特許第6236979号(P6236979)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IHIの特許一覧

<>
  • 特許6236979-ガスタービンエンジン最適制御装置 図000002
  • 特許6236979-ガスタービンエンジン最適制御装置 図000003
  • 特許6236979-ガスタービンエンジン最適制御装置 図000004
  • 特許6236979-ガスタービンエンジン最適制御装置 図000005
  • 特許6236979-ガスタービンエンジン最適制御装置 図000006
  • 特許6236979-ガスタービンエンジン最適制御装置 図000007
  • 特許6236979-ガスタービンエンジン最適制御装置 図000008
  • 特許6236979-ガスタービンエンジン最適制御装置 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6236979
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】ガスタービンエンジン最適制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02C 9/28 20060101AFI20171120BHJP
   F02C 9/54 20060101ALI20171120BHJP
   F02C 9/22 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   F02C9/28 Z
   F02C9/54
   F02C9/22 A
   F02C9/22 B
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-168155(P2013-168155)
(22)【出願日】2013年8月13日
(65)【公開番号】特開2015-36533(P2015-36533A)
(43)【公開日】2015年2月23日
【審査請求日】2016年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】古川 洋之
(72)【発明者】
【氏名】木下 萌
【審査官】 米澤 篤
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第8490404(US,B1)
【文献】 特表2013−506793(JP,A)
【文献】 特開平6−317180(JP,A)
【文献】 特開2011−27053(JP,A)
【文献】 特開2001−263094(JP,A)
【文献】 特開2009−197670(JP,A)
【文献】 特開2001−20760(JP,A)
【文献】 特開2009−57955(JP,A)
【文献】 特開2012−26449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02C 9/22 − 9/54
F01C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の演算周期毎に与えられる可変機構の制御パラメータのセンサフィードバック値を用いて燃料消費率を推定する燃料消費率推定演算手段と、
前回の演算周期での可変機構の制御パラメータのセンサフィードバック値に基く燃料消費率推定値と今回の演算周期での可変機構の制御パラメータのセンサフィードバック値に基く燃料消費率推定値との間の変化を求め、燃料消費率推定値が最小に向かう新たな可変機構の制御パラメータ指令値を求める制御パラメータ再演算手段と、
前記制御パラメータ再演算手段の求めた新たな可変機構の制御パラメータ指令値を予め設定した当該可変機構の制御パラメータ初期値に加算し、次回の演算周期での可変機構の制御パラメータ指令値として出力する制御パラメータ指令値演算手段とを備えたことを特徴とするガスタービンエンジン最適制御装置。
【請求項2】
前記可変機構の制御パラメータとして、低圧タービン可変静翼角度を用いることを特徴とする請求項1に記載のガスタービンエンジン最適制御装置。
【請求項3】
前記可変機構の制御パラメータとして、排気ノズル面積、圧縮機可変静翼角度、高圧タービンケース冷却空気流量、低圧タービンケース冷却空気流量、高圧タービン可変静翼角度、ファンバイパス面積、抽出力、抽気のいずれかを用いることを特徴とする請求項1に記載のガスタービンエンジン最適制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンエンジン最適制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンの推力と相関のある回転数や圧力比でエンジンを制御するガスタービンエンジン制御装置として、燃料流量を調整してファン回転数を制御するシステム(Single Input Single Output(SISO)システム)が知られている。このようなガスタービンエンジン制御装置の場合、ジェット機の飛行ポイント(高度、機速、気温)によって回転数を一定に制御することはできても、燃料消費率(SFC)を一定に制御することができず、たえず変化する。
そこで、これを解消するために可変サイクルエンジン(燃料流量以外に可変機構などの多種エフェクタにより燃料消費率SFCを最小とするようにサイクルを可変とするエンジン)が提案されている。そしてこの可変機構の制御には、センサ信号等の検出信号を利用したスケジュール制御が一般に用いられている。
ガスタービンエンジンには各モジュール、例えば、ファン、圧縮機、燃焼器、高圧タービン、低圧タービンなどが劣化する。ところが、ガスタービンエンジンをスケジュール制御する場合、そのようなガスタービンエンジンの各モジュールの劣化の度合いや号機毎のばらつきによって燃料消費率SFCがどのエンジンでも常に最小になるとは限らない問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−210152号公報
【特許文献2】特許第4540956号公報
【特許文献3】特開2009−197670号公報
【特許文献4】特開2012−215575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされたもので、可変サイクルエンジンにおいて最適制御手法により燃料消費率SFCを常に最小にするための可変機構指令を自動的に探索し、エンジンに劣化が生じたり号機毎に性能にばらつきがあったりしても、常に燃料消費率を最小に最適化し、運用コストの低減が図れるガスタービンエンジン最適制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、所定の演算周期毎に与えられる可変機構の制御パラメータのセンサフィードバック値を用いて燃料消費率を推定する燃料消費率推定演算手段と、前回の演算周期での可変機構の制御パラメータのセンサフィードバック値に基く燃料消費率推定値と今回の演算周期での可変機構の制御パラメータのセンサフィードバック値に基く燃料消費率推定値との間の変化を求め、燃料消費率推定値が最小に向かう新たな可変機構の制御パラメータ指令値を求める制御パラメータ再演算手段と、前記制御パラメータ再演算手段の求めた新たな可変機構の制御パラメータ指令値を予め設定した当該可変機構の制御パラメータ初期値に加算し、次回の演算周期での可変機構の制御パラメータ指令値として出力する制御パラメータ指令値演算手段とを備えたガスタービンエンジン最適制御装置を特徴とする。
上記のガスタービンエンジン最適制御装置においては、前記可変機構の制御パラメータとし、低圧タービン可変静翼角度を用いるものとすることができる。
また、上記のガスタービンエンジン最適制御装置においては、前記可変機構の制御パラメータとし、排気ノズル面積、圧縮機可変静翼角度、高圧タービンケース冷却空気流量、低圧タービンケース冷却空気流量、高圧タービン可変静翼角度、ファンバイパス面積、抽出力、抽気のいずれかを用いるものとすることができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ガスタービンエンジンの最適制御手法により燃料消費率を常に最小にするための可変機構の制御パラメータ指令値を自動的に探索し、エンジンに劣化が生じたり号機ごとに性能にばらつきがあったりしても、常に燃料消費率を最適化しながらガスタービンエンジンを運転でき、その運用コストの低減が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施の形態のガスタービンエンジン最適制御装置のシステム構成を示すブロック図。
図2】上記実施の形態のガスタービンエンジン最適制御装置における制御器の内部構成を示すブロック図。
図3】上記実施の形態のガスタービンエンジン最適制御装置における制御器内のエンジン推力演算部の内部構成を示すブロック図。
図4】上記実施の形態のガスタービンエンジン最適制御装置における制御器内の最適制御演算器の内部構成を示すブロック図。
図5】上記最適制御演算器内のパターン探索器の内部構成を示すブロック図。
図6】上記最適制御演算器内のリミットチェック器の内部構成を示すブロック図。
図7】上記最適制御演算器による可変機構の制御パラメータ値最適値探索のフローチャート。
図8】本発明の実施例の制御特性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳説する。尚、以下では、同一若しくは類似する構成要素については同一若しくは類似する符号を用いて説明する。
【0009】
図1に示す実施の形態のガスタービンエンジン最適制御装置は、コンピュータシステムにより構成される。本実施の形態では、可変サイクルエンジンの最適制御のために可変機構として低圧タービン可変静翼角度LPTVSVを制御する場合について説明する。しかしながら、ガスタービンエンジンの最適制御のために調整する可変機構としては、低圧タービン可変静翼角度LPTVSVだけでなく、ファンバイパス出口面積や排気ノズル面積を調整する制御を採用することもできる。
【0010】
図1に示すガスタービンエンジン最適制御装置は、主要な演算要素として最適制御器100とエンジン制御部200、アクチュエータ駆動部300、そして実エンジン400を備えている。最適制御器100は特許請求の範囲における燃料消費率推定演算手段、制御パラメータ指令値演算手段、制御パラメータ再演算手段を司る。アクチュエータ駆動部300は、最適制御器100とエンジン制御部200からの指令値出力に対して実エンジン400の該当するアクチュエータに物理的な駆動力を与える。実エンジン400は燃料消費率SFCを最適にしながら燃料消費して推力を発生するように制御される。そして実エンジン400の各所に設置されているセンサ群からセンサ値が最適制御器100、エンジン制御部200にフィードバックされる。そのセンサフィードバック値はsensor_fb1,sensor_fb2としている。
【0011】
本システムに外部から入力されるのは、FNREF入力器1からのエンジン推力指令値FNREFである。最適制御器100には、このFNREF入力器1からエンジン推力指令値FNREFが入力される。また最適制御器100には、実エンジン400のセンサ群から出力される低圧タービン可変静翼角度検出値を含むセンサ値sensor_out1がセンサフィードバック値sensor_fb1としてフィードバック入力される。そして最適制御器100は、後述する燃料消費率SFCを改善する演算によりパイロットスロットルレバー角度指令値PLAcmdを計算する。このパイロットスロットルレバー角度指令値PLAcmdは、エンジン制御部200にパイロットスロットルレバー角度PLAとして出力される。また最適制御器100は、低圧タービン可変静翼角度指令値LPTVSVREFを計算し、アクチュエータ駆動部300に出力する。
【0012】
エンジン制御部200は、最適制御器100からのパイロットスロットルレバー角度PLAを入力し、また実エンジン400からのセンサ値sensor_out2をセンサフィードバック値sensor_fb2として入力する。そしてこれらを用いて燃料流量指令値WFREFを算出してアクチュエータ駆動部300に出力する。
【0013】
アクチュエータ駆動部300は、最適制御器100から低圧タービン可変静翼角度指令値LPTVSVREFを入力し、またエンジン制御部200から燃料流量指令値WFREFを入力する。そして、これらに対応する低圧タービン可変静翼駆動信号LPTVSVactを実エンジン400に与えてその実際の低圧タービン可変静翼LPTSVSを指令角度だけ駆動する。同時に燃料流量信号WFactを実エンジン400に与えて実燃料流量信号WFactに見合う燃料流量で燃料を実エンジン400に供給する。これにより、この実エンジン400は最適な燃料消費率SFCで運転するように制御される。そして実エンジン400のセンサ群からセンサ値sensor_out1が最適制御器100、エンジン制御部200にそれぞれセンサフィードバック値sensor_fb1としてフィードバックされる。またセンサ群からセンサ値sensor_out2が、最適制御器100、エンジン制御部200にそれぞれセンサフィードバック値sensor_fb2としてフィードバックされる。
【0014】
次に、図2図3を用いて最適制御器100について説明する。図2に示すように、最適制御器100は低圧タービン可変静翼角度指令値演算部100−1とパイロットスロットルレバー角度指令値演算部100−2で構成されている。そして低圧タービン可変静翼角度指令値演算部100−1は、センサフィードバック値sensor_fb1を入力とし、これによって最適演算制御により出力端DLTLPTVSVから低圧タービン可変静翼角度指令値LPTVSVREFを出力する。また、最適制御器100のパイロットスロットルレバー角度指令値演算部100−2は、入力されるエンジン推力指令値FNREFに対して、対応するパイロットスロットルレバー角度を算出し、パイロットスロットルレバー角度指令値PLAcmdとして出力する。
【0015】
図3に示すように、最適制御器100における上記の低圧タービン可変静翼角度指令値演算部100−1は、ニューラルネットワーク演算器101と最適制御演算器102を備えている。また、その他に前回値保持器103,104、セレクタ105、ステップ信号器108,109、そしてスイッチ110を備えている。
【0016】
最適制御器100には、実エンジン400からのセンサフィードバック値sensor_fb1が入力されている。このセンサフィードバック値sensor_fb1は前回値保持器103に入力され、またセレクタ105を通して前回値保持器104にも入力される。
【0017】
前回値保持器103では、最新のセンサフィードバック値sensor_fr1を更新値として保持し、次の更新値が入力されるまで、それまで保持していたセンサフィードバック値sensor_fr1の前回値を出力する。このセンサフィードバック値sensor_fr1の前回値は、ニューラルネットワーク演算器101にセンサ値sensorとして入力され、同時に最適制御演算器102にもセンサフィードバック値sensor_fb1として入力される。
【0018】
セレクタ105は入力であるセンサフィードバック値sensor_fb1の中から低圧タービン可変静翼角度フィードバック値を選んで前回値保持器104に低圧タービン可変静翼角度LPTVSVの更新値として出力し、保持させる。前回値保持器104は低圧タービン可変静翼角度LPTVSVの更新値が入力されるまで前回値を保持していて、その前回値を低圧タービン可変静翼角度LPTVSVとしてスイッチ110に出力する。
【0019】
ニューラルネットワーク演算器101では、入力されるセンサ値sensorを用いて実エンジン400の燃料消費率SFCを推定し、燃料消費率推定値SFCestを出力する。このニューラルネットワーク演算器101の燃料消費率推定値SFCestは最適制御演算器102に燃料消費率フィードバック値SFC_fbとして入力される。
【0020】
最適制御演算器102では、実エンジン400からセンサフィードバック値sensor_fb1を入力し、ニューラルネットワーク演算器101から燃料消費率推定値SFCestを燃料消費率フィードバック値SFC_fbとして入力する。最適制御演算器102はさらに、ステップ信号器109からのステップ信号を入力する。そして最適制御演算器102は、ステップ信号器109から演算実行を意味するステップ信号が入力されると、低圧タービン可変静翼角度探索値LPTVSV_SEARCHPOINTを求める。求めた低圧タービン可変静翼角度探索値LPTVSV_SEARCHPOINTをe_lptvsv_searchpoint出力端からスイッチ110に出力する。また同時に、最適制御演算器102は低圧タービン可変静翼角度最適値LPTVSV_BESTをe_lptvsv_best出力端から出力する。この低圧タービン可変静翼角度最適値LPTVSV_BESTは、後述の図4及び全体を通して監視される。
【0021】
スイッチ110はある時間、つまりシステムが安定するまで下側にあって前回値保持器104からの低圧タービン可変静翼角度LPTVSVを低圧タービン可変静翼角度探索値DLTPTVSVとして出力する。ところが、システムが安定しステップ信号器108から切替信号が入力されると上側に切り替わり、低圧タービン可変静翼角度探索値LPTVSV_SEARCHPOINTを低圧タービン可変静翼角度探索値DLTPTVSVとして出力する。
【0022】
図4を用いて最適制御演算器102をさらに詳しく説明する。最適制御演算器102は、最適化パラメータフィードバック部120、パターン探索器121とリミットチェック器122を主な構成要素として備えている。またパルス発生器125、論理積演算器126、初期値設定器127,128、前回値保持器129、論理反転器130を備えている。この最適制御演算器102は、イネーブル信号が与えられている間に、パルス発生器125が発生する所定の演算周期毎、例えば30秒毎のパルスの立上りあるいは立下りのタイミング(ここでは立上りタイミングとしている)に演算を開始する。
【0023】
最適化パラメータフィードバック部120はセンサフィードバック値sensor_fb1をセレクタに通し、低圧タービン可変静翼角度フィードバック値e_lptvsv_fbだけをパターン探索器121の初期探索値入力端InitPointに入力する。
【0024】
パターン探索器121には、その初期探索値入力端InitPointに最適化パラメータフィードバック部120から1周期前の低圧タービン可変静翼角度フィードバック値e_lptvsv_fbを入力する。この低圧タービン可変静翼角度フィードバック値は、センサフィードバック値sensor_fb1から選択したものである。また評価値Cost入力端にリミットチェック器122の出力評価値costを前回値保持器129、初期値設定器127を通して入力する。そしてパターン探索器121において、一定の演算周期、ここでは30秒ごとに最適化パラメータ探索値を決定する。そしてそのSearchPoint出力端から低圧タービン可変静翼角度探索値e_lptvsv_searchpointを出力する。またそのBestPoint出力端からこれまでの低圧タービン可変静翼角度の最適値を低圧タービン可変静翼角度最適値e_lptvsv_bestとして出力する。
【0025】
SearchPoint出力端から出力される低圧タービン可変静翼角度探索値e_lptvsv_searchpointは、リミットチェック器122の低圧タービン可変静翼角度入力端lptvsvに入力される。このリミットチェック器122には、その燃料消費率入力端e_sfcに燃料消費率フィードバック値SFC_fbが入力される。そこでリミットチェック器122は、パターン探索器121で求めた低圧タービン可変静翼角度探索値e_lptvsv_searchpointが上限値よりも大きくなっているか否か、また下限値よりも小さくなっているか否か判定する。そしてどちらの限界値をも超えていなければ、e_SFCを最適化する評価値としてcost出力端から前回値保持器129に出力する。しかしながら上記のどちらかの限界値を超えている場合には、予め設定した最悪評価値worstcostをcost出力端から出力する。
【0026】
前回値保持器129は今回の燃料消費率最適値costを受け取れば保持値を更新する。初期値設定器127は初期値として予め与えた最悪評価値worstcostを保持しており、計算の最初にはこの最悪評価値worstcostをパターン探索器121のCost入力端に出力する。そしてその後にシステムの計算が安定し、評価値costが算出されるようになれば前回値保持器129からの値を出力する。そこで、パターン探索器121は上述した演算を行い、SearchPoint出力端から低圧タービン可変静翼角度探索値e_lptvsv_searchpointを出力する。またBestPoint出力端からそれまでの低圧タービン可変静翼角度最適値e_lptvsv_bestを出力する。
【0027】
図5を用いて最適制御演算器102におけるパターン探索器121の詳しい説明をする。このパターン探索器121は、イネーブル信号の期間、ここでは例示として30秒毎に演算を行う。このパターン探索器121は、パターン探索を実行するパターン探索実行部142、演算の初期値設定器として必要数の0を設定するゼロ値設定器140,143,147,150を備えている。パターン探索器121はさらに、前回値保持器144,145,148、論理和演算器141、加算器146、比較器149、掛算器151,152、加算器153,154を備えている。比較器149には比較値として探索回数上限値LoopMaxが与えられ、加算器146にはインクリメント値1が与えられ、掛算器151,152には所定値として探索足長さゲインがゲイン設定器160から与えられる。
【0028】
探索回数の計数を行い、加算器146で前回値保持器148の保持している前回値に1を足して今回の探索回数とし、比較器149に出力する。比較器149では、探索回数上限値LoopMaxと比較し、今回の探索回数が探索回数上限値に到達しなければ出力せず、到達すれば探索回数上限到達フラグLoopFinishFlagを論理和演算器141に出力する。論理和演算器141は探索回数上限到達フラグが入力されるか、探索足長さ下限到達信号が入力されると探索終了フラグendflgを出力し、そうでなければ出力しない。
【0029】
パターン探索実行部142では、前回評価値Costとして前回の燃料消費率推定値を入力し、今回の燃料消費率推定値と比較して改善されていれば同じ方向で探索して次回の低圧タービン可変静翼角度指令値を決定して出力する。
【0030】
パターン探索器121では、このパターン探索実行部142で得た低圧タービン可変静翼角度探索値に対して、制御パラメータ初期値としての探索初期位置(例えば2.5degとし、50%と定義する)を加算して今回の探索位置SearchPointとして出力する。前回までの最適な探索値についても、これに初期位置を加算して低圧タービン可変静翼角度最適値BestPointを出力する。探索位置SearchPointは、パターン探索器121におけるSearchPoint出力端から低圧タービン可変静翼角度探索値e_lptvsv_searchpointとして出力される。また最適値BestPointは、パターン探索器121におけるBestPoint出力端から低圧タービン可変静翼角度最適値e_lptvsv_bestとして出力される。
【0031】
最大探索回数LoopMaxに到達するか、探索足長さ下限に到達すると探索終了フラグendflgを出力してパターン探索を終了する。
【0032】
次に、図6を用いて最適制御演算器102内のリミットチェック器122について説明する。このリミットチェック器122は、上限リミット設定器161、下限リミット設定器162、比較器163,164、論理和演算器165、最悪評価値設定器167、評価値出力切換信号器168、評価値切換器169、出力切換器170を備えている。
【0033】
そしてリミットチェック器122は、低圧タービン可変静翼角度演算値lptvsv、燃料消費率推定値e_sfcを入力し、評価値costとして次回の燃料消費率推定値SFCを出力する。このリミットチェック器122における評価値切換器169は、低圧タービン可変静翼角度演算値lptvsvが上限リミット値を超えて上昇し、若しくは下限リミット値を超えて下降した場合、最悪評価値worstcostを出力する。それ以外であれば燃料消費率演算値e_sfcをSFCとして出力する。
【0034】
また出力切換器170は、評価値出力切換信号器168が切換信号を出力しているときには、燃料消費率演算値e_sfcを評価値costとして出力し、切換信号が出ていないときには、評価値切換器169の出力を評価値costとして出力する。これにより、評価値costが最悪値を悪い方に超えるような場合でも、最悪評価値worstcostを出力することにより評価値costがリミットを超えて悪い値を出力するのを防止する。この評価値出力costは、図4におけるリミットチェック器122におけるcost出力端から燃料消費率評価値SFCとして出力されるものである。
【0035】
次に、以上の構成のガスタービンエンジン最適制御装置による処理動作を、図7のフローチャートを用いて説明する。
【0036】
ア)制御パラメータの最適化
最適制御器100におけるニューラルネットワーク演算器101において、エンジンモデルの劣化同定を行い、燃料消費率推定値SFC_estを求め、この燃料消費率推定値SFC_estを最適制御演算器102に入力する。最適制御演算器102では、評価値costとしての燃料消費率SFCが最小となる制御パラメータ値である低圧タービン可変静翼角度LPTVSVの探索を行う。
【0037】
イ)制御パラメータの探索値設定
最適制御演算器102におけるパターン探索器121では、一定の演算周期として30秒ごとにCost入力端に前回の燃料消費率推定値が入力される。またInitPoint入力端にセンサから低圧タービン可変静翼角度e_lptvsv_fbがフィードバックされる。パターン探索器121では、これらから今回の燃料消費率推定値を求めて観測する(ステップST1)。そして、前回の燃料消費率推定値よりも今回の燃料消費率推定値の方が改善されている場合には、ステップST1でYESに分岐する。そして次回の燃料消費率推定値が低減される方向となる低圧タービン可変静翼角度探索値を求めて出力する(ステップST2,ST4,ST5)。
ここで、前回の燃料消費率推定値よりも今回の燃料消費率推定値が増加する方向の場合には、ステップST1でNOに分岐する。そして低圧タービン可変静翼角度探索値の変化幅を縮めて反対方向に探索して低圧タービン可変静翼角度探索値を求める(ステップST3,ST6,ST7)。このパターン探索器121が実行するパターン探索方法は一般的な最急降下法である。
このパターン探索方法では、低圧タービン可変静翼角度探索値を制御パラメータ探索初期値InitPointに足し込んで次の低圧タービン可変静翼角度指令値とし、燃料流量等と併せて実エンジン400の操作を行う(ステップST8)。
尚、最適化する制御パラメータ値は、上記実施の形態で用いた低圧タービン可変静翼角度LPTVSVに限らない。排気ノズル面積、圧縮機可変静翼角度、高圧タービンケース冷却空気流量、低圧タービンケース冷却空気流量、高圧タービン可変静翼角度、ファンバイパス面積、抽出力、抽気のいずれでもよい。
【0038】
ウ)制限値チェック
最適制御演算器102におけるリミットチェック器122は、低圧タービン可変静翼角度指令値が制限値を越えていないかどうかを確認する。制限値内の場合には、前回の燃料消費率推定値を探索の評価値として使用し、制限値外の場合にはSFCに最悪評価値worstcostを設定し、以後の演算で前回の燃料消費率推定値が更新されないようにする。
【実施例】
【0039】
上記実施の形態のガスタービンエンジン最適制御装置により、シミュレーションした結果は、図8のグラフの通りである。図8は、制御パラメータとして低圧タービン可変静翼角度指令値50%から開始した、燃料消費率SFCのセンサ値と推定値の推移を示したものである。FN,FNestはエンジン推力、エンジン推力推定値を示している。WFREF,WFactは燃料流量指令値、燃料流量実値である。N1,N1estはエンジン回転数(低圧)、エンジン回転数(低圧)の推定値である。またLPTVSVREF,LPTVSVactは低圧タービン可変静翼角度指令値、低圧タービン可変静翼角度センサ値である。そして、SFC,SFCestは実燃料消費率、燃料消費率推定値である。
【0040】
このグラフから、低圧タービン可変静翼角度指令値LPTVSVREF、低圧タービン可変静翼角度センサ値LPTVSVactは一致し、共に0%で安定している。燃料消費率SFC、燃料消費率推定値SFCestもLPTVSVactの動きに伴って97%付近のところで落ち着いている。これにより最適値が得られたことが理解できる。
【0041】
従来であれば、エンジンモデルを用い、燃料消費率SFCを最適に制御できる制御パラメータを探索するのに制御パラメータ指令値の補正値を前回の探索値に足し込んで次回の探索値としていた。これに対して、本実施の形態のガスタービンエンジン最適制御装置では、初期設定値に制御パラメータ指令値の補正値を足し込んで次回の探索値にして燃料消費率を最適にする制御パラメータ値を探索する。これにより、本実施の形態のガスタービンエンジン最適制御装置によれば、速く最小燃料消費率SFCに到達する制御パラメータ値を得ることができる。ここで、制御パラメータ指令値の補正値を前回の探索値に足し込んで次回の探索値とする方法では、探索値に対する燃料消費率が下に凸の関係にある場合に問題を生じる。すなわち、この関係において底辺を過ぎると足し込む量は減るが、前回探索値より増加方向にあり、燃料消費量推定値は増加していき、過去最小の推定値より大きくなり最適値を見いだせなくなるという問題がある。ところが、本実施の形態のガスタービンエンジン最適制御装置のように初期設定値にその補正値を足しこむ方法であれば、この問題を解消できるのである。
【符号の説明】
【0042】
100 制御器
101 ニューラルネットワーク演算器
102 最適制御演算器
121 パターン探索器
122 リミットチェック器
200 エンジン制御部
300 アクチュエータ駆動部
400 実エンジン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8