特許第6236910号(P6236910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236910
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】コイル
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/00 20060101AFI20171120BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   H01F17/00 E
   H01F41/04 C
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-131572(P2013-131572)
(22)【出願日】2013年6月24日
(65)【公開番号】特開2015-5695(P2015-5695A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2016年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104204
【弁理士】
【氏名又は名称】峯岸 武司
(72)【発明者】
【氏名】穂坂 直也
(72)【発明者】
【氏名】工藤 和秀
(72)【発明者】
【氏名】大室 雅司
【審査官】 右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−319049(JP,A)
【文献】 特開2010−129858(JP,A)
【文献】 実開平06−044113(JP,U)
【文献】 特開平08−236361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00
H01F 41/04
H05K 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向において所定のパターンで振幅し、長さ方向において前記パターンが所定回数周期的に繰り返される単一の導体路が電気絶縁性を有するシート上に形成され、厚み方向において、前記パターンが繰り返される周期で前記シートが曲げられて、前記導体路が巻かれたコイルであって、
前記シートの折り曲がりに嵌合する凹凸形状を一面に有する基材を備え、
前記導体路は、前記シートの連続する2つの面に形成される部分を1周期として前記パターンを繰り返し、その巻き始めおよび巻き終わりの前記シート両端部上に電極パットを備え、
前記シートは、前記長さ方向において上り斜面と下り斜面とが交互に現れる、連続する2つの前記面を1周期とする周期で折り曲げられ、前記基材の両側部を覆って前記基材の底面側に両端部が曲げ返され、内側に折り返された両端部上の前記電極パットを前記基材の底面に露出させて曲げられる
ことを特徴とするコイル。
【請求項2】
幅方向において所定のパターンで振幅し、長さ方向において前記パターンが所定回数周期的に繰り返される単一の導体路が電気絶縁性を有するシート上に形成され、厚み方向において、前記パターンが繰り返される周期で前記シートが曲げられて、前記導体路が巻かれたコイルであって、
前記シートは、前記長さ方向において上り斜面と下り斜面とが交互に現れる、連続する2つの面を1周期とする周期で折り曲げられ、
前記導体路は、連続する2つの前記面に形成される部分を1周期として前記パターンを繰り返し、
前記シートの周囲を囲む基材、または、前記シートの折り曲がりに嵌合する凹凸形状を一面に有する基材、または、前記シートの曲がりに下方から嵌合する凹凸形状を一面に有する下側基材および前記シートの曲がりに上方から嵌合する凹凸形状を一面に有する上側基材からなる基材と、
前記基材の側面に露出する前記導体路の巻き始めおよび巻き終わりに電気的に接続され、前記基材の側面一面に形成される外部電極を備える
ことを特徴とするコイル。
【請求項3】
前記基材は、非磁性体または磁性体からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体路が巻かれて構成されるコイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来この種のコイルとしては、例えば、特許文献1に開示された折り曲げコイルがある。この折り曲げコイルは、電気絶縁性および可撓性を有したシート状基板が曲げ軸で折り曲げられて構成される。シート状基板の片面には、曲げ軸に対して、1つのパターンの端部の曲げ軸方向の位置と、隣接するパターンの別の端部の曲げ軸方向の位置とが一致するパターンで、多数の導電体が一定の間隔をおいて形成されている。このシート状基板が、導電体が形成された面を内側にして曲げ軸で曲げられ、互いに重なる導電体の端部が半田からなる接合材によって接合されることで、連続した導体路が形成されてヘリカル型巻線コイルが構成される。
【0003】
また、従来、この種のコイルとして、例えば、特許文献2に開示されたボビンコイルもある。このボビンコイルは、絶縁フィルムが円筒状に湾曲されて構成される。絶縁フィルム上には、その対向する2辺に沿って複数の導体の各両端が配置され、かつ、一定のピッチで互いに隔たるように配設されて、導体列が形成されている。この絶縁フィルムが、導体列が略螺旋状に一列に繋がるように対向する2辺が合わされて円筒状に湾曲され、一方の辺に位置する導体の端部が他方の辺に位置する隣列する導体の端部に電気的に接続されることで、空芯コイル体が構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−265813号公報
【特許文献2】特開2002−93649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の特許文献1および特許文献2に開示されたいずれのコイルにおいても、複数の導電体を接合材によって接合することで、巻線状の導体路を形成している。このため、上記従来のいずれのコイルも、導電体を接合材によって接合する工程が必須となり、製品価格の低廉化を図ることができない。また、導電体の接続部が多数存在するため、コイルの製品としての接続部信頼性の低下を招く可能性が高い。従って、上記従来の各コイルは、導電体の一つ一つの各接続部の接続信頼性を向上させる構造もしくは製法がさらに必要となり、製品価格の上昇は免れ得ない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
幅方向において所定のパターンで振幅し、長さ方向において前記パターンが所定回数周期的に繰り返される単一の導体路が電気絶縁性を有するシート上に形成され、厚み方向において、前記パターンが繰り返される周期でシートが曲げられて、導体路が巻かれたコイルあって、
シートの折り曲がりに嵌合する凹凸形状を一面に有する基材を備え、
導体路が、シートの連続する2つの面に形成される部分を1周期として前記パターンを繰り返し、その巻き始めおよび巻き終わりのシート両端部上に電極パットを備え、
シートが、長さ方向において上り斜面と下り斜面とが交互に現れる、連続する2つの面を1周期とする周期で折り曲げられ、基材の両側部を覆って基材の底面側に両端部が曲げ返され、内側に折り返された両端部上の電極パットを基材の底面に露出させて曲げられる
ことを特徴とするコイルを構成した。
【0007】
本構成によれば、導体路は、長さ方向に進行するのに連れ、コイルの厚み方向において、折り曲げられたシートの上り斜面への上昇と下り斜面の下降とを交互に繰り返し、幅方向において、所定のパターンで振幅して、巻き構造を呈する。従って、単一の導体路が形成されたシートが、連続する2つの面を1周期とする周期で単に折り曲げられことで、シート上に形成された導体路が巻かれて、コイルが形成される。従って、従来のコイルのように、複数の導電体を接続してコイルを構成する導体路を形成する必要がなくなる。このため、導電体の接続部を備えること無く、巻線型コイルに似た巻き構造のコイルを形成することが可能になる。この結果、導電体を接合する工程が不要となってコイル製品価格の低廉化を図りながら、接続部信頼性の低下を招くことのない、巻線型コイルに似た巻き構造のコイルを簡単に提供することができる。
【0008】
また、シートが、連続する2つの面を1周期とする周期で鋸歯状に折り曲げられので、連続する4つの面を1周期とする周期で矩形波状に折り曲げられ、1折り曲げ周期で導体路が1周期の振幅を行う場合に比較して、少ない回数で1巻き当たりの折り曲げを行える。このため、同外形寸法のコイルにおいて、より多くの巻き数を稼ぐことができるので、大きなインダクタンスを有する巻き構造コイルを提供することができる。また、同じ巻き数のコイルにおいて、シートの折り曲げ回数を少なくすることができるので、シートの信頼性の向上を期待することができる。
【0009】
また、導体路の幅を広くすることで、斜面上に形成された導体路が厚み方向に占める高さは大きくなる。このため、巻き構造コイルの内径が小さくなってコイル内径部の断面積が小さくなり、コイル内径部を磁束が通り難くなるので、コイルのQ値は低くなる。しかし、コイルの直流抵抗値は低くなるので、大電流を流せる巻き構造コイルが提供される。他方、導体路の幅を狭くすることで、斜面上に形成された導体路が厚み方向に占める高さは小さくなる。このため、巻き構造コイルの内径および内径部断面積の大きさを確保することができ、コイル内径部を磁束が通り易くなるので、高いQ値を持つ巻き構造コイルが提供される。また、幅方向における導体路の振幅高さを大きくすることで、巻き構造コイルの内径部の断面積を大きくすることができる。このため、コイル内径部を磁束がさらに通り易くなるので、より高いQ値を持つ巻き構造コイルが提供される。
【0021】
本構成によれば、シートの曲げ形状が、シートの曲がりに嵌合する凹凸形状を一面に有する基材によって保たれ、強度が確保されるので、コイルの製品取り扱い性が向上する
【0023】
本構成によれば、導体路の巻き始めおよび巻き終わりに導体路に一体に形成された電極パットが基材の底面に露出し、外部電極を構成する。このため、導電体の接続部を全く有すること無く、コイルに外部電極を備えることができ、外部電極を備えた巻き構造のコイルを安価にかつ接続信頼性高く提供することができる。また、基材の両側部で導体路が曲げ返されることで、コイルの長さ方向に外部電極形成のための寸法を取る必要がなくなり、コイルの長さ方向を全て巻線形成に使用することができる。このため、同外形寸法および同構成材料のコイルにおけるインダクタンス取得効率を上げることができる。
【0030】
また、本発明は、
幅方向において所定のパターンで振幅し、長さ方向において前記パターンが所定回数周期的に繰り返される単一の導体路が電気絶縁性を有するシート上に形成され、厚み方向において、前記パターンが繰り返される周期でシートが曲げられて、導体路が巻かれたコイルであって、
シートが、長さ方向において上り斜面と下り斜面とが交互に現れる、連続する2つの面を1周期とする周期で折り曲げられ、
導体路が、連続する2つの面に形成される部分を1周期として前記パターンを繰り返し、
シートの周囲を囲む基材、または、シートの折り曲がりに嵌合する凹凸形状を一面に有する基材、または、シートの曲がりに下方から嵌合する凹凸形状を一面に有する下側基材およびシートの曲がりに上方から嵌合する凹凸形状を一面に有する上側基材からなる基材と、
基材の側面に露出する導体路の巻き始めおよび巻き終わりに電気的に接続され、基材の側面一面に形成される外部電極を備える
ことを特徴とする。
【0031】
本構成によれば、基材の側面に露出する導体路の巻き始めおよび巻き終わりにだけ外部電極を接続することで、基材の側面一面に外部電極を備える巻き構造のコイルを構成することができる。このため、導電体の接続箇所が2箇所で、接続信頼性の低下を招くことの懸念が極めて少ない、外部電極を備えた巻き構造のコイルを安価にかつ接続信頼性高く提供することができる。
本構成によれば、シートの曲げ形状が基材によって保たれ、強度が確保されるので、コイルの製品取り扱い性が向上する。
本構成によれば、コイルの長さ方向に外部電極形成のための寸法を取る必要がなくなり、コイルの長さ方向を全て巻線形成に使用することができる。このため、同外形寸法および同構成材料のコイルにおけるインダクタンス取得効率を上げることができる。
【0032】
また、本発明は、基材が、非磁性体または磁性体からなることを特徴とする。
【0033】
本構成によれば、基材が非磁性体からなる場合には基材の透磁率が小さくなり、インダクタンスを低く抑えることができるので、高周波用途の巻き構造コイルが提供される。また、基材が磁性体からなる場合には基材の透磁率が大きくなるので、用いる磁性体の種類を選択することで、所望の大きさのインダクタンスを有する巻き構造コイルが得られる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、上記のように、導電体を接合する工程が不要となってコイル製品価格の低廉化を図りながら、接続部信頼性の低下を招くことのない、巻線型コイルに似た巻き構造のコイルを簡単に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の第1,第2,第3の各実施形態によるコイルの外観斜視図である。
図2図1に示すコイルを構成する下側基材および上側基材の外観斜視図である。
図3】(a)は、第1の実施形態によるコイルを構成するシートが折り曲げられる前の平面図、(b)は、(a)に示すシートが折り曲げられた状態の斜視図、(c)は、(a)に示すシートが別の態様で折り曲げられた状態の斜視図である。
図4】(a)は、第2の実施形態によるコイルを構成するシートが折り曲げられる前の平面図、(b)は、(a)に示すシートが折り曲げられた状態の斜視図、(c)は、(a)に示すシートが別の態様で折り曲げられた状態の斜視図である。
図5】(a)は、第3の実施形態によるコイルを構成するシートが折り曲げられる前の平面図、(b)は、(a)に示すシートが折り曲げられた状態の斜視図、(c)は、(a)に示すシートが別の態様で折り曲げられた状態の斜視図である。
図6】(a)は、各実施形態によるコイルと比較されるコイルを構成するシートが折り曲げられる前の平面図、(b)は、(a)に示すシートが折り曲げられた状態の斜視図である。
図7】各実施形態の変形例によるコイルの外観斜視図である。
図8】(a)は、各実施形態の他の変形例によるコイルの外部電極を備える前の外観斜視図、(b)は、(a)に示すコイルの外部電極を備えた外観斜視図である。
図9図8に示す構造のコイルが得られるマザー基板の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
次に、本発明のコイルおよびその製造方法の実施形態について、説明する。
【0041】
図1は、本発明の第1,第2,第3の各実施形態によるコイル1の外観斜視図である。
【0042】
コイル1は、非磁性体または磁性体からなる下側基材2および上側基材3と、電気絶縁性を有するシート4とを備えて構成されており、幅W,長さL,厚みtの直方体状をしている。下側基材2は、その外観が図2(b)に示され、底面2aに対向する一面2bに、シート4の鋸歯状の折れ曲がりに下方から嵌合する凹凸形状を、コイル1の巻き数分有する。上側基材3は、その外観が図2(a)に示され、上面3aに対向する一面3bに、シート4の鋸歯状の折れ曲がりに上方から嵌合する凹凸形状を、コイル1の巻き数分有する。また、上側基材3は、下側基材2の両側部2c,2cを覆って山面3c,3cが下側基材2の底面2aと並ぶ凸部3d,3dを両端部に備えている。コイル1の厚みtは、凸部3d,3dの高さ寸法になっている。下側基材2の長さは、これら凸部3d,3dの分、上側基材3の長さよりも短くなっている。シート4は、エポキシ、ポリイミドなどの樹脂や、セラミック等の材質からなり、これら下側基材2および上側基材3の各凹凸形状部間に挟まれて、設けられている。
【0043】
図3(a)は、本発明の第1の実施形態によるコイル1に用いられるシート4が折り曲げられる前の平面図である。シート4上には単一の導体路5Aが、銅、銀などの一般的な内部電極材料を用いて、印刷法やリソグラフィー技術などの一般的な電極形成法によって形成されている。この導体路5Aは、コイル1の幅W方向において、所定の正弦波状パターンで振幅し、コイル1の長さL方向において、この正弦波状パターンがコイル1の巻き数に相当する所定回数周期的に繰り返されて、ミアンダ形状に形成されている。このシート4が、厚みt方向において、正弦波状パターンが繰り返される1周期を1周期とする周期で、図3(b)の斜視図に示すように折り曲げられることで、導体路5Aは巻き線形状を呈する。
【0044】
シート4の上記の折り曲げは、図3(a)に一点鎖線で示す折り曲げ線を谷折り線v、破線で示す折り曲げ線を山折り線mとして行われ、長さL方向において上り斜面Uと下り斜面Dとが交互に現れる、連続する2つの面を1周期とする周期で折り曲げられる。また、導体路5Aは、シート4の折り曲げ線に交差して上り斜面Uおよび下り斜面Dに形成されており、正弦波振幅パターンの1周期の半周期部分が、上り斜面Uおよび下り斜面Dのそれぞれに形成されている。従って、導体路5Aは、長さL方向に進行するのに連れ、コイル1の厚みt方向において、シート4の上り斜面Uでの上昇と下り斜面Dでの下降とを交互に繰り返し、幅W方向において、上り斜面Uおよび下り斜面Dの各斜面で、1周期の半周期の正弦波をそれぞれ描くパターンで振幅して、巻き構造を呈する。
【0045】
導体路5Aは、その巻き始めおよび巻き終わりのシート4上に電極パット5a,5aを備える。シート4は、上側基材3の両端部に備えられた凸部3d,3dの山面3c,3cに、電極パット5a,5aが露出して折り曲げられる。このため、電極パット5a,5aの前の側面Sにおける導体路5Aは、直線状に形成されている。なお、この側面Sにおける導体路5Aは、必ずしも直線状に形成する必要は無く、上り斜面Uおよび下り斜面Dと同様に正弦波状に振幅させてもよい。
【0046】
図4(a)は、本発明の第2の実施形態によるコイル1に用いられるシート4が折り曲げられる前の平面図、同図(b)は同シート4を折り曲げた状態の斜視図である。なお、同図において図3と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0047】
第2の実施形態によるコイル1では、図4(a)に示すように、導体路5Bを、コイル1の幅W方向において、所定の矩形波状パターンで振幅させ、コイル1の長さL方向において、この矩形波状パターンをコイル1の巻き数に相当する所定回数周期的に繰り返して、ミアンダ形状に形成する。この際、導体路5Bは、幅W方向において、最も低い振幅高さhから最も高い振幅高さhまで振れ、その後、最も低い振幅高さhまで戻る振幅を1振幅とした場合、上り斜面Uまたは下り斜面Dのいずれか一方に、1振幅の所定割合部分が形成される。本例では上り斜面Uに1振幅の1/4部分が形成される。また、上り斜面Uまたは下り斜面Dのいずれか他方に、1振幅の残りの割合部分が形成される。本例では下り斜面Dに1振幅の3/4部分が形成される。
【0048】
この第2の実施形態によるコイル1でも、シート4は、図4(b)の斜視図に示すように第1の実施形態によるコイル1と同様にして折り曲げられる。導体路5Bは、長さL方向に進行するのに連れ、コイル1の厚みt方向において、シート4の上り斜面Uでの上昇と下り斜面Dでの下降とを交互に繰り返し、幅W向において、上り斜面Uで1振幅の1/4割合分を振幅し、下り斜面Dで1振幅の3/4割合分を振幅して、巻き構造を呈する。
【0049】
図5(a)は、本発明の第3の実施形態によるコイル1に用いられるシート4が折り曲げられる前の平面図、同図(b)は同シート4を折り曲げた状態の斜視図である。なお、同図において図3と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0050】
第3の実施形態によるコイル1では、図5(a)に示すように、導体路5Cを、コイル1の幅W方向において、シート4の谷折り線vおよび山折り線mに沿って形成された所定長の部分を有して、所定の矩形波状パターンで振幅させ、コイル1の長さL方向において、この矩形波状パターンをコイル1の巻き数に相当する所定回数周期的に繰り返して、ミアンダ形状に形成する。
【0051】
この第3の実施形態によるコイル1でも、シート4は、図5(b)の斜視図に示すように第1の実施形態によるコイル1と同様にして折り曲げられる。導体路5Cは、長さL方向に進行するのに連れ、コイル1の厚みt方向において、シート4の上り斜面Uでの上昇と下り斜面Dでの下降とを交互に繰り返し、幅W向において、谷折り線vに沿って振幅して、上り斜面Uを長さL方向に水平に横切った後、山折り線mに沿って振幅して、下り斜面Dを長さL方向に水平に横切り、巻き構造を呈する。
【0052】
第1,第2,第3の各実施形態では、下側基材2と上側基材3との間にシート4を挟んでプレスすることで、シート4が図3(b),図4(b),図5(b)に示すように折り曲げられて、コイル1が製造される。この際、シート4の両面に接着剤が付けられて、プレス加工が行われる。用いる接着剤の種類は一般的な接着剤でよく、例えば、エポキシ樹脂系の接着剤などが用いられる。
【0053】
このような第1,第2,第3の各実施形態のコイル1によれば、単一の導体路5A,5B,5Cが形成された図3(a),図4(a),図5(a)に示すシート4が、連続する2つの上り斜面Uおよび下り斜面Dを1周期とする周期で単に曲げられことで、シート4上に形成された導体路5A,5B,5Cが巻かれて、コイル1が形成される。従って、従来のコイルのように、複数の導電体を接続してコイルを構成する導体路を形成する必要がなくなる。このため、導電体の接続部を備えること無く、巻線型コイルに似た巻き構造のコイル1を形成することが可能になる。この結果、導電体を接合する工程が不要となってコイル製品価格の低廉化を図りながら、接続部信頼性の低下を招くことのない、巻線型コイルに似た巻き構造のコイル1を簡単に提供することができる。
【0054】
また、第1,第2,第3の各実施形態のコイル1によれば、シート4の曲がりに下方および上方から嵌合する凹凸形状をそれぞれ一面2bおよび3bに有する下側基材2および上側基材3によってシート4が挟まれることで、シート4の図3(b),図4(b),図5(b)に示す折り曲げ形状が保たれ、強度が確保されるので、コイル1の製品取り扱い性が向上する。
【0055】
また、第1,第2,第3の各実施形態のコイル1においては、導体路5A,5B,5Cの巻き始めおよび巻き終わりに導体路5A,5B,5Cに一体に形成された電極パット5a,5aが、上側基材3の両端部に備えられた凸部3d,3dの山面3c,3cに露出し、外部電極を構成する。このため、導電体の接続部を全く有すること無く、コイル1に外部電極を備えることができ、外部電極を備えた巻き構造のコイル1を安価にかつ接続信頼性高く提供することができる。
【0056】
また、第1,第2,第3の各実施形態のコイル1においては、シート4は、上記のように、連続する2つの上り斜面Uおよび下り斜面Dを1周期とする周期で鋸歯状に折り曲げられる。このため、図6(a)に示すシート4Aが、同図(b)に示すように、長さL方向において谷面Vと山面Mとが側面Sを介して交互に現れる、連続する4つの面を1周期とする周期で矩形波状に折り曲げられ、1折り曲げ周期で導体路5Dが1周期の振幅を行う場合に比較して、少ない回数で1巻き当たりの折り曲げを行える。なお、図6において図3と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。このため、第1,第2,第3の各実施形態のコイル1によれば、同外形寸法のコイルにおいて、より多くの巻き数を稼ぐことができるので、大きなインダクタンスを有する巻き構造コイル1を提供することができる。また、同じ巻き数のコイルにおいて、シート4の折り曲げ回数を少なくすることができるので、シート4の信頼性の向上を期待することができる。なお、単位長さ当たりのシート4の折り曲げ回数を多くして、シート4の折り曲げ角度を急峻にすると、コイル1のインダクタンス分は大きくなるが、コイル1を製造し難くなる。
【0057】
また、第1,第2,第3の各実施形態のコイル1においては、導体路5A,5B,5Cの幅b(図3(a),図4(a),図5(a)参照)の大きさや、シート4における導体路5A,5B,5Cの形成位置を適宜選択することで、様々な特性を備えるコイル1を簡易に製作することができる。
【0058】
例えば、導体路5A,5B,5Cの幅bを広くすることで、上り斜面Uおよび下り斜面D上に形成された導体路5A,5B,5Cがコイル1の厚みt方向に占める高さは大きくなる。このため、巻き構造コイル1の巻き内径が小さくなってコイル内径部の断面積が小さくなり、コイル内径部を磁束が通り難くなるので、コイル1のQ値は低くなる。しかし、コイル1の直流抵抗値RDCは低くなるので、大電流を流せる巻き構造コイル1が提供され、大電流対応のフェライトビーズの商品化が可能になる。他方、導体路5A,5B,5Cの幅bを狭くすることで、上り斜面Uおよび下り斜面D上に形成された導体路5A,5B,5Cがコイル1の厚みt方向に占める高さは小さくなる。このため、巻き構造コイル1の内径および内径部断面積の大きさを確保することができ、コイル内径部を磁束が通り易くなるので、高周波でも高いインピーダンスを有する、高いQ値を持つ巻き構造コイル1が提供される。また、コイル1の幅W方向における導体路5A,5B,5Cの振幅高さを大きくすることで、巻き構造コイル1の内径部の断面積をさらに大きくすることができる。このため、コイル内径部を磁束がさらに通り易くなるので、より高いQ値を持つ巻き構造コイル1が提供される。
【0059】
また、図5に示すシート4を用いる第3の実施形態のコイル1によれば、シート4の折り曲げ線に沿って形成された所定長の導体路5C部分は、折り曲げられたシート4の最も外側に位置する。従って、同じ外形寸法で同じ導体路5Cの幅bのコイルにおいて、コイルの巻き径を最も大きく形成することができる。このため、コイル内径部の断面積を大きく確保でき、コイル内径部を磁束が通り易くなって、コイル1のQ値を高くすることができる。
【0060】
また、図3図4に示すシート4を用いる第1,第2の各実施形態のコイル1においては、シート4の折り曲げによって導体路5A,5Bが曲げられる部分は、シート4の谷折り線vおよび山折り線mに導体路5A,5Bが交差する部分だけになる。このため、導体路5A,5Bが曲げられる部分が少なくなるので、導体路5A,5Bの信頼性の向上を期待することができる。また、導体路5A,5Bの大部分が上り斜面Uおよび下り斜面Dの面部に位置するので、第3の実施形態のコイル1のように、シート4の折り曲げ部に沿って導体路5Cを形成する場合に比較して、シート4の折り曲げの影響を受けずに任意の幅bの導体路5A,5Bを形成し易くなる。このため、シート4の折り曲げ線に沿って導体路5Cを形成する場合に比較して、導体路5A,5Bの幅bを広くすることが可能になり、コイル1の直流抵抗値RDCを容易に低減化することができる。
【0061】
また、第1,第2,第3の各実施形態のコイル1においては、下側基材2および上側基材3がアルミナ等の非磁性体からなる場合には、下側基材2および上側基材3の透磁率が小さくなる。このため、コイル1のインダクタンスを低く抑えることができるので、高周波用途の巻き構造コイル1が提供される。また、下側基材2および上側基材3がフェライト等の磁性体からなる場合には、下側基材2および上側基材3の透磁率が大きくなる。このため、用いる磁性体の種類を選択することで、所望の大きさのインダクタンスを有する巻き構造コイル1が得られる。
【0062】
また、第1,第2,第3の各実施形態のコイル1の製造方法によれば、シート4を曲げて導体路5A,5B,5Cを巻き構造に加工する工程と、下側基材2と上側基材3とを嵌合させてシート4の曲げ形状を保つ強度に加工する工程とが、下側基材2と上側基材3との間にシート4を挟んでプレスする1つの工程で行われる。このため、製造工程が少なくなり、巻き構造コイル1の製品コストをさらに低減することができる。
【0063】
また、第1,第2,第3の各実施形態のコイル1の製造方法によれば、シート4の両面に接着剤が付けられて上記のプレス加工が行われるので、シート4を曲げて導体路5A,5B,5Cを巻き構造に加工する工程と、下側基材2と上側基材3とを嵌合させてシート4の曲げ形状を保つ強度に加工する工程と、下側基材2と上側基材3との間にシート4を接合する工程とが、下側基材2と上側基材3との間にシート4を挟んでプレスする1つの工程で行われる。このため、製造工程がさらに少なくなり、巻き構造コイル1の製品コストをさらに低減することができる。
【0064】
なお、上記の第1,第2,第3の各実施形態では、シート4の曲がりに下方および上方から嵌合する下側基材2および上側基材3により、シート4の強度を保つ構造を構成した場合について、説明した。しかし、電極パット5a,5aを露出させてシート4の周囲に樹脂を充填し、シート4の周囲を樹脂で直方体状に囲む樹脂基材などを備えることで、シート4の強度を保つ構造を構成するようにしてもよい。本構成によれば、シート4の曲げ形状がシート4の周囲を囲む樹脂などの基材によって保たれ、強度が確保されるので、本構成によっても、コイル1の製品取り扱い性が向上する。
【0065】
また、上側基材3を備えず、シート4の曲がりに下方から嵌合する凹凸形状を一面2bに有する下側基材2だけを備えることで、シート4の強度を保つ構造を構成するようにしてもよい。本構成によれば、シート4の曲げ形状が下側基材2だけによって保たれ、強度が確保されるので、本構成によっても、コイル1の製品取り扱い性が向上する。
【0066】
この際、シート4の電極パット5a,5a前の折り方を、上記の各実施形態と異なり山折りとすることで、シート4は、図3(c),図4(c),図5(c)の斜視図に示すように、両端部が内側に折り返された形状に折られる。このため、下側基材2だけを備えることで得られるコイル1Aは、図7の斜視図に外観が示されるようになる。なお、図7において図2および図3と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。このコイル1Aにおいては、シート4は、下側基材2の両側部2c,2cを覆って下側基材2の底面2a側に両端部が曲げ返され、下側基材2の底面2aに電極パット5a,5aを露出させて、曲げられている。図7においては導体路5Aが形成されたシート4を図示しているが、導体路5B,5Cが形成されたシート4によっても、同様なコイル1Aが得られる。
【0067】
本構成のコイル1Aによれば、導体路5A,5B,5Cの巻き始めおよび巻き終わりに導体路5A,5B,5Cに一体に形成された電極パット5a,5aが下側基材2の底面2aに露出し、外部電極を構成する。このため、本構成のコイル1Aによっても、導電体の接続部を全く有すること無く、コイル1Aに外部電極を備えることができ、外部電極を備えた巻き構造のコイル1Aを安価にかつ接続信頼性高く提供することができる。また、下側基材2の両側部で導体路5A,5B,5Cが曲げ返されることで、コイル1Aの長さL方向に外部電極形成のための寸法を図1に示すコイル1のように取る必要がなくなり、コイル1Aの長さL方向を全て巻線形成に使用することができる。このため、同外形寸法および同構成材料のコイルにおけるインダクタンス取得効率を上げることができる。図7に示すコイル1Aが奏するこのような作用効果は、凸部3d,3dを備えない次述する図8に示す上側基材3Aを用い、シート4を下側基材2と上側基材3Aとの間に挟んだ構成においても、得られる。
【0068】
また、上記の第1,第2,第3の各実施形態では、上側基材3の両端部に凸部3d,3dを備え、凸部3d,3dの山面3c,3cに電極パット5a,5aを露出させて外部電極を構成した場合について、説明した。しかし、このような凸部3d,3dを備えずに、例えば図8(a)の外観斜視図に示すように、上側基材3Aを構成するようにしてもよい。なお、図8において図1と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。この場合、下側基材2と上側基材3Aとによって構成される基材6の側面6aに露出する導体路5A,5B,5Cの巻き始めおよび巻き終わりに、同図(b)に示すように外部電極7を電気的に接続する。この外部電極7の形成は例えばディップ塗布法などで行われる。
【0069】
本構成によれば、基材6の側面6aに露出する導体路5A,5B,5Cの巻き始めおよび巻き終わりにだけ外部電極7を接続することで、基材6の側面6aに外部電極7を備える巻き構造のコイル1Bを構成することができる。また、上記の各実施形態のように、上側基材3の両端部に凸部3d,3dを形成する必要が無く、また、導体路5A,5B,5Cの巻き始めおよび巻き終わりに電極パット5a,5aを形成する必要も無い。このため、導電体の接続箇所が2箇所で、接続信頼性の低下を招くことの懸念が極めて少ない、外部電極7を備えた巻き構造のコイル1Bを安価にかつ接続信頼性高く提供することができる。
【0070】
また、シート4の周囲を樹脂で直方体状に囲む樹脂基材などを備えて構成される上述した巻き構造のコイルや、シート4の曲がりに下方から嵌合する凹凸形状を一面2bに有する下側基材2だけを備えて構成される上述した巻き構造のコイル1Aにおいて、導体路5A,5B,5Cの両端部に電極パット5a,5aを備えず、樹脂基材または下側基材2の側面に導体路5A,5B,5Cの巻き始めおよび巻き終わりを露出させることで、上記の外部電極7のような外部電極を基材の側面に構成することできる。このため、このような巻き構造のコイルによっても、導電体の接続箇所が2箇所で、接続信頼性の低下を招くことの懸念が極めて少ない、外部電極を備えた巻き構造のコイルを安価にかつ接続信頼性高く提供することができる。
【0071】
また、このように外部電極を導体路5A,5B,5Cとは別に形成する上記の巻き構造コイルにおいては、シート4の曲がりに嵌合する凹凸形状が連続して1面に形成された、基材の材質からなるマザー基板を用いて、マザー基板の上に、電極パット5a,5aを備えない導体路5A,5B,5Cが連続して形成されたシート4を嵌合させて、ダイシング等によって個々の製品に分割することができる。また、電極パット5a,5aを備えない導体路5A,5B,5Cが連続して形成されたシート4の周囲を囲む樹脂基材をマザー基板とし、このマザー基板をダイシング等によって分割することで、個々の製品を得ることができる。このため、1枚のマザー基板から多数個の製品を取るウエハ加工により、外部電極を導体路5A,5B,5Cとは別に形成する上記各構造のコイルを製造することができる。
【0072】
また、図9に示す、基材の材質からなる下側マザー基板22および上側マザー基板33を用いて、これら下側マザー基板22および上側マザー基板23の間にシート4を挟んで図の点線に沿う箇所でダイシングをし、個々の製品に分割することによっても、マザー基板22,33から多数個の製品を取るウエハ加工によって図8に示す構造のコイル1Bを製造することができる。この場合、下側マザー基板22および上側マザー基板33には、シート4の曲がりに下方および上方から嵌合する凹凸形状が連続してそれぞれの1面に形成されている。
【0073】
また、図8に示す巻き構造のコイル1Bにおいて、下側基材2の凹凸形状と上側基材3Aの凹凸形状との各凹凸ピッチおよび各凹凸深さが均一でかつ同一の構造にすると、下側基材2または上側基材3Aの一方を他方に対して1ピッチずらし、かつ反転させることで、下側基材2または上側基材3Aの一方を下側基材2および上側基材3Aの双方として用いることができる。従って、下側基材2と上側基材3Aとの間に互換性が生じ、下側基材2および上側基材3Aの成形加工をプレスによって行う場合、同一のプレス金型で下側基材2および上側基材3Aのプレス成形加工を行うことができる。このため、コイル1Bの製品1個当たりに必要とされる金型のコストを半減することができ、巻き構造コイル1Bの製造コストをさらに低減することが可能になる。
【符号の説明】
【0074】
1,1A,1B…コイル
2…下側基材
2a…底面
2b…一面
2c…側面
3,3A…上側基材
3a…上面
3b…一面
3c…山面
3d…凸部
4…シート
5A,5B,5C…導体路
5a…電極パット
W…幅
L…長さ
t…厚み
v…谷折り線
m…山折り線
U…上り斜面
D…下り斜面
S…側面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9