(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記無機化合物が、二酸化ケイ素、炭酸カルシウム及び二酸化チタンのうち、いずれか一種又は二種以上の混合物であることを特徴とする請求項1に記載のフッ素含有ナノコンポジット粒子。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記フッ素含有オリゴマーは、ガラス等の無機材料の表面に、撥油性及び撥水性(時間経過と共に親水性に変わる)の機能を有する表面処理を行い、防汚性を付与するものであるが、原料として使用するオリゴマーを合成するには、フッ素系の過酸化物の使用が必須であるため、原料の入手が困難であり、また撥水性及び撥油性も十分と言えるものではなかった。
【0005】
また、光触媒膜を用いる場合には、親水性に起因する汚れが落ちやすい(洗浄性)という機能は有するものの、汚れが付着しにくいという機能が優れている、というものではなく、防汚という観点においては、その機能の優位性が認められるものではなかった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、無機化合物の親水性、耐久性、表面構造形成能とフッ素化合物が持つ優れた撥水・撥油・防汚特性とを活かす材料であって、低分子量のフッ素化合物を原料とし、高い撥水撥油性、または親水撥油性を有する新規なフッ素含有ナノコンポジット粒子およびその製造方法を提供すること、このフッ素含有ナノコンポジット粒子を含むコーティング剤、油水分離膜、樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1] 下記一般式(1)で表されるフッ素化合物と無機化合物とがナノコンポジット化された複合材料であることを特徴とするフッ素含有ナノコンポジット粒子。
【化1】
上記式(1)中、Rf
1及びRf
2は、それぞれ同一または互いに異なる炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。また、上記Rf
1及びRf
2は、直接結合して環状を形成していても良いし、酸素原子または窒素原子を介して結合し、両者が結合している酸素原子あるいは窒素原子と共に複素環を形成していてもよい。また、Rf
3は、炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。
また、上記式(1)中、Xはハロゲン、又は水酸基(OH)である。
[2] 前記無機化合物が、二酸化ケイ素、炭酸カルシウム及び二酸化チタンのうち、いずれか一種又は二種以上の混合物であることを特徴とする前項1に記載のフッ素含有ナノコンポジット粒子。
[3] 平均粒子径が、5〜1000nmであることを特徴とする前項1又は2に記載のフッ素含有ナノコンポジット粒子。
[4] 撥水撥油性を有することを特徴とする前項1乃至3のいずれか一項に記載のフッ素含有ナノコンポジット粒子。
[5] 親水撥油性を有することを特徴とする前項1乃至3のいずれか一項に記載のフッ素含有ナノコンポジット粒子。
【0008】
[6] 有機溶媒中で、下記一般式(1)で表わされるフッ素化合物と無機化合物とから、ナノコンポジット化された複合材料を合成することを特徴とするフッ素含有ナノコンポジットの製造方法。
【化2】
上記式(1)中、Rf
1及びRf
2は、それぞれ同一または互いに異なる炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。また、上記Rf
1及びRf
2は、直接結合して環状を形成していても良いし、酸素原子または窒素原子を介して結合し、両者が結合している酸素原子あるいは窒素原子と共に複素環を形成していてもよい。また、Rf
3は、炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。
また、上記式(1)中、Xはハロゲン、又は水酸基(OH)である。
[7] 有機溶媒中に無機化合物を分散させて分散液を調整する第1工程と、
前記分散液中に、上記一般式(1)で表されるフッ素化合物を添加して、前記無機化合物と前記フッ素化合物とがナノコンポジット化された複合材料を合成する第2工程と、を含むことを特徴とする前項6に記載のフッ素含有ナノコンポジット粒子の製造方法。
[8] 前記無機化合物が、二酸化ケイ素、炭酸カルシウム及び二酸化チタンのうち、いずれか一種又は二種以上の混合物であることを特徴とする前項6又は7に記載のフッ素含有ナノコンポジット粒子の製造方法。
[9] 前記第2工程において、前記分散液中に酸または塩基触媒を添加し、前記触媒の存在下で合成することを特徴とする前項7又は8に記載のフッ素含有ナノコンポジット粒子の製造方法。
[10] 前記触媒として、アンモニア水を用いることを特徴とする前項9に記載のフッ素含有ナノコンポジット粒子の製造方法。
【0009】
[11] 前項1に記載のフッ素含有ナノコンポジット粒子を含むことを特徴とするコーティング剤。
[12] 前項1に記載のフッ素含有ナノコンポジット粒子を含むことを特徴とする油水分離膜。
[13] 前項1に記載のフッ素含有ナノコンポジット粒子を含むことを特徴とする樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフッ素含有ナノコンポジット粒子は、フッ素化合物と無機化合物とがナノコンポジット化された複合材料であるため、無機化合物の親水性、耐久性、表面構造形成能とフッ素化合物が持つ優れた撥水・撥油・防汚特性とを併せ持つ材料であり、多種多様な用途に適用可能性を有する。
【0011】
本発明のフッ素含有ナノコンポジット粒子の製造方法は、有機溶媒中でフッ素化合物と無機化合物とからナノコンポジット化された複合材料を合成するため、多種多様な用途に適用可能性を有する上記フッ素含有ナノコンポジット粒子を簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した一実施形態であるフッ素含有ナノコンポジット粒子について、その製造方法及びそれを含むコーティング剤、油水分離膜、樹脂組成物とともに詳細に説明する。
【0013】
<フッ素含有ナノコンポジット粒子>
先ず、本実施形態のフッ素含有ナノコンポジット粒子の構成について説明する。
本実施形態のフッ素含有ナノコンポジット粒子は、具体的には、下記一般式(1)で表されるフッ素化合物とナノサイズの無機微粒子とを反応させて得られる有機と無機の複合材料である。
【0015】
ここで、上記式(1)中、Rf
1及びRf
2は、それぞれ同一または互いに異なる炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。また、上記Rf
1及びRf
2は、直接結合して環状を形成していても良いし、酸素原子または窒素原子を介して結合し、両者が結合している酸素原子あるいは窒素原子と共に複素環を形成していてもよい。また、Rf
3は、炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。
【0016】
また、上記式(1)中、Xはハロゲン又は水酸基(OH)である。
【0017】
上記式(1)で表されるフッ素化合物は、含窒素ペルフルオロアルキル基を有するカルボン酸、又はそのハロゲン化物である。具体例としては、例えば、下記式(2)〜(27)で表される構造が挙げられる。式中Xはハロゲン又は水酸基(OH)である。
【0044】
上記式(1)で表されるフッ素化合物は、電解フッ素化法により、当業者に公知の方法で、合成することができる。具体的には、例えば、対応するカルボン酸エステル又はハロゲン化物をフッ化水素中で電解フッ素化することによりカルボン酸フルオリドを得ることができる。また、上記式(1)中のXが水酸基またはフッ素原子以外のハロゲン原子であるものを用いる場合には、例えば、電解フッ素化により得られたペルフルオロアルキル基を有するカルボン酸フルオリドを加水分解処理することにより対応するカルボン酸を生成させることができる。さらにカルボン酸を適当なハロゲン化剤(例えば、塩化チオニル、塩化オキサリル、塩化ホスホリル、塩化スルフリル、三塩化リン、五塩化リン、三臭化リン、五臭化リン、臭化水素、ヨウ化水素等)を反応させて、対応するカルボン酸ハロゲン化物に誘導することにより得ることができる。
【0045】
本実施形態のフッ素含有ナノコンポジット粒子としては、上記式(1)で表されるフッ素化合物が単独で用いられていてもよいし、2種以上が用いられていてもよい。
【0046】
無機化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、二酸化ケイ素(SiO
2)、炭酸カルシウム(CaCO
3)、二酸化チタン(TiO
2)等が挙げられる。
【0047】
無機化合物の平均粒径は、5〜200nmの範囲が好ましく、さらに好ましくは10〜100nmの範囲である。なお、上記平均粒径は、動的光散乱法によって測定することができる。また、無機化合物の形状としては、球状、だ円球状等が挙げられるが、球状が好ましい。
【0048】
本実施形態のフッ素含有ナノコンポジット粒子としては、無機化合物が単独で用いられていてもよいし、2種以上の無機化合物が用いられていてもよい。
【0049】
本実施形態のフッ素含有ナノコンポジット粒子は、平均粒径が5〜1000nmの範囲であることが好ましく、10〜200nmの範囲がより好ましい。平均粒径が上記範囲内であると、撥水撥油性、または親水撥油性を発現するための表面構造を形成する複合材料に適した粒子になるため好ましい。
【0050】
本実施形態のフッ素含有ナノコンポジット粒子は、上記式(1)で表されるフッ素化合物の構造と、フッ素化合物成分と無機化合物成分との組成比とによって、撥水撥油性または親水撥油性を有することとなる。ここで、撥水撥油性とは、水の接触角が100°以上かつドデカンの接触角が40°以上のものを示す。一方、親水撥油性とは、水の接触角が10°以下かつドデカンの接触角が40°以上のものを示す。
【0051】
具体的には、例えば、上記式(1)で表されるフッ素化合物の構造がRf
1=Rf
2=C
4F
9の場合、フッ素化合物成分と無機化合物成分との合計100質量部に対して、上記フッ素化合物成分を20〜95質量部、より好ましくは65〜90質量部含むことにより、本実施形態のフッ素含有ナノコンポジット粒子は、撥水撥油性を示す。
【0052】
これに対して、例えば、上記式(1)で表されるフッ素化合物の構造がRf
1=Rf
2=C
3F
7の場合、上記フッ素化合物成分を20〜95質量部、より好ましくは70〜90質量部含むことにより、本実施形態のフッ素含有ナノコンポジット粒子は、親水撥油性を示す。その他のフッ素化合物についても、無機化合物成分および組成比によって、撥水撥油性または親水撥油性を示す材料を得ることができる。
【0053】
なお、本実施形態のフッ素含有ナノコンポジット粒子には、その効果が損なわれない限度において、上記の必須成分以外にシランカップリング剤などの各種の任意成分が含有されていてもよい。
【0054】
上述したように、本実施形態のフッ素含有ナノコンポジット粒子によれば、分子内に含窒素ペルフルオロアルキル基を有するフッ素化合物を用いる構成となっている。より具体的には、窒素原子に炭素数が6以下の短鎖長のペルフルオロアルキル基が複数結合した含窒素ペルフルオロアルキル基を有しており、分子内に炭素数8以上のペルフルオロアルキル基を含有していないため、分解された場合であっても生体蓄積性や環境適応性の点で問題となるPFOSまたはPFOAを生成する懸念がない化学構造となっている(例えば、無機化合物がカルシウムの場合では、焼却しても有害なフッ化水素が発生せず、フッ化カルシウムとして回収される)。このように、本実施形態のフッ素含有ナノコンポジット粒子は優れた特性を備えた新規な化合物であると同時に、環境への負荷が少なく、リサイクル性も具備した各種表面のコーティング剤や機能性膜材、樹脂添加剤として有用である。
【0055】
すなわち、本実施形態のフッ素含有ナノコンポジット粒子は、含窒素ペルフルオロアルキル基を有するフッ素化合物の構造および当該フッ素化合物と無機化合物との組成比を適宜選択することによって撥水撥油性または親水撥油性の選択が可能であるとともに環境適応性も両立するように設計したものであり、従来のフッ素含有ナノコンポジット粒子からは容易に想到できるものではない。
【0056】
<フッ素含有ナノコンポジット粒子の製造方法>
次に、本実施形態のフッ素含有ナノコンポジット粒子の製造方法の一例について説明する。
本実施形態のフッ素含有ナノコンポジット粒子の製造方法は、有機溶媒中で、下記一般式(1)で表わされるフッ素化合物と無機化合物とから、ナノコンポジット化された複合材料を合成するものである。
【0057】
より具体的には、本実施形態のフッ素含有ナノコンポジット粒子の製造方法は、有機溶媒中に無機化合物を分散させて無機化合物の分散液を調整する工程(第1工程)と、無機化合物の分散液中に、下記一般式(1)で表されるフッ素化合物および触媒を添加して、無機化合物とフッ素化合物とがナノコンポジット化された複合材料を合成する工程(第2工程)と、を含んで概略構成されている。
【0059】
ここで、上記式(1)中、Rf
1及びRf
2は、それぞれ同一または互いに異なる炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。また、上記Rf
1及びRf
2は、直接結合して環状を形成していても良いし、酸素原子または窒素原子を介して結合し、両者が結合している酸素原子あるいは窒素原子と共に複素環を形成していてもよい。また、Rf
3は、炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。
【0060】
また、上記式(1)中、Xはハロゲン、又は水酸基(OH)である。
【0061】
(第1工程)
先ず、第1工程では、有機溶媒中に無機化合物を分散させて、無機化合物の分散液を調整する。
有機溶媒としては、特に限定されるものではなく、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、IPA、テトラヒドロフラン、ヘキサン、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、DMSO、DMF、アセトン、フッ素系溶剤などが挙げられる。これらの中でも、メタノール、エタノール、IPAなどのアルコール類が好ましい。
【0062】
(第2工程)
次に、第2工程では、無機化合物の分散液中に、下記一般式(1)で表されるフッ素化合物を添加して、無機化合物とフッ素化合物とがナノコンポジット化された複合材料を合成する。さらに、反応を促進するために、触媒を添加することが好ましい。
【0063】
触媒としては、具体的には、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重曹、炭酸水素カリウムなどを挙げることができる。これらの触媒の中でも、フッ素含有ナノコンポジットの特性が向上する点で、塩基触媒が好ましく、加熱工程時に揮発しやすい点で、アンモニウム水がさらに好ましい。
【0064】
ここで、触媒は、分散液中のフッ素化合物成分と、無機化合物成分との合計100質量部に対して、10〜1000質量部含むことが好ましく、50〜500質量部含むことがより好ましい。
【0065】
また、第2工程において、無機化合物の分散液中にシランカップリング剤を添加してもよい。
シランカップリング剤としては、化学式[R
1Si(OR
2)
3]で示されるトリアルコキシシランを混合しても良い。具体的には、例えば、トリエトキシシラン、トリエトキシ(メチル)シラン、トリエトキシ(フェニル)シラン、トリメトキシシラン、トリメトキシ(メチル)シランおよびトリメトキシ(フェニル)シラン等が挙げられる。特に、化学式[Si(OR
2)
4]で示されるテトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)等が挙げられる。これらのうち、テトラアルコキシシランが、さらにより好ましく、TMOS及びTEOSは、液状であって特定のフッ素化合物との相溶性が高いので特に好ましい。
【0066】
本実施形態のフッ素含有ナノコンポジット粒子の製造方法によれば、フッ素化合物の構造および当該フッ素化合物と無機化合物との混合比を調整し、有機溶媒中、触媒の添加により、当該フッ素含有ナノコンポジット粒子に撥水撥油性又は親水撥油性を付与することが可能となる。
【0067】
<フッ素含有ナノコンポジット粒子の分散液>
本実施形態のフッ素含有ナノコンポジット粒子を水または有機溶媒に分散させることによって、フッ素含有ナノコンポジット粒子の分散液とすることができる。ここで、有機溶媒としては、上述したものを用いることができ、メタノール、エタノール、IPAなどのアルコール類を用いることが好ましい。
【0068】
また、フッ素含有ナノコンポジット粒子の分散液中には、上述した触媒が含まれていてもよい。
【0069】
なお、上述した本実施形態の製造方法における第2工程後の反応液を、そのまま分散液とすることができる。
【0070】
<コーティング剤>
本実施形態のフッ素含有ナノコンポジット粒子、および上述したフッ素含有ナノコンポジット粒子分散液は、コーティング剤として用いることができ、各種材料表面に対して撥水撥油性や親水撥油性等の機能を付与することが可能となる。その用途としては、電子機器の撥水・防汚、電線等の着氷防止、浴室、洗面道具、信号機、調理場、壁材、鏡、窓ガラス、換気扇、排気口、カーブミラー等の防汚性、防曇性付与に用いられる。
【0071】
<基材のコーティング方法>
上記基材へのコーティング方法としては、ガラス、樹脂、紙等の表面に、コーティング剤として上述したフッ素含有ナノコンポジット粒子分散液を塗布し、塗膜を形成する工程(塗布工程)と、形成した塗膜を加熱処理し、表面処理膜を形成する工程(形成工程)を、この順で含む。
【0072】
また、コーティング剤には、フッ素含有ナノコンポジット粒子と基材との密着性を向上させるため、シランカップリング剤や樹脂成分を混合してもよい。シランカップリング剤としては、上述した化学式[R
1Si(OR
2)
3]で示されるトリアルコキシシラン、化学式[Si(OR
2)
4]で示されるテトラアルコキシシラン等が挙げられる。これらのうち、テトラアルコキシシランが、さらにより好ましく、TMOS及びTEOSは、液状であって特定のフッ素化合物との相溶性が高いので特に好ましい。
【0073】
樹脂としては、フッ素含有ナノコンポジットが分散できる樹脂であれば特に限定されるものではない。このような樹脂としては、具体的には、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、フッ素樹脂、熱可塑性アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、フェノール樹脂や熱硬化性アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。
【0074】
塗布工程において、基材の表面へのコーティング剤の塗布方法としては、当該コーティング剤中に基材を浸漬する浸漬法、スプレー、刷毛、ローラなど塗布手段を使用する、あるいは印刷手法を用いる方法など特に制限されるものではない。
【0075】
なお、この塗布工程の終了後、基材の表面に形成された塗膜から溶剤を除去するために乾燥処理を行うことが好ましい。乾燥条件としては、コーティング剤を構成する溶剤の種類及び含有割合などによっても異なるが、例えば、常温で1〜24時間が挙げられる。
【0076】
<油水分離膜>
ろ紙や不織布に親水撥油性を付与したフッ素含有ナノコンポジット粒子を担持させたものは、親水撥油性の分離膜として用いることができる。この分離膜は、例えば、石油採掘や流出油の回収の際に、水と油とを分離する油水分離膜として使用することが可能である。ここで、膜に対してフッ素含有ナノコンポジット粒子を担持させる方法としては、分散液に浸漬処理を施すコーティング等が適しているが、担持できる手法であれば物理的、化学的な方法何れも限定されない。
【0077】
<樹脂組成物>
本実施形態のフッ素含有ナノコンポジット粒子は、各種樹脂に撥水撥油性や親水撥油性の機能を付与するための添加剤として用いることが可能である。樹脂としては、上述した熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられ、その混合方法は練り込みなど、フッ素含有ナノコンポジットが分散できる方法であれば特に限定されるものではない。
【0078】
以上説明したように、本実施形態のフッ素含有ナノコンポジット粒子およびその分散液は、炭素数8以上のペルフルオロアルキル基を含有せず、生体蓄積性や環境適応性の点で問題となるPFOSまたはPFOAを生成する懸念がない化学構造でありながら、優れた撥水・撥油性または親水・撥油性を付与することが可能である。
【0079】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0080】
以下、実施例によって本発明の効果をさらに詳細に説明する。なお、本発明は実施例によって、なんら限定されるものではない。
なお、以下の
試験例、実施例及び比較例における表面処理膜の評価としては、接触角を用いた。具体的には、得られた表面処理膜の上に水またはドデカン(以下、油という)25μlを滴下させ、ガラス基板と油滴の接触部位で形成される角度(単位:度)を、ERMA製の接触角測定器「G−1−1000」により測定を行った。この接触角値が高いほど、空中において水または油を弾きやすい、すなわち高い撥水撥油性を有するということができる。
【0081】
<
試験例1>
メタノール約5mlに、炭酸カルシウム(白石工業株式会社製(白艶華)PZ、粒子サイズ:80nm)50mgを分散させ、フッ素化合物として200mgの化合物(上記式(5)、X=F)を加え、最後に攪拌しながら28%アンモニア水2mlを加えて3時間反応を行った。次いで、アンモニア水を除去するためにエバポレーターにより溶媒を除去し、メタノールを10ml加えて一晩攪拌し分散させた。さらに、遠心分離器でメタノールにより数回洗浄し、洗浄後の固形分を50℃にて真空乾燥し、フッ素含有ナノコンポジット
粒子を収率13%で得た。
【0082】
(粒径測定)
得られた粉末状のフッ素含有ナノコンポジット粒子をメタノールに加えて、24時間撹拌して分散させ、測定試料とした。光散乱光度計を用いて平均粒径を測定した。平均粒径は21.3±5.3nmであった。
【0083】
(接触角測定)
得られた反応液の一部にガラス基板を浸漬させた後、室温で1日乾燥させ、水とドデカンの接触角測定を行った。結果を下記表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1に示すように、コーティング処理を施した基材は、30分後においても高い水の接触角が得られており、かつ、ドデカンの接触角も経時的に変化がみられなかったことから、撥水撥油性のコーティング膜が得られていることが確認された。
【0086】
<
試験例2〜4>
フッ素化合物と炭酸カルシウムの比を変更した以外は
試験例1と同様にして、試験を行った。下記表2に、フッ素化合物および炭酸カルシウムの添加量と、水とドデカンの接触角測定結果とを示す。
【0087】
【表2】
【0088】
表2に示すように、当該範囲内でフッ素化合物と炭酸カルシウムの比を変更してコーティング処理を施した基材は、30分後においても高い水の接触角が得られており、かつ、ドデカンの接触角も経時的に変化がみられなかったことから、何れも撥水撥油性のコーティング膜が得られていることが確認された。
【0089】
<実施例5>
メタノール約5mlに、炭酸カルシウム(白石工業株式会社製(白艶華)PZ、粒子サイズ:80nm)50mgを分散させ、フッ素化合物として200mgの化合物(上記式(4)、X=F)を加え、最後に攪拌しながら28%アンモニア水2mlを加えて3時間反応を行った。次いで、アンモニア水を除去するためにエバポレーターにより溶媒を除去し、メタノールを10ml加えて一晩攪拌し分散させた。さらに、遠心分離器でメタノールにより数回洗浄し、洗浄後の固形分を50℃にて真空乾燥し、フッ素含有ナノコンポジットを収率17%で得た。
【0090】
(粒径測定)
得られた粉末状のフッ素含有ナノコンポジット粒子をメタノールに加えて、24時間撹拌して分散させ、測定試料とした。光散乱光度計を用いて平均粒径を測定した。平均粒径は48.9±8.6nmであった。
【0091】
(接触角測定)
試験例1と同様に水とドデカンの接触角測定を行った(実施例5−1)。同様にして、セルロース製ろ紙(実施例5−2)、PET繊維製フィルター(実施例5−3)にもコーティング処理を行い、水とドデカンの接触角測定を行った。
一方、未処理のろ紙(比較例1)、PET繊維製フィルター(比較例2)にも同様にして、水とドデカンの接触角測定を行った。結果を下記の表3に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
表3に示すように、コーティング処理を施した基材(実施例5−1〜5−3)は、初期(0分)に撥水性を示すものもあったが、5分後には何れも親水性を示し、その後は接触角に変化は見られなかった。また、ドデカンの接触角は経時的に変化がみられなかったことから、何れも親水撥油性のコーティング膜が得られていることが確認された。
【0094】
<
試験例6>
メタノール約10mlに、メタノールシリカゾル(30%ナノシリカ、平均粒子サイズ:11nm)500mg、フッ素化合物として250mgの化合物(上記式(19)、X=F)およびテトラエトキシシラン0.25mlを加え、最後に攪拌しながら28%アンモニア水0.25mlを加えて5時間反応を行った。次いで、アンモニア水を除去するためにエバポレーターにより溶媒を除去し、メタノールを10ml加えて一晩中攪拌し分散させた。さらに、遠心分離器でメタノールにより数回洗浄し、洗浄後の固形分を50℃にて真空乾燥し、フッ素含有ナノコンポジット
粒子を収率59%で得た。
【0095】
得られた粉末状のフッ素含有ナノコンポジット粒子をポリメタクリル酸メチル樹脂が0.99g溶解したテトラヒドロフラン溶液に0.01g加え、シャーレの中でゆっくりとテトラヒドロフランを揮発させ、ポリメタクリル酸メチル樹脂のフィルムを作成した。フィルム表面のドデカンの接触角を測定した結果、44°であり、ポリメタクリル酸メチル樹脂に撥油性が付与されていることが確認された。
【0096】
<実施例7>
実施例5−2で得られたろ紙を用いて、常圧濾過装置にて油水分離試験を行った。試験液には染料にて赤く着色した水とドデカンの混合液を用いた。結果、赤く着色した水は勢いよくろ紙を通過したものの、ドデカンはろ紙を通過することができず、油水が完全に分離された。