特許第6236963号(P6236963)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236963
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20171120BHJP
   F16H 61/682 20060101ALI20171120BHJP
   F16H 61/16 20060101ALI20171120BHJP
   F16H 59/42 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H61/682
   F16H61/16
   F16H59/42
【請求項の数】3
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2013-156673(P2013-156673)
(22)【出願日】2013年7月29日
(65)【公開番号】特開2015-25533(P2015-25533A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(72)【発明者】
【氏名】原田 新也
(72)【発明者】
【氏名】村上 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】東條 威士
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−223857(JP,A)
【文献】 実開昭62−025356(JP,U)
【文献】 特開2001−213181(JP,A)
【文献】 特開2004−176810(JP,A)
【文献】 特開2000−225858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/00−39/00
F16D 48/00−48/12
F16H 59/00−61/12
F16H 61/16−61/24
F16H 61/66−61/70
F16H 63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの回転トルクが伝達される駆動シャフトと、
入力軸と、前記入力軸と平行に配設され駆動輪に回転連結された出力軸と、前記入力軸及び前記出力軸の一方に遊転可能に設けられた複数の遊転ギヤと、前記入力軸及び前記出力軸の他方に相対回転不能に固定され、前記複数の遊転ギヤとそれぞれ噛合する複数の固定ギヤと、前記複数の遊転ギヤの側方に、前記複数の遊転ギヤが設けられている軸に相対回転不能且つ前記軸の軸線方向に移動可能に設けられ、前記複数の遊転ギヤと相対回転不能に係合して前記複数の遊転ギヤと前記軸を回転不能に回転連結する複数の噛み合い機構と、前記複数の噛み合い機構をそれぞれ前記軸線方向に移動させて、前記複数の噛み合い機構を、それぞれ対応する前記遊転ギヤに相対回転不能に係合させるとともに、前記複数の噛み合い機構を、前記それぞれ対応する前記遊転ギヤから相対回転可能に離脱させるシフトアクチュエータと、を有する自動変速装置と、
前記駆動シャフトと前記入力軸との間に設けられ、前記駆動シャフトと前記入力軸との間を断接するクラッチと、
当該クラッチを作動させるクラッチアクチュエータと、
前記駆動輪に回転連結され、前記駆動輪に回転トルクを出力するモータと、
現在の変速段から次の変速段にアップシフトを実行する際に、前記現在の変速段の遊転ギヤに係合した前記噛み合い機構を離脱させて前記自動変速装置をニュートラル状態とし、前記エンジンの回転トルクを低下させて前記クラッチを介して前記入力軸の回転速度を低下させるとともに、前記次の変速段の遊転ギヤと係合する前記噛み合い機構と前記次の変速段の遊転ギヤとの回転速度差が前記入力軸の回転速度に基づいて設定された閾値を超える状態になった時に、前記クラッチアクチュエータの作動を開始して前記クラッチを切断し、次いで前記シフトアクチュエータを作動させて前記次の変速段の遊転ギヤと係合する前記噛み合い機構を前記次の変速段の遊転ギヤに係合させるアップシフト制御部と、を有し、
前記アップシフト制御部は、前記ニュートラル状態において、要求出力トルクに応じて前記モータの回転トルクを増大させるとともに、前記要求出力トルクに基づいて前記閾値を設定する車両用駆動装置。
【請求項2】
前記アップシフト制御部は、前記ニュートラル状態後に、前記クラッチの伝達トルクを、完全係合時の伝達トルクよりも低く、低下させた前記エンジンの回転トルクを前記入力軸に伝達可能な伝達トルクである規程伝達トルクへ低下させる請求項に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記アップシフト制御部は、前記エンジンへの燃料カットにより、前記エンジンの回転トルクを低下させる請求項1又は請求項に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、基本的な構造はマニュアルトランスミッションとし、シフトアクチュエータによりシフト操作が行われる変速制御装置が知られている。このような変速制御装置には、特許文献1に示されるように、次の変速段の遊転ギヤとこれが回転連結される軸との回転を同期するためのシンクロナイザリングを備えている。
【0003】
一方で、特許文献2に示されるように、モータジェネレータを備えたハイブリット車両に用いられる車両用駆動装置では、変速の際にモータジェネレータを用いて、次の変速段の遊転ギヤとこれが回転連結される軸との回転を同期させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−139146号公報
【特許文献2】特開2009−293675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両用駆動装置として、特許文献1に示されるようなシンクロナイザリングを備えた構成では、変速する際に、シフトアクチュエータがシンクロナイザリングを遊転ギヤに形成されたコーンに押し付けて、シンクロナイザリングとコーンとの間の摩擦力を利用することにより、遊転ギヤとこれが回転連結される軸との回転を同期させているため、高出力なシフトアクチュエータが必要となり、コストアップや質量増となってしまう。また、車両の走行中には、シンクロナイザリングとコーンとの間に摺動抵抗が常時生じて、機械的損失が発生してしまうという問題があった。
【0006】
また、特許文献2に示されるような技術では、変速時にモータジェネレータを利用して、次の変速段の遊転ギヤとこれが回転連結される軸を同期させているため、当該同期時にはモータジェネレータの回転トルクが駆動輪に伝達されないため、運転者が減速感を覚え、車両のドライバビリティが低下しまうという問題があった。そこで、駆動用のモータジェネレータとは別に、次の変速段の遊転ギヤとこれが回転連結される軸との回転を同期させるための専用のモータジェネレータを別途設ければ、ドライバビリティの低下は防げるが、モータジェネレータを追加した分、コストアップや質量増となってしまう。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、車両用駆動装置において、従来に比べて、コストアップや質量増とならずに、機械的損失を抑制することができる車両用駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するためになされた、請求項1に係る発明によると、エンジンの回転トルクが伝達される駆動シャフトと、入力軸と、前記入力軸と平行に配設され駆動輪に回転連結された出力軸と、前記入力軸及び前記出力軸の一方に遊転可能に設けられた複数の遊転ギヤと、前記入力軸及び前記出力軸の他方に相対回転不能に固定され、前記複数の遊転ギヤとそれぞれ噛合する複数の固定ギヤと、前記複数の遊転ギヤの側方に、前記複数の遊転ギヤが設けられている軸に相対回転不能且つ前記軸の軸線方向に移動可能に設けられ、前記複数の遊転ギヤと相対回転不能に係合して前記複数の遊転ギヤと前記軸を回転不能に回転連結する複数の噛み合い機構と、前記複数の噛み合い機構をそれぞれ前記軸線方向に移動させて、前記複数の噛み合い機構を、それぞれ対応する前記遊転ギヤに相対回転不能に係合させるとともに、前記複数の噛み合い機構を、前記それぞれ対応する前記遊転ギヤから相対回転可能に離脱させるシフトアクチュエータと、を有する自動変速装置と、前記駆動シャフトと前記入力軸との間に設けられ、前記駆動シャフトと前記入力軸との間を断接するクラッチと、当該クラッチを作動させるクラッチアクチュエータと、前記駆動輪に回転連結され、前記駆動輪に回転トルクを出力するモータと、現在の変速段から次の変速段にアップシフトを実行する際に、前記現在の変速段の遊転ギヤに係合した前記噛み合い機構を離脱させて前記自動変速装置をニュートラル状態とし、前記エンジンの回転トルクを低下させて前記クラッチを介して前記入力軸の回転速度を低下させるとともに、前記次の変速段の遊転ギヤと係合する前記噛み合い機構と前記次の変速段の遊転ギヤとの回転速度差が前記入力軸の回転速度に基づいて設定された閾値を超える状態になった時に、前記クラッチアクチュエータの作動を開始して前記クラッチを切断し、次いで前記シフトアクチュエータを作動させて前記次の変速段の遊転ギヤと係合する前記噛み合い機構を前記次の変速段の遊転ギヤに係合させるアップシフト制御部と、を有し、前記アップシフト制御部は、前記ニュートラル状態において、要求出力トルクに応じて前記モータの回転トルクを増大させるとともに、前記要求出力トルクに基づいて前記閾値を設定することを要旨とする。
【0009】
これによれば、アップシフト制御部は、エンジンの回転速度が低下するように、エンジンの回転トルクを低下させることにより、クラッチを介して入力軸の回転速度を低下させることができる。このため、次の変速段の遊転ギヤと、この遊転ギヤが回転連結された軸に設けられた噛み合い機構との回転速度差を減少させて同期化することができる。遊転ギヤと噛み合い機構とを係合させることができることにより、シンクロ機構を省略することができる。即ち、次の変速段の遊転ギヤが回転連結されるとともに噛み合い機構を設けた軸を入力軸と出力軸とのいずれかの一方とすると、入力軸と出力軸との他方は次の変速段の遊転ギヤと連結される構成であるため、仮に、軸を前記入力軸とすると、軸の回転速度即ち噛み合い機構の回転速度は、入力軸の回転速度であり、又、その噛み合い機構と噛み合う次の変速段の遊転ギヤの回転速度は、出力軸の回転速度に次の変速段のギヤ比との積となり、又一方、軸を出力軸とすると、軸の回転速度即ち噛み合い機構の回転速度は、出力軸の回転速度となる。又、その噛み合い機構と噛み合う次の変速段の遊転ギヤの回転速度は、入力軸の回転速度に次の変速段のギヤ比との積であるため、この結果、いずれの場合でも、入力軸の回転速度を低下させることにより、次の変速段の遊転ギヤと、この遊転ギヤが回転連結された軸に設けられた噛み合い機構との回転速度差を減少させて同期化することができて、遊転ギヤと噛み合い機構とを係合させることができる。従って、シンクロ機構の摺動に起因する機械的損失を低減することができる。また、シンクロ機構を作動させるための高出力なシフトアクチュエータを必要としないので、車両用駆動装置のコストを低減することができ、更に車両用駆動装置の質量を低減することができる。このように、コストアップや質量増とならずに、機械的損失を抑制することができる車両用駆動装置を提供することができる。又、次の変速段の前記遊転ギヤと係合する噛み合い機構と次の変速段の遊転ギヤとの回転速度差が入力軸の回転速度に基づいて設定された閾値を超える状態になった時に、クラッチアクチュエータの作動を開始する。噛み合い機構の回転速度は入力軸の回転速度と同一となる構成、又は、次の変速段の遊転ギヤの回転速度はその入力軸の回転速度に次の変速段の遊転ギヤによるギヤ比の積となる構成のいずれか一方であるため、従って、噛み合い機構と次の変速段の遊転ギヤとの一方は、入力軸の回転速度に応じている。この構成によれば、クラッチアクチュエータを作動させてから、噛み合い機構と次の変速段の遊転ギヤとの回転速度差が所定の幅となる同期回転速度に到達する時間即ちアップシフトに要する変速時間は、入力軸の回転速度が速いほどその回転速度の下降割合(傾き)が大きいので、クラッチアクチュエータの作動を開始した時点における入力軸の回転速度の大小にかかわらず均一化できるため、クラッチを切断してからアップシフトに要する変速時間を均一化できて、ドライバの違和感をなくすることが可能となる。又、この結果、この閾値を入力軸の回転速度にかかわらず固定した場合に比べて、入力軸の回転速度が速い場合ほど、クラッチを切断してからアップシフトに要する変速時間を短縮することができる。
アップシフト制御部は、ニュートラル状態において、要求出力トルクに応じてモータの回転トルクを増大させる。従って、エンジンの回転トルクの低下に伴う車両の減速を防止又は抑制することができ、車両用駆動装置のドライバビリティの低下を防止することができる。また、要求出力トルクに基づいて設定した閾値を超えた時に、クラッチアクチュエータの作動を開始することにより、クラッチアクチュエータを作動させてから、噛み合い機構と次の変速段の遊転ギヤとの回転速度差が所定の幅となる同期回転速度に到達する時間は、要求出力トルクが大きいほど噛み合い機構又はその次の変速段の遊転ギヤとの一方におけるその回転速度の上昇割合(傾き)が大きいので、要求出力トルクの大小にかかわらず均一化できるため、クラッチを切断してからアップシフトに要する変速時間を均一化できて、ドライバの違和感をなくすることが可能となる。又、この結果、この閾値を要求出力トルクにかかわらず固定した場合に比べて、要求出力トルクが大きい場合ほど、クラッチを切断してからアップシフトに要する変速時間を短縮することができる。これは、要求出力トルクは、出力軸の回転速度に応じており、噛み合い機構の回転速度は出力軸の回転速度と同一となる構成、又は、次の変速段の遊転ギヤの回転速度はその出力軸の回転速度に次の変速段の遊転ギヤによるギヤ比の積となる構成のいずれか一方であるため、従って、噛み合い機構と次の変速段の遊転ギヤとのいずれか一方の回転速度が、出力軸の回転速度に応じていることに基づいて導かれることは明らかである。更には、閾値を要求出力トルクに基づいて設定するので、前述の閾値を固定した場合に比べて、要求出力トルクが大きいほど、クラッチを切断してからアップシフトに要する変速時間を短縮できることに基づき、アップシフト制御時のモータの作動時間を短縮できるため、電力消費も低減できる。
【0012】
請求項に係る発明は、請求項に記載の車両用駆動装置おいて、前記アップシフト制御部は、前記ニュートラル状態後に、前記クラッチの伝達トルクを、完全係合時の伝達トルクよりも低く、低下させた前記エンジンの回転トルクを前記入力軸に伝達可能な伝達トルクである規程伝達トルクへ低下させることを要旨とする。
【0013】
これによれば、アップシフト制御部は、自動変速装置のニュートラル状態後に、クラッチの伝達トルクを、完全係合時の伝達トルクよりも低く、低下させたエンジンの回転トルクを入力軸に伝達可能な伝達トルクである規程伝達トルクに低下させて、入力軸の回転を減速する。これにより、完全係合状態からクラッチを切断させるよりも、クラッチの切断時間を短縮させることができる。このため、次の変速段の遊転ギヤをこれが設けられている軸に回転連結させる際において、クラッチアクチュエータによる作動遅れに起因する入力軸の回転速度が同期回転速度よりも大きく低下してしまうことを防止することができる。このため、確実に次の変速段の遊転ギヤをこれが設けられている軸に回転連結させることができ、また、噛み合い機構と遊転ギヤとの回転速度差に起因する、噛み合い機構と遊転ギヤの係合時のショックを低減することができ、シフトアップに伴う車両用駆動装置のシフトショックや異音の発生を低減させることができる。
【0014】
請求項に係る発明は、請求項1又は請求項に記載の車両用駆動装置おいて、前記アップシフト制御部は、前記エンジンへの燃料カットにより、前記エンジンの回転トルクを低下させることを要旨とする。
【0015】
これによれば、アップシフト制御部は、エンジンへの燃料カットにより、エンジンの回転トルクを低下させる。これにより、燃料カットによって負方向に発生するエンジンのフリクショントルクによって、エンジンの回転トルクを迅速に低下させることができる。このため、迅速に噛み合い機構をこれが設けられている軸に対し軸線方向に移動可能な状態とすることができ、迅速に噛み合い機構を遊転ギヤから離脱せることができる。また、迅速に入力軸の回転速度を低下させて、次の変速段の遊転ギヤとこれに対応する噛み合い機構とを同期させてシフトアップ可能な状態とすることができ、この結果、シフトアップの変速時間を短縮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態の車両用駆動装置及び当該車両用駆動装置が搭載される車両を示す説明図である。
図2図1のTM−ECUで実行される制御プログラムである変速制御のフローチャートである。
図3図1のTM−ECUで実行される制御プログラムである変速制御のフローチャートである。
図4図1のTM−ECUで実行される制御プログラムであるニュートラル処理のフローチャートである。
図5】アップシフトにおける、時間の経過と、モータジェネレータの回転速度、入力軸の回転速度、エンジン回転速度、クラッチのクラッチトルク、エンジンのトルク、モータジェネレータのトルク、要求変速段、実変速段、エンジン状態、クラッチ状態との関係を表したタイムチャートである。
図6】ダウンシフトにおける、時間の経過と、モータジェネレータの回転速度、入力軸の回転速度、エンジン回転速度、クラッチのクラッチトルク、エンジンのトルク、モータジェネレータのトルク、要求変速段、実変速段、エンジン状態、クラッチ状態との関係を表したタイムチャートである。
図7】噛み合い機構の斜視図である。
図8】噛み合い機構の断面図である。
図9】噛み合い機構を構成するハブ及びスリーブの斜視図である。
図10】変速段と学習トルクを記憶した「学習トルク記憶データ」を表した説明図である。
図11】エンジントルクTeと経過時間との関係を表したグラフであり、スリーブが離脱する際における図5及び図6の拡大図である。
図12図1のTM−ECUで実行される制御プログラムにおける制御マップの閾値の一例を示す説明図である。
図13図5に示したタイムチャートの部分拡大図である。
図14】回転速度の変化特性を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(車両用駆動装置の構造)
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の車両用駆動装置100が搭載されるハイブリッド車両(以下、単に車両と略す)は、エンジンEG及びモータジェネレータMGが出力するトルクによって、駆動輪Wl、Wrを駆動させる車両である。
【0018】
図1に示すように、本実施形態の車両用駆動装置100は、エンジンEG、モータジェネレータMG、クラッチC、トランスミッションTM(以下、TMと略す)、インバータINV、バッテリBT、ハイブリッドECU11、エンジンECU12、トランスミッションECU13(以下、TM−ECU13と略す)、モータジェネレータECU14、バッテリECU15、減速機80、アクセルペダル95、を有する。ここでは、ハイブリッドECU11、エンジンECU12、TM−ECU13は、別体として説明するが、これに限定されるものではなく、ハイブリッドECU11、エンジンECU12、TM−ECU13、モータジェネレータECU14、及びバッテリECU15が一体であっても差し支え無い。
【0019】
エンジンEGは、ガソリンや軽油等の炭化水素系燃料を使用するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等であり、トルクを出力するものである。エンジンEGは、駆動シャフトEG−1、燃料噴射装置EG−2、スロットルバルブEG−3を有している。
【0020】
これら燃料噴射装置EG−2、スロットルバルブEG−3は、エンジンECU12に通信可能に接続されて、エンジンECU12によって制御される。駆動シャフトEG−1の近傍には、駆動シャフトEG−1の回転速度、即ち、エンジン回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサEG−4が設けられている。エンジン回転速度センサEG−4は、エンジンECU12に通信可能に接続され、検出したエンジン回転速度をエンジンECU12に出力する。
【0021】
駆動シャフトEG−1は、ピストンにより回転駆動されるクランクシャフトと一体的に回転する。このように、エンジンEGは、駆動シャフトEG−1にエンジントルクTeを出力し、駆動輪Wl、Wrを駆動する。なお、エンジンEGがガソリンエンジンである場合には、エンジンEGのシリンダヘッドには、シリンダ内の混合気を点火するための点火装置(不図示)が設けられている。
【0022】
スロットルバルブEG−3は、エンジンEGのシリンダに空気を取り込む経路の途中に設けられている。スロットルバルブEG−3は、エンジンEGのシリンダに取り込まれる空気量(混合気量)を調整するものである。燃料噴射装置EG−2は、エンジンEGの内部に空気を取り込む経路の途中やエンジンEGのシリンダヘッドに設けられている。燃料噴射装置EG−2は、ガソリンや軽油等の燃料を噴射する装置である。
【0023】
アクセルペダル95は、車両用駆動装置100が出力する駆動力を可変に操作するものである。アクセルペダル95には、アクセルペダル95の操作量であるアクセル開度Acを検出するアクセルセンサ96が設けられている。アクセルセンサ96は、ハイブリッドECU11と通信可能に接続されている。
【0024】
クラッチCは、駆動シャフトEG−1とTMの入力軸31との間に設けられ、駆動シャフトEG−1と入力軸31を断接するものであり、駆動シャフトEG−1と入力軸31間のクラッチトルクTcを電子制御可能な任意のタイプのクラッチである。本実施形態では、クラッチCは、乾式単板ノーマルクローズクラッチであり、フライホイール21、クラッチディスク22、クラッチカバー23、プレッシャープレート24、ダイヤフラムスプリング25を有している。
【0025】
フライホイール21は、所定の質量を有する円板であり、駆動シャフトEG−1が接続し、駆動シャフトEG−1と一体回転する。クラッチディスク22は、その外縁部に摩擦部材22aが設けられた円板状であり、フライホイール21と離接可能に対向している。クラッチディスク22は、入力軸31と接続し、入力軸31と一体回転する。
【0026】
クラッチカバー23は、フライホイール21の外縁と接続しクラッチディスク22の外周側に設けられた円筒部23aと、フライホイール21との接続部と反対側の円筒部23aの端部から径方向内側に延在する円環板状の側周壁23bとから構成されている。プレッシャープレート24は、円環板状であり、フライホイール21との対向面と反対側のクラッチディスク22に離接可能に対向して配設されている。
【0027】
ダイヤフラムスプリング25は、所謂皿バネの一種で、その厚さ方向に傾斜するダイヤフラムが形成されている。ダイヤフラムスプリング25の径方向中間部分は、クラッチカバー23の側周壁23bの内縁と当接し、ダイヤフラムスプリング25の外縁は、プレッシャープレート24に当接している。ダイヤフラムスプリング25は、プレッシャープレート24を介して、クラッチディスク22をフライホイール21に押圧している。この状態では、クラッチディスク22の摩擦部材22aがフライホイール21及びプレッシャープレート24によって押圧され、摩擦部材22aとフライホイール21及びプレッシャープレート24間の摩擦力により、クラッチディスク22とフライホイール21が一体回転し、駆動シャフトEG−1と入力軸31が接続される。
【0028】
クラッチアクチュエータ29は、TM−ECU13によって駆動制御され、ダイヤフラムスプリング25の内縁部を、フライホイール21側に押圧又は当該押圧を解除し、クラッチトルクTcを可変とするものである。クラッチアクチュエータ29には、電動式のものや油圧式のものが含まれる。クラッチアクチュエータ29が、ダイヤフラムスプリング25の内縁部を、フライホイール21側に押圧すると、ダイヤフラムスプリング25が変形して、ダイヤフラムスプリング25の外縁が、フライホイール21から離れる方向に変形する。すると、当該ダイヤフラムスプリング25の変形によって、フライホイール21及びプレッシャープレート24がクラッチディスク22を押圧する押圧力が徐々に低下し、クラッチディスク22とフライホイール21間のクラッチトルクTcも徐々に低下し、駆動シャフトEG−1と入力軸31が切断される。このように、TM−ECU13は、クラッチアクチュエータ29を駆動することにより、クラッチディスク22とフライホイール21間のクラッチトルクTcを任意に可変させる。
【0029】
TMは、エンジンEGからのトルクを複数の変速段の変速比で変速して、デファレンシャルDFに出力する歯車機構式のトランスミッションである。また、本実施形態のTMは、シンクロナイザリング等のシンクロ機構を有さず、後述する第一〜第三スリーブ112〜132を有するドグクラッチ式のトランスミッションである。
【0030】
TMは、入力軸31、出力軸32、第一ドライブギヤ41、第二ドライブギヤ42、第三ドライブギヤ43、第四ドライブギヤ44、第五ドライブギヤ45、第一ドリブンギヤ51、第二ドリブンギヤ52、第三ドリブンギヤ53、第四ドリブンギヤ54、第五ドリブンギヤ55、出力ギヤ56、第一噛み合い機構110、第二噛み合い機構120、第三噛み合い機構130を有する。
【0031】
入力軸31は、エンジンEGからのトルクが入力される軸であり、クラッチCのクラッチディスク22と一体回転する。出力軸32は、入力軸31と平行に配設されている。入力軸31及び出力軸32は、それぞれ、図示しないTMのハウジングに回転可能に軸支されている。
【0032】
第一ドライブギヤ41、第二ドライブギヤ42は、入力軸31に相対回転不能に固定された固定ギヤである。第三ドライブギヤ43、第四ドライブギヤ44、第五ドライブギヤ45は、入力軸31に相対回転可能(遊転可能)に設けられた遊転ギヤであり、夫々の回転速度は出力軸32の回転速度Noと互いに噛合する各ドリブンギヤ53、54、55とによるギヤ比との積となる。
【0033】
第一ドリブンギヤ51、第二ドリブンギヤ52は、出力軸32に相対回転可能(遊転可能)に取り付けられた遊転ギヤであり、夫々の回転速度は入力軸31の回転速度Niと互いに噛合する各ドライブギヤ41、42とによるギヤ比との積となる。第三ドリブンギヤ53、第四ドリブンギヤ54、第五ドリブンギヤ55、出力ギヤ56は、出力軸32に相対回転不能に固定された固定ギヤである。
【0034】
第一ドライブギヤ41と第一ドリブンギヤ51は、互いに噛合し、1速段を構成するギヤである。第二ドライブギヤ42と第二ドリブンギヤ52は、互いに噛合し、2速段を構成するギヤである。第三ドライブギヤ43と第三ドリブンギヤ53は、互いに噛合し、3速段を構成するギヤである。第四ドライブギヤ44と第四ドリブンギヤ54は、互いに噛合し、4速段を構成するギヤである。第五ドライブギヤ45と第五ドリブンギヤ55は、互いに噛合し、5速段を構成するギヤである。
【0035】
第一ドライブギヤ41、第二ドライブギヤ42、第三ドライブギヤ43、第四ドライブギヤ44、第五ドライブギヤ45の順にギヤ径が大きくなっている。第一ドリブンギヤ51、第二ドリブンギヤ52、第三ドリブンギヤ53、第四ドリブンギヤ54、第五ドリブンギヤ55の順にギヤ径が小さくなっている。
【0036】
入力軸31の近傍、又は第一ドライブギヤ41や、第二ドライブギヤ42の近傍には、入力軸31の回転速度Niを検出するための、入力軸回転速度センサ91が設けられている。出力軸32の近傍、又は第三ドリブンギヤ53や、第四ドリブンギヤ54、第五ドリブンギヤ55の近傍には、出力軸32の回転速度Noを検出するための、出力軸回転速度センサ92が設けられている。入力軸回転速度センサ91及び出力軸回転速度センサ92は、TM−ECU13と通信可能に接続され、検出信号をTM−ECU13に出力する。
【0037】
出力軸32は、TMに入力されたトルクをデファレンシャルDFに出力する軸である。出力ギヤ56は、デファレンシャルDFのリングギヤDF−1と噛合し、出力軸32に入力されたトルクを、デファレンシャルDFに出力する。
【0038】
第一噛み合い機構110は、第一ドリブンギヤ51又は第二ドリブンギヤ52を選択して、出力軸32に相対回転不能に連結するものである。従って、第一噛み合い機構110の回転速度は出力軸32の回転速度Noと同一である。第一噛み合い機構110は、第一ドリブンギヤ51と第二ドリブンギヤ52の間に配設されている。図7図8に示すように、第一噛み合い機構110は、第一ハブ111、第一スリーブ112、第一フォーク部材113、第一シフトアクチュエータ114を有している。
【0039】
第一ハブ111は、第一ドリブンギヤ51と第二ドリブンギヤ52の間において、出力軸32に相対回転不能に固定されている。図9に示すように、第一ハブ111の外周には、外歯111aが形成されている。第一スリーブ112は、円環状である。第一スリーブ112の内周には、内歯112aが形成されている。外歯111aと内歯112aが嵌合して、第一スリーブ112は第一ハブ111に対して回転不能、且つ、出力軸32の軸線方向に移動可能に配設されている。
【0040】
図8に示すように、第一ドリブンギヤ51の第一ハブ111に対向する側面には、ドグ歯51aが形成されている。図8図9に示すように、第二ドリブンギヤ52の第一ハブ111に対向する側面には、ドグ歯52aが形成されている。
【0041】
第一スリーブ112が第一ドリブンギヤ51側に移動されれば、内歯112aとドグ歯51aが嵌合して、第一ドリブンギヤ51が出力軸32に相対回転不能に連結される。一方で、第一スリーブ112が第二ドリブンギヤ52側に移動されれば、内歯112aとドグ歯52aが嵌合して、第二ドリブンギヤ52が出力軸32に相対回転不能に連結される。
【0042】
図7図8に示すように、第一フォーク部材113は、シャフト113aとフォーク113bとから構成されている。フォーク113bは、第一スリーブ112の外周部に凹陥形成された係合部112bに係合している。
【0043】
第一シフトアクチュエータ114は、フォーク部材113を介して、第一スリーブ112を第一ドリブンギヤ51側又は第二ドリブンギヤ52側に移動させるとともに、第一ドリブンギヤ51と第二ドリブンギヤ52の中間の第一ニュートラル位置に移動させるサーボモータである。本実施形態では、回転軸114a又は回転軸114aに連結された部材は、シャフト113a又はシャフト113aと連結された部材と螺合している。回転軸114aが回転すると、シャフト113aが軸線方向に移動する。第一シフトアクチュエータ114は、TM−ECU13によって駆動制御される。
【0044】
第一シフトアクチュエータ114が、第一スリーブ112を第一ドリブンギヤ51側に移動させると、第一ドリブンギヤ51が第一スリーブ112を介して、出力軸32に相回転不能に連結され、1速段が形成される。第一シフトアクチュエータ114が、第一スリーブ112を第二ドリブンギヤ52側に移動させると、第二ドリブンギヤ52が第一スリーブ112を介して、出力軸32に相回転不能に連結され、2速段が形成される。第一シフトアクチュエータ114が、第一スリーブ112を、第一ニュートラル位置に移動させると、第一ドリブンギヤ51及び第二ドリブンギヤ52のいずれもが、出力軸32に対して相対回転可能なニュートラル状態となる。
【0045】
第二噛み合い機構120は、第三ドライブギヤ43又は第四ドライブギヤ44を選択して、入力軸31に相対回転不能に連結するものである。従って、第二噛み合い機構130の回転速度は入力軸31の回転速度Niと同一である。第二噛み合い機構120は、上述の第一噛み合い機構110と同様の構造である。第二噛み合い機構120は、第二ハブ121、第二スリーブ122、第二フォーク部材123(不図示)、第二シフトアクチュエータ124(不図示)を有している。
【0046】
第二ハブ121は、第三ドライブギヤ43と第四ドライブギヤ44の間の入力軸31に相対回転不能に固定されている。言い換えると、第二ハブ121は、第三ドライブギヤ43と第四ドライブギヤ44の側方に配設されている。
【0047】
第二スリーブ122は、第二ハブ121と相対回転不能、且つ、入力軸31の軸線方向に移動可能に設けられている。第二スリーブ122は、第三ドライブギヤ43及び第四ドライブギヤ44と係脱する。
【0048】
第二シフトアクチュエータ124は、TM−ECU13によって駆動制御され、第二フォーク部材123を介して、第二スリーブ122を、第三ドライブギヤ43側又は第四ドライブギヤ44側に移動させるとともに、第三ドライブギヤ43と第四ドライブギヤ44の中間の第二ニュートラル位置に移動させる。第二シフトアクチュエータ124が、第二スリーブ122を第三ドライブギヤ43側に移動させると、第三ドライブギヤ43が第二スリーブ122を介して、入力軸31に相対回転不能に連結され、3速段が形成される。第二シフトアクチュエータ124が、第二スリーブ122を第四ドライブギヤ44側に移動させると、第四ドライブギヤ44が第二スリーブ122を介して、入力軸31に相対回転不能に連結され、4速段が形成される。第二シフトアクチュエータ124が、第二スリーブ122を、第二ニュートラル位置に移動させると、第三ドライブギヤ43及び第四ドライブギヤ44のいずれもが、入力軸31に対して相対回転可能なニュートラル状態となる。
【0049】
第三噛み合い機構130は、第五ドライブギヤ45を選択して、入力軸31に相対回転不能に連結するものである。従って、第三噛み合い機構130の回転速度は入力軸31の回転速度Niと同一である。第三噛み合い機構130は、上述の第一噛み合い機構110と同様の構造である。第三噛み合い機構130は、第三ハブ131、第三スリーブ132、第三フォーク部材133(不図示)、第三シフトアクチュエータ134(不図示)を有している。
【0050】
第三ハブ131は、第五ドライブギヤ45の側方の入力軸31に相対回転不能に固定されている。第三スリーブ132は、第三ハブ131と相対回転不能、且つ、入力軸31の軸線方向に移動可能に設けられている。第三スリーブ132は、第五ドライブギヤ45と係脱する。
【0051】
第三シフトアクチュエータ134は、TM−ECU13によって駆動制御され、第三フォーク部材133を介して、第三スリーブ132を、第五ドライブギヤ45側に移動させるとともに、第五ドライブギヤ45から離間した第三ニュートラル位置に移動させる。第三シフトアクチュエータ134が、第三スリーブ132を第五ドライブギヤ45側に移動させると、第五ドライブギヤ45が第三スリーブ132を介して、入力軸31に相回転不能に連結され、5速段が形成される。第三シフトアクチュエータ134が、第三スリーブ132を、第三ニュートラル位置に移動させると、第五ドライブギヤ45が、入力軸31に対して相対回転可能なニュートラル状態となる。
【0052】
デファレンシャルDFは、TMの出力軸32及びモータジェネレータMGの少なくとも一方から入力されたトルクを差動可能に駆動輪Wl、Wrに伝達する装置である。デファレンシャルDFは、出力ギヤ56及びドライブギヤ83と噛合するリングギヤDF−1を有する。このような構造により、出力軸32は、駆動輪Wl、Wrに回転連結されている。
【0053】
減速機80は、モータジェネレータMGのトルクを減速して、デファレンシャルDFに出力するものである。減速機80は、回転軸81、ドリブンギヤ82、ドライブギヤ83を有する。回転軸81には、ドリブンギヤ82、ドライブギヤ83が取り付けられている。回転軸81は、ハウジングに回転可能に軸支されている。ドリブンギヤ82は、モータジェネレータMGによって回転されるドライブギヤMG−1と噛合している。ドリブンギヤ82のギヤ径は、ドライブギヤ83のギヤ径より大きい。ドライブギヤ83は、デファレンシャルDFのリングギヤDF−1と噛合している。
【0054】
モータジェネレータMGは、駆動輪Wl、Wrにトルクを付与するモータとして作動するとともに、車両の運動エネルギーを電力に変換する発電機としても作動するものである。モータジェネレータMGは、図示しないケースに固定されたステータ(不図示)と、このステータの内周側に回転可能に設けられたロータ(不図示)とから構成されている。
【0055】
インバータINVは、モータジェネレータMGのステータ及びバッテリBTと電気的に接続されている。また、インバータINVは、モータジェネレータECU14と通信可能に接続されている。インバータINVは、モータジェネレータECU14からの制御信号に基づいて、バッテリBTから供給される直流電流を、昇圧するとともに交流電流に変換したうえでステータに供給し、モータジェネレータでトルク発生させ、モータジェネレータをモータとして機能させる。また、インバータINVは、モータジェネレータECU14からの制御信号に基づいて、モータジェネレータMGを発電機として機能させ、モータジェネレータMGで発電された交流電流を、直流電流に変換するとともに、電圧を降下させて、バッテリBTを充電する。
【0056】
バッテリBTは、充電可能な二次電池である。バッテリBTは、インバータINVと接続されている。バッテリBTは、バッテリECU15と通信可能に接続されている。
【0057】
ハイブリッドECU11は、ドライバのアクセルペダル95の操作に基づくアクセルセンサ96のアクセル開度Acに基づいて、運転者が要求している「要求出力トルクTd」を演算する。ハイブリッドECU11は、「要求出力トルクTd」に基づいて、「要求モータトルク」及び要求エンジントルクTerを演算する。
【0058】
エンジンECU12は、エンジンEGを制御する電子制御装置である。TM−ECU13は、TMを制御する電子制御装置である。TM−ECU13は、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAM、ROM及び不揮発性メモリー等の「記憶部」を備えている。CPUは、図2図4に示すフローチャートに対応したプログラムを実行する。RAMは同プログラムの実行に必要な変数を一時的に記憶するものであり、「記憶部」は前記プログラムや図10に示す「学習トルク記憶データ」を記憶している。TM−ECU13は、シフトアクチュエータ114〜134からの検出信号に基づいて、各スリーブ112〜132(各フォーク部材113〜133)のストロークを検出することができる。
【0059】
エンジンECU12は、要求エンジントルクTerに基づいて、スロットルバルブEG−3の開度Sを調整し、吸気量を調整するとともに、燃料噴射装置EG−2の燃料噴射量を調整し、点火装置を制御する。
【0060】
これにより、燃料を含んだ混合気の供給量が調整され、エンジン2が出力するエンジントルクTeが要求エンジントルクTerに調整されるとともに、エンジン回転速度Neが調整される。なお、アクセルペダル95が踏まれていない場合には(アクセル開度Ac=0)、エンジン回転速度Neはアイドリング回転速度(例えば、700r.p.m.)に維持される。
【0061】
エンジンECU12は、エンジン回転速度センサEG−4が検出したエンジン回転速度Ne、吸気温センサ(不図示)からの吸気温、吸気圧センサ(不図示)からの吸気圧、吸気流量センサ(不図示)からの吸気流量、燃料噴射装置EG−2が噴射している燃料噴射量に基づいて、実際にエンジンEGが出力しているエンジントルクTeを演算する。
【0062】
モータジェネレータECU14は、インバータINVを制御する電子制御装置である。バッテリECU15は、バッテリBTの充放電状態、温度状態等のバッテリBTの状態を
管理する電子制御装置である。ハイブリッドECU11は、車両の走行を統括制御する上位電子制御装置である。ハイブリッドECU11、エンジンECU12、TM−ECU13、モータジェネレータECU14、バッテリECU15は、CAN(Controller Area Network)によって相互に通信可能となっている。
【0063】
(変速制御)
次に、図2図3図4のフローチャート、及び図5図6図13のタイムチャートを用いて、TM−ECU13が実行する変速制御について説明する。車両が走行可能な状態になると、S1において、TM−ECU13が、ハイブリッドECU11から「変速要求」を受信したと判断した場合には(S1:YES)、プログラムをS2に進め、「変速要求」を受信していないと判断した場合には(S1:NO)、S1の処理を繰り返す。
【0064】
なお、ハイブリッドECU11は、スロットル開度と車両の速度からなる車両の走行状態が、スロットル開度と速度との関係を表した変速線を越えたと判断した場合に、或いは、運転者が、図示しないシフトレバーを操作した場合に、「変速要求」をTM−ECU13に出力する。
【0065】
S2において、TM−ECU13が、受信した「変速要求」がアップ変速であると判断した場合には(S2:YES)(図5のT1)、プログラムをS3に進め、受信した「変速要求」がダウン変速であると判断した場合には(S2:NO)(図6のT1)、プログラムをS30に進める。
【0066】
S3において、TM−ECU13は、「ニュートラル処理」を開始する。この「ニュートラル処理」は、エンジントルクTeを低下させつつ、TMをニュートラルにする処理であり、図4に示すフローチャートを用いて後で詳細に説明する。
【0067】
TM−ECU13は、S4において、エンジンECU12に制御信号を出力することにより、燃料噴射装置EG−2での燃料噴射を停止させてエンジンEGを停止させるとともに(図5、T4)、S14において、モータジェネレータECU14に制御信号を出力することにより、モータジェネレータMGのモータトルクTmを増大させる制御を開始する(図5のd)。すると、図5のcに示すように、エンジンEGの正方向の回転トルクが減少し、エンジンEGの回転トルクが正から負になる。クラッチCは係合状態にあるので、エンジンEGのフリクショントルクである負トルクが、クラッチCを介して入力軸31に入力され、図5のeに示すように、エンジンEG停止に伴い、エンジン回転速度Ne及び入力軸回転速度Niが低下する。なお、モータトルクTmは、車両の加減速を加味して、デファレンシャルDFのリングギヤに入力されるエンジントルクTeの減少分を補完するように制御される。S14が終了すると、プログラムはS15に進む。
【0068】
S15において、S4及びS14と同時に、TM−ECU13は、クラッチアクチュエータ29を駆動することにより、クラッチトルクTcを、完全係合時の伝達トルクよりも低く、低下させたエンジンの回転トルクTeを入力軸31に伝達可能な伝達トルクである規程伝達トルクへ低下させ(図5のf、T5)、クラッチCを所謂半クラッチ状態にする。
【0069】
S16において、TM−ECU13は、TMがニュートラル状態になったと判断した場合には(S16:YES)(図5のT4)、TMがニュートラル状態になっていないと判断した場合には(S16:NO)、S16の処理を繰り返す。
【0070】
なお、TMがニュートラル状態となると、どの遊転ギヤ51、52、43、44、45も入力軸31及び出力軸32に回転連結されていないので、入力軸31と一体回転する部材の回転モーメントは、入力軸31、ドライブギヤ41、42、ハブ121、131、スリーブ122、132、及びクラッチディスク22等の回転モーメントにしか過ぎない。このため、クラッチCが半クラッチ状態であっても、クラッチCが殆ど滑ること無く、駆動シャフトEG−1と入力軸31が一体回転し、エンジン回転速度Neの低下に伴って、確実に入力軸31の回転速度Niが低下する。
【0071】
S18において、TM−ECU13は、次の変速段の遊転ギヤと係合する噛み合い機構と次の変速段の遊転ギヤとの回転速度差が入力軸31の回転速度に基づいて設定された閾値Dを超える状態になったと判断した場合には(S18:YES)(図5のT6)、プログラムをS19に進め、閾値Dを超える状態になっていないと判断した場合には(S18:NO)、S18の処理を繰り返す。
【0072】
この閾値Dは、具体的には、図12に示した制御マップの如くのようになる。この制御マップは、例えば、次の変速段として、第4速へアップシフトする場合に用いるものであり、次の変速段の遊転ギヤには第ドライブギヤ44が該当し、噛み合い機構には第噛み合い機構120が該当し、従って、第噛み合い機構120の回転速度は入力軸31の回転速度Niとなり、又、第ドライブギヤ44の回転速度は、出力軸32の回転速度Noと互いに噛合する第ドリブンギヤ54とのギヤ比Rtの積Ngとなる。
【0073】
図12の制御マップに示す如く、入力軸31と第ドライブギヤ44との回転速度差Ni−Ngにおける閾値Dは、TMがニュートラル状態(図5のT4)になった時の入力軸31の回転速度Niに基づいて設定されたもので、入力軸31の回転速度Niが速いほど大きくして設定されているものである。なお、入力軸31の回転速度Niにおける回転速度差Ni−Ngが、閾値Dを超える状態とは、閾値Dを下回る状態になることを指す。図14に示す特性Ni1はTMがニュートラル状態(図5のT4)になった時の入力軸31の回転速度Niが高い場合における入力軸31の回転速度の変化を示す。又、特性Ni2はTMがニュートラル状態(図5のT4)になった時の入力軸31の回転速度Niが低い場合における入力軸31の回転速度の変化を示す。
【0074】
そして、閾値Dは、具体的には図14に示す如く、特性Ni1の場合を閾値D1で示され、又と特性Ni2の場合は閾値D2ととなり、閾値D1は閾値D2よりも大きく設定されている。
【0075】
図13に示す如く、閾値Dを超える状態になった時(図13のT6)に、クラッチアクチュエータ29の作動を開始する。従って、クラッチアクチュエータ29を作動させてから、噛み合い機構を設けた入力軸31の回転速度Niと、次の変速段の遊転ギヤ44の回転速度Ngとの回転速度差Ni−Ngが所定の幅となる同期回転速度(後で詳細に説明する)に到達する時間即ちアップシフト用のシフトアクチュエータの作動を開始するに要する変速時間(図5及び図13のT6〜T7)は、入力軸31の回転速度Niが速いほどその回転速度Niの下降割合(傾き)大きいので、TMがニュートラル状態(図5のT4)になった時点における入力軸31の回転速度Niの大小にかかわらず均一化できる。
【0076】
図14に基づいて、その理由を以下説明する。噛み合い機構を設けた入力軸31の回転速度Niと、次の変速段の遊転ギヤ44の回転速度Ngとの回転速度差Ni−Ngが所定の幅となる同期回転速度となるタイミングを、特性Ni1ではポイントP1で示され、特性Ni2ではポイントP2で示される。又、クラッチアクチュエータ29を作動させた時点即ち閾値Dを超えた時点からポイントP1又はポイントP2に至る時間は、特性Ni1の場合はTs1で示され、特性Ni2の場合はTs2で示され、そのTs1とTs2とは時間の長さは同一であることから明らかである。これに伴い、クラッチCを切断してから同期回転速度に到達するまでの時間即ちアップシフトに要する変速時間を均一化できて、ドライバの違和感をなくすることが可能となる。又、この結果、この閾値Dを入力軸31の回転速度Niにかかわらず固定した場合に比べて、入力軸31の回転速度Niが速い場合ほど、クラッチCを切断してからアップシフトに要する変速時間を短縮することができる。なお、図13のT6aは、クラッチCが完全に断状態に至ったタイミングを示す。
【0077】
図12に示した制御マップの如く、入力軸31と第ドライブギヤ44との回転速度差Ni−Ngにおける閾値Dは、又、TMがニュートラル状態(図5のT4)になった時の要求出力トルクTdに基づいて設定されたものであり、要求出力トルクTdが大きいほど大きくて設定されているものである。図14に示す特性Ng1はTMがニュートラル状態(図5のT4)になった時の要求出力トルクTdが大きい場合における遊転ギヤ44の回転速度の変化を示す。又、特性Ng2はTMがニュートラル状態(図5のT4)になった時の要求出力トルクTdが小さい場合における遊転ギヤ44の回転速度の変化を示す。
【0078】
図13に示す如く、要求出力トルクTdに基づいて設定された閾値Dを超える状態になった時(図13のT6)に、クラッチアクチュエータ29の作動を開始する。従って、クラッチアクチュエータ29を作動させてから、噛み合い機構を設けた入力軸31の回転速度Niと、次の変速段の遊転ギヤ44の回転速度Ngとの回転速度差Ni−Ngが所定の幅となる同期回転速度に到達する時間即ちアップシフト用のシフトアクチュエータの作動を開始するに要する変速時間(図5及び図13のT6〜T7)は、要求出力トルクTdが大きいほど遊転ギヤ44の回転速度Ng(出力軸32の回転速度Noと互いに噛合する第ドリブンギヤ54とのギヤ比Rtの積)の上昇割合(傾き)大きいので、TMがニュートラル状態(図5のT4)になった時点における要求出力トルクTdの大小にかかわらず均一化できる。
【0079】
図14に基づいて、その理由を以下説明する。噛み合い機構を設けた入力軸31の回転速度Niと、次の変速段の遊転ギヤ44の回転速度Ngとの回転速度差Ni−Ngが所定の幅となる同期回転速度となるタイミングを、特性Ng1ではポイントP1で示され、特性Ng2ではポイントP2で示される。又、クラッチアクチュエータ29を作動させた時点即ち閾値Dを超えた時点からポイントP1又はポイントP2に至る時間は、特性Ng1の場合はTs1で示され、特性Ng2の場合はTs2で示され、そのTs1とTs2とは時間の長さは同一であることから明らかである。これに伴い、クラッチCを切断してから同期回転速度に到達するまでの時間即ちアップシフトに要する変速時間を均一化できて、ドライバの違和感をなくすることが可能となる。又、この結果、この閾値Dを要求出力トルクTdにかかわらず固定した場合に比べて、要求出力トルクTdが大きい場合ほど、クラッチCを切断してからアップシフトに要する変速時間を短縮することができる。これは、要求出力トルクTdは、出力軸32の回転速度Noに応じており、噛み合い機構の回転速度は出力軸32の回転速度Noと同一となる構成、又は、次の変速段の遊転ギヤの回転速度Ngはその出力軸32の回転速度Noに次の変速段の遊転ギヤによるギヤ比Rtの積となる構成とのいずれか一方であるため、従って、噛み合い機構と次の変速段の遊転ギヤとの一方は、出力軸32の回転速度Noに応じていることに基づいて導かれることは明らかである。
【0080】
なお、閾値DのD1、D2に対する時間Ts1と時間Ts2とが同一となる説明に関し、説明の都合上、特性Ni1、Ni2,Ng1,Ng2ともに変化している場合を用いたが、特性Ng1と特性Ng2とを同一として、特性Ni1と特性Ni2における各閾値D1とD2を変化させて時間Ts1と時間Ts2とが同一となることが成立することは明らかであり、又、特性Ni1と特性Ni2とを同一として、特性Ng1と特性Ng2における各閾値D1とD2を変化させて時間Ts1と時間Ts2とが同様に同一となることも明らかである。
【0081】
S19において、TM−ECU13は、クラッチアクチュエータ29を駆動することにより、クラッチトルクTcを0にして(図5のg)、クラッチCを切断する制御を開始する。S19が終了すると、プログラムは、S20に進む。
【0082】
S20において、TM−ECU13が、クラッチアクチュエータ29からの検出信号に基づいて、クラッチトルクTcが0となり、クラッチCが切断状態にあると判断した場合には(S20:YES)、プログラムをS21に進め、クラッチCが切断状態にないと判断した場合には(S20:NO)、S20の処理を繰り返す。
【0083】
S21において、TM−ECU13は、入力軸回転速度センサ91からの検出信号に基づいて、入力軸31の回転速度Niが「同期回転速度」に低下したと判断した場合には(S21:YES)(図5のT7)、プログラムをS22に進め、入力軸31の回転速度が「同期回転速度」に低下していないと判断した場合には(S21:NO)、S21の処理を繰り返す。
【0084】
なお、「同期回転速度」は、次変速段の遊転ギヤ52、43、44、45と、これが回転連結される入力軸31又は出力軸32との回転速度差が所定の幅をもった「許容回転速度差」の範囲内となる入力軸31の回転速度である。具体的には、「同期回転速度」は、3速、4速、5速にアップ変速する場合には、第三〜第五ドライブギヤ43〜45の回転速度Ngと入力軸31の回転速度Niとの回転速度差Ni−Ngが、「許容回転速度差」の範囲内となり、ドライブギヤ43、44、45と入力軸31が殆ど同期している状態の入力軸31の回転速度Niである。なお、2速にアップ変速する場合には、第二ドリブンギヤ52の回転速度Ngと出力軸32の回転速度Noとの回転速度差Ng−Noが、「許容回転速度差」の範囲内となり、第二ドリブンギヤ52と出力軸32が殆ど同期している状態の入力軸31の回転速度Niである。
【0085】
「許容回転速度差」とは、第三、四ドライブギヤ43、44と入力軸31との間に回転速度差が有ったとしても、第二スリーブ122を第三、四ドライブギヤ43、44に係合させることができる回転速度差であり、更に、第五ドライブギヤ45と入力軸31との間に回転速度差が有ったとしても、第三スリーブ132を第五ドライブギヤ45に係合させることができる回転速度差である。或いは、第二ドリブンギヤ52と出力軸32との間に回転速度差が有ったとしても、第一スリーブ112を第二ドリブンギヤ52に係合させることができる回転速度差である。「同期回転速度」は、TM−ECU13によって、入力軸回転速度センサ91及び出力軸回転速度センサ92からの検出信号に基づいて算出される。
【0086】
S22において、TM−ECU13は、アップ側の次変速段に対応するシフトアクチュエータを駆動して、変速段の第一〜第三スリーブ112〜132のいずれかを移動させて、次変速段を形成するアップシフトを開始する。S22が終了すると、プログラムはS23に進む。
【0087】
S23において、TM−ECU13は、シフトアクチュエータから出力された信号に基づいて、アップシフトが完了したと判断した場合には(S23:YES)(図5のT8)、プログラムをS24に進め、アップシフトが完了していないと判断した場合には(S23:NO)、S23の処理を繰り返す。
【0088】
S24において、TM−ECU13は、クラッチアクチュエータ29を駆動することにより、クラッチトルクTcが完全係合時の伝達トルクとなるまで、クラッチトルクTcを徐々に増大させる制御を開始する(図5のh)。
【0089】
S25において、S24と同時に、TM−ECU13は、エンジンECU12に、制御信号を出力し、エンジンEGを始動させるとともに、エンジントルクTeをアクセル開度Acに基づいて演算された要求エンジントルクTerに復帰させる制御を開始する(図5のi)。この結果、エンジントルクTeは増大する。
【0090】
S26において、S24やS25と同時に、TM−ECU13は、モータジェネレータECU14に、制御信号を出力し、モータトルクTmをアクセル開度Acに基づいて演算された要求モータトルクに復帰させる制御を開始する(図5のj)。この結果モータトルクTmは減少する。S24〜S26が終了すると、プログラムはS27に進む。
【0091】
S27において、TM−ECU13は、クラッチアクチュエータ29からの検出信号に基づいて、クラッチCが完全係合状態にあると判断した場合には(S27:YES)(図5のT9)、プログラムをS28に進め、クラッチCが完全係合状態でないと判断した場合には(S27:NO)、S27の処理を繰り返す。
【0092】
S28において、TM−ECU13は、ハイブリッドECU11、エンジンECU12、モータジェネレータECU14に「変速完了信号」を出力することにより、エンジンEGの制御権限をエンジンECU12に渡し、モータジェネレータMGの制御権限をモータジェネレータECU14に渡す。S28が終了すると、プログラムは、S1に戻る。
【0093】
次に、図3のフローチャート及び図6のタイムチャートを用いて、ダウンシフトについて説明する。
【0094】
S30において、TM−ECU13は、「ニュートラル処理」を開始する。この「ニュートラル処理」は、エンジントルクTeを低下させつつ、TMをニュートラルにする処理であり、図4に示すフローチャートを用いて後で詳細に説明する。
【0095】
TM−ECU13は、S33において、エンジンECU12に制御信号を出力することにより、燃料噴射装置EG−2での燃料噴射を停止させてエンジンEGを停止させる(図6、T4)。
【0096】
S34において、S33と同時に、TM−ECU13は、モータジェネレータECU14に制御信号を出力することにより、図6のkに示すように、モータジェネレータMGのモータトルクTmを増大させる制御を開始する。なお、モータトルクTmは、車両の加減速を加味して、デファレンシャルDFのリングギヤに入力されるエンジントルクTeの減少分を補完するように制御される。
【0097】
S35において、S33及びS34と同時に、TM−ECU13は、クラッチアクチュエータ29を駆動することにより、図6のmに示すように、クラッチトルクTcを徐々に低下させて、所定時間経過後(T4〜T5の経過時間)に、クラッチトルクTcが0となるような制御を開始する。S30、S33〜S35が終了すると、プログラムはS36に進む。
【0098】
S36において、TM−ECU13は、TMがニュートラル状態となったと判断した場合には(S36:YES)、プログラムをS37に進め、TMがニュートラル状態となっていないと判断した場合には(S36:NO)、S36の処理を繰り返す。
【0099】
S37において、TM−ECU13は、クラッチアクチュエータ29を駆動することにより、クラッチトルクTcを増大させる制御を開始する(図6のn)。S37が終了すると、プログラムは、S38に進む。
【0100】
S38において、TM−ECU13は、クラッチアクチュエータ29からの検出信号に基づいて、クラッチトルクTcが「規程値」に達したと判断した場合には(S38:YES)(図6のT6、図6のp)、プログラムをS39に進め、クラッチトルクTcが規程値に達していないと判断した場合には(S38:NO)、S38の処理を繰り返す。
【0101】
S39において、TM−ECU13は、「エンジン回転速度制御」を実行する。具体的には、TM−ECU13は、クラッチアクチュエータ29を駆動することにより、図6のqに示すように、クラッチトルクTcが「規程値」に維持されるように制御して、クラッチCを半クラッチ状態にする。そして、TM−ECU13は、エンジンECU12に制御信号を出力することにより、図6のrに示すように、エンジンEGを始動させるとともに、エンジン回転速度Neを徐々に増大させる制御を開始する。すると、クラッチCは半クラッチ状態であるので、図6のsに示すように、入力軸31の回転速度Niは、エンジン回転速度Neの増大に伴って、徐々に増大する。S39が終了すると、プログラムは、S40に進む。
【0102】
S40において、TM−ECU13は、入力軸回転速度センサ91からの検出信号に基づいて、入力軸31の回転速度Niが「規程回転速度」に達したと判断した場合には(S40:YES)(図6のT7)、プログラムをS41に進め、入力軸31の回転速度Niが「規程回転速度」に達していないと判断した場合には(S40:NO)、S40の処理を繰り返す。「規程回転速度」は、後述の「ダウン側同期回転速度」よりも所定回転速度高い回転速度である。
【0103】
S41において、TM−ECU13は、エンジンECU12に制御信号を出力することにより、エンジンEGを停止させて、「エンジン回転速度制御」を停止させる。また、TM−ECU13は、クラッチアクチュエータ29を駆動することにより、クラッチトルクTcを0にして、クラッチCを切断する制御を開始する。S41が終了すると、プログラムは、S42に進む。
【0104】
S42において、TM−ECU13は、入力軸回転速度センサ91からの検出信号に基づいて、入力軸31の回転速度Niが「ダウン側同期回転速度」よりも低下し、且つ、クラッチCが切断状態にあると判断した場合には(S42:YES)(図6のT8)、プログラムをS43に進め、入力軸31の回転速度Niが「ダウン側同期回転速度」より低下していない判断した場合、又は、クラッチCが切断していないと判断した場合には(S42:NO)、S42の処理を繰り返す。なお、「ダウン側同期回転速度」は、ダウン側の次変速段の遊転ギヤ51、52、43、44と、これが回転連結される入力軸31又は出力軸32との回転速度差が所定の幅をもった「許容回転速度差」の範囲内となる入力軸31の回転速度である。
【0105】
S43において、TM−ECU13は、ダウン側の次変速段に対応するシフトアクチュエータを駆動して、第一〜第三スリーブ112〜132のいずれかを移動させて、次変速段を形成するダウンシフトを開始する。S43が終了すると、プログラムはS44に進む。
【0106】
S44において、TM−ECU13は、シフトアクチュエータから出力された信号に基づいて、ダウンシフトが完了したと判断した場合には(S44:YES)(図6のT9)、プログラムをS44に進め、ダウンシフトが完了していないと判断した場合には(S44:NO)、S44の処理を繰り返す。
【0107】
S45において、TM−ECU13は、クラッチアクチュエータ29駆動することにより、クラッチトルクTcが完全係合時の伝達トルクとなるまで、クラッチトルクTcを徐々に増大させる制御を開始する(図6のt)。S45が終了すると、プログラムは、S46に進む。
【0108】
S46において、S45と同時に、TM−ECU13は、エンジンECU12に、制御信号を出力し、エンジンEGを始動させるとともに、エンジントルクTeをアクセル開度Acに基づいて演算された要求エンジントルクTerに復帰させる制御を開始する(図6のu)。この結果、エンジントルクTeは増大する。
【0109】
S47において、S45及びS46と同時に、TM−ECU13は、モータジェネレータECU14に、制御信号を出力し、モータトルクTmをアクセル開度Acに基づいて演算された要求モータトルクに復帰させる制御を開始する(図6のv)。この結果モータトルクTmは減少する。S45〜S47が終了すると、プログラムはS48に進む。
【0110】
S48において、TM−ECU13は、クラッチアクチュエータ29からの検出信号に基づいて、クラッチCが完全係合状態にあると判断した場合には(S48:YES)(図6のT10)、プログラムをS49に進め、クラッチCが完全係合状態でないと判断した場合には(S48:NO)、S48の処理を繰り返す。
【0111】
S49において、TM−ECU13は、ハイブリッドECU11、エンジンECU12、モータジェネレータECU14に「変速完了信号」を出力することにより、エンジンEGの制御権限をエンジンECU12に渡し、モータジェネレータMGの制御権限をモータジェネレータECU14に渡す。S49が終了すると、プログラムは、S1に戻る。
【0112】
(ニュートラル処理)
次に、図4のフローチャート、図5及び図6のタイムチャートを用いて、TM−ECU13が実行する「ニュートラル処理」について説明する。「ニュートラル処理」が開始すると、S101において、TM−ECU13は、規定トルクTer1を演算する。具体的には、TM−ECU13は、図10に示す「学習トルク記憶データ」を参照して、現在の変速段に対応する学習トルクTrを取得し、当該学習トルクTrに調整トルクTαを加算して、規定トルクTer1を演算する。本実施形態では、規定トルクTer1は、下式(1)に基づいて演算される。
【0113】
Ter1=Tr×(1+α)…(1)
Ter1…規定トルク
Tr…学習トルク
α…調整値
なお、学習トルクTrは、後述のS106の処理によって記憶されたトルクであり、現在の変速段に対応する学習トルクTrが選択される。また、S106の処理が一度も実行されていない場合には、予め設定されている初期値を学習トルクTrに用いる。なお、調整値αは、0以上1以下の値である。本実施形態では、調整値αは、0.2が用いられる。また、上述の調整トルクTαは、規定トルクTer1に調整値αを乗算した値である。
【0114】
次に、TM−ECU13は、演算した規定トルクTer1となるように、エンジンEGを制御する(図5図6のa、T1)。S101が終了すると、プログラムはS102に進む。
【0115】
S102において、TM−ECU13は、実際のエンジントルクTeが規定トルクTer1となったと判断した場合には(S102:YES)、プログラムをS103に進め、実際のエンジントルクTeが規定トルクTer1となっていないと判断した場合には(S102:NO)、S102の処理を繰り返す。
【0116】
S103において、TM−ECU13は、シフトアクチュエータに制御信号を出力して駆動することにより、スリーブ112〜132のニュートラル位置への移動を開始する(図5図6のT2)。S103が終了すると、プログラムはS104に進む。
【0117】
S104において、TM−ECU13は、要求エンジントルクTerを徐々に低下させる制御を開始する。本実施形態では、TM−ECU13は、下式(2)に基づいて要求エンジントルクTer(n)を演算する。
Ter(n)=Ter(n−1)−Det×et…(2)
Ter(n):要求エンジントルク
Ter(n−1):前回演算された要求エンジントルク
Det:エンジントルク減少速度
et:前回のS104からの経過時間
【0118】
なお、S104がはじめて実行される場合には、要求エンジントルクTer(n−1)は、S101で演算された要求エンジントルクTerである。次に、TM−ECU13は、要求エンジントルクTerとなるように、エンジンEGを制御する。すると、エンジントルクTeは徐々に低下する(図5図6のb)。S104が終了すると、プログラムはS105に進む。
【0119】
S105において、TM−ECU13は、シフトアクチュエータのストロークが開始したと判断した場合には(S105:YES、図5図6のT3)、プログラムをS106に進め、シフトアクチュエータのストロークが開始していないと判断した場合には(S105:NO)、プログラムをS104に戻す。
【0120】
S106において、TM−ECU13は、現在のエンジンEGが発生しているエンジントルクTeと現在形成されている変速段を対応付けして、図10に示す「学習トルク記憶データ」に更新記憶する。S106が終了すると、プログラムはS107に進む。
【0121】
S107において、TM−ECU13は、上式(2)に基づいて要求エンジントルクTer(n)を演算する。次に、TM−ECU13は、要求エンジントルクTerとなるように、エンジンEGを制御する。S107が終了するとプログラムは、S108に進む。
【0122】
S108において、TM−ECU13が、駆動しているシフトアクチュエータ114〜134のストロークに基づき、TMがニュートラルになったと判断した場合には(S108:YES、図5図6のT4)、「ニュートラル処理」を終了させ、TMがニュートラルになっていないと判断した場合には(S108:NO)、プログラムをS107に戻す。
【0123】
(本実施形態の効果)
上述した説明から明らかなように、TM−ECU13は、現在の変速段から次の変速段に変速を実行する際には、クラッチCを完全に切断することなく係合させたまま、エンジントルクTeを徐々に低下させつつ(図5図6のb、図4のS104)、シフトアクチュエータ114〜134を作動させて、現在の変速段の遊転ギヤ51、52、43、44、45と係合しているスリーブ112、122、132(噛み合い機構)を遊転ギヤ51、52、43、44、45から離脱させる。
【0124】
このように、エンジントルクTeを低下させることにより、スリーブ112、122、132と遊転ギヤ51、52、43、44、45間や、スリーブ112、122、132とハブ111、121、131間との回転方向の荷重が低下し、当該部材間の軸線方向の摩擦抵抗が低下する。このため、スリーブ112、122、132の軸線方向への移動が可能となり、スリーブ112、122、132が遊転ギヤ51、52、43、44、45から離脱する。
【0125】
このように、スリーブ112、122、132を遊転ギヤ51、52、43、44、45から離脱させるのに、クラッチCを切断する必要が無いことから、クラッチCの切断の時間分、スリーブ112、122、132を遊転ギヤ51、52、43、44、45から離脱させる時間を短縮することができる。このため、トランスミッションTMをニュートラル状態にする時間を短縮させることができ、結果として、変速時間を短縮させることができる。
【0126】
また、TM−ECU13は、エンジントルクTeを徐々に低下させて、シフトアクチュエータ114〜134を作動させている。これにより、急激にエンジントルクTeが低下して、スリーブ112、122、132にエンジンEGのフリクショントルクが作用することに起因して、スリーブ112、122、132と遊転ギヤ51、52、43、44、45間や、スリーブ112、122、132とハブ111、121、131間との回転方向の荷重が増大し、当該部材間の摩擦抵抗が増大し、スリーブ112、122、132が遊転ギヤ51、52、43、44、45から離脱不能となってしまうことを防止することができる。このため、クラッチCを切断しなくても、確実にトランスミッションTMをニュートラル状態にすることができる。
【0127】
また、TM−ECU13は、エンジントルクTeを規定トルクTer1まで低下させてから(図4のS101、図5図6のa)、エンジントルクTeを徐々に低下させつつ(図4のS104、図5図6のb)、シフトアクチュエータ114〜134を作動させる(図4のS103)。
【0128】
このように、エンジントルクTeを規定トルクTer1まで低下させてから(図4のS101、図5図6のa)、エンジントルクTeを徐々に低下させるので、エンジントルクTeを規定トルクTer1まで低下させずに、エンジントルクTeを徐々に低下させた場合と比較して、スリーブ112、122、132を遊転ギヤ51、52、43、44、45から離脱させる時間を短縮することができ、より短時間でトランスミッションTMをニュートラル状態にすることができる。
【0129】
TM−ECU13は、現在の変速段の遊転ギヤ51、52、43、44、45と係合しているスリーブ112、122、132を遊転ギヤ51、52、43、44、45から離脱させる際において、スリーブ112、122、132の移動を検知した際のエンジントルクTeを学習トルクTrとして記憶し(図4のS106)、学習トルクTrに基づいて、規定トルクTer1を演算する(図4のS101)。
【0130】
このように、スリーブ112、122、132の移動を検知した際のエンジンEGのトルクである学習トルクTrに基づいて、規定トルクTer1が演算されるので、図11に示すように、スリーブ112、122、132にエンジンEGのフリクショントルクが作用しない規定トルクTer1からエンジントルクTeを徐々に低下させることができる。このため、スリーブ112、122、132にエンジンEGのフリクショントルクが作用することに起因して、スリーブ112、122、132が遊転ギヤ52、43、44、45から離脱不能となってしまうことを防止することができる。また、現在の変速段の遊転ギヤ52、43、44、45と係合しているスリーブ112、122、132を遊転ギヤ52、43、44、45から離脱させる時間を短縮することができ、より短時間でトランスミッションTMをニュートラル状態にすることができる。
【0131】
また、TM−ECU13は、学習トルクTrに調整トルクTαを加算して、規定トルク
Ter1を演算する(図4のS101)。これにより、エンジントルクTeを学習トルク
Trにする制御にズレが生じたとしても、図11に示すように、確実にスリーブ112、122、132にエンジンEGのフリクショントルクが作用しないトルクからエンジントルクTeを徐々に低下させることができる。このため、スリーブ112、122、132にエンジンEGのフリクショントルクが作用することに起因して、スリーブ112、122、132が遊転ギヤ52、43、44、45から離脱不能となってしまうことを確実に防止することができる。なお、調整トルクTαは、エンジントルクTeを学習トルクTrにする制御に最大のズレが生じたとしても、スリーブ112、122、132にエンジンEGのフリクショントルクが作用しないような値に設定されている。
【0132】
また、TM−ECU13は、現在の変速段の遊転ギヤ52、43、44、45と係合しているスリーブ112、122、132を遊転ギヤ52、43、44、45から離脱させる際において、スリーブ112、122、132の移動を検知した際の学習トルクTrと変速段を記憶し(図4のS106)、現在形成されている変速段に対応する学習トルクTrに基づいて、規定トルクTer1を演算する(図4のS101)。
【0133】
各変速段において、スリーブ112、122、132と遊転ギヤ52、43、44、45やハブ111〜131との摩擦係数は異なり、変速比も異なる。このため、各変速段において、スリーブ112、122、132と遊転ギヤ52、43、44、45やハブ111〜131との軸線方向の摩擦抵抗も異なる。上述のとおり、現在形成されている変速段に対応する学習トルクTrに基づいて、各変速段に応じた最適な規定トルクTer1を演算するので、各変速段における、スリーブ112、122、132と遊転ギヤ52、43、44、45やハブ111〜131との軸線方向の摩擦抵抗の相違に起因して、スリーブ112、122、132が遊転ギヤ52、43、44、45から離脱不能となってしまうことを確実に防止することができる。
【0134】
また、クラッチCを切断すること無く、スリーブ112、122、132を遊転ギヤ52、43、44、45から離脱させているので、TM−ECU13が、エンジンEGの回転速度が低下するように、エンジントルクTeが低下させることにより、入力軸31の回転数を低下させることができる。
【0135】
このため、次の変速段の遊転ギヤ52、43、44、45とこれに対応するスリーブ112、122、132との回転速度差を減少させることができ、遊転ギヤ52、43、44、45とスリーブ112、122、132を係合させてアップシフトを実行することができ、シンクロ機構を省略することができる。このため、シンクロ機構の摺動に起因する機械的損失を低減することができる。また、シンクロ機構を作動させるための高出力なシフトアクチュエータを必要としないので、車両用駆動装置100のコストを低減することができ、更に車両用駆動装置100の質量を低減することができる。このように、コストアップや質量増とならずに、機械的損失を抑制することができる車両用駆動装置100を提供することができる。
【0136】
また、TM−ECU13は、クラッチCの切断後に、入力軸31の回転速度が、次の変速段の遊転ギヤ52、43、44、45と当該遊転ギヤ52、43、44、45が設けられている入力軸31又は出力軸32との回転速度差が所定の幅をもった「許容回転速度差」の範囲内となるような入力軸31の回転速度である「同期回転速度」に低下した際に(図2のS21:YES)、シフトアクチュエータ114〜134を作動させて、次の変速段の遊転ギヤ52、43、44、45を入力軸31又は出力軸32に回転連結させる(S22)。
【0137】
これにより、次の変速段の遊転ギヤ52、43、44、45とこれに係合されるスリーブ112、122、132が殆ど同期した状態で、遊転ギヤ52、43、44、45とスリーブ112、122、132が係合する。このため、確実に次の変速段の遊転ギヤ52、43、44、45をこれが設けられている入力軸31又は出力軸32と回転連結させることができ、確実に、アップシフトを実行することができ、スリーブ112、122、132と遊転ギヤ52、43、44、45との回転速度差に起因する、スリーブ112、122、132と遊転ギヤ52、43、44、45の係合時のショックを低減することができ、シフトアップに伴う車両用駆動装置100のシフトショックや異音の発生を低減させ
ることができる。
【0138】
また、TM−ECU13は、スリーブ112、122、132を遊転ギヤ51、52、43、44、45から離脱させた後に、クラッチCを切断し(図2のS19、図3のS41)、シフトアクチュエータ114、124、134を作動させて次の変速段の遊転ギヤ
51、52、43、44、45と係合するスリーブ112、122、132を遊転ギヤ51、52、43、44、45に係合させることにより、次の変速段の遊転ギヤを当該遊転ギヤが設けられている軸に回転連結させる(図2のS22、図3のS43)。
【0139】
このように、クラッチCを切断してから、次の変速段の遊転ギヤ51、52、43、44、45を当該遊転ギヤ51、52、43、44、45が設けられている軸31、32に回転連結させるので、遊転ギヤ51、52、43、44、45を軸31、32に回転連結させる際に、遊転ギヤ51、52、43、44、45や、スリーブ112、122、132、軸31、32に負担がかからない。このため、クラッチCを係合させたまま、遊転ギヤ51、52、43、44、45を軸31、32に回転連結させるのと比較して、遊転ギヤ51、52、43、44、45や、スリーブ112、122、132、軸31、32の耐久性の低下を防止することができる。
【0140】
(別の実施形態)
以上説明した実施形態では、モータジェネレータMGが搭載されたハイブリッド車両について、本発明の車両用駆動装置について説明した。しかし、モータジェネレータMGの代わりに、発電機能を有さないモータが搭載された車両にも、本発明の技術的思想が適用可能なことは言うまでもない。或いは、モータジェネレータMGやモータを有さず、エンジンEGのみのトルクで走行する車両にも、本発明の技術的思想が適用可能なことは言うまでもない。
【0141】
以上説明した実施形態では、遊転ギヤ51、52、43、44、45と軸31、32を回転不能に回転連結する噛み合い機構は、スリーブ112〜132である。しかし、前記噛み合い機構が、軸31、32と相対回転不能、且つ、軸線方向に移動可能に設けられたハブ111〜131である実施形態であっても差し支え無い。
【0142】
以上説明した実施形態では、TMは、ドグクラッチ式のトランスミッションである。しかし、シンクロナイザリング等のシンクロ機構を有するトランスミッションにも本発明の技術的思想が適用可能なことは言うまでもない。
【0143】
以上説明した実施形態では、図4のS106において、ECU13は、現在のエンジンEGが発生しているエンジントルクTeと現在形成されている変速段を対応付けして、図10に示す「学習トルク記憶データ」に更新記憶している。しかし、ECU13が、現在の要求エンジントルクTerと現在形成されている変速段を対応付けして、図10に示す「学習トルク記憶データ」に更新記憶する実施形態であっても差し支え無い。
【0144】
上述の如く、本発明の実施形態による車両用駆動装置によれば、エンジンEGの回転トルクTeが伝達される駆動シャフトEG−1と、入力軸31と、前記入力軸31と平行に配設され駆動輪Wl,Wrに回転連結された出力軸32と、前記入力軸31及び前記出力軸32の一方に遊転可能に設けられた複数の遊転ギヤ43、44、45、51、52と、前記入力軸31及び前記出力軸32の他方に相対回転不能に固定され、前記複数の遊転ギヤとそれぞれ噛合する複数の固定ギヤ53,54,55、41、42と、前記複数の遊転ギヤの側方に、前記遊転ギヤが回転連結された軸に相対回転不能且つ前記軸31、32の軸線方向に移動可能に設けられ、前記複数の遊転ギヤと相対回転不能に係合して前記遊転ギヤと前記軸を回転不能に回転連結する複数の噛み合い機構112、122,132と、前記複数の噛み合い機構をそれぞれ前記軸線方向に移動させて、前記複数の噛み合い機構を、前記それぞれ対応する遊転ギヤに相対回転不能に係合させるとともに、前記複数の噛み合い機構を、それぞれ対応する遊転ギヤから相対回転可能に離脱させるシフトアクチュエータ114、124,134と、を有する自動変速装置TMと、前記駆動シャフトEG−1と前記入力軸31との間に設けられ、前記駆動シャフトEG−1と前記入力軸31間を断接するクラッチCと、当該クラッチCを作動させるクラッチアクチュエータ29と、現在の変速段から次の変速段にアップシフトを実行する際に、現在の変速段の遊転ギヤに係合した噛み合い機構を離脱させて自動変速装置TMをニュートラル状態とし、エンジンEGの回転トルクTeを低下させてクラッチCを介して入力軸31の回転速度Niを低下させるとともに、次の変速段の遊転ギヤ44と係合する噛み合い機構122と次の変速段の遊転ギヤ44との回転速度差Ni−Ngが入力軸31の回転速度Niに基づいて設定された閾値Dを超える状態になった時に、前記クラッチアクチュエータ29の作動を開始して前記クラッチCを切断し、次いで前記シフトアクチュエータ114、124,134を作動させて前記次の変速段の遊転ギヤと係合する前記噛み合い機構112、122,132を前記次の変速段の遊転ギヤに係合させるアップシフト制御部13を有する構成であるので、アップシフト制御部13は、エンジンEGの回転速度Neが低下するように、エンジンEGの回転トルクTeを低下させることにより、クラッチCを介して入力軸31の回転速度Niを低下させることができる。このため、次の変速段の遊転ギヤと、この遊転ギヤが回転連結された軸に設けられた噛み合い機構との回転速度差Ni−Ngを減少させて同期化することができて、遊転ギヤと噛み合い機構とを係合させることができることにより、シンクロ機構を省略することができる。即ち、次の変速段の遊転ギヤが回転連結されるとともに噛み合い機構を設けた軸を入力軸31と出力軸32の一方とすると、入力軸31と出力軸32との他方は次の変速段の遊転ギヤと連結される構成であるため、仮に、軸を前記入力軸31とすると、軸の回転速度即ち噛み合い機構の回転速度は、入力軸31の回転速度Niであり、又、その噛み合い機構と噛み合う次の変速段の遊転ギヤの回転速度Ngは、出力軸32の回転速度Noに次の変速段のギヤ比Rtとの積となり、又一方、軸を出力軸32とすると、軸の回転速度即ち噛み合い機構の回転速度は、出力軸32の回転速度Noとなり、又、その噛み合い機構と噛み合う次の変速段の遊転ギヤの回転速度Ngは、入力軸31の回転速度Niに次の変速段のギヤ比Rtとの積であるため、この結果、いずれの場合でも、入力軸31の回転速度Niを低下させることにより、次の変速段の遊転ギヤと、この遊転ギヤが回転連結された軸に設けられた噛み合い機構との回転速度差Ni−Ngを減少させて同期化することができて、遊転ギヤと噛み合い機構とを係合させることができる。従って、シンクロ機構の摺動に起因する機械的損失を低減することができる。また、シンクロ機構を作動させるための高出力なシフトアクチュエータを必要としないので、車両用駆動装置のコストを低減することができ、更に車両用駆動装置の質量を低減することができる。このように、コストアップや質量増とならずに、機械的損失を抑制することができる車両用駆動装置を提供することができる。又、前記次の変速段の前記遊転ギヤと係合する前記噛み合い機構と前記次の変速段の前記遊転ギヤとの回転速度差が入力軸31の回転速度Niに基づいて設定された閾値Dを超える状態になった時に、クラッチアクチュエータ29の作動を開始する。従って、クラッチアクチュエータ29を作動させてから、噛み合い機構を設けた入力軸31の回転速度Niと、次の変速段の遊転ギヤの回転速度Ngとの回転速度差Ni−Ngが所定の幅となる同期回転速度に到達する時間即ちアップシフトに要する変速時間は、入力軸31の回転速度Niが速いほどその回転速度Niの下降割合(傾き)が大きいので、クラッチアクチュエータ29の作動を開始した時点における入力軸31の回転速度Niの大小にかかわらず均一化できるため、クラッチCを切断してからアップシフトに要する変速時間を均一化できて、ドライバの違和感をなくすることが可能となる。又、この結果、この閾値Dを入力軸31の回転速度Niにかかわらず固定した場合に比べて、入力軸31の回転速度Niが速い場合ほど、クラッチCを切断してからアップシフトに要する変速時間を短縮することができる。
【0145】
上述の如く、本発明の実施形態による車両用駆動装置によれば、駆動輪Wl、Wrに回転連結され、駆動輪Wl、Wrに回転トルクを出力するモータMGを有し、アップシフト制御部13は、ニュートラル状態において、要求出力トルクTdに応じてモータMGの回転トルクTmを増大させるとともに、要求出力トルクTdに基づいて閾値Dを設定する構成であるので、アップシフト制御部13は、ニュートラル状態において、要求出力トルクTdに応じてモータMGの回転トルクTmを増大させる。従って、エンジンEGの回転トルクTeの低下に伴う車両の減速を防止又は抑制することができ、車両用駆動装置のドライバビリティの低下を防止することができる。また、要求出力トルクTdに基づいて設定した閾値Dを超えた時に、クラッチアクチュエータ29の作動を開始することにより、クラッチアクチュエータ29を作動させてから、噛み合い機構と次の変速段の遊転ギヤとの回転速度差が所定の幅となる同期回転速度に到達する時間は、要求出力トルクTdが大きいほど噛み合い機構又はその次の変速段の遊転ギヤとの一方におけるその回転速度の上昇割合(傾き)が大きいので、要求出力トルクTdの大小にかかわらず均一化できるため、クラッチCを切断してからアップシフトに要する変速時間を均一化できて、ドライバの違和感をなくすることが可能となる。又、この結果、この閾値Dを要求出力トルクTdにかかわらず固定した場合に比べて、要求出力トルクTdが大きい場合ほど、クラッチCを切断してからアップシフトに要する変速時間を短縮することができる。これは、要求出力トルクTdは、出力軸32の回転速度Noに応じており、噛み合い機構の回転速度は出力軸32の回転速度Noと同一となる構成、又は、次の変速段の遊転ギヤの回転速度はその出力軸32の回転速度Noに次の変速段の遊転ギヤによるギヤ比Rtの積Ngとなる構成のいずれか一方であるため、従って、噛み合い機構と次の変速段の遊転ギヤとのいずれか一方の回転速度が、出力軸32の回転速度Noに応じていることに基づいて導かれることは明らかである。更には、閾値Dを要求出力トルクTdに基づいて設定するので、前述の閾値を固定した場合に比べて、要求出力トルクTdが大きいほど、クラッチを切断してからアップシフトに要する変速時間を短縮できることに基づき、アップシフト制御時のモータMGの作動時間を短縮できるため、電力消費も低減できる。
【0146】
上述の如く、本発明の実施形態による車両用駆動装置によれば、アップシフト制御部13は、ニュートラル状態後に、クラッチの伝達トルクを、完全係合時の伝達トルクよりも低く、低下させたエンジンの回転トルクを入力軸に伝達可能な伝達トルクである規程伝達トルクへ低下させる構成であるので、完全係合状態からクラッチCを切断させるよりも、クラッチCの切断時間を短縮させることができる。このため、次の変速段の遊転ギヤをこれが設けられている軸に回転連結させる際において、クラッチアクチュエータ29による作動遅れに起因する入力軸31の回転速度Niが同期回転速度よりも大きく低下してしまうことを防止することができる。このため、確実に次の変速段の遊転ギヤをこれが設けられている軸に回転連結させることができ、また、噛み合い機構と遊転ギヤとの回転速度差Ni−Ngに起因する、噛み合い機構と遊転ギヤの係合時のショックを低減することができ、シフトアップに伴う車両用駆動装置のシフトショックや異音の発生を低減させることができる。
【0147】
上述の如く、本発明の実施形態による車両用駆動装置によれば、アップシフト制御部13は、エンジンEGへの燃料カットにより、エンジンEGの回転トルクTeを低下させる構成であるので、これにより、燃料カットによって負方向に発生するエンジンEGのフリクショントルクによって、エンジンEGの回転トルクTeを迅速に低下させることができる。このため、迅速に噛み合い機構をこれが設けられている軸に対し軸線方向に移動可能な状態とすることができ、迅速に噛み合い機構を遊転ギヤから離脱せることができる。また、迅速に入力軸31の回転速度Niを低下させて、次の変速段の遊転ギヤとこれに対応する噛み合い機構とを同期させてシフトアップ可能な状態とすることができ、この結果、シフトアップの変速時間を短縮させることができる。
【符号の説明】
【0148】
13…TM−ECU(アップシフト制御部)
29…クラッチアクチュエータ
31…入力軸、32…出力軸
41…第一ドライブギヤ(固定ギヤ)、42…第二ドライブギヤ(固定ギヤ)、43…第三ドライブギヤ(遊転ギヤ)、44…第四ドライブギヤ(遊転ギヤ)、45…第五ドライブギヤ(遊転ギヤ)
51…第一ドリブンギヤ(遊転ギヤ)、52…第二ドリブンギヤ(遊転ギヤ)、53…第三ドリブンギヤ(固定ギヤ)、54…第四ドリブンギヤ(固定ギヤ)、55…第五ドリブンギヤ(固定ギヤ)
100…車両用駆動装置
112…第一スリーブ(噛み合い機構)、122…第二スリーブ(噛み合い機構)、132…第三スリーブ(噛み合い機構)
114…第一シフトアクチュエータ、124…第二シフトアクチュエータ、134…第
三シフトアクチュエータ
TM…トランスミッション(自動変速装置)
C…クラッチ
EG…エンジン、EG−1…駆動シャフト
MG…モータジェネレータ(モータ)
Wl、Wr…駆動輪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図14