(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、サファイア、SiC、窒素ガリウム(GaN)又はSi等からなる基板上にGaN層及びAlGaN層を順次形成し、GaN層を電子走行層として用いる電子デバイス(化合物半導体デバイス)の開発が活発である。
【0003】
GaNのバンドギャップは3.4eVであり、Siの1.1eV、GaAsの1.4eVに比べて大きい。このため、この化合物半導体装置には、高耐圧での動作が期待されている。
【0004】
このような化合物半導体装置の一つとして、GaN系の高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)が挙げられる。以下、このGaN系の高電子移動度トランジスタをGaN−HEMTと称する。HEMTとは、半導体ヘテロ接合に誘起された高移動度の二次元電子ガス(2DEG)をチャネルとした電界効果トランジスタのことである。
【0005】
GaN−HEMTを電源用のインバータのスイッチとして使用すると、オン抵抗の低減及び耐圧の向上の両立が可能である。また、Si系トランジスタと比較して、待機時の消費電力を低減することも可能であり、動作周波数を向上させることも可能である。
【0006】
このため、スイッチングロスを低減することができ、インバータの消費電力を低減することが可能となる。また、同等の性能のトランジスタであれば、Si系トランジスタと比較して小型化が可能である。
【0007】
しかしながら、従来のシリコンのMOS−FETが、ゲートに電圧を印加しない状態でオフになるノーマリーオフ型(エンハンスメントモード)であるのに対して、GaN−HEMTは、通常、ゲートに電圧を印加しない状態でオンになるノーマリーオン型(デプレッションモード)である。
【0008】
そのため、デプレッションモードのGaN−HEMTをスイッチングするためには、エンハンスメントモードとして働くように、エンハンスメントモードのFETを組み合わせたカスコードトランジスタがある。
【0009】
図1(A)に、カスコードトランジスタの一例を示す。カスコードトランジスタは、ノーマリーオフ型の第1のスイッチング素子Tr1と、ノーマリーオン型の第2のスイッチング素子Tr2とを直列にした回路で、第2のスイッチング素子Tr2のソースS2は、第1のスイッチング素子Tr1のドレインD1に接続される。第2のスイッチング素子Tr2のゲートG2と、第1のスイッチング素子Tr1のソースS1は、接地される。ノーマリーオフ型の第1のスイッチング素子Tr1は例えば、一般に入手可能なシリコンベースのn型MOS−FETとする。ノーマリーオン型の第2のスイッチング素子Tr2は例えば、GaN−HEMTとする。
【0010】
次に、カスコードトランジスタの動作について説明する。まず、第1のスイッチング素子Tr1がオフになると、第1のスイッチング素子Tr1の抵抗が高くなり、まだオンである第2のスイッチング素子Tr2との抵抗値の兼ね合いで、第1のスイッチング素子Tr1のドレイン電圧が上がることになる。すると、第2のスイッチング素子Tr2のゲート電圧は0Vであるので、第2のスイッチング素子Tr2のソース電圧がゲート電圧より高くなる。ここで、例えば第2のスイッチング素子Tr2がオフオンする閾値を−5Vとすると、第2のスイッチング素子Tr2のソース電圧が5Vになった段階で、第2のスイッチング素子Tr2がオフする。
【0011】
第2のスイッチング素子Tr2のドレインD2は、カスコードトランジスタのドレインとして機能し、第1のスイッチング素子Tr1のソースS1は、カスコードトランジスタのソースとして機能する。同様に、第1のスイッチング素子Tr1のゲートG1はカスコードトランジスタのゲートとして機能する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明者は、カスコードトランジスタを用いた回路の損失について、調査を行った。
【0024】
図2は、カスコードトランジスタを用いた昇圧回路の一例を示す。
図3は、
図2の昇圧回路における動作波形と、スイッチング損失が発生している箇所を示す。
【0025】
昇圧回路において、出力電力が小さい場合、その動作は一般的に電流不連続モードとなる。
図3を参照して、カスコードトランジスタがオンしてインダクタ電流ILとトランジスタ電流Idsが流れてインダクタL1へエネルギーを蓄えた後、カスコードトランジスタがオフしてそのエネルギーを電流という形で出力側へ放出する。電流不連続モードとは、カスコードトランジスタがオフの期間にその電流が消滅してしまう状態のことを言う。
【0026】
電流が消滅している期間、エネルギーを蓄える役割のインダクタL1とカスコードトランジスタの出力端子から見える等価容量との間で直列共振が生じ、カスコードトランジスタの出力端子の電圧が振動する。この振動周波数はインダクタL1とカスコードトランジスタの出力端子から見える等価容量で決まる共振周波数となる。今、共振状態においてカスコードトランジスタがオンすると、そのときカスコードトランジスタの出力端子の電圧の初期値はカスコードトランジスタがオンするタイミングに依存する。
【0027】
図3に示すように、電流不連続モードにおいては、ソース−ドレイン間電圧Vdsとドレイン電流Idsとのオーバーラップによりスイッチング損失が発生する。ソース−ドレイン間電圧Vdsが大きくなっている状態でゲート電圧Vgsがオンすると、ソース−ドレイン間電圧Vdsとドレイン電流Idsとのオーバーラップが大きくなってしまいスイッチング損失が大きくなる。従来、この不連続モードにおいて、ソース−ドレイン間電圧Vdsの大きさをゲート電圧Vgsのスイッチングのタイミングに合わせてスイッチング損失を制御することはできなかった。
【0028】
さらに、発明者は、カスコードトランジスタを用いた回路で発生するリンギング、あるいは発振について、調査を行った。
【0029】
図4(A)を参照して、実際のトランジスタはモールドされたパッケージに封止されるか、メタルパッケージに封止された状態でデバイスとして、例えばプリント基板上に実装される。特に、ソース端子に接続されている配線はインダクタンスのような動作をする場合が多く、トランジスタの各端子には、パッケージや回路基板上に存在する寄生インダクタンスLG、LSが接続されることになる。
【0030】
この寄生インダクタンスと、使用するトランジスタのゲート−ソース間容量との間で共振が生じて、これがきっかけとなってトランジスタがリンギング、あるいは発振を起こすことがある。トランジスタの立ち上がり時間(tr)や立ち下がり時間(tf)が短く、相互コンダクタンス(ΔIds/ΔVgs=gm)が大きいと、共振が増幅されやすくなり、リンギング、あるいは発振を起こしやすくなる。このためトランジスタのスイッチング動作が不安定となるばかりでなく、スイッチング損失の増大を招く恐れがある。
【0031】
図4(B)はリンギング、あるいは発振を起こしている時の波形を示す。このリンギング・発振を制御する従来の方法は、ゲート端子に直列に大きな抵抗を挿入して、出力端子から流入してくる電流を損失させ、さらに出力端子と接地との間にスナバ回路を設けることで損失を起こさせてリンギングや発振を抑制していた。しかし、この手法では、ゲート電圧Vgsの立ち上がり時間が大きくなり、したがってソース−ドレイン間電圧Vdsとドレイン電流Idsのターンオン、ターンオフ時における遷移時間が大きくなり、結果としてスイッチング損失が増大してしまう。
【0032】
発明者は、第1のスイッチング素子Tr1のドレイン−ソース間に耐圧以上の電圧が加わる第1の課題、昇圧回路の電流不連続モードにおいてスイッチング損失が大きくなる第2の課題、及び寄生インダクタンスの影響でトランジスタのスイッチング動作が不安定となる第3課題について、カスコード接続の中点の電圧に注目し、以下の実施の形態を考案した。
【0033】
以下に図面を参照して、本開示の技術にかかる好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0034】
図5は、開示の技術を適用した第1実施形態のカスコードトランジスタを示す図である。
図5において、
図1に示すカスコードトランジスタと同一又は同等の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0035】
本実施形態のカスコードトランジスタは、ノーマリーオフ型の第1のスイッチング素子Tr1と、ノーマリーオン型の第2のスイッチング素子Tr2とを直列にした回路で、第2のスイッチング素子Tr2のソースS2は、第1のスイッチング素子Tr1のドレインD1に接続される。第2のスイッチング素子Tr2のゲートG2と、第1のスイッチング素子Tr1のソースS1は、接地される。ノーマリーオフ型の第1のスイッチング素子Tr1は例えば、一般に入手可能なシリコンベースのn型MOS−FETとする。ノーマリーオン型の第2のスイッチング素子Tr2は例えば、GaN−HEMTとする。
【0036】
さらに、第2のスイッチング素子Tr2のソースS2と、第1のスイッチング素子Tr1のドレインD1とが接続するノードmidと、第1のスイッチング素子Tr1のソースS1との間に、スイッチSWとキャパシタCaddとを直列接続した回路が、並列に接続されている。
【0037】
第2のスイッチング素子Tr2のドレインD2は、カスコードトランジスタのドレインとして機能し、第1のスイッチング素子Tr1のソースS1は、カスコードトランジスタのソースとして機能する。同様に、第1のスイッチング素子Tr1のゲートG1はカスコードトランジスタのゲートとして機能する。
【0038】
スイッチSWは、外部からその開閉を制御可能とする外部端子V1を有し、外部端子V1に信号を入力して、スイッチSWをオフオンする。スイッチSWは例えば、一般に入手可能なシリコンベースのn型MOS−FET、GaN−HEMT等のトランジスタとする。
【0039】
スイッチSWの動作は、カスコードトランジスタのゲート信号がオフになる寸前にスイッチSWをオンして、ノードmidにキャパシタCaddを接続する。キャパシタCaddがノードmidに接続されることで、ノードmidの電圧が安定化するので、第1のスイッチング素子Tr1の耐圧を越える電圧が第1のスイッチング素子Tr1のドレイン・ソース間に印加されることを防ぐことができる。
【0040】
また、カスコードトランジスタのゲート信号がオンになる寸前にスイッチSWをオフして、ノードmidからキャパシタCaddを切り離すことにより、ターンオン時の充電に費やす時間を短縮することができる。
【0041】
キャパシタCaddをスイッチSW無しでノードmidに接続したままにすると、単なるフィルタとしての働き、またはスイッチング時の定電圧化の働きのどちらか一方の働きしか得られない。しかし、スイッチSWを接続してそれを外部から制御してやることにより、両方の働きを得ることができる。
【0042】
次いで、上記第1の課題に対する効果について、説明する。
【0043】
図6は、
図2に示す昇圧回路のカスコードトランジスタを、本実施形態のカスコードトランジスタに置き換えてシミュレーシュンした波形を示す。
【0044】
図中、左の
図6(A)は、従来の構成と同等の条件であるキャパシタCaddの容量=0nF、即ちSWをオフ状態にした場合のシミュレーシュン波形である。図中、右の
図6(B)は、キャパシタCaddの容量=2nFとして、SWをオン状態にした場合のシミュレーシュン波形である。
【0045】
図6(A)、
図6(B)共に、上からカスコードトランジスタのゲート電圧Vgs、第2のスイッチング素子Tr2のソースS2と第1のスイッチング素子Tr1のドレインD1とが接続するノードmidの電圧Vmid、カスコードトランジスタのドレイン−ソース間電流Ids、カスコードトランジスタのドレイン電圧Vds、インダクタ電流ILを示す。
【0046】
第1のスイッチング素子Tr1のドレイン−ソース間の耐圧を20V、第2のスイッチング素子Tr2のドレイン−ソース間の耐圧を600Vとする。
【0047】
シミュレーシュンの条件としては、カスコードトランジスタの第1のスイッチング素子Tr1の入力信号のスイッチング周波数は100kHzとして、ドレイン電圧VDD=400Vとする。各端子間容量を、Cds1=500pF、Cds2=150pF、Cgs2=500pFであるとする。
【0048】
先に、簡単な計算で、カスコードトランジスタの各トランジスタのオフ時の電圧を試算してみる。
【0049】
カスコードトランジスタの各トランジスタのオフ時の電圧は各端子間容量で決まるものとすると、第2のスイッチング素子Tr2のオフ時のドレイン−ソース間電圧Vds2_OFFは、
Vds2_OFF=VDD×Zds2_OFF/(Zds1_OFF+Zds2_OFF)
=VDD×(Cds1+Cgs2)/(Cds2+Cds1+Cgs2)
=400×(500p+500p)/(150p+500p+500p)
=347.8261V・・・(式2)
で求められ、第1のスイッチング素子Tr1のオフ時のドレイン−ソース間電圧Vds1_OFFは、
Vds1_OFF=VDD×Zds1_OFF/(Zds1_OFF+Zds2_OFF)
=VDD×Cds2/(Cds2+Cds1+Cgs2)
=400×150p/(150p+500p+500p)=52.1739V・・・(式3)
で求められる。ここで、
Zds1_OFF:第1のスイッチング素子Tr1のオフ時のドレイン−ソース間インピーダンス、
Zds2_OFF:第2のスイッチング素子Tr2のオフ時のドレイン−ソース間インピーダンス、とする。
【0050】
図6(A)に示すシミュレーシュン結果においても、ゲートがオフになった時のノードmidの電圧Vmidは、52.95Vとなっており、上記の計算とほぼ一致する。このとき、第1のスイッチング素子Tr1には第1のスイッチング素子Tr1のドレイン耐圧である20Vを大きく超える電圧が加わることになる。
【0051】
キャパシタCadd=2nFを追加した場合の、第2のスイッチング素子Tr2のオフ時のドレイン−ソース間電圧Vds2_OFFは、
Vds2_OFF=VDD×Zds2_OFF/(Zds1_OFF+Zds2_OFF)
=VDD×(Cds1+Cgs2)/(Cds2+Cds1+Cgs2+Cadd)
=400×(500p+500p+2n)/(150p+500p+500p+2n)
=350.9524V・・・(式4)
で求められ、第1のスイッチング素子Tr1のオフ時のドレイン−ソース間電圧Vds1_OFFは、
Vds1_OFF=VDD×Zds1_OFF/(Zds1_OFF+Zds2_OFF)
=VDD×Cds2/(Cds2+Cds1+Cgs2+Cadd)
=400×150p/(150p+500p+500p+2n)=19.0476V・・・(式5)
で求められる。
【0052】
図6(B)に示すシミュレーシュン結果においても、ゲートがオフになった時のノードmidの電圧Vmidは、19.83Vとなっており、上記の計算とほぼ一致する。このとき、第1のスイッチング素子Tr1には第1のスイッチング素子Tr1のドレイン耐圧である20Vを超える電圧が加わることはない。よって、第1のスイッチング素子Tr1の劣化や寿命の低下を防ぐことができる。
【0053】
次いで、
図7は、上記第2の課題に対する効果を説明したものである。
【0054】
図中、左の
図7(A)は、従来の構成と同等の条件であるキャパシタCaddの容量=0nF、即ちSWをオフ状態にした場合のシミュレーシュン波形である。図中、右の
図7(B)は、キャパシタCaddの容量=2nFとして、SWをオン状態にした場合のシミュレーシュン波形である。
【0055】
図7(A)、
図7(B)共に、上からカスコードトランジスタのゲート電圧Vgs、カスコードトランジスタのドレイン電圧Vds、カスコードトランジスタのドレイン電流Ids、インダクタ電流ILを示す。
【0056】
図7(A)を参照して、共振状態にあるカスコードトランジスタの出力のドレイン電圧Vdsがピークになったところでカスコードトランジスタのゲートをオンしたとすると、ドレイン電圧Vdsの変化はスイッチング遷移時間の間にVdspkから通常数十mVのカスコードトランジスタのオン電圧Vds_ONまで変化し、そのときの電圧の時間に対する傾きdV/dtの絶対値は非常に大きくなる。カスコードトランジスタの出力のドレイン電圧Vdsの時間変化が非常に大きいと、この変化に伴ってカスコードトランジスタの出力に接続されている等価容量CdsとCgdへdV/dtの大きさに比例した電流が流れる。
【0057】
例えばドレイン電圧Vdsが大きなdV/dtで変化すると、カスコードトランジスタのドレイン端子からソース端子間に接続されているソース−ドレイン間容量Cdsからトランジスタのチャネルへドレイン電流Idsのスパイクが発生する。
【0058】
このドレイン電流Idsのスパイクとトランジスタのチャネルに存在する純抵抗(この場合はRon)によってチャネル内部に熱が発生してしまう。ソース−ドレイン間容量Cdsが大きければ大きいほどオフ状態からオン状態への遷移時間内にチャネルを通る電流は大きくなり、この時間内のスイッチング損失Rossは大きくなってしまう。
【0059】
図7(B)を参照して、キャパシタCadd=2nFが付加することにより、ゲート信号がオンする際の共振状態にあるカスコードトランジスタのドレイン電圧Vdsは、ほぼオン電圧Vds_ONに達している。ドレイン電圧Vdsの急な変化が無いので、
図7(A)のゲート信号がオンする際にあったドレイン電流Idsのスパイクが除去されている。このように、ゲートをオンするタイミングと、ドレイン電圧Vdsが谷に来る時間とを一致させることにより、電流サージ(dV/dt)を制御でき、ゲート信号がオフからオンへ遷移する際のスイッチング損失をゼロにすることができる。
【0060】
このように、ノードmidにキャパシタCaddを接続すると、ドレイン電圧Vds波形の振動周波数が変化する。これはドレイン端子からみた容量とドレイン端子に接続されているインダクタとの共振によってドレイン電圧Vds波形が振動するためである。よって、ゲート信号をオンする寸前のドレイン電圧Vds波形の振動が最下点となるようにキャパシタCaddの容量が決められる。
【0061】
図8は、上記第3の課題に対する効果を説明したものである。
【0062】
カスコードトランジスタがプリント基板上に実装されている状態を模擬するため、
図4(A)に示すように、カスコードトランジスタのゲート配線ならびにソース配線に直列にインダクタンスを接続してシミュレーシュンを行った。
【0063】
図中、左の
図8(A)は、従来の構成と同等の条件であるキャパシタCaddの容量=0nF、即ちSWをオフ状態にした場合のシミュレーシュン波形である。図中、右の
図8(B)は、キャパシタCaddの容量=2nFとして、SWをオン状態にした場合のシミュレーシュン波形である。
【0064】
図8(A)、
図8(B)共に、上からカスコードトランジスタのゲート電圧Vgs、カスコードトランジスタのドレイン電圧Vds、カスコードトランジスタのソース端子から流れる電流Is、カスコードトランジスタのドレイン電流Idsを示す。
【0065】
図8(A)を参照して、全ての波形において振動現象(リンギング)が見られているが、
図8(B)を参照して、キャパシタCaddを付加することで、ゲート信号波形以外の波形についてリンギング現象はすべて除去されている。
【0066】
カスコードトランジスタのゲート信号がオンになる直前に、キャパシタCadd=1nFに設定すれば、課題2に対する効果のドレイン電圧Vdsの谷の制御に加え、リンギングも制御可能となる。これによりスイッチング損失は低減し、安定した動作が保証される。
【0067】
図9は、開示の技術を適用した第2実施形態のカスコードトランジスタを示す図である。
図9において、
図5に示す第1実施形態のカスコードトランジスタと同一又は同等の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0068】
本実施形態のカスコードトランジスタは、第2のスイッチング素子Tr2のソースS2と、第1のスイッチング素子Tr1のドレインD1とが接続するノードmidと、第1のスイッチング素子Tr1のソースS1との間にスイッチSWとキャパシタCaddVとを直列接続した回路が、並列に接続されている。スイッチSWは、外部からその開閉を制御可能とする外部端子V1を有する。第2実施形態のカスコードトランジスタは、キャパシタCaddVが電圧可変型容量で、容量を制御するための制御端子V2を有する点が、第1実施形態のカスコードトランジスタのキャパシタCaddと異なる。電圧可変型容量としては、バリキャップ(variable capacitance diode)等の端子に加える電圧によって静電容量が変化する素子を用いる。
【0069】
本実施形態のカスコードトランジスタを用いると、上記で説明した第1の課題と第2の課題を同時に解決することが可能となる。
【0070】
例えば、ゲート信号がオフからオンへ遷移する際に、キャパシタCaddVの容量を例えば1nFにすることで、ドレイン電流Idsのスパイクが除去できる。よって、電流サージ(dV/dt)を制御でき、ゲート信号がオフからオンへ遷移する際のスイッチング損失をゼロにできる。
【0071】
また、ゲート信号がオンからオフへ遷移する際に、キャパシタCaddVの容量を例えば1nFから2nFにすることで、第2のスイッチング素子Tr2のソースS2と第1のスイッチング素子Tr1のドレインD1とが接続するノードmidの電圧Vmidを、第1のスイッチング素子Tr1のドレイン耐圧以下に抑え、第1のスイッチング素子Tr1の劣化や寿命の低下を防ぐことができる。
【0072】
図10は、開示の技術を適用した第3実施形態のカスコードトランジスタを示す図である。
図10において、
図5に示す第1実施形態のカスコードトランジスタと同一又は同等の構成要素には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0073】
本実施形態のカスコードトランジスタは、第2のスイッチング素子Tr2のソースS2と、第1のスイッチング素子Tr1のドレインD1とが接続するノードmidと、第1のスイッチング素子Tr1のソースS1との間に、スイッチSWとキャパシタCaddとを直列接続した回路が、複数個並列に接続されている。個々のスイッチSWは、外部からその開閉を制御可能とする外部端子を有する。
【0074】
例えば、キャパシタCadd1、キャパシタCadd2、キャパシタCadd3、キャパシタCaddnを0.5nF、1nF、2nF、4nFの様にそれぞれ異なる容量値のキャパシタを配置しておく。そして、スイッチSW1からSWnまでを個別にオン/オフすることによって、ノードmidに接続する容量値を、0.5nF単位で設定することが可能となる。
【0075】
例えば、ゲート信号がオフからオンへ遷移する際に、スイッチSW1のみオンして、ノードmidに接続されるキャパシタ容量を例えば0.5nFとしておくことで、ドレイン電流Idsのスパイクが除去できる。よって、電流サージ(dV/dt)を制御でき、ゲート信号がオフからオンへ遷移する際のスイッチング損失をゼロにできる。
【0076】
また、ゲート信号がオンからオフへ遷移する際に、スイッチSW1とスイッチSW2をオンして、キャパシタ容量を例えば1.5nFとしておくことで、第2のスイッチング素子Tr2のソースS2と第1のスイッチング素子Tr1のドレインD1とが接続するノードmidの電圧Vmidを、第1のスイッチング素子Tr1のドレイン耐圧以下に抑え、第1のスイッチング素子Tr1の劣化や寿命の低下を防ぐことができる。
【0077】
ノードmidに接続するキャパシタCaddの容量は、ゲート信号がオンになる寸前のドレイン電圧Vds波形に依存する。これはドレイン端子からみた容量とドレイン端子に接続されているブースト用インダクタとの共振によってVds波形が振動するが、キャパシタCaddを接続するとその振動周波数は変化する。ノードmidに接続する容量は、ゲート信号がオンになる寸前のVds波形の振動が最下点にくるように設定される。
【0078】
図11は、第3実施形態のカスコードトランジスタのスイッチSW1からSWnまでを個別にオン・オフする制御回路の具体例を示す。制御回路は、カスコードトランジスタのゲート信号と同期して、スイッチSW1〜SWnをオン・オフする。
【0079】
コンパレータの入力のオフセット電圧と、アナログ入力には、ノードmidに接続する容量を決定するための条件として、本カスコードトランジスタを用いる昇圧回路等の出力電圧、出力電流、入力電流、出力電圧、カスコードトランジスタのゲートやドレイン電圧波形のリンギングピーク電圧、ゲート信号等を入力する。この制御回路によって、本カスコードトランジスタを用いる昇圧回路等の動作に合わせて、カスコードトランジスタのノードmidに接続する容量を適宜調整することが可能となる。その結果、本カスコードトランジスタを用いる昇圧回路等の信頼性を向上させ、スイッチング損失を減らす効果がある。
【0080】
図12は、キャパシタCadd及びスイッチSWを、第1のスイッチング素子Tr1あるいは第2のスイッチング素子Tr2と同一のプロセス過程で製造した半導体チップの断面図である。
図12の例は、GaN−HEMTである第2のスイッチング素子Tr2と、キャパシタCadd及びスイッチSWを1つの半導体チップとしている。
【0081】
図13は、
図5に示すカスコードトランジスタ回路のデバイスを1つのパッケージに収納した電子部品の構造の一例を示す。
【0082】
第2のスイッチング素子Tr2、キャパシタCadd、スイッチSW及び誘電体基板は、接地金属板上に固定されている。誘電体基板上には第1のスイッチング素子Tr1が実装され、誘電体基板は第1のスイッチング素子Tr1背面のドレイン端子(図示無し)と電気的に接続されるので、実質、誘電体基板は第1のスイッチング素子Tr1のドレイン電極D1となる。
【0083】
第1のスイッチング素子Tr1の上面はソース端子S1となっていて、複数のワイヤで接地金属板と接続される。
【0084】
第2のスイッチング素子Tr2上面のソース端子S2と誘電体基板とは、複数のワイヤで接続される。第2のスイッチング素子Tr2上面のゲート端子G2と接地金属板とは、ワイヤで接続される。
【0085】
キャパシタCadd背面の下部電極は、接地金属板と電気的に接続される。キャパシタCadd上面の上部電極は、スイッチSW上面の一方の端子とは、ワイヤで接続され、スイッチSW上面の他方の端子と第1のスイッチング素子Tr1のドレイン電極D1である誘電体基板とは、ワイヤで接続される。
【0086】
接地金属板の淵には、入力端子、出力端子及びスイッチSWを制御するための外部端子V1用のV1端子が形成されたフレームが実装されている。フレームの入力端子と、第1のスイッチング素子Tr1上面のゲート端子G1とは、複数のワイヤで接続される。フレームの出力端子と、第2のスイッチング素子Tr2上面のドレイン端子D2とは、複数のワイヤで接続される。フレームのV1端子と、スイッチSW上面の外部端子V1とは、ワイヤで接続される。
【0087】
さらに、ワイヤ、デバイスは、樹脂等で封止される。
【0088】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。