特許第6237013号(P6237013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6237013タイヤインナーライナー用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237013
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】タイヤインナーライナー用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/22 20060101AFI20171120BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20171120BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20171120BHJP
   B60C 5/14 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   C08L23/22
   C08K3/04
   C08K3/22
   B60C5/14 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-184210(P2013-184210)
(22)【出願日】2013年9月5日
(65)【公開番号】特開2015-52031(P2015-52031A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2016年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 江美
【審査官】 今井 督
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−129703(JP,A)
【文献】 特表2014−524947(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/177679(WO,A1)
【文献】 特開2004−035690(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0096058(US,A1)
【文献】 特開2010−013543(JP,A)
【文献】 特開2012−153552(JP,A)
【文献】 特開2013−127022(JP,A)
【文献】 特開2014−084380(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0142138(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00− 23/36
C08K 3/00− 13/08
B60C 5/00− 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチル系ゴムを60質量部以上含むゴム成分100質量部に対し、窒素吸着比表面積が20〜50m/gのカーボンブラックを40〜80質量部およびBET比表面積が0.1〜1.0m/gの酸化マグネシウムを0.5〜5.0質量部配合してなることを特徴とするタイヤインナーライナー用ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のゴム組成物をインナーライナーに使用した空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤインナーライナー用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、空気透過防止性能を維持したまま脆化温度を低下させ、耐クラック性を向上させたタイヤインナーライナー用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
チューブレス空気入りタイヤの内面には、空気透過防止性能に優れたブチルゴムやハロゲン化ブチルゴム等のブチル系ゴムを主成分とするインナーライナーが設けられている。
しかし、ブチル系ゴムは一般的なジエン系ゴムよりも脆化温度が高く、寒冷地等での使用によりインナーライナーにクラックを引き起こす原因となり得る。
このような問題に対し、インナーライナー用ゴム組成物に天然ゴム等のジエン系ゴムやパラフィン系オイルを配合し、インナーライナーの脆化温度を下げる試みがなされているが、このような方法ではブチル系ゴムが本来有する空気透過防止性能を損なうという問題が新たに発生する。
【0003】
なお、下記特許文献1には、ハロゲン化ブチルゴム又はハロゲン化ブチルゴムとブチルゴムのブレンドからなるブチル系ゴム100重量部に対して、BET比表面積が115〜155m/gである酸化マグネシウムを0.1〜0.6重量部配合してなるタイヤインナーライナー用ゴム組成物が開示されている。しかしながら特許文献1に記載の発明の課題は耐スコーチ性の改善であり、空気透過防止性能を維持したまま脆化温度を低下させ、耐クラック性を向上させるという技術思想が全く開示されていない。また使用される酸化マグネシウムの比表面積についても、下記で説明する本発明のそれとは大きく異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−13583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、空気透過防止性能を維持したまま脆化温度を低下させ、耐クラック性を向上させたタイヤインナーライナー用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ブチル系ゴムを特定量含むゴム成分に、特定の特性を有するカーボンブラックの特定量および特定の特性を有する酸化マグネシウムの特定量を配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
【0007】
すなわち本発明は以下の通りである。
1.ブチル系ゴムを60質量部以上含むゴム成分100質量部に対し、窒素吸着比表面積が20〜50m/gのカーボンブラックを40〜80質量部およびBET比表面積が0.1〜1.0m/gの酸化マグネシウムを0.5〜5.0質量部配合してなることを特徴とするタイヤインナーライナー用ゴム組成物。
2.前記1に記載のゴム組成物をインナーライナーに使用した空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ブチル系ゴムを特定量含むゴム成分に、特定の特性を有するカーボンブラックの特定量および特定の特性を有する酸化マグネシウムの特定量を配合したので、空気透過防止性能を維持したまま脆化温度を低下させ、耐クラック性を向上させたタイヤインナーライナー用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(ゴム成分)
本発明で使用されるブチル系ゴムとしては、例えばブチルゴム(IIR)やハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)等を挙げることができる。ブチル系ゴムの市販品としては、例えば臭素化ブチルゴムであるExxonmobile chemical社製商品名Exxon bromobutyl 2255等が挙げられる。
また、本発明で使用されるゴム成分には、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)のようなジエン系ゴムを任意成分として配合することもできる。
本発明におけるゴム成分100質量部中、ブチル系ゴムは、60質量部以上配合される。ブチル系ゴムの配合量が60質量部未満であると、空気透過防止性能が低下する。
【0010】
(カーボンブラック)
本発明で使用されるカーボンブラックは、窒素吸着比表面積(NSA)が20〜50m/gであることが必要である。窒素吸着比表面積(NSA)が20m/g未満あるいは50m/gを超えた場合、空気透過防止性能が低下し、好ましくない。本発明の効果の観点からさらに好ましい窒素吸着比表面積(NSA)は、30〜40m/gである。なお窒素吸着比表面積(NSA)は、JIS K6217−2に準拠して求めるものとする。
【0011】
(酸化マグネシウム)
本発明で使用される酸化マグネシウムは、BET比表面積が0.1〜1.0m/gの低活性の酸化マグネシウムである。このような低活性の酸化マグネシウムを採用することにより、空気透過防止性能を維持したまま脆化温度を低下させ、耐クラック性を向上させることが可能となる。
なお、タイヤインナーライナー用ゴム組成物に酸化マグネシウムを配合することは公知であるが、その目的は特許文献1に記載のように耐スコーチ性の改良であり、そのBET比表面積も例えば100〜150m/gと高活性の酸化マグネシウムである。
また、本発明で使用される低活性の酸化マグネシウムは一般的に導電材料として使用されており、このような材料をタイヤインナーライナー用ゴム組成物に配合することは知られていない。なお、本発明で使用される低活性の酸化マグネシウムは商業的に入手可能であり、例えば宇部マテリアルズ(株)製RF−10C等が挙げられる。
本発明で使用される酸化マグネシウムのBET比表面積は、本発明の効果が向上するという観点から、0.5〜1.0m/gであることがさらに好ましい。
【0012】
ここで、本発明で言う酸化マグネシウムのBET比表面積は、JIS Z8830の1点法により測定される、窒素ガスの吸着による酸化マグネシウムの比表面積である。
【0013】
(タイヤインナーライナー用ゴム組成物の配合割合)
本発明のタイヤインナーライナー用ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対し、窒素吸着比表面積が20〜50m/gのカーボンブラックを40〜80質量部およびBET比表面積が0.1〜1.0m/gの酸化マグネシウムを0.5〜5.0質量部配合してなることを特徴とする。
カーボンブラックの配合量が40質量部未満であると、空気透過防止性能が低下し、逆に80質量部を超えると、脆化温度が上昇し、耐クラック性が悪化する。
酸化マグネシウムの配合量が0.5質量部未満であると、添加量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができない。逆に5.0質量部を超えると空気透過防止性能が悪化し、また耐疲労性も悪化する。
さらに好ましい窒素吸着比表面積が20〜50m/gのカーボンブラックの配合量は、ゴム成分100質量部に対し、40〜70質量部である。
またさらに好ましいBET比表面積が0.1〜1.0m/gの酸化マグネシウムの配合量は、ゴム成分100質量部に対し、2〜5質量部である。
【0014】
本発明のタイヤインナーライナー用ゴム組成物は、板状無機充填剤を配合するのが好ましい。
板状無機充填剤としては、クレー、タルク、ベントナイト、モンモリロナイト等が挙げられるが、空気透過防止性能を考慮すると、クレーまたはタルクが好ましい。また、該板状無機充填剤以外の各種充填剤も配合することができ、例えばシリカ、炭酸カルシウム等を挙げることができる。
【0015】
本発明のタイヤインナーライナー用ゴム組成物は、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0016】
また本発明のタイヤインナーライナー用ゴム組成物は従来の空気入りタイヤの製造方法に従って空気入りタイヤにおけるインナーライナーを構成することができる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0018】
実施例1〜3および比較例1〜8
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫系(加硫促進剤、硫黄)を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、ミキサー外に放出させて室温冷却した。続いて、該組成物を同バンバリーミキサーに再度入れ、加硫系を加えて混練し、ゴム組成物を得た。次に得られたゴム組成物を所定の金型中で160℃で20分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を調製した。得られたゴム組成物および加硫ゴム試験片について以下に示す試験法で物性を測定した。
【0019】
脆化温度:JIS K6261に準拠して、ゴムの脆化温度を測定した。結果は、比較例1で得られた値を100として指数表示した。指数が小さいほど脆化温度が低下していることを示す。
空気透過性能:JIS K7126 A法に準拠し、30℃の空気透過係数を測定した。結果は、比較例1で得られた値を100として指数表示した。指数が小さいほど空気透過防止性能に優れることを示す。
耐疲労性:JIS K6251に準拠して、JIS 3号ダンベル状サンプルを用いて、歪率60%にて繰返し歪を与え、破断に至るまでの回数を測定した。結果は、比較例1で得られた値を100として指数表示した。指数が大きいほど耐疲労性に優れることを示す。
耐クラック性:JIS K6260に準拠して、DeMattia型屈曲試験機を用いて、亀裂成長長さを測定し、その逆数をもって耐クラック性を評価した。結果は、比較例1で得られた値を100として指数表示した。指数が大きい程、耐クラック性が良好であることを示す。
結果を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
*1:Br−IIR(Exxonmobil chemical社製Exxon bromobutyl 2255)
*2:NR(SIR20)
*3:カーボンブラック−1(新日化カーボン(株)製ニテロン#GN、NSA=32m/g)
*4:カーボンブラック−2(キャボットジャパン(株)製ショウブラックN330、NSA=75m/g)
*5:酸化マグネシウム−1(宇部マテリアルズ(株)製RF−10C、BET比表面積=0.8m/g)
*6:酸化マグネシウム−2(協和化学工業(株)製キョーワマグ30、BET比表面積=40m/g)
*7:酸化マグネシウム−3(協和化学工業(株)製パイロキスマ5Q、BET比表面積=4.8m/g)
*8:ステアリン酸(千葉脂肪酸(株)製ビーズステアリン酸)
*9:樹脂−1(エアウォーター(株)製芳香族炭化水素系樹脂FR−120)
*10:樹脂−2(トーネックス(株)製石油樹脂エスコレッツ1102)
*11:オイル(昭和シェル石油(株)製エキストラクト4号S)
*12:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種)
*13:可溶性硫黄(細井化学工業(株)製油処理イオウ)
*14:加硫促進剤(三新化学工業(株)製サンセラーDM−P0)
【0022】
上記表1から明らかなように、本発明の実施例1〜3で調製されたゴム組成物は、特定の組成を有するゴム成分に、特定の特性を有するカーボンブラックの特定量および特定の特性を有する酸化マグネシウムの特定量を配合したので、これを配合していない比較例1に比べて、空気透過防止性能を維持したまま脆化温度が低下し、耐クラック性が向上している。
これに対し、比較例2は、ブチル系ゴムの配合量が本発明で規定する下限未満であるので、空気透過性能が悪化した。
比較例3は、カーボンブラックの配合量が本発明で規定する上限を超えているので、脆化温度が上昇し、耐クラック性が悪化した。また耐疲労性も悪化した。
比較例4は、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)が本発明で規定する上限を超えているので、脆化温度が上昇し、耐クラック性が悪化した。また耐疲労性も悪化した。
比較例5は、酸化マグネシウムの配合量が本発明で規定する上限を超えているので、空気透過性能および耐疲労性が悪化した。
比較例6〜8は、酸価マグネシウムのBET比表面積が本発明で規定する上限を超えているので、空気透過性能、耐クラック性、耐疲労性が悪化した。