(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
20℃における粘度が25mPa・s以下であり、かつ、平均重合性不飽和二重結合当量が100〜150であり、かつ、30〜70質量%の単官能の(メタ)アクリレートと、20〜60質量%の2官能以上の(メタ)アクリレートと、を含有し、
前記単官能の(メタ)アクリレートとして、下記一般式(I)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類と、芳香環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートと、を含み、
前記芳香環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートの含有量はインクの総質量に対し、10質量%以上である、紫外線硬化型インクを、
吐出温度が30〜40℃の状態で、ヘッドから被記録媒体に向けて吐出する吐出工程と、
前記被記録媒体に付着した前記紫外線硬化型インクを、光源から紫外線を照射して硬化させる硬化工程と、を含み、
前記被記録媒体が搬送される面を有し、前記被記録媒体を支持し、かつ、前記ヘッドに対して相対的に移動する支持体が、該移動によって同じ位置に戻るまでの時間が5秒以上である、
インクジェット記録方法。
CH2=CR1−COOR2−O−CH=CH−R3 ・・・(I)
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2〜20の2価の有機残基であり、R3は水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)
前記ヘッドとしての、前記被記録媒体の幅に相当する長さ以上の長さであるラインヘッドから、該ラインヘッドと相対的に走査される前記被記録媒体に向けて前記紫外線硬化型インクを吐出する、ライン方式のインクジェット記録装置を用いて記録を行う、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
前記被記録媒体が搬送される面を有し、前記被記録媒体を支持し、かつ、前記ヘッドに対して相対的に移動する支持体が、該移動によって同じ位置に戻るまでの時間が15秒以下である、請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
本明細書において、「記録物」とは、被記録媒体上にインクが記録されて硬化物が形成されたものをいう。なお、本明細書における硬化物は、硬化膜や塗膜を含む、硬化された物質を意味する。
【0014】
また、本明細書において、「硬化」とは、重合性化合物を含むインクに光を照射すると、重合性化合物が重合してインクが固化することをいう。「硬化性」とは、光を感応して硬化する性質をいい、光重合性とも称される。「硬化シワ」は、硬化を行う対象となる塗膜の内部に存在する未硬化のインクが、硬化する前に不規則に流動するなどにより、重合体積収縮率が高くなる結果、硬化後の塗膜表面に発生するシワを意味する。
【0015】
また、本明細書において、「吐出安定性」とは、ノズルの抜けがなく常に安定したインクの液滴をノズルから吐出させる性質をいう。
【0016】
また、本明細書において、「保存安定性」とは、インクを保存したときに、保存前後における粘度が変化しにくい性質をいう。「耐擦性」とは、硬化物を擦った時に、硬化物が剥離しにくく傷がつきにくい性質をいう。
【0017】
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びそれに対応するメタクリレートのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びそれに対応するメタクリルのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイル及びそれに対応するメタクリロイルのうち少なくともいずれかを意味する。
【0018】
[インクジェット記録方法]
本発明の一実施形態は、インクジェット記録方法(以下、単に「記録方法」ともいう。)に係る。当該記録方法は、20℃で所定範囲の粘度を有し且つ所定範囲の平均重合性不飽和二重結合当量を有する紫外線硬化型インクを、所定範囲の吐出温度でヘッドから被記録媒体に向けて吐出する吐出工程と、被記録媒体に付着した紫外線硬化型インクを硬化させる硬化工程と、を少なくとも含むものである。このようにして、被記録媒体上で硬化した紫外線硬化型インクにより、紫外線硬化型インクの硬化物が形成される。
【0019】
以下では、まず紫外線硬化型インク(以下、「インク」又は「インク組成物」ともいう。)について詳細に説明し、続いて記録方法に含まれる各工程を説明する。
【0020】
本実施形態における紫外線硬化型インクは、上記のインクジェット記録方法及び後述のインクジェット記録装置に用いることができる。上述のように、当該紫外線硬化型インクは、20℃での粘度及び平均重合性不飽和二重結合当量がそれぞれ所定の範囲であることを特徴とする。
【0021】
〔1.紫外線硬化型インクの20℃での粘度〕
上記紫外線硬化型インクは、20℃での粘度が、25mPa・s以下であり、好ましくは15〜25mPa・sであり、より好ましくは17〜23mPa・sである。当該20℃での粘度が上記の上限値以下であると、インクの吐出安定性が優れたものとなる。また、当該20℃での粘度が上記の下限値以上であると、硬化シワの発生を効果的に抑制することができる。
本実施形態においてインクの粘度は、後述の実施例のように、E型粘度計を用いて測定することができる。E型粘度計の使用に際しては、粘度計の取扱説明書に従い測定するものであることは一般常識の範疇であり、よって、ローターの種類や回転速度は、取扱説明書に従い、測定対象とするインクの粘度が正常に測定可能なものに設定して測定するものであることは特段言うまでもないことであり、本実施形態においてもインクの粘度を、取扱説明書に従い、測定対象とするインクの粘度が正常に測定可能なものに設定して測定することは自明である。
【0022】
硬化シワが発生する原理は次のように推測されるが、本発明の範囲は以下の推測によって何ら限定されることはない。硬化シワは、インクの塗膜において、塗膜表面が先に硬化した後、塗膜内部が塗膜表面よりも遅れて硬化する際に、先に硬化した塗膜表面が変形したり、後から硬化するまでの間に塗膜内部のインクが不規則に流動したりすることなどにより、発生すると推測される。また、粘度が低い紫外線硬化型インクは硬化に伴う重合収縮率(所定の質量を有する硬化前のインクの体積に対する、当該インクの体積と硬化後の当該インク(硬化物)の体積との差)が大きい傾向が見られ、このため硬化シワの発生が顕著であると推測される。また、後述する単官能の(メタ)アクリレート、中でも後述の一般式(I)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートを含有する紫外線硬化型インクは、硬化シワが発生しやすい傾向が見られ、特に、一般式(I)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートを含有し、かつ、粘度が低い紫外線硬化型インクは、硬化シワの発生が顕著であると推測される。本実施形態のインクジェット記録方法に用いられる紫外線硬化型インクは、これらを含有する場合でも、粘度を上記の範囲とすることにより、硬化シワの発生を効果的に抑制することができる。なお、本明細書における粘度は、後述の実施例で行った方法により測定された値を採用することができる。
【0023】
ここで、インクの粘度を所望の範囲とするための、インクの設計方法の一例を説明する。
【0024】
インクに含まれる重合性化合物全体の混合粘度は、使用する各重合性化合物の粘度と、当該各重合性化合物のインク組成物に対する質量比と、から推算することができる。
【0025】
インクが、重合性化合物A,B…(途中省略)…,NというN種類の重合性化合物を含むと仮定する。重合性化合物Aの粘度をVAとし、インク中の重合性化合物全量に対する重合性化合物Aの質量比をMAとする。重合性化合物Bの粘度をVBとし、インク中の重合性化合物全量に対する重合性化合物Bの質量比をMBとする。同様にN番目の重合性化合物Nの粘度をVNとし、インク中の重合性化合物全量に対する重合性化合物Nの質量比をMNとする。確認的に示すと、「MA+MB+…(途中省略)…+MN=1」という数式が成り立つ。また、インクに含まれる重合性化合物全体の混合粘度をVXとする。そうすると、下記の数式(1)を満たすと仮定する。
【0026】
MA×LogVA+MB×LogVB+…(途中省略)…+MN×LogVN=LogVX ・・・(1)
【0027】
なお、例えば重合性化合物がインクに2種含まれる場合には、MBよりも後の重合性化合物の質量比をゼロとする。重合性化合物の種類数は1種以上の任意の数とすることができる。
【0028】
次に、インク粘度を所望の範囲とするための手順(ステップ1〜7)の一例を説明する。
【0029】
まず、使用する各重合性化合物の所定温度における粘度の情報を入手する(ステップ1)。入手方法としては、メーカーカタログなどから入手したり、各重合性化合物の所定温度における粘度を測定したりすることなどが挙げられる。重合性化合物単体の粘度は、同じ重合性化合物であってもメーカーにより異なることがあるので、使用する重合性化合物の製造業者による粘度情報を採用するとよい。
続いて、VXに目標粘度を設定し、上記の数式(1)に基づきVXが目標粘度となるよう各重合性化合物の組成比(質量比)を決める(ステップ2)。目標粘度は、最終的に得たいインク組成物の粘度であり、例えば15〜25mPa・sの範囲のうちのある粘度とする。所定温度は20℃とする。
【0030】
続いて、実際に重合性化合物を混合して重合性化合物の組成物(以下、「重合性組成物」という。)を調製し、所定温度における粘度を測定する(ステップ3)。
続いて、重合性組成物の粘度が上記の目標粘度に凡そ近い場合(本ステップ4では、「目標粘度±5mPa・s」になっていればよい。)、当該重合性組成物と、光重合開始剤や顔料など重合性化合物以外の成分(以下、「重合性化合物以外の成分」と言う)と、を含むインク組成物を調製し、当該インク組成物の粘度を測定する(ステップ4)。当該ステップ4において、重合性化合物以外の成分であって、例えば顔料のように顔料分散液の形態でインク組成物に混合する成分がある場合、顔料分散液に予め含まれている重合性化合物もインク組成物に持ち込まれてしまうため、ステップ2で決めた各重合性化合物の組成比から、顔料分散液としてインク組成物に持ち込まれてしまう重合性化合物の質量比を差し引いた質量比で、インク組成物を調整する必要がある。
【0031】
続いて、上記インク組成物の測定粘度と上記重合性組成物の測定粘度との差を算出し、これをVYとする(ステップ5)。ここで、通常「VY>0」となる。VYは、重合性化合物以外の成分の種類や含有量などの含有条件によるが、後記の実施例においては、VY=3〜5mPa・sであった。
【0032】
続いて、VXに「ステップ2の目標粘度−VY」を定め、上記の数式(1)から、VXが前記で定めた「ステップ2の目標粘度−VY」となるよう各重合性化合物の組成比を再度決める(ステップ6)。
【0033】
続いて、ステップ6で決めた組成比の各重合性化合物と重合性化合物以外の成分とを混合してインク組成物を調製し、所定温度における粘度を測定する(ステップ7)。測定した粘度が目標粘度になっていれば、ステップ7で調整したインク組成物が、目標粘度を有するインク組成物として得られたことになる。
【0034】
一方、ステップ3において、調製した重合性化合物の組成物の測定粘度が「目標粘度±5mPa・s」の範囲に入っていない場合、以下の微調整を行った上で、ステップ3から再度行う。まず、上記測定粘度が高すぎる場合、単体としての粘度が目標粘度よりも高い重合性化合物の含有量を減らし、かつ、単体としての粘度が目標粘度よりも低い重合性化合物の含有量を増やすといった微調整を行う。一方、上記測定粘度が低すぎる場合、単体としての粘度が目標粘度よりも低い重合性化合物の含有量を減らし、かつ、単体としての粘度が目標粘度よりも高い重合性化合物の含有量を増やすといった微調整を行う。また、ステップ7で、調製したインク組成物の測定粘度が目標粘度になっていない場合、上記の微調整と同様の調整を行った上で、ステップ7から再度行う。
【0035】
〔2.紫外線硬化型インクの平均重合性不飽和二重結合当量〕
上記紫外線硬化型インクは、平均重合性不飽和二重結合当量が100〜150の範囲であり、好ましくは110〜150であり、より好ましくは120〜150であることを特徴とする。平均重合性不飽和二重結合当量が上記の下限値以上であると、硬化に起因して発生する反応熱量を少なく抑えられるため、連続印刷後の温度上昇を抑制でき、かつ、保存安定性が優れたものとなる。また、平均重合性不飽和二重結合当量が上記の上限値以下であると、硬化性が優れたものとなる。
【0036】
ここで、本明細書における「平均重合性不飽和二重結合当量」とは、重合性の不飽和二重結合の平均当量と換言することができる。当該重合性不飽和二重結合を有する化合物は、重合性不飽和二重結合を備えた重合性官能基を有する化合物ということもでき、以下に限定されないが、例えば、(メタ)アクリレート化合物、ビニル化合物、ビニルエーテル化合物、及びアリル化合物が挙げられる。上記の重合性不飽和二重結合を有する化合物は、重合性官能基を1個以上有する化合物であればよく、重合性官能基を2個以上有する場合には、同じ種類の重合性官能基であってもよく異なる種類の重合性官能基であってもよい。また、上記の各化合物は、上記の重合性官能基以外の構造から、芳香環骨格を有する重合性化合物、環状又は直鎖状の脂肪族骨格を有する重合性化合物、複素環骨格を有する重合性化合物などに分類することもできる。
【0037】
本明細書において、紫外線硬化型インクの平均重合性不飽和二重結合当量は以下のようにして求めることができる。まず、インクに含まれる重合性化合物ごとに、重合性化合物の重合性不飽和二重結合当量を、下記数式(2)により算出する。
【0038】
重合性化合物の重合性不飽和二重結合当量=重合性化合物の分子量/重合性化合物の分子中に含まれる重合性不飽和二重結合数 ・・・(2)
上記数式(2)中、重合性化合物の分子量や重合性不飽和二重結合数は、メーカーカタログの値や化学構造式から算出した値を採用することができる。
【0039】
次に、インクの平均重合性不飽和二重結合当量を下記数式(3)により算出する。
【0040】
インクの平均重合性不飽和二重結合当量=(重合性化合物Aの重合性不飽和二重結合当量×重合性化合物Aのインク中の含有量+重合性化合物Bの重合性不飽和二重結合当量×重合性化合物Bのインク中の含有量+・・+重合性化合物nの重合性不飽和二重結合当量×重合性化合物nのインク中の含有量)/(重合性化合物Aのインク中の含有量+重合性化合物Bのインク中の含有量+・・+重合性化合物nのインク中の含有量) ・・・(3)
上記数式(3)は、インクがn種類の重合性化合物を含むと仮定したときの式であり、当該「n」は1以上の任意の整数とする。上記数式(3)中、「含有量」はインクの総質量に対する質量%を表す。
【0041】
インクの平均重合性不飽和二重結合当量が小さいほど、当該インクは重合性不飽和二重結合をより多く有しており、当該インクの重合に伴い発生する反応熱量がより大きくなる。一方、インクの平均重合性不飽和二重結合当量が大きいほど、当該インク中の重合性不飽和二重結合がより少なく、当該インクの重合に伴い発生する反応熱量はより小さくなる。
【0042】
以下、本実施形態における紫外線硬化型インクに含まれ得る添加剤(成分)を説明する。
【0043】
〔3.重合性化合物〕
インクに含まれる重合性化合物は、単独で、又は後述する光重合開始剤の作用により、光照射時に重合されて、印刷されたインクを硬化させることができる。重合性化合物としては、従来公知の、単官能、2官能、及び3官能以上の多官能といった種々のモノマー及びオリゴマーが使用可能である。上記モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸やそれらの塩又はエステル、ウレタン、アミド及びその無水物、アクリロニトリル、スチレン、種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、並びに不飽和ウレタンが挙げられる。また、上記オリゴマーとしては、例えば、直鎖アクリルオリゴマー等の上記のモノマーから形成されるオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート、オキセタン(メタ)アクリレート、環状又は直鎖状の脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ウレタン(メタ)アクリレート、及びポリエステル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0044】
上記の中でも、(メタ)アクリル酸のエステル、即ち(メタ)アクリレートが好ましい。当該(メタ)アクリレートの中でも、単官能の(メタ)アクリレート及び2官能以上の(メタ)アクリレートの併用が好ましく、単官能の(メタ)アクリレート及び2官能の(メタ)アクリレートの併用がより好ましい。
【0045】
以下、これらの(メタ)アクリレートを中心として、重合性化合物を詳細に説明する。その上で、上記単官能の(メタ)アクリレートの中でも、一般式(I)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類が好ましく挙げられるため、まず上記のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類について説明することとする。
【0046】
(3−1.ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類)
インクは、下記一般式(I)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含むことが好ましい。
CH
2=CR
1−COOR
2−O−CH=CH−R
3 ・・・(I)
(式中、R
1は水素原子又はメチル基であり、R
2は炭素数2〜20の2価の有機残基であり、R
3は水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)
【0047】
インクが当該ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含有することにより、インクを低粘度化することができ、インクの硬化性を優れたものとすることができ、かつ、硬化シワの発生を効果的に抑制することができる。さらに言えば、ビニルエーテル基を有する化合物及び(メタ)アクリル基を有する化合物を別々に使用するよりも、ビニルエーテル基及び(メタ)アクリル基を一分子中に共に有する化合物を使用する方が、インクの硬化性を良好にする上で好ましい。
【0048】
上記の一般式(I)において、R
2で表される炭素数2〜20の2価の有機残基としては、炭素数2〜20の直鎖状、分枝状又は環状の置換されていてもよいアルキレン基、構造中にエーテル結合及び/又はエステル結合による酸素原子を有する置換されていてもよい炭素数2〜20のアルキレン基、炭素数6〜11の置換されていてもよい2価の芳香族基が好適である。これらの中でも、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、及びブチレン基などの炭素数2〜6のアルキレン基、オキシエチレン基、オキシn−プロピレン基、オキシイソプロピレン基、及びオキシブチレン基などの構造中にエーテル結合による酸素原子を有する炭素数2〜9のアルキレン基が好適に用いられる。
【0049】
上記の一般式(I)において、R
3で表される炭素数1〜11の1価の有機残基としては、炭素数1〜10の直鎖状、分枝状又は環状の置換されていてもよいアルキル基、炭素数6〜11の置換されていてもよい芳香族基が好適である。これらの中でも、メチル基又はエチル基である炭素数1〜2のアルキル基、フェニル基及びベンジル基などの炭素数6〜8の芳香族基が好適に用いられる。
【0050】
上記の各有機残基が置換されていてもよい基である場合、その置換基は、炭素原子を含む基及び炭素原子を含まない基に分けられる。まず、上記置換基が炭素原子を含む基である場合、当該炭素原子は有機残基の炭素数にカウントされる。炭素原子を含む基として、以下に限定されないが、例えばカルボキシル基、アルコキシ基が挙げられる。次に、炭素原子を含まない基として、以下に限定されないが、例えば水酸基、ハロ基が挙げられる。
【0051】
上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類としては、以下に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1−メチル−3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−ビニロキシメチルプロピル、(メタ)アクリル酸2−メチル−3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1,1−ジメチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸6−ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸m−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸o−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、及び(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノビニルエーテルが挙げられる。
【0052】
これらの中でも、インクをより低粘度化でき、引火点が高く、かつ、インクの硬化性に優れるため、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル、即ち、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル及びメタクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルのうち少なくともいずれかが好ましく、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルがより好ましい。特にアクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル及びメタクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルは、何れも単純な構造であって分子量が小さいため、インクを顕著に低粘度化することができる。(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルとしては、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル及び(メタ)アクリル酸2−(1−ビニロキシエトキシ)エチルが挙げられ、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルとしては、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル及びアクリル酸2−(1−ビニロキシエトキシ)エチルが挙げられる。なお、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルの方が、メタクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルに比べて硬化性の面で優れている。
【0053】
ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法としては、以下に限定されないが、(メタ)アクリル酸と水酸基含有ビニルエーテルとをエステル化する方法(製法B)、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物と水酸基含有ビニルエーテルとをエステル化する方法(製法C)、(メタ)アクリル酸無水物と水酸基含有ビニルエーテルとをエステル化する方法(製法D)、(メタ)アクリル酸エステルと水酸基含有ビニルエーテルとをエステル交換する方法(製法E)、(メタ)アクリル酸とハロゲン含有ビニルエーテルとをエステル化する方法(製法F)、(メタ)アクリル酸アルカリ(土類)金属塩とハロゲン含有ビニルエーテルとをエステル化する方法(製法G)、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとカルボン酸ビニルとをビニル交換する方法(製法H)、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとアルキルビニルエーテルとをエーテル交換する方法(製法I)が挙げられる。
【0055】
これらの中でも、本実施形態に所望の効果を一層発揮することができるため、製法Eが好ましい。
【0056】
(3−2.単官能の(メタ)アクリレート)
インクは、単官能の(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。ここで、インクが上述のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類(但し、単官能の(メタ)アクリレートであるものに限る。)を含む場合、当該ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類も上記単官能の(メタ)アクリレートに含まれるものとするが、当該ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類についての説明は省略する。以下では、上述のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類以外の単官能の(メタ)アクリレートについて説明する。インクが当該単官能の(メタ)アクリレートを含有することにより、インクを低粘度化することができ、インクの硬化性に一層優れ、かつ、光重合開始剤その他の添加剤の溶解性も優れたものとなる。さらに言えば、光重合開始剤その他の添加剤の溶解性が優れたものとなることに起因してインクの吐出安定性が一層優れたものとなり、また塗膜の強靭性、耐熱性、及び耐薬品性が増す。
【0057】
上記単官能の(メタ)アクリレートとしては、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、アルコキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、p−クミルフェノールEO変性(メタ)アクリレート、が挙げられる。
【0058】
上記の中でも、硬化性、保存安定性、及び光重合開始剤の溶解性に一層優れるため、分子中に芳香環骨格を有する単官能の(メタ)アクリレートが好ましい。芳香環骨格を有する単官能の(メタ)アクリレートとしては、以下に限定されないが、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシフェノキシプロピル(メタ)アクリレート、及びフェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレートが好ましく挙げられる。これらの中でも、インクを低粘度化することができ、かつ、硬化性、耐擦性、インクの被記録媒体への密着性、及び光重合開始剤の溶解性のいずれも優れたものとすることができるため、フェノキシエチル(メタ)アクリレート及びベンジル(メタ)アクリレートのうち少なくともいずれかが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0059】
上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類以外の単官能の(メタ)アクリレートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
単官能の(メタ)アクリレートの含有量は、インクの総質量(100質量%)に対し、30〜70質量%が好ましく、40〜60質量%がより好ましい。当該含有量が上記範囲内であると、インク粘度、具体的に言えば20℃でのインク粘度及び吐出温度でのインク粘度の双方を所望の範囲としやすくなる。加えて、当該含有量が上記の下限値以上であると、硬化性に一層優れ、かつ、光重合開始剤の溶解性も優れたものとなる。一方、当該含有量が上記の上限値以下であると、硬化性に一層優れ、かつ、密着性も優れたものとなる。
なお、当該単官能の(メタ)アクリレートの含有量は、インクが単官能(メタ)アクリレートである上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含む場合には、これを含む含有量である。
【0061】
特に、インクが上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含有する場合、当該ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類の含有量は、インクの総質量(100質量%)に対し、10〜50質量%が好ましく、15〜40質量%がより好ましい。当該含有量が上記の下限値以上であると、インクを低粘度化でき、かつ、インクの硬化性を一層優れたものとすることができる。一方、当該含有量が上記の上限値以下であると、インクの保存安定性を良好な状態に維持することができ、硬化シワの発生を一層効果的に抑制することができる。
【0062】
また、インクが上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類以外の単官能の(メタ)アクリレートを含有する場合、当該(メタ)アクリレートの含有量は、10〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。当該含有量が上記の下限値以上であると、硬化性に加えて光重合開始剤の溶解性も一層優れたものとなる。一方、当該含有量が上記の上限値以下であると、硬化性に加えて密着性も一層優れたものとなる。上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類以外の単官能の(メタ)アクリレートとしては、硬化性及び光重合開始剤の溶解性が一層優れたものとなるため、芳香環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートが好ましい。
【0063】
(3−3.2官能以上の(メタ)アクリレート)
インクは、2官能以上の(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。上述のように、単官能の(メタ)アクリレート及び2官能以上の(メタ)アクリレートを併用することがより好ましい。
【0064】
2官能の(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0065】
3官能以上の多官能の(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カウプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、及びカプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0066】
2官能以上の(メタ)アクリレートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
2官能以上の(メタ)アクリレートの含有量は、上述した単官能の(メタ)アクリレートの好ましい含有量との関係で決定するのが好ましい。2官能以上の(メタ)アクリレートの含有量は、インクの総質量(100質量%)に対し、20〜60質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。当該含有量が上記範囲内であると、インクの硬化性や硬化物の耐擦性が優れたものとなり、インクの粘度を所望の粘度に設計しやすい。また、重合性化合物の単体の粘度が比較的低い単官能の(メタ)アクリレート、中でも特に粘度が低い上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類と、比較的粘度が高いその他の重合性化合物と、を組み合わせることが好ましい。これにより、上述したインクの粘度を所望の範囲に設計しやすくなる。
【0068】
なお、重合性化合物の総含有量は、その他の成分の含有量との関係より、インクの総質量(100質量%)に対し、50〜95質量%程度であるとよい。
【0069】
また、重合性化合物として光重合性の化合物を用いることにより、光重合開始剤の添加を省略することも可能であるが、光重合開始剤を用いた方が、重合の開始を容易に調整することができ、好適である。
【0070】
〔4.光重合開始剤〕
本実施形態におけるインクは、光重合開始剤を含んでもよい。当該光重合開始剤は、紫外線の照射による光重合によって、被記録媒体の表面に存在するインクを硬化させて印字を形成するために用いられる。光の中でも紫外線(UV)を用いることにより、安全性に優れ、且つ光源ランプのコストを抑えることができる。紫外線のエネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、上記重合性化合物の重合を開始させるものであれば、制限はないが、光ラジカル重合開始剤や光カチオン重合開始剤を使用することができ、中でも光ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。
【0071】
上記の光ラジカル重合開始剤としては、例えば、芳香族ケトン類、アシルフォスフィンオキサイド化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサントン化合物、チオフェニル基含有化合物など)、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物が挙げられる。
【0072】
これらの中でも、特にインクの硬化性を一層良好にすることができるため、アシルフォスフィンオキサイド化合物が好ましい。
【0073】
光ラジカル重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、2,4−ジエチルチオキサントン、及びビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシドが挙げられる。
【0074】
光ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 651(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、IRGACURE 184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、DAROCUR 1173(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、IRGACURE 2959(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン)、IRGACURE 127(2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル]−2−メチル−プロパン−1−オン}、IRGACURE 907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、IRGACURE 369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1)、IRGACURE 379(2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン)、DAROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド)、IRGACURE 784(ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム)、IRGACURE OXE 01(1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)])、IRGACURE OXE 02(エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム))、IRGACURE 754(オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物)(以上、BASF社製商品名)、KAYACURE DETX−S(2,4−ジエチルチオキサントン)(日本化薬社(Nippon Kayaku Co., Ltd.)製商品名)、Speedcure TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド)、Speedcure DETX(2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オン)(以上、Lambson社製商品名)、Lucirin TPO、LR8893、LR8970(以上、BASF社製商品名)、及びユベクリルP36(UCB社製商品名)などが挙げられる。
【0075】
光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
光重合開始剤の含有量は、紫外線硬化速度を向上させて硬化性を優れたものとすることができ、かつ、光重合開始剤の溶け残りや光重合開始剤に由来する着色を避けるため、インクの総質量(100質量%)に対して、20質量%以下であることが好ましい。
【0076】
特に、光重合開始剤がアシルフォスフィンオキサイド化合物を含む場合、その含有量は、インクの総質量(100質量%)に対して、5〜15質量%であることがより好ましく、7〜13質量%であることがさらに好ましい。含有量が上記の下限値以上であると、硬化性に一層優れる。より具体的に言えば、特にLED(好ましい発光ピーク波長:360nm〜420nm)による硬化の際に十分な硬化速度が得られるため硬化性に一層優れる。一方、含有量が上記の上限値以下であると、光重合開始剤の溶解性に一層優れる。
【0077】
〔5.色材〕
本実施形態におけるインクは、色材を含んでもよい。色材としては、顔料及び染料のうち少なくとも一方を用いることができる。
【0078】
(5−1.顔料)
色材として顔料を用いることにより、インクの耐光性を向上させることができる。顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。
【0079】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。
【0080】
有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。
【0081】
ホワイトインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントホワイト 6、18、21が挙げられる。
【0082】
イエローインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180が挙げられる。
【0083】
マゼンタインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、又はC.I.ピグメントヴァイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。
【0084】
シアンインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブルー 4、60が挙げられる。
【0085】
また、マゼンタ、シアン、及びイエロー以外の顔料としては、例えば、C.I.ピグメント グリーン 7,10、C.I.ピグメントブラウン 3,5,25,26、C.I.ピグメントオレンジ 1,2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,63が挙げられる。
【0086】
上記顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0087】
上記の顔料を使用する場合、その平均粒子径は300nm以下が好ましく、50〜200nmがより好ましい。平均粒子径が上記の範囲内にあると、インクにおける吐出安定性や分散安定性などの信頼性に一層優れるとともに、優れた画質の画像を形成することができる。ここで、本明細書における平均粒子径は、動的光散乱法により測定される。
【0088】
(5−2.染料)
色材として染料を用いることができる。染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能である。前記染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー 17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド 52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー 9,45,249、C.I.アシッドブラック 1,2,24,94、C.I.フードブラック 1,2、C.I.ダイレクトイエロー 1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド 1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー 1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック 19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド 14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック 3,4,35が挙げられる。
【0089】
上記染料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
色材の含有量は、優れた隠蔽性及び色再現性が得られるため、インクの総質量(100質量%)に対して、1〜20質量%が好ましい。
【0091】
〔6.分散剤〕
本実施形態におけるインクが顔料を含む場合、顔料分散性をより良好なものとするため、分散剤を含んでもよい。分散剤として、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤などの顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤が挙げられる。その具体例として、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン、ビニル系ポリマー及びコポリマー、アクリル系ポリマー及びコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、アミノ系ポリマー、含珪素ポリマー、含硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、及びエポキシ樹脂のうち一種以上を主成分とするものが挙げられる。高分子分散剤の市販品として、味の素ファインテクノ社製のアジスパーシリーズ(商品名)、アビシア社(Avecia Co.)から入手可能なソルスパーズシリーズ(Solsperse 32000,36000等〔以上、商品名〕)、BYKChemie社製のディスパービックシリーズ(商品名)、楠本化成社製のディスパロンシリーズ(商品名)が挙げられる。
【0092】
分散剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、分散剤の含有量は特に制限されず適宜好ましい量を添加すればよい。
【0093】
〔7.その他の添加剤〕
本実施形態におけるインクは、上記に挙げた添加剤以外の添加剤(成分)を含んでもよい。このような成分としては、特に制限されないが、例えば従来公知の、蛍光増白剤(増感剤)、シリコーン系などの界面活性剤、重合禁止剤、重合促進剤、浸透促進剤、及び湿潤剤(保湿剤)、並びにその他の添加剤があり得る。上記のその他の添加剤として、例えば従来公知の、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤、及び増粘剤が挙げられる。
【0094】
続いて、記録方法に用いられる被記録媒体及び記録方法に含まれる各工程について、詳細に説明する。
【0095】
〔8.被記録媒体〕
上記の被記録媒体として、例えば、インク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体が挙げられる。当該被記録媒体のうち、インク非吸収性の被記録媒体としては、例えば、インクジェット記録用に表面処理していない(すなわち、インク吸収層を形成していない)プラスチックフィルム、紙等の基材上にプラスチックがコーティングされているものやプラスチックフィルムが接着されているもの等が挙げられる。ここでいうプラスチックとしては、ポリ塩化ビニル(塩ビ)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。インク低吸収性の被記録媒体の例としては、アート紙、コート紙、マット紙等の印刷本紙などが挙げられる。
【0096】
〔9.吐出工程〕
本実施形態における吐出工程は、紫外線硬化型インクを所定範囲の吐出温度でヘッドから被記録媒体に向けて吐出するものである。そして、当該吐出温度は30〜40℃である。
【0097】
上記の30〜40℃という温度は、加温により昇温させた温度としては比較的低温である。このように、吐出されるインクの温度(吐出温度)が比較的低温であると、温度のばらつきが殆どないことからインクの吐出安定性が良好なものとなるという有利な効果が得られる。
【0098】
ここで、本明細書における吐出温度は、次の方法により測定した値を採用するものとする。ヘッドに設けられたノズルプレートのノズル面に設けた熱電対の温度を印刷開始前に測定し、これを吐出温度とする。ただし、当該方法は本発明が採り得る吐出温度の測定方法を何ら限定するものではない。なお、インクを収容したインクカートリッジからヘッドへインクを供給する経路にインク加温装置を配置し、インク加温装置で加温したインクをヘッドに供給することにより、インクを所定の吐出温度とすることができる。
【0099】
以下、上記の吐出温度についてより具体的に説明する。当該温度が30℃以上であると、吐出安定性が優れたものとなる。これに加えて、30℃未満で吐出可能な紫外線硬化型インクは粘度が非常に低いが、この低粘度に起因して硬化シワが発生しやすくなるという問題が生じる。これに対し、本実施形態におけるインクは当該問題を回避することができる。なお、上記の問題は特に、プリンターの方式がラインプリンターである場合、及び光源が発光ダイオード(LED)である場合に、顕著である。そのため、本実施形態においてラインプリンターやLEDを用いる場合、特に大きな効果がもたらされる。
【0100】
一方、上記の吐出温度が40℃以下であると、記録装置内の温度上昇を抑制することができる。
【0101】
また、上記の効果を一層大きなものとし、かつ、上記の問題をより確実に回避するため、上記の吐出温度は34〜40℃が好ましい。
【0102】
また、上記の吐出温度におけるインクの粘度は、8〜15mPa・sが好ましく、8〜13mPa・sがより好ましい。当該粘度が上記範囲内であると、インクの組成に起因した硬化シワの発生を効果的に抑制でき、かつ、高粘度に起因する吐出の不安定さを防止し吐出安定性に一層優れる。
【0103】
また、紫外線硬化型インクは、上述したように、通常のインクジェット用インクで使用される水性インクよりも粘度が高いため、吐出時の温度変動による粘度変動が大きい。このようなインクの粘度変動は、液滴サイズの変化及び液滴吐出速度の変化に対して大きな影響を与え、ひいては画質劣化を引き起こし得る。そのため、吐出されるインクの温度(吐出温度)はできるだけ一定に保つことが好ましい。本実施形態におけるインクは、吐出温度が比較的低温であるとともに、加温による温度調節により、吐出温度をほぼ一定に保つことができる。したがって、本実施形態におけるインクは、画質安定性にも優れている。
【0104】
〔10.硬化工程〕
本実施形態の記録方法に含まれる硬化工程は、被記録媒体に付着した紫外線硬化型インクを、光源から紫外線(光)が照射されることによって硬化させるものである。本工程において、インクに含まれる光重合開始剤が紫外線の照射により分解して、ラジカル、酸、及び塩基などの開始種を発生し、重合性化合物の重合反応が、その開始種の機能によって促進される。あるいは本工程において、紫外線の照射により重合性化合物の重合反応が開始する。このとき、インクにおいて光重合開始剤と共に増感色素が存在すると、系中の増感色素が紫外線を吸収して励起状態となり、光重合開始剤と接触することによって光重合開始剤の分解を促進させ、より高感度の硬化反応を達成させることができる。
【0105】
光源(紫外線源)としては、水銀ランプやガス・固体レーザー等が主に利用されており、紫外線硬化型インクの硬化に使用される光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプが広く知られている。その一方で、現在環境保護の観点から水銀フリー化が強く望まれており、GaN系半導体紫外発光デバイスへの置き換えは産業的、環境的にも非常に有用である。さらに、紫外線発光ダイオード(UV−LED)及び紫外線レーザダイオード(UV−LD)等のLED(発光ダイオード)は小型、高寿命、高効率、及び低コストであり、紫外線硬化型インク用光源として期待されている。
【0106】
このように、本実施形態における紫外線硬化型インクは、光源がLED及びメタルハライドランプのいずれであっても好適に使用可能であるが、中でもLEDが好ましい。
【0107】
上記の光源(紫外線源)の発光ピーク波長は、360〜420nmの範囲が好ましく、380〜410nmの範囲がより好ましい。発光ピーク波長が上記範囲内であると、UV−LEDの入手が容易であるとともに安価であることから好適である。
【0108】
また、上記範囲に発光ピーク波長を有する光源(好ましくはLED)から照射される紫外線のピーク強度(照射ピーク強度)は、好ましくは500mW/cm
2以上であり、より好ましくは800mW/cm
2以上であり、さらに好ましくは1,000mW/cm
2以上である。照射ピーク強度が上記範囲内であると、硬化性に一層優れ、かつ、硬化シワの発生をより効果的に抑制することができる。特に、被記録媒体に吐出したインクを最初に照射する紫外線の照射ピーク強度を上記範囲とすることにより、硬化シワの発生をより効果的に抑制することができる。硬化シワが発生する原理は上述のとおりに推測されるが、照射ピーク強度が上記範囲内であると、塗膜表面の硬化と同時に内部まで硬化させることができ、硬化シワの発生を効果的に抑制することができると推測される。さらに、本実施形態におけるインクの20℃における粘度が15mPa・s以上であると、硬化シワの発生をより効果的に抑制することができる。特に、紫外線硬化型インクが上述の一般式(1)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含有し、照射ピーク強度が上記範囲内であると、硬化性に一層優れ、かつ、硬化シワの発生をさらに効果的に抑制できる。
【0109】
なお、本明細書における照射ピーク強度は、紫外線強度計UM−10、受光部UM−400(いずれもコニカミノルタセンシング社(KONICA MINOLTA SENSING,INC.)製)を用いて測定された値を採用する。ただし、これは照射ピーク強度の測定方法を制限するという意味でなく、従来公知の測定方法が利用可能である。
【0110】
また、本実施形態における紫外線硬化型インクは、200mJ/cm
2以下の照射エネルギーを照射することにより硬化可能であることが好ましい。当該紫外線硬化型インクを、本実施形態の記録方法に用いることにより、照射エネルギー量が比較的小さなLEDを用いても硬化が可能となり、LEDの発熱を小さくでき、かつ、低コスト印刷であって大きな印刷速度が実現可能となる。インクを硬化可能な照射エネルギーの下限は、特に制限されるものではないが、100mJ/cm
2以上とすればよい。
また、記録を行う際の照射エネルギーは、照射に伴う発熱を抑制するため、600mJ/cm
2以下とすることが好ましく、500mJ/cm
2以下とすることがより好ましい。記録を行う際の照射エネルギーの下限は、特に制限されるものではないが、十分に硬化させるため、200mJ/cm
2以上であるとよい。ここで、上記の記録を行う際の照射エネルギーは、照射が複数回行われる場合には、各照射エネルギーを合計した総照射エネルギーである。
【0111】
なお、本明細書における照射エネルギーは、照射開始から照射終了までの時間に照射ピーク強度を乗じて算出される。また、照射が複数回に亘って行われる場合、上記の照射エネルギーは、複数回の照射を合計した照射エネルギー量で表される。発光ピーク波長は、上記の好ましい波長範囲内に1つあってもよいし複数あってもよい。複数ある場合であっても上記範囲の発光ピーク波長を有する紫外線の全体の照射エネルギー量を上記の照射エネルギーとする。
【0112】
このようなインクは、上記波長範囲の紫外線照射により分解する光重合開始剤、及び上記波長範囲の紫外線照射により重合を開始する重合性化合物のうち少なくともいずれかを含むことにより得られる。
【0113】
また、被記録媒体への、吐出時における単位面積当たりのインクの吐出量(付着量、打ち込み量)は、インクの無駄な使用を防止するため、5〜16mg/インチ
2が好ましい。
【0114】
また、単位面積当たりのインクの吐出量は、記録解像度と、記録解像度で規定される記録単位領域(画素)当たりに打ち込むインク量と、によって変わるが、記録解像度(印刷解像度)を「副走査方向の解像度×副走査方向と交差する方向(主走査方向)の解像度」で表すと、300dpi×300dpi〜1500dpi×1500dpiが好ましい。そして、この記録解像度に応じて、ヘッドのノズル密度及び吐出量を調整することが好ましい。
なお、画素当たりのインクの吐出量は、2〜50ng/画素が好ましく、3〜20ng/画素がより好ましい。また、ノズル密度(ノズル列におけるノズル間距離)は、180〜720dpiが好ましく、300〜720dpiがより好ましい。
【0115】
このように、本実施形態によれば、硬化性、吐出安定性、及び連続印刷後の記録装置内における温度上昇の抑制のいずれにも優れ、さらに硬化シワの発生も抑制することのできるインクジェット記録方法を提供することができる。さらに言えば、本実施形態の記録方法は、低粘度の紫外線硬化型インクを用いる場合であっても、優れた硬化性及び吐出安定性を確保しつつ、連続印刷後の記録装置内における温度上昇の抑制に優れるものである。
【0116】
[インクジェット記録装置]
本発明の一実施形態は、インクジェット記録装置、即ちインクジェットプリンターに係る。当該記録装置は、上記実施形態のインクジェット記録方法を利用するものである。以下、図面を参照して、当該記録方法を実施するための本実施形態の記録装置(プリンター)についてより詳しく説明する。なお、本発明の範囲は以下の図面に何ら限定されるものではない。
【0117】
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置の構成の一例を示すブロック図である。コンピューター130にはプリンタードライバーがインストールされており、プリンター1に画像を記録させるため当該画像に応じた印刷データをプリンター1に出力する。プリンター1は、搬送ユニット20、ヘッドユニット30、照射ユニット40、検出器群110、メモリー123、インターフェイス(I/F)121、及びコントローラー120を有する。外部装置であるコンピューター130から印刷データを受信したプリンター1は、コントローラー120によって各ユニットを制御して、印刷データに従い、被記録媒体上に画像を記録する。プリンター1内の状況は検出器群110によって監視されており、検出器群110は、検出結果をコントローラー120に出力する。コントローラー120は、検出器群110から出力された検出結果に基づいて、各ユニットを制御する。コントローラー120は、インターフェイス121を介して入力した印刷データをメモリー123に記憶し、CPU122とユニット制御回路124とを有する。メモリー123には、各ユニットを制御するための制御情報も記憶されている。
【0118】
本実施形態のプリンターは、様々な色のインクを被記録媒体に記録する(画像を形成する)ことができ、例えば、CMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)の4色のインクを用いて画像を形成したり、白色のインクを用いて被記録媒体に優れた隠蔽性を付与する下地の画像を形成したりすることが挙げられる。
【0119】
本実施形態のプリンターの種類として、ラインプリンター及びシリアルプリンターが挙げられ、いずれを用いることもできる。これらはプリンターの方式が異なる。
【0120】
ライン方式のインクジェット記録装置であるラインプリンターは、ヘッドとして被記録媒体の幅に相当する長さ以上の長さであるラインヘッドを備える。当該ラインヘッドと被記録媒体とが当該幅方向と交差する走査方向に相対的に位置を移動しながら被記録媒体に向けて、即ちラインヘッドと相対的に走査される被記録媒体に向けて、ラインヘッドからインクが吐出されるものである。そして、ラインプリンターでは、ヘッドが(ほぼ)移動せずに固定されて、1パス(シングルパス)で記録が行われる。ラインプリンターは記録速度が大きい点でシリアルプリンターよりも有利である。
【0121】
ここで、上記の「被記録媒体の幅に相当する長さのラインヘッド」は、被記録媒体の幅とラインヘッドの長さ(幅)とが完全に一致している場合に限らず、互いに異なっていてもよい。当該互いに異なっていてもよい場合として、例えば、ラインヘッドの長さ(幅)が、インクが吐出されるべき(画像が記録されるべき)被記録媒体の幅(被記録幅)に相当する長さである場合が挙げられる。
【0122】
一方、シリアル方式のインクジェット記録装置であるシリアルプリンターは、ヘッドが被記録媒体の副走査方向と交差した主走査方向に移動しながらインクの吐出を行う主走査(パス)を行い、通常2パス以上(マルチパス)で記録が行われるものである。
【0123】
〔インクジェットヘッド〕
インクジェット記録装置(プリンター1)が有するヘッドユニット30は、紫外線硬化型インクを被記録媒体に向けて吐出して記録を行うヘッド(インクジェットヘッド)を備える。当該ヘッドは、収容したインクをノズルから吐出させるキャビティーと、当該キャビティー毎に設けられた、インクに吐出の駆動力を付与する吐出駆動部と、当該キャビティー毎に設けられた、ヘッドの外へインクを吐出するノズルと、を有する。キャビティー、並びにキャビティー毎に設けられる吐出駆動部及びノズルは、それぞれ互いに独立して、一のヘッドに複数個設けられていてもよい。吐出駆動部は、機械的な変形によりキャビティーの容積を変化させる圧電素子などの電気機械変換素子や、熱を発することによりインクに気泡を発生させ吐出させる電子熱変換素子などを用いて形成することができる。インクジェット記録装置は、1色のインクにつきヘッドを1個設けていても複数個設けていてもよく、複数個設けている場合、複数個のヘッドを被記録媒体の幅方向に並べることによりラインヘッドを構成してもよく、この場合、上述の被記録幅を長くすることができる。複数色のインクを用いて記録を行う場合、インクジェット記録装置はインク毎にヘッドを備える。ヘッドは、例えば、特開2009−279830号の
図3等のようにして構成することができる。
【0124】
以下、
図2を参照して、本実施形態のプリンターの一例であるラインプリンターについて詳しく説明する。以下の説明に用いる
図2においては、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0125】
〔ラインプリンター〕
図2は、本実施形態のプリンターの一例である上述のラインプリンターにおけるヘッドユニット、搬送ユニット、及び照射ユニットの周辺の一例を示す概略断面図である。
【0126】
搬送モーター(図示せず)により、上流側ローラー25A及び下流側ローラー25Bからなる搬送ローラーが回転し、搬送ドラム26が従動する。被記録媒体Sは、搬送ローラー25A及び25B、並びに支持体である搬送ドラム26の周面に沿い、搬送ローラーの回転に伴って搬送される。搬送ドラム26の周囲にはヘッドK、ヘッドC、ヘッドM、及びヘッドYからなる各ラインヘッドが搬送ドラム26に対向して配置される。
【0127】
上記支持体は、被記録媒体Sが搬送される面を有し、被記録媒体Sを支持し、かつ、ヘッドに対し相対的に移動して、ヘッドに対して相対的に移動するものである。
図2で言うと、支持体に相当する搬送ドラム26が、被記録媒体Sが搬送される面を有し、被記録媒体Sを支持し、かつ、ヘッドに対し相対的に移動して、各ラインヘッドと対向する位置を通過するものである。当該支持体が被記録媒体Sを支持しつつヘッドに対して相対的に移動する場合、任意の位置から同じ位置に戻るまでの時間(周期)が5秒以上であることが好ましく、6秒であることがより好ましい。当該時間が上記範囲内であると、支持体の放熱により温度上昇を抑制することができる。また、上記周期の上限は特に制限されるものではないが、高速印刷を実現するため、例えば15秒以内であるとよい。
なお、上記の支持体による所定周期での移動は、少なくともインクジェット記録が行われる間になされればよく、さらにはインクジェット記録が行われる間、連続的又は断続的になされればよい。
【0128】
上記支持体の形状としては、
図2のようなドラム状の支持体に限られるものではなく、以下に限定されないが、例えばドラム状、ローラー状、及びベルト状の支持体、並びに被記録媒体Sを支持する板状の支持体(プラテン等)も好ましく挙げられる。ヘッドに対して相対的になされる支持体の移動は、1つの方向に移動(回転)して同じ位置に戻る移動としてもよく、ある方向への移動及び他の方向への移動により同じ位置に戻る移動としてもよい。後者の場合、当該ある方向への移動を、単票型の一被記録媒体への記録に伴う移動とし、かつ、当該他の方向への移動を、一の被記録媒体への記録を終えて次の被記録媒体へ記録を行うための移動とする形態が挙げられる。
なお、シリアルプリンターの場合、上記のある方向への移動は副走査に相当する。また、ヘッドに対して相対的になされる支持体の移動は、ヘッドに対する支持体の相対的な移動であればよく、支持体に対してヘッドが移動するような移動も含む。
【0129】
支持体の材質としては、以下に限定されないが、例えば、金属、樹脂、及びゴムが挙げられ、中でも金属が好ましい。当該材質が金属であると、ゴム等の高分子材料である場合と異なり、支持体を長期間使用しても、熱による劣化と思われるヒビ割れが生じず、長期使用が可能となる。当該金属としては、以下に限定されないが、例えば、アルミニウム、ステンレス、銅、及び鉄、並びにこれらの合金が挙げられる。さらに、金属製の支持体の表面、即ち被記録媒体Sの搬送面をコーティング剤などで塗装してもよい。これにより、塗装しない支持体よりも、支持体表面の硬度を向上させることができ、かつ、被記録媒体との間で滑りにくくすることができる。当該コーティング剤としては、以下に限定されないが、例えば、樹脂などの有機系コーティング剤及び無機化合物などの無機系コーティング剤、並びにこれらの複合コーティング剤が挙げられる。なお、以上の支持体に関する事項は、ラインプリンターに限らず、シリアルプリンターにも適用可能である。
【0130】
このように、各ラインヘッドと対向する被記録媒体Sに向けてインクを吐出し付着させる吐出動作により記録を行う。各ラインヘッドの搬送方向下流側には仮硬化用照射部42a、42b、42c、及び42dが配置され、被記録媒体Sに向けて紫外線を照射する。搬送方向の更に下流側には本硬化用照射部44が配置されている。このような記録装置は、例えば特開2010−269471号の
図11の様にして構成することができる。
本明細書において、「仮硬化」とは、インクの仮留め(ピニング)を意味し、より詳しくはドット間の滲みの防止やドット径の制御のために、本硬化の前に硬化させることを意味する。一般に、仮硬化における重合性化合物の重合度は、仮硬化の後で行う本硬化による重合性化合物の重合度よりも低い。また、「本硬化」とは、被記録媒体上に形成されたドットを、記録物を使用するのに必要な硬化状態まで硬化させることをいう。ここで、本明細書において「硬化」というときは、特に言及のない限り、上記本硬化を意味するものとする。
【0131】
なお、本硬化用照射部44より紫外線が照射されて、インクが本硬化されればよいため、仮硬化用照射部42a、42b、42c、及び42dの一部又は全部から紫外線を照射せず、本硬化用照射部44より紫外線を照射して硬化動作を終了してもよい。このように、硬化動作は、仮硬化を行わずに本硬化のみを行うものであってもよい。
【0132】
このように、本実施形態によれば、硬化性、吐出安定性、及び連続印刷後の記録装置内における温度上昇の抑制のいずれにも優れ、さらに硬化シワの発生も抑制することのできるインクジェット記録装置を提供することができる。さらに言えば、本実施形態の記録装置は、低粘度の紫外線硬化型インクを用いる場合であっても、優れた硬化性及び吐出安定性を確保しつつ、連続印刷後の記録装置内における温度上昇の抑制に優れるものである。
【実施例】
【0133】
以下、本実施形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0134】
[使用材料]
実施例及び比較例において使用した材料は、下記に示すとおりである。
〔重合性化合物〕
・VEEA(アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、日本触媒社(Nippon Shokubai Co., Ltd.)製商品名、単官能の(メタ)アクリレート)
・ニューフロンティアPHE(フェノキシエチルアクリレート、第一工業製薬社(Dai-ichi Kogyo Seiyaku Co., Ltd.)製商品名、単官能の(メタ)アクリレート、以下「PEA」と記載した。)
・APG−100(ジプロピレングリコールジアクリレート、新中村化学工業社製商品名、2官能の(メタ)アクリレート、以下「DPGDA」と記載した。)
・A−DPH(トリプロピレングリコールジアクリレート、2官能の(メタ)アクリレート、新中村化学社(SHIN-NAKAMURA CHEMICAL CO.,LTD.)製商品名)
〔光重合開始剤〕
・DAROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、BASF社製商品名、以下「TPO」と記載した。)
・IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、BASF社製商品名、以下「819」と記載した。)
〔色材〕
・Cyanine Blue KRO(C.I.ピグメントブルー15:3(フタロシアニン顔料)、山陽色素社(SANYO COLOR WORKS, Ltd.)製商品名、顔料粒径80nm、以下「PB15:3」と記載した。)
〔分散剤〕
・Solsperse 32000(アビシア(Avecia)社製商品名、以下「32000」と記載した。)
【0135】
[紫外線硬化型インク1〜11の調製]
下記表1に記載の各材料を、表1に記載の含有量(単位:質量%)となるように添加し、これを高速水冷式撹拌機で撹拌することにより、紫外線硬化型インク1〜11を得た。なお、各インクの粘度は、上述の粘度設計手法に従って所望の値とした。
【0136】
[測定・評価項目]
〔1.インクの平均重合性不飽和二重結合当量〕
インクの平均重合性不飽和二重結合当量を上述の数式(2)及び(3)により算出した。
評価基準は以下のとおりである。評価結果を実測値及び下記ランク(基準)に分けて下記表1に示す。
1:100以上150以下であった。
2:100未満であった。
3:150を上回った。
【0137】
〔2.20℃でのインクの粘度測定(ランク)〕
DVM−E型回転粘度計(東京計器社製)を用いて、上記で調製した各インクの粘度を、20℃及び回転数10rpmの条件下で測定した。
ローターは、コーン角度1°34’、コーン半径2.4cmのDVM−E型用コーンを使用した。
評価基準は以下のとおりである。評価結果を下記表1に示す。
1:15mPa・s未満であった。
2:15mPa・s以上25mPa・s以下であった。
3:25mPa・sを上回った。
【0138】
〔3.インクの硬化性評価〕
PETフィルム(PET50(K2411)PA−T1 8LK〔商品名〕、リンテック社(Lintec Corporation)製)上に、バーコーターを用いて上記で調製した各インクを塗布し、膜厚10μmの塗膜をそれぞれ得た。そして、紫外線照射装置(UV−LED)から、照射強度が1,000mW/cm
2であり、且つピーク波長が395nmである紫外線を所定時間照射して上記の各塗膜を硬化させた。なお、指触試験により画像(塗膜表面)のタック感がなくなった時点で硬化したものと判断した。
【0139】
評価は、硬化の際に要した紫外線の照射エネルギーを算出することにより行った。照射エネルギー[mJ/cm
2]は、光源から照射される被照射表面における照射強度[mW/cm
2]を測定し、これと照射継続時間[s]との積から求めた。照射強度の測定は、紫外線強度計UM−10、受光部UM−400(いずれもコニカミノルタセンシング社(KONICA MINOLTA SENSING,INC.)製)を用いて行った。
評価基準は以下のとおりである。評価結果を下記表1に示す。
A:積算光量200mJ/cm
2以下の照射エネルギーで硬化した。
B:積算光量200mJ/cm
2を超える照射エネルギーで硬化した。
【0140】
〔4.インクの保存安定性評価〕
上記「2.」で粘度測定した各インクを50mL容のガラス瓶に入れ、密栓した後に60℃の恒温槽内に投入して1週間保存した。その後、室温まで温度を下げた各インクについて、上記「2.」と同様の方法で粘度測定した。そして、保存前後の増粘率(保存前のインクの粘度に対する保存後のインクの粘度の割合)により、保存安定性を評価した。
評価基準は以下のとおりである。評価結果を下記表1に示す。
A:増粘率が5%未満であった。
B:増粘率が5%以上であった。
【0141】
【表1】
【0142】
なお、紫外線硬化型インク1〜4,9は実施例として使用できるインクに相当し、紫外線硬化型インク5〜8,10,11は比較例に用いられるインクに相当する。
【0143】
以下、各実施例及び各比較例における記録方法について説明する。
【0144】
[実施例1]
図2に示す、被記録媒体の画像が記録されるべき幅(被記録幅)にほぼ相当する長さを有し4個のヘッドを幅方向に並べて構成されるラインヘッドを備えるラインプリンターを使用した。なお、
図2に示すヘッド及び光源のうち、ヘッドC、光源42b、及び光源44を使用し、その他のものは使用しなかった。
【0145】
搬送ドラム26はアルミニウム製とし、搬送ドラム26の直径を500mm、印刷速度を285mm/s、ドラム回転周期を5.5sとした。
【0146】
ノズル密度を600dpiとしたヘッドCから、上記PETフィルム(PET50(K2411)PA−T1 8LK)に向けて、記録解像度600dpi×600dpi及び1パス(シングルパス)の条件で、表2に示すインク1を10分間連続で吐出した(10分間の連続印刷を行った)。硬化後の膜厚が11μmとなるよう、画素当たりのインク滴量を調整した。本実施例1のインク滴量は7ngであった。このようにしてベタパターン画像を形成した。なお、当該ベタパターン画像とは、記録解像度で規定される最小記録単位領域である画素の全ての画素に対してドットを記録した画像を意味する。
上記吐出時の温度は、表2中「吐出温度」欄に示す35℃とした。ここで、吐出温度は次の方法により測定した。ヘッドCへインクを供給する経路にインク加温装置を配置し、所定温度に加温したインクをヘッドに供給した。ヘッドCのノズル面に設けた熱電対の温度を印刷開始前に測定し、これを吐出温度とした。ノズル面(ノズルプレート)はステンレス製とした。
【0147】
続いて、PETフィルムに付着したインクに光源から紫外線を照射し、インクを硬化させた。具体的には、まず光源42bとして、ピーク波長395nm及び照射ピーク強度500mW/cm
2のLEDを用いた。当該LEDから、照射エネルギーが20mJ/cm
2である紫外線を照射し、仮硬化を行った。また、光源44として、ピーク波長395nm及び照射ピーク強度1,500mW/cm
2のLEDを用いた。当該LEDから、照射エネルギーが400mJ/cm
2である紫外線を所定時間照射してベタパターン画像を硬化させた。このようにして、上記ベタパターン画像が硬化した記録物を得た。なお、指触試験により画像(塗膜表面)のタック感がなくなったことを確認した。
【0148】
[実施例2〜7,比較例1〜12]
使用したインク及び吐出温度を、それぞれ下記の表2及び表3に記載したものとした点以外は、実施例1と同様にして記録物を得た。
【0149】
[実施例8]
搬送ドラム26の直径を318mmとしてドラム回転周期を3.5sとした点以外は、実施例1と同様にして記録物を得た(印刷速度は実施例1と同じ値である。)。
【0150】
[実施例9]
光源42bにLEDの代わりにメタルハライドランプ(表2では「メタハラ」と略記した。)を配置した点以外は、実施例1と同様にして記録物を得た。
【0151】
[実施例10]
ラインプリンターに替えて、光源としてピーク強度500mW/cm
2のLEDをキャリッジの横に搭載したシリアルプリンターを用いた点以外は、実施例1と同様にして記録を行った。用いたシリアルプリンターは、特開2010−167677号の
図2に記載のインクジェットプリンターである。インク1をヘッド(シリアルヘッド)のノズル列に充填した。ヘッドのノズル密度を300dpiとし、液滴重量を7ngとし、記録解像度を600dpi×600dpi(但し、1パス当たりの記録解像度を300dpi×300dpi)として、吐出温度35℃の条件で、上記PETフィルムの同一被記録領域へのドットの形成を4パス(主走査方向2パス×副走査方向2パス)行った。このようにして膜厚11μmのベタパターン画像を印刷した。
【0152】
プリンターのキャリッジには上記ラインプリンターに搭載した光源42bと同じLEDを、ヘッドの副走査方向の長さと同じ長さ分設けた。1回のパス当たりの照射エネルギーを40mJ/cm
2として、パスごとに仮硬化を行った。プリンターのキャリッジよりも被記録媒体の搬送方向下流に上記ラインプリンターに搭載した光源44と同じLEDを、被記録媒体の幅と同じ長さ分、幅方向に設け、照射エネルギーが400mJ/cm
2である紫外線を所定時間照射して、キャリッジよりも被記録媒体の搬送方向下流側に搬送されてきた被記録媒体のベタパターン画像を硬化させた。このようにして、上記ベタパターン画像が硬化した記録物を得た。なお、実施例1と同様、指触試験により画像(塗膜表面)のタック感がなくなったことを確認した。
【0153】
[測定・評価項目]
〔5.吐出安定性評価〕
300個のノズルから、下記の表2及び表3に示す番号のインクを用いて10分間連続印刷を行った(10分間連続で吐出させた。)。印刷開始前に、ノズルから皿にインクを500滴吐出させて1滴当たりの吐出量(質量)を測定し、印刷終了後直ちに、印刷開始前と同様にして1滴当たりの吐出量(質量)を測定した。
評価基準は以下のとおりである。評価結果を下記の表2及び表3に示す。
A:連続印刷中、不吐出ノズルは無かった。印刷開始前のインク滴当たりの吐出量に対する印刷終了後の吐出量の質量の変化が5%以下であった。
B:連続印刷中、不吐出ノズルは無かった。印刷開始前のインク滴当たりの吐出量に対する印刷終了後の吐出量の質量の変化が5%を上回った。
C:連続印刷中、不吐出ノズルがあった。
【0154】
なお、以下の項目「6.」及び「7.」はいずれも連続印刷後の記録装置内における温度上昇に関する評価であるが、記録装置内の複数個所で当該評価を行うことにより、評価結果の信頼性を高めるものである。そこで、当該記録装置内の複数個所として、ヘッド側であるノズルプレートのノズル面と被記録媒体側であるドラムとを選んだ。
【0155】
〔6.連続印刷後のヘッドのノズル面における温度上昇評価〕
印刷開始前に、ノズルプレートのノズル面に設けた熱電対の温度を測定した。それから10分間連続印刷を行い、連続印刷後に当該熱電対の温度を測定した。そして、印刷開始前の温度及び連続印刷後の温度の差を、連続印刷後のヘッドのノズル面における温度上昇として評価した。
評価基準は以下のとおりである。評価結果を下記の表2及び表3に示す。なお、表では「連続印刷後のノズル面温度上昇」と略記した。
A:10℃未満であった。
B:10℃以上15℃未満であった。
C:15℃以上であった。
【0156】
〔7.連続印刷後のドラムにおける温度上昇評価〕
実施例10を除く各実施例及び各比較例は、次のようにして評価を行った。搬送ドラムの表面のうちヘッドと対向し得る位置の表面温度を印刷開始前に測定した。それから10分間連続印刷を行い、印刷開始前と同様に、ヘッドと対向し得る搬送ドラムの表面温度を連続印刷後に測定した。そして、印刷開始前の表面温度及び連続印刷後の表面温度の差を、連続印刷後の搬送ドラムにおける温度上昇として評価した。
一方、実施例10は、ヘッドと対向し得る位置にある、搬送ドラムでなくプラテンの表面温度を、印刷開始前及び連続印刷後に測定した点以外は、上記各実施例及び各比較例と同様にして評価した。
評価基準は以下のとおりである。評価結果を下記の表2及び表3に示す。なお、表では「連続印刷後のドラム温度上昇」と略記した。また、実施例10の「連続印刷後のドラム温度上昇」は、正確に言えば、連続印刷後のプラテン温度上昇である。
A:10℃未満であった。
B:10℃以上15℃未満であった。
C:15℃以上であった。
【0157】
〔8.硬化シワ評価〕
上記の各実施例及び各比較例で得られた記録物について、目視で硬化膜(硬化した塗膜)の表面を観察した。評価基準は以下のとおりである。評価結果を下記の表2及び表3に示す。
A:シワが全く発生していなかった。
B:シワが硬化膜の一部の領域で発生していた。
C:シワが硬化膜の表面の全体に発生していた。
【0158】
【表2】
【0159】
【表3】
【0160】
以上の結果より、20℃における粘度が25mPa・s以下であり、かつ、平均重合性不飽和二重結合当量が100〜150である紫外線硬化型インクを、吐出温度が30〜40℃の状態で、ヘッドから被記録媒体に向けて吐出する吐出工程と、被記録媒体に付着したインクを、光源から紫外線を照射して硬化させる硬化工程と、を含むインクジェット記録方法(各実施例)は、そうでない記録方法(各比較例)に比して、硬化性、吐出安定性、及び連続印刷後の温度上昇の抑制のいずれにも優れ、さらに硬化シワの発生も抑制可能であることが分かった。以下、実施例及び比較例ごとに考察を行うが、以下の考察は本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0161】
まず、紫外線硬化型インクの20℃における粘度が25mPa・s以下である場合、硬化性に優れた。また、紫外線硬化型インクの平均重合性不飽和二重結合当量が100以上である場合、インクの保存安定性に優れた。さらに、当該当量が150以下である場合、硬化性に優れた。なお、当該当量が150以下である場合、インクの硬化性に優れるため、複数色のインクを用いて行う実際の印刷の際には、インク同士の混色を防止するための最小限の硬化に必要となる、光源42bからの照射エネルギーをより小さくでき、光源42bからの照射及び光源42bの発熱に起因して、搬送ドラム26の温度が上昇することも低減でき、本発明において好ましいものと推測される。
【0162】
また、紫外線硬化型インクの平均重合性不飽和二重結合当量が100を下回るか、又は吐出温度が40℃を上回る場合、連続印刷後のヘッドのノズル面における温度上昇及び連続印刷後の搬送ドラムにおける温度上昇が顕著であった。より詳しく言えば、平均重合性不飽和二重結合当量が100を下回ると、硬化時の反応熱量が大きいため連続印刷後の記録装置内において温度が大幅に上昇したものと推測される。
連続印刷後の搬送ドラムにおいて温度が大幅に上昇すると、被記録媒体が熱で変形する場合があるため、得られる記録物の品質が劣るという問題が生じる。一方、連続印刷後のヘッドのノズル面において温度が大幅に上昇すると、吐出量の変化が大きくなるため、画像安定性を悪化させるという問題が生じる。これに対し、各実施例によれば、連続印刷後の搬送ドラム及びノズル面の双方における温度上昇を効果的に抑制できるため、上記の問題が生じない。
【0163】
また、実施例8より、ドラム回転周期(s)をより短くした場合、特に連続印刷後の搬送ドラムにおいて温度が、他の実施例に比して一層上昇した。
【0164】
また、実施例9より、硬化用光源としてLEDに替えてメタルハライドランプを用いた場合、LEDを用いた場合と比べて、連続印刷後の搬送ドラムの温度上昇が大きかった。これは、メタルハライドランプの発熱によりドラムの温度上昇幅が大きかったためと推測される。光源としてメタルハライドランプを用いると、発熱によるドラム温度上昇により被記録媒体が熱で変形する可能性があることや、LEDと比べて大型の光源であるため設置スペースが必要となることがある。つまり、LEDを用いることは、連続印刷後の搬送ドラムにおける温度上昇を効果的に抑制できるため好ましく、さらに低発熱及び省スペースの記録装置とできる点でも好ましい。
【0165】
また、実施例10より、ラインプリンターでなくシリアルプリンターを用いた場合、ラインプリンターと比べて温度上昇は少なかったものの、記録速度がより小さくなった。つまり、本発明の記録方法によれば、ラインプリンターにより高速印刷を行う場合であっても、硬化シワの発生を効果的に抑制可能な記録を行うことができると推測される。
【0166】
なお、実施例として示していないが、光源42bのLEDの照射ピーク強度を高くするほど、硬化シワを効果的に抑制することができた。特に、被記録媒体に向けて吐出され付着したインクを最初に照射する光源の照射ピーク強度を、好ましくは500mW/cm
2以上、より好ましくは800mW/cm
2以上とすることにより、硬化シワを一層効果的に抑制することができた。
【0167】
また、実施例として示していないが、ドラムの軸側以外、即ちドラムの表面側のドラム半径の半分の材質を、アルミニウム製でなくゴム製とした点以外は、実施例1と同様にして行ったところ、長期使用(6か月)に伴いヒビ割れが生じた。これは、ゴム製ドラムの表面が熱によって劣化したことに起因するものと推測される。したがって、搬送ドラムの材質は金属が好ましいと推測される。