(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【実施例】
【0016】
発明者らは、上記の問題を解決するために鋭意研究した結果、次のような知見を得た。
これまで、通電する電流値の設定はONかOFFの切替により行われており、ONにおける最大電流値かOFFにおける0[A]しか設定されていなかった。一方で、OFFにおける0[A]からONにおける最大電流値までの間の値を有する電流を流すと、フィラメントが多少は加熱されるものの電子は放出されないという現象が起こる。この現象を逆に利用して、通電する電流値を微調整すれば、電子が放出しない温度範囲に調整することで、点灯させる部分(例えば中央部分)が加熱されるとともに、その周辺部分も電子が放出しない温度範囲で加熱されるという知見を得た。さらに、点灯させる部分と周辺部分との間での温度差を小さくすることができるという知見も得た。
【0017】
以下、図面を参照してこの発明の実施例を説明する。
図1は、実施例に係るX線装置のブロック図であり、
図2は、実施例に係るX線管装置の概略図であり、
図3および
図4は、実施例に係る平板フィラメントの概略平面図および周辺の回路図である。本実施例では、平板フィラメントがX線管装置に用いられる場合を例に採って説明するとともに、X線透視装置やX線撮影装置などのX線装置にX線管装置が組み込まれる場合を例に採って説明する。
【0018】
本実施例に係るX線装置は、
図1に示すように、被検体Mを載置する天板1と、その被検体Mに向けてX線を照射するX線管装置2と、被検体Mを透過したX線を検出するフラットパネル型X線検出器(FPD)3とを備えている。なお、X線検出器については、上述したFPD以外にも、イメージインテンシファイアなどに例示されるように特に限定されない。X線管装置2は、この発明におけるX線管装置に相当する。
【0019】
X線管装置2は、外囲器21および外囲器21に収容される陰極22や集束電極23や陽極24を備えている。主として陰極22は平板フィラメント11および集束電極23で構成されている。本実施例に係る平板フィラメントの具体的な構成については、
図3や
図4で後述する。なお、X線管装置2については、
図2に示すような電子線Bの光軸に対して直交方向からX線を取り出すタイプに限定されず、電子線Bの光軸に沿って平行にX線を透過させたタイプであってもよい。
【0020】
その他に、外囲器21周辺において、X線管装置2は、
図2に示すように、交流電源25,26(
図3や
図4も参照)と変圧器(トランス)27,28(
図3や
図4も参照)を備えている。本実施例では交流電源を電源として採用したが、直流電源であってもよい。変圧器27,28の一次側電流を調整して平板フィラメント11に通電する二次電流を調整する。
【0021】
図1の説明に戻って、X線装置は、画像処理部4と高電圧発生部5とを備えている。その他にもモニタや記憶媒体や入力部(いずれも図示省略)などの構成を備えているが、これらの構成については、特徴部分あるいは特徴部分に関連した構成でないので、その説明については省略する。
【0022】
X線管装置2はX線を発生し、天板1に載置された被検体Mに向けてX線を照射する。FPD3は、X線管装置2から発生し被検体Mを透過したX線を検出する。FPD3は、画素に対応したX線検出素子(図示省略)が2次元マトリックス状に配置されて構成されている。画像処理部4は、FPD3で検出されたX線に基づく画像処理を行ってX線画像を取得する。具体的には、X線検出素子で検出されたX線に基づく画素値を各々の画素に対応付けて並べることでX線画像を出力する。このときに、画像処理部4は様々な画像処理をX線画像に対して施す。
【0023】
撮影を行う場合には、通常の線量でX線管装置2から被検体MにX線を1回照射して、画像処理部4にて取得されたX線画像を出力する。透視を行う場合には、撮影のときよりも少ない線量でX線管装置2から被検体MにX線を連続的に照射し、画像処理部4にてそれぞれ取得された各々のX線画像をモニタ(図示省略)に連続的に出力する。また、断層撮影を行う場合には、X線管装置2やFPD3、被検体Mの少なくともいずれか一方を移動させて、X線管装置2やFPD3を被検体Mに対して相対的に移動させながら、X線管装置2から被検体MにX線を連続的に照射し、画像処理部4にてそれぞれ取得された各々のX線画像に対して再構成処理を行い、断層画像を出力する。
【0024】
高電圧発生部5は、X線管装置2に管電圧や管電流を付与してX線を発生させるように制御する。本実施例では、高電圧発生部5は複数(本実施例では2つ)の系統のフィラメントを一定電流に加熱する回路を有しており、2系統のフィラメントに通電する電流は互いに位相の同期の取れた電流にて制御される。具体的には変圧器27,28(
図2〜
図4を参照)に流す一次電流を調整することで、フィラメントにつながる2次電流を調整している。
【0025】
図2に示すように、外囲器21は、平板フィラメント11や集束電極23や陽極24を収容する。電子線Bが陽極24に衝突して発生したX線(
図2では「Xray」で表記)を透過させて外囲器21の外部に引き出す窓(図示省略)が外囲器21に設けられている。陰極22は、
図3あるいは
図4に示すような平板フィラメント11および集束電極23(
図2を参照)で主として構成されており、平板フィラメント11の電子線出射面からの電子線Bを陽極24上に集束させる。
【0026】
平板フィラメント11は、
図3あるいは
図4に示すような構造である。
図3は、長方形の形状を有した平板フィラメントであり、
図4は、円形の形状を有した平板フィラメントである。「背景技術」の欄でも述べたように、電子線出射面(
図3では長方形の形状を有した電子線出射面、
図4では円形の形状を有した電子線出射面)の付け根に4本の通電加熱用の脚部12〜15を有している。脚部12〜15を図中の破線箇所で90°に折り曲げて、脚部12〜15からそれぞれ通電することで、電子線出射面を加熱し、電子線出射面から熱電子を放出させる。電子線出射面から放出された熱電子(
図2の電子線Bを参照)が、陽極24(
図2を参照)に衝突することで、X線(
図2では「Xray」で表記)を発生する。
【0027】
脚部12〜15のうち、脚部12,13(図中では「A」,「B」で表記)は、電子線出射面の全面の領域を通電加熱して電子線B(
図2を参照)を出射する大焦点用の全灯に用いられる全灯通電加熱用脚部12,13である。一方、脚部12〜15のうち、脚部14,15(図中では「C」,「D」で表記)は、電子線出射面の全面よりも狭い領域(図中の右上斜線のハッチングで示された領域を参照)のみを通電加熱して電子線Bを出射する小焦点用の半灯に用いられる半灯通電加熱用脚部14,15である。
【0028】
すなわち、電子線出射面の全面の領域を加熱する場合には、全灯通電加熱用脚部12,13(A,B)から通電して全面を加熱する。一方、部分的に点灯して電子の放出範囲を制限して、焦点を小さくする場合には、半灯通電加熱用脚部14,15(C,D)から通電して、図中の右上斜線のハッチングで示された領域のみを点灯させて加熱する。全灯の場合には通電経路はA→Aの付け根→Dの付け根→Cの付け根→Bの付け根→Bとなり、半灯の場合には通電経路はC→Cの付け根→Dの付け根→Dとなる。このようにして、通電経路を変えることで平板フィラメント11の加熱範囲(点灯範囲)を調整する。
【0029】
本実施例の場合には、平板フィラメント11は変圧器27,28を介して通電される。変圧器27,28の1次側は交流電源25,26につながっている。交流電源25は、変圧器27を介して全灯通電加熱用脚部12,13(A,B)の間を通電するための電源であり、交流電源26は、変圧器28を介して半灯通電加熱用脚部14,15(C,D)の間を通電するための電源である。
【0030】
通電する電流値(通電電流)は、半灯通電加熱用脚部14,15(C,D)から通電した場合に9[A]程度で十分な電子放出が得られる条件とする。この条件の場合には、全灯通電加熱用脚部12,13(A,B)から9[A]程度の電流を流し、半灯通電加熱用脚部14,15(C,D)において0[A]に設定することで、電子線出射面の全面から電子放出し、焦点を形成する。一方、中央の領域(Dの付け根・Cの付け根間の領域)のみを加熱して点灯させる場合には、半灯通電加熱用脚部14,15(C,D)のみから9[A]程度の電流を流し、全灯通電加熱用脚部12,13(A,B)において0[A]に設定しても部分的な点灯を実現することができるが、電子出射面において変形が生じる。
【0031】
「発明が解決しようとする課題」の欄でも述べたように、電子線出射面の中央部分のみを加熱する場合には、中央部分と周辺部分との間で温度差が大きくなる。中央部分と周辺部分との間での温度差により熱膨張差も大きくなり、熱膨張差による熱応力も大きくなる。この熱膨張差による熱応力が大きい状態で繰り返し加熱を行った場合に、平板状の電子線出射面において変形が生じる。
【0032】
そこで、全灯通電加熱用脚部12,13(A,B)から6[A]程度の電流を流し、半灯通電加熱用脚部14,15(C,D)から3[A]程度の電流を流すことで、中央の領域(Dの付け根・Cの付け根間の領域)では十分な電子放出が得られる9[A]が流れる。一方、中央の領域を除く外側の両サイド部分(周辺部分)では6[A]程度の電流が流れ、電子が放出しない範囲の最高温度(上限値の温度)となる。
【0033】
そのために、高電圧発生部5(
図1を参照)は、変圧器27,28に流す一次電流の位相を合わせた上で、同時に制御することで、変圧器27から流れる電流値を6[A]程度に設定し、変圧器28から流れる電流値を3[A]程度に同時に設定する。これによって、変圧器27から流れる電流値を6[A]程度の電流値に調整するとともに変圧器28から流れる電流値を3[A]程度の電流値に調整する。
【0034】
なお、透視や撮影前に予め
図5に示すテーブルを作成するのが好ましい。
図5(a)は、全灯通電加熱用脚部・半灯通電加熱用脚部に流れる電流値の組み合わせと、周辺部分の温度との対応関係を表したテーブルであり、
図5(b)は、電流値の組み合わせを変えたときの点灯領域の模式図である。例えば、合計で9[A]程度の電流値が中央の領域(Dの付け根・Cの付け根間の領域)に流れるように、電流値の組み合わせ(
図5では「A,Bの電流値」、「C,Dの電流値」と表記)と周辺部分の温度とを対応付けてテーブルを作成する。変圧器27から流れる電流値(A,Bの電流値)を0.2[A]ずつ増やして、それに同期して変圧器28から流れる電流値(C,Dの電流値)を0.2[A]ずつ減らして、そのときの周辺部分の温度を測定する。
【0035】
実際には、陰極22は真空の外囲器21内に収容されるので、周辺部分の温度を測定する温度センサを設置することが困難である。よって、実際には通電せずにシミュレーションにより温度を求めればよい。もちろん、真空の外囲器21内では放射温度計にてフィラメント温度を測定するのが一般的であるので、放射温度計で周辺部分の温度を測定してもよい。上述したように、周辺部分は熱伝導により多少は加熱されるので、周辺部分において温度勾配が発生する。よって、温度勾配において極大となる温度を周辺部分の温度として求める。ここでは、T
1<T
2<…T
X−1<T
Xとする。変圧器27から流れる電流値(A,Bの電流値)が6[A]になったとき(このとき変圧器28から流れる電流値(C,Dの電流値)は3[A])が、電子が放出しない範囲の最高温度(上限値の温度)T
Xとすると、変圧器27から流れる電流値(A,Bの電流値)が6.2[A]になったとき(このとき変圧器28から流れる電流値(C,Dの電流値)は2.8[A])は、
図5(b)中の右上斜線のハッチングに示すように周辺部分の一部においても電子が放出されると推定される。
【0036】
このように、テーブルを予め作成することで、電子が放出しない範囲の最高温度(上限値の温度)T
Xのときの各電流値をそれぞれ把握することができる。なお、電子が放出しない温度範囲に調整するのであれば、必ずしも電子が放出しない範囲の最高温度(上限値の温度)T
Xのときの各電流値である必要はない。ただし、電子が放出しない範囲の最高温度(上限値の温度)T
Xのときの各電流値に調整することで、点灯させる部分と周辺部分との間での温度差を最小限に抑えることができる。よって、電子が放出しない範囲の最高温度(上限値の温度)T
Xのときの各電流値にそれぞれ調整するのが最も好ましい。
【0037】
本実施例に係るフィラメントの調整方法によれば、部分的に点灯させる場合において、通電する電流値をそれぞれ調整することで、部分的に点灯させる領域を除く周辺部分では電子が放出しない温度範囲に調整する。この調整により、点灯させる部分(本実施例では中央部分)が加熱されるとともに、その周辺部分も電子が放出しない温度範囲で加熱される。その結果、点灯させる部分と周辺部分との間での温度差が小さくなり、熱応力による変形を防止することができる。よって、フィラメントの寿命期間(例えばトータルの通電時間が5000時間)を通じて、フィラメントが変形しない平坦度を維持した状態が得られる。これにより、安定した焦点を維持することができる。
【0038】
本実施例に係るフィラメントの調整方法において、複数(実施例では2つ)の通電
経路に通電する各々の電流は位相を合わせた交流電流にて調整するのが好ましい。もちろん、回路構成によっては、直流電流で制御することも可能であり、その場合、位相の制御は必要ない。
【0039】
本実施例に係るX線管装置2によれば、変圧器27,28が、本実施例に係るフィラメントの調整方法と同様に、部分的に点灯させる場合において、通電する電流値をそれぞれ調整することで、部分的に点灯させる領域を除く周辺部分では電子が放出しない温度範囲に調整する。この調整により、点灯させる部分と周辺部分との間での温度差が小さくなり、熱応力による変形を防止することができる。よって、フィラメントの寿命期間を通じて、フィラメントが変形しない平坦度を維持した状態が得られる。これにより、安定した電子線の焦点、ひいては安定したX線の焦点を維持することができる。
【0040】
本実施例に係るX線管装置2において、本実施例に係るフィラメントの調整方法と同様に、複数(2つ)の通電
経路に通電する各々の電流は位相を合わせた交流電流にて調整するのが好ましい。もちろん、回路構成によっては、直流電流で制御することも可能であり、その場合、位相の制御は必要ない。
【0041】
この発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0042】
(1)上述した実施例では、フィラメントを用いたX線管装置の具体的な構成については特に限定されない。例えば、陽極がそれを収容する外囲器と一体となって回転する外囲器回転型医用X線管や、それ以外の医用X線管や、工業用の大焦点X線管に適用することができる。
【0043】
(2)上述した実施例では、X線管装置に適用したが、X線を発生せずに電子線を出射する電子源に適用してもよい。
【0044】
(3)X線装置については、被検体を診断する医用X線装置であってもよいし、非破壊検査装置に用いられる工業用X線装置であってもよい。
【0045】
(4)上述した実施例では、フィラメント(実施例では平板フィラメント)がX線管装置に用いられる場合を例に採って説明するとともに、X線透視装置やX線撮影装置などのX線装置にX線管装置が組み込まれる場合を例に採って説明したが、X線管装置単体、フィラメント単体を調整する場合も同様である。
【0046】
(5)上述した実施例では、平板フィラメントを例に採って説明したが、必ずしも電子線出射面が平板状である必要はない。ただし、平板状の電子線出射面を有した平板フィラメントの方が、平板フィラメントを水平面に固定することができ、焦点を精度良く制御することができる。
【0047】
(6)上述した実施例では、フィラメント(実施例では平板フィラメント)において2つの通電経路を有していたが、複数であれば3つ以上であってもよい。例えば、特許文献1:特開2012−15045号公報の
図4に示すように3つの通電経路を有したフィラメントに適用してもよい。
【0048】
(7)上述した実施例では、部分的に点灯させる領域は中央部分(Dの付け根・Cの付け根間の領域)であったが、必ずしも中央部分に限定されない。