(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間に少なくとも1層のカーカス層を装架し、各ビード部にビードコアを埋設し、前記カーカス層の外周側に少なくとも1層の補強層を配置し、該補強層の外周側にトレッドゴム層を積層した空気入りタイヤにおいて、
前記カーカス層のカーカスコードの繊度を900dtex/2〜1400dtex/2とし、その幅50mm当たりの打ち込み本数を45本〜70本とすると共に、
タイヤ子午線断面において前記トレッド部の輪郭を形成するトレッドプロファイルが、前記トレッド部のタイヤ幅方向の最も外側に位置するサイド円弧と、該サイド円弧のタイヤ幅方向内側に位置するショルダー円弧とを含み、これらサイド円弧の延長線とショルダー円弧の延長線との交点を通りタイヤ内面に対して直交する一対の第一境界線を規定し、各サイドウォール部がタイヤ周方向に延在するリムチェックラインを有し、タイヤ子午線断面において前記リムチェックラインを通りタイヤ内面に対して直交する一対の第二境界線を規定し、前記一対の第一境界線の相互間に第一領域を区分し、前記第一境界線と前記第二境界線との間に第二領域を区分し、前記第二境界線よりもビードトウ側に第三領域を区分し、前記第一領域乃至前記第三領域の断面積(mm2)をそれぞれSA,SB,SCとし、前記第一領域乃至前記第三領域のタイヤ内面に沿ったペリフェリ長さ(mm)をそれぞれa,b,cとしたとき、比SA/a,SB/bについて7.5≦SA/a≦11.5、2.0≦SB/b≦6.0の関係を満足すると共に、
前記少なくとも1層の補強層が複数本の補強コードをタイヤ周方向に沿って実質的に平行に配列した周方向補強層を含むことを特徴とする乗用車用空気入りタイヤ。
前記少なくとも1層の補強層が前記周方向補強層に加えて複数本の補強コードをタイヤ周方向に対して傾斜するように配列した傾斜補強層を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の乗用車用空気入りタイヤ。
前記一対の第一境界線の相互間において前記トレッドプロファイルに沿って測定されるトレッド展開幅TDWに対する前記周方向補強層の幅Wの比W/TDWが0.8≦W/TDW≦1.1の関係を満足することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の乗用車用空気入りタイヤ。
前記周方向補強層の補強コードは、荷重(N)と伸び(%)との関係において、0.5%〜1.0%伸び時の曲線の傾きが2.5%〜3.0%伸び時の曲線の傾きの1/15〜1/3となる伸び特性を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の乗用車用空気入りタイヤ。
前記空気透過防止層が熱可塑性樹脂又は熱可塑性樹脂とエラストマーとをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物から構成されることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の乗用車用空気入りタイヤ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、必要なタイヤ性能を損なうことなく、タイヤ重量及び転がり抵抗を大幅に低減することを可能にした乗用車用空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の乗用車用空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間に少なくとも1層のカーカス層を装架し、各ビード部にビードコアを埋設し、前記カーカス層の外周側に少なくとも1層の補強層を配置し、該補強層の外周側にトレッドゴム層を積層した空気入りタイヤにおいて、
前記カーカス層のカーカスコードの繊度を900dtex/2〜1400dtex/2とし、その幅50mm当たりの打ち込み本数を45本〜70本とすると共に、
タイヤ子午線断面において前記トレッド部の輪郭を形成するトレッドプロファイルが、前記トレッド部のタイヤ幅方向の最も外側に位置するサイド円弧と、該サイド円弧のタイヤ幅方向内側に位置するショルダー円弧とを含み、これらサイド円弧の延長線とショルダー円弧の延長線との交点を通りタイヤ内面に対して直交する一対の第一境界線を規定し、各サイドウォール部がタイヤ周方向に延在するリムチェックラインを有し、タイヤ子午線断面において前記リムチェックラインを通りタイヤ内面に対して直交する一対の第二境界線を規定し、前記一対の第一境界線の相互間に第一領域を区分し、前記第一境界線と前記第二境界線との間に第二領域を区分し、前記第二境界線よりもビードトウ側に第三領域を区分し、前記第一領域乃至前記第三領域の断面積(mm
2)をそれぞれSA,SB,SCとし、前記第一領域乃至前記第三領域のタイヤ内面に沿ったペリフェリ長さ(mm)をそれぞれa,b,cとしたとき、比SA/a,SB/bについて7.5≦SA/a≦11.5、2.0≦SB/b≦6.0の関係を満足すると共に、
前記少なくとも1層の補強層が複数本の補強コードをタイヤ周方向に沿って実質的に平行に配列した周方向補強層を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、上述の如く規定された第一境界線及び第二境界線により空気入りタイヤを第一領域乃至第三領域に区分し、第一領域乃至第三領域の断面積SA,SB,SCを第一領域乃至第三領域のタイヤ内面に沿ったペリフェリ長さa,b,cで除した値を求めたとき、比SA/a,SB/bについて7.5≦SA/a≦11.5、2.0≦SB/b≦6.0の関係を満足することにより、空気入りタイヤの第一領域及び第二領域のボリュームを必要最小限に抑制するので、耐摩耗性や耐カット性等のタイヤ性能を損なうことなく、タイヤ重量を大幅に低減し、それに伴って転がり抵抗を大幅に低減することができる。しかも、トレッド部に周方向補強層を必須要件として配置し、その周方向補強層に基づいてトレッド部のタガ効果を十分に確保するので、トレッド部に埋設される補強層を削減して更なる軽量化を達成することができる。また、周方向補強層によるタガ効果によりトレッド部のタイヤ周方向の接地長さが短くなるので、このことが転がり抵抗の低減に寄与する。その結果、車両の燃費を改善し、省資源・省エネルギーに大きく貢献すると共に、車両からの二酸化炭素排出量を削減することができる。
【0009】
本発明において、周方向補強層の補強コードはスチールコードであると良い。周方向補強層にスチールコードを用いることにより、コーナリングパワーの増大を図ることができる。また、周方向補強層の補強コードは有機繊維コードであると良い。周方向補強層に有機繊維コードを用いることにより、更なる軽量化を図ることができる。
【0010】
少なくとも1層の補強層は、周方向補強層に加えて、複数本の補強コードをタイヤ周方向に対して傾斜するように配列した傾斜補強層を含むことが好ましい。このように周方向補強層と傾斜補強層との2層構造を採用することにより、コーナリングパワーの増大を図ることができる。この場合、周方向補強層は傾斜補強層よりもタイヤ径方向外側に配置することが好ましい。これにより、周方向補強層に基づくタガ効果を効果的に発揮しながらコーナリングパワーの増大を図ることができる。
【0011】
傾斜補強層の補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は20°〜50°であることが好ましい。これにより、転がり抵抗を増大させることなくコーナリングパワーの増大を図ることができる。
【0012】
一対の第一境界線の相互間においてトレッドプロファイルに沿って測定されるトレッド展開幅TDWに対する周方向補強層の幅Wの比W/TDWは0.8≦W/TDW≦1.1の関係を満足するが好ましい。これにより、軽量化効果を維持しながらコーナリングパワーの増大を図ることができる。
【0013】
周方向補強層の幅50mm当たりの補強コードの打ち込み本数は30本〜80本であることが好ましい。これにより、軽量化効果を維持しながらコーナリングパワーの増大を図ることができる。
【0014】
周方向補強層の補強コードは、荷重(N)と伸び(%)との関係において、0.5%〜1.0%伸び時の曲線の傾きが2.5%〜3.0%伸び時の曲線の傾きの1/15〜1/3となる伸び特性を有することが好ましい。このように周方向補強層の補強コードに初期伸びを与えることにより、加硫時のタイヤの膨張変形を通じて周方向補強層の補強コードの張力を最適化することができる。つまり、周方向補強層の補強コードの張力を適度に高めることでコーナリングパワーの増大を図ることができ、かつ周方向補強層の補強コードの張力が過多となるのを回避することで良好な操縦安定性を維持することができる。
【0015】
比SC/cについて4.0≦SC/c≦8.0の関係を満足することが好ましい。これにより、空気入りタイヤの第三領域のボリュームを必要最小限に抑制するので、嵌合特性、特に耐リム外れ性を損なうことなく、タイヤ重量及び転がり抵抗を大幅に低減することができる。
【0016】
カーカス層に沿ってタイヤ内部及び/又はタイヤ内面には空気透過係数が50×10
-12cc・cm/cm
2・sec・cmHg以下の空気透過防止層を設けることが好ましい。特に、空気透過防止層が熱可塑性樹脂又は熱可塑性樹脂とエラストマーとをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物から構成されることが好ましい。このように従来のブチルゴムを主体とする空気透過防止層に比べて空気透過係数が低い空気透過防止層を設けることにより、空気透過防止層を薄くして更なる軽量化を図ることができる。なお、空気透過係数はJIS K7126「プラスチックフィルム及びシートの気体透過度試験法」に準拠して30℃の温度条件で測定した値である。
【0017】
本発明において、乗用車用空気入りタイヤは応急用を除く乗用車標準装着用空気入りタイヤを意味し、これは応急用タイヤやレーシング用タイヤを除外するものである。
【0018】
また、本発明において、トレッドプロファイルはタイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で特定される。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが乗用車である場合には180kPaとする。
【0019】
更に、本発明において、第一領域乃至第三領域の断面積はタイヤ子午線断面のタイヤ周方向への投影面積である。そのため、トレッド部にタイヤ周方向に延在する周方向溝又はタイヤ幅方向に延びるラグ溝が存在する場合、ラグ溝の部分は断面積に含まれるが、周方向溝の部分は断面積から除外される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1〜
図2は本発明の実施形態からなる乗用車用空気入りタイヤを示すものである。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
【0023】
一対のビード部3,3間にはタイヤ径方向に延びる複数本のカーカスコードを含む少なくとも1層のカーカス層4が装架されている。カーカス層4を構成するカーカスコードとしては、ナイロンやポリエステル等の有機繊維コードが好ましく使用される。各ビード部3には環状のビードコア5が埋設されており、そのビードコア5の外周上にゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。ビードフィラー6はビードコア5とカーカス層4との隙間を埋めるために必要に応じてビードコア5の外周側に配置される。このようなビードフィラー6は配置しても配置しなくても良いが、製造時の故障を抑制するためには配置することが好ましい。しかしながら、軽量化の観点から、ビードフィラー6を配置する際には断面積を可及的に小さくすることが望ましい。また、カーカス層4に沿ってタイヤ内面には空気透過防止層7が設けられている。このような空気透過防止層7はカーカス層4に沿ってタイヤ内部に埋設するようにしても良く、或いは、タイヤ内面及びタイヤ内部の両方に設けるようにしても良い。
【0024】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には引き揃えられた複数本の補強コードを含む2層の補強層8が埋設されている。補強層8は、複数本の補強コードをタイヤ周方向に沿って実質的に平行に配列した周方向補強層8Aと、複数本の補強コードをタイヤ周方向に対して傾斜するように配列した傾斜補強層8Bとを含んでいる。補強層8の補強コードとしては、スチールコードのほか、アラミド、ナイロン、ポリオレフィンケトン(POK)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0025】
補強層8の外周側にはトレッドゴム層9が積層されている。トレッドゴム層9は単層構造であっても良いが、アンダートレッドとキャップトレッドとの積層構造を有するものであっても良い。このようなトレッドゴム層9を有するトレッド部1にはタイヤ周方向に延びる複数本の周方向溝11及びタイヤ幅方向に延びる複数本のラグ溝12が形成されている。
【0026】
上述した空気入りタイヤでは、タイヤ子午線断面においてトレッド部1の輪郭を形成するトレッドプロファイル10が、トレッド部1のタイヤ幅方向の中央部に位置して曲率半径Rcを有するセンター円弧と、トレッド部1のタイヤ幅方向の最も外側に位置して曲率半径Rsを有するサイド円弧と、該サイド円弧のタイヤ幅方向内側に位置して曲率半径Rshを有するショルダー円弧とを含む複数の円弧を繋げることによって形成されている。ショルダー円弧はトレッド部1のタイヤ幅方向の最も外側に位置する陸部の踏面の輪郭を規定する円弧であり、サイド円弧はトレッド部1のタイヤ幅方向の最も外側に位置する陸部の側壁面の輪郭を規定する円弧である。センター円弧とショルダー円弧とは共通の円弧であっても良く、或いは、互いに異なる円弧であっても良い。これらセンター円弧とショルダー円弧との間には他の円弧を介在させても良い。ショルダー円弧とサイド円弧とは互いに接するように連結されていても良く、或いは、互いに交差するように連結されていても良い。これらショルダー円弧とサイド円弧との間に両者を滑らかに連結するために他の円弧を介在させても良い。
【0027】
ここで、
図2に示すように、トレッド部1のタイヤ幅方向両側において、サイド円弧の延長線Esとショルダー円弧の延長線Eshとの交点Pを通りタイヤ内面に対して直交する直線を引いたとき、これら直線からなる一対の第一境界線L1が規定される。なお、ショルダー円弧とサイド円弧とが直接連結される場合、交点Pはトレッドプロファイル10上に位置することになる。
【0028】
一方、
図1に示すように、各サイドウォール部2はタイヤ外面においてタイヤ周方向に延在するリムチェックライン21を有している。リムチェックライン21はリムに対するタイヤの嵌合状態を確認するために形成されるものであって、通常、タイヤ外面から突出する突条をなしている。タイヤ子午線断面において各サイドウォール部2のリムチェックライン21を通りタイヤ内面に対して直交する直線を引いたとき、これら直線からなる一対の第二境界線L2が規定される。
【0029】
一対の第一境界線L1,L1の相互間に第一領域Aを区分し、第一境界線L1と第二境界線L2との間に第二領域Bを区分し、第二境界線L2よりもビードトウ31側に第三領域Cを区分し、第一領域A、第二領域B及び第三領域Cの断面積(mm
2)をそれぞれSA,SB,SCとし、第一領域A、第二領域B及び第三領域Cのタイヤ内面に沿ったペリフェリ長さ(mm)をそれぞれa,b,cとしたとき、上記空気入りタイヤは比SA/a,SB/bについて7.5≦SA/a≦11.5、2.0≦SB/b≦6.0の関係を満足するように構成されている。
【0030】
上述した空気入りタイヤでは、比SA/a,SB/bについて7.5≦SA/a≦11.5、2.0≦SB/b≦6.0の関係を満足することにより、空気入りタイヤの第一領域A及び第二領域Bのボリューム(実質的な平均厚さ)を必要最小限に抑制するので、耐摩耗性や耐カット性等のタイヤ性能を損なうことなく、タイヤ重量を大幅に低減し、それに伴って転がり抵抗を大幅に低減することができる。ここで、トレッド部1に対応する第一領域Aについて、比SA/aが7.5よりも小さいと耐摩耗性が低下し、逆に11.5よりも大きいと軽量化効果が不十分になる。また、サイドウォール部2に対応する第二領域Bについて、比SB/bが2.0よりも小さいと耐カット性が低下し、逆に6.0よりも大きいと軽量化効果が不十分になる。
【0031】
上記空気入りタイヤにおいて、比SC/cについて4.0≦SC/c≦8.0の関係を満足すると良い。つまり、ビードコア5のワイヤ巻き数を減らしたり、ビードフィラー6の断面積を減らしたり、リムクッションゴム層の厚さを減らしたりすることにより、比SC/cを可及的に小さくすると良い。これにより、空気入りタイヤの第三領域Cのボリュームを必要最小限に抑制するので、嵌合特性、特に耐リム外れ性を損なうことなく、タイヤ重量及び転がり抵抗を大幅に低減することができる。ここで、ビード部3に対応する第三領域Cについて、比SC/cが4.0よりも小さいと嵌合特性が悪化し、逆に8.0よりも大きいと軽量化効果が低下する。
【0032】
なお、第一領域Aの断面積SA、第二領域Bの断面積SB及び第三領域Cの断面積SCはタイヤサイズに応じて適正範囲が大きく異なるが、これら断面積SA,SB,SCをそれぞれ各領域のペリフェリ長さa,b,cで除した値からなる比SA/a,SB/b、SC/cを規定することにより、タイヤサイズに拘わらず上述した作用効果を期待することができる。
【0033】
上記空気入りタイヤにおいては、トレッド部1に周方向補強層8Aを配置し、その周方向補強層8Aに基づいてトレッド部1のタガ効果を十分に確保しているので、トレッド部1に埋設される補強層8を従来よりも削減して更なる軽量化を達成することができる。また、周方向補強層8Aによるタガ効果によりトレッド部1のタイヤ周方向の接地長さが短くなるので、このことが転がり抵抗の低減に寄与する。
【0034】
周方向補強層8Aにおいて、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度を5°以下にすると良く、それによって補強層8に基づくタガ効果を高めることができる。周方向補強層8Aは少なくとも1本の補強コードを引き揃えてゴム被覆してなるストリップ材をタイヤ周方向に連続的に巻回したジョイントレス構造とすることが望ましい。
【0035】
上記空気入りタイヤにおいて、周方向補強層8Aの補強コードとしてスチールコードを用いた場合、コーナリングパワーの増大を図ることができる。スチールコードの構成は特に限定されるものではなく、スチールフィラメントの単体からなるモノフィラメントコード、複数本のスチールフィラメントを撚り合わせてなる撚りコード等を用いることができる。加硫時のタイヤの膨張変形に追従可能である点を考慮すると、撚りコードを採用することが望ましい。
【0036】
また、周方向補強層8Aの補強コードとしてスチールコードに比べて軽量な有機繊維コードを用いた場合、更なる軽量化を図ることができる。有機繊維コードの種類は特に限定されるものではないが、アラミド、ナイロン、ポリオレフィンケトン(POK)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等が好ましく使用される。また、異なる種類の有機繊維を組み合わせて撚り合わせた複合コード(ハイブリッドコード)を用いても良い。加硫時のタイヤの膨張変形に追従可能である点を考慮すると、高弾性のアラミドとナイロンとを撚り合わせた複合コードを採用することが望ましい。
【0037】
図3及び
図4に示すように、トレッド部1に埋設される補強層8は周方向補強層8Aのみを含むものであっても良い。この場合、軽量化の点で有利である。その一方で、
図1及び
図2に示すように、トレッド部1に埋設される補強層8を周方向補強層8Aと傾斜補強層8Bとの2層構造とすることにより、コーナリングパワーの増大を図ることができる。この場合、周方向補強層8Aは傾斜補強層8Bよりもタイヤ径方向外側に配置すると良い。これにより、周方向補強層8Aに基づくタガ効果を効果的に発揮しながらコーナリングパワーの増大を図ることができる。
【0038】
傾斜補強層8Bにおいて、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は20°〜50°の範囲、より好ましくは。25°〜40°の範囲にすると良く、それによって転がり抵抗を増大させることなくコーナリングパワーの増大を図ることができる。ここで、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度が20°よりも小さいとコーナリングパワーの増加が不十分になり、逆に50°よりも大きいと補強層8の面外曲げ剛性が低下して転がり抵抗が増加する恐れがある。なお、傾斜補強層8Bの補強コードとしては周方向補強層8Aと同様のスチールコード又は有機繊維コードを用いることができる。
【0039】
上記空気入りタイヤにおいて、
図2及び
図4に示すように、一対の第一境界線L1,L1の相互間においてトレッドプロファイル10に沿って測定されるトレッド展開幅TDWに対する周方向補強層8Aの幅Wの比W/TDWは0.8≦W/TDW≦1.1の関係、より好ましくは、0.9≦W/TDW≦1.0の関係を満足すると良い。これにより、軽量化効果を維持しながらコーナリングパワーの増大を図ることができる。ここで、比W/TDWが0.8よりも小さいと周方向補強層8Aの面内剛性が不足するため高いコーナリングパワーを発揮することができず、逆に1.1よりも大きいと軽量化効果が低下する。
【0040】
上記空気入りタイヤにおいて、周方向補強層8Aのタイヤ幅方向に測定される幅50mm当たりの補強コードの打ち込み本数は30本〜80本、より好ましくは、37本〜50本であると良い。これにより、軽量化効果を維持しながらコーナリングパワーの増大を図ることができる。ここで、周方向補強層8Aの幅50mm当たりの補強コードの打ち込み本数が30本よりも少ないとコーナリングパワーの増大が不十分になり、逆に80本よりも多いと軽量化効果が低下する。
【0041】
上記空気入りタイヤにおいて、周方向補強層8Aの補強コードは、
図5に示すように、荷重(N)と伸び(%)との関係において、0.5%〜1.0%伸び時の曲線の傾きが2.5%〜3.0%伸び時の曲線の傾きの1/15〜1/3となる伸び特性を有するものであると良い。このように周方向補強層8Aの補強コードに初期伸びを与えることにより、加硫時のタイヤの膨張変形を通じて周方向補強層8Aの補強コードの張力を最適化し、操縦安定性を損なうことなくコーナリングパワーの増大を図ることができる。ここで、0.5%〜1.0%伸び時の曲線の傾きが2.5%〜3.0%伸び時の曲線の傾きの1/15よりも小さいと周方向補強層8Aの補強コードの張力が不足するためコーナリングパワーの増大が不十分になり、逆に1/3よりも大きいと周方向補強層8Aの補強コードの張力が過多となり、高荷重域でのコーナリングが過多となるため操縦安定性が悪化することになる。
【0042】
上述のような伸び特性を得るために、スチールコードの場合、例えば、スチールフィラメントに対する癖付けを過剰に与えたり、撚りを多くしたりすることにより、0.5%〜1.0%伸び時の曲線の傾きを小さくすることができる。また、有機繊維コードの場合、弾性率が異なる有機繊維を組み合わせて撚り合わせた複合コードを使用することにより、0.5%〜1.0%伸び時には低弾性の有機繊維の伸び特性を発現させ、2.5%〜3.0%伸び時には高弾性の有機繊維の伸び特性を発現させることができる。
【0043】
上記空気入りタイヤにおいて、カーカス層4に沿ってタイヤ内部及び/又はタイヤ内面には空気透過防止層7が配置されているが、この空気透過防止層7の空気透過係数は50×10
-12cc・cm/cm
2・sec・cmHg以下であると良い。特に、空気透過防止層7は熱可塑性樹脂又は熱可塑性樹脂とエラストマーとをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物から構成されるのが良い。このように従来のブチルゴムを主体とする空気透過防止層に比べて空気透過係数が低い空気透過防止層7を設けることにより、空気透過防止層7を薄くして更なる軽量化を図ることができる。ここで、空気透過防止層7の空気透過係数が50×10
-12cc・cm/cm
2・sec・cmHgよりも大きいと更なる軽量化を図ることが困難になる。
【0044】
更に、上記空気入りタイヤにおいて、カーカス層4のカーカスコードの繊度は例えば900dtex/2〜2000dtex/2の範囲から選択することができ、その幅50mm当たりの打ち込み本数は例えば30本〜70本の範囲から選択することができる。特に、カーカス層4のカーカスコードの繊度は900dtex/2〜1400dtex/2とし、その幅50mm当たりの打ち込み本数は45本〜70本とすると良い。つまり、より細いカーカスコードを採用することでカーカス層4を薄くして軽量化に貢献する一方で、カーカスコードの打ち込み本数をより多くすることで必要な耐圧性を確保することが可能になる。ここで、カーカスコードの繊度が900dtex/2よりも小さいと耐圧性の確保が困難になり、逆に1400dtex/2よりも大きいと軽量化効果が低下する。
【0045】
以下、本発明の空気入りタイヤの空気透過防止層を構成する熱可塑性樹脂又は熱可塑性樹脂とエラストマーとをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物について説明する。
【0046】
本発明で使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えば、ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6(MXD6)、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕及びそれらのN−アルコキシアルキル化物〔例えば、ナイロン6のメトキシメチル化物、ナイロン6/610共重合体のメトキシメチル化物、ナイロン612のメトキシメチル化物〕、ポリエステル系樹脂〔例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、(メタ)アクリロニトリル/スチレン共重合体、(メタ)アクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリメタクリレート系樹脂〔例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル〕、ポリビニル系樹脂〔例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体、塩化ビニリデン/アクリロニトリル共重合体〕、セルロース系樹脂〔例えば、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)〕、イミド系樹脂〔例えば、芳香族ポリイミド(PI)〕等を好ましく用いることができる。
【0047】
本発明で使用されるエラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴム及びその水添物〔例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR、高シスBR及び低シスBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えば、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー〕、含ハロゲンゴム〔例えば、Br−IIR、CI−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、塩素化ポリエチレンゴム(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレンゴム(M−CM)〕、シリコンゴム〔例えば、メチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴム、メチルフェニルビニルシリコンゴム〕、含イオウゴム〔例えば、ポリスルフィドゴム〕、フッ素ゴム〔例えば、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム〕、熱可塑性エラストマー〔例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー〕等を好ましく使用することができる。
【0048】
前記した特定の熱可塑性樹脂とエラストマーとの相溶性が異なる場合は、第3成分として適当な相溶化剤を用いて両者を相溶化させることができる。ブレンド系に相溶化剤を混合することにより、熱可塑性樹脂とエラストマーとの界面張力が低下し、その結果、分散相を形成しているゴム粒子径が微細になることから両成分の特性はより有効に発現されることになる。そのような相溶化剤としては、一般的に熱可塑性樹脂及びエラストマーの両方又は片方の構造を有する共重合体、或いは熱可塑性樹脂又はエラストマーと反応可能なエポキシ基、カルボニル基、ハロゲン基、アミノ基、オキサゾリン基、水酸基等を有した共重合体の構造をとるものとすることができる。これらは混合される熱可塑性樹脂とエラストマーの種類によって選定すればよいが、通常使用されるものには、スチレン/エチレン・ブチレンブロック共重合体(SEBS)及びそのマレイン酸変性物、EPDM、EPM、EPDM/スチレン又はEPDM/アクリロニトリルグラフト共重合体及びそのマレイン酸変性物、スチレン/マレイン酸共重合体、反応性フェノキシン等を挙げることができる。かかる相溶化剤の配合量には特に限定はないが、好ましくは、ポリマー成分(熱可塑性樹脂とエラストマーとの合計)100重量部に対して、0.5〜10重量部がよい。
【0049】
熱可塑性エラストマー組成物において、特定の熱可塑性樹脂とエラストマーとの組成比は、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとるように適宜決めればよいが、好ましい範囲は重量比90/10〜15/85である。
【0050】
本発明において、熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマー組成物には、空気透過防止層としての必要特性を損なわない範囲で前記した相溶化剤などの他のポリマーを混合することができる。他のポリマーを混合する目的は、熱可塑性樹脂とエラストマーとの相溶性を改良するため、材料の成型加工性をよくするため、耐熱性向上のため、コストダウンのため等があり、これに用いられる材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ABS、SBS、ポリカーボネート(PC)等を例示することができる。また、一般的にポリマー配合物に配合される充填剤(炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナ等)、カーボンブラック、ホワイトカーボン等の補強剤、軟化剤、可塑剤、加工助剤、顔料、染料、老化防止剤等を空気透過防止層としての必要特性を損なわない限り任意に配合することもできる。
【0051】
また、エラストマーは熱可塑性樹脂との混合の際、動的に加硫することもできる。動的に加硫する場合の加硫剤、加硫助剤、加硫条件(温度、時間)等は、添加するエラストマーの組成に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。
【0052】
加硫剤としては、一般的なゴム加硫剤(架橋剤)を用いることができる。具体的には、イオウ系加硫剤としては粉末イオウ、沈降性イオウ、高分散性イオウ、表面処理イオウ、不溶性イオウ、ジモルフォリンジサルファイド、アルキルフェノールジサルファイド等を例示でき、例えば、0.5〜4phr〔本明細書において、「phr」は、エラストマー成分100重量部あたりの重量部をいう。以下、同じ。〕程度用いることができる。
【0053】
また、有機過酸化物系の加硫剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジ(パーオキシルベンゾエート)等が例示され、例えば、1〜20phr程度用いることができる。
【0054】
更に、フェノール樹脂系の加硫剤としては、アルキルフェノール樹脂の臭素化物や、塩化スズ、クロロプレン等のハロゲンドナーとアルキルフェノール樹脂とを含有する混合架橋系等が例示でき、例えば、1〜20phr程度用いることができる。
【0055】
その他として、亜鉛華(5phr程度)、酸化マグネシウム(4phr程度)、リサージ(10〜20phr程度)、p−キノンジオキシム、p−ジベンゾイルキノンジオキシム、テトラクロロ−p−ベンゾキノン、ポリ−p−ジニトロソベンゼン(2〜10phr程度)、メチレンジアニリン(0.2〜10phr程度)が例示できる。
【0056】
また、必要に応じて、加硫促進剤を添加してもよい。加硫促進剤としては、アルデヒド・アンモニア系、グアニジン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系、ジチオ酸塩系、チオウレア系等の一般的な加硫促進剤を、例えば、0.5〜2phr程度用いることができる。
【0057】
具体的には、アルデヒド・アンモニア系加硫促進剤としては、ヘキサメチレンテトラミン等、グアジニン系加硫促進剤としては、ジフェニルグアジニン等、チアゾール系加硫促進剤としては、ジベンゾチアジルジサルファイド(DM)、2−メルカプトベンゾチアゾール及びそのZn塩、シクロヘキシルアミン塩等、スルフェンアミド系加硫促進剤としては、シクロヘキシルベンゾチアジルスルフェンアマイド(CBS)、N−オキシジエチレンベンゾチアジル−2−スルフェンアマイド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアマイド、2−(チモルポリニルジチオ)ベンゾチアゾール等、チウラム系加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムジサルファイド(TMTD)、テトラエチルチウラムジサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド(TMTM)、ジペンタメチレンチウラムテトラサルファイド等、ジチオ酸塩系加硫促進剤としては、Zn−ジメチルジチオカーバメート、Zn−ジエチルジチオカーバメート、Zn−ジ−n−ブチルジチオカーバメート、Zn−エチルフェニルジチオカーバメート、Te−ジエチルジチオカーバメート、Cu−ジメチルジチオカーバメート、Fe−ジメチルジチオカーバメート、ピペコリンピペコリルジチオカーバメート等、チオウレア系加硫促進剤としては、エチレンチオウレア、ジエチルチオウレア等を挙げることができる。
【0058】
また、加硫促進助剤としては、一般的なゴム用助剤を併せて用いることができ、例えば、亜鉛華(5phr程度)、ステアリン酸やオレイン酸及びこれらのZn塩(2〜4phr程度)等が使用できる。
【0059】
熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は、予め熱可塑性樹脂とエラストマー(ゴムの場合は未加硫物)とを2軸混練押出機等で溶融混練し、連続相(マトリックス)を形成する熱可塑性樹脂中に分散相(ドメイン)としてエラストマーを分散させることによる。エラストマーを加硫する場合には、混練下で加硫剤を添加し、エラストマーを動的加硫させてもよい。また、熱可塑性樹脂またはエラストマーへの各種配合剤(加硫剤を除く)は、上記混練中に添加してもよいが、混練の前に予め混合しておくことが好ましい。熱可塑性樹脂とエラストマーの混練に使用する混練機としては、特に限定はなく、スクリュー押出機、ニーダ、バンバリミキサー、2軸混練押出機等が使用できる。中でも熱可塑性樹脂とエラストマーの混練およびエラストマーの動的加硫には、2軸混練押出機を使用するのが好ましい。更に、2種類以上の混練機を使用し、順次混練してもよい。溶融混練の条件として、温度は熱可塑性樹脂が溶融する温度以上であればよい。また、混練時の剪断速度は1000〜7500sec
-1であるのが好ましい。混練全体の時間は30秒から10分、また加硫剤を添加した場合には、添加後の加硫時間は15秒から5分であるのが好ましい。上記方法で製作されたポリマー組成物は、射出成形、押出し成形等、通常の熱可塑性樹脂の成形方法によって所望の形状にすればよい。
【0060】
このようにして得られる熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとる。かかる構造をとることにより、インナーライナー層に十分な柔軟性と連続相としての樹脂層の効果により十分な剛性を併せ付与することができると共に、エラストマーの多少によらず、成形に際し、熱可塑性樹脂と同等の成形加工性を得ることができる。
【0061】
熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマー組成物のJIS K7100により定められるところの標準雰囲気中におけるヤング率は、特に限定されるものではないが、好ましくは1〜500MPa、より好ましくは50〜500MPaにするとよい。
【0062】
上記熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマー組成物はシート又はフィルムに成形して単体で用いることが可能であるが、隣接するゴムとの接着性を高めるために接着層を積層しても良い。この接着層を構成する接着用ポリマーの具体例としては、分子量100万以上、好ましくは300万以上の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレンメチルアクリレート樹脂(EMA)、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)等のアクリレート共重合体類及びそれらの無水マレイン酸付加物、ポリプロピレン(PP)及びそのマレイン酸変性物、エチレンプロピレン共重合体及びそのマレイン酸変性物、ポリブタジエン系樹脂及びその無水マレイン酸変性物、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SEBS)、フッ素系熱可塑性樹脂、ポリエステル系熱可塑性樹脂などを挙げることができる。これらは常法に従って例えば樹脂用押出機によって押し出してシート状又はフィルム状に成形することができる。接着層の厚さは特に限定されないが、タイヤ軽量化のためには厚さが少ない方がよく、5μm〜150μmが好ましい。
【実施例】
【0063】
タイヤサイズ195/65R15で、一対のビード部間に1層のカーカス層を装架し、各ビード部にビードコアを埋設し、各ビードコアの外周側にビードフィラーを配置し、カーカス層の外周側に少なくとも1層の補強層を配置し、該補強層の外周側にトレッドゴム層を積層し、タイヤ内面に空気透過防止層を設けた空気入りタイヤにおいて、第一境界線及び第二境界線により区分される第一領域乃至第三領域の断面積SA,SB,SC(mm
2)及びペリフェリ長さa,b,c(mm)から求められる比SA/a,SB/b,SC/c、補強層の構造、空気透過防止層の材質、空気透過防止層の空気透過係数を表1及び表2のように種々異ならせた基準例、比較例1〜5及び実施例1〜13のタイヤを製作した。
【0064】
表1及び表2において、第一補強層はトレッド部におけるカーカス層の外周上に配置される補強層であり、第二補強層は第一補強層のタイヤ径方向外側に配置される補強層である。第一補強層の材料について、「ハイブリッド」はアラミド繊維とナイロン繊維とを撚り合わせたハイブリッドコードを意味する。第二補強層について、初期伸び傾き比とは、荷重(N)と伸び(%)との関係において、2.5%〜3.0%伸び時の曲線の傾きに対する0.5%〜1.0%伸び時の曲線の傾きの比である。また、基準例及び比較例1〜5においては、トレッド部における第二補強層の外周側に複数本のナイロンコードを引き揃えてゴム被覆してなるストリップ材をタイヤ周方向に連続的に巻回してなるジョイントレスカバーを配置した。
【0065】
これら試験タイヤについて、下記の評価方法により、タイヤ重量、転がり抵抗、コーナリングパワー、耐摩耗性、耐カット性、耐リム外れ性を評価し、その結果を表1及び表2に併せて示した。
【0066】
タイヤ重量:
各試験タイヤの重量を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、基準例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど軽量であることを意味する。
【0067】
転がり抵抗:
各試験タイヤをリムサイズ15×6Jのホイールに組み付けて半径854mmのドラムを備えた転がり抵抗試験機に装着し、空気圧210kPa、荷重4.82kN、速度80km/hの条件にて30分間の予備走行を行った後、同条件にて転がり抵抗を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、基準例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど転がり抵抗が小さいことを意味する。
【0068】
コーナリングパワー:
各試験タイヤをリムサイズ15×6Jのホイールに組み付けてフラットベルト試験機に装着し、空気圧210kPa、荷重4.41kN、速度10km/hの条件にて走行させ、スリップ角を±1°としたときのコーナリングパワーを測定し、その絶対値の平均を求めた。評価結果は、基準例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどコーナリングパワーが大きいことを意味する。
【0069】
耐摩耗性:
各試験タイヤをリムサイズ15×6Jのホイールに組み付けて試験車両に装着し、空気圧210kPa、1名乗車の条件で、乾燥路面を10000km走行した後、各タイヤの摩耗量を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例を100とする指数にて示した。この数値値が大きいほど耐摩耗性が良好であることを意味する。なお、耐摩耗性の指数値は95以上であれば実用上問題ないレベルである。
【0070】
耐カット性:
各試験タイヤをリムサイズ15×6Jのホイールに組み付けて試験車両に装着し、空気圧210kPaの条件で、速度10km/hにて、高さ15cmの縁石に30°の角度で乗り上げ、これを5回繰り返し、サイドウォール部の損傷を測定した。評価結果は、走行に影響を与える程度のサイドカットがない場合を「○」にて示し、走行に影響を与える程度のサイドカットがある場合を「×」にて示した。
【0071】
耐リム外れ性:
各試験タイヤをリムサイズ15×6Jのホイールに組み付けて試験車両に装着し、初期の空気圧を210kPaとし、JIS常用荷重の80%の荷重を負荷して60km/hの速度で半径25mの円上を走行し、空気圧を10kPaずつ下げて行き、リムが外れた時の空気圧を測定した。評価結果は、走行に影響を与えない範囲の空気圧でリム外れがない場合を「○」にて示し、リム外れがある場合を「×」にて示した。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
表1及び表2から判るように、実施例1〜13のタイヤは、基準例との対比において、タイヤ重量及び転がり抵抗を大幅に低減することができ、コーナリングパワーを増大することができ、しかも、耐摩耗性、耐カット性、耐リム外れ性等のタイヤ性能を損なうことはなかった。
【0075】
一方、比較例1のタイヤは、比SA/a,SB/bが大き過ぎるためタイヤ重量及び転がり抵抗が大きくコーナリングパワーが小さいものであった。比較例2のタイヤは、比SA/aが小さ過ぎるため耐摩耗性の悪化が顕著であった。比較例3のタイヤは、比SA/aが大き過ぎるためタイヤ重量及び転がり抵抗が大きくコーナリングパワーが小さいものであった。比較例4のタイヤは、比SB/bが小さ過ぎるため耐カット性の悪化が顕著であった。比較例5のタイヤは、比SB/bが大き過ぎるためタイヤ重量及び転がり抵抗が大きいものであった。