(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1インク組成物と同一色の色材を含有し、前記第1インク組成物中における色材の含有率よりも色材の含有率が低く、かつ、炭素数が4以上8以下のアルカンジオールを1質量%以上10質量%以下の含有率で含む第2インク組成物を、前記第1インク組成物とともに用いる請求項1または2に記載のインクジェット記録方法。
前記第1インク組成物は、下記式(3)で表されるアルキレングリコールアルキルエーテルを含むものである請求項1ないし5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
R1−(O−CH2−CH(−CH3))k−(O−CH2−CH2)n−O−R2 (
3)(ただし、式(3)中、R1、R2は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数が1以上4以下であるアルキル基、nは、0以上3以下の数、kは、0以上3以下の数であり、R1とR2とは同時に水素原子とはならず、nとkとは同時に0とはならない。)
前記受容層は、基材の上に設けられたものであり、その表面から前記基材に渡るひび割れ領域を有するものである請求項1ないし6のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
≪インクジェット記録方法≫
まず、本発明のインクジェット記録方法について説明する。
本発明のインクジェット記録方法では、記録ヘッドから記録媒体に吐出するインク組成物として、色材と、炭素数が4以上8以下のアルカンジオールと、水溶性溶剤と、水とを含む第1インク組成物を用い、前記記録ヘッドは、圧電素子を用いてインク組成物を吐出するもので、単位長さ当たりの解像度が200dpi以上のものであり、前記記録媒体は、表面に受容層を有し、下記式(1)及び(2)を用いて算出される前記受容層の表面自由エネルギーの非極性成分γsdが20mN/m以下のものである。
【0013】
γl
M(1+COSθ
M)=2(γsd・γld
M)
0.5+2(γsp・γlp
M)
0.5 ・・・(1)
γl
W(1+COSθ
W)=2(γsd・γld
W)
0.5+2(γsp・γlp
W)
0.5 ・・・(2)
(ただし、式(1)及び(2)中、γld
Mは、ジヨードメタンの表面自由エネルギーの非極性成分、γlp
Mは、ジヨードメタンの表面自由エネルギーの極性成分、γl
Mは、ジヨードメタンの表面自由エネルギー(=γld+γlp)、θ
Mは、前記受容層上でのジヨードメタンの接触角、γld
Wは、水の表面自由エネルギーの非極性成分、γlp
Wは、水の表面自由エネルギーの極性成分、γl
Wは、水の表面自由エネルギー(=γld+γlp)、θ
Wは、前記受容層上での水の接触角、γsdは、前記受容層の表面自由エネルギーの非極性成分、γspは、前記受容層の表面自由エネルギーの極性成分を表す。)
【0014】
このように、本発明では、高解像度の記録ヘッドを用いるとともに、所定の条件を満足するインク組成物と所定の条件を満足する記録媒体とを組み合わせて用いる点に特徴を有している。そして、これにより、にじみが防止され、特定の受容層を有している場合には漆喰に描かれた絵画(壁画)のような質感のある記録物を高速で製造することができる。前記のような優れた効果は、前記の条件をすべて満足することにより得られるものであって、前記の条件のうち1つでも満たさない場合には前記のような優れた効果は得られない。
【0015】
例えば、第1インク組成物が、炭素数が4以上8以下のアルカンジオールを含まないものである場合、前記のような条件を満足する記録媒体への第1インク組成物の浸透力が低下し、記録媒体上でのインクのにじみ、顔料の凝集という問題を生じる。
また、記録ヘッドの単位長さ当たりの解像度が200dpi以上である場合、高密度にインク組成物が吐出可能となり、上述のようなにじみ、顔料凝集が発生しやすい記録媒体に良好な画像が形成可能となる。
上記式(1)は、一般に、Owens−Wendtの近似式と呼ばれるものであり、式中の、γld
W、γlp
W、γl
W、γld
M、γlp
M、γl
M、γsd、γspの単位は、いずれも、mN/mである。
【0016】
受容層の極性成分γspおよび非極性成分γsdは、以下のようにして求めることができる。すなわち、室温(23℃)下、1μlの水およびジヨードメタンについて、受容層に対する滴下から100ms後の接触角を測定する。水およびジヨードメタンの極性成分、非極性成分は既知なので、水の値を用いた式、およびジヨードメタンの値を用いた式の2式から、連立方程式を解くことで、受容層の極性成分γspと非極性成分γsdとを算出することができる。なお、水のγld
Wは48.5、γlp
Wは2.3、γl
Wは50.8であり、ジヨードメタンのγld
Mは29.1、γlp
Mは43.7、γl
Mは72.8である。
【0017】
<液滴吐出装置>
以下、本発明のインクジェット記録方法で用いる液滴吐出装置について説明する。
本発明において、記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)は、圧電素子を用いたものであり、単位長さ当たりの解像度が200dpi以上のものである。このような記録ヘッドを備え、かつ、第1インク組成物の液滴をマルチサイズ(例えば1pl〜40plの範囲)で吐出できると一層好ましい効果が得られる。
【0018】
記録ヘッドの単位長さあたりの解像度は、200dpi以上であればよいが、300dpi以上であるのが好ましく、600dpi以上であるのがより好ましい。これにより、微細な液滴を高密度かつ高速に記録し、特定の非極性成分を有する記録媒体にも良好な画像を形成出来る。一方、解像度が低い記録ヘッドを用いた場合、液滴サイズを大きくしなければ、印刷速度が遅くなってしまう傾向にあるが、液滴サイズが大きい場合にじみ等の画像の品質劣化が顕著になってしまい、上述の記録媒体に適用するのは困難である。一方、印刷速度を遅くするのは記録物の生産性の観点で好ましくない。
【0019】
記録ヘッドは、20pl以下の液滴を用いて画像の記録を行うものであるのが好ましい。すなわち、記録ヘッドが吐出する液滴1滴の体積は、20pl以下であるのが好ましく、5pl以上15pl以下であるのがより好ましい。これにより、より確実ににじみが防止された印刷部を所定の非極性成分を有する記録媒体に記録することができる。
以下、記録物の製造に用いる液滴吐出装置の一例について説明する。
【0020】
図1は、記録物の製造に用いる液滴吐出装置の一例を示す斜視図、
図2は、
図1に示す液滴吐出装置における液滴吐出手段をステージ側から観察した図、
図3は、
図1に示す液滴吐出装置における液滴吐出ヘッドの底面を示す図、
図4は、
図1に示す液滴吐出装置における液滴吐出ヘッドを示す図であり、(a)は断面斜視図、(b)は断面図である。
図1に示すように、インクの吐出に用いる液滴吐出装置100は、インク組成物2を保持するタンク101と、タンク101内のインク組成物2を送液するチューブ(送液チューブ)110と、チューブ110を介してタンク101からインク組成物2が供給される吐出走査部102とを備える。吐出走査部102は、複数の液滴吐出ヘッド(記録ヘッド)114をキャリッジ105に搭載してなる液滴吐出手段103と、液滴吐出手段103の位置を制御する第1位置制御装置104(移動手段)と、記録媒体50を保持するステージ106と、ステージ106の位置を制御する第2位置制御装置108(移動手段)と、制御手段112とを備えている。タンク101と、液滴吐出手段103における複数の液滴吐出ヘッド114とは、チューブ110で連結されており、タンク101から複数の液滴吐出ヘッド114のそれぞれにインク組成物2が圧縮空気によって供給される。
【0021】
第1位置制御装置104は、制御手段112からの信号に応じて、液滴吐出手段103をX軸方向、およびX軸方向に直交するZ軸方向に沿って移動させる。さらに、第1位置制御装置104は、Z軸に平行な軸の回りで液滴吐出手段103を回転させる機能も有する。本実施形態では、Z軸方向は、鉛直方向(つまり重力加速度の方向)に平行な方向である。第2位置制御装置108は、制御手段112からの信号に応じて、X軸方向およびZ軸方向の双方に直交するY軸方向に沿ってステージ106を移動させる。さらに、第2位置制御装置108は、Z軸に平行な軸の回りでステージ106を回転させる機能も有する。
【0022】
ステージ106は、X軸方向とY軸方向との双方に平行な平面を有する。また、ステージ106は、インク組成物2を付与すべき記録媒体50をその平面上に固定、または保持できるように構成されている。
上述のように、液滴吐出手段103は、第1位置制御装置104によってX軸方向に移動させられる。一方、ステージ106は、第2位置制御装置108によってY軸方向に移動させられる。つまり、第1位置制御装置104および第2位置制御装置108によって、ステージ106に対する液滴吐出ヘッド114の相対位置が変わる(ステージ106に保持された記録媒体50と、液滴吐出手段103とが相対的に移動する)。
制御手段112は、インク組成物2を吐出すべき相対位置を表す吐出データを外部情報処理装置から受け取るように構成されている。
【0023】
図2に示すように、液滴吐出手段103は、それぞれほぼ同じ構造を有する複数の液滴吐出ヘッド114と、これらの液滴吐出ヘッド114を保持するキャリッジ105とを有している。本実施形態では、液滴吐出手段103に保持される液滴吐出ヘッド114の数は8個である。それぞれの液滴吐出ヘッド114は、後述する複数のノズル118が設けられた底面を有している。それぞれの液滴吐出ヘッド114のこの底面の形状は、2つの長辺と2つの短辺とを有する多角形である。液滴吐出手段103に保持された液滴吐出ヘッド114の底面はステージ106側を向いており、さらに、液滴吐出ヘッド114の長辺方向と短辺方向とは、それぞれX軸方向とY軸方向とに平行である。
【0024】
図3に示すように、液滴吐出ヘッド114は、X軸方向に並んだ複数のノズル118を有する。これら複数のノズル118は、液滴吐出ヘッド114におけるX軸方向のノズルピッチHXPが所定の値となるように配置されている。ノズルピッチHXPの具体的な値は、特に限定されないが、例えば、50〜90μmとすることができる。ここで、「液滴吐出ヘッド114におけるX軸方向のノズルピッチHXP」は、液滴吐出ヘッド114におけるノズル118のすべてをY軸方向に沿ってX軸上に射像して得られた複数のノズル像間のピッチに相当する。
【0025】
本実施形態では、液滴吐出ヘッド114における複数のノズル118は、ともにX軸方向に延びるノズル列116Aと、ノズル列116Bとをなす。ノズル列116Aと、ノズル列116Bとは、間隔を空けて並行に配置されている。そして、本実施形態においては、ノズル列116Aおよびノズル列116Bのそれぞれにおいて、90個のノズル118が一定間隔LNPでX軸方向に一列に並んでいる。LNPの具体的な値は、特に限定されないが、100μm以上180μm以下とすることができる。
【0026】
ノズル列116Bの位置は、ノズル列116Aの位置に対して、ノズルピッチLNPの半分の長さだけX軸方向の正の方向(
図3の右方向)にずれている。このため、液滴吐出ヘッド114のX軸方向のノズルピッチHXPは、ノズル列116A(またはノズル列116B)のノズルピッチLNPの半分の長さである。
したがって、液滴吐出ヘッド114のX軸方向のノズル線密度は、ノズル列116A(またはノズル列116B)のノズル線密度の2倍である。なお、本明細書において「X軸方向のノズル線密度」とは、複数のノズルをY軸方向に沿ってX軸上に射像して得られた複数のノズル像の単位長さ当たりの数に相当する。もちろん、液滴吐出ヘッド114が含むノズル列の数は、2つだけに限定されない。液滴吐出ヘッド114はM個のノズル列を含んでもよい。ここで、Mは1以上の自然数である。この場合には、M個のノズル列のそれぞれにおいて複数のノズル118は、ノズルピッチHXPのM倍の長さのピッチで並ぶ。さらに、Mが2以上の自然数の場合には、M個のノズル列のうちの一つに対して、他の(M−1)個のノズル列は、ノズルピッチHXPのi倍の長さだけ重複無くX軸方向にずれている。ここで、iは1から(M−1)までの自然数である。
【0027】
さて、本実施形態では、ノズル列116Aおよびノズル列116Bのそれぞれが90個のノズル118からなるため、1つの液滴吐出ヘッド114は180個のノズル118を有する。ただし、ノズル列116Aの両端のそれぞれ5ノズルは「休止ノズル」として設定されている。同様に、ノズル列116Bの両端のそれぞれ5ノズルも「休止ノズル」として設定されている。そして、これら20個の「休止ノズル」からはインク組成物2が吐出されない。このため、液滴吐出ヘッド114における180個のノズル118のうち、160個のノズル118がインク組成物2を吐出するノズルとして機能する。
【0028】
図2に示すように、液滴吐出手段103においては、複数個の上記液滴吐出ヘッド114がX軸方向に沿って2列に配置されている。一方の列の液滴吐出ヘッド114と他方の列の液滴吐出ヘッド114とは、休止ノズル分を考慮して、Y軸方向から見て一部重なるように配置されている。これにより、液滴吐出手段103においては、記録媒体50のX軸方向の寸法分の長さに渡り、インク組成物2を吐出するノズル118が前記ノズルピッチHXPでX軸方向に連続するように構成されている。
本実施形態の液滴吐出手段103では、記録媒体50のX軸方向の寸法分の長さ全体をカバーするように液滴吐出ヘッド114を配置しているが、本発明における液滴吐出手段は、記録媒体50のX軸方向の寸法分の長さの一部をカバーするようにものでもよい。
【0029】
図に示すように、それぞれの液滴吐出ヘッド114は、インクジェットヘッドである。より具体的には、それぞれの液滴吐出ヘッド114は、振動板126と、ノズルプレート128とを備えている。振動板126と、ノズルプレート128との間には、タンク101から孔131を介して供給されるインク組成物2が常に充填される液たまり129が位置している。
【0030】
また、振動板126と、ノズルプレート128との間には、複数の隔壁122が位置している。そして、振動板126と、ノズルプレート128と、1対の隔壁122とによって囲まれた部分がキャビティ120である。キャビティ120はノズル118に対応して設けられているため、キャビティ120の数とノズル118の数とは同じである。キャビティ120には、1対の隔壁122間に位置する供給口130を介して、液たまり129からインク組成物2が供給される。
【0031】
振動板126上には、それぞれのキャビティ120に対応して、振動子124が位置する。振動子124は、ピエゾ素子124Cと、ピエゾ素子124Cを挟む1対の電極124A、124Bとを含む。この1対の電極124A、124Bとの間に駆動電圧を与えることで、対応するノズル118からインク組成物2が吐出される。なお、ノズル118からZ軸方向にインク組成物2が吐出されるように、ノズル118の形状が調整されている。
【0032】
制御手段112(
図1参照)は、複数の振動子124のそれぞれに互いに独立に信号を与えるように構成されていてもよい。つまり、ノズル118から吐出されるインク組成物2の体積が、制御手段112からの信号に応じてノズル118毎に制御されてもよい。また、制御手段112は、塗布走査の間に吐出動作を行うノズル118と、吐出動作を行わないノズル118とを設定することでもできる。
【0033】
本明細書では、1つのノズル118と、ノズル118に対応するキャビティ120と、キャビティ120に対応する振動子124とを含んだ部分を「吐出部127」と表記することもある。この表記によれば、1つの液滴吐出ヘッド114は、ノズル118の数と同じ数の吐出部127を有する。
上記のような装置を用いることにより、優れた位置精度で、かつ、高速で、所望の部位にインク組成物2を付与することができる。なお、図示の構成では、液滴吐出装置100は、インク組成物2を保持するタンク101、チューブ110等を1種類のインク組成物分しか有していないが、これらの部材を、インク組成物の種類数の分だけ有するものであってもよい。また、記録物の製造においては、複数種のインク組成物に対応するように、複数台の液滴吐出装置100を用いてもよい。この場合、各液滴吐出装置の構成は、同一であっても、異なるものであってもよい。
【0034】
<第1インク組成物>
第1インク組成物は、色材と、炭素数が4以上8以下のアルカンジオールと、水溶性溶剤と、水とを含むものである。
[色材(着色剤)]
色材(着色剤)としては、例えば、各種顔料、各種染料等を用いることができるが、顔料が好ましい。顔料を用いることにより、記録物の耐光性を特に優れたものとすることができる。代表的な顔料を以下に記載する。
ブラック顔料としては、例えばカーボンブラックが挙げられる。
【0035】
マゼンタ顔料としては、例えばC.I.ピグメントレッド1(パラレッド)、2、3(トルイジンレッド)、5(ITR Red)、7、9、10、11、12、17、30、31、38(ピラゾロンレッド)、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88(チオインジゴ)、112(ナフトールAS系)、122(ジメチルキナクリドン)、123、144、149、150、166、168(アントアントロンオレンジ)、170(ナフトールAS系)、171、175、176、177、178、179(ベリレンマルーン)、184、185、187、202、209(ジクロロキナクリドン)、219、224(ベリレン系)、245(ナフトールAS糸)、C.I.ピグメントバイオレット19(キナクリドン)、23(ジオキサジンバイオレット)、32、33、36、38、43、50、キナクリドン系顔料の固溶体等が挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。これらの中でも、C.I.ピグメントレッド122、202、209、C.I.ピグメントバイオレット19等のキナクリドン系顔料又はこれらの固溶体顔料であることが好ましい。
【0036】
シアン顔料としては、例えばC.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16(無金属フタロシアニン)、18(アルカリブルートナー)、22、25、60(スレンブルー)、65(ビオラントロン)、66(インジゴ)等が挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。これらの中でも、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、16等のフタロシアニン系顔料であることが好ましい。
【0037】
イエロー顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1(ハンザイエロー)、2、3、12、13、14、16、17、24(フラバントロンイエロー)、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83(ジアリライドイエロー)、93、94、95、97、98、99、108(アントラピリミジンイエロー)、109、110、111、113、114、117(銅錯塩顔料)、120、128、129、133(キノフタロン)、138、139(イソインドリノン)、147、150、151、153(ニッケル錯体顔料)、154、155、167、172、180、185、213、WO2011/027842に記載の顔料が挙げられる。これらの中でも、C.I.ピグメントイエロー74、128、129、155、180、185、213、WO2011/027842に記載の顔料が好ましい。
【0038】
特に、顔料の中でも、樹脂分散顔料又は自己分散顔料を用いるのが好ましく、より好ましくは自己分散顔料である。自己分散顔料は、他の色材に比べ、後に詳述する記録媒体上で凝集しやすいものであるため、インク組成物を用いて形成される印刷部の光学濃度(画像濃度)を高める上で有利である。また、自己分散顔料を用いることにより、インク組成物の粘度を適正な範囲に調整しやすくなるため、取り扱いが容易である。また、自己分散顔料は、分散剤を別途配合しなくても、インク組成物中で均一に分散し得るものである。なお、ここでいう「分散」とは、自己分散顔料が分散剤なしに分散媒中に安定に存在している状態をいい、分散している状態のもののみならず、溶解している状態のものも含むものとする。自己分散顔料が配合されたインク組成物は、自己分散顔料以外の顔料および分散剤の配合された通常のインク組成物と比べて、分散安定性が高く、また、インク組成物の粘度が適度なものとなるので、顔料をより多く含有させることが可能となり、発色性が特に優れた画像を形成するうえで有利である。
【0039】
なお、本発明において、自己分散顔料とは、その表面にはカルボニル基、カルボキシル基、アルデヒド基、ヒドロキシル基、スルホン基、アミノ基、および、これらの塩よりなる群から選択される1種または2種以上の官能基が、直接あるいはアルキル基、アリール基等を介して間接に結合してなる表面改質された顔料のことを言う。
自己分散顔料を調製するには、真空プラズマ等の物理的処理や化学的処理により、官能基または官能基を含んだ分子を顔料の表面に配位、グラフト等の化学的結合をさせること等によって得ることができる。例えば、特開平8−3498号公報に記載の方法によって得ることができる。また、自己分散顔料としては、市販品を利用することも可能であり、例えば、オリエント化学工業(株)製の「マイクロジェットCW1」、「マイクロジェットCW2」、キャボット社製の「CAB−O−JET 200」、「CAB−O−JET 300」等を用いることができる。
【0040】
以下、自己分散顔料の調製方法の具体的な一例について説明する。
まず、溶剤に顔料(自己分散顔料ではない、表面改質される前の顔料)を添加し、これをハイスピードミキサー等で高速剪断分散するか、または、ビーズミルやジェットミル等で衝撃分散してスラリー状の顔料分散液を得る。該顔料分散液をゆっくり攪拌しながら、硫黄を含む処理剤(スルファミン酸、発煙硫酸、硫酸、クロロ硫酸、フルオロ硫酸、アミド硫酸等)を添加し、該顔料分散液を60℃以上200℃以下に加熱処理して、前記顔料表面に前記分散性付与基を導入する。該顔料分散液から溶剤を除去した後、水洗、限外濾過、逆浸透、遠心分離、濾過等を繰り返して前記硫黄を含む処理剤を取り除いて、自己分散顔料を得ることができる。
【0041】
樹脂分散顔料に用いられる樹脂分散剤としては、ポリビニルアルコール類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体等およびこれらの塩が挙げられる。これらの中でも、疎水性官能基を有するモノマーと親水性官能基を持つモノマーとの共重合体、疎水性官能基と親水性官能基とを併せ持つモノマーからなる重合体が好ましい。共重合体の形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれの形態でも用いることができる。
【0042】
樹脂分散剤の分子量は、重量平均分子量として1,000以上100,000以下の範囲であることが好ましく、3,000以上10,000以下の範囲であることがより好ましい。分子量が前記範囲であることにより、顔料が水中で安定的に分散し、またインク組成物に適用した際の粘度制御等がしやすい。
前記樹脂分散剤の顔料に対する添加量は、顔料100質量部に対して好ましくは10質量部以上90質量部以下であり、より好ましくは30質量部以上80質量部以下である。この範囲であることにより、顔料の水中への分散安定性が一層良好になる。
【0043】
なお、樹脂分散顔料に用いられる顔料は、上述の自己分散顔料と同様のものを用いる事が可能である。
顔料の平均粒子径は、10nm以上300nm以下であるのが好ましく、40nm以上150nm以下であるのがより好ましい。これにより、インク組成物の保存安定性、インクジェット法による吐出安定性を特に優れたものとすることができる。
【0044】
なお、本明細書中において、平均粒子径とは、体積基準の平均粒子径のことを言う。平均粒子径は、例えば、粒度分布計(マイクロトラックUPA、日揮装社製)を用いた測定により求めることができる。
第1インク組成物中における色材の含有率は、
1質量%以上7質量%以下であるのが好ましく、4質量%以上6質量%以下であるのがより好ましい。色材の含有率が前記範囲内の値であると、インクジェット法による吐出安定性と、印刷部における画像濃度とをより高いレベルで両立することができる。なお、第1インク組成物が複数種の色材を含むものである場合、これらの含有率の総和が前記範囲内に含まれるのが好ましい。
【0045】
[アルカンジオール]
第1インク組成物は、炭素数が4以上8以下のアルカンジオールを含むものである。このようなアルカンジオールを含むことにより、にじみが防止され、インクが馴染みにくい記録媒体に質感のある記録物を提供することができる。
炭素数が4以上8以下のアルカンジオールとしては、例えば、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール等が挙げられるが、中でも、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオールが特に好ましく、1,2−ヘキサンジオールが最も好ましい。これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0046】
第1インク組成物中における前記アルカンジオールの含有率は、1質量%以上10質量%以下であるのが好ましく、2質量%以上7質量%以下がより好ましく、4質量%以上7質量%以下であるのがさらに好ましい。前記アルカンジオールを含むことで、新油性が向上するため、非極性成分が低いメディアへの浸透力が向上すると考えられる。一方のアルキレングリコールアルキルエーテルを、新油性の向上が低く、非極性成分が低い記録媒体への浸透力が低いと推察される。前記アルカンジオールを含むことで、にじみが防止され、インクが馴染みにくい記録媒体に対して、より確実ににじみが防止され、質感のある記録物を提供することができるという効果が得られる。これに対し、前記アルカンジオールの含有率が前記下限値未満であると、記録媒体上でのインクのにじみ、顔料の凝集という問題が生じる可能性がある。また、前記アルカンジオールの含有率が前記上限値を超えると、第1インク組成物のインクジェット法による吐出安定性が低下する傾向が顕著になる。なお、第1インク組成物が複数種の前記アルカンジオールを含むものである場合、これらの含有率の総和が前記範囲内に含まれるのが好ましい。
【0047】
[水溶性溶剤]
第1インク組成物は、水溶性溶剤を含むものである。これにより、インクのヘッド中での乾燥を抑制し、信頼性を向上できるという効果が得られる。
なお、本発明において、水溶性溶剤としては、炭素数が4以上8以下のアルカンジオール以外の水溶性の溶剤を用いることができ、例えば、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
中でも、第1インク組成物は、下記式(3)で表されるアルキレングリコールアルキルエーテルを含むものであるのが好ましい。
【0048】
R
1−(O−CH
2−CH(−CH
3))
k−(O−CH
2−CH
2)
n−O−R
2 (3)
(ただし、式(3)中、R
1、R
2は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数が1以上4以下であるアルキル基、nは、0以上3以下の数、kは、0以上3以下の数であり、R
1とR
2とは同時に水素原子とはならず、nとkとは同時に0とはならない。)
【0049】
これにより、後に詳述する記録媒体への第1インク組成物の浸透性を特に優れたものとなり、印刷部におけるにじみの発生をより効果的に防止することができる。
【0050】
(2)で表されるアルキレングリコールアルキルエーテルとしては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、ペンタエチレングリコールモノメチルエーテル、ペンタエチレングリコールモノブチルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられるが、中でも、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ペンタエチレングリコールモノブチルエーテルが特に好ましい。これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0051】
第1インク組成物中における前記水溶性溶剤の含有率は、5質量%以上30質量%以下であるのが好ましく、10質量%以上27質量%以下であるのがより好ましい。これにより、インクのヘッド中での乾燥を抑制し、信頼性を向上できるという効果が得られる。これに対し、前記水溶性溶剤の含有率が前記下限値未満であると、インクがヘッド中で乾燥し、吐出できなくなるか、吐出された液滴の重量が不安定、または着弾位置ズレという問題が生じる可能性がある。また、前記水溶性溶剤の含有率が前記上限値を超えると、第1インク組成物のインクジェット法による吐出安定性が低下する傾向が顕著になる。なお、第1インク組成物が複数種の前記水溶性溶剤を含むものである場合、これらの含有率の総和が前記範囲内に含まれるのが好ましい。
【0052】
[水]
第1インク組成物は、水を含むものである。これにより、吐出安定性を優れたものとすることができるとともに、記録媒体に付与された後に、より好適に乾燥させることができる。また、第1インク組成物が顔料(特に、自己分散顔料)を含むものである場合には、第1インク組成物中における顔料の分散安定性、第1インク組成物の保存安定性を特に優れたものとすることができる。
【0053】
第1インク組成物中における水の含有率は、40質量%以上80質量%以下であるのが好ましく、50質量%以上75質量%以下であるのがより好ましい。これにより、第1インク組成物の保存安定性、吐出安定性等を特に優れたものとしつつ、第1インク組成物を用いて形成される印刷部の画像濃度を特に高いものとすることができる。これに対し、水の含有率が前記下限値未満であると、第1インク組成物の保存安定性、吐出安定性が低下する傾向があらわれる。また、水の含有率が前記上限値を超えると、色材の種類等によっては、形成される印刷部の画像濃度を高いものとすることが困難になる可能性がある。
【0054】
[その他の成分]
第1インク組成物は、前述した以外の成分(その他の成分)を含むものであってもよい。
このような成分としては、例えば、スチレン−アクリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、ウレタン樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル等の樹脂材料、オゾケライト、セルシン、パラフィンワックス、マイクロワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、フィッシャー・トロプシュワックス等の炭化水素系ワックス、カルナバワックス、ライスワックス、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ブチル、キャンデリラワックス、綿ロウ、木ロウ、ミツロウ、ラノリン、モンタンワックス、脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等のエステル系ワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化型ポリエチレンワックス、酸化型ポリプロピレンワックス等のオレフィン系ワックス、12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ステアリン酸アミド、無水フタル酸イミド等のアミド系ワックス、ラウロン、ステアロン等のケトン系ワックス、エーテル系ワックス等のワックス、分散剤、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、紫外線吸収剤、消泡剤、表面張力調整剤、ポリシロキサン化合物、アセチレングリコール化合物等が挙げられる。
【0055】
防腐防黴剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ベンゾチアゾール系、ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等の化合物が挙げられる。有機ハロゲン系化合物としては、例えば、ペンタクロロフェノールナトリウム等が挙げられ、ピリジンオキシド系化合物としては、例えば、ソジウムピリジンチオン−1−オキサイド、ジンクピリジンチオン−1−オキサイド等が挙げられ、イソチアゾリン系化合物としては、例えば、1−ベンズイソチアゾリン−3−オンのアミン塩、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。その他の防腐防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
【0056】
第1インク組成物がpH調整剤を含むことにより、第1インク組成物の保存安定性等を特に優れたものとすることができる。また、第1インク組成物を用いて製造される記録物の信頼性を特に優れたものとすることができる。
pH調整剤としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等のアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;タウリン等のアミノスルホン酸等が挙げられる。
【0057】
キレート試薬としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられる。
【0058】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物、スチルベン系化合物、いわゆる蛍光増白剤(ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物)等が挙げられる。
消泡剤としては、例えば、高酸化油系化合物、グリセリン脂肪酸エステル系化合物、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、アセチレン系化合物等が挙げられる。
【0059】
表面張力調整剤としては、界面活性剤が挙げられ、例えば、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等が挙げられる。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸およびその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。
【0060】
両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、その他イミダゾリン誘導体等が挙げられる。
カチオン系界面活性剤としては、例えば、2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0061】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系界面活性剤;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系界面活性剤;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等のアセチレングリコール(アルコール)系界面活性剤等が挙げられる。
【0062】
第1インク組成物の粘度(25℃における粘度)は、2mPa・s以上20mPa・s以下であるのが好ましい。これにより、第1インク組成物の吐出安定性(吐出量の安定性、液滴の飛行特性等)、吐出応答性(応答速度、高周波対応性(周波数特性)等)等を特に優れたものとすることができる。なお、粘度は、振動式粘度計を用いた、JIS Z8809に準拠した測定により求めることができる。
本発明のインクジェット記録方法においては、複数種の第1インク組成物を用いてもよい。例えば、異なる色の複数種の第1インク組成物(含有する色材の種類が異なる複数種の第1インク組成物)を用いてもよい。
【0063】
<第2インク組成物>
本発明のインクジェット記録方法においては、前述した第1インク組成物に加え、他のインク組成物(第2インク組成物)を好ましい。
第2インク組成物としては、前述した第1インク組成物と同一色の色材を含有し、第1インク組成物中における色材の含有率よりも色材の含有率が低く、かつ、炭素数が4以上8以下のアルカンジオールを2質量%以上10質量%以下の含有率で含むものを用いるのが好ましい。これにより、印刷部の諧調表現をより良好なものとすることができる。また、第2インク組成物に含まれる浸透剤が、第1インク組成物の記録媒体への浸透をより好適なものとすることができ、にじみの発生をより効果的に防止することができ、上述のようなインク組成物が馴染みにくいメディアの印刷部の画質がさらに向上する。このような第2インク組成物を備える場合、記録媒体上に第1インク組成物と第2インク組成物とを併用して画像を形成する場合があると好ましい。これにより、にじみが防止され、十分な画像濃度の印刷部を有し、漆喰に描かれた絵画(壁画)のような質感のある記録物を提供することができるという効果が得られる。なお、同一色とは完全に同一色という意味ではなく、同一の濃度で色材を含有した場合に、社会通念上同一の呼称(例えば、シアン色、イエロー色、マゼンダ色、ブラック色)で呼ばれる関係をいう。
【0064】
[色材(着色剤)]
第2インク組成物を構成する色材としては、例えば、前述した第1インク組成物の構成材料として例示したものを用いることができる。第2インク組成物を構成する色材は、第1インク組成物を構成する色材と異なるものであってもよいが、第1インク組成物を構成する色材と同一のものであるのが好ましい。
【0065】
第2インク組成物中における色材の含有率は、0.1質量%以上3質量%以下であるのが好ましく、0.2質量%以上2質量%以下であるのがより好ましい。色材の含有率が前記範囲内の値であると、インクジェット法による吐出安定性と、印刷部における画像濃度とをより高いレベルで両立することができるとともに、第1インク組成物のみでは表現しづらい細かな色が再現可能となり、かつ、画像全体の粒状性を低減させることができる。なお、第2インク組成物が複数種の色材を含むものである場合、これらの含有率の総和が前記範囲内に含まれるのが好ましい。
【0066】
[アルカンジオール]
第2インク組成物が炭素数が4以上8以下のアルカンジオールを含むものであることにより、第1インク組成物の記録媒体への浸透をより好適なものとすることができ、にじみの発生をより効果的に防止することができ、印刷部の画質がさらに向上する。
第2インク組成物中における前記アルカンジオールの含有率は、2質量%以上10質量%以下であるのが好ましく、4質量%以上8質量%以下であるのがより好ましい。これにより、にじみが防止され、十分な画像濃度の印刷部を有し、漆喰に描かれた絵画(壁画)のような質感のある記録物を提供することができるという効果が得られる。これに対し、前記アルカンジオールの含有率が前記下限値未満であると、記録媒体上でのインクのにじみ、顔料の凝集という問題が生じる可能性がある。また、前記アルカンジオールの含有率が前記上限値を超えると、インクジェット法による吐出安定性が低下する傾向が顕著になる。なお、第2インク組成物が複数種の前記アルカンジオールを含むものである場合、これらの含有率の総和が前記範囲内に含まれるのが好ましい。
【0067】
[水溶性溶剤]
第2インク組成物は、水溶性溶剤を含むものである。これにより、インクのヘッド中での乾燥を抑制し、信頼性を向上できるという効果が得られる。
なお、本発明において、水溶性溶剤としては、炭素数が4以上8以下のアルカンジオール以外の水溶性の溶剤を用いることができ、例えば、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
中でも、第2インク組成物は、上記式(2)で表されるアルキレングリコールアルキルエーテルを含むものであるのが好ましい。また、良好なアルキレングリコールアルキルエーテルについては、上述の第1インク組成物で述べたものと同様である。
【0068】
第2インク組成物中における前記水溶性溶剤の含有率は、5質量%以上30質量%以下であるのが好ましく、10質量%以上27質量%以下であるのがより好ましい。これにより、インクのヘッド中での乾燥を抑制し、信頼性を向上できるという効果が得られる。これに対し、前記水溶性溶剤の含有率が前記下限値未満であると、インクがヘッド中で乾燥し、吐出できなくなるか、吐出された液滴の重量が不安定、または着弾位置ズレという問題が生じる可能性がある。また、前記水溶性溶剤の含有率が前記上限値を超えると、第1インク組成物のインクジェット法による吐出安定性が低下する傾向が顕著になる。なお、第1インク組成物が複数種の前記水溶性溶剤を含むものである場合、これらの含有率の総和が前記範囲内に含まれるのが好ましい。
【0069】
[水]
第2インク組成物は、水を含むものである。好ましい含有量等については上述に記載した第1インク組成物と同様である。
[その他の成分]
第2インク組成物は、前述した以外の成分(その他の成分)を含むものであってもよい。
このような成分としては、例えば、第1インク組成物の構成成分として例示したものを用いることができる。
【0070】
第2インク組成物の粘度(25℃における粘度)は、2mPa・s以上20mPa・s以下であるのが好ましい。これにより、第2インク組成物の吐出安定性(吐出量の安定性、液滴の飛行特性等)、吐出応答性(応答速度、高周波対応性(周波数特性)等)等を特に優れたものとすることができる。
本発明のインクジェット記録方法においては、複数種の第2インク組成物を用いてもよい。例えば、異なる色の複数種の第2インク組成物(含有する色材の種類が異なる複数種の第2インク組成物)を用いてもよい。
【0071】
<記録媒体>
前述したように、本発明において、記録媒体は、表面に受容層を有するものである。
上記式(1)より算出される受容層の表面自由エネルギーの非極性成分γsdは、20mN/m以下であり、5mN/m以上20mN/m以下であることが好ましい。前述したようなインク組成物を用いればこのような記録媒体にも良好な画像記録が可能となる。
また、上記式(1)より算出される受容層の表面自由エネルギーの極性成分γspは、20mN/m以下であるのが好ましく、0.1mN/m以上10mN/m以下であるのがより好ましい。これにより、より質感の高い記録物を得ることが可能となり、前述したようなインク組成物を用いればこのような記録媒体にも良好な画像記録が可能となる。
【0072】
記録媒体の受容層は、前述したような表面自由エネルギーの非極性成分γsdの条件を満足するものであればいかなる材料で構成されたものであってもよいが、炭酸カルシウム、クレー、タルク、カオリン、金属水酸化物から選択される一種以上を含むものであるのが好ましく、より好ましくは金属水酸化物である。
受容層を構成する金属水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛等が挙げられるが、中でも、水酸化カルシウムが好ましい。これにより、漆喰に描かれた絵画(壁画)のような質感をさらに向上させることができる。また、記録後受容層が一部変化して色材を保護し、耐光性をさらに優れたものとすることができる。
【0073】
受容層を構成する金属水酸化物は、粒状をなすものであるのが好ましい。これにより、漆喰に描かれた絵画(壁画)のような質感をさらに向上させることができる。また、記録物の耐光性をさらに優れたものとすることができる。
受容層中の金属水酸化物の含有量は、受容層の全質量に対して20質量%以上が好ましく、20質量%以上90質量%以下がより好ましく、30質量%以上80質量%以下であるのがさらに好ましい。これにより、漆喰に描かれた絵画(壁画)のような質感をさらに向上させることができる。また、記録物の耐光性をさらに優れたものとすることができる。
【0074】
また、受容層を構成する金属水酸化物の平均粒子径は、0.2μm以上10μm以下であるのが好ましく、0.4μm以上7μm以下であるのがより好ましい。これにより、漆喰に描かれた絵画(壁画)のような質感をさらに向上させることができる。また、記録物の耐光性をさらに優れたものとすることができる。
受容層の厚みは、50μm以上1000μm以下であるのが好ましく、100μm以上800μm以下であるのがより好ましい。これにより、漆喰に描かれた絵画(壁画)のような質感をさらに向上させることができる。また、記録物の耐光性をさらに優れたものとすることができる。
【0075】
記録媒体は、前述したような受容層のみで構成されたものであってもよいが、前記受容層を保持する基材上に受容層が設けられたものであるのが好ましい。これにより、記録媒体の形状の安定性、搬送性が向上し、記録物の生産性、製造された記録物の信頼性を特に優れたものとすることができる。
基材は、いかなる材料で構成されたものであってもよいが、紙、ガラス繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、カーボン繊維等の繊維状物からなる織布または不織布等を用いると好ましい。
【0076】
また、受容層は、必要に応じて樹脂粒子や非晶質シリカ、多孔質珪酸塩、マグネシウムや亜鉛などの2価金属の弱酸塩や酸化物、天然または合成のゼオライト、アルミナ、ケイソウ土、合成雲母、各種のクレー、タルク、炭酸カルシウム、カオリン、酸性白土、活性白土等を、含有させても良い。
受容層は、その表面から基材に渡るひび割れ領域(クラック)を有するものであってもよい。上述に記載した記録媒体はこのようなクラックを有する場合があるが、本願発明を利用すれば、このような記録媒体にも良好に画像が記録出来る。また、にじみがより効果的に防止され、十分な画像濃度の印刷部を有し、漆喰に描かれた絵画(壁画)のような質感のある記録物を提供することができる。
【0077】
≪記録物≫
次に、本発明の記録物について説明する。
本発明の記録物は、前述したようなインクジェット記録方法を用いて製造されたことを特徴とする。
これにより、表面自由エネルギーの非極性成分が低い記録媒体を用いた、にじみが防止された印刷部を有する記録物を提供することができる。
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0078】
[1]記録物の製造
(実施例1)
まず、以下のようにして、インク組成物(第1インク組成物)を調製した。
水と、樹脂分散顔料としてのC.I.ピグメントブルー15:3(平均粒子径:100nm)と、スチレン−アクリル共重合体で構成された樹脂粒子(ガラス転移点:20℃、平均粒子径:100nm)と、炭素数が4以上8以下のアルカンジオールとしての1,2−ヘキサンジオールと、グリセリンと、アミン誘導体としてのトリエタノールアミンとを混合し、インク組成物(第1インク組成物)を得た。
【0079】
次に、上記のようにして調製したインク組成物(第1インク組成物)を、インクジェット記録方式のプリンターPX−G930(セイコーエプソン株式会社製)に圧電素子を用いた吐出ヘッド(単位長さ当たりの解像度:360dpi)を取り付けて内部にインクを充填した。充填後、表1に記載の記録媒体に対し、前記インク組成物を所定パターンで付与し、記録物を得た。
【0080】
なお、記録媒体としては、以下の記録媒体Aを用いた。
記録媒体Aは、基材としてのガラス繊維混抄紙上に、無機粒子としての水酸化カルシウム(平均粒子径:1μm)を含む塗料が塗布されて形成された受容層を有するものであった。水酸化カルシウムは受容層全質量に対して50質量%であった。また、受容層は、その表面から基材に渡るひび割れ領域(クラック)を有するものであった。本実施例で用いた記録媒体の受容層の縦断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を
図5に示した。なお、記録媒体Aの表面自由エネルギーの非極性成分γsdは15.4mN/mであり、表面自由エネルギーの極性成分γspは0.3mN/mであった。
【0081】
(実施例2〜10)
インク組成物の調製に用いる成分の種類、使用量を調整することにより、表1に示すような組成とし、また、表1に示す記録媒体を用いた以外は、前記実施例1と同様にして記録物を製造した。
なお、記録媒体Bは、受容層を備えたフィルム系マット紙(MCマット合成紙、セイコーエプソン社製)であり、表面自由エネルギーの非極性成分γsdは19.6mN/mであり、表面自由エネルギーの極性成分γspは20mN/m超過であった。
【0082】
記録媒体Cは、記録用紙(ゼロックス4200、ゼロックス社製)であり、表面自由エネルギーの非極性成分γsdは26.3mN/mであり、表面自由エネルギーの極性成分γspは0.3mN/mであった。
記録媒体Dは、記録用紙(ゼロックスP、ゼロックス社製)であり、表面自由エネルギーの非極性成分γsdは38.2mN/mであり、表面自由エネルギーの極性成分γspは3.7mN/mであった。
「CB」は、カーボンブラックを示し、カルボキシル基が表面に導入された自己分散顔料であった。
【0083】
(実施例11)
実施例11では、前記実施例1に記載のインク組成物を第1インク組成物として用い、さらに、前記実施例4に記載のインク組成物を第2インク組成物として併用した以外は、前記実施例1と同様に記録物を作製した。
(比較例1〜4、参考例1、2)
表1に示すようなインク組成物及び記録媒体を用いた以外は、前記実施例1と同様にして記録物を製造した。
【0084】
なお、表中、C.I.ピグメントブルー15:3を「PB15:3」、カーボンブラックを「CB」、スチレン−アクリル共重合体を「St−Ac」、炭素数が4以上8以下のアルカンジオールとしての1,2−ヘキサンジオールを「1,2−HD」、1,2−ペンタンジオールを「1,2−PD」、式(2)中のR
1がn−ブチル基、R
2が水素原子、nが3、kが0であるアルキレングリコールアルキルエーテルを「GE1」、式(2)中のR
1がメチル基、R
2がメチル基、nが1、kが0であるアルキレングリコールアルキルエーテルを「GE2」、式(2)中のR
1がn−ヘキシル基、R
2が水素原子、nが4、kが0であるアルキレングリコールアルキルエーテルを「GE3」、式(2)中のR
1がn−ブチル基、R
2が水素原子、nが3、kが1であるアルキレングリコールアルキルエーテルを「GE4」、グリセリンを「GL」、トリエタノールアミンを「TEA」で示した。
【0085】
なお、前記各実施例で用いたインク組成物(第1インク組成物、第2インク組成物)についての25℃における粘度(振動式粘度計を用いた、JIS Z8809に準拠した測定により求められた粘度)は、いずれも、2mPa・s以上20mPa・s以下の範囲に含まれるものであった。また、平均粒子径は、粒度分布計(マイクロトラックUPA、日揮装社製)を用いた測定により求めた。
【0086】
【表1】
【0087】
[2]評価
[2.1]印刷部のにじみ
前記各実施例および比較例の記録物の印刷部について、不本意なにじみの発生を以下の基準で評価した。
A:滲み及び濃度ムラの無い、良好な画像が得られた。
B:滲みが僅かに生じた。
C:ヒゲ状の滲みが発生していた。
この評価の結果を表1に合わせて示した。
【0088】
[2.2]耐光性
各実施例及び比較例に示す条件で作製された記録物を2部ずつ用意した。各々1枚ずつを紫外線照射用蛍光ランプ(三菱電機製「ネオルミスーパー」、型式:FL30SBL−360)により、500μW/cm
2の強度の紫外線を照射し、残りの1枚ずつは、暗所に保存した。3ヶ月間紫外線を照射した試験体と3ヶ月間暗所に保存した試験体を取り出し、分光色差計(日本電色工業製、ハンディ型簡易分光色差計、型番:NF333)を用い、JIS Z 8730に準じて、紫外線照射部分と未照射部分の黄色のL*、a*、b*表色系における色差(ΔE)を求めた。その結果、記録媒体Aを用いた記録物は他の記録媒体を用いた記録物と比較して、ΔEが7前後低い値が得られた。
【0089】
[2.3]質感
前記各実施例および比較例の記録物の質感を評価した。その結果、記録媒体Aを用いた記録物は、他の記録物と比較して、漆喰に描かれたような絵画(壁画)のような優れた質感を有している記録物であり良好であった。
以上の結果より、本発明では、満足のいく結果が得られたのに対し、比較例では、満足のいく結果が得られなかった。また、実施例11において、実施例4のインク組成物(第2インク組成物)を併用した事で、実施例1のインク組成物(第1インク組成物)を使用した印刷部のにじみが改善され、より良好な記録物が得られた。