(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、この種のホルダ装置には、加工時の負荷などによって刃具がホルダ装置の回転軸芯方向に変位し、あるいは、刃具がホルダ装置に対して相対回転してしまう問題があった。
上記の問題に対応した技術としては、例えば以下の特許文献1及び特許文献2に示すものがある。
【0003】
特許文献1に記載のホルダ装置では、ホルダ装置の回転中心部に設けた透孔に刃具を挿入し、ホルダ装置の側に設けられたツールドライバに刃具を固定する。ツールドライバは、ドライバピンによってホルダ装置側の嵌合雌部に相対回転不能に嵌合されている。さらに、ホルダ装置の軸芯上に組み込まれたアジャストスクリューによってツールドライバの前後位置を変更することができる。これにより、ホルダ装置に対する刃具の相対回転を規制すると同時に刃具の突出長さを調節している。
【0004】
特許文献2に記載のホルダ装置は、チャック内に設けたボール頭部を有するロッキング要素と刃具端部に設けたロッキング溝とを係合させる構成の工具の脱出防止部を備えている。さらに、前記脱出防止部は、刃具の回転方向と逆方向、即ち、刃具の緩み方向に向けてロッキング作用が発揮されるよう螺旋状あるいはL字状に構成することにより、刃具のホルダ装置に対する回転軸芯方向への変位及び相対回転を防止している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載のホルダ装置では、ツールドライバの位置をアジャストスクリューで調節可能である。ただし、刃具を固定したツールドライバは、ホルダ本体の内部においてツールドライバがさらに押し込まれるのを防止するように、ツールドライバの基部が単に受け止め固定されているだけである。つまり、ツールドライバはホルダ装置の軸芯方向には拘束されていないため、コレットによる刃具の把持力が損なわれた場合に刃具が抜け出す可能性がある。
上記特許文献2に記載のホルダ装置では、刃具はホルダ装置に対して、回転軸芯方向にも回転方向にも変位を規制されている。しかし、ホルダ装置と刃具とが専用品同士でなければ使用できないものとなってしまう。
また、規格品の刃具に前記ロッキング溝を追加工する必要もあり、入手性や費用的な問題は残る。
そこで、本発明は、刃具の回転および抜け出しを確実に阻止し、多様な刃具に対応して突出長さを調整可能なホルダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るホルダ装置の特徴構成は、軸部材を把持するホルダ本体と、
前記軸部材の回転および抜け出しを規制するように前記軸部材の根元側端部を係合保持し、前記ホルダ本体に回転不能に内挿保持される係合部材と、
前記係合部材と前記ホルダ本体とを
連結すると共に、前記ホルダ本体の回転軸芯の方向に
前記ホルダ本体と前記係合部材との位置を調節可能な調節部材とを備え
、
前記調節部材が、前記ホルダ本体に螺合する第1ネジ部と、前記係合部材に螺合し、前記第1ネジ部と緒元の異なる第2ネジ部とを備え、前記調節部材の回転操作により前記調節部材に対して前記ホルダ本体と前記係合部材とを前記回転軸芯の方向に沿って相対移動させて前記ホルダ本体に対する前記軸部材の突出長さを調節する点にある。
【0008】
本構成のように、ホルダ本体に対して係合部材の位置を調節する調節部材を、ホルダ本体と係合部材とを連結する状態に設けておくことで、加工作業中に工具に対して作用する押込み力および引抜き力の双方に抵抗可能となる。したがって、軸部材の保持力が低下した場合や切削力が大きくなった場合でも、軸部材は係合部材を介してホルダ本体に拘束され、相互の位置関係が変化のない状態を維持することができる。
【0009】
また、係合部材とホルダ本体とが調節部材で連結されているので、調節部材の操作によってホルダ本体に対する係合部材の位置を回転軸芯の両方向への調節が容易となる。その結果、軸部材の突出調節が迅速なものとなる。
【0010】
さらに、係合部材がホルダ本体と別部品で構成されているので、把持する軸部材の形状に応じた係合部材に着脱交換が可能となり、入手性が良く安価な規格品の刃具も使用可能となり、軸部材である刃具の選択範囲が大幅に広がる。
【0011】
ホルダ本体に回転不能に保持される係合部材は、前記係合部材の外面に、前記回転軸芯の方向に沿う姿勢のガイド溝が形成され、前記ガイド溝に係合するガイド凸部が前記ホルダ本体の内部に備えられるものであってもよい。
【0012】
本構成であれば、係合部材の表面に特段の突起部を形成する必要がない。一方、ホルダ本体の内部には、ガイド溝が係合できるだけの僅かな凸部を形成すれば足りるから、前記ガイド凸部の形成も容易となる。よって、操作が簡単で合理的な回転規制部を構成することができる。
【0013】
【0014】
また、本構成であれば、ホルダ本体に対する係合部材の位置調節を調節部材のみの操作で行うことができる。また、係合部材に作用する押込み力あるいは引抜き力がホルダ本体に伝達される際には調節部材のネジ部を介するから、ネジ溝の全体で伝達力を分担することとなる。よって、調節部材ひいてはホルダ装置全体をコンパクトに構成することができる。また、係合保持部が異なる軸部材にも簡単に対応することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔概要〕
本実施形態に係るホルダ装置Hは、例えば各種エンドミルやドリル等の工具の軸部材1を把持するものである。当該分野において、特に、アルミニウムやステンレス、チタン等のいわゆる難削材を加工する場合、さらには、効率化のために切込み深さを大きくしたり、加工速度を上げる場合には、軸部材1には大きなトルクが掛かる。本実施形態のホルダ装置Hは、仮に大きなトルクがかかった場合や軸部材1の把持力が低下した場合でも、軸部材1がホルダ装置Hから抜け出さず、また、ホルダ装置Hとの一体回転を維持する機能を備えるものである。
以下、本実施形態に係るホルダ装置Hを図面を参照しつつ説明する。
【0017】
〔チャック部〕
図1には、本実施形態に係るホルダ装置Hの分解斜視図を示す。また、
図2には、ホルダ装置Hの断面図を示す。
図1および
図2に示すように、軸部材1は、ホルダ装置Hの先端に設けられたコレット2により把持される。コレット2は、ホルダ装置Hを構成するホルダ本体3の先端側からホルダ本体3の内部に挿入装着されている。コレット2の外周側にはチャック部5が設けられている。チャック部5のさらに外周側には多数のローラベアリング4を介してナット部材6が設けられている。
【0018】
尚、ホルダ装置Hは、各種方式のものを利用可能である。例えば、油圧でコレット2を縮径させるものや、軸部材1の外径より小さい内径を備えたコレット2を加熱する焼嵌め式のものであってもよい。また、コレット2を省略して、ホルダ本体3により軸部材1を把持するものであってもよい。
【0019】
〔係合部材〕
軸部材1は、通常、上記チャック部5により把持されるだけで十分である。しかし、難削材を加工する場合や、特に高効率の加工を行うべく軸部材1を深切込み、高速回転あるいは高速送りさせる場合には、加工精度が低下するおそれがある。つまり、軸部材1のうちコレット2から突出した部分の基部に曲げモーメントが作用したり、軸部材にかかる切削負荷により、チャック部5材に対する軸部材1の抜け出しや相対回転が生じるからである。
【0020】
これを防止するために、本実施形態では、軸部材1の基端部と一体化する係合部材7をホルダ本体3の収容部31に内装してある。
図1乃至
図4に示す如く、係合部材7は筒状の部材である。一方には、軸部材1を挿入固定する固定孔71を設け、一方には雌ネジ部77を設けてある。
【0021】
係合部材7に対する軸部材1の固定要領を
図4に示す。この例では、軸部材1の基端部には数条の螺旋溝11が形成してあり、固定孔71の内周面には当該螺旋溝11に係入して軸部材1を固定する固定用凸部72を設けてある。この固定用凸部72は、係合部材7の壁部73に形成した雌ネジ部74に、雄ネジ状に形成した固定用凸部72を螺入させ、この固定用凸部72の頭部を固定孔71の内面75から突出させたものである。
尚、固定用凸部72の構成はこの例に限られるものではなく、例えば固定孔71の内面75に同様の突起を一体成形してもよい。
【0022】
軸部材1に設けた螺旋溝11の螺旋方向は、ホルダ装置Hが回転駆動される際に、軸部材1がホルダ本体3から抜け出ない方向に設定する。固定孔71の奥には、軸部材1の基端部と当接する底部76を形成してある。これにより、軸部材1は係合部材7に対して回転規制され且つ抜け止め規制された状態で取り付けられる。
【0023】
係合部材7の他方の端部には、回転軸芯Xの方向に沿った位置調節用の雌ネジ部77が形成してある。この雌ネジ部77には、
図1及び
図3に示すように軸芯Xの方向に沿った係合部材7の位置調節を行う調節部材8が取り付けられる。本実施形態の調節部材8は、一対の逆ネジ部を備えている。一方は、係合部材7の位置調節用の雌ネジ部77に螺合する第1ネジ部81であり、他方は、ホルダ本体3の収容部31の底部32に設けた雌ネジ部33に螺合する第2ネジ部82である。
【0024】
この調節部材8によって係合部材7の位置調節を行うには、予め調節部材8と係合部材7とを、ホルダ本体3に対して所定の位置関係で装着しておく必要がある。具体的には、
図3に示すように、まず、ホルダ本体3の収容部31に調節部材8を装入し、ホルダ本体3に形成した位置調節用の雌ネジ部33に調節部材8の第2ネジ部82を軽く螺合させておく。ホルダ本体3の雌ネジ部33は、ホルダ本体3の底部32に形成した貫通孔34に連続して形成されており、調節部材8は、この貫通孔34を介してドライバー等で操作可能である。この状態で、収容部31に係合部材7を装入し、係合部材7の雌ネジ部77を調節部材8の第1ネジ部81に位置合わせする。続けて、調節部材8を回転させ、調節部材8の第2ネジ部82をホルダ本体3の雌ネジ部33に螺入させると共に、調節部材8の第1ネジ部81を係合部材7の雌ネジ部77に螺入させる。ドライバーの操作により、軸部材1の先端がコレット2の先端から所定の長さだけ突出するように係合部材7の位置を調節する。
【0025】
係合部材7の外表面78には、
図2および
図4に示すように、回転規制用のガイド溝79が形成してある。このガイド溝79は、係合部材7の周方向に沿って少なくとも一つ形成する。本実施形態では、互いに径方向に対向した位置に2箇所のガイド溝79を設けてある。
尚、
図2乃至
図3および後述の
図5においては、固定用凸部72とガイド溝79との機能を理解し易くするためにこれらの部材が同一平面にあるように表示している。しかし、実際には、
図4に示すように固定用凸部72とガイド溝79とを外周方向に沿って異なる位置に設けてある。このように係合部材7に対して固定用凸部72等の加工部位を分散配置することで係合部材7の強度をより確保することができる。ただし、
図2乃至
図3のように構成しても実用上特に問題は生じない。
【0026】
一方、ホルダ本体3の収容部31を形成する内壁35にはガイド溝79に係入するガイド凸部9を設けてある。このガイド凸部9の側面には、ホルダ本体3に形成した雌ネジ部36に螺入するための雄ネジ部91を形成してある。このようにガイド凸部9とガイド溝79とを形成することで、調節部材8との供回りを防いで位置調節を可能としながら、軸部材1を用いた加工時にはホルダ本体3に対する係合部材7の回転が規制される。
【0027】
このように、係合部材7の外面にガイド溝79を形成し、収容部31の内壁35にガイド凸部9を設けることで、係合部材7の表面に特段の突起部を形成しなくて済む。仮に、係合部材7の外面にガイド凸部9を形成することとすれば、収容部31の入口から係合部材7の定位置となる奥の部位までガイド凸部9を回避する溝部などを形成しなければならない。しかし本構成ではそのような構成は不要となる。
【0028】
一方、ホルダ本体3の内部である収容部31にガイド凸部9を形成する場合にも、前記ガイド溝79が係合できるだけの僅かな凸部を収容部31の内壁35に形成するだけで足り、上記のごとくネジ状のガイド凸部9を螺入させる構成が実現する。このように本構成であれば、係合部材7の回転規制部をより合理的に構成することができる。
【0029】
係合部材7は、ホルダ本体3の収容部31に内装されるが、係合部材7の外表面78と収容部31を形成する内壁35との間には所定の隙間を設けてある。これは、把持される軸部材1の回転軸芯Xが偏心するのを防止するためである。軸部材1の回転軸芯Xは、軸部材1がコレット2に把持されることでほぼ決定される。仮に、係合部材7と収容部31の内壁35との間に隙間がないとすれば、軸部材1には、コレット2の把持による芯出し作用と、係合部材7の把持による芯出し作用とが付与される。この場合、加工誤差等のためにコレット2の軸芯Xと係合部材7の軸芯Xとが一致していないと、軸部材1には曲げ力が加わることになり、ホルダ本体3に対して軸部材1の同芯度及び同軸度が悪くなる。
また、調整部材8の第1ネジ部と第2ネジ部、対する係合部材7の雌ネジ部77とホルダ本体3の雌ネジ部33の同芯度、同軸度により収容部31に対して偏心、傾斜することになる。
即ち、本実施形態の係合部材7は、軸部材1の回転軸芯Xには影響を及ぼすことなく、軸部材1のホルダ本体3に対する相対回転規制効果および抜け止め効果を発揮し、かつ、ホルダ本体3に対する軸部材1の突出長さの調節を容易にする。
【0030】
〔第2実施形態〕
図5には第2実施形態に係る係合部材7のホルダ本体3に対する固定要領を示す。
本実施形態では、調節部材8として、第1ネジ部81と第2ネジ部82とのネジ方向が同じで、ピッチが異なるものを利用する。
図5に示すように、ホルダ本体3の収容部31には、係合部材7およびコレット2の挿入に先立って調節部材8を装着しておく。ホルダ本体3に螺合する第2ネジ部82のネジピッチは、係合部材7に螺合する第1ネジ部81のネジピッチよりも小さく設定してある。よって、係合部材7を取り付ける前の第2ネジ部82の初期位置は、貫通孔34の側に深く入り込んだ位置となる。このため、第1ネジ部81の外径寸法は、第2ネジ部82の外径寸法よりも小さく構成しておき、
図5の初期状態において、第1ネジ部81が貫通孔34の側に引退可能にする。
【0031】
続けて係合部材7を収容部31に挿入し、調節部材8の第1ネジ部81に軽く当接させた状態で、貫通孔34から工具を差し込み、調節部材8を回転させる。これにより、調節部材8はホルダ本体3の内部から収容部31の側に移動し、同時に係合部材7が収容部31の底部32の側に引き込まれる。このようにして軸部材1がコレット2の先端から所定量だけ突出するように調節部材8を操作する。
【0032】
〔その他の実施形態〕
図6には、係合部材7に対する軸部材1の取付態様についての別実施形態を示す。
本別実施形態では、係合部材7の固定孔71の内面に、軸部材1の抜け止め機能を発揮する抜止凸部701を形成し、これとは別に、軸部材1の回転規制を行う回転止め凸部702を設ける。
一方、軸部材1の基端部には、前記抜止凸部701に係合する抜止係止用溝部12を周方向に沿って環状に設けると共に、軸部材1を固定孔71に挿入する際に、抜止凸部701との干渉を避けるよう回転軸芯Xと平行な平面部13が形成してある。この平面部13は、軸部材1の挿入が完了したのち、軸部材1をホルダ本体3に対して加工時の回転方向と反対に回転させることで、回転止め凸部702に当接させることができる。
【0033】
尚、平面部13を形成しただけでは、軸部材1を挿入したのち回転止め凸部に平面部13を当接させるための回転角は僅かとなる。つまり、抜止凸部701も回転止め凸部702も、軸部材1を挿入する際には何れも平面部13と干渉しないことが必要であるから、双方の凸部701,702は周方向の略同じ位置に形成されることとなる。この結果、軸部材1を僅かに回転させただけで回転止め凸部702が平面部13に当接するため、抜止凸部701については軸部材1の抜止め係止用溝12と十分に係合できない可能性がある。そのため、
図6に示すように軸部材1がさらに回転可能となるよう、回転止め凸部702が進入できる回転止用溝部14を平面部13から延出させておいてもよい。このような回転止用溝部14を形成すると、抜止凸部701と抜止め係止用溝12との係合がより確実となって好ましい。ただし、勿論、回転止用溝部14は形成しなくてもよい。
【0034】
図7には、さらに別の軸部材1と係合部材7との固定要領を示す。
本別実施形態では、軸部材1の基端部に固定用の雄ネジ部15が形成されている。これに対して係合部材7の固定孔71には雌ネジ部703が形成してあり、軸部材1の端部が固定孔71の底部76に当接するまで軸部材1を螺入させることができる。軸部材1の雄ネジ部15の螺旋方向は、軸部材1が加工のために回転する際に、軸部材1が係合部材7に対して締まる方向である。
本構成であれば、固定用の雄ネジ部15および雌ネジ部703の全体が互いに当接して抜止効果および回転規制効果を発揮するから、強度的に有利な構成となる。
本構成に適用可能な規格品としては、例えば、DIN 1835−1(extract) FormD,threaded shankなどが挙げられる。
【0035】
尚、図示は省略するが、コレット2と係合部材7は一体物であってもよい。この場合、係合部材7に対する軸部材1の挿入深さは一定となる。つまり、コレット部分の先端からの軸部材1の突出し長さが一定となるから、軸部材1の曲げ特性が一定となる。これにより、ワークの加工時における軸部材1の軸ブレ量が所定範囲に収まり、加工精度が安定なものとなる。また、本構成であれば、調節部材8を操作することで係合部材7と軸部材1とが一体に出退するから、上記軸ブレ量を一定に保持したままホルダ本体3に対する軸部材1の突出長さを設定することができる。本構成においても、コレット部分に該当する先端部の外径を、ガイド溝79を形成する基端部の外径よりも大きく形成しておき、ホルダ本体3に対する把持は主に先端部で行うこととする。これにより、軸部材1の曲り変形が極力阻止され、加工精度のよいホルダ装置を得ることができる。