる。
【0099】
標識された本発明のペプチドは、上記本発明の血管新生促進剤の場合と同様に製剤化することができ、同様の投与経路で投与することができる。また、本発明のペプチドが放射性同位元素で標識されている場合、単位用量あたり約0.0001〜約10mCi、好ましくは約0.01〜約0.1mCiの放射能強度を有する。単位用量の注射剤の容量としては、例えば、約0.01〜約10mlである。
【0100】
標識剤として放射性同位元素を用いた場合、被験動物体内での本発明のペプチドの局在化は、例えばシンチグラフィ、単光子放射計算断層撮影(SPECT)、ポジトロン断層撮影(PET)等、好ましくはSPECTもしくはPETにより検出・画像化される。シンチグラフィの場合、標識した本発明のペプチドを投与した後、その体内分布をシンチカメラにより描出する。SPECTおよびPETの場合、それぞれ専用の断層撮像装置を用いて横断断層面を描画する。撮像開始時間は、標識剤の核種にもよるが、例えば、トレーサーの投与直後〜72時間後、好ましくは5分後〜24時間後、より好ましくは10分後〜4時間後が挙げられる。
【0101】
標識剤としてルシフェラーゼを用いた場合、標識した本発明のペプチドを投与した後、ルシフェリンをさらに投与し、超高感度冷却CCDカメラを搭載したリアルタイムin vivoイメージング装置を用いて、化学発光をデジタル画像として可視化することにより、本発明のペプチドを検出することができる。他の蛍光もしくは発光物質を標識剤として用いた場合も、自体公知の方法を用いて該標識を検出することにより、本発明のペプチドの体内分布を描出することができる。
【0102】
その結果、本発明のペプチドの集積が認められた場合、被検動物は癌組織やそれに伴う新生血管を有する可能性が高いと診断することができる。
【0103】
また、更なる局面において、本発明は、上記本発明のペプチドの阻害剤を含む剤を提供する。本発明の剤は、癌転移抑制や、血管新生抑制(特に、癌細胞周辺における血管新生の抑制)のために有用である。本発明のペプチドの阻害剤を、癌に罹患した哺乳動物や、癌罹患歴があり、癌細胞を有する可能性がある哺乳動物に投与することにより、該哺乳動物における癌の転移を抑制することができる。また、本発明のペプチドの阻害剤を哺乳動物に投与することにより、該哺乳動物における血管新生(特に、癌細胞周辺における血管新生の抑制)を抑制することができる。
【0104】
本発明のペプチドの阻害剤としては、以下を挙げることができる:
(1)本発明のペプチドの発現を特異的に抑制するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現する発現ベクター;及び
(2)本発明のペプチドを特異的に認識し、且つその血管新生促進活性機能を阻害する抗体。
【0105】
本発明のペプチドの発現を特異的に抑制するRNA干渉誘導性RNAとしては、例えば
(A)本発明のペプチドをコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)のヌクレオチド配列又は18塩基以上のその部分配列に相補的なヌクレオチド配列を含む1本鎖又は2本鎖のRNA、及び
(B)本発明のペプチドをコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)と投与対象の哺乳動物(例えばヒト等の霊長類やマウス等のげっ歯類)の細胞内でハイブリダイズし得る18塩基以上のヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズすることにより本発明のペプチド発現のRNA干渉を誘導する1本鎖又は2本鎖のRNA
を挙げることができる。
【0106】
本発明のペプチドをコードするmRNAとしては、配列番号2で示されるヌクレオチド配列のうち、ヒトフィブリノゲンα−E鎖(配列番号3)の582〜621位をコードする部分(即ち、1802〜1921位)を含むヌクレオチド(例えば、配列番号2で示されるヌクレオチド配列)を挙げることができる。本発明のペプチドの発現を特異的に抑制するRNA干渉誘導性RNAは、好適には、配列番号2で示されるヌクレオチド配列の1802〜1921位の領域を標的とし、ヒトフィブリノゲンα−E鎖及びその断片である本発明のペプチドの発現を抑制する。
【0107】
なお、本明細書においてヌクレオチド配列は、特にことわりのない限りDNAの配列として記載するが、ポリヌクレオチドがRNAである場合は、チミン(T)をウラシル(U)に適宜読み替えるものとする。
【0108】
二本鎖RNAを細胞内に導入するとそのRNAに相補的なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、最近、この現象が動物細胞でも起こることが確認されたことから[Nature, 411(6836): 494-498 (2001)]、リボザイムの代替技術として注目されている。
【0109】
RNA干渉誘導性RNAは、代表的には、標的遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列又はその部分配列(以下、標的ヌクレオチド配列)と相補的な配列を有するRNAとその相補鎖からなる2本鎖オリゴRNAである。また、ヘアピンループ部分を介して、標的ヌクレオチド配列に相補的な配列(第1の配列)と、その相補配列(第2の配列)とが連結された一本鎖RNAであって、ヘアピンループ型の構造をとることにより、第1の配列が第2の配列と2本鎖構造を形成するRNA(small hairpin RNA: shRNA)もRNA干渉誘導性RNAの好ましい態様の1つである。
【0110】
RNA干渉誘導性RNAに含まれる、標的ヌクレオチド配列と相補的な部分の長さは、通常、約18塩基以上、好ましくは約19塩基以上、より好ましくは約21塩基以上の長さであるが、標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されない。RNA干渉誘導性RNAが23塩基よりも長い場合には、該RNA干渉誘導性RNAは細胞内で分解されて、約20塩基前後のsiRNAを生じ得るので、理論的には標的ヌクレオチド配列と相補的な部分の長さの上限は、標的遺伝子のmRNA(成熟mRNAもしくは初期転写産物)のヌクレオチド配列の全長である。しかし、インターフェロン誘導の回避、合成の容易さ、抗原性の問題等を考慮すると、該相補部分の長さは、例えば約50塩基以下、好ましくは約25塩基以下、最も好ましくは約23塩基以下である。即ち、該相補部分の長さは、通常、約18〜50塩基、好ましくは約19〜約25塩基、より好ましくは約21〜約23塩基である。
【0111】
また、RNA干渉誘導性RNAを構成する各RNA鎖の長さも、通常、約18塩基以上、好ましくは約19塩基以上、より好ましくは約21塩基以上の長さであるが、標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されず、理論的には各RNA鎖の長さの上限はない。しかし、インターフェロン誘導の回避、合成の容易さ、抗原性の問題等を考慮すると、RNA干渉誘導性RNAを構成する各RNA鎖の長さは、例えば約50塩基以下、好ましくは約25塩基以下、最も好ましくは約23塩基以下である。即ち、各RNA鎖の長さは、例えば通常、約18〜50塩基、好ましくは約19〜約25塩基、より好ましくは約21〜約23塩基である。なお、shRNAの長さは、2本鎖構造をとった場合の2本鎖部分の長さとして示すものとする。
【0112】
尚、本明細書において、全長が23塩基以下の2本鎖のRNA干渉誘導性RNAをsiRNAという。
【0113】
標的ヌクレオチド配列と、RNA干渉誘導性RNAに含まれるそれに相補的な配列とは、完全に相補的であることが好ましい。しかし、当該相補配列の中央から外れた位置についての塩基の変異(少なくとも90%以上、好ましくは95%以上の同一性の範囲内であり得る)については、完全にRNA干渉による切断活性がなくなるのではなく、部分的な活性が残存し得る。他方、相補配列の中央部の塩基の変異は影響が大きく、RNA干渉によるmRNAの切断活性が極度に低下し得る。
【0114】
RNA干渉誘導性RNAは、5’及び/又は3’末端に塩基対を形成しない、付加的な塩基を有していてもよい。該付加的塩基の長さは、RNA干渉誘導性RNAが標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り特に限定されないが、通常5塩基以下、例えば2〜4塩基である。該付加的塩基は、DNAでもRNAでもよいが、DNAを用いるとsiRNAの安定性を向上させることができる。このような付加的塩基の配列としては、例えばug-3’、uu-3’、tg-3’、tt-3’、ggg-3’、guuu-3’、gttt-3’、ttttt-3’、uuuuu-3’などの配列が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0115】
shRNAのヘアピンループのループ部分の長さは、標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されないが、通常、5〜25塩基程度である。該ループ部分のヌクレオチド配列は、ループを形成することができ、且つ、shRNAが標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されない。
【0116】
「アンチセンス核酸」とは、標的mRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)を発現する細胞内の生理的条件下で該標的mRNAとハイブリダイズし得るヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズした状態で該標的mRNAにコードされるポリペプチドの翻訳を阻害し得る核酸をいう。アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。
【0117】
本発明のペプチドの発現を特異的に抑制し得るアンチセンス核酸としては、例えば
(A)本発明のペプチドをコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)のヌクレオチド配列又は12塩基以上のその部分配列に相補的なヌクレオチド配列を含む核酸、及び
(B)本発明のペプチドをコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)と治療対象動物(好ましくはヒト)の細胞内でハイブリダイズし得る12塩基以上のヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズした状態で当該本発明のペプチドへの翻訳を阻害し得る核酸
等を挙げることが出来る。
【0118】
アンチセンス核酸中の標的mRNAとハイブリダイズする部分の長さは、本発明のペプチドの発現を特異的に抑制する限り特に制限はなく、通常、約12塩基以上であり、長いものでmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)の全長配列と同一の長さである。ハイブリダイゼーションの特異性を考慮すると、該長さは好ましくは約15塩基以上、より好ましくは約18塩基以上である。また、合成の容易さや抗原性の問題等を考慮すると、標的mRNAとハイブリダイズする部分の長さは、通常、約200塩基以下、好ましくは約50塩基以下、より好ましくは約30塩基以下である。即ち、標的mRNAとハイブリダイズする部分の長さは、例えば約12〜約200塩基、好ましくは約15〜約50塩基、より好ましくは約18〜約30塩基である。
【0119】
アンチセンス核酸の標的ヌクレオチド配列は、本発明のペプチドをコードするの発現を特異的に抑制可能であれば特に制限はなく、本発明のペプチドをコードするのmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)の全長配列であっても部分配列(例えば約12塩基以上、好ましくは約15塩基以上、より好ましくは約18塩基以上)であってもよいし、あるいは初期転写産物のイントロン部分であってもよい。
【0120】
アンチセンス核酸中の標的mRNAとハイブリダイズする部分のヌクレオチド配列は、標的配列の塩基組成によっても異なるが、生理的条件下で本発明のペプチドをコードするmRNAとハイブリダイズし得るために、標的配列の相補配列に対して通常約90%以上(好ましくは95%以上、最も好ましくは100%)の同一性を有するものである。
【0121】
本発明のペプチドをコードするmRNAとしては、配列番号2で示されるヌクレオチド配列のうち、ヒトフィブリノゲンα−E鎖(配列番号3)の582〜621位をコードする部分(即ち、1802〜1921位)を含むヌクレオチド(例えば、配列番号2で示されるヌクレオチド配列)を挙げることができる。本発明のペプチドの発現を特異的に抑制するアンチセンス核酸は、好適には、配列番号2で示されるヌクレオチド配列の1802〜1921位の領域を標的とし、ヒトフィブリノゲンα−E鎖及びその断片である本発明のペプチドの発現を抑制する。
【0122】
アンチセンス核酸の大きさは、通常約12塩基以上、好ましくは約15塩基以上、より好ましくは約18塩基以上である。該大きさは、合成の容易さや抗原性の問題等から、通常約200塩基以下、好ましくは約50塩基以下、より好ましくは約30塩基以下である。
【0123】
天然型の核酸は、細胞中に存在する核酸分解酵素によってそのリン酸ジエステル結合が容易に分解されるので、本発明において使用されるRNA干渉誘導性RNAやアンチセンス核酸は、分解酵素に安定なチオリン酸型(リン酸結合のP=OをP=Sに置換)や2’-O-メチル型等の修飾ヌクレオチドを用いて合成することもできる。RNA干渉誘導性RNAやアンチセンス核酸の設計に重要な他の要素として、水溶性及び細胞膜透過性を高めること等が挙げられるが、これらはリポソームやマイクロスフェアを使用するなどの剤形の工夫によっても克服することができる。
【0124】
本発明のペプチドの発現を特異的に抑制するRNA干渉誘導性RNA及びアンチセンス核酸は、標的とする本発明のペプチドをコードするmRNA配列(例えば配列番号2で表されるヌクレオチド配列)や染色体DNA配列に基づいて標的配列を決定し、市販の核酸自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的なヌクレオチド配列を有する核酸を合成することにより調製できる。2本鎖のRNA干渉誘導性RNAは、センス鎖及びアンチセンス鎖を核酸自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製できる。また、相補的なオリゴヌクレオチド鎖を交互にオーバーラップするように合成して、これらをアニーリングさせた後リガーゼでライゲーションすることにより、より長い2本鎖ポリヌクレオチドを調製できる。
【0125】
本発明のペプチドの発現を特異的に抑制するRNA干渉誘導性RNA又はアンチセンス核酸を発現し得る発現ベクターにおいては、投与対象である哺乳動物(例えばヒト等の霊長類、マウス等のげっ歯類)の細胞(好ましくは、標的とする、本発明のペプチド又はヒトフィブリノゲンα−E鎖を発現している細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターの下流に、上述のRNA干渉誘導性RNA又はアンチセンス核酸或いはそれらをコードする核酸(好ましくはDNA)が機能的に連結されている。
【0126】
使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物(例えばヒト等の霊長類、マウス等のげっ歯類)の細胞(好ましくは、標的とする本発明のペプチド又はヒトフィブリノゲンα−E鎖を発現している細胞内で機能し得るものであれば特に制限はない。プロモーターとしては、polI系プロモーター、polII系プロモーター、polIII系プロモーター等を使用することができる。具体的には、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR等のウイルスプロモーター、β−アクチン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーター、並びにtRNAプロモーター等のRNAプロモーター等が用いられる。
【0127】
RNA干渉誘導性RNAの発現を意図する場合には、プロモーターとしてpolIII系プロモーターを使用することが好ましい。polIII系プロモーターとしては、例えば、U6プロモーター、H1プロモーター、tRNAプロモーター等を挙げることができる。
【0128】
上記発現ベクターは、好ましくはRNA干渉誘導性RNA又はアンチセンス核酸或いはそれらをコードする核酸の下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、上記発現ベクターは、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。上記発現ベクターは、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、SV40複製オリジンなどを、それぞれ機能可能な態様で含有していてもよい。
【0129】
発現ベクターに使用されるベクターの種類は特に制限されないが、哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、プラスミドベクター;レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0130】
本発明のペプチドを特異的に認識し、且つその血管新生促進活性機能を阻害する抗体(中和抗体)も、本発明のペプチドの阻害剤に包含される。「本発明のペプチドへの特異的結合」とは、標的となる本発明のペプチドへの親和性が、バックグラウンド(例、BSA)への親和性よりも強いことを意味する。
【0131】
本明細書において、抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)等の天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体、ヒト抗体、およびこれらの結合性断片が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体又はこれらの結合性断片である。抗体の結合性断片とは、抗原に対する特異的結合活性を有する前述の抗体の一部分の領域を意味し、具体的には例えばF(ab')
2、Fab'、Fab、Fv、sFv、dsFv、sdAb等が挙げられる(Exp. Opin. Ther. Patents, Vol.6, No.5, p.441-456, 1996)。抗体のクラスは、特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgDあるいはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。好ましくは、IgG又はIgMであり、精製の容易性等を考慮するとより好ましくはIgGである。
【0132】
本発明のペプチドを特異的に認識する抗体は、本発明のペプチドやその抗原性を有する部分ペプチド、或いは本発明のペプチドのトランスフェクタントを免疫原として用い、既存の一般的な抗体製造方法に準じて製造することができる。
【0133】
例えば、モノクローナル抗体は、ケーラーおよびミルシュタインらの方法[Nature, vol.256, p.495 (1975)]や、組換えDNA法(Cabillyら、米国特許第4816567号)を用いて作製することができる。
【0134】
キメラ抗体は、前記のようにして得たモノクローナル抗体のV領域をコードするDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる。
【0135】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、これは、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR; complementarity determining region)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(EP125023、WO96/02576参照)。
【0136】
ヒト抗体は、免疫する非ヒト動物としてヒト抗体産生マウス(特許第3030092号、US6632976、US2004073957、US2009253902等)を用いることにより、上述のモノクローナル抗体の製造方法と同様にして製造することが出来る。
【0137】
更に、得られた本発明のペプチドを特異的に認識する抗体の中から、血管新生促進活性機能を阻害する活性を有するものを選択することにより、目的とする中和抗体を得ることが出来る。血管新生促進活性機能を阻害する活性の評価は、上述のように、本発明のペプチドとともに評価対象の抗体をニワトリの有精卵の中へ注入し、胚における新生血管の形成を、コントロール群(本発明のペプチドを注入し、抗体は注入しない群)と比較して、新生血管の形成を抑制しているか否かを評価することにより決定することができる。
【0138】
本発明の剤は、活性成分である本発明のペプチドの阻害剤を薬理学的に許容される一種もしくはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られている任意の方法により製造することができる。本発明の剤は、本発明のペプチドの阻害剤以外の任意の他の治療のための有効成分を更に含んでいてもよい。
【0139】
薬理学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、その具体例としては、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などが挙げられる。製剤化の際には、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加剤を用いてもよい。
【0140】
また、投与経路は、治療に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、通常は、経皮、静脈内等の非経口又は経口で投与される。非経口投与に適当な製剤は、好ましくは受容者の血液と等張である活性化合物を含む滅菌水性剤からなる。例えば、注射剤の場合は、塩溶液、ブドウ糖溶液又は塩水とブドウ糖溶液の混合物からなる担体等を用いて注射用の溶液を調製する。これら非経口剤には、更に、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤等を添加することもできる。また、非経口に適当な製剤は、本発明のペプチドの阻害剤を、注射用蒸留水又は植物油に懸濁して調製したものであってもよく、この場合、必要に応じて基剤、懸濁化剤、粘調剤等を添加することができる。また、非経口に適当な製剤は、本発明のペプチドの阻害剤の粉末又は凍結乾燥品を用時溶解する形であってもよく、必要に応じて賦形剤等を添加することができる。経口製剤としては、錠剤(舌下錠、口腔内崩壊剤を含む)、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、散剤、顆粒剤、トローチ剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などが挙げられる。これらの製剤は、速放性製剤又は徐放性製剤などの放出制御製剤(例、徐放性マイクロカプセル)であってもよい。
【0141】
本発明の剤における、本発明のペプチドの阻害剤の含有量は、通常0.01〜100重量%の範囲内であるが、製剤の形態等により変動し得る。注射剤の場合には、本発明のペプチドの阻害剤の含有量は例えば、0.01〜10重量%の範囲内である。
【0142】
また、本発明の剤は、食品(一般食品類、病者用食品、栄養機能食品、特定保健用食品等)の形態として製剤化することもできる。食品の形態は、粉末、顆粒、錠剤、カプセル、クッキー、ゼリー、飲料、あるいは一般食品の形態が可能である。食品中の本発明のペプチドの阻害剤の含有量は、通常0.01〜100重量%、好ましくは0.1〜30重量%程度とするが、食品が飲料である場合は、溶解性等の観点から通常0.01〜5重量%程度が含まれる。
【0143】
また、食品には、一般の食品素材をベースとするほか、例えば、様々な栄養剤、ビタミン、鉱物(電解質)、ミネラル、合成風味剤、天然風味剤、着色剤、充填剤(チーズ、チョコレート等)、ペクチン酸又はその塩、アルギン酸又はその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール等が含まれていても良い。
【0144】
本発明の剤は、癌の転移、特に癌の血行性転移を抑制する。本発明の癌転移抑制剤は、転移を生じ得るあらゆる癌(例:乳癌、肺癌、前立腺癌、甲状腺癌、腎癌、胃癌、肝癌、子宮癌、大腸癌、皮膚癌など)に適用可能だが、特に乳癌、肝癌、胃癌、および皮膚癌患者に対して好ましく適用される。また、本発明の剤は、血管新生、特に癌細胞周辺における血管新生を抑制する。
【0145】
本発明の剤の投与対象は、通常哺乳動物である。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。哺乳動物は、好ましくは霊長類(ヒト等)又はげっ歯類(マウス等)である。
【0146】
本発明の剤の投与量及び投与回数は、投与形態、患者の年齢、体重、適用疾患、癌の種類、治療すべき症状の性質もしくは重篤度により異なるが、通常、静脈内投与により治療する場合、有効成分である本発明のペプチドの阻害剤として、体重1kg当たり0.01〜800 mgを一日1回ないし数回投与する。しかしながら、これら投与量、投与回数は前述の種々の条件により変動する。
【0147】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0148】
[実施例1]
ヒト原発がん根治後の患者83名の追跡調査を行った。対象原発ガンは、肝臓癌、肺がん、乳癌、前立腺癌、腎臓癌及び複合癌である。エンドポイントは、PET−CT及び画像診断による転移確定までである。一か月ごとの外来受診時に、血清中の転移ペプチドを、分子量5,813の位置のピークとして測定した。
以下に、代表的な7例の患者中における、分子量5,813の位置のピーク強度の推移を示す。
【0149】
(1)肝臓癌患者8年間後ろ向き臨床試験
肝臓癌患者より、骨シンチにより骨転移が確認される前(1994年〜1999年6月)から、骨転移確認後(1999年6月)、骨転移治療開始後(2002年)まで時系列で採血を行い、常法に従って血清を調製した。血清1μLに変性バッファー9μLを加え、よく混合した。10分間、氷上でインキュベーションを行い、プロテインチップ実験バッファー(pH6)90μLを加えた。
プロテインチップ実験バッファー150μLを陽イオン交換プロテインチップ(CM10型番:C5730075)に添加し、5分間室温で振盪しながら平衡化を行った。この作業を2回繰り返した。上記の調整済みの血清サンプルを100μLずつ該プロテインチップに添加し、30分間室温で振盪しながらインキュベーションを行った。プロテインチップ実験バッファー(pH6)150μLをプロテインチップに添加し、5分間室温で振盪しながら平衡化を行った。この作業を3回繰り返した。MilliQ水200μLを各プロテインチップに添加し、リンス、脱塩を行った。この作業を2回繰り返した。プロテインチップを風乾し、飽和エネルギー吸収分子(シナピン酸)溶液を0.5μL添加し、風乾し、この作業を2回行った。その後、プロテインチップリーダーにより測定を行った。ベースライン補正、分子量校正、正規化処理を行った。
結果を
図1に示す。分子量5,813の位置のピーク強度は、骨転移発症前の1997年より経時的に増加し(1999年まで)、骨転移に対する治療開始後は減少した(2002年)。
【0150】
(2)(1)と同様に、骨転移を発症した種々の癌患者の骨転移前後における分子量5,813の位置のピーク強度を測定した。結果を
図2〜7に示す。いずれのケースにおいても、分子量5,813の位置のピークは、骨転移発症前から検出され、経時的に増加した。
【0151】
[実施例2]
転移マーカーの同定
(1)陰イオン交換カラムによる分画
ヒト血清200μLを14,000rpm, 10分間遠心し、上清を得た。この血清に50mM Tris buffer (pH9) 1800μLを加え、氷中20分静置後、14,000rpmで、10分間遠心した。上清を、カラムの4倍量のBuffer (pH 9 + OG) で4回洗浄(平衡化)した陰イオン交換カラムQ Sepharose Fast Flow (GE Healthcare C/N 17-0510-01)へ上清を付し、以下の条件でフラクションの回収をおこなった。
1.非吸着画分(2 ml)
2.洗浄画分(2 ml)
3.50mM Phosphate buffer (pH 7)+ OG (2 ml)
4.50mM Acetate buffer (pH 5)+ OG (2 ml)
5.50mM Acetate buffer (pH 4)+ OG (2 ml)
6.50mM Sitrate buffer (pH 3)+ OG (2 ml)
【0152】
各フラクションを、陽イオン交換チップ(CM10)を用いたSELDIにより解析したところ、非吸着画分(pH9)とpH 7 溶出画分にターゲットピークを検出した(
図8)。この画分を粗精製画分として、次のクロマト分画に供した。
【0153】
(2)陽イオン交換カラムによる分画
(1)で得られた非吸着画分(pH9)pH 7 溶出画分を10%酢酸でpH6に調整し、カラムの5倍量のBuffer (pH 6 + OG) で3回洗浄(平衡化)した陽イオン交換カラムCM Sepharose Fast Flow(GE Healthcare C/N 17-0510-01)に付し、以下の条件でフラクションの回収をおこなった。
1.非吸着画分(4 ml)
2.洗浄画分(0.2 ml×3)
3.0.1M NaCl in 50mM Phosphate buffer (pH 6)+ OG (0.2 ml×3)
4.0.2M NaCl in 50mM Phosphate buffer (pH 6)+ OG (0.2 ml×3)
5.0.3M NaCl in 50mM Phosphate buffer (pH 6)+ OG (0.2 ml×3)
6.0.5M NaCl in 50mM Phosphate buffer (pH 6)+ OG (0.2 ml×3)
7.1M NaCl in 50mM Phosphate buffer (pH 6)+ OG (0.2 ml×3)
【0154】
各フラクションを、順相チップ(NP20)を用いたSELDIにより解析したところ、0.2M NaCl溶出画分と0.3M NaCl溶出画分にターゲットピークを検出した(
図9)。また、+16 ピークの増加が確認されたが(
図10)、再利用のチップを用いたときに+16 ピークの増加が認められやすいため(
図11)、再利用のチップではサンプルをチップに添加した時に酸化されやすい傾向がある(即ち、+16 ピークは酸化物のピークである)と判断し、+16 ピークはターゲットピークと同じものと考えて精製を進めた。
【0155】
(3)逆相HPLCによる分画
(2)で得られた0.2M NaCl溶出画分及び0.3M NaCl溶出画分を、0.1% TFAで5倍希釈して逆相HPLC(2mm column)に供し、以下の条件でアセトニトリル濃度勾配にて溶出した。
カラム: TSK-GEL SuperODS (東ソー)(2×100 mm)
流速: 200μL/min
検出: 210 nm
溶媒A: 0.1% TFA
溶媒B: 90% アセトニトリル/0.1% TFA
グラジエント: 10-50% B/5-40 min
フラクション: 200μL/1 min/Fr
: 100μL/1 min/Fr (リクロマト)
【0156】
各フラクションを SELDI にて分析したところ、目的ピーク m/z 5813 がフラクション28, 29 に確認された(
図12〜14)。更に純度をあげるために 1fr / 0.5 min でリクロマトを行った。目的ピークはフラクション28.5 に確認できた(
図15〜17)。しかし、目的ピーク右隣の質量5905 を分離できていないこと、SELDI では確認できない高分子タンパク質が存在する可能性があることから、順相HPLC による更なる精製を行った。
【0157】
(4)順相HPLCによる分画
(3)のリクロマトで得られたフラクション28.5を、アセトニトリルで5倍希釈して順相HPLCに供し、以下の条件でアセトニトリル濃度勾配にて溶出した。
カラム: TSK-GEL Amide-80 (東ソー)(2×150 mm)
流速: 200μL/min
検出: 210 nm
溶媒A: 0.1% TFA
溶媒B: 90% アセトニトリル/0.1% TFA
グラジエント: 100-85-65% B/5-40 min
フラクション: 100μL/0.5 min/Fr
【0158】
各フラクションを SELDI にて分析したところ、目的ピーク m/z 5813 がフラクション41.5, 42に確認された(
図18〜20)。また、目的ピークを質量5905 のピークと分離させることができた。
【0159】
(5)逆相HPLCによる精製
(4)で得られたフラクション41.5, 42を0.1% TFAで5倍希釈して、更にmicro逆相HPLC(2mm column)に供し、以下の条件でアセトニトリル濃度勾配にて溶出した。
カラム: TSK-GEL SuperODS (東ソー)(1×50 mm)
流速: 50μL/min
検出: 210 nm
溶媒A: 0.1% TFA
溶媒B: 90% アセトニトリル/0.1% TFA
グラジエント: 10-50% B/5-40 min
フラクション: 50μL/1 min/Fr
【0160】
各フラクションを SELDI にて分析したところ、目的ピーク m/z 5813 がフラクション22と22.5に確認された(
図21〜22)。このフラクションは、SELDIデータ m/z 2,000〜100,000の範囲で単一ピークを示したことから、同フラクションをMS/MS 同定用サンプルとした。
【0161】
(6)ターゲットピークm/z 5813の同定解析方法
(5)で得られたフラクション22と22.5中のタンパク質をドライアップした。Digestion bufferを加えて70℃にて3分静置後、修飾トリプシン(Promega)を加え35℃にて、5時間反応させ、消化産物をSELDI分析(NP20チップ)に付した。External calibrationは、Arg-8-Vasopressin (1084.25 mass)、Dynorphin A 209-225 porcine (2147.5 mass)、ACTH1-24 human (29335 mass)、Insulin B-chain bovine (3495.94 mass)で行った。トリプシン消化溶液をLC-MS-MS分析Q-Tof Ultima API (Waters Micromass, UK)にて分析し、マスコットサーチを行った。
【0162】
逆相HPLCで得られたフラクション22及び22.5をトリプシン消化に付したところ、複数個のピークが確認された(
図23)。目的ピーク質量から判断して問題のないピーク数であると判断し、LC-MS/MS解析に供した。同消化産物のMS/MSイオンシグナルを収集し、そのデータをマスコットにてデータベースサーチした。その結果、高スコアで alpha-fibrinogen precursor にヒットし、MS/MSシグナルの配列一致度は高かった。ヒットしたペプチドは、SELDI分析で検出されている主要ピークの質量に一致することから、逆相HPLCで得られたタンパク質が精製タンパク質であると判断された。ヒットタンパク質のデータベース配列からalpha-fibrinogen precursorのC末端領域のペプチドがヒットしていることから(
図24)、ターゲットピークは同タンパク質のC末端フラグメントであると考えられた。C末端領域でヒットした配列を含む領域の質量を調べたところ、領域576-628の断片の質量が 5805 とターゲットピークの質量値とよく一致した。一方、領域576-629 (C末端にVal付加)の質量は5904となり、ターゲットピーク質量のプラス99となる。これは、血清サンプルにおいて、ターゲットピークのプラス100の質量で検出されているピークによく一致する。このプラス100ピークは、クロマトグラフィーの挙動がターゲットピークとほとんど同じであったことから、ターゲットピークと非常に類似した配列のタンパク質であると推測された。また、領域576-628のフラグメントの等電点(pI)が8.07であることは、ターゲットピークがイオン交換において塩基性物質の挙動を示すことに一致した。
以上の結果より、ターゲットピーク 5813 はalpha-fibrinogen precursorのC末端領域576-628のフラグメントであると結論した。
【0163】
[参考例1]
5、813bpターゲットペプチドの部分配列であるQFTSSTSYNRGDSTFESKSYKMADEAGSEADHEGTHSTKR(配列番号1)を含むペプチドCQFTSSTSYNRGDSTFESKSYKMADEAGSEADHEGTHSTKR(配列番号5)(以下、ペプチドA)をHiLyte Fluor 594により標識し、ゲル濾過により未反応物を除去することによりHiLyte Fluor 594標識C2 meleimide−ペプチドAを得た。同様に、リコンビナントFibrinogen protein Human abcam 84410(CYGTGSETESPRNPSS(配列番号6)(以下、ペプチドB)をHiLyte Fluor 555により標識し、ゲル濾過により未反応物を除去することによりHiLyte Fluor 555標識C2 meleimide−ペプチドBを得た。
更に、ペプチドAをウサギに免疫することにより、ペプチドAに対する抗体を作成した。
【0164】
[実施例3]
転移ペプチドの血管新生促進活性
複数のニワトリの有精卵の殻に注射針が入る穴を開け、参考例1で合成したHiLyte Fluor 594標識C2 meleimide−ペプチドAを注入した。その後、20日間、8時間置きに37℃、高湿度状態の環境で卵を回転し続けた。孵化する予定の1〜3日前に摘出し、胚組織、血管の摘出を行った。コントロールである正常有精卵(n=3)の血管組織の平均重量が0.29gであったのに対してペプチドAを注入した有精卵(n=19)の血管組織の平均重量は1.55gであった。この結果から、ペプチドAにより、胚を取り巻く明らかな新生血管の形成が誘導されることが示された。卵中のVEGF濃度を測定したところ、ペプチドAを注入した有精卵において高値を示した(
図25)。
残り1個の卵は、孵化し、生まれた雛をニワトリになるまで約1年間飼育したが、生体レベルでの主訴は認められなかった。
一方、HiLyte Fluor 555標識C2 meleimide−CYGTGSETESPRNPSSを注入した有精卵では、有意な変化は検証できなかった。
【0165】
[実施例4]
癌細胞の転移モデルの作製及びペプチドAの癌細胞転移への影響
シャーレの底にヒト肺がん細胞H460を幡腫し、HiLyte Fluor 594標識C2 meleimide−ペプチドAを0.1pg/mL添加した。その上にヒトの生体マトリックスを想定したペプチドハイドロゲル(株式会社スリー・ディー・マトリックス)をのせた。ペプチドハイドロゲル層の上に8μmの穴の開いたインサートカップを載せ、該カップ中にヒト肺微小血管内皮細胞を一面に幡腫し、がん細胞が動き、転移するメカニズムを調べた(
図26)。
培養24時間後にSEM電子顕微鏡で観察をすると、メンブレン上で新生血管が形成され、その血管の外壁に癌細胞が寄生、生存している様子が確認された(
図27、28)。下層のH460細胞が上層の肺微小血管内皮細胞にまで到達したことが確認された(
図29)。H460細胞へのペプチドAの導入により、培地中のVEGF濃度が上昇した(
図30)。免疫組織染色の結果、H460細胞の表面にペプチドAが接着し、H460細胞がVEGFを産生していることが示された(
図31)。ヒト肺がん細胞H460の不在下でヒト肺微小血管内皮細胞を培養しても、新生血管は生じなかった。
以上の結果から、ペプチドAが癌細胞に作用し、VEGFの発現を促すことで、新生血管の形成を促進する可能性が示された。また、ペプチドAが癌細胞の浸潤及び新生血管への接着に関与する可能性が示された。
【0166】
[実施例5]
ペプチドAによるヒト骨肉腫細胞のVEGF発現
HNNG細胞(ヒト骨肉腫細胞)をペプチドAで処理し、VEGFの発現を免疫組織染色により確認した。その結果、ペプチドA処理により、ペプチドAがHNNG細胞へ接着し、VEGFの発現が誘導されることが示された(
図32)。
【0167】
[実施例6]
インビボ転移試験
GFPを導入したHNNG細胞(ヒト骨肉腫細胞)とペプチドAを混合し、尾静脈よりマウスへ注入した。その結果、HNNG細胞の頭部、腎臓及び脊椎への転移が確認された(
図33、34)。
同様に、GFPを導入していないHNNG細胞(ヒト骨肉腫細胞)とペプチドAを混合し、尾静脈よりマウスへ注入し、免疫組織染色により、ペプチドA及びVEGFの局在を調べた。その結果、マウス血管へのペプチドA及びVEGF発現細胞の局在が確認された(
図35)。
【0168】
[実施例7]
In situ hybridization によるヒト癌組織におけるフィブリノゲンα(FGA)の発現確認
TMA切片を用いてヒト癌組織におけるFGAの発現をIn situ hybridization により解析した。乳癌(Invasive ductal carcinoma、82才・女性)、肝臓癌(Hepatocellular carcinoma、65才・男性)、皮膚がん(Melanoma、43才・男性)、胃癌(Adenocarcinoma、48才・男性)、及び胸腺腫瘍(Malignant thymoma、43才・女性)の原発腫瘍の組織でFGAのmRNAの発現を確認できた(
図36〜38)。
【0169】
[実施例8]
免疫組織染色によるヒト癌組織におけるCD51+CD61(GPIIb/IIIa)の発現の評価
免疫組織染色により、ヒト癌組織においてCD51+CD61(GPIIb/IIIa)の発現が確認された(
図39、40)。CD51+CD61は血小板に存在し、配列番号1のアミノ酸配列中にも存在するRGD配列に結合することから、alpha-fibrinogen precursorのC末端領域576-628のフラグメントが、癌組織への血小板の接着を媒介する可能性が示された。
【0170】
[実施例9]
免疫組織染色によるヒト癌組織におけるp21の発現の評価
免疫組織染色により、ヒト癌組織においてp21の発現が確認された(
図41)。p21は、細胞周期の停止を意味することから、癌組織内において癌細胞の細胞周期が停止している可能性が示された。
【0171】
[実施例10]
ヒト癌組織におけるFGA、p21及びCD51+CD61の発現の評価
ドットブロットハイブリダイゼーションにより、種々のヒト癌組織においてFGA mRNAの発現が確認された(
図42)。また、ドットELISA法により、種々のヒト癌組織においてp21及びCD51+CD61のタンパク質発現が確認された(
図42)。
【0172】
[実施例11]
ペプチドAに対するshRNAによる各がん細胞のマーカー変動
FGAターゲット部位(すなわち、ペプチドA部分)をノックダウンするshRNAを作製し、がん細胞上清のウエスタンブロットを実施した。shRNAは、FGAの発現を抑制した(
図43)。このshRNAをヒト前立腺がん細胞、ヒト乳がん細胞、ヒト大腸がん細胞に導入し、各がん細胞から分泌されているがんマーカーを測定した。
結果を
図44に示す。図中、“Control”は、培養中に何も入れていない。“shRNA”は、FGAのターゲットをノックダウンした細胞を示す。“41aa”は、抗原ペプチドを添加した細胞を示す。ヒト前立腺がん細胞では、shRNAでターゲットFGAを抑制するとPSAマーカーは減少し、ターゲット抗原ペプチド41aaを入れるとPSAマーカーは高値を示した。同じく、ヒト乳がん細胞でも、shRNAでは、がんマーカーErbB2の発現は抑制され、ターゲット抗原ペプチド41aaを入れるとErbB2は高値を示した。ヒト大腸がん細胞でもshRNAによりFGAを抑制するとCEAマーカーは低値を示し、ターゲット抗原ペプチド41aaを入れるとCEAは高値を示した。
【0173】
[実施例12]
ペプチドAに対する抗体の抗腫瘍効果の評価
SCIDマウス(n=80)に癌細胞を移植し、腫瘍重量の経時的な変化を調べた。SCIDマウスに対して、ペプチドAに対する抗体を連日又は隔日、120mg/kgの用量で尾静注した。対照群には抗体医薬の投与を行わなかった。その結果、ペプチドAに対する抗体の投与により、腫瘍重量の増加が有意に抑制された(
図45)。
【0174】
[実施例13]
SCIDマウス(n=21)に癌細胞を移植し、マウスの生存日数をモニターした。SCIDマウスに対して、ペプチドAに対する抗体(120mg/kg)又はペプチドAを尾静注した。対照群にはなにも投与しなかった。その結果、ペプチドAに対する抗体の投与により、生存日数が長くなり、ペプチドAの投与により生存日数が短くなった(
図46)。
【0175】
[実施例14]
ターゲットの分子標的性を検証するために、白人のがん転移組織を免疫蛍光染色した。ペプチドA(41aa)(Alexa 555、赤)及びCD61+CD51(Alexa 488、緑)の発現を評価した。細胞はDAPI染色(青)に付した。結果を
図47に示す。肺がん転移組織の血管の周囲にペプチドA(41aa)の発現が確認された。血管の周囲に、ペプチドA(41aa)(赤)とCD61+CD51(緑)の共局在(オレンジ色)が観察された(
図47、上及び中の写真)。癌細胞(多核)がペプチドA(41aa)と共に血管内に潜んでいる様子が観察された(
図47、下の写真)。
【0176】
[実施例15]
乳がん患者の前向き臨床試験
乳がん患者に対して、1997年7月に胸筋温存乳房切除術を試行し、化学療法とホルモン療法を行った。2000年5月多発性骨転移を認めた。CEA、CA15-3、NCC-ST-439、ALPは、2005年まで、緩やかに上昇または、低値を示した。しかし、ペプチドA(41aa)は、手術後、低値を示したが、一年後には上昇値を示した。