(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数のコンベヤベルトが混在するベルトコンベヤラインの駆動消費電力の予測方法において、前記ベルトコンベヤラインの駆動に要する消費電力を目的変数とし、ある時点における前記ベルトコンベヤラインのキャリア側に存在するそれぞれのコンベヤベルトの割合およびベルトコンベヤラインによる搬送量を説明変数として重回帰分析することにより、それぞれのコンベヤベルトの駆動に要する消費電力を予測し、この予測には、前記ベルトコンベヤラインに搬送物を積載して稼働させて、ベルトコンベヤラインの駆動に要する消費電力および搬送量の時系列データを取得し、取得した搬送量の時系列データから、そのデータが安定している所定時間における搬送量の平均を算出するとともに、取得したベルトコンベヤラインの駆動に要する消費電力の時系列データから、前記所定時間におけるベルトコンベヤラインの駆動に要する消費電力の平均を算出し、この搬送量の平均および消費電力の平均を算出した時点にベルトコンベヤラインのキャリア側に存在するそれぞれのコンベヤベルトの割合を算出し、これら算出したデータを前記重回帰分析に用いることを特徴とするベルトコンベヤラインの駆動消費電力の予測方法。
【背景技術】
【0002】
ベルトコンベヤラインを駆動するための消費電力は、ベルトコンベヤラインを構成するコンベヤベルトの仕様や駆動ローラ等の周辺設備、さらにはコンベヤベルトに積載する搬送物の重量の変動等の影響を受けて変動することが知られている。ベルトコンベヤラインが例えば数km超の長機長になると、コンベヤベルトを支持する支持ローラの数が増加するため、消費電力に関してはコンベヤベルトと支持ローラとの接触に起因する動力損失が支配的になる。また、長機長のベルトコンベヤラインになると、破損した部分を交換することにより、仕様の異なるコンベヤベルトが混在することがある。或いは、コンベヤベルトの仕様が同じであっても新旧のコンベヤベルトが混在することがある。
【0003】
仕様の異なるコンベヤベルトが混在するベルトコンベヤラインのそれぞれのコンベヤベルトの駆動消費電力を予測する方法は幾つか提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。これら従来の方法は、基本的にベルトコンベヤラインに積載する搬送物の重量(搬送量)が安定している場合を想定している。しかしながら、ベルトコンベヤラインによる搬送量は、搬送先の要求によって増減するため不安定な場合もある。そのため、これら従来の方法では、搬送量が不安定な場合に、それぞれのコンベヤベルトの駆動に要する消費電力を精度よく予測することは難しく、さらなる工夫が必要であった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のベルトコンベヤラインの駆動消費電力の予測方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1、
図2に例示するベルトコンベヤライン1(以下、コンベヤライン1という)は、複数のコンベヤベルトが混在して構成されていて、この実施形態では、2つのコンベヤベルト1A、1Bが混在している。それぞれのコンベヤベルト1A、1Bは仕様が異なる、或いは、仕様が同じであっても新旧が異なっている。このコンベヤライン1は、3つの駆動用のプーリ2a、2b、2cによって回転駆動される。駆動用のプーリの数はコンベヤライン1の長さ等によって適宜決定される。また、コンベヤライン1には適宜の位置に従動プーリが配置される。
【0012】
コンベヤライン1のキャリア側CSでは、コンベヤベルト1A、1Bの内周面1n側を支持する多数の支持ローラ3が配置されている。キャリア側CSでは、コンベヤベルト1A、1Bが所定のトラフ角度を有して凹状に湾曲するように支持ローラ3が配置される。コンベヤライン1のリターン側では、コンベヤベルト1A、1Bの外周面を支持する支持ローラ3が適宜配置されてコンベヤベルト1A、1Bを円滑にガイドする。
【0013】
長機長のコンベヤライン1では既述したように、駆動に要する消費電力Pに関してはコンベヤベルト1A、1Bと支持ローラ3との接触に起因する動力損失が支配的になる。そこで、コンベヤライン1を駆動するために要する消費電力Pは、コンベヤライン1のキャリア側CSに配置された支持ローラ3がコンベヤベルト1A、1Bを乗り越える際の支持ローラ3の乗り越え抵抗力fの総和に比例すると見做すことができる。
【0014】
このコンベヤライン1では、異なるコンベヤベルト1A、1Bが混在しているので、キャリア側CSにどちらのコンベヤベルト1A、1Bがどの程度位置しているかによって消費電力Pが変動することになる。即ち、コンベヤベルト1A、1Bが混在することに起因して、コンベヤライン1が一周する周期時間Tで消費電力Pが変動する。
【0015】
また、コンベヤライン1に積載される搬送物Tの重量に応じて、キャリア側CSでコンベヤベルト1A、1Bと支持ローラ3との接触に起因する動力損失が変化する。即ち、コンベヤライン1による搬送量Qによって消費電力Pが変動する。
【0016】
本発明では、このコンベヤライン1を構成するそれぞれのコンベヤベルト1A、1Bの駆動に要する消費電力を予測する。その際に、コンベヤライン1の駆動に要する消費電力Pを目的変数とし、ある時点におけるコンベヤライン1のキャリア側CSに存在するそれぞれのコンベヤベルト1A、1Bの割合およびコンベヤライン1による搬送量Qを説明変数として重回帰分析する。
【0017】
そこで、コンベヤライン1が一方のコンベヤベルト1Aのみで構成されていると仮定した場合のコンベヤライン1の駆動に要する消費電力をP1(kW)、他方のコンベヤベルト1Bのみで構成されていると仮定した場合のコンベヤライン1の駆動に要する消費電力をP2(kW)とする。そして、ある時点でのコンベヤライン1のキャリア側CSに一方のコンベヤベルト1Aが存在する割合をX
1、他方のコンベヤベルト1Bが存在する割合をX
2とする。X
1+X
2=1である。すると、このコンベヤライン1の駆動に要する消費電力P(kW)は下記(1)式で表すことができる。
P=P
1×X
1+P
2×X
2・・・(1)
【0018】
また、それぞれの消費電力P
1、P
2は、コンベヤライン1による搬送物Tの搬送量Q(ton/h)が多ければ増大し、少なければ小さくなる。それ故、消費電力P
1、P
2は、搬送量Qの一次関数として下記(2)式、(3)式で表すことができる。
P
1=a
0+a
1×Q・・・(2)
P
2=b
0+b
1×Q・・・(3)
【0019】
上記(2)式および(3)式を(1)式に代入し、整理すると下記(4)式になる。
P=b
0+(a
0−b
0)×X
1+b
1×Q+(a
1−b
1)×X
1×Q・・・(4)
係数をまとめると、下記(5)式になる。
P=c
0+c
1×X
1+c
2×Q+c
3×X
1×Q・・・(5)
ここで、c
0=b
0、c
1=a
0−b
0、c
2=b
1、c
3=a
1−b
1である。
【0020】
上記(5)式を回帰式として、重回帰分析を行なって係数c
0、c
1、c
2、c
3および係数a
0、a
1、b
0、b
1を算出する。具体的には、下記(6)式で示される行列をパーソナルコンピュータ等の演算装置を用いて計算してそれぞれの係数を算出する。(6)式中のnはデータ数である。
【0022】
重回帰分析に用いるデータ取得のため、コンベヤライン1を稼働させ、適宜、搬送物Tを積載して搬送する。これにより、
図3に例示するように、消費電力P(kw)の時系列データと搬送量Q(ton/hr)の時系列データを取得する。
図3には、キャリア側CSに
図4に例示するように、支持ローラ乗り越え抵抗力測定装置4(以下、測定装置4という)を設置して取得した支持ローラ3の乗り越え抵抗力fの時系列データも記載されている。
【0023】
取得した搬送量Qの時系列データから、比較的データが安定している時刻で、所定時間での搬送量Qの平均を算出する。また、取得した消費電力Pの時系列データから、搬送量Qの平均を求めた時刻(所定時間)での消費電力Pの平均を算出する。
【0024】
消費電力Pの時系列データには、複数のコンベヤベルト1A、1Bが混在していることに起因して、コンベヤライン1が1周回する周期時間Tにおいて、混在するコンベヤベルト1A、1Bの数と同数の変曲点A
P、B
Pが現れる。これら変曲点A
P、B
Pの時刻と、既知であるコンベヤベルト1A、1Bの長さとに基づいて、コンベヤライン1の走行速度Vを算出する。或いは、走行速度Vは別途計測してもよい。これにより、ある時点においてキャリア側CSに存在するそれぞれのコンベヤベルト1A、1Bの割合(長さ割合)が算出できる。したがって、搬送量Qおよび消費電力Pの平均を算出した時刻におけるキャリア側CSに存在するそれぞれのコンベヤベルト1A、1Bの割合が算出できる。以上のように算出したデータを用いて重回帰分析を行なう。
【0025】
算出された係数c
0、c
1、c
2、c
3を(5)式に代入することで、搬送量Qが一定ではなく、かつ、複数のコンベヤベルト1A、1Bが混在して構成されているコンベヤライン1の消費電力Pを精度よく予測、再現できる。また、係数a
0、a
1、係数b
0、b
1をそれぞれ、(2)式、(3)式に代入することで、搬送量Qが一定ではない条件下におけるそれぞれのコンベヤベルト1A、1Bの駆動に要する消費電力P1、P2も精度よく予測することが可能になる。
【0026】
本発明では、重回帰分析する際の説明変数として、コンベヤライン1による搬送量Qを採用しているので、搬送量Qが一定の場合に限らず、変動する場合のそれぞれのコンベヤベルト1A、1Bの消費電力P1、P2を予測することができる。また、コンベヤライン1の消費電力Pに極めて大きな影響があり、支配的な因子となるキャリア側CSでの支持ローラ3の乗り越え抵抗力fに着目して、ある時点におけるコンベヤライン1のキャリア側CSに存在するそれぞれのコンベヤベルト1A、1Bの割合を説明変数として採用している。したがって、予測精度を向上させるために多数の説明変数を用いた回帰式にすることなく、簡易でありながら精度よく、消費電力P1、P2を予測することができる。これにより、複雑な計算も不要になる。
【0027】
この予測によって、コンベヤライン1の一部分を交換する際に、そのコンベヤベルトに交換すると、どの程度の消費電力になるのか、或いは、どの程度の長さ交換するとどの程度の消費電力になるのか等を精度よく把握することができる。このように、コンベヤライン1の駆動消費電力の削減のための様々なシミュレーションに利用できる。それ故、本発明はコンベヤライン1の駆動消費電力の省エネルギー化には大いに有益である。
【0028】
コンベヤライン1を構成するコンベヤベルトが3本以上の場合も、同様の手順により、それぞれのコンベヤベルトの駆動に要する消費電力を精度よく予測することが可能になる。本発明により消費電力の予測対象となるコンベヤベルト1A、1Bは、長さが1km以上、より好ましくは3km以上、さらに好ましくは5km以上である。長さが1km未満では、消費電力P、P1、P2に及ぼすキャリア側CSでの支持ローラ3の乗り越え抵抗力fの影響力が相対的に小さくなり、予測精度が低下するためである。
【0029】
例えば、コンベヤライン1の水平機長7,830m、周長15,653mの内、一方のコンベヤベルト1Aの長さが7,292m、他方のコンベヤベルト1Bの長さが8,360m、キャリア側CS支持ローラ3の配置ピッチが1.8mで配置本数4,400本、走行速度Vが170m/min(=2.833m/sec)の場合について、(5)式の回帰式で重回帰分析を行ない算出された係数c
0、c
1、c
2、c
3および係数a
0、a
1、b
0、b
1は表1のとおりであった。
【0031】
この結果により、それぞれのコンベヤベルト1A、1Bの消費電力P1、P2は、表2に示すようになり、コンベヤベルト1Bは、1Aに比して消費電力が少なくて済むことが予測できる。
【0033】
測定装置4は、
図4〜
図6に例示するように、測定用支持ローラ5と、測定用支持ローラ5を支持する支持部6と、この支持部6が上面に載置されるフレーム7と、測定用支持ローラ5に作用する抵抗力を逐次検知する2つのロードセル13a、13bと、このロードセル13a、13bの検知データが逐次入力される制御部14を備えている。制御部14には、コンベヤライン1の走行速度Vも逐次入力される。さらに、フレーム7の上面と支持部6の下面との間には、フッ素樹脂等からなる低摩擦部材10が介在している。測定用支持ローラ5には、支持ローラ3または支持ローラ3と同等仕様のものを用いる。測定用支持ローラ5は、1個に限らず、コンベヤベルト1A、1Bの幅方向に複数並べて配置することもできる。
【0034】
一方のロードセル13aは支持部6の前側に固定され、他方のロードセル13bは支持部6の後側に固定されて、それぞれフレーム7に直接または間接的に接続される。ここで前後方向とは、コンベヤベルト1A、1Bの走行方向(長手方向)であり、支持部6の前側は支持部6に対してコンベヤベルト1A、1Bの走行方向下流側、後側はコンベヤベルト1A、1Bの走行方向上流側を意味する。
【0035】
それぞれのロードセル13a、13bは、接続部材8を介して、フレーム7を構成する垂直フレーム7bに間接的に接続されている。ロードセル13a、13bは直接、垂直フレーム7bに接続することもできる。また、フレーム7を構成する水平フレーム7aや支持フレーム7cにロードセル13a、13bを接続することもできる。
【0036】
水平フレーム7aの上面には、前後方向に延びるレール部12aが突設されている。また、支持部6の下面には、このレール部12aが嵌合する溝部12bが設けられている。そして、レール部12aの全面および水平フレーム7aの上面の全面が低摩擦部材10により覆われている。このレール部12aと溝部12bとにより、支持部6の移動を前後方向にガイドするガイド部11が構成されている。水平フレーム7aの上面および支持部6の下面のガイド部11を除いた部分は、平坦な面状になっている。
【0037】
測定用支持ローラ5は、上下アジャスタ機構9を用いてコンベヤベルト1A、1Bの内周面1nに当接させてセットした状態でコンベヤライン1を稼働させることにより、内周面1nに接しながら転動する。
図7に例示するように、測定用支持ローラ5がコンベヤベルト1A、1Bの内周面1nに当接して転動する際に、測定用支持ローラ5には、ベルト進行方向に向かって斜め下方の外力Fが作用する。実機の支持ローラ3は垂直方向に変位しないので、外力Fの垂直分力Fvによる損失はない。そのため、測定用支持ローラ5に作用する外力Fの水平分力Fhが支持ローラ3の乗り越え抵抗力fとなる。そこで、この測定装置4では測定用支持ローラ5に作用する水平方向の抵抗力f(水平分力Fh)のみを検知するようにしている。
【0038】
コンベヤベルト1A、1Bが測定用支持ローラ5を乗り越える際には、前側のロードセル13aは支持部材3とフレーム7との間の水平方向の圧縮力を検知し、後側のロードセル13bは支持部材3とフレーム7との間の水平方向の引張力を検知する。そして、前側のロードセル13aが検知した圧縮力から後側のロードセル13bが検知した引張力を差し引いた値(絶対値)の1/2が抵抗力fとして把握される。即ち、それぞれのロードセル13a、13bの初期状態(ゼロ点)を合わせていなくても、それぞれのロードセル13a、13bによる検知データを用いることに誤差を小さくして抵抗力fが測定される。
【0039】
この測定装置4では、支持部6の下面と水平フレーム7aの上面との間に低摩擦部材10を介在させて支持部6を水平フレーム7aに載置しているので、走行しているコンベヤベルト1A、1Bの内周面1nに測定用支持ローラ5を当接させて転動させると、実質的に測定用支持ローラ5に作用する水平方向の抵抗力fのみが、支持部6の前後それぞれに固定されたロードセル13a、13bにより検知される。そして、前後のロードセル13a、13bにより検知された検知データに基づいて上述したように、測定用支持ローラ5に作用する水平方向の抵抗力fを測定することができる。
【0040】
例えば表2の結果から、搬送量Qが1,000ton/hrの場合のそれぞれの消費電力P1、P2の差異(P1-P2)は、約140(kW)になる。一方、測定装置4により測定した、搬送量Qが1,000ton/hrの時のそれぞれのコンベヤベルト1A、1Bを乗り越える際の支持ローラ3の乗り越え抵抗力fはそれぞれ、21.9(N)、13.0(N)であった。そして、消費電力(kW)、抵抗力f、キャリア側の支持ローラ本数N、ベルトの走行速度V(m/sec)は、以下(7)式の関係にある。
P=(f・N・V)/1000・・・(7)
【0041】
上記(7)式により、それぞれのコンベヤベルト1A、1Bの抵抗力fの違いにより生じる消費電力P1、P2の差異は、(21.9-13.0)・4400・2.833/1000≒111(kW)と算出される。したがって、重回帰分析を用いて予測した消費電力P1、P2と、測定装置4を用いて測定した抵抗力fに基づいて算出した消費電力P1、P2とは概ね整合している。このように測定装置4により測定した抵抗力fに基づく消費電力P1、P2と比較することにより、予測した消費電力P1、P2の適正さを確認することができる。