(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施例1〕
以下、本発明の電動車両の制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
まず、構成を説明する。
[電動車両のシステム構成]
図1は、実施例1の電動車両のシステム構成図である。
実施例1の電動車両は、正負のトルク(駆動トルク、制動トルク)を発生させる電動モータ(以下、モータ)100を備える。モータ100には、回転センサ101としてレゾルバが接続され、モータコントローラ102は、回転センサ101の情報を参照してインバータ103に駆動信号を出力する。インバータ103は、駆動信号に応じた電流をモータ100に供給し、モータトルクを制御する。
モータ100の出力軸101aは減速機104に接続され、ディファレンシャルギア105を介して車軸106にトルクを伝達する。モータ100を駆動する電力は高電圧バッテリ(2次バッテリ)107から供給される。高電圧バッテリ107はバッテリコントローラ108によって充電状態や発熱の程度を監視されている。高電圧バッテリ107にはDC-DCコンバータ109が接続され、DC-DCコンバータ109により電圧を降圧して低電圧バッテリ110を充電する。
車両コントローラ111は、図外のブレーキペダルおよびアクセルペダルのストローク(操作量)をブレーキストロークセンサ111aおよびアクセルストロークセンサ111bによって監視しており、ストロークに応じた正または負のトルク指令値を、車内通信ライン112を経由して制動制御装置113に伝達する。
制動制御装置113は、各車輪FL,FR,RL,RRに設けた各車輪速度センサ114a,114b,114c,114dからの各車輪速度情報やモータコントローラ102が出力するモータトルク情報から、駆動スリップ防止制御(TCS制御)や制動スリップ防止制御(ABS制御)等のトルク制御を行う。
制動制御装置113は、摩擦ブレーキトルクを制御する場合、ドライバのペダル踏力に応じて制動制御装置113内のポンプ(不図示)を作動させて油圧配管115を通して各車輪FL,FR,RL,RRに設けた各ブレーキキャリパ(摩擦制動装置)116a,116b,116c,116dにブレーキ液を送り摩擦ブレーキトルクを発生させる。一方、モータトルクを制御する場合、車内通信ライン112によってモータコントローラ102にトルク指令値を与える。
【0009】
[制駆動トルク指令値算出制御]
図2は、車両コントローラ111の制駆動トルク指令値算出制御ブロック図である。
アクセルによるモータトルク指令値算出部(目標駆動トルク算出部)200では、アクセル操作量と車両速度とシフト位置とに基づいてモータトルク指令基準値(目標駆動トルク)を算出する。
図3は、アクセルによるモータトルク指令値算出部200のモータトルク指令値算出制御ブロック図である。モータトルク指令基準値は、アクセル操作量(Accel Stroke)が大きいほど、車両速度が低いほど(≒モータ回転速度(Motor Speed)が低いほど)、駆動トルク(TorquRcf)を大きくする。また、アクセル操作量がゼロの場合、車両速度が所定の速度(例えば、5km/h)以下である停車および低速領域では、オートマチックトランスミッション車のクリープトルクを模擬するために車両速度が低いほど駆動トルクを大きくし、車両速度が前記所定の速度を超える速度領域では、コースト走行状態におけるエンジンブレーキトルクを模擬するための回生ブレーキトルクを与える。なお、シフト位置がリバースの場合は逆となる。アクセル操作量およびモータ回転速度に応じたモータトルク指令基準値は、シフト位置毎や走行モード(スポーツモード、エコモード等)毎にあらかじめマップとして設定されている。
【0010】
ロールバック状態判定部201では、シフト位置と車両速度とによりロールバック状態か否かを判定し、判定結果に応じたロールバック判定フラグを出力する。ロールバック状態とは、路面勾配に起因して、シフト位置に合致した進行方向(ドライバの指示する走行方向)とは反対方向に車両が走行する、車両のずり下がり状態を言う。
図4は、ロールバック状態判定部201のロールバック状態判定制御ブロック図である。車両速度判定ブロック201aは、車両速度がゼロよりも大きい場合には1を出力し、車両速度がゼロ以下の場合には0を出力する。Dレンジ判定ブロック201bは、シフト位置がDレンジ(前輪レンジ)の場合には1を出力し、それ以外の場合には0を出力する。Rレンジ判定ブロック201cは、シフト位置がRレンジ(後退レンジ)の場合には1を出力し、それ以外の場合には0を出力する。否定ブロック201dは、入力値が1の場合は0を出力し、0の場合には1を出力する。論理積ブロック201e,201fは、2つの入力値が全て1の場合には1を出力し、それ以外の場合には0を出力する。論理和ブロック201gは、入力値のいずれか一方が1の場合には1を出力し、それ以外の場合には0を出力する。よって、ロールバック状態判定部201は、Dレンジで車両速度が負(-)の状態、およびRレンジで車両速度が正(+)の状態をロールバックとして、ロールバック判定フラグ1を出力する。なお、車両速度ゼロのときは、厳密にはロールバックでは無いが、境界条件に関して厳密に判定する必要はない。
【0011】
バッテリ充電可能電力算出部(充電可能電力算出部)202では、高電圧バッテリ107のバッテリ残量とバッテリ温度とに基づき、あらかじめ用意された2次元マップから高電圧バッテリ107への充電可能電力(バッテリ充電可能電力)を算出する。
図5は、バッテリ充電可能電力算出部202によるバッテリ充電可能電力算出制御ブロック図である。
図5の2次元マップに示すように、バッテリ充電可能電力は、バッテリ残量が所定残量に達するまでは一定の最大値であり、バッテリ残量が所定残量を超えるとバッテリ残量が多いほど小さくなる。所定残量はバッテリ温度に依存し、バッテリ温度が高くなるほど多くなる。
ブレーキによる車軸トルク指令値算出部203は、ブレーキ操作量に基づいて摩擦ブレーキトルク指令基準値を算出する。摩擦ブレーキトルク指令基準値は、ブレーキ操作量が大きいほど制動トルクを大きくする。
【0012】
ロールバック時モータ回生許容トルク算出部204では、ロールバック判定フラグ、車両速度、シフト位置およびバッテリ充電可能電力に基づいて、ロールバック時モータ回生許容トルクを算出する。
図6は、ロールバック時モータ回生許容トルク算出部204のロールバック時モータ回生許容トルク制御ブロック図である。ロールバック判定フラグが1でシフト位置がDレンジの場合には、Dレンジロールバック時モータ回生許容トルクマップ204aを参照してロールバック時モータ回生許容トルクを算出する。ロールバック判定フラグが1でシフト位置がRレンジの場合には、Rレンジロールバック時モータ回生許容トルクマップ204bを参照してロールバック時モータ回生許容トルクを算出する。Dレンジロールバック時モータ回生許容トルクマップ204aでは、バッテリ充電可能電力が大きいほど、車両速度が高いほど(車両速度の絶対値が小さいほど)、モータ回生許容トルクを大きくする。このとき、モータ100およびインバータ103の損失(内部損失)があるため、低回転・低トルク域では、回生領域であっても実質的に回生電力が発生しない領域(モータ100の回生電力が内部損失以下となる領域)がある。この領域は、図中の実線よりもトルクの絶対値が小さい領域である。バッテリ充電可能電力がゼロの場合は、この実線の値をモータ回生許容トルクとして使用する。Rレンジロールバック時モータ回生許容トルクマップ204bでは、バッテリ充電可能電力が大きいほど、車両速度が低いほど(車両速度の絶対値が小さいほど)、モータ回生許容トルクを大きくする。
【0013】
ロールバック時モータトルク指令値算出部205では、モータトルク指令基準値、ロールバック時モータ回生許容トルクおよびシフト位置に基づいて、ロールバック時モータトルク指令値およびロールバック時代替摩擦ブレーキトルク指令値を算出する。
図7は、ロールバック時モータトルク指令値算出部205のロールバック時モータトルク指令値算出およびロールバック時代替摩擦ブレーキトルク指令値算出の制御ブロック図である。Dレンジ選択時リミッター処理部205aは、モータトルク指令基準値の上限をロールバック時モータ回生許容トルクに制限するリミッター処理を行い、Dレンジ選択時制限後モータトルク指令基準値を演算する。Rレンジ選択時リミッター処理部205bは、モータトルク指令基準値の上限をロールバック時モータ回生許容トルクに制限するリミッター処理を行い、Rレンジ選択時制限後モータトルク指令基準値を演算する。差分演算ブロック205cは、モータトルク指令基準値からDレンジ選択時制限後モータトルク指令基準値を減じてDレンジ選択時代替摩擦ブレーキトルク指令値を演算する。差分演算ブロック205dは、Rレンジ選択時制限後モータトルク指令基準値からモータトルク指令基準値を減じてRレンジ選択時代替摩擦ブレーキトルク指令値を演算する。Dレンジ判定ブロック205eは、シフト位置がDレンジの場合には1を出力し、それ以外の場合には0を出力する。Rレンジ判定ブロック205fは、シフト位置がRレンジの場合には1を出力し、それ以外の場合には0を出力する。出力切り替えスイッチ205gは、Dレンジ判定ブロック205eから1が入力された場合にはDレンジ選択時制限後モータトルク指令基準値を出力し、0が入力された場合には0を出力する。出力切り替えスイッチ205hは、Dレンジ判定ブロック205eから1が入力された場合にはDレンジ選択時代替摩擦ブレーキトルク指令値を出力し、0が入力された場合には0を出力する。出力切り替えスイッチ205iは、Rレンジ判定ブロック205fから1が入力された場合にはRレンジ選択時制限後モータトルク指令基準値をロールバック時モータトルク指令値として出力し、0が入力された場合には出力切り替えスイッチ205gから出力された値をロールバック時モータトルク指令値として出力する。出力切り替えスイッチ205jは、Rレンジ判定ブロック205fから1が入力された場合にはRレンジ選択時代替摩擦ブレーキトルク指令値をロールバック時代替摩擦ブレーキトルク指令値として出力し、0が入力された場合には出力切り替えスイッチ205hから出力された値をロールバック時代替摩擦ブレーキトルク指令値として出力する。
すなわち、ロールバック時モータ回生許容トルクは、ロールバック時のモータトルクの制限値として働くため、モータトルク指令基準値に対しリミッター処理を行う。Dレンジに対しRレンジではトルクの符号が逆になるため、レンジ毎にリミッター処理を行い、レンジにより切り替えてロールバック時モータトルク指令値として出力する。また、ロールバック時代替摩擦ブレーキトルク指令値は、モータトルク指令基準値がロールバック時モータ回生許容トルクにより制限された際のその差分を摩擦ブレーキで代替するためのトルク成分である。よって、モータトルク指令基準値とロールバック時モータ回生許容トルクとの差分から算出するが、ブレーキトルクはDレンジ、Rレンジ共に正の符号で取り扱うため、正の値となるように符号の処理を行う。
【0014】
図2に戻り、摩擦ブレーキトルク指令値算出部(ロールバック時摩擦ブレーキトルク制御手段)206では、ロールバック時代替摩擦ブレーキトルク指令値から摩擦ブレーキトルク指令値を算出する。
図8は、摩擦ブレーキトルク指令値算出部206の摩擦ブレーキトルク指令値算出制御ブロック図である。車軸トルク換算部206aは、ロールバック時代替摩擦ブレーキトルク指令値に減速比(モータ軸から減速機104、ディファレンシャルギア105を介して車軸に至るまでの減速比)を乗じ、モータ軸換算で算出されているロールバック時代替摩擦ブレーキトルク指令値を、ブレーキの作用する車軸トルクに換算する。加算器206bは、車軸換算されたロールバック時代替摩擦ブレーキトルク指令値に摩擦ブレーキトルク指令基準値を加算し、摩擦ブレーキトルク指令値を算出する。
モータトルク指令値算出部(ロールバック時回生ブレーキトルク制御手段)207は、ロールバック判定フラグが0である場合にはモータトルク指令基準値をモータトルク指令値としてモータコントローラ102に出力し、ロールバック判定フラグが1である場合にはロールバック時モータトルク指令値をモータトルク指令値としてモータコントローラ102に出力する。
【0015】
次に、作用を説明する。
[エネルギー回収効率の向上]
一般的に、自動車では、急勾配の登坂路での発進の際、Dレンジで停止状態からブレーキを離し、アクセルに踏み変える際、勾配により一旦後退してから前進方向への駆動力により、減速し車速ゼロの状態を経て前進に移行する。ここで、電気自動車やハイブリッド車両等の電動モータを走行用の駆動源として持つ電動車両では、進行方向(後退)と反対方向(前進)にトルクを発生させるため、電動モータを回生運転して回生制動を行う。このとき、バッテリが満充電状態に近い状態では、充電電力に制限が掛かり、回生電力を受け入れられないため、後退状態での前進方向へのトルクに制限が掛けられ、登坂路発進に支障が出るという問題があった。
このような問題に対し、例えば特許文献1に記載されているように、回生制御に制限が掛けられるような状況では、回生制御を停止し、摩擦制動に切り替える手法が提案されている。
特許文献1に代表されるような従来の技術では、バッテリの充電可能電力が閾値以下の場合に充電制限中として回生制御から摩擦制動に切り替えている。このため、実際にはバッテリの充電可能電力がゼロとなるまでは回収可能な電力が回収できず、エネルギー回収効率が低いという問題があった。
【0016】
これに対し、実施例1では、ロールバック状態であると判定された場合、モータトルク指令基準値の上限を、バッテリ充電可能電力から求めたロールバック時モータ回生許容トルクで制限したモータトルク指令値を算出してモータ100に回生ブレーキトルクを発生させる。このため、高電圧バッテリ107が満充電に近い状態であったとしても、満充電となるまではモータ100を回生運転させて電力を回収することができる。よって、高電圧バッテリ107の過充電を回避しつつ、回生制動によるエネルギー回収効率を向上させることができる。
また、モータトルク指令基準値とロールバック時モータ回生許容トルクとの差分からロールバック時代替摩擦ブレーキトルク指令値を算出して各ブレーキキャリパ116a,116b,116c,116dに摩擦ブレーキトルクを発生させる。すなわち、アクセル操作量に応じて回生ブレーキトルクと摩擦ブレーキトルクとを発生させるロールバック時回生協調制御を行う。これにより、回生ブレーキの不足分を摩擦ブレーキで補うことができ、ドライバ要求に合致した前進方向への駆動力(ブレーキ力)を発生させることができる。
【0017】
図9は、実施例1のロールバック状態での回生トルク制限時の、発進性向上作用を示すタイムチャートであり、ロールバック中に高電圧バッテリ107が満充電とならない例である。前提として、車両は上り坂の途中で停車しており、高電圧バッテリ107は、充電電力に制限が掛かるものの、満充電まではある程度余裕があり、ロールバックから発進する際に回生制動によって発電された電力を充電可能な状態である。
時点t1では、ドライバがブレーキペダルを踏み戻し、ブレーキが解除される。モータ100はクリープトルクに相当する回生ブレーキトルクを出力しているものの、路面勾配によって車両が後退を開始し、車両速度が負(-)側へ大きくなっていく。シフト位置はDレンジであるのに対し、車両が逆方向に走行(後退)するため、ロールバック状態との判定がなされる。
時点t2では、ドライバがアクセルペダルの踏み込みを開始する。モータトルク指令基準値はアクセル操作量に応じて増大するが、モータトルク指令基準値はロールバック時モータ回生許容トルクよりも小さいため、モータトルク指令値は制限されず、アクセル操作量に応じて増大する。車両の駆動力は、回生ブレーキトルクの増大により大きくなる。
時点t3では、モータトルク指令基準値がロールバック時モータ回生許容トルクを超えたため、モータトルク指令値はバッテリ充電可能電力に応じて制限される。このとき、制限された回生ブレーキトルク、すなわち、モータトルク指令基準値とロールバック時モータ回生許容トルクとの差分を補うように摩擦ブレーキトルク指令値が増大するため、車両の駆動力はアクセル操作量に応じて大きくなる。このように、実施例1では、高電圧バッテリ107が電力を受け入れ可能な限りモータ100を回生運転させる構成を採用したため、満充電付近で回生制動を停止し、摩擦制動に切り替える従来技術と比較して、エネルギー回収効率を向上させることができる。
時点t4では、アクセル操作量が定常状態となり、駆動力はアクセル操作量に応じて一定に保たれる。時点t4からt5までの区間では、前方への駆動力により、ロールバックの車両速度の絶対値が小さくなり、それに従い、
図6に示したDレンジロールバック時モータ回生許容トルクマップ204aの特性に沿ってモータ回生許容トルクが増加するため、モータトルク指令値を増大させると共に、摩擦ブレーキトルク指令値を低下させる。
時点t6では、モータ回生許容トルクがモータトルク指令基準値を上回るため、摩擦ブレーキトルク指令値をゼロとし、全ての駆動力をモータトルク指令値により制御する通常制御へと移行する。
【0018】
図10は、実施例1のロールバック状態での回生トルク制限時の、発進性向上作用を示すタイムチャートであり、ロールバック中に高電圧バッテリ107が満充電となる例である。前提として、車両は上り坂の途中で停車しており、高電圧バッテリ107は満充電に近い状態である。
時点t1からt3までの区間は、
図9の時点t1からt3までの区間と同様であるため、説明を省略する。
時点t3では、モータトルク指令基準値がロールバック時モータ回生許容トルクを超えたため、モータトルク指令値はバッテリ充電可能電力に応じて制限され、徐々に減少する。このとき、制限された回生ブレーキトルク、すなわち、モータトルク指令基準値とロールバック時モータ回生許容トルクとの差分を補うように摩擦ブレーキトルク指令値が増大するため、車両の駆動力はアクセル操作量に応じて大きくなる。
時点t4では、高電圧バッテリ107が満充電状態となり、バッテリ充電可能電力がゼロとなったため、モータトルク指令値は
図6に示したDレンジロールバック時モータ回生許容トルクマップ204aの実線上をたどる。回生ブレーキトルクを補う摩擦ブレーキトルク指令値の増大により、車両の駆動力はアクセル操作量に応じて大きくなる。このように、高電圧バッテリ107が満充電状態となった場合には、回生領域のうちの電力消費側の領域を使用することにより、ロールバック中のモータトルク制御を可能としている。ここで、従来技術では、摩擦制動からモータ駆動に切り替える際、車両を一時停止させ、一時停止判定後に摩擦制動からモータ駆動へと切り替えるため、制御の連続性が失われていた。これに対し、実施例1では、たとえ満充電状態となった場合であっても、車両を一時停止させることがないため、ロールバックから前進への移行時、すなわち、車速がゼロを跨いで負から正に切り替わる際も駆動力(前後加速度)の変化の無い、スムーズな制御を実現できる。
時点t5では、アクセル操作量が定常状態となり、駆動力はアクセル操作量に応じて一定に保たれ、その後、ロールバック状態は収束に向かう。車両速度がゼロに近くなるに従い、モータ回生許容トルクが増加するため、モータトルク指令値を増大させると共に、摩擦ブレーキトルク指令値を低下させる。
時点t6では、モータ回生許容トルクがモータトルク指令基準値を上回るため、摩擦ブレーキトルク指令値をゼロとし、全ての駆動力をモータトルク指令値により制御する通常制御へと移行する。
【0019】
次に、効果を説明する。
実施例1にあっては、以下の効果を奏する。
(1) 車両の走行用駆動源としてのモータ100と、モータ100の電源としての高電圧バッテリ107と、各車輪FL,FR,RL,RRに摩擦ブレーキトルクを付与するブレーキキャリパ116a,116b,116c,116dと、モータ100のモータトルク指令基準値を算出するアクセルによるモータトルク指令値算出部200と、高電圧バッテリ107の充電可能電力を算出するバッテリ充電可能電力算出部202と、ドライバの指示する走行方向と反対方向に走行するロールバック状態か否かを判定するロールバック状態判定部201と、充電可能電力で許容できるモータ100の回生トルクであるロールバック時モータ回生許容トルクを算出するロールバック時モータ回生許容トルク算出部204と、ロールバック状態であると判定された場合、モータトルク指令基準値がロールバック時モータ回生許容トルク以下であるときにはモータ100にモータトルク指令基準値と同じトルク値の回生トルクを発生させ、モータトルク指令基準値がロールバック時モータ回生許容トルクを上回るときにはモータ100にロールバック時モータ回生許容トルクを発生させるモータトルク指令値算出部207と、ロールバック状態であると判定され、モータトルク指令基準値がロールバック時モータ回生許容トルクを上回る場合、ブレーキキャリパ116a,116b,116c,116dにモータトルク指令基準値とロールバック時モータ回生許容トルクとの差分と同じトルク値の摩擦ブレーキトルクを発生させる摩擦ブレーキトルク指令値算出部206と、を備えた。
これにより、高電圧バッテリ107が満充電となるまではモータ100を回生運転させて電力を回収することができる。よって、高電圧バッテリ107の過充電を回避しつつ、回生制動によるエネルギー回収効率を向上させることができる。
また、回生ブレーキの不足分を摩擦ブレーキで補い、その掛け替えを回生制御領域内で連続的に配分を変えていく構成としたため、アクセル操作量に応じた前進方向への駆動力(ブレーキ力)、すなわち、ドライバの要求する駆動力を適切に発生させることができる。
(2) ロールバック時モータ回生許容トルク算出部204は、ロールバック状態と判定され、かつ、高電圧バッテリ107が満充電状態となった場合、モータ100の回生電力がモータ100およびインバータ103の損失以下となるようなモータ回生許容トルクを算出する。
これにより、ロールバック中に満充電状態となった場合であっても、モータトルク制御を継続できるため、ロールバックから前進への移行時、駆動力変化の無い、スムーズな制御を実現できる。
【0020】
〔他の実施例〕
以上、本発明を実施するための形態を実施例に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は実施例に示した構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、実施例1では本発明を電気自動車に適用した例を示したが、本発明は、モータのみで発進を行う走行モードを有するハイブリッド車にも適用することができ、実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0021】
FL,FR,RL,RR 車輪
100 電動モータ
107 高電圧バッテリ(2次バッテリ)
116a,116b,116c,116d ブレーキキャリパ(摩擦制動装置)
200 モータトルク指令値算出部(目標駆動トルク算出部)
201 ロールバック状態判定部
202 バッテリ充電可能電力算出部(充電可能電力算出部)
204 ロールバック時モータ回生許容トルク算出部(モータ回生許容トルク算出部)
206 摩擦ブレーキトルク指令値算出部(ロールバック時摩擦ブレーキトルク制御手段)
207 モータトルク指令値算出部(ロールバック時回生ブレーキトルク制御手段)