【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成23年度文部科学省「科学技術戦略推進費」委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
【文献】
長縄 弘親,ポリイオン/粘土を利用した汚染土壌中の放射性セシウムの除去,粘土化学,日本,日本粘土学会,2011年12月25日,第50巻第2号,p52-57
【文献】
長縄弘親,ほか9名,ポリイオンコンプレックスを固定化剤として用いる土壌表層の放射性セシウムの除去,日本原子力学会和文論文誌,日本,一般社団法人 日本原子力学会,2011年 9月27日,Vol10, No.4,p227-234
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記の(a)生分解性の水溶性又は水分散性高分子を、前記の(b)水を主成分とする水系媒体に溶解又は分散したときの溶液の粘度が、4〜30℃において19〜1000mPa・sになるように調整したことを特徴とする請求項1に記載の放射性物質含有森林土壌の固定化溶液。
前記の(b)水を主成分とする水系媒体を100質量部としたときに、前記の(a)生分解性の水溶性又は水分散性高分子の含有量は10〜90質量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の放射性物質含有森林土壌の固定化溶液。
前記の(a)生分解性の水溶性又は水分散性高分子及び(b)水を主成分とする水系媒体に、さらに(c)無機系の放射性物質吸着剤を含有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の放射性物質含有森林土壌の固定化溶液。
前記の(b)水を主成分とする水系媒体を100質量部としたときに、前記の(a)生分解性の水溶性又は水分散性高分子及び(c)無機系の放射性物質吸着剤の含有量はそれぞれ10〜90質量部及び0.1〜15質量部であり、且つ、前記の(c)成分は前記の(a)成分よりも少ない含有量で配合されることを特徴とする請求項5又は6に記載の放射性物質含有森林土壌の固定化溶液。
前記の(b)水を主成分とする水系媒体を100質量部としたときに、前記の(a)生分解性の水溶性又は水分散性高分子及び(c)無機系の放射性物質吸着剤の含有量はそれぞれ20〜60質量部及び0.5〜5質量部であることを特徴とする請求項7に記載の放射性物質含有森林土壌の固定化溶液。
前記の放射性物質を含有する落ち葉又は腐葉土を含む森林土壌を、前記の固定化溶液に含まれる不揮発成分とともに剥離除去した後、前記の不揮発成分を含む森林土壌を所定時間保管又は放置することによって、前記の落ち葉又は腐葉土の発酵を促して減容化処理を行うことを特徴とする請求項9又は10に記載の放射性物質除染方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
腐葉土や落ち葉等を含む放射性物質含有森林土壌の場合は、それらの土壌を除去する際に放射性物質の揮散や放散が簡単に起こりやすく、作業者の内部被曝が従来以上に問題となる。また、前記の放射性物質含有森林土壌は、そのままで処理しようとすると容積的に大量の廃棄物となるため処理作業が煩雑となる。さらに、最終的に保管や保存を行う場合に保管場所の広さが膨大となるため、その場所の確保が困難になる。
【0009】
上記の表面土壌を剥離する除染方法は、次のような理由で落ち葉や腐葉土等を含む森林土壌には適さない。すなわち、上記の(i)又は(ii)の方法は、除去作業時に落ち葉や腐葉土等が舞い上がったり浮遊したりするため、作業者の内部被曝のおそれが高くなる。また、放射性物質が付着又は吸着した落ち葉や腐葉土等を含む森林土壌のすべてを除染することは、膨大で煩雑な作業を要するため実質的に困難である。上記の(iii)の方法では、森林土壌の容積が大きいために多量のポリイオンコンプレックスが必要となり、コスト的に費用のかかる除染方法となるだけではなく、ポリイオンコンプレックスそのものが大量の廃棄物となってしまう。また、ポリイオンコンプレックスは森林土壌を固化する機能だけではなく、保湿機能を有しているため、この保湿機能によって乾燥の際に高温又は長時間が必要となり、森林土壌を固定後直ちに除染作業を行う際に大きな障害となっている。森林土壌の除去を行う場所は、通常、日蔭で風通しの悪い処が多いため、ポリイオンコンプレックスの乾燥には、少なくとも4〜7日、場合によってはそれ以上の期間が必要とされる。
【0010】
上記特許文献1〜4に記載の発明は、被覆層としての使用が記載又は示唆されているだけで、放射性物質含有森林土壌の除染方法としての適用は全く認識されていない。放射性物質で汚染された森林土壌を、上記特許文献1〜4に記載の方法を用いて被覆した状態で山林や雑木林にそのまま放置することは、安全性及び保管上から実質的に不可能である。また、上記特許文献3及び4に記載の被覆層を形成するための溶液は、粘度がそれぞれ5000〜20000cps(mPa・s)及び10000〜20000cps(mPa・s)と高めに設定された組成を有しており、汚染された森林土壌のほとんどを除去するために必要な浸透性を十分に確保することが難しい。
【0011】
さらに、特許文献1〜4に記載の被覆層を構成する組成物は、セシウム等の放射性物質に対して何ら選択性を有しない成分である石膏、紙又は木粉等を含む構成であり、前記の特許文献1に記載されているベントナイトは、単に増粘材又は止水材として使用されているに過ぎない。そのため、これらの組成物が、放射性物質除染のために汚染土壌の固定化溶液として適用できるものなのか否かが不明である。
【0012】
上記特許文献5及び6に記載の発明は、除染方法によって捕集された放射性廃棄物の保管、保存方法に係るものであり、放射性物質含有森林土壌そのものの除去又は捕集するための除染方法としての適用は全く認識されていない。また、上記特許文献5及び6には、溶液を森林土壌の上に塗布又は散布した後、汚染された森林土壌を除去するために使用する固定化溶液の組成又は構成は何ら記載も示唆もされていない。
【0013】
本発明は、係る問題を解決するためになされたものであり、少なくとも放射性物質が付着又は吸着した落ち葉や腐葉土等を含む森林土壌を固定化して剥離除去することによって、該放射性物質の量を人体に影響が出ないレベルまで、迅速、且つ効率的で効果的に低減し、同時に放射性廃棄物の減容化を図るために利用できる放射性物質含有森林土壌の固定化溶液及び該固定化溶液を用いた放射性物質除染方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、放射性物質の付着又は吸着によって汚染された森林土壌だけでなく、必要に応じて該森林土壌と接触している土壌の表面層までも、容易に且つ確実に固定化して剥離除去できるように、前記の森林土壌を高分子で固定する方法に着目するとともに、前記高分子を含有する固定化溶液の構成と組成を最適化することによって上記の課題を解決できることを見出して本発明に到った。
【0015】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
(1)本発明は、(a)
デンプン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース及びアセチル化デンプンから選ばれる少なくとも1種の生分解性の水溶性又は水分散性高分子、及び(b)水を主成分とする水系媒体、を含有し、前記の(a)生分解性の水溶性又は水分散性高分子を、前記の(b)水を主成分とする水系媒体に溶解又は分散したときの溶液の粘度が、4〜30℃において5〜4000mPa・sになるように調整したことを特徴とする放射性物質含有森林土壌の固定化溶液を提供する。
(2)本発明は、前記の(a)生分解性の水溶性又は水分散性高分子を、前記の(b)水を主成分とする水系媒体に溶解又は分散したときの溶液の粘度が、4〜30℃において19〜1000mPa・sになるように調整したことを特徴とする前記(1)に記載の放射性物質含有森林土壌の固定化溶液を提供する。
(3)本発明は、(b)水を主成分とする水系媒体を100質量部としたときに、前記の(a)生分解性の水溶性又は水分散性高分子の含有量が10〜90質量部であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の放射性物質含有森林土壌の固定化溶液を提供する。
(
4)本発明は、前記の
(a)生分解性の水溶性又は水分散性高分子がデンプンであることを特徴とする前記
(1)〜(3)の何れかに記載の放射性物質含有森林土壌の固定化溶液を提供する。
(
5)本発明は、前記の(a)生分解性の水溶性又は水分散性高分子及び(b)水を主成分とする水系媒体に、さらに(c)無機系の放射性物質吸着剤を含有することを特徴とする前記(1)〜
(4)の何れかに記載の放射性物質含有森林土壌の固定化溶液を提供する。
(
6)本発明は、前記の(c)無機系の放射性物質吸着剤が、ベントナイトであることを特徴とする前記
(5)に記載の放射性物質含有森林土壌の固定化溶液を提供する。
(
7)本発明は、前記の(b)水を主成分とする水系媒体を100質量部としたときに、前記の(a)生分解性の水溶性又は水分散性高分子及び(c)無機系の放射性物質吸着剤の含有量はそれぞれ10〜90質量部及び0.1〜15質量部であり、且つ、前記の(c)成分は前記の(a)成分よりも少ない含有量で配合されることを特徴とする前記
(5)又は(6)に記載の放射性物質含有森林土壌の固定化溶液を提供する。
(
8)本発明は、前記の(b)水を主成分とする水系媒体を100質量部としたときに、前記の(a)生分解性の水溶性又は水分散性高分子及び(c)無機系の放射性物質吸着剤の含有量はそれぞれ20〜60質量部及び0.5〜5質量部であることを特徴とする前記
(7)に記載の放射性物質含有森林土壌の固定化溶液を提供する。
(
9)本発明は、前記(1)〜
(4)の何れかに記載の固定化溶液を用いて、該固定化溶液を放射性物質を含有する落ち葉又は腐葉土を含む森林土壌の表面に塗布又は散布する工程、前記の固定化溶液を乾燥して前記の(b)水を主成分とする水系媒体を揮散させることによって、前記の森林土壌を前記の(a)成分で固定化する工程、及び前記の森林土壌を前記の固定化溶液に含まれる不揮発成分とともに剥離除去する工程、を含む放射性物質除染方法を提供する。
(
10)本発明は、前記
(5)〜(8)の何れかに記載の固定化溶液を用いて、該固定化溶液を放射性物質を含有する落ち葉又は腐葉土を含む森林土壌の表面に塗布又は散布する工程、前記の固定化溶液を乾燥して前記の(b)水を主成分とする水系媒体を揮散させることによって、前記の森林土壌と前記の(c)無機系の放射性物質吸着剤とを前記の(a)成分で固定化する工程、及び前記の森林土壌を前記の固定化溶液に含まれる不揮発成分とともに剥離除去する工程、を含む放射性物質除染方法を提供する。
(11)本発明は、前記の放射性物質を含有する落ち葉又は腐葉土を含む森林土壌を、前記の固定化溶液に含まれる不揮発成分とともに剥離除去した後、前記の不揮発成分を含む森林土壌を所定時間保管又は放置することによって、前記の落ち葉又は腐葉土の発酵を促して減容化処理を行うことを特徴とする前記
(9)又は(10)に記載の放射性物質除染方法を提供する。
(
12)本発明は、前記
(5)〜(8)の何れかに記載の固定化溶液を森林全体に散布することによって、放射性物質を含有する落ち葉又は腐葉土を含む森林土壌を除去する際に、森林中の樹木の葉に付着する放射性物質を合わせて除去する放射性物質除染方法であって、次の(A)、(B)、(C)及び(D)の工程、すなわち(A)前記の樹木の葉に前記の固定化溶液を付着又は接着させる工程、(B)前記の固定化溶液が付着又は接着した状態で、前記の樹木の葉に付着の放射性物質を前記の固定化溶液に含まれる(c)無機系の放射性物質吸着剤に吸着させる工程、(C)森林全体に水を散布するか、若しくは雨水によって前記の固定化溶液の溶解とともに、前記の(c)無機系の放射性物質吸着剤を森林土壌表面又は森林土壌中に移動させる工程、及び(D)前記の(c)無機系の放射性物質吸着剤を含む森林土壌を、前記の放射性物質を含有する落ち葉又は
腐葉土を含む森林土壌とともに除去する工程、からなることを特徴とする放射性物質除染方法を提供する。
[発明の効果]
【発明の効果】
【0016】
本発明の固定化溶液によれば、放射性物質で汚染された森林土壌の深さ方向に短時間で確実に浸透するため、汚染された放射性物質含有森林土壌だけでなく、必要に応じて該森林土壌と接触している土壌の表面層までも生分解性の高分子によって固定化できる。また、本発明の生分解性高分子は、乾燥性に優れるため、塗布又は散布後に乾燥して固化するまでの時間を削減でき、加えて、水系媒体に均一に溶解または分散するため、除染処理工程において取扱いが容易となる。そのため、有機溶剤等の使用による環境への負荷を考慮する必要がなく安全性に優れる。本発明の固定化溶液に含まれる生分解性高分子は、放射性物質含有森林土壌を固定化する接着剤、粘着剤又は糊剤としての機能を有するため、前記の森林土壌の剥離と除去が容易になるだけではなく、除染時の放射性物質の飛散を防ぎ、作業者の内部被曝を軽減できるという効果を奏する。特に、生分解性高分子として使用する多糖類、好ましくはデンプンは、放射性物質含有森林土壌を強固に固定化する機能が高い。それによって、本発明による放射線物質除染方法は、放射性物質含有森林土壌、必要に応じて該森林土壌と接触している土壌の表面層までも剥離することができるようになり、除染作業を迅速、且つ効率的で効果的に進めることができる。
【0017】
本発明では、固定化溶液に、さらにベントナイト等の無機系の放射性物質吸着剤を含有することによって、上記の連続層の形成において該放射性物質吸着剤が乾燥するときに、周辺の水分を吸収する効果(サンクション効果)が起こり、セシウム等の放射性物質の前記吸着剤への吸着が促進される。吸着された放射性物質は前記吸着剤の層間や孔内に固定され、安定的に保持される。そのため、土壌を汚染する放射性物質は、土壌内での移動速度が低下し、確実に、且つ安定的に除染される。その結果、除染時の放射性物質の飛散防止及び作業者の内部被曝の軽減を一層図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の固定化溶液は、(a)生分解性の水溶性又は水分散性高分
子、及び(b)水を主成分とする水系媒体を含有し、且つ、4〜30℃における粘度が5〜4000mPa・sの範囲に調整されるものであり、放射性物質が付着又は吸着して汚染された森林土壌表面に、吹き付け法、流し込み法又は刷毛塗り法等によって塗布又は散布した後、乾燥することによって生分解性の高分子で固定された森林土壌を剥離除去する工程からなる放射性物質含有森林土壌の除染方法に適用する。本発明において、森林土壌とは、落ち葉又は腐葉土等を含むものであり、前記の森林土壌に接触して下部層を形成する通常の土壌とは区別されるものである。
【0020】
上記でも述べたように、森林土壌では放射性物質のほとんどは落ち葉又は腐葉土等に付着又は吸着される。本発明の固定化溶液は、放射性物質を含有する落ち葉又は腐葉土等を含む森林土壌の固定化のために利用される、さらに、前記の森林土壌だけではなく、放射性物質含有森林土壌の除染を確実に行うために、該森林土壌に接触して下部層を形成する土壌の表面部分を固定化するためにも利用することができる。
【0021】
前記の(a)及び(b)の各成分は、本発明の目的を達成するために、次のような機能を発揮する。すなわち、前記の(a)成分が汚染森林土壌の接着剤、粘着剤又は糊剤としての機能を果すことによって、汚染森林土壌が固定化される。前記の(a)成分は水溶性又は水分散性であり、(b)水系媒体に溶解又は分散して使用するため、環境への影響がほとんどなく固定化溶液の取扱いが容易になるだけではなく、除染のために大量に塗布又は散布しても環境問題の発生が非常に小さくなる。また、固定化される放射性物質含有森林土壌をそのままの状態で処理する場合、落ち葉や腐葉土を発酵させることで廃棄量又は処分量の減容化を図ることができるが、(a)成分は生分解性であるため、この発酵の段階で細菌や微生物の栄養となり、発酵をスムーズに進行させる効果を有するだけでなく、(a)成分そのものの分解が起こる。
【0022】
そして、(a)及び(b)の各成分を含有する固定化溶液の粘度範囲は、放射性物質含有森林土壌への浸透性の向上、乾燥後に固定化される放射性物質含有森林土壌の厚さの最適化、及び固定化された放射性物質含有森林土壌を剥離除去する際に、前記森林土壌の離散及び除去残しの抑制、等のすべての条件を満たすように規定される。特に、本発明の固定化溶液は、森林土壌への浸透性の向上、及び前記の(a)成分によって固定化される放射性物質含有森林土壌の厚さの最適化を図るため、上記の特許文献3及び4に記載の被覆層とは全く異なる技術思想に基づいて、粘度を低めに規定することに特徴を有する。
【0023】
本発明において、(a)生分解性の水溶性又は水分散性の高分子としては、例えば、多糖類の天然高分子又はポリビニルアルコール等の化学合成高分子が挙げられる。
【0024】
多糖類としては、実質的に水溶性であり、可塑化(溶融化)後脱水化により剛直化(硬化)するものであれば、特に限定されない。例えば、下記の各多糖類を使用できる。
【0025】
(A)デンプン類
(A1)コーンスターチ、小麦デンプン等の地上茎未変性デンプン、
(A2)タピオカ、馬鈴薯デンプン等の地下茎未変性デンプン、
(A3)各地上茎、地下茎デンプンの低度エステル化、低度エーテル化、架橋、酸化、酸処理、デキストリン化、α化された化工デンプン、
(B)セルロース類
カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カチオン化セルロース等
(C)海藻多糖類
寒天、アルギン酸、カラーギナン等
(D)微生物多糖類
プルラン、デキストラン、キサンタンガム等
(E)その他の植物性多糖類
マンナン、アラビアゴム、グアガム、トラガントガム、ローカストガム、タマリンド等。
【0026】
また、上記のデンプンの反応性水酸基をエステル置換(有機酸、無機酸の、さらにはグラフト置換体を含む)、エーテル置換(グラフト置換体を含む)されたものを水に分散した後、可塑剤エマルジョン水(水、可塑剤及び分散安定剤等から構成されるエマルジョン水)を加えて水分散性の高分子溶液としても良い。
【0027】
ポリビニルアルコール(PVA)は、重合度が1000〜5000が好ましく、1700〜2400がさらに好ましい。さらに、PVAのケン化度は、溶液が水溶性ということから85〜99%が好ましく、87〜93%がさらに好ましい。
【0028】
本発明においては、放射性物質含有土壌を強く固定する接着剤、粘着剤又は糊剤としての機能が高く、高い安全性、水媒体による取扱い性の容易さ、発酵を促進させるための高い機能性、及び低価格等の点から、(a)成分として上記の多糖類の1種又は2種以上が好適である。さらに、上記の多糖類の中では、放射性物質含有土壌を固定する接着剤、粘着剤又は糊剤として最も高い機能を有するデンプンを使用することがより好ましい。デンプンは、上記に示すデンプン以外の多糖類又はポリビニルアルコールと併用しても良い。
【0029】
本発明の固定化溶液は、(a)成分として上記の化合物のいずれかが必須成分であるが、それ以外の生分解性ポリマーを副成分として使用しても良い。副成分の生分解性高分子としては、キトサン、カゼイン等の天然高分子やポリ乳酸、ポリカプロラクタン、ポリアスパラギン酸等の化学合成高分子が挙げられる。これらの生分解性高分子の含有量は、(a)成分の100質量部に対して、100質量部未満が好ましく、50質量部以下がより好ましい。これらの含有量は、放射性物質含有土壌を強く固定する接着剤、粘着剤又は糊剤としての性能から決められる。
【0030】
本発明において使用される(b)水を主成分とする水系媒体は、水が80質量%以上、好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上を占める媒体である。本発明の放射性物質除染溶液は、土壌の除染を対象としているため、取扱い性や作業性並びに周辺への環境負荷の低減を考慮すると、水を主成分とする水系媒体を使用する必要がある。水以外には、例えば、水溶性のメチルアルコール、エチルアルコール、2プロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類又はアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類の溶媒を少量配合して使用してもよい。これらの溶媒は、本発明の放射性物質除染溶液に対して粘度を調整したり、必要に応じて上記の(a)以外の成分を溶解させる必要がある場合に使用される。これらの溶媒の中で、人体に対する影響と環境負荷を少なくするためにエチルアルコールが好ましい。
【0031】
本発明の固定化溶液は、4〜30℃における粘度が5〜4000mPa・sの範囲にあることが必要であり、好ましくは19〜1000mPa・sである。施工作業は通年において4〜30℃の外部環境で行われるものであり、この粘度範囲は塗布や含浸による施工性、及び乾燥後に固定される放射性物質含有森林土壌を剥離除去する際の作業性のバランスから決められる。
【0032】
粘度が5mPa・s未満であると、固定化溶液の塗布と浸透性は優れるものの、粘度が低く、塗布又は散布の時に、落ち葉等の表面に付着又は吸着している放射性物質を洗い流してしまう恐れがある。また、乾燥後に固定された放射性物質含有森林土壌において高分子の含有量が非常に低いため、結果的に、前記の放射性物質含有森林土壌のすべてを固定化することができない。さらに、乾燥後に固定された放射性物質含有森林土壌は、高分子による固定化の効果が顕著に低下して、剥離時に離散、破断、又は亀裂が発生して剥離が困難になる。また、粘度が4000mPa・sを超える場合は、固定化溶液の操作性や施工性が低下するとともに、森林土壌への浸透性が劣り、結果的に、厚く堆積した汚染森林土壌を上記の高分子で十分に固定することができず、汚染森林土壌の除去が不十分になる。加えて、乾燥後に固定される放射性物質含有森林土壌において、接着剤、粘着剤又は糊剤として機能する高分子の含有量が土壌表面に相当する上部では多く、土壌深部に相当する下部では少なくなるという組成の不均一化がおこるために、前記の固定された放射性物質含有森林土壌は離散等による除去残りが発生する。本発明においては、厚く堆積した放射性物質含有森林土壌に対して浸透性が確実に保持され、且つ、高分子によって固定化された放射性物質含有森林土壌が、離散、破断、又は亀裂の発生無しで、十分に剥離除去できるようにするため、4〜30℃における粘度は19〜1000mPa・sの範囲に設定することが好ましい。
【0033】
本発明の固定化溶液は、前記の高分子で固定された放射性物質含有森林土壌が、離散、破断、又は亀裂の発生無しで、十分に剥離除去できるようにするため、粘度だけではなく、汚染森林土壌の接着剤、粘着剤又は糊剤として機能する上記の(a)成分の含有量を最適化することが好ましい。本発明では、(a)水溶性又は水分散性高分子の含有量は、上記の(b)の各成分の合計量を100質量部としたときに、10〜90質量部が好ましい。
【0034】
前記の(a)成分の含有量が10質量部未満であると、粘度が低く、塗布又は散布の時に、落ち葉等の表面に付着又は吸着している放射性物質を洗い流してしまう恐れがある。また、乾燥後に固定された放射性物質含有森林土壌中の高分子の含有量が低くなるため、前記森林土壌が厚い場合には、そのすべてを固定化することができなくなる。加えて、接着剤、粘着剤又は糊剤として機能する成分の含有量が不足することから固定化が不十分となり、前記放射性物質含有森林土壌の離散、破断又は亀裂が発生して剥離が困難になって、効率的な除染を行うことができない。また、(a)成分の含有量が90質量部を超えると、固定化溶液の粘度が高くなりすぎるため、吹き付けや流し込みの作業性が劣り、操作性や施工性が大幅に低下する。さらに、汚染森林土壌への浸透性が劣り、結果的に上記の高分子で汚染森林土壌を厚く固定することができず、汚染森林土壌の除去が不十分になる。加えて、上記の高分子の含有量が森林土壌表面に相当する上部では多く、森林土壌深部に相当する下部では少なくなるという組成の不均一が生じるために、前記放射性物質含有森林土壌の離散、破断又は亀裂が発生して除去残りが起こり、除染効率の大幅な低下を招く。
【0035】
本発明の固定化溶液は、さらに、(c)無機系の放射性物質吸着剤を含有することが好ましい。前記の(c)成分は、放射性物質を選択的に吸着して、除染処理中に起きやすい放射性物質の外部への漏れや飛散を抑制するために有効な成分である。
【0036】
本発明において、(c)無機系の放射性物質吸着剤としては、放射性物質を吸着する吸着能を有する無機粒子、例えば、ベントナイト、ゼオライト、雲母、バーミキュラライト、スメクタイト等が挙げられる。これらの無機粒子の平均粒径は0.01〜20μmの範囲にあるものが使用できるが、好ましくは1〜2μmである。また、これらの無機粒子の最大粒径は100μm以下、好ましくは50μm以下である。平均粒径が0.01μm未満であると、無機粒子の凝集が起こりやすく、固定化溶液の調整や塗布等における作業性の低下が顕著になる。また、20μmを超えると大きな径を有する無機粒子が混在するようになるため、上記の放射線物質含有森林土壌を含む固定層の機械強度が大きく低下して剥離除去が困難になる。同じ理由から、これらの無機粒子の最大粒径は、100μm以下、好ましくは50μm以下である。
【0037】
本発明では、上記の無機粒子の中で、放射性物質吸着剤としての実績、取扱い性及び低コスト等の点からベントナイトが好適である。さらに、ベントナイトは、上記で述べたサンクション効果が他の無機粒子よりも優れるため、特に有用である。ベントナイトは、ベントナイト鉱山で採掘した状態のものから粗粒分を除き、最大粒径を100μm以下、好ましくは50μm以下に調整したものをそのまま使用できるため、安価に入手できる。
【0038】
上記の(c)成分を含有する本発明の固定化溶液において、上記の(a)及び(c)の各成分の含有量は、上記の(b)成分を100質量部としたときに、それぞれ10〜90質量部及び0.1〜15質量部にすることが好ましい。上記の(a)及び(c)の各成分のより好ましい含有量は、それぞれ20〜60質量部及び0.5〜5質量部である。特に、本発明においては、前記の特許文献1及び2に開示されているような被覆層を形成するための組成物とは異なり、前記の(a)成分の含有量が(c)成分よりも高い点に特徴を有する。これは、放射性物質含有森林土壌を高分子で確実に固定し、さらに、高分子で固定された放射性物質含有森林土壌の剥離除去を行う際に離散、亀裂又は破断が起こらないような強度と適当な柔軟性を付与して、前記の森林土壌中に存在する放射性物質をできるだけ短時間で簡便に、且つ確実に除去するためである。
【0039】
上記の(a)成分の含有量は、上記で述べたように、汚染森林土壌への浸透性、乾燥後に固定される放射性物質含有土壌の厚さ、及び剥離除去において前記放射性物質含有森林土壌の離散、亀裂又は破断の抑制の点から、10〜90質量部の範囲とすることが好ましい。さらに、汚染土壌への浸透性を確保した状態で、乾燥後に固定される放射性物質含有土壌の厚さを最適化し、前記放射性物質含有土壌の剥離除去を容易にできるようにするために、(a)成分の含有量は20〜60質量部の範囲がより好ましい。
【0040】
上記の(c)成分は、含有量が0.1質量部未満では放射性物質の吸着効果を十分に得ることができず、放射性物質の除染能力に不安が残り、除染処理中及び長期保管中に放射性物質の外部への漏れや飛散を避けることができない。また、放射性物質の吸着効果は(c)成分の含有量が15質量部を超えるとき飽和の傾向を示すだけであり、逆に、除染溶液そのものの粘度の急激な上昇によって吹き付けや流し込みの作業性や施工性の大幅な低下を招く。さらに、(c)成分は無機質であるために、その含有量が多くなるほど固定化溶液中での偏析が発生しやすくなるため、取扱い性が劣るだけでなく、前記の放射性物質含有森林土壌を含む固定層の離散、破断又は亀裂が顕著になる。上記で述べたように、本発明においては(c)成分としてベントナイトが好適であるが、ベントナイトは増粘剤や止水材として使用される場合が多い。そのため、ベントナイトを本発明の目的を奏する放射性物質含有土壌固定化溶液として適用する場合、その含有量が多くなると、粘度の急激な上昇がみられ塗布作業性が大幅に低下する。また、ベントナイトによる放射性物質の吸着を確実に行うためには、ある程度のベントナイト量が必要となる。したがって、(c)成分としてベントナイトを適用する場合、その含有量は0.5〜5質量部がより好ましく、さらに1〜2質量部が特に好ましい。
【0041】
本発明において、上記の(a)、(b)及び(c)の各成分を含有する固定化溶液は、4〜30℃における粘度が、上記の(a)及び(b)の各成分を含有する固定化溶液と同じように、5〜4000mPa・sの範囲にあることが必要であり、好ましくは19〜1000mPa・sである。これは、通年で4〜30℃の外部環境の下に行われる施工作業において、塗布や含浸による施工性、及び乾燥後に固定された放射性物質含有森林土壌を剥離する際の作業性のバランスから決められる。上記の(a)、(b)及び(c)の各成分を含有する固定化溶液においても、施工作業において求められる粘度の範囲は、上記の(a)及び(b)の各成分を含有する固定化溶液の場合と同じである。
【0042】
本発明においては、上記の(a)〜(c)成分の他に、必要に応じて接着型又は粘着型接合剤を配合することができ、該接合剤として生分解性を有しない水溶性又は水分散性高分子を使用することができる。生分解性を有しない水溶性又は水分散性高分子としては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸とその塩、及び水酸基を含有するポリアクリル酸エステル等の水溶性高分子、又はエチレンー酢酸ビニル共重合体、エチレンービニルアルコール共重合体、スチレンーアクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニルーアクリル酸エステル共重合体等の水分散性高分子の1種又は2種以上を使用することができる。これらの高分子は、上記の(a)成分による放射性物質含有森林土壌の固定化を補助するために使用されるものである。本発明の固定化溶液においてこれらの高分子の占める含有量は、放射性物質含有森林土壌の固定化性能と生分解性に応じて任意に決められるが、放射性部物質含有土壌の減容化を優先する場合には、上記の(b)成分を100質量部としたときに、20質量部以下、好ましくは10質量部以下である。
【0043】
さらに、本発明においては、必要に応じて、柔軟性を付与するための可塑剤、高分子と無機系の放射性物質吸収剤との分散性を向上させるための分散剤や界面活性剤、粘度調整のための増粘剤や粘度調整剤、防腐剤、着色剤、防臭剤等を加えることができる。特に、着色剤は、本発明の放射性物質除染溶液の塗布箇所を識別できるだけでなく、塗布乾燥後に形成される前記の汚染土壌が高分子で固定された連続層を剥離するときに見られる剥離残りをチェックするために使用できる添加剤であり、除染作業を効率的に行う際に有用である。
【0044】
次に、本発明による固定化溶液を用いた放射性物質除染方法の工程を、
図1を参照しながら説明する。
【0045】
(1)固定化溶液の調整:
上記で説明したような含有量に基づいて(a)〜(c)の各成分を配合するとともに、塗布又は散布を行うために上記で説明したような範囲に規定した粘度を有する本発明における放射性物質含有森林土壌の固定化溶液を調整する。必要に応じて、(a)〜(c)の各成分の他にも、接着型又は粘着型接合剤、可塑剤、分散剤、界面活性剤、増粘剤、粘度調整剤、防腐剤、着色剤、又は防臭剤を配合する。
【0046】
(2)固定化溶液の放射性物質含有森林土壌への塗布又は散布:
上記の(1)で調整した固定化溶液は、放射性物質が付着又は吸着した落ち葉や腐葉土等を含む森林土壌へ室温(通年で4〜30℃の範囲)で塗布又は散布される。塗布又は散布は、汚染森林土壌の場所や設置形態に応じて、吹き付け法、流し込み法又は刷毛塗り法等によって行われるが、広範囲の除染を行う場合にはスプレー等による吹き付け法が一般的に使用される。また、塗布又は散布において、本発明の固定化溶液をあらかじめ加温して粘度調整することができる。さらに、塗布又は散布のときに、加温できる塗布装置又はスプレー装置を用いても良い。
【0047】
(3)乾燥:
上記の(2)の工程の後、本発明の固定化溶液を乾燥して(b)成分である水系媒体を揮散させる。乾燥は、外気温度で所定時間(通常は1時間〜1週間)行われるが、必要に応じて、塗布又は散布場所に熱風を加えて乾燥を速める方法を採用しても良い。本発明は、乾燥時間として通常、2〜3日あれば剥離を行うことができ、気温が高ければ、最短1日で剥離作業を開始することができる。
【0048】
(4)高分子による放射性物質含有森林土壌の固定化:
本発明の固定化溶液を乾燥後、上記の(a)成分である高分子によって放射性物質含有森林土壌の固定化を行う。場合によっては、前記の放射性物質含有森林土壌と接触している土壌の表面層を含めて固定を行う。このとき、固定化溶液の乾燥は、上記の(b)成分が完全に除去される必要はなく、前記の放射性物質含有森林土壌の剥離を容易に行うことができる程度の乾燥状態であれば良い。この工程で形成する連続層は、次の(5)の工程において最終的に剥離処理が行われる。
【0049】
(5)高分子で固定された放射性物質含有森林土壌の剥離、除去:
高分子で固定された放射性物質含有森林土壌は、手動で、若しくは剥離・捕集用のクレーン又はバキューム車による吸引等を用いて容易に剥離することができる。高分子で固定された放射性物質含有森林土壌は、上下に捕集用の爪を有するクレーンを用いて剥離除去した後、そのまま保管用の袋やパックに詰め込むことによって、作業者の内部被曝を軽減できるとともに、除染作業の迅速化及び簡素化を図ることができる。本発明においては、前記の放射性物質含有森林土壌が高分子によって強固に固定されるため、操作性と作業性に優れる。
【0050】
(6)高分子で固定された放射性物質含有森林土壌の保管・保存:
上記の(5)の工程で剥離除去された後、高分子で固定された放射性物質含有森林土壌は、放射性物質が外部へ飛散又は漏洩しないような処置が施された場所に搬送されて集められた後に保管、保存される。あるいは、保管用の袋やパックに詰め込んだ放射性物質含有森林土壌を搬送せず、次の(7)の工程に示す発酵による減容化処理を現地にて行ってもよい。
【0051】
(7)高分子で固定された放射性物質含有森林土壌の発酵による減容化処理
上記の(6)の工程において、放射性物質含有土壌に含まれる落ち葉や腐葉土は、保管直後から発酵を開始するので、そのまま保管した状態でその発酵を促して減容化処理を進める。
【0052】
本発明において、高分子で固定された放射性物質含有森林土壌が(c)無機系の放射性物質吸着剤を含む場合は、あらかじめ放射性物質の前記(c)成分への吸着挙動を把握することによって、その保存期間を決める。すなわち、人体への影響が出ないレベルまで放射性物質が吸着される時間(吸着時間)が分かれば、少なくともその吸着時間以上に前記の高分子で固定された放射性物質含有森林土壌を保管・保存の状態で放置する。さらに安全性を高めるために、前記の吸着時間よりも余裕を持ってより長めの保管・保存時間を設定する。その時点でも、まだ放射性物質含有土壌の発酵や上記の(a)成分の生分解が進んでいない場合には、さらに保管・保存時間を延長しても良い。
【0053】
最終的に、人体に全く影響が出ないレベルに放射線量の低減が確認される期間まで、さらに、放射性物質含有森林土壌の減容化が確認される期間まで、密閉状態で保管・保存された後、通常の土壌として戻されるか、又は産業廃棄物として廃棄される。
【0054】
以上のように、本発明の放射性物質除染方法は、放射性物質が付着又は吸着した落ち葉や腐葉土等を含む放射性物質含有森林土壌から放射線を迅速、且つ効率的で効果的に低減するだけではなく、放射性汚染物そのものの減容化を図るために、
図1に示す(1)〜(7)の工程を有する。
【0055】
さらに、上記の(a)、(b)及び(c)を本発明の固定化溶液は、森林土壌を固定化して除去する用途だけではなく、森林中の樹木の葉に付着した放射性物質の除染方法にも適用することが可能である。
図2に、放射性物質を含有する落ち葉又は腐葉土等を含む森林土壌を除去する際に、森林中の樹木の葉に付着する放射性物質を合わせて除去する放射性物質除染方法を示す。
図2において、経路(I)は、上記で説明したように、放射性物質を含有する落ち葉又は腐葉土等を含む森林土壌を除去する放射性物質除染方法であり、経路(II)が、森林中の樹木の葉に付着した放射性物質を除染するための方法である。
【0056】
図2に示す経路(II)は、下記の(A)、(B)、(C)及び(D)の工程から構成されるものであり、例えば、ヘリコプター等で上記の(a)〜(c)からなる固定化溶液(例えば、デンプンとベントナイトを含む水溶液)を山林に散布するによって行うことができる。すなわち
(A)森林の樹木の葉に、上記の(a)〜(c)からなる固定化溶液を付着又は接着させる工程、
(B)前記の固定化溶液が付着又は接着した状態で、前記の樹木の葉表面に付着の放射性物質(例えば、セシウム等)を前記の固定化溶液に含まれる(c)無機系の放射性物質吸着剤(例えば、ベントナイト)に吸着させる工程、
(C)森林全体に水を散布するか、若しくは降雨によって前記の固定化溶液の溶解とともに、前記の(c)無機系の放射性物質吸着剤を森林土壌表面又は森林土壌中に移動させる工程、及び
(D)前記の(c)無機系の放射性物質吸着剤を含む森林土壌を、前記の放射性物質を含有する落ち葉又は腐葉土等を含む森林土壌とともに除去する工程、
からなる。このとき、落ち葉を含む森林土壌では、落ち葉中の放射性物質(例えば、セシウム等)が(c)無機系の放射性物質吸着剤(例えば、ベントナイト)に吸着されるようになる。
【0057】
本発明においては、
図2の下段に示すように、落ち葉又は腐葉土等を含む森林土壌の除去を行わない場合でも、別の方法を用いて放射線物質の除染を行ってもよい。例えば、
図2に示す経路(III)のように、放射性物質(セシウム)を吸着した(c)無機系の放射性物質吸着剤(ベントナイト)が土壌表面に留まらずに垂直方向(土壌中)に移動する場合、そのまま山林の土壌中に(c)無機系の放射性物質吸着剤(ベントナイト)を保持する方法である。ベントナイトに吸着したセシウムは強固に固定され、吸着後も土壌中への移動はほとんど起きないため、土壌中の放射性物質濃度の大幅な低減を図ることができる。
【0058】
また、セシウムを吸着したベントナイトが山の傾斜に沿って山のふもとまで移動する場合は、
図2の下段に示す経路(IV)のように、セシウムを吸着したベントナイトを本発明の固定化溶液又は従来のポリイオンコンプレックスを散布した土壌に吸着保持させた後、除去して除染を行ってもよい。
【0059】
したがって、本発明は、森林の放射能汚染状態に応じて、
図2に示す除染方法の少なくとも何れか一つを選択することによって、安全で、かつ確実な放射性物質除染を行うことができる。
【0060】
本発明を実施例によって説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
[実施例1〜5、比較例1〜3]
デンプン(コーンスターチ)を水媒体に溶解して、下記の表1に示すように、デンプンの含有量及び粘度の異なる各種溶液を調整した。デンプンの含有量は、水媒体の合計量を100質量部としたときの質量部で表したものである。粘度は、スピンドルタイプ粘度計(トキメック社製 TV−20型)を用いて室温(18〜25℃)で測定した。
【0062】
表1に示すデンプン溶液による森林土壌の固定化の程度を調べるために予備実験を行った。実験方法としては、24.5cm×33.0cmのトレーに落ち葉50gを載せ、その上に20gの乾燥した土壌(放射性物質を含まない土壌)を散布した。本実施例においては、模擬的に落ち葉に散布された土壌を放射性物質含有森林土壌の代わりとして使用した。
【0063】
表1に示すデンプン溶液を5l(リットル)/m
2の量で散布し、60℃で約3時間乾燥させた。次いで、トレーにネットを張り、落ち葉を吸引しないようにして、掃除機の吸引力を一定に保ち1分間、落ち葉表面の土壌を吸引した。その後、掃除機の紙パックの吸引前と吸引後の重量の差を測定して、土壌の吸引量とした。本実施例では、土壌の吸引量が少ないほど、デンプンによる森林土壌の固定化が強固に行われていることを意味する。
【0064】
実験結果を下記の表1に示す。表1に示す総合評価は、固定化溶液の粘度、作業性と施工性及び土壌の吸引量を鑑みて、放射性物質含有森林土壌の固定化溶液としての適用性を総合的に判断した結果を表したものである。すなわち、総合評価として最適であるものを(◎)、一応、固定化溶液として使用可能であるものを(○)、固定化溶液として何とか使用できそうなものを(△)、また、使用不可のものを(×)で表した。なお、表1の比較例1(デンプンを含む固定化溶液を使用しない場合)に示す土壌の吸引量は、本実施例において森林土壌の固定化の効果を推定するときの基準となる値である。
【0066】
表1から、本実施例の固定化溶液は、固定化溶液を使用しない比較例1とは異なり、森林土壌の固定化を確実にできることが分かる。また、粘度を5〜4000mPa・sの範囲に規定することによって、森林土壌への浸透性及びデンプンによる森林土壌の固定性に優れる固定化溶液が得られる。そのような粘度範囲を満たすためには、水媒体の100質量部に対してデンプンの含有量を10〜90質量部の範囲に規定する必要がある。さらに、固定化溶液の粘度が19〜1000mPa・sの範囲にあれば、放射性物質含有森林土壌の固定化溶液として最適なものとなる。
【0067】
それに対して、粘度及びデンプンの含有量が上記の範囲から外れる固定化溶液(比較例2〜3)は、森林土壌への浸透性及びデンプンによる森林土壌の固定性に問題があるため、森林土壌の固定化の用途に適さない。特に、比較例3は、室温における塗布液の塗布また散布がやや困難となり、作業性や施工性の点でも劣ることが分かった。
【0068】
このように、本発明の効果を奏する固定化溶液は、塗布又は散布時の温度(通常は4〜30℃の温度範囲)における粘度、及びその粘度を達成するために前記(a)成分の含有量を所定の範囲に規定することによって得ることができる。
【0069】
[実施例6〜8]
実施例4で使用したデンプンの代わりに、重合度約2000のポリビニルアルコール(表2ではPVAと略す。)、カルボキシメチルセルロース(表2ではCMCと略す。)又は高置換アセチル化デンプンを用いて、水媒体に溶解又は分散して固定化溶液を調整した。PVA又はCMCの含有量は、水媒体100質量部に対して60質量部となるように水媒体に溶解した。また、高置換アセチル化デンプンは水に分散した状態で、可塑剤及び分散安定剤からなる可塑剤エマルジョンを加えて乳化分散した水分散液として用いた。高置換アセチル化デンプンの含有量は水媒体100質量部に対して60重量部となるように調整した。実施4と同じ方法で、固定化溶液の粘度、土壌の吸引量を測定した後、これらの物理量と固定化溶液の作業性と施工性を加味して総合評価を行った。評価結果を表2に合わせて示す。
【0071】
表1及び2に示すように、本発明の(a)成分としては、デンプン、ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースの水溶性の高分子だけでなく、実施例8に示すような水分散性の高分子を使用することができる。表1及び表2に示す総合評価結果から分かるように、デンプン(実施例4)は、他の高分子(実施例6〜8)よりも土壌の吸引量が少なくなっており、森林土壌の固定がより強固であることが分かる。
【0072】
なお、本発明における固定化溶液は、前記の(a)成分の含有量が同じであっても、高分子の種類に応じて、粘度がやや異なる。通常、固体化溶液の土壌への浸透性は、該溶液の粘度によってほぼ決まる。したがって、本発明の固定化溶液は、まず、該固定化溶液を構成する成分及びその粘度の範囲を規定することによって、明確に特定される。
【0073】
[実施例9〜17、比較例4]
実施例3又は4の固定化溶液に無機系の放射性物質吸着剤を配合して、水媒体によって希釈を行って、下記の表3に示すように、デンプン(コーンスターチ)と無機系の放射性物質吸着剤の含有量及び粘度の異なる各種の固定化溶液を調整した。表3に示す各成分の含有量は、水媒体を100質量部としたときの含有量である。無機系の放射性物質吸着剤としては、ベントナイトドンミン((株)ボルクレイ・ジャパン製、表3ではベントナイトAと略す)、ベントナイトブラックヒルズ(American Colloid Company社製、表3ではベントナイトBと略す。)、又はゼオライトを使用した。実施例1〜6と同じ方法で、固定化溶液の粘度、土壌の吸引量を測定した後、これらの測定結果と固定化溶液の作業性と施工性を加味して総合評価を行った。評価結果を表3に合わせて示す。
【0075】
表3に示すように、本発明の固定化溶液は、(c)無機系の放射性物質吸着剤を含有することによって粘度がやや高くなる。土壌の吸収量は、溶液の粘度が上昇するにつれて、やや少なくなる。これは、粘度の上昇によって森林土壌の固定化が進んだためである。しかし、粘度が大幅に増大する場合(実施例15及び16)は、逆に、前記の(c)成分を含まない溶液(実施例3)と比べて、土壌の吸収量が多くなる傾向にある。実施例15及び16は、森林土壌の底部への溶液の浸透が低下するために、底部付近に存在する森林土壌の固定化が十分に行われなかったのではないかと考えられる。
【0076】
それに対して、表3の比較例4に示すように、ベントナイトの含有量が15質量部を超える場合は溶液の粘度が大幅に増大するため、放射性物質含有森林土壌の固定化溶液として不適である。一方、放射性物質の吸着効果が明確に現れる量は0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量部以上である。したがって、本発明において前記の(c)成分の含有量のより好ましい範囲としては、放射性物質の吸着効果及び表3に示す剥離性の総合評価結果から鑑みると、0.5〜5質量%の範囲である。
【0077】
[実施例18]
実施例3の固定化溶液を用いて、セシウム等の放射性物質で汚染された森林土壌の上に、室温(約20℃)においてスプレー装置によって5l(リットル)/m
2の条件で均一に塗布し、室温で1日間放置して放射性物質含有森林土壌をデンプンによって固定した後、剥離除去を行った。初期の汚染森林土壌の表面と前記の放射性物質含有森林土壌を剥離除去した後の土壌表面について、それぞれの放射線量を測定した結果、初期に対する剥離除去後の放射線量の割合は15%であり、除染率は85%であった。
【0078】
[実施例19]
実施例11(ベントナイトBを1.0質量%含有)の固定化溶液を用いて、実施例18と同じ方法で、放射性物質含有森林土壌をデンプンによって固定した後、剥離除去を行った。初期の汚染森林土壌の表面と前記の放射性物質含有森林土壌を剥離除去した後の土壌表面について、それぞれの放射線量を測定した結果、初期に対する剥離除去後の放射線量の割合は8%であり、除染率は92%であった。このように、無機系の放射性物質吸着剤を含有する本発明の固定化溶液は、汚染森林土壌の除染を効果的に実施できることが確認された。
【0079】
[比較例5]
固定化溶液を用いないで、セシウム等の放射性物質で汚染された森林土壌から実施例18の場合と同じ量の放射性物質含有森林土壌を剥離除去した。この処理は、上記の比較例1に相当するものである。初期の汚染森林土壌の表面と所定量の放射性物質含有森林土壌を剥離除去した後の土壌表面について、それぞれの放射線量を測定した結果、初期に対する剥離除去後の放射線量の割合は65%であり、除染率は35%であった。これは、放射性物質含有森林土壌に付着又は吸着していた放射性物質が固定されていないために、剥離除去のときに、それらの放射性物質が揮散したり放散したりして、結果的に剥離後除去後の放射線量の割合が高くなったものと考えられる。
【0080】
以上のように、実施例18及び19の固定化溶液を用いる除染方法は、前記の固定化溶液を塗布又は散布した後の乾燥時間を短縮化できるだけではなく、放射性物質含有森林土壌の剥離除去を確実に行うことによって優れた除染効果を奏することが分かる。
【0081】
実施例に示すように、本発明の放射性物質含有森林土壌の固定化溶液は、(a)生分解性の水溶性又は水分散性高分子、及び(b)水を主成分とする水系媒体を含み、さらに該固定化溶液の粘度及び各成分の含有量が最適化されているために、汚染森林土壌への浸透性に優れ、塗布又は散布後の乾燥工程も従来よりも短時間で行うことができる。また、乾燥工程後において放射性物質含有森林土壌は前記の(a)成分によって強固に固定されるために、確実な剥離除去を行うことができるだけでなく、作業者の内部被曝を軽減することができる。さらに、(c)無機系の放射性物質吸着剤を含有することによって、汚染土壌中の放射性物質は安定的に固定化され、除染処理中にその移動が大幅に抑制されるため、作業者の内部被曝の軽減効果並びに森林又は雑木林の除染効果を一層高めることができる。
【0082】
それに対して、本発明の固定化溶液を使用しない除染方法では、作業者の内部被曝のおそれがあるだけではなく、放射性物質含有森林土壌の確実な剥離除去を行うことが困難である。
【0083】
以上のように、本発明の固定化溶液は、生分解性の高分子で固定された放射性物質含有森林土壌を、迅速、且つ、確実に剥離除去できる構成を有する。それだけではなく、セシウムイオン等の放射性物質を安定的に保持できる無機系の放射性物質吸着剤を含有することによって放射性物質の外部への揮散や放散が防止されるため、作業者の内部被曝を軽減しながら、森林や雑木林の除染を確実に、且つ安定的に行うことができる。したがって、このような特徴を有する固定溶液を用いた本発明の放射性物質除染方法は、放射性物質含有森林土壌の剥離除去による除染を迅速、且つ、効率的で効果的に行うことができる。また、本発明の放射性物質除染方法は、落ち葉や腐葉土の発酵を促す生分解性高分子を含む固定化溶液を使用するため、放射性物質汚染物そのものの減容化に対しても有効な方法であり、有用性が極めて高い。