(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記サスペンションに前記第1減衰力を作用させた時点から、所定時間経過後に、前記サスペンションに、前記基準減衰力よりも小さい減衰力を作用させる、
請求項1に記載の車両制御装置。
前記制御部は、前記サスペンションに前記第2減衰力を作用させた時点から、所定時間経過後に、前記サスペンションに、前記基準減衰力よりも小さい減衰力を作用させる、
請求項3に記載の車両制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態の車両制御装置および車両制御システムを車両1に搭載した例をあげて説明する。
【0015】
(実施形態1)
本実施形態では、車両1は、例えば、内燃機関(エンジン、図示されず)を駆動源とする自動車(内燃機関自動車)であってもよいし、電動機(モータ、図示されず)を駆動源とする自動車(電気自動車、燃料電池自動車等)であってもよいし、それらの双方を駆動源とする自動車(ハイブリッド自動車)であってもよい。また、車両1は、種々の変速装置を搭載することができるし、内燃機関や電動機を駆動するのに必要な種々の装置(システム、部品等)を搭載することができる。また、車両1における車輪3の駆動に関わる装置の方式や、数、レイアウト等は、種々に設定することができる。
【0016】
図1に示されるように、車体2は、ドライバー(不図示)が乗車する車室2aを構成している。車室2a内には、乗員としてのドライバーの座席2bに臨む状態で、操舵部4や、加速操作部5、制動操作部6、変速操作部7等が設けられている。本実施形態では、一例として、操舵部4は、ダッシュボード(インストルメントパネル)から突出したステアリングホイールであり、加速操作部5は、ドライバーの足下に位置されたアクセルペダルであり、制動操作部6は、ドライバーの足下に位置されたブレーキペダルであり、変速操作部7は、センターコンソールから突出したシフトレバーであるが、これらには限定されない。なお、これ以降、制動操作部6をブレーキペダル6という。
【0017】
また、
図1に示されるように、本実施形態では、一例として、車両1は、四輪車(四輪自動車)であり、左右二つの前輪3Fと、左右二つの後輪3Rとを有する。さらに、本実施形態では、これら四つの車輪3は、いずれも操舵されうるように(転舵可能に)構成されている。
【0018】
次に、本実施形態の車両1に搭載された車両制制御システムの構成について説明する。
図2は、実施の形態1の車両制御システムの構成を示すブロック図である。本実施形態の車両制御システムは、
図2に示すように、車両制御装置としてのECU14と、マスターシリンダ圧センサ28と、車輪速センサ22と、サスペンション31a〜31dとを主に備えている。
【0019】
マスターシリンダ圧センサ28は、ブレーキペダル6を踏み込むことにより、ブレーキペダル6の踏み力を油圧に変換するマスターシリンダのブレーキオイルにかかる油圧の圧力(マスターシリンダ圧)を検出するセンサである。車輪速センサ22は、車輪3の回転量や単位時間当たりの回転数、すなわち車輪速度を検出するセンサである。
【0020】
サスペンション31a〜31dは、左右の前輪3Fと左右の後輪3Rとに対応して設けられており、それぞれ左フロントサスペンション31a、右フロントサスペンション31b、左リアサスペンション31c、右リアサスペンション31dと称する。各サスペンション31a〜31dには、スプリングとともにスプリングの伸張を抑制するためのショックアブソーバ32a〜32dが設けられている。なお、サスペンション31a〜31dを総称する場合にはサスペンション31といい、ショックアブソーバ32a〜32dを総称する場合にはショックアブソーバ32という。
【0021】
ショックアブソーバ32は、サスペンション31のスプリングの伸縮を速やかに減衰させて車体を安定させるダンパーである。本実施形態では、ショックアブソーバ32は、減衰力を調整可能とし、後述する踏み込み段数と踏み離し段数とのそれぞれの段階に応じた減衰力が設定され、それぞれ最も減衰力が大きい(換言すれば最もハードな)状態から最も減衰力が小さい(換言すれば最もソフトな)状態であるフルソフトの状態まで複数段階に設定可能となっている。すなわち、ショックアブソーバ32は、ハードな状態であるほど、サスペンション31のスプリングに対してその伸縮を抑制する減衰力を大きく(強く)作用させる。
【0022】
なお、減衰力の調整は、段階に応じて、例えば、ショックアブソーバ32内の筒に流入する油の量を調整することで実現することができるが、これに限定されるものではなく、他の手法を用いても良い。
【0023】
ここで、踏み込み段数は、ブレーキペダル6の踏み込みによる車両1の前傾姿勢(ダイブ姿勢)の抑制を制御する場合に設定され、ショックアブソーバ32は、踏み込み段数として、最もハードな状態で最も大きい減衰力をサスペンション31に作用させる踏み込みステップから、踏み込みステップより小さい減衰力で、かつ踏み込み状況に応じた減衰力の調整がされた踏み込み調整ステップ、最もソフトな状態で最も小さい減衰力をサスペンション31に作用させるフルソフトのステップに設定可能となっている。
【0024】
また、踏み離し段数は、ブレーキペダル6の踏み離しによる車両1の前傾姿勢(ダイブ姿勢)からの戻りの抑制を制御する場合に設定され、ショックアブソーバ32は、踏み離し段数として、最もハードな状態で最も大きい減衰力をサスペンション31に作用させる踏み離しステップ、踏み離しステップより小さい減衰力で、かつ踏み離し状況に応じた減衰力の調整がされた踏み離し調整ステップ、最もソフトな状態で最も小さい減衰力をサスペンション31に作用させるフルソフトのステップに設定可能となっている。
【0025】
ECU14は、
図2に示すように、判断部141と、制御部142と、踏み込み保持タイマ143と、踏み離し保持タイマ144とを主に備えている。これら各部は、CPU(不図示)が、ROM(不図示)にインストールされた車両制御プログラムを読み出して、当該車両制御プログラムを実行することにより、RAM(不図示)上に生成される。
【0026】
ドライバーがブレーキペダル6を踏み込んでブレーキ操作を行うと、車両1のフロント側に荷重移動が起こり、これにより車両1のフロント側が沈み、リア側が上がるというノーズダイブが発生する場合がある。このように車両1が前傾した姿勢をダイブ姿勢という。制御部142は、マスターシリンダ圧センサ28で検出されたマスターシリンダ圧の変化量に基づいて、ブレーキペダル6の踏み込みによる車両1のダイブ姿勢を抑制するようにサスペンション31を制御する。
【0027】
また、ドライバーがブレーキペダル6を踏み込んだ状態(車両1が走行中、停止中いずれの場合も含む)から足を離すと、車両1がダイブ姿勢から戻り、場合によっては、車両1のフロント側が上がり、リア側が沈むというスクウォートが生じる。また、制御部142は、マスターシリンダ圧の変化量に基づいて、踏み込んだ状態のブレーキペダル6の踏み離しによる車両1のダイブ姿勢からの戻りを抑制するようにサスペンション31を制御する。
【0028】
ここで、走行中の車両1がノーズダイブ(前傾)やスクウォート(後傾)する荷重変化のことをピッチングという。
図3は、ブレーキペダル6の踏み込みによりダイブ姿勢が生じること、ブレーキペダル6からの踏み離しによりダイブ姿勢からの戻りが生じることを説明するための図である。
【0029】
本実施形態では、マスターシリンダ圧の変化量と車輪速度とからこのようなピッチングを抑制する制御を行っている。すなわち、本実施形態では、マスターシリンダ圧の変化量と車輪速度から、ブレーキペダル6を踏み込むことによりダイブ姿勢が生じたことを判断し、ダイブ姿勢を抑制する制御を行うとともに、マスターシリンダ圧の変化量と車輪速度から、ブレーキペダル6の踏み離しによりダイブ姿勢の戻りが生じたことを判断し、当該ダイブ姿勢からの戻りを抑制する制御を行っている。
【0030】
図4は、ブレーキ操作によるマスターシリンダ圧と車両1に加わる荷重との関係を示すグラフである。
図4において、横軸がマスターシリンダ圧であり、縦軸が荷重である。
図4に示すように、マスターシリンダ圧と荷重とは比例関係にあり、また温度(例えば、T3>T2>T1)によって異なる傾きを有している。これはブレーキオイルの温度変化により、流速が変化するためである。そして、ブレーキオイルの温度とマスターシリンダ圧の変化量とにより、車両1の左右を軸とした上下方向の回転にかかる(換言すれば、前傾させる)荷重を特定できる。なお、本実施形態では、ブレーキオイルの温度は、説明を容易にするために省略し、マスターシリンダ圧の変化量により、車両1の左右を軸とした上下方向の回転にかかる荷重、換言すればピッチングの発生を判断する例とする。以下、かかるピッチングの制御を行うための構成の詳細について説明する。なお、本実施形態と異なるが、ピッチングの発生を、マスターシリンダ圧の変化量とブレーキオイルの温度との組み合わせにより判断しても良い。
【0031】
図2に戻り、踏み込み保持タイマ143および踏み離し保持タイマ144は、時間を計時するために制御部142によって設定されるものである。本実施形態では、後述するように、制御部142がサスペンション31のショックアブソーバ32の踏み込み段数を踏み込みステップに設定した(換言すれば、急ブレーキが行われた)時点、または踏み込み調整ステップを設定した(換言すれば、通常のブレーキ操作が行われた)時点で、ステップに応じた踏み込み保持タイマ143が設定される。踏み込み保持タイマ143は、設定後にダウンカウントされて、ステップに応じた所定時間が経過すると0になる。
【0032】
また、制御部142がサスペンション31のショックアブソーバ32の踏み離し段数を踏み離しステップに設定した時点、または踏み離し調整ステップを設定した時点で、ステップに応じた踏み離し保持タイマ144が設定される。踏み離し保持タイマ144は、設定後にダウンカウントされて、ステップに応じた所定時間が経過すると0になる。
【0033】
判断部141は、車輪速センサ22で検出した車両1の車輪速度が所定の揺り返し車輪速閾値より大きいか否かを判断する。また、判断部141は、車両1のダイブ姿勢を抑制する制御を行う際に、マスターシリンダ圧センサ28で検出したマスターシリンダ圧の変化量が所定の第1閾値以上であるか否か、マスターシリンダ圧の変化量が第1調整閾値以上であるか否かを判断する。なお、揺り返し車輪速閾値は、車両1のピッチングが起こる可能性のある車輪速度として予め設定された閾値とする。
【0034】
ここで、判断部141は、車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、マスターシリンダ圧の変化量が第1閾値以上である場合には、ドライバーが急ブレーキの操作のため、ブレーキペダル6を踏み込み、車両1を急激に前傾させる荷重が作用すると判断する。
【0035】
第1調整閾値は第1閾値より小さい値である。判断部141は、車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、マスターシリンダ圧の変化量が第1調整閾値以上で第1閾値未満である場合には、ドライバーが通常のブレーキ操作のため、ブレーキペダル6を踏み込み、車両1を前傾させる荷重が作用すると判断する。
【0036】
また、判断部141は、車両1のダイブ姿勢からの戻りを抑制する制御を行う際に、マスターシリンダ圧センサ28により検出したマスターシリンダ圧の変化量が所定の第2閾値以下であるか否か、マスターシリンダ圧の変化量が第2調整閾値以下であるか否かを判断する。
【0037】
ここで、判断部141は、車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、マスターシリンダ圧の変化量が第2閾値以下である場合には、ドライバーがブレーキ操作のためブレーキペダル6を踏み込んだ状態から、急激な踏み離しを行い、急激に車両1にダイブ姿勢から戻る荷重が作用すると判断する。
【0038】
第2調整閾値は第2閾値より大きい値である。判断部141は、車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、マスターシリンダ圧の変化量が第2調整閾値以下で第2閾値より大きい場合には、ドライバーがブレーキ操作のためブレーキペダル6を踏み込んだ状態から、通常の踏み離しを行い、車両1にダイブ姿勢から戻る荷重が作用すると判断する。
【0039】
判断部141によって、車両1の車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、かつマスターシリンダ圧の変化量が第1閾値以上であると判断された場合に、ドライバーが急ブレーキの操作のため、急激な車両1の前傾(ダイブ姿勢)が発生する可能性がある。
【0040】
このため、このような場合には、制御部142は、サスペンション31のショックアブソーバ32の踏み込み段数を、急激な車両1の前傾姿勢に応じた大きさの減衰力をサスペンション31に作用させるステップ、すなわち、マスターシリンダ圧の上記変化量に応じた大きさの減衰力をサスペンション31に作用させるステップに設定することにより、車両1が急激にダイブ姿勢となることを抑制する。本実施形態では、急激な車両1の前傾姿勢に応じた大きさの減衰力として、最も大きい減衰力をサスペンション31に作用させるように踏み込み段数を踏み込みステップに設定している。
【0041】
ただし、車両1の車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、かつマスターシリンダ圧の変化量が第1閾値以上であると判断された場合に、踏み込み段数はかかる踏み込みステップに設定されることに限定されるものではなく、車両1が通常走行時におけるサスペンション31に作用する減衰力である基準減衰力より大きく、急激な車両のダイブ姿勢を抑制可能な大きさの減衰力に対応するステップであればよい。
【0042】
また、制御部142は、判断部142によって、車両1の車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、かつマスターシリンダ圧の変化量が第1調整閾値以上で第1閾値未満である場合に、ショックアブソーバ32の踏み込み段数を、踏み込みステップに対応する減衰力より小さく、上記基準減衰力より大きく、かつ車両1の前傾姿勢に応じた(マスターシリンダ圧の上記変化量に基づいた)大きさの減衰力をサスペンション31に作用させる踏み込み調整ステップに設定することにより、車両1のダイブ姿勢を抑制する制御を行う。
【0043】
制御部142は、ショックアブソーバ32の踏み込み段数を踏み込みステップにした時点から、踏み込み保持タイマ143が0になった所定時間経過後に、ショックアブソーバ32の踏み込み段数を、サスペンション31に基準減衰力よりも小さい減衰力を作用させるステップに設定する。本実施形態では、このようなステップとして、最も小さい減衰力をサスペンション31に作用させるための最もソフトな状態であるフルソフトのステップに設定する。ただし、これに限定されるものでなく、サスペンション31に基準減衰力よりも小さい減衰力を作用させるステップであればよい。
【0044】
ショックアブソーバ32の踏み込み段数が基準減衰力より大きい減衰力に対応した踏み込みステップのままであると、走行中の車両1は路面の凹凸による振動をサスペンション31で吸収することができない。このため、ショックアブソーバ32の踏み込み段数を踏み込みステップにした時点から所定時間経過後は、ショックアブソーバ32の踏み込み段数を、基準減衰力より小さい減衰力をサスペンション31に作用させるステップに設定して、車両1を安定させている。
【0045】
判断部141によって、車両1の車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、かつマスターシリンダ圧の変化量が第2閾値以下であると判断された場合には、ブレーキペダル6を踏み込んだ状態から急激な踏み離しを行ったため、車両1がダイブ姿勢から急激に戻る可能性がある。
【0046】
このため、このような場合には、制御部142は、サスペンション31のショックアブソーバ32の踏み離し段数を、車両1のダイブ姿勢からの急激な戻りに応じた大きさの減衰力をサスペンション31に作用させるステップ、すなわち、マスターシリンダ圧の上記変化量に応じた大きさの減衰力をサスペンション31に作用させるステップに設定にすることにより、車両1のダイブ姿勢の急激な戻りを抑制する制御を行う。本実施形態では、車両1のダイブ姿勢からの急激な戻りに応じた大きさの減衰力として、最も大きい減衰力をサスペンション31に作用させるように踏み離し段数を踏み離しステップに設定している。
【0047】
ただし、車両1の車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、かつマスターシリンダ圧の変化量が第2閾値以下であると判断された場合に、踏み離し段数はかかる踏み離しステップに設定されることに限定されるものではなく、基準減衰力より大きく、車両のダイブ姿勢からの急激な戻りを抑制可能な大きさの減衰力に対応するステップであればよい。
【0048】
制御部142は、さらに、判断部141によって、マスターシリンダ圧の変化量が第2調整閾値以下で第2閾値より大きいと判断された場合に、ショックアブソーバ32の踏み離し段数を、踏み離しステップに対応する減衰力より小さく、上記基準減衰力より大きく、かつ車両1のダイブ姿勢からの戻りに応じた(すなわち、マスターシリンダ圧の上記変化量に基づいた)大きさの減衰力をサスペンション31に作用させる踏み離し調整ステップに設定することにより、車両1のダイブ姿勢の戻りを抑制する制御を行う。
【0049】
制御部142は、ショックアブソーバ32を第1ハード状態にした時点から、踏み離し保持タイマ144で計時された所定時間経過後に、ショックアブソーバ32の踏み離し段数を、サスペンション31に基準減衰力よりも小さい減衰力を作用させるステップに設定する。本実施形態では、このようなステップとして、最も小さい減衰力をサスペンション31に作用させるための最もソフトな状態であるフルソフトのステップに設定する。ただし、これに限定されるものでなく、サスペンション31に基準減衰力よりも小さい減衰力を作用させるステップであればよい。
【0050】
この場合においても、ショックアブソーバ32の踏み込み段数が基準減衰力より大きい減衰力に対応した踏み離しステップのままであるため、走行中の車両1は路面の凹凸による振動をサスペンション31で吸収することができない。このため、ショックアブソーバ32の踏み離し段数を踏み離しステップにした時点から所定時間経過後は、ショックアブソーバ32の踏み離し段数を、基準減衰力より小さい減衰力をサスペンション31に作用させるステップに設定して、車両1を安定させている。
【0051】
次に、以上のように構成された本実施形態の車両制御装置によるピッチング制御処理について説明する。まず、車両1のダイブ姿勢の制御処理について説明する。
図5は、実施形態1のダイブ姿勢の制御処理の手順を示すフローチャートである。なお、
図5以降の図では、マスターシリンダ圧をM/C圧と記述している。
図5に示すダイブ姿勢の制御処理は一定時間ごとに繰り返し実行される。なお、車両1の起動時には、踏み込み優先フラグの初期値として、オフが設定される。
【0052】
まず、判断部141は、車輪速センサ22から得た車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、かつ、マスターシリンダ圧の変化量が第1閾値以上であるか否かを判断する(ステップS11)。そして、車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、かつマスターシリンダ圧の変化量が第1閾値以上である場合には(ステップS11:Yes)、制御部142は、急ブレーキの操作でブレーキペダル6が踏み込まれ、車両1を急激に前傾させる荷重が車両1にかかると判断し、ショックアブソーバ32の踏み込み段数を、急激なダイブ姿勢に応じた(すなわち、マスターシリンダ圧の変化量に応じた)減衰力をサスペンション31に作用させる踏み込みステップに設定するとともに、踏み込み保持タイマ143をセットして計時を開始し、さらに、踏み込み優先フラグをオンにする(ステップS12)。これにより、車両1が急激にダイブ姿勢となることを抑制される。
【0053】
ここで、踏み込み優先フラグは、急ブレーキのためのブレーキペダル6の踏み込んだ場合にオンとなる。そして、踏み込み優先フラグがオンになった場合には、ステップS13において、通常のブレーキ操作によるブレーキペダル6の踏み込みがあったという判断はされず、ステップS15において、急ブレーキ操作により踏み込み段数が踏み込みステップに設定された時点からの所定時間経過が判断されることになる。
【0054】
ステップS11で、車輪速度が揺り返し車輪速閾値以下であるか、またはマスターシリンダ圧の変化量が第1閾値未満である場合には(ステップS11:No)、判断部141は、踏み込み優先フラグがオフであり、かつ、車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、かつ、マスターシリンダ圧の変化量が第1調整閾値以上であるか否かを判断する(ステップS13)。
【0055】
そして、踏み込み優先フラグがオフ、かつ、車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、かつ、マスターシリンダ圧の変化量が第1調整閾値以上である場合には(ステップS13:Yes)、制御部142は、通常のブレーキ操作でブレーキペダル6が踏み込まれ、車両1を前傾させる荷重が車両1にかかると判断し、ショックアブソーバ32の踏み込み段数を、踏み込みステップに対応する減衰力より小さく、上記基準減衰力より大きく、かつ車両1の前傾姿勢に応じた(すなわち、マスターシリンダ圧の上記変化量に基づいた)大きさの減衰力をサスペンション31に作用させる踏み込み調整ステップに設定するとともに、踏み込み保持タイマ143をセットして計時を開始し、さらに、踏み込み優先フラグをオフにする(ステップS14)。これにより、車両1がダイブ姿勢となることを抑制される。
【0056】
ステップS13において、踏み込み優先フラグがオン、または、車輪速度が揺り返し車輪速閾値以下、あるいは、マスターシリンダ圧の変化量が第1調整閾値未満である場合には(ステップS13:No)、判断部141は、踏み込み保持タイマ143が0より大きいか否かを判断することにより、所定時間の経過前か否かを判断する(ステップS15)。
【0057】
そして、踏み込み保持タイマ143が0より大きい場合、すなわち、所定時間の経過前である場合には(ステップS15:Yes)、制御部142は、踏み込み保持タイマ143をデクリメントし、ショックアブソーバ32の踏み込み段数を維持し、踏み込み優先フラグの設定を維持する(ステップS16)。
【0058】
一方、ステップS15において、踏み込み保持タイマ143が0である場合、すなわち、所定時間が経過した場合には(ステップS15:No)、制御部142は、踏み込み保持タイマ143を0にクリアし、ショックアブソーバ32の踏み込み段数を、サスペンション31に基準減衰力よりも小さい減衰力を作用させるフルソフトのステップに設定し、踏み込み優先フラグをオフにする(ステップS17)。
【0059】
ここで、上記のステップS11からS17までの処理は一定時間ごとに繰り返し実行される。このため、ステップS12で急ブレーキ操作によるダイブ姿勢が抑制された場合、踏み込み優先フラグがオンとなるため、次の回のダイブ姿勢の制御処理の実行で、ステップS11、S13、S15と進み、所定時間経過後にステップS17が実行されて、ショックアブソーバ32の踏み込み段数がフルソフトに設定されることになる。
【0060】
次に、車両1のダイブ姿勢からの戻りの制御処理について説明する。
図6は、実施形態1のダイブ姿勢からの戻りの制御処理の手順を示すフローチャートである。
図6に示すダイブ姿勢の戻りの制御処理は一定時間ごとに繰り返し実行される。なお、
図6に示すフローチャートは、
図5で示したダイブ姿勢の抑制が行われた後に、処理が開始される等が考えられる。さらに、車両1の起動時には、踏み離し優先フラグの初期値として、オフが設定される。
【0061】
まず、判断部141は、車輪速センサ22から得た車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、かつ、マスターシリンダ圧の変化量が第2閾値以下であるか否かを判断する(ステップS21)。そして、車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、かつマスターシリンダ圧が第2閾値以下である場合には(ステップS21:Yes)、制御部142は、車両1をダイブ姿勢から急激に戻すような荷重が車両1に作用すると判断し、ショックアブソーバ32の踏み離し段数を、車両1のダイブ姿勢からの急激な戻りに応じた(すなわち、マスターシリンダ圧の上記変化量に応じた)大きさの減衰力をサスペンション31に作用させる踏み離しステップに設定するとともに、踏み離し保持タイマ144をセットして計時を開始し、さらに、踏み離し優先フラグをオンにする(ステップS22)。これにより、車両1のダイブ姿勢からの急激な戻りが抑制される。
【0062】
ここで、踏み離し優先フラグは、ブレーキペダル6の急激な踏み離しがあった場合にオンとなる。そして、踏み離し優先フラグがオンになった場合には、ステップS23において、ブレーキペダル6の通常の踏み離しがあったという判断はされず、ステップS25において、ブレーキペダル6の急激な踏み離しにより踏み離し段数が踏み離しステップに設定された時点からの所定時間経過が判断されることになる。
【0063】
ステップS21で、車輪速度が揺り返し車輪速閾値以下であるか、またはマスターシリンダ圧の変化量が第2閾値より大きい場合には(ステップS21:No)、判断部141は、踏み離し優先フラグがオフであり、かつ、車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、かつ、マスターシリンダ圧の変化量が第2調整閾値以下であるか否かを判断する(ステップS23)。
【0064】
そして、踏み離し優先フラグがオフ、かつ、車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、かつ、マスターシリンダ圧の変化量が第2調整閾値以下である場合には(ステップS23:Yes)、制御部142は、車両1をダイブ姿勢から戻すような荷重が車両1に作用すると判断し、ショックアブソーバ32の踏み離し段数を、踏み離しステップに対応する減衰力より小さく、上記基準減衰力より大きく、かつ車両1のダイブ姿勢からの戻りに応じた(すなわち、マスターシリンダ圧の上記変化量に基づいた)大きさの減衰力をサスペンション31に作用させる踏み離し調整ステップに設定するとともに、踏み離し保持タイマ144をセットして計時を開始し、さらに、踏み離し優先フラグをオフにする(ステップS24)。これにより、車両1のダイブ姿勢からの戻りが抑制される。
【0065】
ステップS23において、踏み離し優先フラグがオン、または、車輪速度が揺り返し車輪速閾値以下、あるいは、マスターシリンダ圧の変化量が第2調整閾値より大きい場合には(ステップS23:No)、判断部141は、踏み離し保持タイマ144が0より大きいか否かを判断することにより、所定時間の経過前か否かを判断する(ステップS25)。
【0066】
そして、踏み離し保持タイマ144が0より大きい場合、すなわち、所定時間の経過前である場合には(ステップS25:Yes)、制御部142は、踏み離し保持タイマ144をデクリメントし、ショックアブソーバ32の踏み離し段数を維持し、踏み離し優先フラグの設定を維持する(ステップS26)。
【0067】
一方、ステップS25において、踏み離し保持タイマ144が0である場合、すなわち、所定時間が経過した場合には(ステップS25:No)、制御部142は、踏み離し保持タイマ144を0にクリアし、ショックアブソーバ32の踏み離し段数を、サスペンション31に基準減衰力よりも小さい減衰力を作用させるフルソフトのステップに設定し、踏み離し優先フラグをオフにする(ステップS27)。
【0068】
ここで、上記のステップS21からS27までの処理は一定時間ごとに繰り返し実行される。このため、ステップS22でダイブ姿勢の急激な戻りが抑制された場合、踏み離し優先フラグがオンとなるため、次の回のダイブ姿勢の戻りの制御処理の実行で、ステップS21、S23、S25と進み、所定時間経過後にステップS27が実行されて、ショックアブソーバ32の踏み離し段数がフルソフトに設定されることになる。
【0069】
図7は、ブレーキペダル6の踏み込み時における車両1の前後加速度とピッチ角との関係を示すグラフである。
図7において、横軸は車両1の前後加速度であり、縦軸は車両1のピッチ角(ピッチ方向の角度)である。
図7において、点線が本実施形態のダイブ姿勢の制御を行わない場合の前後加速度とピッチ角の関係を示し、実線が本実施形態のダイブ姿勢の制御を行った場合の前後加速度とピッチ角の関係を示す。
図7に示すように、ブレーキペダル6を踏み込んだことにより前後加速度が増加した場合、本実施形態のダイブ姿勢の制御を行わない場合には車両1のピッチ角も増加し、大きなダイブ姿勢となる。これに対し、
図7に示すように、ブレーキペダル6を踏み込んだことにより前後加速度が増加した場合でも、本実施形態のダイブ姿勢の制御を行った場合には、車両1のピッチ角はそれほど増加せず、車両1の安定性が維持される。
【0070】
図8は、ブレーキペダル6の踏み離し時における車両1の前後加速度とピッチ角との関係を示すグラフである。
図8において、横軸は車両1の前後加速度であり、縦軸は車両1のピッチ角である。
図8において、点線が本実施形態のダイブ姿勢の戻りの制御を行わない場合の前後加速度とピッチ角の関係を示し、実線が本実施形態のダイブ姿勢の戻りの制御を行った場合の前後加速度とピッチ角の関係を示す。
図8に示すように、ブレーキペダル6を踏み離すことにより前後加速度が増加した場合、本実施形態のダイブ姿勢の戻りの制御を行わない場合には車両1のピッチ角も増加し、ダイブ姿勢が急激に変化する。これに対し、
図8に示すように、ブレーキペダル6を踏み離すことにより前後加速度が増加した場合でも、本実施形態のダイブ姿勢の戻りの制御を行った場合には、車両1のピッチ角はそれほど増加せず、車両1の安定性が維持される。
【0071】
このように本実施形態では、ブレーキペダル6の踏み込み時における車両1のダイブ姿勢の他、ブレーキペダル6の踏み離しによるダイブ姿勢からの戻りの制御を行っているので、ダイブ姿勢やダイブ姿勢からの戻りを効果的に抑制して車両1の安定性をより向上させて、これにより、ドライバーの乗り心地を向上させることができる。
【0072】
また、本実施形態では、ブレーキペダル6の踏み込みや踏み離しによる車両1への荷重の有無を、マスターシリンダ圧の変化量により判断しているので、多種多様なセンサを設ける必要がなくなり、検知部の数を低減して簡易な構成とすることができる。
【0073】
(変形例)
実施形態1では、ドライバーによるブレーキペダル6の踏み込みや踏み離しを、マスターシリンダ圧の変化量により判断していたが、さらに、マスターシリンダ圧の大きさにより判断するように構成してもよい。
【0074】
図9は、変形例のダイブ姿勢の制御処理の手順を示すフローチャートである。本変形例では、実施形態1のダイブ姿勢の制御処理の手順におけるステップS11に相当するステップS31において、判断部141は、車輪速センサ22から得た車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、かつ、マスターシリンダ圧の変化量が第1閾値以上であるか否か、または、マスターシリンダ圧が第3閾値以上であり、かつ前回のマスターシリンダ圧が第3閾値未満であるか否かを判断する(ステップS31)。
【0075】
そして、車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、かつ、マスターシリンダ圧の変化量が第1閾値以上である場合、または、マスターシリンダ圧が第3閾値以上であり、かつ前回のマスターシリンダ圧が第3閾値未満である場合には(ステップS31:Yes)、急ブレーキの操作でブレーキペダル6が踏み込まれ、車両1を急激に前傾させる荷重が車両1にかかると判断し、制御部142は、実施形態1と同様に、踏み込み保持タイマ143をセットして計時を開始し、ショックアブソーバ32の踏み込み段数を、急激な前傾姿勢に応じた(すなわち、マスターシリンダ圧の変化量に応じた)減衰力をサスペンション31に作用させる踏み込みステップに設定し、さらに、踏み込み優先フラグをオンにする(ステップS12)。
【0076】
また、本変形例では、実施形態1のダイブ姿勢の制御処理の手順におけるステップS13に相当するステップS32において、判断部141は、踏み込み優先フラグがオフであり、かつ、車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、かつ、マスターシリンダ圧の変化量が第1調整閾値以上であるか否か、または、マスターシリンダ圧が第3閾値より小さい第3調整閾値以上であり、かつ前回のマスターシリンダ圧が第3調整閾値未満であるか否かを判断する(ステップS32)。
【0077】
そして、踏み込み優先フラグがオフ、かつ、車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、かつ、マスターシリンダ圧の変化量が第1調整閾値以上である場合、または、マスターシリンダ圧が第3調整閾値以上であり、かつ前回のマスターシリンダ圧が第3調整閾値未満である場合には(ステップS32:Yes)、通常のブレーキ操作でブレーキペダル6が踏み込まれ、車両1を前傾させる荷重が車両1にかかると判断し、制御部142は、実施形態1と同様に、踏み込み保持タイマ143をセットして計時を開始し、ショックアブソーバ32の踏み込み段数を、踏み込みステップに対応する減衰力より小さく、上記基準減衰力より大きく、かつ車両1の前傾姿勢に応じた(すなわち、マスターシリンダ圧の上記変化量に基づいた)大きさの減衰力をサスペンション31に作用させる踏み込み調整ステップに設定し、さらに、踏み込み優先フラグをオフにする(ステップS14)。
【0078】
ダイブ姿勢の制御処理において、上記ステップS31,S33以外の処理については、実施形態1と同様である。
【0079】
図10は、変形例のダイブ姿勢の戻りの制御処理の手順を示すフローチャートである。本変形例では、実施形態1のダイブ姿勢の戻りの制御処理の手順におけるステップS21に相当するステップS41において、判断部141は、車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、かつ、マスターシリンダ圧の変化量が第2閾値以下であるか否か、または、マスターシリンダ圧が第4閾値以下であり、かつ前回のマスターシリンダ圧が第4閾値より大きいか否かを判断する(ステップS41)。
【0080】
そして、車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、かつマスターシリンダ圧が第2閾値以下である場合、または、マスターシリンダ圧が第4閾値以下であり、かつ前回のマスターシリンダ圧が第4閾値より大きいある場合には(ステップS41:Yes)、制御部142は、車両1をダイブ姿勢から急激に戻すような荷重が車両1に作用すると判断し、実施形態1と同様に、踏み離し保持タイマ144をセットして計時を開始し、ショックアブソーバ32の踏み離し段数を、車両1のダイブ姿勢からの急激な戻りに応じた(すなわち、マスターシリンダ圧の上記変化量に応じた)大きさの減衰力をサスペンション31に作用させる踏み離しステップに設定し、さらに、踏み離し優先フラグをオンにする(ステップS22)。
【0081】
本変形例では、実施形態1のダイブ姿勢の戻りの制御処理の手順におけるステップS23に相当するステップS43において、判断部141は、踏み離し優先フラグがオフであり、かつ、車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、かつ、マスターシリンダ圧の変化量が第2調整閾値以下であるか否か、または、マスターシリンダ圧が第4閾値より大きい第4調整閾値以下であり、かつ前回のマスターシリンダ圧が第4調整閾値より大きいか否かを判断する(ステップS43)。
【0082】
そして、踏み離し優先フラグがオフ、かつ、車輪速度が揺り返し車輪速閾値より大きく、かつ、マスターシリンダ圧の変化量が第2調整閾値以下である場合、または、マスターシリンダ圧が第4調整閾値以下であり、かつ前回のマスターシリンダ圧が第4調整閾値より大きい場合には(ステップS43:Yes)、制御部142は、車両1をダイブ姿勢から戻すような荷重が車両1に作用すると判断し、踏み離し保持タイマ144をセットして計時を開始し、ショックアブソーバ32の踏み離し段数を、踏み離しステップに対応する減衰力より小さく、上記基準減衰力より大きく、かつ車両1のダイブ姿勢からの戻りに応じた(すなわち、マスターシリンダ圧の上記変化量に基づいた)大きさの減衰力をサスペンション31に作用させる踏み離し調整ステップに設定し、さらに、踏み離し優先フラグをオフにする(ステップS24)。
【0083】
ダイブ姿勢の戻りの制御処理において、上記ステップS41,S43以外の処理については、実施形態1と同様である。
【0084】
本変形例では、ドライバーによるブレーキペダル6の踏み込みや踏み離しによる車両1への荷重の有無を、マスターシリンダ圧の変化量の他、さらに、マスターシリンダ圧の大きさにより判断しているので、より正確に、ダイブ姿勢やダイブ姿勢からの戻りを効果的に抑制して車両1の安定性を維持し、ドライバーの乗り心地をより向上させることができるとともに、検知部の数を低減して簡易な構成とすることができる。
【0085】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。