(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0013】
(ウェイストゲートバルブの全閉位置制御について)
図1は、本発明による過給圧制御装置を適用する過給機付き内燃エンジンの過給機付近を拡大して例示する図である。
【0014】
内燃エンジンの過給機10のハウジング100には、排気通路101と、バイパス通路102と、が形成される。内燃エンジンの過給機10は、排気タービン111と、吸気コンプレッサー(不図示)と、ウェイストゲートバルブ112と、を含む。
【0015】
バイパス通路102は、排気タービン111を迂回するガス通路である。バイパス通路102は、排気タービン111の上流の排気通路101から分岐して、排気タービン111の下流の排気通路101に合流する。
【0016】
排気タービン111は、排気通路101に設けられる。排気タービン111は、不図示の吸気コンプレッサーと同軸に設けられる。排気タービン111は、排気通路101を流れる排気によって回転駆動される。
【0017】
ウェイストゲートバルブ112は、バイパス通路102のゲート(
出口)12aに設けられる。ウェイストゲートバルブ112は、アクチュエーター15によって開度が調整されて、バイパス通路102を流れるガスの流量をコントロールする。
【0018】
アクチュエーター15は、タービンハウジング100に取り付けられる。アクチュエーター15は、リンク機構16を介してウェイストゲートバルブ112に連結される。アクチュエーター15は、たとえばDCモーターである。
【0019】
リンク機構16は、ストロークロッド161と、回動ロッド162と、ジョイント163と、ピボット164とを含む。ストロークロッド161は、一端(
図1では下端)にラックギヤ(不図示)が形成される。このラックギヤは、アクチュエーター15のピニオンギヤ(不図示)と噛合する。アクチュエーター15のピニオンギヤが回転すると、ストロークロッド161が、
図1の矢印A1のように、上下にストロークする。回動ロッド162は、ウェイストゲートバルブ112に固設される。回動ロッド162は、ピボット164を中心として、
図1の矢印A2のように回動する。ストロークロッド161及び回動ロッド162は、ジョイント163を介して連接される。ストロークロッド161は上下にストロークし、回動ロッド162はピボット164を中心として回動するので、両者の端部の位置に誤差が生じる。そこで、ジョイント163には誤差吸収機構が内蔵されている。たとえば、ダブルジョイントによって誤差を吸収したり、長孔とその長孔に挿入されるロッドによって誤差を吸収すればよい。
【0020】
このような構成になっているので、アクチュエーター15が作動してストロークロッド161がストロークすると、回動ロッド162が回動し、ウェイストゲートバルブ112の開度が調整される。なおウェイストゲートバルブ112の開度(ストロークロッド161のストローク量)は、アクチュエーター15に内蔵された開度センサー15aで検出される。
【0021】
ここで、実施形態の理解を容易にするために、実施形態の要旨について説明する。
【0022】
過給圧を精緻に制御すべく、近時は、ウェイストゲートバルブを電動アクチュエーターで制御することがある。さらに詳細には、ウェイストゲートバルブの開度をセンサーで検出し、その検出値が目標値に一致するようにフィードバック制御することで、ウェイストゲートバルブの開度を制御しているのである。
【0023】
しかしながら、フィードバック制御では、何らかの要因によってウェイストゲートバルブの全閉位置(目標位置)が当初から変化した場合に、ウェイストゲートバルブを全閉にできない。すなわち、周囲環境の温度変化の影響で、ターボハウジングが膨張又は収縮し、弁座の位置が微妙に変化する。また経時的な摩耗によって弁座の位置が微妙に変化する。またセンサー信号に誤差があった場合にも、ウェイストゲートバルブを全閉にすることができない。このような場合には、ウェイストゲートバルブを全閉にすることができないので、十分な過給圧が得られない可能性があるということを、発明者らが知見した。
【0024】
発明者らは、このような知見に鑑み、目標開度が全閉である場合であって、所定の開度(全閉近傍開度)になったときには、フィードバック制御と解除して、予め定められた操作量でウェイストゲートバルブを閉じることで、ウェイストゲートバルブが確実に弁座に着座するようにしたのである。以下では、コントローラーの動作を中心として、過給機付き内燃エンジンの過給圧制御装置の具体的な動作を説明する。
【0025】
図2は、過給機付き内燃エンジンの過給圧制御装置の実開度を求めるルーチンを説明するフローチャートである。
【0026】
ステップS111においてコントローラーは、ウェイストゲートバルブ112の実開度vACTWG[m]を算出する。
【0028】
図3は、過給機付き内燃エンジンの過給圧制御装置のアクチュエーター操作量(操作デューティー)を求めるルーチンを説明するフローチャートである。
【0029】
ステップS121においてコントローラーは、全閉近傍判定フラグfWGCLOSERQがゼロ(すなわちウェイストゲートバルブ112の開度が全閉近傍ではない)か否かを判定する。このフラグfWGCLOSERQは、後述の全閉近傍判定ルーチンでセットされるが、初期値はゼロである。判定結果が肯であれば、コントローラーはステップS122に処理を移行する。判定結果が否であれば、コントローラーはステップS125に処理を移行する。
【0030】
ステップS122においてコントローラーは、開度偏差vERRWG[m]を算出する。
【0032】
目標開度vTGWG[m]は、運転状態に基づいて設定される。実開度vACTWG[m]は、開度センサーによって検出される。
【0033】
ステップS123においてコントローラーは、開度偏差積算値vERRWGI[m]を算出する。
【0035】
積分ゲインvIGAINは、開度偏差vERRWGとエンジン回転速度vNE[rpm]とで、
図4に例示されるマップmIGAINを検索した値である。マップmIGAINは、適合によって予め作成されている。
【0036】
ステップS124においてコントローラーは、アクチュエーター操作デューティーvWGDUTY[-]を算出する。
【0038】
比例ゲインvPGAINは、開度偏差vERRWGとエンジン回転速度vNE[rpm]とで、
図5に例示されるマップmPGAINを検索した値である。マップmPGAINは、適合によって予め作成されている。
【0039】
排気作用力デューティーvEXHPDUTYは、目標開度vTGWGとエンジン回転速度vNE[rpm]とで、
図6に例示されるマップmEXHPDUTYを検索した値である。マップmEXHPDUTYは、適合によって予め作成されている。
【0040】
ステップS125においてコントローラーは、アクチュエーター操作デューティーvWGDUTY[-]を算出する。
【0042】
全閉操作デューティーmWGCLOSEDUTYは、適合によって全閉位置に押し付けられる操作量をあらかじめ調べておくとともに、ウェイストゲートバルブ112がターボハウジングの弁座に着座したときの衝撃によって、ウェイストゲートバルブ112及びアクチュエーター15を損傷させない操作量を設定する。
【0043】
図7は、過給機付き内燃エンジンの過給圧制御装置の全閉近傍判定ルーチンを説明するフローチャートである。
【0044】
ステップS131においてコントローラーは、全閉指令があったか否か、すなわち目標開度vTGWGがゼロであるか否かを判定する。判定結果が肯であれば、コントローラーはステップS132に処理を移行する。判定結果が否であれば、コントローラーは処理を抜ける。
【0045】
ステップS132においてコントローラーは、実開度vACTWGが全閉近傍開度mWGFUCLOSEよりも大きいか否かを判定する。全閉近傍開度mWGFUCLOSEは、予め設定されている。判定結果が肯であれば、コントローラーはステップS133に処理を移行する。判定結果が否であれば、コントローラーはステップS134に処理を移行する。
【0046】
ステップS133においてコントローラーは、全閉近傍判定フラグfWGCLOSERQにゼロをセットする。
【0047】
ステップS134においてコントローラーは、全閉近傍判定フラグfWGCLOSERQにイチをセットする。
【0048】
図8は、過給機付き内燃エンジンの過給圧制御装置の弁開閉方向の制御ルーチンを説明するフローチャートである。
【0049】
ステップS141においてコントローラーは、全閉近傍判定フラグfWGCLOSERQがイチであるか否かを判定する。判定結果が否であれば、コントローラーはステップS142に処理を移行する。判定結果が肯であれば、コントローラーはステップS144に処理を移行する。
【0050】
ステップS142においてコントローラーは、実開度vACTWGが目標開度vTGWGよりも小さいか否かを判定する。判定結果が肯であれば、コントローラーはステップS143に処理を移行する。判定結果が否であれば、コントローラーはステップS144に処理を移行する。
【0051】
ステップS143においてコントローラーは、ウェイストゲートバルブ112を開き方向に制御する。
【0052】
ステップS144においてコントローラーは、ウェイストゲートバルブ112を閉じ方向に制御する。
【0053】
以上のルーチンによって、ウェイストゲートバルブ112に対して、全閉指令ではない開度指令がなされている場合は、ステップS121→S122→S123→S124が処理されて、ウェイストゲートバルブ112の実開度vACTWGと目標開度vTGWGとの偏差vERRWGに基づいて、フィードバック制御(PI制御)が実行されて、実開度vACTWGが目標開度vTGWGに一致するように制御される。
【0054】
全閉指令があっても(ステップS131でYes)、実開度vACTWGが全閉近傍開度mWGFUCLOSEよりも大きいあいだは(ステップS132でYes)、ステップS121→S122→S123→S124が継続されて、ウェイストゲートバルブ112の実開度vACTWGと目標開度vTGWGとの偏差vERRWGに基づいて、フィードバック制御(PI制御)が実行される。
【0055】
実開度vACTWGが全閉近傍開度mWGFUCLOSEよりも小さくなったら(ステップS132でNo)、ステップS121→S125が処理されて、フィードバック制御が解除されて、ウェイストゲートバルブ112がターボハウジングの弁座に着座したときの衝撃によって、ウェイストゲートバルブ112及びアクチュエーター15を損傷させないように、ウェイストゲートバルブ112が閉じ方向に制御されて、ウェイストゲートバルブ112が弁座に着座されて全閉状態になる。
【0056】
このように本実施形態によれば、ウェイストゲートバルブ112の実開度vACTWGが全閉近傍の所定開度mWGFUCLOSEよりも大きい場合は、実開度vACTWGと目標開度vTGWGとの偏差vERRWGに基づいて、フィードバック制御(PI制御)が実行されるので、実開度vACTWGが精度よく目標開度vTGWGに一致するようになる。
【0057】
また、単にフィードバック制御するだけでは、何らかの要因によってウェイストゲートバルブの全閉位置(目標位置)が当初から変化した場合に、ウェイストゲートバルブを全閉にできない。すなわち、周囲環境の温度変化の影響で、ターボハウジングが膨張又は収縮し、弁座の位置が微妙に変化する。また経時的な摩耗によって弁座の位置が微妙に変化する。またセンサー信号に誤差があった場合にも、ウェイストゲートバルブを全閉にすることができない。このような場合には、ウェイストゲートバルブを全閉にすることができないので、十分な過給圧が得られない可能性がある。
【0058】
これに対して、本実施形態では、目標開度が全閉である場合に、実開度vACTWGが全閉近傍開度mWGFUCLOSEよりも小さくなったら、フィードバック制御を解除して、予め設定されている操作量で、ウェイストゲートバルブ112を閉じ方向に制御する。このようにしたので、ウェイストゲートバルブ112が確実に弁座に押し当てられることとなり、全閉状態になる。このため、要求過給圧を確保することが可能になり、要求のトルクを実現できる。また、所定の開度mWGFUCLOSEまでは、フィードバック制御(PI制御)することで、早い応答でウェイストゲートバルブ112を閉じることができるので、過給圧の応答を早くすることができる。
【0059】
運転状態による排気量の変化に応じて、ウェイストゲートバルブ112に作用する力が変わる。ウェイストゲートバルブ112を確実に全閉にするには、排気量に応じた力でウェイストゲートバルブ112を閉方向に押し付ける必要がある。これに対して、本実施形態では、排気がウェイストゲートバルブ112に作用する力を加算して、ウェイストゲートバルブ112を閉じ方向に制御するので、ウェイストゲートバルブ112を確実に全閉できるのである。
【0060】
また実開度vACTWGが全閉近傍開度mWGFUCLOSEよりも小さくなったら、ウェイストゲートバルブ112が弁座に着座したときの衝撃によって、ウェイストゲートバルブ112及びアクチュエーター15を損傷させない操作量で制御されるので、ウェイストゲートバルブ112及びアクチュエーター15の損傷を防止することができる。
【0061】
(ウェイストゲートバルブの全閉位置学習について)
図9は、過給機付き内燃エンジンの過給圧制御装置の学習許可ルーチンを説明するフローチャートである。
【0062】
ステップS211においてコントローラーは、バッテリー電圧が所定値(学習許可電圧mWGVB)よりも大きいか否かを判定する。学習許可電圧mWGVBは、ウェイストゲートバルブ112を駆動できる電圧に設定される。判定結果が肯であれば、コントローラーはステップS212に処理を移行する。判定結果が否であれば、コントローラーはステップS217に処理を移行する。
【0063】
ステップS212においてコントローラーは、スタータースイッチがONからOFFされたか否か、すなわち内燃エンジンが始動されたか否かを判定する。判定結果が肯であれば、コントローラーはステップS213に処理を移行する。判定結果が否であれば、コントローラーはステップS217に処理を移行する。
【0064】
ステップS213においてコントローラーは、前回のトリップから所定時間mSOKEが経過したか否かを判定する。ここで所定時間mSOKEは、内燃エンジンが冷機状態であることを判定できる時間である。これは、実験によって内燃エンジンを停止した後の水温データを取得して設定すればよい。判定結果が肯であれば、コントローラーはステップS214に処理を移行する。判定結果が否であれば、コントローラーはステップS217に処理を移行する。
【0065】
ステップS214においてコントローラーは、内燃エンジンがアイドル運転中であるか否かを判定する。判定結果が肯であれば、コントローラーはステップS215に処理を移行する。判定結果が否であれば、コントローラーはステップS217に処理を移行する。
【0066】
ステップS215においてコントローラーは、開度センサー15aが故障していないか否かを判定する。判定結果が肯であれば、コントローラーはステップS216に処理を移行する。判定結果が否であれば、コントローラーはステップS217に処理を移行する。
【0067】
ステップS216においてコントローラーは、学習許可フラグfLEARNにイチをセットする。
【0068】
ステップS217においてコントローラーは、学習許可フラグfLEARNにゼロをセットする。
【0069】
図10は、過給機付き内燃エンジンの過給圧制御装置の全閉位置制御ルーチンを説明するフローチャートである。
【0070】
ステップS221においてコントローラーは、学習許可フラグfLEARNがイチであるか否かを判定する。判定結果が肯であれば、コントローラーはステップS222に処理を移行する。判定結果が否であれば、コントローラーは処理を抜ける。
【0071】
ステップS222においてコントローラーは、ウェイストゲートバルブ112を全閉位置に制御する。具体的には、上述のように、実開度vACTWGが全閉近傍開度mWGFUCLOSEよりも大きいあいだは、フィードバック制御(PI制御)を実行し、実開度vACTWGが全閉近傍開度mWGFUCLOSEよりも小さくなったら、フィードバック制御を解除して、予め設定されている操作量で、ウェイストゲートバルブ112を閉じ方向に制御する。
【0072】
図11は、過給機付き内燃エンジンの過給圧制御装置の全閉位置センサー電圧更新ルーチンを説明するフローチャートである。
【0073】
ステップS231においてコントローラーは、開度偏差vERRWGの絶対値vERRWGAが全閉位置収束判定値mWG0JG[m]よりも小さい状態が、所定時間(全閉位置収束判定時間mLEARNT[s])継続したか否かを判定する。なお全閉位置収束判定値mWG0JG[m]及び全閉位置収束判定時間mLEARNT[s]は、予め実験によって適合されている。判定結果が肯であれば、コントローラーはステップS232に処理を移行する。判定結果が否であれば、コントローラーは処理を抜ける。
【0074】
ステップS232においてコントローラーは、全閉位置センサー電圧値vWG0POS[V]を更新する。
図2のステップS111では、全閉位置センサー電圧値vWG0POSが用いられる。なお全閉位置センサー電圧値vWG0POS[V]を更新したら、または、更新前に学習許可ルーチン(
図9)の各条件が不成立になって、学習許可フラグfLEARNがゼロとなったら、そのトリップでは、それ以降、学習許可フラグfLEARNをイチにしないことが望ましい。誤学習を防止するためである。
【0075】
このようにすることで、ウェイストゲートバルブ112を確実に全閉位置にすることができるので、精度よく基準位置(全閉位置)を学習することができる。ひいては、要求の過給圧制御を実現できるのである。
【0076】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0077】
たとえば、「検出」には、直接検出するのみならず、間接的に検出すなわち他から推定をも含む。
【0078】
また上述のマップやテーブルは、一例に過ぎない。内燃エンジンの仕様によって適宜設定される。
【0079】
上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。