特許第6236688号(P6236688)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6236688時系列フィルタ処理による架線類検測装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236688
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】時系列フィルタ処理による架線類検測装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/00 20060101AFI20171120BHJP
   G01B 11/02 20060101ALI20171120BHJP
   B60M 1/28 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   G01B11/00 H
   G01B11/02 H
   B60M1/28 R
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-232761(P2013-232761)
(22)【出願日】2013年11月11日
(65)【公開番号】特開2015-94613(P2015-94613A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100078499
【弁理士】
【氏名又は名称】光石 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】230112449
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 春平
(74)【代理人】
【識別番号】100102945
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100120673
【弁理士】
【氏名又は名称】松元 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100182224
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲三
(72)【発明者】
【氏名】深井 寛修
(72)【発明者】
【氏名】庭川 誠
【審査官】 八木 智規
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−243417(JP,A)
【文献】 特開2010−20374(JP,A)
【文献】 特開2010−243416(JP,A)
【文献】 特開2013−15337(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第2244056(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00−11/30
B60M 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
確率論的時系列フィルタを用いた距離データ処理により電車上の架線類を高精度に計測する架線類検測装置において、
前記電車上面に配置された測距センサにより取得された前記架線類の偏位・架線幅・高さを含む距離データを入力する距離データ入力部と、
前記架線類の偏位・架線幅・高さのランダムな値を持つパーティクルを用意するパーティクル初期化部と、
前記パーティクル初期化部により用意されたパーティクル及び前記距離データ入力部で入力された前時刻の距離データを使用して尤度関数に基づき尤度値を計算する尤度計算部と、
前記尤度計算部で計算された尤度値に基づき、尤度値の高いパーティクルが高い確率で選ばれるようにしたリサンプリングを行うリサンプリング部と、
前記リサンプリング部でリサンプリングした前記パーティクルのパラメータを状態遷移モデルに基づいて変化させて新たなパーティクルを作成する状態遷移部と、から構成することを特徴とする架線類検測装置。
【請求項2】
前記架線類は、単一又は複数の架線であることを特徴とする請求項1記載の架線類検測装置。
【請求項3】
前記架線類は、吊架線を含むことを特徴とする請求項2記載の架線類検測装置。
【請求項4】
前記架線類は、渡り線を含むことを特徴とする請求項2又は3記載の架線類検測装置。
【請求項5】
前記尤度関数は、前記架線類領域の前後の距離データの差分の絶対値と、前時刻の前記架線類の偏位・架線幅・高さと現時刻の前記架線類の偏位・架線幅・高さの差とに基づくことを特徴とする請求項1記載の架線類検測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、距離データに対して時系列フィルタ処理を用いて架線類の偏位などを検査・測定するための架線類検測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1(北川源四郎,"モンテカルロ・フィルタおよび平滑化について," 数理統計,第44巻,第1号,pp. 31-48,1996)では、時系列フィルタであるモンテカルロ・フィルタ(パーティクルフィルタと呼ばれる手法と同様の手法である。以後パーティクルフィルタという)の提案を行っている。
【0003】
ここで、パーティクルフィルタについて、図1に基づき説明する。
先ず、図1上段は横軸が状態、縦軸が確率を示す確率密度分布である。本手法では状態は場合によって変わるが(架線の偏位・摩耗の開始位置・摩耗の幅×架線の本数)、どれも多次元になるため、ここでは簡単のため1次元の概念図にして説明している(例えば架線偏位における確率を表す関数とみなせる)。図1上段左は、状態(架線位置、摩耗幅など)の確率密度分布が一様分布であり、図1上段中央は、事後分布に状態遷移モデルをかけて状態の分布を算出している。
【0004】
次に、図1中段は、確率密度分布を離散化して表示したものになる。確率密度分布のような連続関数は数式で表せない場合は計算が不可能であるが、離散化・近似を行うことで元の確率密度分布に近しい値を算出することが出来る。これを図中では、「確率密度分布の近似」と示している。
ここではモンテカルロ法(連続関数の積分値を求める代わりに離散化した値の積和で近似する手法)を用いて離散化している。要は確率密度分布において高い値を示す箇所では密に離散化を、低い箇所では疎に離散化を行う。
【0005】
図1中段左では確率密度分布が一様分布だったため等間隔に離散化を行っている。またこの離散化した際に表現した点の事を粒子(パーティクル)と呼ぶ。
図1下段では中段で得られた離散化した粒子に対して、尤もらしいどうかの評価を行う。これには観測データ(例えば架線偏位の情報が観測されたデータ)を用いる。ここで粒子が尤もらしければ高い値を、尤もらしくなければ低い値を与える。これを尤度という。観測データにより尤度が算出される(事後分布)。
【0006】
全粒子に対して尤度評価を行うことで事後確率(事後分布)が得られる。これは最初に与えられた確率密度分布を事前確率とすると、尤度を用いてベイズの定理で事後確率が求められるためである。よって下段の図は事後確率を表す。
これが左→中→右と、時刻とともに変わる観測データに合わせて変わっていく様子を示したのが図1である。実際には右で終わるのではなく、時刻分この処理が行われる。これを図中では、「繰り返し」と説明している。
【0007】
なお、「図1上段中央は、事後分布に状態遷移モデルをかけて状態の分布を算出している。」と説明したが、ここで、「状態遷移モデル」とは、例えば架線偏位がx1という位置であったら次の時刻にはx2という位置になる確率、の事であり、前時刻の事後分布に対して状態遷移モデル(状態遷移確率、状態遷移方程式とも言う)を用いる事で、新しい(現時刻の)事前分布を得ることが出来る。
【0008】
ちなみに実際に得られる事前分布は離散化されたものであり、図1で言うと処理的には左下段の事後分布を使用し、中の中段の事前分布を得るという事になる。上段はもしこの事前分布を連続関数(確率密度分布)で表すとどうなるかというイメージ図になる。
【0009】
特許文献1(特開2010‐243417,「トロリ線検測装置」)では、測域センサを使って架線を検測するためのセンサの設置方法の改善と、それによるトロリ線の検出について提案を行っている。
【0010】
特許文献2(特開2010‐243416,「トロリ線検測装置及び検測方法」)では、連続している架線検出のために、直線性を見たり探索範囲を限定したりすることで、架線検出の精度を向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010―243417
【特許文献2】特開2010―243416
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】北川源四郎,"モンテカルロ・フィルタおよび平滑化について," 数理統計,第44巻,第1号,pp. 31-48,1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
非特許文献1の方法は、本発明と関連があるパーティクルフィルタの論文である。本発明ではこのパーティクルフィルタを応用して架線検測を行う。
【0014】
特許文献1の方法では、センサの配置方法について議論されているが、架線の検出方法自体は計測データの最下点を使用するものであり、複数架線が存在する場合や渡り線が存在する場合に頑健な手法とはいえず、またノイズの影響に左右される。
【0015】
特許文献2の方法では、架線を数ライン分まとめて処理し、その接続性を見ることで高精度に架線の検測ができるが、決定論的な手法であること、数ラインまとめる場合の区切り方によっても結果が変わってしまう事が問題である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決する本発明の請求項1に係る架線類検測装置は、確率論的時系列フィルタを用いた距離データ処理により電車上の架線類を高精度に計測する架線類検測装置において、前記電車上面に配置された測距センサにより取得された前記架線類の偏位・架線幅・高さを含む距離データを入力する距離データ入力部と、前記架線類の偏位・架線幅・高さのランダムな値を持つパーティクルを用意するパーティクル初期化部と、前記パーティクル初期化部により用意されたパーティクル及び前記距離データ入力部で入力された前時刻の距離データを使用して尤度関数に基づき尤度値を計算する尤度計算部と、前記尤度計算部で計算された尤度値に基づき、尤度値の高いパーティクルが高い確率で選ばれるようにしたリサンプリングを行うリサンプリング部と、前記リサンプリング部でリサンプリングした前記パーティクルのパラメータを状態遷移モデルに基づいて変化させて新たなパーティクルを作成する状態遷移部と、から構成することを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決する本発明の請求項2に係る架線類検測装置は、請求項1において、前記架線類は、単一又は複数の架線であることを特徴とする。
【0018】
上記課題を解決する本発明の請求項3に係る架線類検測装置は、請求項2において、前記架線類は、吊架線を含むことを特徴とする。
【0019】
上記課題を解決する本発明の請求項4に係る架線類検測装置は、請求項2又は3において、前記架線類は、渡り線を含むことを特徴とする。
【0020】
上記課題を解決する本発明の請求項5に係る架線類検測装置は、請求項1において、前記尤度関数は、前記架線類領域の前後の距離データの差分の絶対値と、前時刻の前記架線類の偏位・架線幅・高さと現時刻の前記架線類の偏位・架線幅・高さの差とに基づくことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
(1) 前ラインの距離情報を使用した予測による架線類、即ち、単一又は複数の架線、吊架線・架線、吊架線・架線・吊架線・渡り線検測が可能である。
(2) 過去に計測した架線類、即ち、単一又は複数の架線、吊架線・架線、吊架線・架線・吊架線・渡り線情報を状態遷移方程式として利用した架線・吊架線・渡り線検測が可能である。
(3) 確率論にもとづく予測を用いた架線類、即ち、単一又は複数の架線、吊架線・架線、吊架線・架線・吊架線・渡り線検測が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】パーティクルフィルタの概要図である。
図2】本発明の第1〜4の実施例に係る架線類検測装置のフローチャートである。
図3】本発明の第1〜4の実施例に係る架線類検測装置のブロック図である。
図4】前ラインと次ラインとの関係を示すグラフである。
図5】測距センサにより時系列的に取得される距離データのイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
電車上面から測距センサを用いて取得した1ラインの距離データを用いて、架線類の軌跡を正確に計測したいという要望がある。ここで、架線類とは、本発明においては、単一又は複数の架線を意味する他、更に、吊架線、渡り線を含めた意味で使用する。
【0024】
しかしながら距離データには様々なものが計測されることや、計測誤差が大きい事から単純な処理で架線のみを検出することは困難である。特許文献1,2のように距離データから架線を検出する手法はあるが、前述のとおり問題がある。
【0025】
そこで、本発明では、架線の特徴である「架線領域の前後で距離が大きく変わる」「架線領域は前ラインの偏位や高さから大幅に変化しない」といった情報を用いて架線偏位およびその高さの距離データ処理を用いた計測を行う。
【0026】
まず「架線領域は前ラインの偏位や高さから大幅に変化しない」という特徴があることから、非特許文献1の追跡に有効な時系列フィルタであるパーティクルフィルタを用いて架線の偏位・高さを推定する。
【0027】
パーティクルフィルタの特徴として時系列情報を用いた予測が行えること、決定論ではなく確率論を扱えることが挙げられる。
時系列情報を用いた予測には状態遷移確率が導入できるため、上記の特徴に加えて過去の計測によって既知となっている情報を確率モデルとして使用できる(図1)。
【0028】
パーティクルフィルタでは確率密度分布をサンプリングにより離散化して扱うことにより計算困難性を解消している。
このサンプリング点をパーティクルと呼ぶ。各パーティクルがどれだけ最適解として尤もらしいかを尤度計算によって求めている。
【0029】
この際尤度関数をどのように設定するかが非常に重要となる。
本発明では複数の要素を考慮した尤度関数を用いることで尤もらしさを計算する。まずパーティクルフィルタの状態ベクトルは測距センサで取得された1ライン中の架線の偏位、架線の幅、架線高さの3次元ベクトルとする。
【0030】
次に尤度関数として、架線領域の前後で距離データが大きく変わること、架線領域および高さは前ラインの偏位から大幅に変化しないことを考慮した尤度関数を設定した。
【0031】
つまり、尤度関数は、架線領域の前後の距離データの差分の絶対値と、前時刻(前ライン)の偏位、架線の幅、架線高さと現時刻(現ライン)の偏位、架線の幅、架線高さの差(架線幅以内であればあるほど高い値にする。それより離れた場合は0)とに基づく。
【0032】
具体的には、この2つを組み合わせて尤度関数としている。現状ではそれぞれの値を全て和算したものを用いているが、場合によって各項目の重みを大きくするといった処理(重み付け和)をしている。尤度値は尤度と同じである。
また、架線の形状は大幅には変化が無いことが分かっていることから、偏位情報は前ライン情報を用いて次ラインのおおまかな偏位が推測できる。この情報を用いて状態遷移モデルを定義することで高精度な推定が可能になると考えられる。
【0033】
具体的には現状では2つのケースと手法を考えている。
1つは架線の推移が全く分からない場合の「ランダムウォーク」という手法である。これはランダムに状態遷移させようという手法である。パーティクルフィルタはよくこの方法が用いられる。架線検測では架線偏位は大幅には変化しない事が分かっているので、変化可能な範囲内でランダムウォークをさせる。
【0034】
もう1つは事前に架線の形状と自己位置が既知の場合である。この場合、架線の偏位が次の時刻でどこに来るかがほぼ分かっているため、その情報を状態遷移モデルとして使用する。
【0035】
本発明では、図1にあるような確率密度分布を利用することで、前ラインでの推定(もっとも確率が高かった事例)に誤差が存在した場合でも、次ラインの推定には誤差の生じた結果以外の情報も用いる事ができるため、特許文献1,2のような決定論的なアプローチと比べ毎ラインのロバストな推定が可能になる。
【0036】
ここで、前ライン、次ラインとは、図4に示すように、前時刻のデータ、次時刻のデータと同じ意味である。即ち、図4は、測距センサで得られたラインデータを時刻順に並べたグラフであり、本発明の説明において前ライン、次ラインとは例えば時刻tで得られたラインデータに対して、時刻t−1で得られたデータ、時刻t+1で得られたデータの事を指す。
【0037】
また、本発明では、特許文献2のように「架線の検出」→「連続性の確認」というアプローチではなく、「連続性のある領域で架線を抽出」ということを行うため誤検出の低減、検出精度の向上が可能である。
【0038】
前述した図1の説明で「モンテカルロ法」「パーティクル」という単語を使用した。これらの方法を用いて時系列データを処理する時系列フィルタの事を「パーティクルフィルタ」もしくは「モンテカルロフィルタ」と言う。
事後分布から事前分布を求める方法に「重点サンプリング法」「マルコフ連鎖モンテカルロ法」など様々な派生があるが、基本的に図1の流れで処理をする手法は全て「パーティクルフィルタ」「モンテカルロフィルタ」と言う。
【0039】
全く同じ概念のものであるが、近年ではパーティクルフィルタと呼ばれる事が多い手法である。そのため本発明でもパーティクルフィルタと呼ぶ。非特許文献1ではモンテカルロフィルタと呼んでいたため、同様のものであるという説明を加えたが、全く同一の概念である。ちなみに本発明では「重点サンプリング」という方法を事前分布を得るために用いている。
【0040】
また時系列フィルタにも様々な物があるが、ここで使用している「パーティクルフィルタ」はその中の1つである。また「パーティクルフィルタ」は確率論的アプローチを取る手法のため、確率論的時系列フィルタという呼び方もできる。そこで請求の範囲でそのような名前を使用した。ちなみに確率論的時系列フィルタには他にも「カルマンフィルタ」などがあるが、本発明ではパーティクルフィルタのみを使用している。
【0041】
ここで、「決定論」と「確率論」について、簡単に対比すると以下の通りである。雲が上空に30%ある状態を「晴れ」と説明するのが決定論、「30%の雲がある晴れ」と説明するのが確率論である。○×だけでなくその程度も考慮する事ができるのが確率論的アプローチの優位性である。
「決定論では、「架線の抽出」→「連続性の確認」」となる。これが問題なのは、本当に正しいかどうか分からなくても「この箇所は架線だ」という決定論を毎時刻行い、後からそれが連続していたから正しいという判断をしている事である。
【0042】
どこか1時刻でも間違っていた場合や何かしらの理由で架線が撮像できなかった場合、連続性が途切れてしまい、誤認識する事になる。
それに対して確率論では各時刻で架線らしい領域とその尤もらしさを評価している。
【0043】
前述の決定論的手法だとある1箇所を架線として判定するが、確率論的手法だと複数箇所の(本発明で言えば各パーティクルの)尤もらしさを用いるので、ある1点の結果に左右されない判定を行うことができる。
ここでは1つの測距センサを用いる事を前提に説明をしたが、誤差が大きい事から複数の測距センサを併用した場合にも同様の考えで架線検測を行うことが可能である。
【0044】
測距センサにより、偏位を見つけるのは特許文献1のような手法、つまり背景よりも架線の方が距離が近いという情報を使用する事を考えている。「架線領域の前後で距離が大きく変わる」「架線領域は前ラインの偏位や高さから大幅に変化しない」この情報を満たすのは架線のみであるので、偏位の測定は測距センサで可能である。
【実施例1】
【0045】
(1) 基本的な考え方(実施例1)
本発明の目的は、時系列フィルタを用いた距離データ処理により架線の偏位・架線幅・高さを高精度に計測する架線類検測装置を提供することである。
以下の実施例では、一例として、測距センサ(図示省略)を電車屋根上に鉛直上方を見上げるように設置し、架線を横切るように枕木方向に沿って距離を計測することにより1ライン分の距離データを取得し、図5に示すように、取得した1ライン分の距離データを時系列に並べることにより、架線偏位・架線高さを時系列的に求める。
【0046】
図5は、時刻(t−1),t,(t+1)において、測距センサで時系列的に取得した距離データを示すものである。
測距センサから架線1までの高さは、摩耗幅Aまでの高さがLとなり、摩耗幅以外の架線幅Bまでの高さがL+αとなる。αが十分に小さいときには、摩耗幅Aまでの高さLは、摩耗幅以外のまでの高さL+αに略等しい。
【0047】
背景領域は、理論的には距離無限大となる。基準点Cからの磨耗幅A又は架線幅Bの中心Eまでの距離(枕木方向)が偏位Dとなる。
なお、測距センサは、1台で距離情報を取得できるため、架線類の高さを求められる。
【0048】
本実施例に係る装置構成例を図3に示す。
本実施例による架線類検測装置は、距離データ入力部10、記憶部20、パーティクル初期化部30、尤度計算部40、リサンプリング部50、状態遷移部60、より構成する。
【0049】
距離データ入力部10では、測距センサで時系列的に取得した1ライン分の距離データを入力し、記憶部20へ保管する。距離データには、架線偏位・架線幅・高さの情報が含まれる。
記憶部20では、距離データ、パーティクルデータ、状態遷移確率などの種々のパラメータデータを保管する。
【0050】
パーティクル初期化部30では、一定数のパーティクルに設定した範囲・密度でランダムなパラメータ(架線偏位・架線幅・架線高さ)を設定し、範囲・密度・各パーティクルのパラメータを記憶部20に保管する。パーティクルフィルタの状態ベクトルは測距センサで取得された1ライン中の架線の偏位、架線の幅、架線高さの3次元ベクトルである。
【0051】
尤度計算部40では、尤度関数に基づき、各パーティクルのパラメータと距離データを用いて尤度を計算し、各パーティクルに与えられた尤度を記憶部20に保管する。
リサンプリング部50では、尤度に基づき、尤度の高いパーティクルが高い確率で選ばれるようにしたリサンプリングを行う。
【0052】
リサンプリングしたパーティクルは記憶部20で保管し、リサンプリングに使用したパーティクルは消去する。
状態遷移部60は、リサンプリングしたパーティクルのパラメータを状態遷移モデルに基づいて変化させ新たなパーティクルを作成し、記憶部20で保管する。作成した新たなパーティクルによれば、確率論として、架線偏位・架線幅・架線高さを高精度に計測したことになる。
【0053】
ここで、初期状態での事前分布は通常未知である。そのため図1の左のように、確率密度分布は一様分布と仮定するのが一般的である。
この一様分布をパーティクル初期化部30によりランダムな値をもつパーティクルで表現し、各パーティクルに対して距離データを用いて尤度計算部40により尤度を計算し、リサンプリング部50により事後分布を作成するというのが本実施例の手順である。
【0054】
なお、「パーティクルフィルタ」とは、図1により説明した通り、モンテカルロ法とパーティクルを使い、時系列データを時刻毎に処理することである。よって図2のフローチャートで示す流れはパーティクルフィルタの流れそのものになる。
また、「時系列フィルタを用いた距離データ処理」は、尤度計算を行う際に観測データ(距離データ)を用いる部分にある。
【0055】
本実施例によるフローチャートを図2に示す。
先ず、測距センサにより時系列的に取得された1ラインの距離データを画像入力部10により入力する(ステップS1)。
次に、各パラメータ(架線偏位・架線幅・架線高さ)に設定した範囲・密度でランダムな値をもつパーティクルをパーティクル初期化部30で用意する(ステップS2)。
【0056】
引き続き、尤度関数に基づき、各パーティクルのパラメータと距離データを用いて、各パーティクルの尤度を尤度計算部40により計算する(ステップS3)。
そして、尤度に基づいてリサンプリング処理をリサンプリング部50により行い、リサンプリング後のパーティクルに状態遷移モデルを用いることで状態遷移部60により新たなパーティクルを作成する(ステップS4)。
【0057】
その後、測距センサによる時系列的な距離データの取得が終了するまで(ステップS5)、次の新たに取得された1ラインの画像データを入力し(ステップS6)、ステップS3に戻る。
【0058】
このように説明したように、実施例1によれば、以下の効果を奏する。
(1) 前ラインの距離情報を使用した予測による架線検測が可能である。
(2) 過去に計測した架線情報を状態遷移方程式として利用した架線検測が可能である。
(3) 確率論にもとづく予測を用いた架線検測が可能である。
【実施例2】
【0059】
(2) 基本的な考え方(実施例2)
本発明の目的は、時系列フィルタを用いた距離データ処理により複数架線の偏位・高さを高精度に計測する架線類検測装置を提供することである。
【0060】
実施例1との違いは、単一の架線ではなく複数架線にも対応できる点である。
実施例1では架線偏位・架線幅・架線高さを同時に求めるため、各パーティクルは3次元のパラメータを保持していたが、架線が複数になる事でこのパラメータを変更する必要がある。
【0061】
具体的には架線が架線1a、架線1bの2本の場合、架線1aの偏位、架線1aの幅、架線1aの高さ、架線1aと架線1bの距離(架線1aの偏位と架線1bの偏位の偏差)、架線1bの幅、架線1bの高さの6次元パラメータになる。
【0062】
事前にある程度分かっている2本の架線の幅の情報を用いることで、架線が1本しか無かった場合よりも高精度な認識が可能になるだけでなく、架線の本数が変化する場合にもパーティクルの次元を変更することで柔軟に対応できるようになる。
尤度は、実施例1で用いたものを全架線の本数分に対応をさせることで尤度計算を実現する。
【0063】
本実施例に係る装置構成は、図3に示す実施例1と同様である。
そのため、本発明による架線類検測装置は、距離データ入力部10、記憶部20、パーティクル初期化部30、尤度計算部40、リサンプリング部50、状態遷移部60、より構成する。
【0064】
距離データ入力部10では、測距センサで時系列的に取得した1ライン分の距離データを入力し、記憶部20へ保管する。距離データには、架線偏位・架線幅・高さの情報が含まれる。
記憶部20では、距離データ、パーティクルデータ、状態遷移確率などの種々のパラメータデータを保管する。
【0065】
パーティクル初期化部30では、一定数のパーティクルに設定した範囲・密度でランダムなパラメータ(架線偏位や複数本ある架線の距離、架線本数分の架線幅、架線本数分の高さ)を設定し、範囲・密度・各パーティクルのパラメータを記憶部20に保管する。架線が2本の場合、パーティクルフィルタの状態ベクトルは測距センサで取得された1ライン中の架線の偏位、架線の幅、架線高さの6次元ベクトルである。
【0066】
尤度計算部40では、尤度関数に基づき、各パーティクルのパラメータと距離データを用いて尤度を計算し、各パーティクルに与えられた尤度を記憶部20に保管する。
リサンプリング部50では、尤度に基づき、尤度の高いパーティクルが高い確率で選ばれるようにしたリサンプリングを行う。
【0067】
リサンプリングしたパーティクルは記憶部20で保管し、リサンプリングに使用したパーティクルは消去する。
状態遷移部60は、リサンプリングしたパーティクルのパラメータを状態遷移モデルに基づいて変化させ新たなパーティクルを作成し、記憶部20で保管する。作成した新たなパーティクルによれば、確率論として、架線偏位や複数本ある架線の距離、架線本数分の架線幅、架線本数分の高さを高精度に計測したことになる。
【0068】
本実施例によるフローチャートは、図2に示す実施例1と同様である。
先ず、測距センサにより時系列的に取得された1ラインの距離データを画像入力部10により入力する(ステップS1)。
次に、各パラメータ(架線偏位や複数本ある架線の距離、架線本数分の架線幅、架線本数分の高さ)に設定した範囲・密度でランダムな値をもつパーティクルをパーティクル初期化部30で用意する(ステップS2)。
【0069】
引き続き、尤度関数に基づき、各パーティクルのパラメータと距離データを用いて、各パーティクルの尤度を尤度計算部40により計算する(ステップS3)。
そして、尤度に基づいてリサンプリング処理をリサンプリング部50により行い、リサンプリング後のパーティクルに状態遷移モデルを用いることで状態遷移部60により新たなパーティクルを作成する(ステップS4)。
【0070】
その後、測距センサによる時系列的な距離データの取得が終了するまで(ステップS5)、次の新たに取得された1ラインの画像データを入力し(ステップS6)、ステップS3に戻る。
【0071】
このように説明したように、実施例2によれば、以下の効果を奏する。
(1) 前ラインの距離情報を使用した予測による複数架線検測が可能である。
(2) 過去に計測した複数架線情報を状態遷移方程式として利用した複数架線検測が可能である。
(3) 確率論にもとづく予測を用いた複数架線検測が可能である。
【実施例3】
【0072】
(3) 基本的な考え方(実施例3)
本発明の目的は、時系列フィルタを用いた距離データ処理により複数架線の偏位・高さ及び吊架線の偏位・高さを高精度に計測する架線類検測装置を提供することである。
実施例2との違いは、架線のみではなく吊架線にも対応できることである。
【0073】
実施例2ではパーティクルのパラメータは1本の架線につき3次元のパラメータを保持していたが、本実施例では吊架線の偏位・幅・高さが加わるため1本の架線・吊架線につき6次元のパラメータを保持することになる。
尤度は、実施例2で用いたものに、背景よりも吊架線の距離が近い傾向があることを考慮した尤度関数を加えて、尤度計算を実現する。つまり、尤度関数は、架線と吊架線との間の距離データと架線と背景との間の距離データとにも基づく。
【0074】
本実施例に係る装置構成は、図3に示す実施例1と同様である。
そのため、本実施例による架線類検測装置は、距離データ入力部10、記憶部20、パーティクル初期化部30、尤度計算部40、リサンプリング部50、状態遷移部60、より構成する。
【0075】
距離データ入力部10では、測距センサで時系列的に取得した1ライン分の距離データを入力し、記憶部20へ保管する。距離データには、架線偏位・架線幅・高さ及び吊架線の偏位・幅・高さの情報が含まれる。
記憶部20では、距離データ、パーティクルデータ、状態遷移確率などの種々のパラメータデータを保管する。
【0076】
パーティクル初期化部30では、一定数のパーティクルに設定した範囲・密度でランダムなパラメータ(架線偏位・架線幅・架線高さ、吊架線偏位・吊架線幅・吊架線高さ)を設定し、範囲・密度・各パーティクルのパラメータを記憶部20に保管する。1本の架線・吊架線の場合、パーティクルフィルタの状態ベクトルは測距センサで取得された1ライン中の6次元のパラメータを保持することになる。
尤度計算部40では、尤度関数に基づき、各パーティクルのパラメータと距離データを用いて尤度を計算し、各パーティクルに与えられた尤度を記憶部20に保管する。
【0077】
リサンプリング部50では、尤度に基づき、尤度の高いパーティクルが高い確率で選ばれるようにしたリサンプリングを行う。
リサンプリングしたパーティクルは記憶部20で保管し、リサンプリングに使用したパーティクルは消去する。
【0078】
状態遷移部60は、リサンプリングしたパーティクルのパラメータを状態遷移モデルに基づいて変化させ新たなパーティクルを作成し、記憶部20で保管する。作成した新たなパーティクルによれば、確率論として、架線偏位・架線幅・架線高さ、吊架線偏位・吊架線幅・吊架線高さを高精度に計測したことになる。
【0079】
本実施例によるフローチャートは、図2に示す実施例1と同様である。
先ず、測距センサにより時系列的に取得された1ラインの距離データを画像入力部10により入力する(ステップS1)。
次に、各パラメータ(架線偏位・架線幅・架線高さ、吊架線偏位・吊架線幅・吊架線高さ)に設定した範囲・密度でランダムな値をもつパーティクルをパーティクル初期化部30で用意する(ステップS2)。
【0080】
引き続き、尤度関数に基づき、各パーティクルのパラメータと距離データを用いて、各パーティクルの尤度を尤度計算部40により計算する(ステップS3)。
そして、尤度に基づいてリサンプリング処理をリサンプリング部50により行い、リサンプリング後のパーティクルに状態遷移モデルを用いることで状態遷移部60により新たなパーティクルを作成する(ステップS4)。
【0081】
その後、測距センサによる時系列的な距離データの取得が終了するまで(ステップS5)、次の新たに取得された1ラインの画像データを入力し(ステップS6)、ステップS3に戻る。
【0082】
このように説明したように、実施例3によれば、以下の効果を奏する。
(1) 前ラインの距離情報を使用した予測による架線・吊架線検測が可能である。
(2) 過去に計測した架線・吊架線情報を状態遷移方程式として利用した架線・吊架線検測が可能である。
(3) 確率論にもとづく予測を用いた架線・吊架線検測が可能である。
【実施例4】
【0083】
(4) 基本的な考え方(実施例4)
本発明の目的は、時系列フィルタを用いた距離データ処理により複数架線の偏位・高さ、吊架線の偏位・高さ及び渡り線の偏位・高さを高精度に計測する架線類検測装置を提供することである。
【0084】
実施例3との違いは、架線・吊架線のみではなく渡り線にも対応できることである。
実施例3ではパーティクルのパラメータは1本の架線・吊架線につき6次元のパラメータを保持していたが、本例では渡り線の偏位・幅・高さが加わるため1本の架線・吊架線につき6次元のパラメータに、渡り線が存在した場合さらに3次元のパラメータを加えた9次元のパラメータを保持することになる。
【0085】
尤度は、実施例3で用いたものに、背景よりも渡り線の距離が近い傾向があることを考慮した尤度関数を加えて、尤度計算を実現する。つまり、尤度関数は、架線と渡り線との間の距離データと架線と背景との間の距離データとにも基づく。
【0086】
本実施例に係る装置構成は、図3に示す実施例1と同様である。
そのため、本実施例による架線類検測装置は、距離データ入力部10、記憶部20、パーティクル初期化部30、尤度計算部40、リサンプリング部50、状態遷移部60、より構成する。
【0087】
距離データ入力部10では、測距センサで時系列的に取得した1ライン分の距離データを入力し、記憶部20へ保管する。距離データには、架線偏位・架線幅・高さ、吊架線偏位・吊架線幅・吊架線高さ、渡り線偏位・渡り線幅・渡り線高さの情報が含まれる。
【0088】
記憶部20では、距離データ、パーティクルデータ、状態遷移確率などの種々のパラメータデータを保管する。
パーティクル初期化部30では、一定数のパーティクルに設定した範囲・密度でランダムなパラメータ(架線偏位・架線幅・架線高さ、吊架線偏位・吊架線幅・吊架線高さ、渡り線偏位・渡り線幅・渡り線高さ)を設定し、範囲・密度・各パーティクルのパラメータを記憶部20に保管する。
【0089】
尤度計算部40では、尤度関数に基づき、各パーティクルのパラメータと距離データを用いて尤度を計算し、各パーティクルに与えられた尤度を記憶部20に保管する。
リサンプリング部50では、尤度に基づき、尤度の高いパーティクルが高い確率で選ばれるようにしたリサンプリングを行う。
【0090】
リサンプリングしたパーティクルは記憶部20で保管し、リサンプリングに使用したパーティクルは消去する。
状態遷移部60は、リサンプリングしたパーティクルのパラメータを状態遷移モデルに基づいて変化させ新たなパーティクルを作成し、記憶部20で保管する。作成した新たなパーティクルによれば、確率論として、架線偏位・架線幅・架線高さ、吊架線偏位・吊架線幅・吊架線高さ、渡り線偏位・渡り線幅・渡り線高さを高精度に計測したことになる。
【0091】
本実施例によるフローチャートは、図2に示す実施例1と同様である。
先ず、測距センサにより時系列的に取得された1ラインの距離データを画像入力部10により入力2する(ステップS1)。
次に、各パラメータ(架線偏位・架線幅・架線高さ、吊架線偏位・吊架線幅・吊架線高さ、渡り線偏位・渡り線幅・渡り線高さ)に設定した範囲・密度でランダムな値をもつパーティクルをパーティクル初期化部30で用意する(ステップS2)。
【0092】
引き続き、尤度関数に基づき、各パーティクルのパラメータと距離データを用いて、各パーティクルの尤度を尤度計算部40により計算する(ステップS3)。
そして、尤度に基づいてリサンプリング処理をリサンプリング部50により行い、リサンプリング後のパーティクルに状態遷移モデルを用いることで状態遷移部60により新たなパーティクルを作成する(ステップS4)。
【0093】
その後、測距センサによる時系列的な距離データの取得が終了するまで(ステップS5)、次の新たに取得された1ラインの画像データを入力し(ステップS6)、ステップS3に戻る。
【0094】
このように説明したように、実施例4によれば、以下の効果を奏する。
(1) 前ラインの距離情報を使用した予測による架線・吊架線・渡り線検測が可能である。
(2) 過去に計測した架線・吊架線・渡り線情報を状態遷移方程式として利用した架線・吊架線・渡り線検測が可能である。
(3) 確率論にもとづく予測を用いた架線・吊架線・渡り線検測が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、時系列フィルタ処理を用いて架線類の偏位などを検査・測定するための架線類検測装置架線類検測装置として広く産業上利用可能なものである。
【符号の説明】
【0096】
10 距離データ入力部
20 記憶部
30 パーティクル初期化部
40 尤度計算部
50 リサンプリング部
60 状態遷移部
図1
図2
図3
図4
図5