(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本願の開示する熱中症判定装置、携帯端末装置、熱中症判定方法および熱中症判定プログラムの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例は開示の技術を限定するものではない。そして、各実施例は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
【実施例1】
【0018】
[携帯端末装置の構成]
まず、実施例1に係る携帯端末装置の機能的構成について説明する。
図1は、実施例1に係る携帯端末装置の機能的構成を示すブロック図である。
図1に示す携帯端末装置10は、温湿度から求めたWBGTとともに、太陽光や室内光などの一般の環境光の下で生体に計測器具を接触させずに被験者が撮影された画像から検出した脈拍数を用いて熱中症の発症リスクを判定するものである。ここで言う「WBGT」は、いわゆる湿球黒球温度「Wet-Bulb Globe Temperature」の略称であり、「暑さ指数」又は「熱中症指数」と呼ばれることもある。
【0019】
一態様としては、携帯端末装置10は、パッケージソフトウェアやオンラインソフトウェアとして提供される熱中症判定プログラムを所望のコンピュータにインストールさせることによって実装できる。例えば、スマートフォン、携帯電話機やPHS(Personal Handyphone System)などの移動体通信網に接続可能な移動体通信端末に上記の熱中症判定プログラムをインストールさせる。また、移動体通信網に接続可能な移動体通信端末に限らず、移動体通信網に接続する能力を持たないデジタルカメラやタブレット端末に上記の熱中症判定プログラムをインストールさせてもよい。これによって、移動体通信端末やタブレット端末等の携帯端末を携帯端末装置10として機能させることができる。なお、ここでは、携帯端末装置10の実装例として携帯端末を例示したが、パーソナルコンピュータを始めとする据置き型の端末装置に熱中症判定プログラムをインストールさせることもできる。
【0020】
図1に示すように、実施例1に係る携帯端末装置10は、センサ11と、指数算出部12と、カメラ13と、撮像制御部14と、脈拍数検出部15と、熱中症判定部16と、通知部17とを有する。なお、携帯端末装置10は、
図1に示した機能部以外にも既知の携帯端末装置が有する各種の機能部を有することとしてもかまわない。例えば、携帯端末装置10は、タッチパネルやディスプレイなどの入出力デバイス、アンテナ、移動体通信網との接続を実行する無線通信部、GPS(Global Positioning System)受信機や加速度センサなどの機能部をさらに有していてもかまわない。
【0021】
センサ11は、例えば、温度及び湿度を検出するものである。かかるセンサ11には、温度センサや湿度センサなどを採用することができ、携帯端末装置に搭載されているものをそのまま使用できる。このセンサ11が検出した温度及び湿度のデータは指数算出部12に入力される。なお、センサ11は、温度又は湿度のいずれか一方のみを検出するものであってもよい。
【0022】
指数算出部12は、例えば、センサ11によって検出された温度及び湿度のデータから、第1の指数を算出するものである。ここで言う「第1の指数」の一例としては、上記のWBGTが挙げられる。かかるWBGTは、黒球温度計測ができない場合でも、気温及び湿度から換算することができる。
【0023】
図2は、気温及び湿度とWBGTとの対応関係の一例を示す図である。
図2には、WBGTが25℃未満である温度帯、WBGTが25℃以上28℃未満である温度帯、WBGTが28℃以上31℃未満である温度帯及びWBGTが31℃以上である温度帯の4つの温度帯が塗りつぶしによって区別表示されている。
図2に示すように、センサ11によって検出された気温が33℃であり、湿度が70%である場合を想定する。この場合には、気温「33℃」及び湿度「70%」に対応する値「32℃」が指数算出部12によってWBGTとして導出されることになる。このように、指数算出部12は、
図2の対応関係を示すテーブルから、センサ11によって検出された気温及び湿度の組合せに対応する値をWBGTに換算できる。
【0024】
図3は、日常生活時の熱中症予防対策の指針の一例を示す図である。
図3に示すように、WBGTが25℃未満である温度帯は、「注意」の区分に分類されており、熱中症が強い生活行動で発症しうる危険性が指摘されている。例えば、激しい運動や重労働時に発症リスクがあることが指摘されている。また、WBGTが25℃以上28℃未満である温度帯は、「警戒」の区分に分類されており、中等度以上の生活行動で発症しうる危険性が指摘されている。例えば、運動や激しい作業をする場合には、定期的かつ十分に休息を取り入れることが指摘されている。また、WBGTが28℃以上31℃未満である温度帯は、「厳重警戒」の区分に分類されており、すべての生活行動で発症しうる危険性が指摘されている。例えば、外出時に炎天下を避け、室内では室温の上昇に注意することが指摘されている。さらに、WBGTが31℃以上である温度帯は、「危険」の区分に分類されており、すべての生活行動で発症しうる危険性が指摘されている。例えば、高齢者の場合には安静状態でも発症する危険性があり、外出はできるだけ避け、涼しい室内に移動することが指摘されている。
【0025】
指数算出部12は、例えば、
図2に示すテーブル、すなわち温湿度とWBGTとの対応関係を記憶しておき、センサ11が検出した温度及び湿度の組合せに対応するWBGTの値を導出する。
【0026】
なお、ここでは、指数算出部12が温度及び湿度の両方を用いて第1の指数を算出する場合を例示したが、指数算出部12は、センサ11が検出した温度又は湿度のいずれか一方に絞って使用し、第1の指数を算出することとしてもかまわない。
【0027】
図1に戻り、カメラ13は、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの撮像素子を搭載する撮像装置である。例えば、カメラ13には、R(red)、G(green)、B(blue)など3種以上の受光素子を搭載することができる。なお、カメラ13は、ディスプレイが存在する側であればいずれの位置に配置されてもよい。
【0028】
例えば、カメラ13には、携帯端末装置10の図示しないディスプレイが設けられている側に搭載されているインカメラを採用することができる。かかるカメラ13は、携帯端末装置10のディスプレイ側を撮像範囲に収め、その撮像範囲内に存在する被写体を撮像する。このように、インカメラをカメラ13として用いる場合には、インカメラが図示しないディスプレイ側と同一の面に設けられていることから、ディスプレイを閲覧する携帯端末装置10の使用者の顔を撮像できる公算が高いと言える。この場合には、カメラ13によって撮像された画像には、携帯端末装置10の使用者の顔が含まれているという想定の下、後述の脈拍数の検出を実行することができる。なお、ここでは、カメラ13としてインカメラを用いる場合を例示したが、携帯端末装置10の背面、すなわちディスプレイが設置された面を表面としたときの裏面に設けられたアウトカメラを採用することもできる。
【0029】
撮像制御部14は、カメラ13の撮像制御を実行する処理部である。一態様としては、撮像制御部14は、カメラ13に撮像を開始させる契機を制御する。かかるカメラ13に撮像を開始させる契機は、任意の契機であってかまわない。例えば、撮像制御部14は、カメラ13を制御して、携帯端末装置10の電源がON状態である場合に常時撮像させたり、12時、18や24時などの定刻に撮像を開始させたりすることとしてもよい。このようにしてカメラ13によって画像が撮像される場合には、所定の圧縮符号化方式によってエンコードされた動画が出力されることとしてもよいし、使用者の顔が映る静止画の各々を取得することとしてもよい。なお、カメラ13によって出力された画像は、脈拍数検出部15へ入力される。
【0030】
脈拍数検出部15は、カメラ13によって撮像された画像に基づいて、脈拍数を検出する。ここでは、一例として、カメラ13によって携帯端末装置10の使用者の顔が撮像される場合を想定するが、使用者の生体の一部、例えば肌部分が撮像範囲の一部に含まれていればよく、顔以外にも指、手や足などの部位が撮像された画像であってもかまわない。また、ここでは、カメラ13によって撮像されたが脈拍数検出部15へ入力される場合を例示したが、画像の取得経路はカメラ13から入力される経路に限定されない。例えば、図示しないフラッシュメモリやハードディスクなどの補助記憶装置またはメモリカードなどのリムーバブルメディアに保存された画像を取得することもできるし、ネットワークを介して外部装置から画像を取得することもできる。
【0031】
脈拍数検出部15は、カメラ13によって撮像された画像から生体が映った生体領域を抽出する処理を行う。例えば、脈拍数検出部15は、カメラ13から画像が入力される度に、当該画像にテンプレートマッチング等の画像処理を実行することによって所定の顔パーツ、例えば利用者の目、鼻、唇、頬や髪などを含む顔領域を抽出する。
【0032】
上記の顔領域の抽出後に、脈拍数検出部15は、顔領域に含まれる各画素が持つ画素値に所定の統計処理を実行する。例えば、脈拍数検出部15は、顔領域に含まれる各画素が持つ画素値を波長成分ごとに平均する。この他、平均値以外にも、中央値や最頻値を計算することとしてもよく、また、加重平均以外にも任意の平均処理、例えば加重平均や移動平均などを実行することもできる。これによって、顔領域に含まれる各画素が持つ画素値の平均値が当該顔領域を代表する代表値として波長成分ごとに算出される。
【0033】
脈拍数検出部15は、顔領域に含まれる各画素の波長成分別の代表値の信号から、各波長成分の間で脈波が採り得る脈波周波数帯以外の特定周波数帯の成分が互いに相殺された信号の波形を検出する。ここで言う「脈波」とは、血液の体積の変動を指し、いわゆる脈拍数や心拍数などが含まれる。
【0034】
一態様としては、脈拍数検出部15は、画像に含まれる3つの波長成分、例えばR成分、G成分およびB成分のうち血液の吸光特定が異なるR成分とG成分の2つの波長成分の代表値の時系列データを用いて、顔の脈波の波形を検出する。
【0035】
これを説明すると、顔表面には、毛細血管が流れており、心拍により血管に流れる血流が変化すると、血流で吸収される光量も心拍に応じて変化するため、顔からの反射によって得られる輝度も心拍に伴って変化する。かかる輝度の変化量は小さいが、顔領域全体の平均輝度を求めると、輝度の時系列データには脈波成分が含まれる。ところが、輝度は、脈波以外に体動等によっても変化し、これが、脈波検出のノイズ成分、いわゆる体動アーチファクトとなる。そこで、血液の吸光特性の異なる2種類以上の波長、例えば吸光特性が高いG成分(525nm程度)、吸光特性が低いR成分(700nm程度)で脈波を検出する。心拍は、0.5Hz〜4Hz、1分あたりに換算すれば30bpm(beats per minute)〜240bpmの範囲であるので、それ以外の成分はノイズ成分とみなすことができる。ノイズには、波長特性は無い、あるいはあっても極小であると仮定すると、G信号およびR信号の間で0.5Hz〜4Hz以外の成分は等しいはずであるが、カメラの感度差により大きさが異なる。それゆえ、0.5Hz〜4Hz以外の成分の感度差を補正して、G成分からR成分を減算すれば、ノイズ成分は除去されて脈波成分のみを取り出すことができる。
【0036】
例えば、G成分及びR成分は、下記の式(1)および下記の式(2)によって表すことができる。下記の式(1)における「Gs」は、G信号の脈波成分を指し、「Gn」は、G信号のノイズ成分を指し、また、下記の式(2)における「Rs」は、R信号の脈波成分を指し、「Rn」は、R信号のノイズ成分を指す。また、ノイズ成分は、G成分およびR成分の間で感度差があるので、感度差の補正係数kは、下記の式(3)によって表される。
【0037】
Ga=Gs+Gn・・・(1)
【0038】
Ra=Rs+Rn・・・(2)
【0039】
k=Gn/Rn・・・(3)
【0040】
感度差を補正してG成分からR成分を減算すると、脈波成分Sは、下記の式(4)となる。これを上記の式(1)及び上記の式(2)を用いて、Gs、Gn、Rs及びRnによって表される式へ変形すると、下記の式(5)となり、さらに、上記の式(3)を用いて、補正係数kを消し、式を整理すると下記の式(6)が導出される。
【0041】
S=Ga−kRa・・・(4)
【0042】
S=Gs+Gn−k(Rs+Rn)・・・(5)
【0043】
S=Gs−(Gn/Rn)Rs・・・(6)
【0044】
ここで、G信号およびR信号は、吸光特性が異なり、Gs>(Gn/Rn)Rsである。したがって、上記の式(6)によってノイズが除去された脈波成分Sを算出することができる。
【0045】
図4は、G信号およびR信号の各信号のスペクトルの一例を示す図である。
図4に示すグラフの縦軸は、信号強度を指し、また、横軸は、周波数(bpm)を指す。
図4に示すように、G成分およびR成分は、撮像素子の感度が異なるので、両者の信号強度はそれぞれ異なる。その一方、R成分およびG成分は、いずれにおいても30bpm〜240bpmの範囲外、特に3bpm以上20bpm未満の特定周波数帯でノイズが現れることには変わりはない。このため、
図4に示すように、3bpm以上20bpm未満の特定周波数帯に含まれる指定の周波数Fnに対応する信号強度をGn及びRnとして抽出できる。これらGn及びRnによって感度差の補正係数kを導出できる。
【0046】
図5は、G成分および補正係数kが乗算されたR成分の各信号のスペクトルの一例を示す図である。
図5の例では、説明の便宜上、補正係数の絶対値を乗算した結果が図示されている。
図5に示すグラフにおいても、縦軸は、信号強度を指し、また、横軸は、周波数(bpm)を指す。
図5に示すように、G成分及びR成分の各信号のスペクトルに補正係数kが乗算された場合には、G成分およびR成分の各成分の間で感度が揃う。特に、特定周波数帯におけるスペクトルの信号強度は、大部分においてスペクトルの信号強度が略同一になっている。その一方で、実際に脈波が含まれる周波数の周辺領域400は、G成分およびR成分の各成分の間でスペクトルの信号強度が揃っていない。
【0047】
図6は、演算後のスペクトルの一例を示す図である。
図6では、脈波が現れている周波数帯の視認性を上げる観点から縦軸である信号強度の尺度を大きくして図示している。
図6に示すように、G信号のスペクトルから補正係数kの乗算後のR信号のスペクトルが差し引かれた場合には、G成分およびR成分の間での吸光特性の差によって脈波が現れる信号成分の強度が可及的に維持された状態でノイズ成分が低減されていることがわかる。このようにしてノイズ成分だけが除去された脈波波形を検出することができる。
【0048】
続いて、脈拍数検出部15の機能的構成についてさらに具体的に説明する。
図7は、脈拍数検出部15の機能的構成を示すブロック図である。
図7に示すように、脈拍数検出部15は、領域抽出部150と、代表値算出部151R及び151Gと、BPF(Band-Pass Filter)152R及び152Gと、抽出部153R及び153Gと、LPF(Low-Pass Filter)154R及び154Gを有する。さらに、脈拍数検出部15は、算出部155と、BPF156R及び156Gと、乗算部157と、演算部158と、検出部159とを有する。なお、
図4〜
図6の例では、周波数領域にて脈波を検出する例を説明したが、
図7では、周波数成分への変換にかかる時間を削減する観点から、時間領域にてノイズ成分をキャンセルして脈波を検出する場合の機能的構成を図示している。
【0049】
このうち、領域抽出部150は、カメラ13によって撮像された画像から生体が映る生体領域を抽出する処理部である。一態様としては、領域抽出部150は、カメラ13から画像が入力される度に、当該画像にテンプレートマッチング等の画像処理を実行することによって所定の顔パーツ、例えば利用者の目、鼻、唇、頬や髪などを含む顔領域を抽出する。その後、領域抽出部150は、顔領域に含まれる各画素が持つR成分の画素値を代表値算出部151Rへ出力するとともに、顔領域に含まれる各画素が持つG成分の画素値を代表値算出部151Gへ出力する。
【0050】
代表値算出部151R及び151Gは、顔領域に含まれる各画素が持つ画素値の代表値を算出する処理部である。これら代表値算出部151R及び代表値算出部151Gは、いずれも代表値を算出する波長成分がR成分またはG成分であるのかが相違する以外は同様の処理を実行する。ここでは、一例として、代表値算出部151Gによる代表値の算出について説明する。例えば、代表値算出部151Gは、顔領域に含まれる各画素が持つG成分の画素値を平均する。この他、平均値以外にも、中央値や最頻値を計算することとしてもよく、また、加重平均以外にも任意の平均処理、例えば加重平均や移動平均などを実行することもできる。これによって、顔領域に含まれる各画素が持つG成分の画素値の平均値が当該顔領域を代表するG成分の代表値として算出される。
【0051】
その後、顔領域に含まれる各画素が持つR成分の画素値の代表値を信号値とするR信号の時系列データが後段の処理部へ入力されるとともに、顔領域に含まれる各画素が持つG成分の画素値の代表値を信号値とするG信号の時系列データが後段の処理部へ入力される。このうち、顔領域のR信号は、脈拍数検出部15内のBPF152R及びBPF156Rへ入力されるとともに、顔領域のG信号は、脈拍数検出部15内のBPF152G及びBPF156Gへ入力される。
【0052】
BPF152R、BPF152G、BPF156R及びBPF156Gは、いずれも所定の周波数帯の信号成分だけを通過させてそれ以外の周波数帯の信号成分を除去するバンドパスフィルタである。これらBPF152R、BPF152G、BPF156R及びBPF156Gは、ハードウェアによって実装されることとしてもよいし、ソフトウェアによって実装されることとしてもよい。
【0053】
これらBPFが通過させる周波数帯の違いについて説明する。BPF152R及びBPF152Gは、ノイズ成分が他の周波数帯よりも顕著に現れる特定周波数帯の信号成分を通過させる。
【0054】
かかる特定周波数帯は、脈波が採り得る周波数帯との間で比較することによって定めることができる。脈波が採り得る周波数帯の一例としては、0.5Hz以上4Hz以下である周波数帯、1分あたりに換算すれば30bpm以上240bpm以下である周波数帯が挙げられる。このことから、特定周波数帯の一例としては、脈波として計測され得ない0.5Hz未満及び4Hz超過の周波数帯を採用することができる。また、特定周波数帯は、脈波が採り得る周波数帯との間でその一部が重複することとしてもよい。例えば、脈波として計測されることが想定しづらい0.7Hz〜1Hzの区間で脈波が採り得る周波数帯と重複することを許容し、1Hz未満及び4Hz以上の周波数帯を特定周波数帯として採用することもできる。また、特定周波数帯は、1Hz未満及び4Hz以上の周波数帯を外縁とし、ノイズがより顕著に現れる周波数帯に絞ることもできる。例えば、ノイズは、脈波が採り得る周波数帯よりも高い高周波数帯よりも、脈波が採り得る周波数帯よりも低い低周波数帯でより顕著に現れる。このため、1Hz未満の周波数帯に特定周波数帯を絞ることもできる。また、空間周波数がゼロである直流成分の近傍には、各成分の撮像素子の感度の差が多く含まれるので、0.05Hz以上1Hz未満の周波数帯に特定周波数帯を絞ることもできる。さらに、人の体の動き、例えば瞬きや体の揺れの他、環境光のチラツキなどのノイズが現れやすい0.05Hz以上0.3Hz以下の周波数帯に特定周波数帯を絞ることもできる。
【0055】
ここでは、一例として、BPF152R及びBPF152Gが特定周波数帯として0.05Hz以上0.3Hz以下の周波数帯の信号成分を通過させる場合を想定して以下の説明を行う。なお、ここでは、特定周波数帯の信号成分を抽出するために、バンドパスフィルタを用いる場合を例示したが、一定の周波数未満の周波数帯の信号成分を抽出する場合などには、ローパスフィルタを用いることもできる。
【0056】
一方、BPF156R及びBPF156Gは、脈波が採り得る周波数帯、例えば0.5Hz以上4Hz以下の周波数帯の信号成分を通過させる。なお、以下では、脈波が採り得る周波数帯のことを「脈波周波数帯」と記載する場合がある。
【0057】
抽出部153Rは、R信号の特定周波数帯の信号成分の絶対強度値を抽出する。例えば、抽出部153Rは、R成分の特定周波数帯の信号成分の絶対値演算処理を実行することによって特定周波数帯の信号成分の絶対強度値を抽出する。また、抽出部153Gは、G信号の特定周波数帯の信号成分の絶対強度値を抽出する。例えば、抽出部153Gは、G成分の特定周波数帯の信号成分の絶対値演算処理を実行することによって特定周波数帯の信号成分の絶対強度値を抽出する。
【0058】
LPF154R及びLPF154Gは、特定周波数帯の絶対強度値の時系列データに対し、時間変化に応答させる平滑化処理を実行するローパスフィルタである。これらLPF154R及びLPF154Gは、LPF154Rへ入力される信号がR信号であり、LPF154Gへ入力される信号がG信号である以外に違いはない。かかる平滑化処理によって、特定周波数帯の絶対強度値R´n及びG´nが得られる。
【0059】
算出部155は、LPF154Gによって出力されたG信号の特定周波数帯の絶対強度値G´nを、LPF154Rによって出力されたR信号の特定周波数帯の絶対強度値R´nで除する除算「G´n/R´n」を実行する。これによって、感度差の補正係数kを算出する。
【0060】
乗算部157は、BPF156Rによって出力されたR信号の脈波周波数帯の信号成分に算出部155によって算出された補正係数kを乗算する。
【0061】
演算部158は、BPF156Gによって出力されたG信号の脈波周波数帯の信号成分から乗算部157によって補正係数kが乗算されたR信号の脈波周波数帯の信号成分を差し引く演算「Gs−k*Rs」を実行する。
【0062】
このようにして得られた信号は、顔の脈波信号に相当し、そのサンプリング周波数は画像が撮像されるフレーム周波数に対応する。かかる脈波信号から脈拍数を導出することができる。
【0063】
検出部159は、脈波信号から脈拍数を検出する処理部である。一態様としては、検出部159は、顔の脈波信号の波形を時間微分することによって顔の脈波信号の微分波形を算出し、微分係数の符号が正から負へ変化するゼロクロス点、すなわちピークを示す極大点を検出する。例えば、検出部159は、顔の脈波信号の振幅値が検出される度に、1つ前のサンプリング点で検出された振幅値の微分係数がゼロであるか否かを判定する。このとき、検出部159は、1つ前のサンプリング点で検出された振幅値の微分係数がゼロである場合に、前後のサンプリング点で振幅値の微分係数の符号が正から負へ変化するか否かをさらに判定する。この結果、検出部159は、前後で微分係数の符号が正から負へと変化する場合に、当該微分係数がゼロであるサンプリング点を顔の脈波信号のピークとして検出し、当該ピークが出現したサンプリング点の時間を図示しない内部メモリへ登録する。このようにして求めたピークの時間間隔を単位時間、例えば1分間あたりに換算することによって脈拍数(bpm)を算出できる。また、ここでは、ピークの検出は、必ずしも脈波信号の波形の時間微分によって実現されずともよく、顔の脈波信号の波形そのものから検出することとしてもかまわない。なお、ここでは、ピーク検出によって脈拍数を算出する場合を例示したが、脈波信号をフーリエ変換等によって周波数領域に変換し、周波数スペクトルのピークを脈拍数と算出することもできる。
【0064】
図1の説明に戻り、熱中症判定部16は、指数算出部12によって算出したWBGTの値と、脈拍数検出部15によって検出された脈拍数とを用いて、利用者に熱中症の発症可能性があるか判定する。一態様としては、熱中症判定部16は、上記のWBGTの値が所定の閾値、例えば区分「厳重警戒」に該当する28℃などを超え、かつ、上記の脈拍数が所定の閾値、例えば100bpmを超える場合に、利用者の身体に熱中症が発症した可能性があると判定する。なお、上記の閾値は、あくまでも一例であり、任意の値を設定することができる。例えば、上記の閾値には、携帯端末装置10の使用者の性別、年代や過去の履歴をもとに最適化できる。
【0065】
通知部17は、熱中症判定部16の判定結果を通知する。例えば、通知部17は、熱中症判定部16によって使用者が熱中症を発症した可能性があると判定された場合、図示しないディスプレイに表示することによってアラートを通知する。かかるアラートに加え、通知部17は、例えば、WBGTまたは脈拍数のうち少なくとも一方を含むメッセージ、身体に熱中症が発症した可能性が高い旨のメッセージや現在地よりも気温または湿度が低い場所への退避を促すメッセージなどをアラートに含めることもできる。また、通知部17は、携帯端末装置10がGPS受信機などを搭載する場合には、携帯端末装置10の位置情報をアラートに含めたり、現在地から最も近い退避場所、例えば屋内および空調有りという条件に該当する施設を検索することによって退避場所を案内することもできる。なお、ここでは、表示によるアラートを例示したが、音声出力によってアラートを通知することもできる。
【0066】
また、通知部17は、例えば、図示しない通信部によって通信を行うことにより、利用者の身体に熱中症が発症した可能性が高いことを他の装置へ通知するようにしてもよい。通知先とする他の装置については、例えば、通知部17に予め設定しておくことができる。例えば、通知部17は、利用者の家族、知人、あるいは掛り付けの医療機関やその関係者のメールアドレスを通知先として予め設定しておく。これによって、通知部17は、利用者の身体に熱中症が発症した可能性が高いことを示す電子メールを他の装置へ送信し、その利用者の家族、知人や医療関係者に通知できる。また、通知部17は、メールアドレスに限らず、電話番号を予め設定しておいてもよい。通知部17は、家族や知人の電話番号に限らず、緊急通報用電話番号(119番)や医療関係施設の電話番号を予め設定しておき、これらを通知先としてアラートを通知できる。
【0067】
なお、上記の機能部は、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などに熱中症判定プログラムを実行させることによって実現できる。また、上記の機能部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードワイヤードロジックによっても実現できる。以降に説明する各実施例の機能部についても同様である。上記の機能部には、指数算出部12、撮像制御部14、脈拍数検出部15、熱中症判定部16及び通知部17が含まれる。
【0068】
[処理の流れ]
続いて、実施例1に係る携帯端末装置10の処理の流れについて説明する。
図8は、実施例1に係る熱中症判定処理の手順を示すフローチャートである。この熱中症判定処理は、次のような開始条件または周期で実行される。例えば、熱中症判定処理は、携帯端末装置10の電源がON状態である限り、バックグラウンドで所定の期間ごとに繰り返し実行することができる。また、熱中症判定処理は、携帯端末装置10の使用者からのデマンドがあった場合に、処理を起動することもできる。
【0069】
図8に示すように、センサ11によって計測された温度及び湿度が取得されると(ステップS101)、指数算出部12は、ステップS101で計測された温度及び湿度からWBGTの値を第1の指数として算出する(ステップS102)。続いて、脈拍数検出部15は、センサ11によって温度や湿度が計測されたタイミングに対応するタイミングでカメラ13によって撮像された画像から脈拍数を検出する(ステップS103)。
【0070】
その後、熱中症判定部16は、ステップS102で算出されたWBGTが所定の閾値を超えるか否かを判定する(ステップS104)。このとき、WBGTが閾値を超える場合(ステップS104Yes)には、熱中症判定部16は、ステップS103で検出された脈拍数が所定の閾値を超えるか否かをさらに判定する(ステップS105)。
【0071】
ここで、WBGTが閾値を超え、かつ脈拍数が閾値を超える場合(ステップS104YesかつステップS105Yes)に、熱中症判定部16は、携帯端末装置10の使用者が熱中症を発症している可能性があると判定する(ステップS106)。この場合には、通知部17は、熱中症の発症リスクがある旨のアラームを所定の通知先に通知し(ステップS107)、処理を終了する。
【0072】
一方、WBGTが閾値以下である場合または脈拍数が閾値以下である場合(ステップS104NoまたはステップS105No)に、そのまま処理を終了する。
【0073】
なお、
図8に示したフローチャートの例では、ステップS102でWBGTが算出されてからステップS103で脈拍数が検出される場合を図示したが、これらステップS102及びステップS103は、その順序を入れ替えることもできるし、互いに並行して処理を実行することもできる。また、ステップS104及びステップS105の判定は、各々の判定が実行されればよく、判定の実行順序は図示の順序に拘束されない。
【0074】
[実施例1の効果]
上述してきたように、本実施例に係る携帯端末装置10は、温湿度から求めたWBGTとともに、太陽光や室内光などの一般の環境光の下で生体に計測器具を接触させずに被験者が撮影された画像から検出した脈拍数を用いて熱中症の発症リスクを判定する。このように、温度や湿度から求まるWBGT等の指標に加えて脈拍数等のバイタルを熱中症の発症リスクの判定に用いるので、誤判定が発生する事態を抑制できる。また、防護服あるいは耳栓型のセンサなどのように、利用者が日常生活で使用および装着しない専用のハードウェアを用いて、脈拍数等のバイタルを採取せずともよい。したがって、本実施例に係る携帯端末装置10によれば、余計なハードウェアなしに熱中症を検知できる。
【実施例2】
【0075】
さて、上記の実施例1では、第1の指数および脈拍数の両方を求めてから熱中症の発症リスクを判定する例を説明したが、必ずしも第1の指数および脈拍数の両方を求めてから熱中症の発症リスクを判定せずともよい。そこで、本実施例2では、一例として、WBGTの値が閾値を超えた場合に絞って画像を撮像し、脈拍数が閾値を超えるか否かによって熱中症の発症リスクの有無を判定する例について説明する。
【0076】
[携帯端末装置の構成]
図9は、実施例2に係る携帯端末装置の機能的構成を示すブロック図である。
図9に示す携帯端末装置20は、
図1に示した携帯端末装置10に比べて、タッチパネル21をさらに有するとともに、撮像制御部14とは一部の処理内容が異なる撮像制御部22を有する点が相違する。なお、ここでは、上記の実施例1と同様の機能を発揮するものについては
図1に示した携帯端末装置10と同様の符号を付し、その説明を省略することとする。
【0077】
タッチパネル21は、表示可能かつ入力可能なデバイスである。例えば、タッチパネル21には、携帯端末装置20が有するプロセッサ上で動作するOSやアプリケーションプログラムによって提供される情報、例えばメッセージ、画像や動画などが表示される。また、タッチパネル21では、ディスプレイ上に表示されたユーザインタフェース、例えばOSやアプリケーションプログラムによって提供されるウィンドウを介して操作を受け付ける。このようにしてタッチパネル21のディスプレイ上で受け付けられた操作の位置、例えば画面の座標など、さらには、操作の種類、例えばタップ、ダブルタップやスワイプなどが図示しないプロセッサ上で動作するOSによって採取される。
【0078】
ここで、撮像制御部22は、
図1に示した撮像制御部14と同様に、カメラ13による撮像制御を実行するものであるが、上記の撮像制御部14とは異なる契機でカメラ13による撮像を開始させる点が異なる。
【0079】
すなわち、撮像制御部22は、熱中症判定部16によってWBGTの値が所定の閾値、例えば区分「警戒」に対応する25℃を超えると判定された場合、かつタッチパネル21に対する操作が検出された場合、すなわち携帯端末装置20が利用中である場合に、カメラ13に撮像を開始させる。なお、ここでは、タッチパネル21に対する操作が検出された場合に撮像を開始させる場合を例示するが、電源ボタンやホームキーなどの物理キーに対する操作が検出された場合に、カメラ13に撮像を開始させることとしてもよい。
【0080】
タッチパネル21のディスプレイ上で表示が実行中であったり、タッチパネル21に対する各種の操作がなされている場合、すなわち携帯端末装置20が利用中である場合には、使用者が携帯端末装置20のタッチパネル21を閲覧しながら操作している公算が高い。それゆえ、タッチパネル21と同じ側の面に設けられたインカメラには、タッチパネル21に視線を向ける使用者の顔が撮像範囲に収まっているとみなすことができる。このことから、タッチパネル21に操作がなされた状態に絞ってカメラ13による撮像を実行させることによって携帯端末装置20の使用者の顔が映っていない画像を無駄に撮像するのを抑制できる。
【0081】
例えば、撮像制御部22は、例えば、次のように利用状態の判定を行う。撮像制御部22は、タッチパネル21へのタッチ操作の有無を検出する。撮像制御部22は、タッチパネル21へのタッチ間隔が一定間隔内の場合は、携帯端末装置20が利用中であると判定する。このとき、タッチパネルは、指の接触を検出したことを示す情報を、デバイスドライバを経由して熱中症判定プログラム側に渡す。熱中症判定プログラムは、下位からのタッチに関する入力情報を、例えば、API(Application Programming Interface)を通じて受け取ることができる。
【0082】
例えば、携帯端末用OSであるAndroid(登録商標)OSでは、以下のようになる。すなわち、タッチパネル21へのタッチによってon Touch Eventと呼ばれるイベントが生成される。これによって、引数としてタッチ座標やタッチ動作の種類(押した、離れた、など)などの情報が熱中症判定プログラム側に引き渡される。したがって、この情報を利用することで、熱中症判定プログラム側で、携帯端末装置20が利用中であると判定できる。例えば、撮像制御部22は、タッチ操作が検出された時点から所定の期間、例えば3秒間を利用中と判定することもできるし、複数回のタッチ操作あるいは特定種類のタッチ操作が検出された場合に、携帯端末装置20が利用中であると判定することとしてもよい。このようにしてタッチパネル21への操作を検出することによって携帯端末装置20が利用状態にあるか否かを判定できる。
【0083】
このように、カメラ13に撮像を開始させるのに、WBGTの値が閾値を超えること、並びに、タッチパネル21に対する操作を検出することを条件とするのは、カメラ13の起動時間を削減するためである。すなわち、上記の条件設定によって、熱中症の発症リスクが起こり得る環境であり、かつカメラ13の撮像範囲に使用者の顔が収容されている可能性が高い場合に絞ってカメラ13による撮像を実行させることができる。それゆえ、携帯端末装置20が搭載するバッテリの消費電力を抑えることができる。
【0084】
熱中症判定部16は、指数算出部12によって算出された第1の指数が閾値を超えると判定された後に、脈拍数検出部15によって検出された脈拍数が所定の閾値、例えば100bpmを超える場合に、携帯端末装置20の使用者が熱中症を発症した可能性があると判定する。
【0085】
[処理の流れ]
続いて、実施例2に係る携帯端末装置20の処理の流れについて説明する。
図10は、実施例2に係る熱中症判定処理の手順を示すフローチャートである。
図10に示す熱中症判定処理においても、
図8に示したフローチャートと同様の開始条件または周期で実行することができる。
【0086】
図10に示すように、センサ11によって採取された温度及び湿度が取得されると(ステップS201)、指数算出部12は、ステップS201で取得された温度及び湿度からWBGTを算出する(ステップS202)。続いて、熱中症判定部16は、ステップS202で算出されたWBGTの値が所定の閾値を超えるか否かを判定する(ステップS203)。なお、WBGTの値が閾値以下である場合(ステップS203No)には、使用者が熱中症を発症しているリスクは低いので、以降の処理を省略し、そのまま処理を終了する。
【0087】
このとき、WBGTの値が閾値を超える場合(ステップS203Yes)には、撮像制御部22は、携帯端末装置20の利用状態を検知する(ステップS204)。そして、携帯端末装置20が利用中である場合、すなわち携帯端末装置20に対する操作が検出された場合(ステップS205Yes)、撮像制御部22は、カメラ13に撮像を開始させる。その上で、脈拍数検出部15は、カメラ13によって撮像された画像から脈拍数を検出する(ステップS206)。なお、携帯端末装置20に対する操作が検出されない場合(ステップS205No)には、ステップS204に戻り、携帯端末装置20に対する操作を検出するまで、以降の処理を待機する。
【0088】
そして、熱中症判定部16は、ステップS206で検出された脈拍数の値が所定の閾値を超えるか否かを判定する(ステップS207)。なお、脈拍数の値が閾値以下である場合(ステップS207No)には、使用者が熱中症を発症しているリスクは低いので、以降の処理を省略し、そのまま処理を終了する。
【0089】
ここで、脈拍数の値が閾値を超える場合(ステップS207Yes)には、熱中症判定部16は、使用者に熱中症が発症した可能性があると判定する(ステップS208)。この場合には、通知部17は、熱中症の発症リスクがある旨のアラームを所定の通知先に通知し(ステップS209)、処理を終了する。
【0090】
なお、
図10に示したフローチャートでは、WBGTの値が閾値を超えた場合に絞って脈拍数の値が閾値を超えるか否かを判定する場合を例示したが、脈拍数の値が閾値を超えた場合に絞ってWBGTの値が閾値を超えるか否かを判定させることとしてもよい。
【0091】
[実施例2の効果]
上述してきたように、本実施例に係る携帯端末装置20によれば、上記の実施例1と同様に、余計なハードウェアなしに熱中症を検知できる。
【0092】
さらに、本実施例に係る携帯端末装置20は、WBGTが閾値を超える場合、並びに、タッチパネル21に対する操作が検出された場合に絞ってカメラ13に撮像を開始させる。それ故、本実施例に係る携帯端末装置20では、気候面から熱中症のリスクがないと推定できる場面やカメラ13の撮像範囲に使用者の顔が収まっていない場合などに、カメラ13によって撮像させることを抑制できる。したがって、本実施例に係る携帯端末装置10によれば、カメラ13の動作時間を抑制できる結果、バッテリの消費を抑制できる。
【実施例3】
【0093】
さて、上記の実施例1及び実施例2では、熱中症の発症リスクを判定する場合を例示したが、これに加えて、使用者が発症している熱中症のレベルをさらに判定することもできる。そこで、本実施例では、カメラ13によって撮像された画像から使用者の血流量を求め、血流量から熱中症のレベルを判定する例について説明する。
【0094】
[携帯端末装置の構成]
図11は、実施例3に係る携帯端末装置の機能的構成を示すブロック図である。
図11に示す携帯端末装置30は、
図9に示した携帯端末装置20に比べて、血流量算出部31およびレベル判定部32をさらに有する点が相違する。なお、ここでは、上記の実施例1及び実施例2と同様の機能を発揮するものについては同様の符号を付し、その説明を省略することとする。
【0095】
血流量算出部31は、カメラ13によって撮像された画像から血流量を算出する処理部である。一態様としては、血流量算出部31は、脈波信号の振幅と血流量との間に相関があることを利用し、脈拍数検出部15によって検出される脈波信号の振幅値の変化量をもとに血流量を算出する。
【0096】
ここで、熱中症と血流量の変化について説明する。熱中症の症状は、一例として、「軽症」、「中等症」や「重症」の複数のレベルに分けられる。このうち、「軽症」とは、軽度の日射病と呼ばれる状態にあてはまる。この場合には、立ちくらみ、四肢や腹筋の痛みをともなった痙攣、血圧の低下、眼前蒼白、こむら返り、呼吸数の増加、失神などの症状が現れる場合がある。また、「中等症」とは、日射病、熱失神や熱疲労などと呼ばれる状態にあてはまる。この場合には、熱中症の症状が重症と比べて比較的に軽いが、皮膚血管拡張による血圧低下や発汗に伴う脱水が原因となった血液減少によって使用者の顔色は青く、すなわち白くなる。また、「重症」とは、重度の日射病や熱射病と呼ばれる状態にあてはまる。この場合には、熱中症の症状が重く、軽症時や中等症時とは逆に、体温調節機能が追い付かなくなって体温が上がることで、使用者の顔色は赤くなる。
【0097】
このように、症状が「中等症」である場合には、血流量が減少し、症状が「重症」である場合には、血流量が増加する。このことから、血流量が減少するか、あるいは増加するかを検知することができれば、熱中症の発症リスクがある場合に、その症状のレベルをさらに検知することもできる。
【0098】
ところが、脈波信号の振幅は、環境光の強さにも比例して変化する。したがって、カメラ13によって撮像された画像に含まれる各画素のG成分の代表値、すなわちG信号の振幅値を時間平均することによって環境光の強さを求め、脈波信号の振幅をG信号の振幅値の時間平均で除算することによって血流量を算出する。
【0099】
図12は、血流量算出部31の機能的構成を示すブロック図である。
図12に示すように、血流量算出部31は、振幅取得部311と、時間平均算出部312と、除算部313と、変化量算出部314とを有する。なお、図中の脈拍数検出部15は、
図7に示したものと同様であるので、同様の符号を付し、その説明は省略する。
【0100】
このうち、振幅取得部311は、脈拍数検出部15によって検出された脈波信号の振幅値を取得する処理部である。一態様としては、振幅取得部311は、演算部148による演算によって環境光や体動などのノイズが除去された顔の脈波信号の振幅値を取得する。
【0101】
時間平均算出部312は、G信号の時間平均を算出する処理部である。一態様としては、時間平均算出部312は、代表値算出部141Gによって算出された顔領域に含まれる各画素のG成分の代表値、すなわちG信号の振幅値を所定の時間にわたって取得する。その上で、時間平均算出部312は、所定の時間にわたって取得したG信号の振幅値の各々を平均する。
【0102】
除算部313は、脈拍数検出部15によって検出された脈波信号の振幅値を、時間平均算出部312によって算出されたG信号の時間平均値で除算する処理部である。このようにして抽出される振幅の除算値には、血流量の変化による輝度変化が主成分として含まれていると言える。
【0103】
変化量算出部314は、除算部313によって除算された振幅の除算値の変化量を算出する処理部である。一態様としては、変化量算出部314は、除算部313によって出力される振幅の除算値の変化を所定の時間にわたって監視する。かかる監視時間の一例としては、脈波の1周期、すなわち一拍が少なくとも含まれる時間を採用できる。例えば、人が採り得る脈拍数の最小値が30bpmであるとしたとき、3秒間にわたって振幅の除算値を監視し続ければ、一拍分の波形を監視できる。その上で、変化量算出部314は、監視時間にわたって採取された振幅の除算値のうち最大値及び最小値の差を算出する。このようにして算出された振幅の除算値の最大値及び最小値の差は、差が大きいほど血流量が大きく、差が小さいほど血流量が小さいという比例の関係にあるので、血流量を示す指標として用いることができる。
【0104】
図11の説明に戻り、レベル判定部32は、血流量算出部31によって算出される血流量の変化から熱中症の症状のレベルを判定する処理部である。一態様としては、レベル判定部32は、熱中症判定部16によって熱中症の発症リスクがあると判定された場合、振幅の除算値の最大値及び最小値の差と、血流量の減少を判定するのに用いる中等症用閾値及び血流の増加を判定するのに用いる重症用閾値とを比較する。これによって、レベル判定部32は、熱中症の症状のレベルが軽症、中等症又は重症のいずれであるのかを判定する。
【0105】
ここで、上記の血流量と比較する閾値の一例として、定常状態で採取しておいた振幅の除算値の最大値及び最小値の差から求めた値を閾値として採用できる。例えば、レベル判定部32は、携帯端末装置30の使用者が定常状態、例えば脈拍数が60bpm以上80bpmである場合に上記の振幅の除算値を採取しておく。その後、レベル判定部32は、定常状態時に採取しておいた振幅の除算値の最大値及び最小値の差から、中等症用閾値及び重症用閾値(中等症用閾値<最大値及び最小値の差<重症用閾値)を予め導出しておくことができる。その上で、レベル判定部32は、血流量算出部31によって出力された振幅の除算値の最大値及び最小値の差、すなわち血流量が中等症用閾値以下であるか否かを判定する。このとき、レベル判定部32は、血流量が中等症用閾値以下である場合には、熱中症の症状のレベルが「中等症」であると判定する。一方、レベル判定部32は、血流量が中等症用閾値を超える場合には、血流量が重症用閾値以上であるか否かをさらに判定する。そして、レベル判定部32は、血流量が重症用閾値以上である場合には、熱中症の症状のレベルが「重症」であると判定する。また、血流量が中等症用閾値よりも大きく、かつ重症用閾値よりも小さい場合には、熱中症の症状のレベルが「軽症」であると判定される。
【0106】
なお、ここでは、定常状態で採取しておいた振幅の除算値の最大値及び最小値の差から中等症用閾値および重症用閾値を求める場合を例示したが、他の閾値を用いることもできる。例えば、レベル判定部32は、熱中症判定部16によって熱中症の発症リスクがあると判定されてから血流量算出部31によって算出されていた血流量を所定の記憶部に蓄積しておく。そして、レベル判定部32は、熱中症の発症リスクが検知されてから所定の期間の間に血流量の減少量が所定の値以上である場合には中等症と判定し、中等症と判定されてから所定の期間の間に血流量の増加量が所定の値以上である場合には、重症と判定することとしてもよい。なお、熱中症の発症リスクが検知されてから所定の期間の間に血流量の減少量が所定の値未満である場合には、軽症と判定することとすればよい。
【0107】
このようにしてレベル判定部32によって判定された症状のレベルは、通知部17が通知するアラートの内容に含めることができる。これによって、熱中症の症状のレベルに合わせて対処を適切に行うことができる。例えば、軽症の場合には、自力による退避によって対処させ、中等症の場合には、使用者の関係者、例えば家族、掛り付け医や看護師等の補助によって対処させ、重症の場合には、消防局等の救急活動によって対処させることができる。
【0108】
このとき、症状のレベルの高さによってアラートの通知先を変更することもできる。例えば、通知部17は、熱中症のレベルと通知先とを対応付けるテーブルを設けておき、レベル判定部32によって熱中症のレベルが判定された場合に、上記テーブルを参照し、そのレベルに対応する通知先を取得すればよい。例えば、軽症である場合には、アラートの通知先を携帯端末装置30の使用者とし、中等症である場合には、使用者の掛り付け医などの医療関係者をさらに通知先として含め、重症である場合には、携帯端末装置30の位置情報から最寄りの消防局をさらに通知先として含めることもできる。
【0109】
このように、レベル判定部32によって判定された熱中症のレベルに合わせて通知先を変更することによって、例えば、症状が軽症である場合、アラートが通知された使用者は、例えば、現在地から移動することができる。一方、症状が中等症や重症である場合、使用者自らが動くことができずとも、その家族、医療関係者や救急隊員等が使用者を助けることができる。
【0110】
[処理の流れ]
続いて、実施例3に係る携帯端末装置30の処理の流れについて説明する。
図13は、実施例3に係る熱中症判定処理の手順を示すフローチャートである。
図13に示す熱中症判定処理においても、
図8に示したフローチャートと同様の開始条件または周期で実行することができる。
【0111】
図13に示すように、センサ11によって検出された温度及び湿度が取得されると(ステップS301)、指数算出部12は、ステップS301で取得された温度及び湿度からWBGTを算出する(ステップS302)。続いて、熱中症判定部16は、ステップS302で算出されたWBGTの値が所定の閾値を超えるか否かを判定する(ステップS303)。なお、WBGTの値が閾値以下である場合(ステップS303No)には、携帯端末装置30の使用者が熱中症を発症しているリスクは低いので、以降の処理を省略し、そのまま処理を終了する。
【0112】
このとき、WBGTの値が閾値を超える場合(ステップS303Yes)には、撮像制御部22は、携帯端末装置30の利用状態を検知する(ステップS304)。そして、携帯端末装置30が利用中である場合、すなわち携帯端末装置30に対する操作が検出された場合(ステップS305Yes)、撮像制御部22は、カメラ13に撮像を開始させる。その上で、脈拍数検出部15は、カメラ13によって撮像された画像から脈拍数を検出する(ステップS306)。なお、携帯端末装置30に対する操作が検出されない場合(ステップS305No)には、ステップS304に戻り、携帯端末装置30に対する操作を検出するまで、以降の処理を待機する。
【0113】
そして、熱中症判定部16は、ステップS306で検出された脈拍数の値が所定の閾値を超えるか否かを判定する(ステップS307)。なお、脈拍数の値が閾値以下である場合(ステップS307No)には、使用者が熱中症を発症しているリスクは低いので、以降の処理を省略し、そのまま処理を終了する。
【0114】
ここで、脈拍数の値が閾値を超える場合(ステップS307Yes)には、熱中症判定部16は、使用者が熱中症を発症した可能性があると判定する(ステップS308)。この場合には、血流量算出部31は、脈拍数検出部15によって検出された脈波信号の振幅値を用いて血流量を算出する(ステップS309)。その上で、レベル判定部32は、レベル判定部32は、ステップS309で算出された血流量の変化から熱中症の症状のレベルを判定する(ステップS310)。その後、通知部17は、熱中症の発症リスクがある旨のアラームにステップS310で判定された発症のレベルを含めて所定の通知先に通知し(ステップS311)、処理を終了する。
【0115】
なお、
図13に示したフローチャートでは、WBGTの値が閾値を超えた場合に絞って脈拍数の値が閾値を超えるか否かを判定する場合を例示したが、脈拍数の値が閾値を超えた場合に絞ってWBGTの値が閾値を超えるか否かを判定させることとしてもよい。
【0116】
[実施例3の効果]
上述してきたように、本実施例に係る携帯端末装置30によれば、上記の実施例1や実施例2と同様に、余計なハードウェアなしに熱中症を検知できる。
【0117】
さらに、本実施例に係る携帯端末装置30は、脈波信号の振幅値を用いて算出された血流量の変化から熱中症の症状のレベルを判定し、熱中症の発症リスクがある旨のアラームに発症のレベルを含めて所定の通知先に通知する。これによって、アラームが通知された通知先は、熱中症の症状のレベルに合わせて対処を適切に行うことができる。例えば、軽症の場合には、自力による退避によって対処させ、中等症の場合には、使用者の関係者、例えば家族、掛り付け医や看護師等の補助によって対処させ、重症の場合には、消防局等の救急活動によって対処させることができる。
【実施例4】
【0118】
さて、上記の実施例1〜3では、第1の指数と比較する閾値や脈拍数と比較する閾値を固定で用いる場合を例示したが、かかる閾値は動的に変更することとしてもかまわない。そこで、本実施例では、携帯端末装置40の使用者が暑熱順化しているか否かによって各種の閾値を変更する例について説明する。
【0119】
[携帯端末装置の構成]
図14は、実施例4に係る携帯端末装置の機能的構成を示すブロック図である。
図14に示す携帯端末装置40は、
図9に示した携帯端末装置に比べて、保存部32、記憶部33及び暑熱順化判定部34をさらに有する点が相違する。なお、ここでは、上記の実施例1及び実施例2と同様の機能を発揮するものについては同様の符号を付し、その説明を省略することとする。
【0120】
ここで、
図14に示す熱中症判定部31は、指数算出部12によって算出されるWBGTと比較する閾値として、WBGT1及びWBGT2の2種類の閾値を用いる。このうち、WBGT1は、脈拍数の検出を実行するか否かを判定するのに用いられる閾値であり、例えば、WBGTの値がWBGT1を超える場合に、カメラ13によって撮像された画像から脈拍数検出部15によって脈拍数が検出される。また、WBGT2は、熱中症の発症リスクを判断するのに用いられる閾値であり、WBGTの値がWBGT2を超える場合に、脈拍数が閾値を超えるか否かを判定する。これらWBGT1及びWBGT2は、WBGT1<WBGT2の関係を持つ。このため、脈拍数が検出されたからといって必ずしも熱中症の発症リスクを判定するとは限らない。このように、2段階の閾値を設定して熱中症の発症リスクを判断する目的以外で脈拍数を検出するのは、暑熱環境での脈拍数のサンプルを得るためである。
【0121】
保存部32は、脈拍数検出部15によって検出された脈拍数を記憶部33に保存する処理部である。一態様としては、保存部32は、脈拍数検出部15によって検出される脈拍数のうち、熱中症判定部31によってWBGTがWBGT1を超えると判定された後に検出された脈拍数に絞って記憶部33に保存する。このように、記憶部33に保存する脈拍数を取捨選択するのは、暑熱環境で検出された脈拍数に絞って記憶部33に保存するためである。
【0122】
記憶部33は、各種の情報、例えば脈拍数を記憶する記憶デバイスである。一態様としては、記憶部33には、WBGTがWBGT1を超える場合に検出された脈拍数が保存部32によって保存される。例えば、記憶部33は、脈拍数とともに、脈拍数が検出された時のWBGTの値や脈拍数の検出が実行された時間などの項目を対応付けて記憶する。なお、脈拍数は、必ずしも携帯端末装置40のメモリ上に記憶させずともよく、携帯端末装置40がアクセス可能なコンピュータ、例えばサーバ装置等に記憶させることとしてもかまわない。
【0123】
暑熱順化判定部34は、記憶部33に記憶された脈拍数の統計値が所定の閾値未満であるか否かによって暑熱への順化の可否を判定する処理部である。
【0124】
ここで、暑熱順化とは、暑さに体が順応することを指す。一般に、人が暑熱環境、例えば高温多湿環境に数日から1、2週間などの一定期間にわたって生活すると、その人は環境に身体が慣れることによって交感神経が活性化され、心拍数が低下する。この現象が暑熱順化と呼ばれる。
【0125】
このように、暑熱に順化している者と暑熱に順化していない者との間では、同一の温度及び同一の湿度の環境にいても、暑熱に順化していない者よりも暑熱に順化している者の方が熱中症に耐性がある。これら両者を同じ閾値で熱中症の発症リスクを判定していたのでは、誤判定が発生するリスクがある。このことから、携帯端末装置40の使用者が暑熱に順化しているか否かによってWBGTと比較するWBGT2の値を変更する。
【0126】
一態様としては、暑熱順化判定部34は、次に例示する契機で記憶部33に記憶された脈拍数を用いて、携帯端末装置40の使用者が暑熱に順化しているか否かを判定する。例えば、暑熱順化判定部34は、1日周期の定刻、例えば24時に暑熱順化の可否を判定したり、使用者からのデマンドに応答して暑熱順化の可否を判定したりすることもできる。
【0127】
より具体的には、暑熱順化判定部34は、携帯端末装置40が持つタイムスタンプが定刻になると、記憶部33に記憶された脈拍数を読み出す。このとき、暑熱順化判定部34は、記憶部33から読み出された脈拍数に対し、所定の統計処理を実行する。例えば、記憶部33から読み出された脈拍数の平均値を算出することによって日次の心拍数の平均値を算出する。なお、ここでは、平均値を算出する場合を例示したが、最頻値や中央値を抽出することとしてもよく、平均化を行う場合にも相加平均を始め、加重平均や移動平均などの平均化を行うこととしてもかまわない。
【0128】
その後、暑熱順化判定部34は、日次の心拍数の平均値が閾値HRth2未満であるか否かを判定する。かかるHRth2は、人が暑熱環境に順化しているか否かを判別するための閾値であり、例えば、使用者が暑熱環境ではない適温の環境で測定された安静時の脈拍数から設定することができる。
【0129】
このとき、日次の心拍数の平均値が閾値HRth2未満である場合には、携帯端末装置40の使用者の暑熱への順化が完了していると推定することができる。この場合には、暑熱順化判定部34は、熱中症判定部31が使用するWBGT2の値としてWBGT21、例えば32℃を設定する。一方、日次の心拍数の平均値が閾値HRth2以上である場合には、携帯端末装置40の使用者の暑熱への順化が未だ完了していないと推定することができる。この場合には、暑熱順化判定部34は、熱中症判定部31が使用するWBGT2の値としてWBGT22、例えば30℃を設定する。
【0130】
また、暑熱順化判定部34は、脈拍数が所定の日数、例えば1週間、2週間あるいは10日などにわたって継続して記憶部33に保存されていない場合には、熱中症判定部31が使用するWBGT2の閾値としてWBGT22、例えば30℃を設定する。これは、携帯端末装置40の使用者が一旦は順化済みであったとしても、その後に一定の期間にわたって暑熱環境にいなかった場合に、暑熱環境に順化していない状態に戻ってしまうからである。
【0131】
このように、暑熱への順化が完了している場合には、暑熱への順化が完了していない場合よりも高い閾値を設定する。これによって、暑熱への順化が完了している者が熱中症になっていないのに熱中症と判定したり、暑熱への順化が未完了である者が熱中症になっているのに熱中症の発症リスクがないと判定する事態を抑制できる。この結果、熱中症の判定精度を高めることができる。なお、ここでは、日次の心拍数の平均値が閾値HRth2未満であるか否かを判定する場合について説明したが、順化または未順化の判定方法はこれに限定されない。例えば、日次の心拍数の平均値の減少率が所定の閾値を超える場合にWBGT2の値としてWBGT21を設定し、日次の心拍数の平均値の減少率が閾値以下である場合にWBGT2の値としてWBGT21を設定することもできる。
【0132】
[処理の流れ]
続いて、実施例4に係る携帯端末装置40の処理の流れについて説明する。ここでは、携帯端末装置40が実行する(1)閾値設定処理を説明した後に、(2)熱中症判定処理について説明することとする。
【0133】
(1)閾値設定処理
図15は、実施例4に係る閾値設定処理の手順を示すフローチャートである。この閾値設定処理は、次のような開始条件または周期で実行される。例えば、閾値設定処理は、1日周期の定刻、例えば24時に処理を起動させたり、携帯端末装置40の使用者からのデマンドに応答して処理を起動させたりすることができる。
【0134】
図15に示すように、暑熱順化判定部34は、記憶部33に記憶された脈拍数を読み出す(ステップS401)。このとき、記憶部33に脈拍数のデータが存在した場合(ステップS402Yes)には、暑熱順化判定部34は、ステップS401で読み出された脈拍数の平均値を算出することによって日次の心拍数の平均値を算出する(ステップS403)。
【0135】
その後、暑熱順化判定部34は、日次の心拍数の平均値が閾値HRth2未満であるか否かを判定する(ステップS404)。このとき、日次の心拍数の平均値が閾値HRth2未満である場合(ステップS404Yes)には、携帯端末装置40の使用者の暑熱への順化が完了していると推定することができる。この場合には、暑熱順化判定部34は、熱中症判定部31が使用するWBGT2の値として順化用のWBGT21を設定し(ステップS405)、処理を終了する。
【0136】
一方、日次の心拍数の平均値が閾値HRth2以上である場合(ステップS404No)には、携帯端末装置40の使用者の暑熱への順化が未だ完了していないと推定することができる。この場合には、暑熱順化判定部34は、熱中症判定部31が使用するWBGT2の値として未順化用のWBGT22を設定する(ステップS406)。
【0137】
また、記憶部33に脈拍数のデータが存在しなかった場合(ステップS402No)には、暑熱順化判定部34は、脈拍数が記憶部33に保存されていない期間が所定の日数N、例えば1週間、2週間あるいは10日などに達したか否かを判定する(ステップS407)。
【0138】
そして、脈拍数が記憶部33に保存されていない期間が所定の日数Nに達した場合(ステップS407Yes)には、暑熱順化判定部34は、熱中症判定部31が使用するWBGT2の閾値として未順化用のWBGT22を設定し(ステップS406)、処理を終了する。なお、脈拍数が記憶部33に保存されていない期間が所定の日数Nに達していない場合(ステップS407No)には、今回は閾値の設定を実行せずに前回の閾値の設定を維持し、そのまま処理を終了する。
【0139】
(2)熱中症判定処理
図16は、実施例4に係る熱中症判定処理の手順を示すフローチャートである。
図16に示す熱中症判定処理においても、
図8に示したフローチャートと同様の開始条件または周期で実行することができる。
【0140】
図16に示すように、センサ11によって採取された温度及び湿度が取得されると(ステップS501)、指数算出部12は、ステップS501で取得された温度及び湿度からWBGTを算出する(ステップS502)。続いて、熱中症判定部31は、ステップS502で算出されたWBGTの値がWBGT1を超えるか否かを判定する(ステップS503)。なお、WBGTの値がWBGT1以下である場合(ステップS503No)には、使用者が熱中症を発症しているリスクを無視してよく、また、暑熱環境になく脈拍数をサンプリングせずともよいので、以降の処理を省略し、そのまま処理を終了する。
【0141】
このとき、WBGTの値がWBGT1を超える場合(ステップS503Yes)には、撮像制御部22は、携帯端末装置20の利用状態を検知する(ステップS504)。そして、携帯端末装置40が利用中である場合、すなわち携帯端末装置40に対する操作が検出された場合(ステップS505Yes)、撮像制御部22は、カメラ13に撮像を開始させる。その上で、脈拍数検出部15は、カメラ13によって撮像された画像から脈拍数を検出する(ステップS506)。そして、保存部32は、ステップS506で検出された脈拍数を記憶部33に保存する(ステップS507)。なお、携帯端末装置40に対する操作が検出されない場合(ステップS505No)には、ステップS504に戻り、携帯端末装置40に対する操作を検出するまで、以降の処理を待機する。
【0142】
ここで、熱中症判定部31は、ステップS502で算出されたWBGTがWBGT2を超えるか否かを判定する(ステップS508)。このとき、熱中症判定部31は、WBGT21及びWBGT22のうち
図15に示した閾値設定処理によって設定された方の閾値をステップS508の判定に使用する。
【0143】
そして、WBGTがWBGT2を超える場合(ステップS508Yes)には、熱中症判定部31は、ステップS506で検出された脈拍数の値が所定の閾値を超えるか否かをさらに判定する(ステップS509)。なお、脈拍数の値が閾値以下である場合(ステップS509No)には、使用者が熱中症を発症しているリスクは低いので、以降の処理を省略し、そのまま処理を終了する。
【0144】
一方、脈拍数の値が閾値を超える場合(ステップS509Yes)には、熱中症判定部31は、使用者に熱中症が発症した可能性があると判定する(ステップS510)。この場合には、通知部17は、熱中症の発症リスクがある旨のアラームを所定の通知先に通知し(ステップS511)、処理を終了する。
【0145】
なお、
図16に示したフローチャートでは、WBGTの値が閾値を超えた場合に絞って脈拍数の値が閾値を超えるか否かを判定する場合を例示したが、脈拍数の値が閾値を超えた場合に絞ってWBGTの値が閾値を超えるか否かを判定させることとしてもよい。
【0146】
[実施例4の効果]
上述してきたように、本実施例に係る携帯端末装置40は、携帯端末装置40の使用者が暑熱に順化しているか否かによってWBGTと比較するWBGT2の値を変更する。このため、暑熱への順化が完了している者が熱中症になっていないのに熱中症と判定したり、暑熱への順化が未完了である者が熱中症になっているのに熱中症の発症リスクがないと判定する事態を抑制できる。したがって、本実施例に係る携帯端末装置40によれば、熱中症の判定精度を高めることができる。
【実施例5】
【0147】
さて、これまで開示の装置に関する実施例について説明したが、本発明は上述した実施例以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。そこで、以下では、本発明に含まれる他の実施例を説明する。
【0148】
[入力信号]
上記の実施例1〜実施例4では、入力信号としてR信号およびG信号の2種類を用いる場合を例示したが、異なる複数の光波長成分を持つ信号であれば任意の種類の信号および任意の数の信号を入力信号とすることができる。例えば、R、G、B、IRおよびNIRなどの光波長成分が異なる信号のうち任意の組合せの信号を2つ用いることもできるし、また、3つ以上用いることもできる。
【0149】
[各実施例の組合せ]
上記の実施例3および実施例4では、熱中症の症状のレベル判定や暑熱順化に基づく閾値設定を個別に実施する場合を例示したが、これらの実施例は組み合わせて実施することもできる。
【0150】
[他の実装例1]
上記の実施例1〜実施例5では、携帯端末装置10が上記の熱中症判定処理をスタンドアローンで実行する場合を例示したが、クライアントサーバシステムとして実装することもできる。例えば、携帯端末装置10〜40の少なくともいずれか1つまたは組合せは、熱中症判定サービスを提供するWebサーバとして実装することとしてもよいし、アウトソーシングによって熱中症判定サービスを提供するクラウドとして実装することとしてもかまわない。このように、携帯端末装置10〜40の少なくともいずれか1つまたは組合せがサーバ装置として動作する場合には、スマートフォンや携帯電話機等の携帯端末装置やパーソナルコンピュータ等の情報処理装置をクライアント端末として収容することができる。これらクライアント端末からネットワークを介して温湿度や画像が取得された場合に熱中症判定処理を実行し、任意の通知先にアラートを通知することもできる。
【0151】
[他の実装例2]
なお、上記の実施例1〜4では、実装形態の一例として、携帯端末装置を例示したが、これに限定されない。例えば、センサ11、カメラ13及びタッチパネル21などのハードウェア以外の各部の機能を実現する熱中症判定プログラムを実行可能なプロセッサが集積された半導体チップが熱中症判定装置として実装されることとしてもかまわない。
【0152】
[分散および統合]
また、図示した各装置の各構成要素は、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。例えば、指数算出部12、脈拍数検出部15、熱中症判定部16又は通知部17を熱中症判定装置10の外部装置としてネットワーク経由で接続するようにしてもよい。また、指数算出部12、脈拍数検出部15、熱中症判定部16又は通知部17を別の装置がそれぞれ有し、ネットワーク接続されて協働することで、上記の熱中症判定装置10の機能を実現するようにしてもよい。
【0153】
[熱中症判定プログラム]
また、上記の実施例で説明した各種の処理は、予め用意されたプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することによって実現することができる。そこで、以下では、
図17を用いて、上記の実施例と同様の機能を有する熱中症判定プログラムを実行するコンピュータの一例について説明する。
【0154】
図17は、実施例1及び実施例2に係る熱中症判定プログラムを実行するコンピュータの一例について説明するための図である。
図17に示すように、コンピュータ1000は、操作部1100aと、スピーカ1100bと、カメラ1100cと、ディスプレイ1200と、通信部1300とを有する。さらに、このコンピュータ1000は、CPU1500と、ROM1600と、HDD1700と、RAM1800とを有する。これら1100〜1800の各部はバス1400を介して接続される。
【0155】
HDD1700には、
図17に示すように、上記の実施例1〜実施例5で示した各機能部と同様の機能を発揮する熱中症判定プログラム1700aが予め記憶される。この熱中症判定プログラム1700aについては、
図1、
図9、
図11または
図14に示した各々の機能部の各構成要素と同様、適宜統合又は分離しても良い。すなわち、HDD1700に格納される各データは、常に全てのデータがHDD1700に格納される必要はなく、処理に必要なデータのみがHDD1700に格納されれば良い。
【0156】
そして、CPU1500が、熱中症判定プログラム1700aをHDD1700から読み出してRAM1800に展開する。これによって、
図17に示すように、熱中症判定プログラム1700aは、熱中症判定プロセス1800aとして機能する。この熱中症判定プロセス1800aは、HDD1700から読み出した各種データを適宜RAM1800上の自身に割り当てられた領域に展開し、この展開した各種データに基づいて各種処理を実行する。なお、熱中症判定プロセス1800aは、
図1、
図9、
図11または
図14に示した各機能部にて実行される処理、例えば
図8、
図10、
図13、
図15や
図16などに示す処理を含む。また、CPU1500上で仮想的に実現される各処理部は、常に全ての処理部がCPU1500上で動作する必要はなく、処理に必要な処理部のみが仮想的に実現されれば良い。
【0157】
なお、上記の熱中症判定プログラム1700aについては、必ずしも最初からHDD1700やROM1600に記憶させておく必要はない。例えば、コンピュータ1000に挿入されるフレキシブルディスク、いわゆるFD、CD−ROM、DVDディスク、光磁気ディスク、ICカードなどの「可搬用の物理媒体」に各プログラムを記憶させる。そして、コンピュータ1000がこれらの可搬用の物理媒体から各プログラムを取得して実行するようにしてもよい。また、公衆回線、インターネット、LAN、WANなどを介してコンピュータ1000に接続される他のコンピュータまたはサーバ装置などに各プログラムを記憶させておいてもよい。その場合、コンピュータ1000が他のコンピュータまたはサーバ装置から各プログラムを取得して実行するようにしてもよい。