(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイ等は、各種の光学フィルムを使用している。またこの種の光学フィルムには、配向膜の配向規制力により液晶材料を配向させて位相差層を作製し、この位相差層により透過光に所望の位相差を付与するものがある。またこのような光学フィルムの配向膜については、ラビング処理による微細凹凸形状(以下、ラビング処理痕と呼ぶ)により作成する方法が提案されている。
【0003】
またこのような光学フィルムに関して、従来、円偏光板の機能により外来光の反射を低減する反射防止フィルム等が提案されている。この反射防止フィルムは、直線偏光板、1/4波長位相差板により構成され、画像表示パネルのパネル面に向かう外来光を直線偏光板により直線偏光に変換し、続く1/4波長位相差板により円偏光に変換する。ここでこの円偏光による外来光は、画像表示パネルの表面等で反射するものの、この反射の際に偏光面の回転方向が逆転する。その結果、この反射光は、到来時とは逆に、1/4波長位相差板により、直線偏光板で遮光される方向の直線偏光に変換された後、続く直線偏光板により遮光され、その結果、外部への出射が著しく抑制される。
【0004】
この光学フィルムに関して、特許文献1等には、1/2波長板、1/4波長板を積層して1/4波長位相差板を構成することにより、正の分散特性による液晶材料を使用して1/4波長位相差板を逆分散特性により構成する方法が提案されている。なおここで逆分散特性とは、短波長側ほど透過光における位相差が小さい波長分散特性であり、より具体的には、450nmの波長におけるリタデーション(R450)と、550nmの波長におけるリタデーション(R550)との関係が、R450<R550である。
【0005】
ところで近年、この種の光学フィルムの位相差層に適用可能な液晶材料として、逆分散特性を備えるものが提案されている(特許文献2、3)。このような逆分散特性の液晶材料によれば、1/2波長板、1/4波長板を組み合わせて2層の位相差層により逆分散特性による1/4波長位相差板を構成する代わりに、位相差層を単層により構成して逆分散特性を確保することができる。従って簡易な構成により広い波長帯域で所望の位相差を確保することができる。また反射防止フィルム以外の各種の光学フィルムに逆分散特性の液晶材料を適用することにより、広い波長帯域で一様に位相差を付与することができ、一段と光学フィルムの特性を向上できると考えられる。
【0006】
しかしながら種々に実験した結果によれば、逆分散特性の液晶材料にあっては、正分散特性の液晶材料に比して、液晶材料を均一に配向させることが難しく、これにより正分散特性の液晶材料に係るラビング処理痕による配向膜をそのまま適用したのでは、十分な特性により光学フィルムを作成することが困難なことが判った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、ラビング処理痕による配向膜の配向規制力により液晶材料を配向させて位相差層を作製する構成において、この位相差層を逆分散特性の液晶材料により作成する場合等でも、十分に均一に液晶材料を配向させることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、ラビング処理痕を一定の粗さにより作成する、との着想に至り、本発明を完成するに至った。
【0010】
(1) 透明フィルムによる基材と、
前記基材の一方の面に作製されたラビング処理痕による配向膜と、
前記配向膜の上に作製されて、前記配向膜の配向規制力により配向して固化した液晶材料による位相差層とを備え、
前記配向膜は、
平均面粗さ(Ra)が3nm以上、10nm以下である。
【0011】
(1)によれば、十分な配向規制力を発揮して、逆分散液晶により位相差層を作成する場合でも、十分に液晶材料を配向させることができる。
【0012】
(2) (1)において、
前記液晶材料は、
逆分散特性の液晶材料である。
【0013】
(2)によれば、逆分散特性による液晶材料を十分に均一に配向させて光学フィルムを構成することができる。
【0014】
(3) (1)、又は(2)において、
前記配向膜は、
断面最大高低差が20nm以上である。
【0015】
(3)によれば、断面最大高低差により配向膜の表面形状を把握して十分な配向性を確保することができる。
【0016】
(4) (1)、(2)、又は(3)において、
前記位相差層が、透過光に1/4波長の位相差を付与する位相差層であり、
さらに直線偏光板が積層された。
【0017】
(4)によれば、偏光面の制御により反射防止を図る反射防止フィルムに適用して、逆分散液晶により位相差層を作成する場合でも、十分に液晶材料を配向させることができる。
【0018】
(5) 被転写基材への積層に供する転写層と、
前記転写層を支持する支持体基材とを備え、
前記転写層は、
配向膜のラビング処理痕による配向規制力により液晶材料を配向させて作成された位相差層を備え、
前記配向膜は、
平均面粗さ(Ra)が3nm以上、10nm以下である。
【0019】
(5)によれば、十分な配向規制力を発揮して、逆分散液晶により位相差層を作成する場合でも、十分に液晶材料を配向させることができる。
【0020】
(6) (5)において、
前記位相差層が、透過光に1/4波長の位相差を付与する位相差層である。
【0021】
(6)によれば、1/4波長板に係る光学フィルム用転写体に適用して、十分な配向規制力を発揮して、逆分散液晶により位相差層を作成する場合でも、十分に液晶材料を配向させることができる。
【0022】
(7) 直線偏光板による被転写基材を備え、
(6)に記載の光学フィルム用転写体の前記転写層が、前記直線偏光板による被転写基材に積層された。
【0023】
(7)によれば、偏光面の制御により反射防止を図る転写法による反射防止フィルムに適用して、逆分散液晶により位相差層を作成する場合でも、十分に液晶材料を配向させることができる。
【0024】
(8) (4)又は(7)に記載の光学フィルムを画像表示パネルのパネル面に配置した画像表示装置。
【0025】
(8)によれば、逆分散特性により広い波長帯域で所望する位相差を光学フィルムに確保して、この光学フィルムを使用して画像表示装置を構成することができる。
【0026】
(9) 透明フィルムによる基材にラビング処理痕による配向膜を作成する配向膜作製工程と、
前記配向膜の配向規制力により液晶材料を配向させて固化させることにより位相差層を作成する位相差層作成工程とを備え、
前記配向膜作成工程は、
平均面粗さ(Ra)が3nm以上、10nm以下により前記配向膜を作成する。
【0027】
(9)によれば、十分な配向規制力を発揮して、逆分散液晶により位相差層を作成する場合でも、十分に液晶材料を配向させて光学フィルムを作成することができる。
【0028】
(10) 支持体基材にラビング処理痕による配向膜を作成する配向膜作製工程と、
前記配向膜の配向規制力により液晶材料を配向させて固化させることにより位相差層を作成する位相差層作成工程とを備え、
前記配向膜作成工程は、
平均面粗さ(Ra)が3nm以上、10nm以下により前記配向膜を作成する。
【0029】
(10)によれば、十分な配向規制力を発揮して、逆分散液晶により位相差層を作成する場合でも、十分に液晶材料を配向させて光学フィルム用転写体を作成することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、ラビング処理痕による配向膜の配向規制力により液晶材料を配向させて位相差層を作製する構成において、この位相差層を逆分散特性の液晶材料により作成する場合等でも、十分に均一に液晶材料を配向させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る画像表示装置を示す図である。この画像表示装置1は、画像表示パネル2のパネル面(視聴者側面)に、光学フィルム3が配置される。画像表示パネル2は、例えば可撓性を有するシート形状による有機ELパネルであり、所望のカラー画像を表示する。なお画像表示パネル2にあっては、シート形状による有機ELパネルに限らず、板形状による有機ELパネル、液晶表示パネル等、種々の画像表示パネルを広く適用することができる。
【0033】
光学フィルム3は、偏光面の制御により、画像表示パネル2に到来する外来光の反射を抑圧する光学フィルムである。このため光学フィルム3は、直線偏光板5、1/4波長位相差板6を積層して構成される。光学フィルム3は、図示しないセパレータフィルムを剥離して感圧接着剤による粘着層4を露出させた後、この粘着層4により、画像表示パネル2のパネル面に貼り付けられて保持される。また直線偏光板5及び1/4波長位相差板6は、粘着層7を介して一体化される。より具体的に、光学フィルム3は、1/4波長位相差板6に係る基材15が直線偏光板5側となるように1/4波長位相差板6が配置される。ここで基材15は例えばTAC(トリアセチルセルロース)等の透明フィルムにより構成され、光学フィルム3は、基材15にTACによる透明フィルムを適用した場合、この基材15の直線偏光板5側の面が鹸化処理された後、水のり(
図1では粘着層7である)により直線偏光板5と接着張合わせて作製される。これにより光学フィルム3は、画像表示パネル2のパネル面に向かう外来光を直線偏光板5により直線偏光に変換し、続く1/4波長位相差板6により円偏光に変換する。またその結果、画像表示パネル2の表面等で反射して偏光面の回転方向が逆転した反射光を、到来時と逆に、1/4波長位相差板6より、直線偏光板5により遮光される方向の直線偏光に変換した後、続く直線偏光板5により遮光し、これにより反射光の外部への出射を著しく抑制する。
【0034】
直線偏光板5は、TAC(トリアセチルセルロース)等の透明フィルムからなる基材10の下面側が鹸化処理された後、光学機能層11が配置され、この光学機能層11側に粘着層7により1/4波長位相差板6が設けられる。ここで光学機能層11は、直線偏光板としての光学的機能を担う部位であり、例えばポリビニルアルコール(PVA)によるフィルム材に、ヨウ素化合物分子を吸着配向させて作製される。
【0035】
1/4波長位相差板6は、基材15の一方の側の面に、順次、配向膜材料層16、位相差層17、粘着層4が設けられ、他方の側の面に上述したように粘着層7が設けられる。1/4波長位相差板6は、表面に微細なライン状の凹凸形状が作製された賦型用金型を使用した賦型処理により、配向膜材料層16の表面にラビング処理痕である微細なライン状凹凸形状が作製され、これにより配向膜材料層16の表面に配向膜18が作製される。またこの配向膜18の配向規制力により位相差層17を構成する液晶材料を配向させた状態で(この液晶材料が屈折率異方性を保持した状態で)、液晶材料を固化(硬化)して位相差層17が形成される。1/4波長位相差板6は、これによりこの位相差層17により透過光に所望の位相差を付与して、直線偏光板5からの直線偏光による外来光を円偏光により画像表示パネル2に出射し、また画像表示パネル2からの円偏光による反射光を直線偏光により直線偏光板5に出射する。1/4波長位相差板6は、位相差層17が逆分散特性の液晶材料により作成され、これにより逆分散特性により透過光に位相差を付与する。
【0036】
図2は、1/4波長位相差板6の製造工程を示す略線図である。この製造工程20は、基材15を供給リール21から引き出し、ダイ22により紫外線硬化性樹脂の塗布液を塗布する。この製造工程20において、ロール版23は、配向膜18に係る微細凹凸形状であるラビング処理痕が周側面に形成された賦型用金型である。製造工程20は、紫外線硬化性樹脂が塗布された基材15を加圧ローラ24によりロール版23に押圧し、高圧水銀燈からなる紫外線照射装置25による紫外線の照射により紫外線硬化性樹脂を硬化させる。これにより製造工程20は、ロール版23の周側面に形成された凹凸形状を転写する。その後、剥離ローラ26によりロール版23から硬化した紫外線硬化性樹脂と一体に基材15を剥離し、これにより基材15に配向膜材料層16、配向膜18を作製する。
【0037】
この工程20は、その後、ダイ29により位相差層17に係る液晶材料を塗布し、紫外線照射装置27による紫外線の照射により液晶材料を硬化させた後、巻き取りリール28に巻き取る。この一連の処理により基材15の上に、配向膜材料層16、配向膜18、位相差層17が形成される。
【0038】
〔ロール版製造工程〕
ロール版23の製造工程は、ロール版23に係る母材の周側面を研磨して平滑化した後、この周側面に下地層を作製する。ここで母材は、ロール版23の外形形状に対応する円筒形状又は円柱形状の金属材料である。母材は、加工のしやすさや寸法安定性などから金属材料であることが好ましく、ニッケル、クロム、ステンレス、銅などであることがより好ましい。なおこの実施形態において、母材は、銅が適用される。
【0039】
下地層は、上層に設けられる賦型処理に供する凹凸形状が作製された層について、母材に対する密着力を強化するために設けられる。この実施形態では、下地層は、無電解メッキにより、リンをドープしたニッケル層により膜厚500nmで作製される。
【0040】
続いてこの工程は、下地層の上に、賦型処理層に係る無機材料層を作製する。この実施形態では、この無機材料層にクロム層が適用され、スパッタリングにより膜厚100nmのクロム層を作製する。続いてこの工程は、ラビング装置によるラビング処理により、この無機材料層の表面に、賦型処理に供する微細な凹凸形状が作成される。
【0041】
図3はラビング装置におけるラビング処理の説明に供する図である。このラビング装置30は、ロール版23に係る円筒形状の母材31をその中心軸がほぼ水平になるように保持し、矢印Aにより示すように、この母材31をこの中心軸の周りに所定の回転速度で回転駆動する。この状態でこのラビング装置30は、この母材31の回転軸に対して回転軸を斜めに傾けてラビングロール32を保持し、矢印Bにより示すように、このラビングロール32を回転駆動しながら母材31の周側面に押し付ける。母材31の回転軸とラビングロール32の回転軸との相互の交叉角(傾斜角)は、配向膜18に係る微細な凹凸形状の延長方向に対応する角度となるように設定される。
【0042】
ここでラビングロール32は、ラビング処理に供するラビング布を周囲に巻き付けた円柱形状の部材である。これによりラビング装置30は、ラビングロール32を回転させながら表面のラビング布で母材31の周側面を摩擦してラビング処理する。ここでこのラビング布は、例えばラビング処理に使用可能な各種の布材、天然皮革、人口皮革等を広く適用することができる。なおこの実施形態では、表面に多数の纖維を植毛した布材である植毛布によりラビング処理する。なおラビング布の材料としては、一般的に用いられるセルロース、レーヨン、ポリアミド(ナイロン:登録商標)、ポリエチレン等のポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂などの中から適宜選択して使用する。一般的な、パイル長1〜数mm、密度2〜4万フィラメント/cm
2、パイル径数十〜300ディナール、パイル本数250〜1500/cm
2程度の一般的なものを使用する。好ましい材料は、ラビングかすの少ないレーヨン、ナイロンなどの化学繊維を使用した植毛布が好適であり、この場合、パイル長1〜2mm、密度2.5〜3.5万フィラメント/cm
2、パイル径数50〜150ディナール、パイル本数600〜1000/cm
2、フィラメントの広がる角度は5〜20゜である。
【0043】
またこのラビング装置30は、このようにして母材31の周側面を局所的にラビング処理するようにして、母材31の回転軸(中心軸)に沿った方向にラビングロール32を移動させ、これによりラビング処理する領域を徐々に変化させ、母材31の周側面の全てをラビング処理する。なおこのラビングロール32の中心軸に沿った方向の移動は、必要に応じて繰り返される。またラビングロール32の移動の繰り返しにあっては、往路と復路との双方でラビング処理しても良く、往路又は復路の1方でのみラビング処理しても良い。
【0044】
〔ラビング処理〕
ところで位相差層17に係る逆分散特性の液晶材料は、例えば、特表2010−522892号公報、特開2006−243470号公報、特開2007−243470号公報、特開2009−75494号公報、特開2009−62508号公報、特開2009−179563号公報、特開2009−242717号公報、特開2009−242718号公報、特許第4222360号公報、特許第4186981号公報、などに記載されている液晶化合物を適用することができる。
【0045】
しかしながらこのような逆分散特性の液晶材料は、独特の立体構造を備えており、これにより正分散特性の液晶材料に係るラビング処理痕による配向膜をそのまま適用したのでは、十分な特性により位相差層を作成することが困難なことが判った。
【0046】
そこで配向膜に係るラビング処理痕を検討した。
図4は、ラビング強度を種々に変更して作成される配向膜におけるラビング処理痕の計測結果を示す図である。なおこの
図4における横軸であるラビング強度は、ラビング処理の強度を示す指標であり、ラビングロールの回転速度、ラビングロールの押込量等により表される指標である。また横軸は、AFM(Atomic Force Microscope)によりラビング方向と直交する方向に一定の距離だけ走査して、配向膜表面の凹凸形状を測定して求めた最高点と最低点の高さの差である。またこの一定の距離は、約10μmである。
【0047】
なお、配向膜に用いる樹脂としては、従来公知の単官能又は多官能の(メタ)アクリレート系モノマーを重合開始剤下で硬化させた硬化物を用いることができる。(メタ)アクリレート系モノマーとしては、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテルアクリレート、ジエチレングリコールモノフェニルエーテルアクリレート、テトラエチレングリコールモノフェニルエーテルアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、ベンジルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メタクリル酸、ウレタンアクリレート、より選択される1種又は2種以上の混合物が例示できる。
【0048】
符号L1及びL2は、配向膜材料層に異なる材料を適用した場合の計測結果を示すものであり、L1、L2の配向膜材料は共に(メタ)アクリレート系モノマーを重合開始剤下で硬化させた硬化物である。L1は2−フェノキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ビス(2-ビニルオキシエチル)エーテルの1:1:4:5に開始剤としてLUCIRIN TPOを4%添加した混合物である。L2はトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)と日本合成化学社製UV1700Bとの1:1に開始剤としてLUCIRIN TPOを4%添加した混合物である。L1は、L2に比して、相対的に塗工液の粘度の高い材料(固形成分の多い材料)を適用した場合の計測結果であり、それぞれの材料を膜厚3μmになるように塗工して紫外線硬化により三次元架橋した材料による測定結果である。
【0049】
また、L1、L2の液晶材料(
図8のL3)は、450nmの波長におけるリタデーション(R
450)と、550nmの波長におけるリタデーション(R
550)との関係が、R
450/R
550<1である逆分散液晶であり、特表2010−522892号公報記載の化合物(1)、RM(1)、RM(3)の混合物を5:3:2の配合比で用い、膜厚2.6μmにより作製したものである。なおリタデーションの計測には、王子計測機器(株)社製 KOBRA−WRを使用した。
【0050】
この測定結果によれば、配向膜に係る塗工液の配向膜材料種類や粘度により、賦型処理して作成される表面の凹凸形状に差異が現れることが判った。符号L1では、ラビング強度が一定値以上大きくなると、断面における高低差が急激に大きくなり(符号a及びb)、その後、ラビング強度を強くすると徐々に高低差が小さくなることが判った。ここでこのように断面高低差が大きい場合には、断面高低差が小さい場合に比して、ラビング処理痕における凹凸形状が激しいと言える。このような傾向は、程度の差はあるがL1でもL2でも現れることが判った。ここで配向膜にあっては、このようにして作成されるラビング処理痕による配向規制力により液晶材料を配向させることにより、このようにして計測される断面高低差で表されるラビング処理痕の変化にあっては、液晶材料の配向に多いに影響を与えると考えられる。なお
図5(a)及び(b)、
図6(c)及び(d)、
図7(e)、(f)及び(g)は、
図4における符号a、b、d、d1、e、f、gにそれぞれ対応する断面高低差の計測結果である。
【0051】
そこでこれら
図4における符号a〜gによる配向膜を使用して逆分散特性による液晶材料を使用して位相差層を作成し、この位相差層の配向性を計測した。なおこの配向性の計測は、クロスニコル配置による直線偏光板により計測対象を挟持して消光位に保持し、光源から出射した照明光の透過光量を光度により計測して実行した。なお以下において、このようにして計測される光度を黒輝度と呼ぶ。なお光源の照度は、計測箇所で500cd/m
2であった。また何らサンプルを介挿しない状態における計測結果は、1.0cd/m
2であった。なおこの
図4及び以下における断面最大高低差は、表面のうねりを除いた粗さ曲線の最大山高さと最大谷深さとの差であり、この粗さ曲線の最大山高さ最大谷深さついては、JIS B0601:2001の規定によるものである。
【0052】
符号bにより示すサンプルは、断面最大高低差が31nmであり、黒輝度は、9.4cd/m
2であった。また符号cにより示すサンプルは、断面最大高低差が25nmであり、黒輝度は、18.2cd/m
2であった。また符号dにより示すサンプルは、断面最大高低差が19nmであり、黒輝度は、95.2cd/m
2であった。また符号fにより示すサンプルは、断面最大高低差が23nmであり、黒輝度は、43.9cd/m
2であった。また符合f1により示すサンプルは、断面最大高低差が20nmであり、黒輝度は、75.2cd/m
2であった。また符号gにより示すサンプルは、断面最大高低差が18nmであり、黒輝度は、122.0cd/m
2であった。
【0053】
ここでこのようにして計測される黒輝度は、80.0cd/m
2以下に保持することができれば、実用上十分に、画像表示パネルにける黒色の表示を十分に黒く沈んだ状況に保持することができる。これにより断面最大高低差が20nm以上であるように配向膜にラビング処理痕を作成すれば、逆分散液晶にあっても、十分に配向性を確保することができる。これにより十分に均一に液晶材料を配向させ、十分な特性により光学フィルムを作成することができる。なおより好ましくは、断面最大高低差が23nm以上であるように配向膜にラビング処理痕を作成すれば、黒輝度は、50.0cd/m
2以下に保持することができれ、さらに一段と黒色の表示を黒く沈んだ状況に保持することができる。
【0054】
図10は、この
図4に係る各サンプルの平均面粗さ(Ra)の計測結果を示す図である。
図4について上述した最大高低差を計測したサンプルについて、平均面粗さ(Ra)(JIS B 0601:2001)を計測したところ、符号a1、b、cにより示すサンプルは、断面最大高低差23nm以上、黒輝度50.0cd/m
2以下であり、平均面粗さ(Ra)がそれぞれ4.0nm、5.7nm、6.5nmであった。これによりさらに検討を進めた結果、平均面粗さ(Ra)が3nm以上、10nm以下となるようにラビング処理痕を作成して配向膜を作成することにより、逆分散特性の液状材料により位相差層を作成する場合でも、十分に配向性を確保できることが判った。
【0055】
なお一段と黒輝度を低下させて画質を向上させる観点から、平均面粗さ(Ra)は、4.0nm<Raであることが好ましい。
【0056】
これによりこの実施形態において、配向膜18は、平均面粗さ(Ra)が3nm以上、10nm以下となるようにロール版によりラビング処理痕が作成されて形成される。
【0057】
図8は、このようにして作成した配向膜によりサンプルにより逆分散特性及び正分散特性の液晶材料により位相差層を作成した場合のリタデーションの計測結果を示す図である。符号L1・L3は、
図4において符号L1より示した配向膜に逆分散特性の液晶材料により位相差層を作成した場合である。また符合L1・L4は、
図4において符号L1より示した配向膜に正分散特性の液晶材料により位相差層を作成した場合である。また符合L2・L3は、
図4において符号L2より示した配向膜に逆分散特性の液晶材料(符号L1・L3の場合と同一の液晶材料である)により位相差層を作成した場合である。また符合L2・L4は、
図4において符号L2より示した配向膜に正分散特性の液晶材料(符号L1・L3の場合と同一の液晶材料である)により位相差層を作成した場合である。
【0058】
ここで、L3は上記の特表2010−522892号公報記載の逆分散特性の液晶材料であり、L4は下記に例示される正分散特性の液晶材料のうちの(11)である。
【0060】
なお正分散液晶材料は、固形成分比(質量比)20%の条件によりメチルイソブチルケトン(methyl isobutyl ketone:MIBK)とシクロヘキサノン(cyclohexanone)との混合溶液を使用して塗工液を作成し、この塗工液を#5のミヤバーにより塗工した後、110℃2分により乾燥し、その後紫外線の照射により塗工膜を硬化させて作成した。逆分散液晶は、トルエンとシクロヘキサノン(cyclohexanone)との混合溶液を使用して塗工液を作成し、この塗工液を#6のミヤバーにより塗工した後、73℃5分により乾燥し、その後紫外線の照射により塗工膜を硬化させて作成した。
【0061】
この測定結果においては、十分に均一に液晶材料が配向していない領域(配向性の劣る領域)を符号NGにより示す。この
図8の測定結果によれば、ラビング強度を基準にした
図4及び
図10との計測結果との対比により、平均面粗さ(Ra)が3nm以上、10nm以下となるようにラビング処理痕を作成して配向膜を作成することにより、逆分散特性の液状材料はもとより、正分散特性の液晶材料により位相差層を作成する場合でも、十分に配向性を確保できることが判る。また正分散特性の液晶材料にあっては、ラビング強度の許容範囲が大きいのに対して、逆分散特性の液晶材料は許容範囲が狭く、これにより逆分散特性の液晶材料にあっては、正分散特性の液晶材料に比して、液晶材料を均一に配向させることが難しいことが判る。
【0062】
図12及び
図13は、倍率を変化させて配向膜と位相差層との境界を拡大して示す断面写真である。この
図12及び
図13において、矢印により境界を示す。この
図12及び
図13の写真によれは、上述した平均粗さに係る凹凸形状を境界に見て取ることができる。なおこれによりこの断面写真を使用して平均面粗さ(Ra)を求めるようにしても良い。
【0063】
この実施形態によれば、平均面粗さ(Ra)が3nm以上、10nm以下となるようにラビング処理痕を作成して配向膜を作成することにより、逆分散特性の液状材料により位相差層を作成する場合でも、十分に均一に液晶材料を配向させて十分な光学特性を確保することができる。
【0064】
〔第2実施形態〕
図9は、本発明の第2実施形態に係る画像表示装置を示す図である。この画像表示装置41では、光学フィルム3に代えて光学フィルム43が配置される点を除いて、第1実施形態の画像表示装置1と同一に構成される。また光学フィルム43は、1/4波長位相差板6に代えて1/4波長位相差板46が適用されて、転写フィルムを使用した転写法により直線偏光板5に1/4波長位相差板46が一体化される点を除いて、第1実施形態の光学フィルム3と同一に構成される。
【0065】
ここで転写法は、例えば基材の上に所望の層を形成する場合に、この層を直接当該基材上に形成するのでは無く、一旦、離型性の支持体上に剥離可能に該層を積層形成して転写体を作製した後、工程、需要等に応じて、該支持体上に形成した層を、最終的に該層を積層すべき基材(被転写基材)上に接着、積層し、その後、該支持体を剥離除去することにより、該基材上に所望の層を形成する方法である。
【0066】
光学フィルム43では、この転写に供する層である転写層に、配向膜材料層16、位相差層17が適用される。また被転写基材に直線偏光板5が適用される。
【0067】
図10は、転写フィルム50を示す図である、転写フィルム50は、光学フィルム用転写体であり、TAC等による透明フィルム材により支持体基材51が構成され、この支持体基材51に、第1実施形態について上述したと同様にして配向膜材料層16、配向膜18、位相差層17が設けられる。また続いて粘着層7、セパレータフィルム53が設けられる。
【0068】
光学フィルム43は、セパレータフィルム53を剥離して粘着層7を露出させた状態で、転写フィルム50を直線偏光板5に積層して一体化した後、支持体基材51を剥離し、その後、粘着層4、当該粘着層4に係るセパレータフィルム等を配置して作製される。
【0069】
この実施形態では、この転写フィルムに係る配向膜18、位相差層17が、第1実施形態に係る光学フィルム3と同一に構成される。
【0070】
この実施形態では、転写法により光学フィルムを作成する場合でも、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0071】
〔第3実施形態〕
この実施形態では、
図1及び
図10の構成において、配向膜材料層16の作成工程、配向膜18に係る賦型工程に代えて、基材15、51を直接ラビング処理して基材15、41の表面の凹凸形状により配向膜が作成される。この実施形態の光学フィルムは、この配向膜に関する構成が異なる点を除いて第1又は第2実施形態と同一に構成される。
【0072】
ここでこの実施形態では、基材15、51の搬送方向に対して斜めに傾けて配置したラビングローラにより基材15、51をラビング処理し、第1及び第2実施形態と同一の表面粗さにより配向膜を作成する。
【0073】
この実施形態では、基材を直接ラビング処理してラビング処理痕による配向膜を作成する場合でも、第1又は第2実施形態と同一の効果を得ることができる。
【0074】
〔他の実施形態〕
以上、本発明の実施に好適な具体的な構成を詳述したが、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述の実施形態を種々に組み合わることができ、上述の実施形態の構成を種々に変更することができる。
【0075】
すなわち上述の第1実施形態では、ロール版により賦型処理する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、平板により賦型処理する場合にも広く適用することができる。
【0076】
また上述の第2実施形態では、配向膜材料層及び位相差層により転写層を構成する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、位相差層のみを転写層とする場合にも広く適用することができる。
【0077】
また上述の第1実施形態では、賦型用樹脂にアクリレート系の紫外線硬化性樹脂を適用する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、エポキシ系、ポリエステル系等の各種紫外線硬化性樹脂、或いはアクリレート系、エポキシ系、ポリエステル系等の電子線硬化性樹脂、ウレタン系、エポキシ系、ポリシロキサン系等の熱硬化性樹脂等の各種材料及び各種硬化形態の賦型用樹脂を使用する場合にも広く適用することができ、さらには例えば加熱した熱可塑性の樹脂を押圧して賦型する場合等にも広く適用することができる。
【0078】
また上述の実施形態は、本発明を反射防止フィルムに適用する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えばパッシブ方式による3次元画像表示に適用されるパターン位相差フィルム等、配向膜の配向規制力により液晶材料を配向させて位相差層を作製し、この位相差層により透過光に所望の位相差を付与する各種の光学フィルムに広く適用することができる。