(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コイル(17)への通電によって電磁石を形成し、その電磁石の吸引力でプランジャ(22)を軸方向に吸引する電磁ソレノイド(SL1)と、前記プランジャ(22)の移動に伴い軸方向に移動可能なプランジャロッド(24)とを備え、
前記電磁ソレノイドの作動によりドライブレバー(7)を介してピニオン(6)をエンジンのリングギヤ(44)側へ押し出すピニオン飛込み式スタータ(1)であって、
前記プランジャ(22)は、軸方向の一端側に底面を有して他端側が開口する円筒孔(22a)を形成し、
前記プランジャロッド(24)は、軸方向の一端側がドライブスプリング(25)と共に前記円筒孔(22a)の内部に挿入され、前記円筒孔(22a)より突き出る他端側に前記ドライブレバー(7)が連結され、
前記電磁ソレノイド(SL1)の作動により前記ドライブレバー(7)を介して前記ピニオン(6)を押し出す際に、前記電磁石の吸引力に抗して抵抗力を発生させることで前記プランジャ(22)または前記プランジャロッド(24)の移動速度を抑制する移動速度抑制手段を有し、
この移動速度抑制手段は、前記プランジャ(22)が前記電磁石に吸引されて移動した後、前記ピニオン(6)が前記リングギヤ(44)に当接するまでの間のいずれかの期間で、前記プランジャ(22)または前記プランジャロッド(24)の移動速度を抑制することにより、前記ピニオン(6)が前記リングギヤ(44)に当接する時の速度を抑制することを特徴とするスタータ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するための形態を以下の実施例により詳細に説明する。
【0010】
〔実施例1〕
実施例1のスタータ1は、
図2に示す様に、回転力を発生するモータ2と、このモータ2の回転速度を減速してトルクを増幅する減速機3と、この減速機3に過大な衝撃が加わった時に、その過大な衝撃を吸収する衝撃吸収機構(後述する)と、減速機3を介してモータ2に駆動される出力軸4と、この出力軸4の軸上にクラッチ5と一体に配置されるピニオン6と、ドライブレバー7を介してピニオン6をクラッチ5と一体に出力軸4の反モータ方向(図示左方向)へ押し出す第1のソレノイド(以下、ソレノイドSL1と呼ぶ)と、モータ2の通電回路に設けられるメイン接点(後述する)と、このメイン接点を開閉する第2のソレノイド(以下、ソレノイドSL2と呼ぶ)等より構成される。
【0011】
モータ2は、永久磁石8によって界磁を形成する永久磁石界磁と、電機子軸9aの軸上に整流子10を有する電機子9と、この電機子9の回転に伴って整流子10の外周上を摺接するブラシ11等より構成される周知の整流子電動機である。なお、永久磁石界磁に替えて電磁石界磁を採用することもできる。
減速機3は、電機子軸9aの回転により自転運動と公転運動を行う遊星歯車12を備える周知の遊星歯車減速装置である。
衝撃吸収機構は、摩擦力によって回転規制される摩擦プレート13を有し、エンジン側より減速機3に過大な衝撃が伝達された時に、摩擦プレート13が摩擦力に抗して滑る(回転する)ことで過大な衝撃を吸収する。
【0012】
出力軸4は、減速機3を介してモータ2の電機子軸9aと同軸線上に配置され、減速機3で増幅されたモータトルクが伝達されて回転する。
クラッチ5は、出力軸4の外周にヘリカルスプライン嵌合して配置され、出力軸4に伝達されたモータトルクをピニオン6に伝達する一方、ピニオン6から出力軸4へのトルク伝達を遮断する一方向クラッチとして構成される。
ピニオン6は、クラッチ5のインナ5aを反モータ方向へ延長して設けられるインナチューブ5bの外周に直スプライン嵌合して配置され、且つ、ピニオン6の内周に配設されるピニオンスプリング14によりインナチューブ5bの先端方向(図示左方向)へ付勢されている。
インナチューブ5bの先端部には、ピニオン6の反モータ方向への移動を規制するピニオンストッパ15がスナップリング16を介して取り付けられる。
【0013】
ソレノイドSL1とソレノイドSL2は、電磁ソレノイド装置として一体的に構成され、その電磁ソレノイド装置の軸方向(図示左右方向)に両ソレノイドSL1、SL2が直列に配置される。なお、以下の説明では、電磁ソレノイド装置の図示左側をフロント側と呼び、図示右側をリヤ側と呼ぶ。
両ソレノイドSL1、SL2は、それぞれ樹脂製のボビンに被覆銅線を巻回して形成されるコイル17、18を有する。両コイル17、18の間には、磁気回路の一部を共有する円環状の積層プレート19が配置され、その積層プレート19の内周に固定鉄心20が圧入嵌合して積層プレート19と一体に構成されている。
【0014】
以下、
図1を参照してソレノイドSL1の構成を説明する。
コイル17の内周には、円筒状のプランジャガイド21が配置され、このプランジャガイド21の内周にプランジャ22が挿入される。
プランジャ22は、固定鉄心20のフロント側端面に対向してプランジャガイド21の内周を軸方向(図示左右方向)に可動する。
プランジャ22と固定鉄心20との間には、プランジャ22を反固定鉄心方向(図示左方向)へ付勢するリターンスプリング23が配設される。
【0015】
プランジャ22は、コイル17に通電されて電磁石が形成されると、磁化された固定鉄心20に吸引されて固定鉄心20のフロント側端面に吸着され、コイル17への通電が停止して電磁石の吸引力が消滅すると、リターンスプリング23の反力で反固定鉄心方向へ押し戻される。
このプランジャ22には、径方向の中央部に円筒孔22aが形成される。この円筒孔22aは、プランジャ22のリヤ側に底面を有し、フロント側が開口している。また、円筒孔22aには、以下に説明するプランジャロッド24とドライブスプリング25とが配設される。
【0016】
プランジャロッド24は、リヤ側の端部にフランジ部24aが一体に設けられ、このフランジ部24aがドライブスプリング25の荷重を受けて円筒孔22aの底面に押し付けられている。つまり、プランジャロッド24は、ドライブスプリング25が撓む(軸方向に圧縮する)ことで、プランジャ22に対し軸方向に相対移動可能に設けられている。
また、円筒孔22aから突き出るプランジャロッド24のフロント側には係合溝が形成され、この係合溝にドライブレバー7の一端側に設けられた二股の連結部7aが係合している。
ドライブスプリング25は、円筒孔22aの内部でプランジャロッド24の外周に配設されて、プランジャロッド24のフランジ部24aにリヤ側の端部が支持され、プランジャ22の開口周縁部にかしめ固定されるスプリング受け部26にフロント側の端部が支持されている。
【0017】
以下、
図2および
図3を参照してソレノイドSL2の構成とメイン接点について説明する。
コイル18の内周には、固定鉄心20のリヤ側端面に対向して軸方向に可動するプランジャ27が配置され、このプランジャ27と固定鉄心20との間にリターンスプリング28が配設される。
プランジャ27は、コイル18に通電されて電磁石が形成されると、磁化された固定鉄心20に吸引されて固定鉄心20のリヤ側端面に吸着され、コイル18への通電が停止して電磁石の吸引力が消滅すると、リターンスプリング28の反力で反固定鉄心方向へ押し戻される。
ソレノイドSL1、SL2の両コイル17、18は、
図3に示すように、それぞれ駆動リレー29、30を介してバッテリ31に接続され、駆動リレー29、30が閉成することでバッテリ31より通電されて電磁石を形成する。駆動リレー29、30の開閉動作は、アイドリングストップ用ECU32によって制御される。
【0018】
メイン接点は、
図2に示すように、2本のボルト端子33、34を介してモータ2の通電回路に接続される一組の固定接点35と、この一組の固定接点35に対向して軸方向に可動する可動接点36とで構成される。2本のボルト端子33、34は、それぞれ外周に雄ねじ部が形成されたボルト形状を有し、電磁スイッチ装置の樹脂カバー37に固定され、雄ねじ部の一部が樹脂カバー37の外側に取り出されている。樹脂カバー37の外側に取り出される一方のボルト端子33には、バッテリ31に繋がるケーブルが接続され、他方のボルト端子34は、モータリード線38を介して正極側のブラシ11と電気的に接続される。
一組の固定接点35は、樹脂カバー37の内部に形成される接点室に配置されて、2本のボルト端子33、34と各々電気的かつ機械的に接続されている。
【0019】
可動接点36は、プランジャ27に固定された樹脂製シャフト39の端面に支持され、接点圧スプリング40の荷重を受けてシャフト39の端面に押圧されている。
この可動接点36は、ソレノイドSL2のオン/オフ動作に応じて軸方向に可動する。具体的には、コイル18に通電されて磁化された固定鉄心20にプランジャ27が吸引されると、接点圧スプリング40に付勢された可動接点36が一組の固定接点35に当接してメイン接点が閉成する。一方、コイル18への通電が停止してプランジャ27が反固定鉄心方向へ押し戻されると、可動接点36が一組の固定接点35から離間してメイン接点が開成する(
図2に示す状態)。
【0020】
次に、本発明に係る移動速度抑制手段について
図1を参照して説明する。
実施例1の移動速度抑制手段は、プランジャ22の円筒孔22aから突き出るプランジャロッド24のフロント側端部(以下、ロッド端部24bと呼ぶ)の外周に装着されるゴム製のOリング41を有する。このOリング41が装着されたロッド端部24bは、例えば、スタータハウジング42に固定されるロッドガイド43に保持されている。
ロッドガイド43は、フロント側に底面を有してリヤ側が開口する有底円筒形状に設けられ、ロッド端部24bを軸方向に移動可能に保持している。ロッドガイド43の内径は、Oリング41の外径より若干小さく形成される。従って、Oリング41が装着されたロッド端部24bは、Oリング41が径方向に若干圧縮された状態でロッドガイド43に保持されている。
ロッドガイド43の軸方向長さは、例えば、ソレノイドSL1の作動によりピニオン6が押し出されてエンジンのリングギヤ44に当接するまでの間、Oリング41がロッドガイド43から外れないだけの長さを有する。
【0021】
続いて、スタータ1の作動と共に移動速度抑制手段の作用を説明する。
ここでは、アイドリングストップが実施されてエンジンが完全に停止してから再始動要求が発生した時の作動について説明する。エンジンの再始動要求は、ドライバーによる発進操作(例えばブレーキの解除操作、ドライブレンジ等へのシフト操作等)に基づいてECU32が判断する。
ECU32は、再始動要求の発生に応答して電磁スイッチ装置の作動を制御する。具体的には、先ず、駆動リレー29にオン信号を出力して駆動リレー29を閉制御する。駆動リレー29が閉成すると、バッテリ31からコイル17に通電されてソレノイドSL1が作動する。その結果、ドライブレバー7を介してピニオン6がクラッチ5と一体に反モータ方向(リングギヤ44側)へ押し出される。この時、本発明の移動速度抑制手段が機能する。
【0022】
移動速度抑制手段は、ソレノイドSL1の作動によりドライブレバー7を介してピニオン6が押し出される時に、プランジャ22の移動速度に比してプランジャロッド24の移動速度を抑制する。具体的には、
図4(a)に示すピニオン6の停止状態から同図(b)に示すピニオン当接までの間においてプランジャロッド24の移動速度を抑制する。なお、同図(b)の「ピニオン当接」とは、ドライブレバー7を介して押し出されたピニオン6がクラッチ5と一体に出力軸4の軸上を移動してリングギヤ44の端面にピニオン6の端面が当接した状態を言う。
プランジャロッド24は、プランジャ22が電磁石に吸引されて移動する際に、プランジャ22に連れて移動しようとするが、ピニオン停止状態からピニオン当接までの間は、ロッド端部24bの外周に装着されたOリング41とロッドガイド43の内周面との間に摩擦力が働くため、プランジャロッド24の初速及び加速度が抑制される。
【0023】
ピニオン6の端面がリングギヤ44の端面に当接した後、
図5(c)に示すように、ドライブスプリング25を撓ませながらプランジャ22が固定鉄心20に吸着されるまで移動する間に、クラッチ5がピニオンスプリング14(
図2参照)を撓ませながら出力軸4の軸上を前進する。さらに、ピニオン6がヘリカルスプラインの作用によりリングギヤ44と噛み合い可能な位置まで回転すると、同図(d)に示すように、ドライブスプリング25の反発力でクラッチ5が押し出され、且つ、ピニオンスプリング14に付勢されてピニオン6がリングギヤ44に噛み合う。
【0024】
この後、ECU32は、駆動リレー30にオン信号を出力して駆動リレー30を閉制御する。駆動リレー30が閉成すると、バッテリ31からコイル18に通電されてソレノイドSL2が作動することにより、メイン接点が閉成して、バッテリ31よりモータ2に通電される。モータ2への通電によって電機子9が回転すると、電機子9の回転速度が減速機3により減速されて出力軸4に伝達され、出力軸4が回転することで、その回転がクラッチ5を介してピニオン6に伝達される。その結果、減速機3で増幅されたモータトルクがピニオン6からリングギヤ44に伝達されてエンジンをクランキングする。
【0025】
〔実施例1の作用効果〕
実施例1のスタータ1は、ソレノイドSL1の作動によりドライブレバー7を介してピニオン6が押し出される時に、プランジャ22の移動速度に比してプランジャロッド24の移動速度を抑制する移動速度抑制手段を備えている。これにより、移動速度抑制手段を持たない従来のピニオン飛込み式スタータと比較すると、
図6に示すように、ピニオン6がリングギヤ44に到達する時点(図中の丸印)でのピニオン速度が低減することが分かる。なお、
図6は、出力軸4の軸上を移動するピニオン6の移動速度を計測したグラフであり、図中の太い実線グラフが移動速度抑制手段を備える本発明スタータによるピニオン移動速度を示している。一方、図中の細い実線グラフは、移動速度抑制手段を持たない従来スタータによるピニオン移動速度を示している。
【0026】
上記のように、移動速度抑制手段によりプランジャロッド24の初速及び加速度が抑制されることで、ピニオン6がリングギヤ44に当接する時の速度が低減するため、ピニオン6とリングギヤ44との衝突音を小さくできる。特に、アイドリングストップを搭載する車両は、スタータ1によりエンジンを再始動する回数が大きく増加するため、ピニオン6とリングギヤ44との衝突音を小さくできることは、ユーザにとって大きなメリットがある。
なお、実施例1では、アイドリングストップが実施されてエンジンが完全に停止してから再始動要求が発生した時の作動を説明しているが、エンジンが完全に停止する前、すなわち、リングギヤ44が惰性回転している間に再始動要求が発生した場合にも本発明を適用できる。
【0027】
以下、本発明の移動速度抑制手段に係る他の実施例について説明する。
なお、実施例1と共通する部品および構成を示すものは、実施例1と同一の符号を付与
し、その詳細な説明は省略する。
〔実施例2〜4、参考例1〜4〕
実施例2〜4および参考例1〜4は、プランジャ22との間に抵抗力を発生させてプランジャロッド24の移動速度を抑制する事例であり
、七つの事例を開示する。なお、
実施例2〜4および参考例1〜4の事例は、実施例1の事例と比較してドライブスプリング25のばね定数が小さく設定され、プランジャ22が電磁石に吸引されて移動する際に、プランジャロッド24がプランジャ22と同時に移動することはない。つまり、ドライブレバー7を介してクラッチ5に連結されるプランジャロッド24は、クラッチ5及びピニオン6を押し出すことができるだけの反発力をドライブスプリング25が蓄えるまでは移動しない。従って、七つの事例に対応する
図7〜
図13は、それぞれプランジャ22が先に移動してプランジャロッド24が静止している状態を示している。
【0028】
参考例1は、
図7に示すように、プランジャロッド24のフランジ部24aの外周にOリング45を装着した事例である。この場合、プランジャ22が電磁石に吸引されて図示右方向へ移動する間にドライブスプリング25が圧縮されて反発力が蓄えられると、その反発力を受けてプランジャロッド24が円筒孔22aの内部を図示右方向へ移動する。この時、プランジャロッド24のフランジ部24aの外周にOリング45が装着されているので、Oリング45とプランジャ22の円筒孔22aの内周面との間に摩擦力が働く。特に、プランジャロッド24の移動し始めは、Oリング45に大きい静止摩擦力が加わり、移動開始後には静止摩擦力より小さい動摩擦力が加わる。その摩擦力によってプランジャロッド24の移動速度(特に初速)が抑制される。その結果、ピニオン6がリングギヤ44に当接する時の速度が低減するため、ピニオン6とリングギヤ44との衝突音を小さくできる。
【0029】
なお、Oリング45は、市販のOリングに対してプランジャロッド24の軸方向に延びる図示しない通気溝を新たに形成しても良い。Oリング45に通気溝を形成することで、その通気溝を通じてOリング45より図示右側の空間(以下、内部空間S1と呼ぶ)と、図示左側の空間(ドライブスプリング25が配設されている空間)とが連通するので、内部空間S1が密閉された空間となることを回避できる。これにより、プランジャロッド24が円筒孔22aの内部を図示右方向へ移動する際に、内部空間S1からOリング45に形成された通気溝を通ってOリング45より図示左側の空間へ空気が流れることができるので、内部空間S1の圧力上昇を抑制できる。その結果、プランジャロッド24の移動が内部空間S1の圧力上昇によって妨げられることはないので、ピニオン6がリングギヤ44に当接する前にプランジャロッド24の移動が停止することはない。
【0030】
参考例2は、
図8に示すように、プランジャロッド24のフランジ部24aの外周にOリング45を装着し、且つ、プランジャロッド24を軸方向に貫通して内部空間S1に通じる通気孔24cを形成した事例である。
上記の
参考例1では、内部空間S1が密閉空間となることを回避するための対策としてOリング45に通気溝を形成することを開示したが、
参考例2では、内部空間S1に通じる通気孔24cをプランジャロッド24に形成することで内部空間S1が密閉空間となることを回避している。したがって、Oリング45に通気溝を形成する必要はなく、市販のOリングをそのまま使用することができる。
【0031】
この事例においても、プランジャロッド24が円筒孔22aの内部を図示右方向へ移動する際に、フランジ部24aの外周に装着されたOリング45とプランジャ22の円筒孔22aの内周面との間に摩擦力が働く。その結果、摩擦力によってプランジャロッド24の移動速度が抑制されて、ピニオン6がリングギヤ44に当接する時の速度が低減するため、ピニオン6とリングギヤ44との衝突音を小さくできる。
また、プランジャロッド24が移動する際に、内部空間S1から通気孔24cを通ってプランジャロッド24の外側へ空気が流れるので、内部空間S1の圧力上昇を抑制できる。その結果、プランジャロッド24の移動が内部空間S1の圧力上昇によって妨げられることはないので、ピニオン6がリングギヤ44に当接する前にプランジャロッド24の移動が停止することはない。
【0032】
参考例3は、
図9に示すように、プランジャロッド24のフランジ部24aの外周にOリング45が装着され、さらに、プランジャ22の円筒孔22aを底面(図示右方向)に向かって内径が次第に大きくなるテーパ状に形成した事例である。
この構成では、ドライブスプリング25の反発力を受けてプランジャロッド24が移動を開始する時の速度、つまり、プランジャロッド24の初速を抑制できる。
また、プランジャ22の円筒孔22aがテーパ状に形成されているので、プランジャロッド24の移動に伴ってOリング45の圧縮状態が解消されると、円筒孔22aの内周面に対するOリング45の摩擦力はゼロになる。これにより、プランジャロッド24の移動速度は上昇し始めるが、初速が抑制されているため、低速からしか上昇しない。
上記の結果、ピニオン6が押し出される時の移動速度(初速)が抑制されるため、ピニオン6がリングギヤ44に当接する時の速度が低減してピニオン6とリングギヤ44との衝突音を小さくできる。
【0033】
実施例2は、
図10に示すように、プランジャロッド24のフランジ部24aの外周にOリング45が装着され、さらに、プランジャ22の円筒孔22aの内周に内径側へ突き出る段差22bを設けた事例である。この段差22bは、プランジャ22の移動によりドライブスプリング25がピニオン6を押し出すための反発力を蓄えるまで圧縮された状態で、プランジャロッド24のフランジ部24aと径方向に対向する位置に設けられる。
この構成では、ドライブスプリング25の反発力を受けてプランジャロッド24が移動を開始する時に、フランジ部24aの外周に装着されたOリング45と段差22bの内周面との間に摩擦力が働き、その摩擦力によってプランジャロッド24の初速が抑制される。また、プランジャロッド24が移動を開始した後、Oリング45と段差22bとの相対位置が軸方向にずれてOリング45の圧縮状態が解消されると、円筒孔22aの内周面に対するOリング45の摩擦力はゼロになる。これにより、プランジャロッド24の移動速度は上昇し始めるが、初速が抑制されているため、低速からしか上昇しない。
上記の結果、ピニオン6が押し出される時の移動速度(初速)が抑制されるため、ピニオン6がリングギヤ44に当接する時の速度が低減してピニオン6とリングギヤ44との衝突音を小さくできる。
【0034】
実施例3は、
図11に示すように、プランジャ22の円筒孔22aの内周に雌ヘリカルギヤ22cを設け、プランジャロッド24のフランジ部24aの外周に雄ヘリカルギヤ24dを設けた事例である。
この構成では、ドライブスプリング25に蓄えられた反発力によりプランジャロッド24が移動を開始する際に、雌ヘリカルギヤ22cと雄ヘリカルギヤ24dとの噛み合いによって摩擦力が発生し、その摩擦力によりプランジャロッド24の初速が抑制される。
また、プランジャロッド24が移動を開始した後、雌ヘリカルギヤ22cと雄ヘリカルギヤ24dとの噛み合い状態が解消されて摩擦力がゼロになると、プランジャロッド24の移動速度は上昇し始めるが、初速が抑制されているため、低速からしか上昇しない。
【0035】
上記の結果、ピニオン6が押し出される時の移動速度(初速)が抑制されるため、ピニオン6がリングギヤ44に当接する時の速度が低減してピニオン6とリングギヤ44との衝突音を小さくできる。
なお、
参考例3、実施例2、3は、プランジャロッド24の移動が進行しても、円筒孔22aの内部に密閉空間が形成されて高圧になることはない。従って、プランジャロッド24が移動を開始した後、ピニオン6がリングギヤ44に当接する前にプランジャロッド24が停止することは起きないので、
参考例1、2に記載した内部空間S1が密閉空間となることを回避するような対策は不要である。
【0036】
参考例4は、プランジャロッド24の移動により内部空間S1の空気が圧縮されてエアダンパとして機能することで抵抗力を発生させる事例である。
内部空間S1は、
図12に示すように、円筒孔22aの内周でプランジャロッド24のフランジ部24aの端面と円筒孔22aの底面との間に形成される。
プランジャロッド24には、径方向の中央部を軸方向に貫通して内部空間S1に通じる通気孔24cが形成され、且つ、通気孔24cを開閉可能な開閉弁46が取り付けられている。この開閉弁46は、プランジャロッド24がプランジャ22に対し内部空間S1の容積を減少させる方向(図示右方向)へ移動する際に閉弁して通気孔24cを閉じ、プランジャロッド24が内部空間S1の容積を増大させる方向へ移動する際に開弁して通気孔24cを開く一方向弁である。
【0037】
また、プランジャロッド24のフランジ部24aの外周には、円筒孔22aの内周面に
摺接するOリング47が装着されている。なお、
参考例1〜3、実施例2に記載したOリング45は、プランジャロッド24が移動する際に摩擦力を発生することでプランジャロッド24の移動速度を抑制する働きを持たせているが、
図12に示すOリング47は、プランジャロッド24の移動速度を積極的に抑制できるだけの摩擦力を発生するものではない。
上記の構成によれば、プランジャ22が電磁石に吸引されて移動した後、ドライブスプリング25の反発力を受けてプランジャロッド24が円筒孔22aの内部を図示右方向へ移動することで内部空間S1の容積が減少する。この時、プランジャロッド24に取り付けられた開閉弁46は、内部空間S1に通じる通気孔24cを閉じる閉弁状態となる。このため、プランジャロッド24の移動に応じて内部空間S1の空気が圧縮され、その圧縮された内部空間S1の空気がエアダンパとして機能し、プランジャロッド24の移動に対して抵抗力として作用する。
上記の結果、プランジャロッド24の移動速度(特に初速)が抑制されてピニオン6が押し出される時の移動速度が抑制されるため、ピニオン6がリングギヤ44に当接する時の速度が低減してピニオン6とリングギヤ44との衝突音を小さくできる。
【0038】
なお、プランジャ22が電磁石に吸引されて移動を開始する際(この時点では、プランジャロッド24は移動することなく静止している)は、内部空間S1の容積が増大するため、開閉弁46は通気孔24cを開く開弁状態となる。これにより、プランジャ22が移動を開始する時に内部空間S1が負圧状態にはならないため、内部空間S1の空気圧がプランジャ22の移動に対し抵抗力として作用することない。
また、
参考例1に記載したOリング45と同様に、本事例のOリング47にも通気溝(図示せず)を形成することができる。Oリング47に通気溝を形成することで、プランジャロッド24の移動が内部空間S1の圧力上昇によって妨げられることはないので、ピニオン6がリングギヤ44に当接する前にプランジャロッド24の移動が停止することはない。
【0039】
実施例4は、
参考例4と同様に、プランジャロッド24の移動に応じて内部空間S1の空気が圧縮され、その圧縮された空気がプランジャロッド24の移動に対して抵抗力として作用する他の事例である。
具体的には、
図13に示すように、プランジャロッド24のフランジ部24aの外周にOリング48が装着され、このOリング48によってフランジ部24aの外周と円筒孔22aの内周との摺動隙間がシールされている。つまり、本事例のOリング48は、内部空間S1の気密性を保持するためのシール部品である。
【0040】
また、プランジャロッド24には、径方向の中央部を軸方向に貫通して内部空間S1に通じる通気孔24cが形成され、且つ、通気孔24cを開閉可能なリリーフ弁49が取り付けられている。このリリーフ弁49は、スプリング49aによって閉弁方向(通気孔24cを閉じる方向)へ付勢されており、内部空間S1の圧力が所定値に達するまでは閉弁状態を維持し、内部空間S1の圧力が所定値を超えると、スプリング49aの付勢力に抗して開弁する。
上記の構成によれば、プランジャ22が電磁石に吸引されて移動した後、ドライブスプリング25の反発力を受けてプランジャロッド24が円筒孔22aの内部を図示右方向へ移動すると、内部空間S1の容積が減少するに従って内部空間S1の圧力が上昇する。この内部空間S1の圧力が所定値に達するまではリリーフ弁49が閉じているため、内部空間S1の圧力上昇に伴ってプランジャロッド24の移動速度が抑制される。
【0041】
プランジャロッド24の移動が進行して内部空間S1の圧力が所定値を超えるまで上昇すると、リリーフ弁49が開弁して通気孔24cを開くことで、内部空間S1の圧力が通気孔24cを通じて開放される。
上記のように、内部空間S1の圧力が所定値に達するまでの間、つまり、リリーフ弁49が閉弁状態を維持している間は、内部空間S1の圧力上昇によってプランジャロッド24の移動速度が抑制され、ピニオン6が押し出される時の移動速度が抑制される。その結果、ピニオン6がリングギヤ44に当接する時の速度が低減してピニオン6とリングギヤ44との衝突音を小さくできる。
また、内部空間S1の圧力が所定値を超えてリリーフ弁49が開弁すると、内部空間S1の圧力が通気孔24cを通じて開放されるので、ピニオン6がリングギヤ44に当接する前にプランジャロッド24の移動が停止することはない。
【0042】
〔実施例5、参考例5〜10〕
実施例5、参考例5〜10は、プランジャ22が電磁石に吸引されて移動する際に、電磁石の吸引力に抗して抵抗力を発生させることでプランジャ22の移動速度を抑制する事例であり
、七つの事例を開示する。
なお、
実施例5、参考例5〜10の事例は、上記の
実施例1〜4、参考例1〜4の事例と比較してドライブスプリング25のばね定数が大きく設定され、プランジャ22が電磁石に吸引されて移動する際に、プランジャロッド24はプランジャ22と略同時に移動する。つまり、ドライブスプリング25のばね定数は、実施例1と同じと考えてよい。
実施例5、参考例5〜10の七つの事例に対応する
図14〜
図20は、それぞれプランジャ22およびプランジャロッド24が静止している状態を示している。
【0043】
参考例5は、
図14に示すように、プランジャ22の外周にOリング50を装着した事例である。この場合、プランジャ22が電磁石に吸引されて図示右方向へ移動する際に、プランジャ22の外周にOリング50が装着されているので、Oリング50とプランジャガイド21の内周面との間に摩擦力が働く。特に、プランジャ22の移動し始めは、Oリング50に大きい静止摩擦力が加わり、移動開始後には静止摩擦力より小さい動摩擦力が加わる。この摩擦力によってプランジャ22の移動速度、すなわちプランジャロッド24の移動速度(特に初速)が抑制されるため、ピニオン6がリングギヤ44に当接する時の速度が低減してピニオン6とリングギヤ44との衝突音を小さくできる。
【0044】
なお、Oリング50は、
参考例5の事例で記載したように、市販のOリングに対してプランジャ22の軸方向に延びる図示しない通気溝を新たに形成しても良い。Oリング50に通気溝を形成することで、その通気溝を通じてOリング50より図示右側の空間(以下、内部空間S2と呼ぶ)と、図示左側の空間(プランジャ22の外側の空間)とが連通するので、内部空間S2が密閉された空間となることを回避できる。これにより、プランジャ22がプランジャガイド21の内周を図示右方向へ移動する際に、内部空間S2からOリング50に形成された通気溝を通ってOリング50より図示左側の空間へ空気が流れることができるので、内部空間S2の圧力上昇を抑制できる。その結果、プランジャ22の移動が内部空間S2の圧力上昇によって妨げられることはないので、ピニオン6がリングギヤ44に当接する前にプランジャ22の移動が停止することはない。
【0045】
また、コイル17への通電停止により電磁石の吸引力が消滅してプランジャ22がリターンスプリング23(
図2参照)の反力で押し戻される時は、Oリング50に形成された通気溝を通って内部空間S2に空気が流れ込むので、内部空間S2が負圧状態にはならない。従って、内部空間S2の圧力状態がプランジャ22の戻り動作に対して抵抗力として作用することはない。
【0046】
参考例6は、
図15に示すように、プランジャ22の外周にOリング50を装着し、且つ、プランジャロッド24を軸方向に貫通する通気孔24cと、プランジャン22の底面を軸方向に貫通して内部空間S2に通じる通気孔22dを形成した事例である。
参考例5では、内部空間S2が密閉空間となることを回避するための対策としてOリング50に通気溝を形成することを開示したが、この実施例3の(2)では、プランジャロッド24とプランジャ22とにそれぞれ通気孔24c、通気孔22dを形成することで内部空間S2が密閉空間となることを回避している。したがって、Oリング50に通気溝を形成する必要はなく、市販のOリングをそのまま使用することができる。
【0047】
この事例においても、プランジャ22がプランジャガイド21の内周を図示右方向へ移動する際に、プランジャ22の外周に装着されたOリング50とプランジャガイド21の内周面との間に摩擦力が働く。その結果、摩擦力によってプランジャ22及びプランジャロッド24の移動速度(特に初速)が抑制されて、ピニオン6がリングギヤ44に当接する時の速度が低減するため、ピニオン6とリングギヤ44との衝突音を小さくできる。
また、プランジャ22が電磁石に吸引されて移動する際に、内部空間S2から通気孔22d、24cを通ってプランジャロッド24の外側へ空気が流れるので、内部空間S2の圧力上昇を抑制できる。その結果、プランジャ22の移動が内部空間S2の圧力上昇によって妨げられることはないので、ピニオン6がリングギヤ44に当接する前にプランジャ22の移動が停止することはない。
【0048】
参考例7は、
図16に示すように、プランジャ22の外周にOリング50が装着され、さらに、プランジャガイド21の内径を固定鉄心20側(図示右側)へ向かって次第に大きくなるテーパ状に形成した事例である。
この構成では、プランジャ22が電磁石に吸引されて移動を開始する時の速度、つまり、プランジャ22の初速を抑制できる。また、プランジャガイド21がテーパ状に形成されているので、プランジャ22の移動に伴ってOリング50の圧縮状態が解消されると、プランジャガイド21の内周面に対するOリング50の摩擦力はゼロになる。これにより、プランジャ22の移動速度は上昇し始めるが、初速が抑制されているため、低速からしか上昇しない。
上記の結果、ピニオン6が押し出される時の移動速度(初速)が抑制されるため、ピニオン6がリングギヤ44に当接する時の速度が低減してピニオン6とリングギヤ44との衝突音を小さくできる。
【0049】
参考例8は、
図17に示すように、プランジャ22の外周にOリング50が装着され、さらに、プランジャガイド21の内周に内径側へ突き出る段差21aを設けた事例である。この段差21aは、ソレノイドSL1の作動が停止している状態、つまり、プランジャ22が静止している時に、プランジャ22の外周に装着されたOリング50と径方向に対向する位置に設けられる。言い換えると、プランジャ22の外周に装着されるOリング50は、プランジャ22が静止している時に、段差21aの内周面に押圧されて径方向に若干圧縮されている。
【0050】
上記の構成によれば、プランジャ22が電磁石に吸引されて移動する際に、プランジャ22の外周に装着されたOリング50とプランジャガイド21に設けられた段差21aとの間に摩擦力が働く。この摩擦力によってプランジャ22が移動を開始する時の速度、つまり、プランジャ22の初速が抑制される。また、プランジャ22が移動を開始した後、Oリング50と段差21aとの相対位置が軸方向にずれてOリング50の圧縮状態が解消されると、プランジャガイド21の内周面に対するOリング50の摩擦力はゼロになる。これにより、プランジャ22の移動速度は上昇し始めるが、初速が抑制されているため、低速からしか上昇しない。
上記の結果、ピニオン6がリングギヤ44に当接する時の速度が低減するため、ピニオン6とリングギヤ44との衝突音を小さくできる。
【0051】
実施例5は、
図18に示すように、プランジャガイド21の内周に雌ヘリカルギヤ21bを設け、プランジャ22の外周に雄ヘリカルギヤ22eを設けた事例である。この構成では、プランジャ22が電磁石に吸引されて移動する際に雌ヘリカルギヤ21bと雄ヘリカルギヤ22eとの噛み合いによって摩擦力が発生し、その摩擦力によってプランジャ22及びプランジャロッド24の初速が抑制される。また、プランジャ22が移動を開始した後、雌ヘリカルギヤ21bと雄ヘリカルギヤ22eとの噛み合い状態が解消されて摩擦力がゼロになると、プランジャ22の移動速度は上昇し始めるが、初速が抑制されているため、低速からしか上昇しない。
【0052】
上記の結果、ピニオン6が押し出される時の移動速度(初速)が抑制されるため、ピニオン6がリングギヤ44に当接する時の速度が低減してピニオン6とリングギヤ44との衝突音を小さくできる。
なお、
参考例7、8、実施例5は、プランジャの移動が進行しても
参考例5、6に記載した内部空間S2が密閉空間となることを回避するような対策は不要である。
【0053】
参考例9は、プランジャ22の移動により内部空間S2の空気が圧縮されてエアダンパとして機能することで抵抗力を発生させる事例である。
内部空間S2は、
図19に示すように、プランジャガイド21の内周でプランジャ22と固定鉄心20との間に形成される。
プランジャ22の底面には、径方向の中央部を軸方向に貫通して内部空間S2に通じる通気孔22dが形成され、且つ、通気孔22dを開閉可能な開閉弁51が取り付けられている。また、プランジャロッド24には、プランジャ22の通気孔22dに連通する通気孔24cが軸方向に貫通して形成されている。
開閉弁51は、プランジャ22が内部空間S2の容積を減少させる方向(図示右方向)へ移動する際に閉弁して通気孔22dを閉じ、プランジャ22が内部空間S2の容積を増大させる方向へ移動する際に開弁して通気孔22dを開く一方向弁である。
【0054】
また、プランジャ22の外周には、プランジャガイド21の内周面に摺接するOリング
52が装着されている。なお、
参考例5〜8に記載したOリング50は、プランジャ22が移動する際に摩擦力を発生することでプランジャ22の移動速度を抑制する働きを持たせているが、
図19に示すOリング52は、プランジャ22の移動速度を積極的に抑制できるだけの摩擦力を発生するものではない。
上記の構成によれば、プランジャ22が電磁石に吸引されて図示右方向へ移動する際に内部空間S2の容積が減少する。この時、プランジャ22に取り付けられた開閉弁51は、内部空間S2に通じる通気孔22dを閉じる閉弁状態となる。このため、プランジャ22の移動に応じて内部空間S2の空気が圧縮され、その圧縮された内部空間S2の空気がエアダンパとして機能し、プランジャ22の移動に対して抵抗力として作用する。
上記の結果、プランジャ22の移動速度(特に初速)が抑制されてピニオン6が押し出される時の移動速度が抑制されるため、ピニオン6がリングギヤ44に当接する時の速度が低減してピニオン6とリングギヤ44との衝突音を小さくできる。
【0055】
なお、コイル17への通電停止により、電磁石の吸引力が消滅してプランジャ22がリターンスプリング23(
図2参照)の反力で押し戻される時、つまり、内部空間S2の容積が増大する時は、開閉弁51が通気孔22dを開く開弁状態となる。このため、プランジャ22が戻る時(内部空間S2の容積が増大する時)に内部空間S2が負圧状態にはならないため、内部空間S2の空気圧がプランジャ22の戻りに対して抵抗力として作用することはない。
また、
参考例5に記載したOリング50と同様に、本事例のOリング52にも通気溝(図示せず)を形成することができる。Oリング52に通気溝を形成することで、プランジャ22の移動が内部空間S2の圧力上昇によって妨げられることはないので、ピニオン6がリングギヤ44に当接する前にプランジャ22の移動が停止することはない。
【0056】
参考例10は、
参考例9と同様に、プランジャ22の移動に応じて内部空間S2の空気が圧縮され、その圧縮された空気がプランジャ22の移動に対して抵抗力として作用する他の事例である。
具体的には、
図20に示すように、プランジャ22の外周にOリング53が装着され、このOリング53によってプランジャ22の外周とプランジャガイド21の内周との摺動隙間がシールされている。つまり、本事例のOリング53は、内部空間S2の気密性を保持するためのシール部品である。
【0057】
プランジャ22には、径方向の中央部を軸方向に貫通して内部空間S2に通じる通気孔22dが形成され、且つ、通気孔22dを開閉可能なリリーフ弁54が取り付けられている。また、プランジャロッド24には、プランジャ22の通気孔22dに連通する通気孔24cが軸方向に貫通して形成されている。
リリーフ弁54は、スプリング54aによって閉弁方向(通気孔22dを閉じる方向)へ付勢されており、内部空間S2の圧力が所定値に達するまでは閉弁状態を維持し、内部空間S2の圧力が所定値を超えると、スプリング54aの付勢力に抗して開弁する。
上記の構成によれば、プランジャ22が電磁石に吸引されて図示右方向へ移動すると、内部空間S2の容積が減少するに従って内部空間S2の圧力が上昇する。この内部空間S2の圧力が所定値に達するまではリリーフ弁54が閉じているため、内部空間S2の圧力上昇に伴ってプランジャ22の移動速度が抑制される。
【0058】
プランジャ22の移動が進行して内部空間S2の圧力が所定値を超えるまで上昇すると、リリーフ弁54が開弁して通気孔22dを開くことで、内部空間S2の圧力が通気孔22dおよび通気孔24cを通じて開放される。
上記のように、内部空間S2の圧力が所定値に達するまでの間、つまり、リリーフ弁54が閉弁状態を維持している間は、内部空間S2の圧力上昇によってプランジャ22の移動速度が抑制され、ピニオン6が押し出される時の移動速度が抑制される。その結果、ピニオン6がリングギヤ44に当接する時の速度が低減してピニオン6とリングギヤ44との衝突音を小さくできる。
また、内部空間S2の圧力が所定値を超えてリリーフ弁54が開弁すると、内部空間S2の圧力が通気孔22dおよび通気孔24cを通じて開放されるので、ピニオン6がリングギヤ44に当接する前にプランジャ22の移動が停止することはない。
【0059】
〔変形例〕
実施例1に記載したスタータ1は、ピニオン6の内周にピニオンスプリング14を配設しているが、ピニオンスプリング14を持たない構成、つまり、クラッチ5のインナ5aとピニオン6とが一体に設けられる構成でも良い。
また、実施例1のスタータ1は、ピニオン6がクラッチ5と一体に出力軸4の軸上を移動する構成であるが、クラッチ5は移動することなく、ピニオン6のみ単体で出力軸4の軸上を移動する構成でも良い。
実施例1に記載したスタータ1は、ソレノイドSL1とソレノイドSL2とを有する、いわゆるタンデムスタータの一例であるが、ピニオン6の押し出しとメイン接点の開閉とを一つの電磁スイッチで行う一般的なスタータにも本発明を適用できる。