特許第6237065号(P6237065)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイシン精機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6237065-エンジン制御装置 図000002
  • 特許6237065-エンジン制御装置 図000003
  • 特許6237065-エンジン制御装置 図000004
  • 特許6237065-エンジン制御装置 図000005
  • 特許6237065-エンジン制御装置 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237065
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/00 20060101AFI20171120BHJP
   F16D 25/12 20060101ALI20171120BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   F02D29/00 G
   F16D25/12 D
   F02D29/00 F
   F02D45/00 312A
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-204845(P2013-204845)
(22)【出願日】2013年9月30日
(65)【公開番号】特開2015-68299(P2015-68299A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】田丸 大輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良英
(72)【発明者】
【氏名】山口 展生
【審査官】 山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−316432(JP,A)
【文献】 特開2012−087714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/00 − 29/06
41/00 − 45/00
F16D 25/00 − 39/00
48/00 − 48/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチ伝達トルクを変化させる可動部の変位に対応したパラメータを取得する取得部と、
前記取得されたパラメータに対応した目標エンジントルクとなるよう、エンジンを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
クラッチ伝達トルクが増加している状態での前記パラメータに対応した前記目標エンジントルクが、クラッチ伝達トルクが減少している状態での当該パラメータに対応した前記目標エンジントルクより大きくなるよう、エンジンを制御し、
前記パラメータとクラッチで伝達可能なトルクとの対応関係に基づいて、前記パラメータの単位時間あたりの変化量と係数とを乗算した値と当該パラメータとを加算した当該パラメータの第一の補正値、に対応した、クラッチで伝達可能なトルクの第二の補正値を取得し、当該第二の補正値に応じて前記目標エンジントルクを変化させる、エンジン制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、クラッチ伝達トルクが増加する方向への前記パラメータの単位時間あたりの変化量が大きいほど、前記目標エンジントルクが大きく、クラッチ伝達トルクが減少する方向への前記パラメータの単位時間あたりの変化量が大きいほど、前記目標エンジントルクが小さくなるよう、エンジンを制御する、請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記係数は変更可能である、請求項1または2に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第二の補正値の単位時間あたりの変化量が閾値を超えないように前記第二の補正値を変更する、請求項1〜3のうちいずれか一つに記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記可動部が動く範囲には、当該可動部の変位に対応してクラッチで伝達可能なトルクが変化する伝達範囲と、当該可動部の変位によらずクラッチで伝達可能なトルクが0である非伝達範囲と、が含まれ、
前記制御部は、前記可動部が前記伝達範囲にある状態で、前記第二の補正値の単位時間あたりの変化量が閾値を超えないように前記第二の補正値を変更する、請求項に記載のエンジン制御装置。
【請求項6】
前記可動部が動く範囲には、当該可動部の変位の変化に対応してクラッチで伝達可能なトルクが変化する伝達範囲と、当該可動部の変位の変化によらずクラッチで伝達可能なトルクが0である非伝達範囲と、が含まれ、
前記制御部は、前記可動部が前記非伝達範囲にある状態で当該可動部の変位が前記伝達範囲に近付くにつれて前記目標エンジントルクが増加するようエンジンを制御する、請求項1〜のうちいずれか一つに記載のエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチでのトルクの伝達状態に応じてエンジンを制御するエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン(内燃機関)のトルクがクラッチを介してトランスミッションに伝達されるよう構成された車両が知られている。その一例として、変速操作(クラッチの断接、ギヤシフト、セレクト)を自動的に行う自動変速装置(AMT,Automated Manual Transmission)を搭載した車両で、制御装置が、クラッチを制御することにより、クラッチ伝達トルク(ここでは、エンジンからクラッチを介してその後段としてのトランスミッションに伝達されるトルク)を制御する場合がある。この場合、制御装置は、クラッチの断接機構(可動部)の制御量(変位、操作量)とクラッチ伝達トルクとの相関関係を示すマップ(テーブル)から、制御量に応じたクラッチ伝達トルクを取得して、クラッチの制御に利用する(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4715132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、クラッチ伝達トルクを利用する従来に無い新規な応用例としての、クラッチの断接機構(可動部)の制御量(変位、操作量)に応じたエンジンのトルクの制御において、制御要求に対するエンジンのトルク応答の遅れが原因で、エンジンを所望の状態に制御し難くなる場合があることを見出した。すなわち、クラッチの制御量に応じてエンジンを制御する場合に、エンジンの応答遅れを補償することができれば、好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態のエンジン制御装置は、クラッチで伝達されるクラッチ伝達トルクを変化させる可動部の変位に対応したパラメータを取得する取得部と、上記取得されたパラメータに対応した目標エンジントルクとなるよう、エンジンを制御する制御部と、を備え、上記制御部は、クラッチ伝達トルクが増加している状態での上記パラメータに対応した上記目標エンジントルクが、クラッチ伝達トルクが減少している状態での当該パラメータに対応した上記目標エンジントルクより大きくなるよう、エンジンを制御し、上記パラメータとクラッチで伝達可能なトルクとの対応関係に基づいて、上記パラメータの単位時間あたりの変化量と係数とを乗算した値と当該パラメータとを加算した当該パラメータの第一の補正値、に対応した、クラッチで伝達可能なトルクの第二の補正値を取得し、当該第二の補正値に応じて上記目標エンジントルクを変化させる。よって、上記エンジン制御装置によれば、クラッチ伝達トルクが増加している状態では、エンジンのトルクがより早く増大しやすく、クラッチ伝達トルクが減少している状態では、エンジンのトルクがより早く減少しやすい。すなわち、クラッチ伝達トルクの大きさを変化させるパラメータに応じてエンジンを制御する場合に、エンジンの応答遅れが補償されやすい。また、上記エンジン制御装置によれば、エンジンを、現時点より後(未来)の時点での可動部の変位に対応したトルクに制御しやすい。
【0006】
また、上記エンジン制御装置では、上記制御部は、クラッチ伝達トルクが増加する方向への上記パラメータの単位時間あたりの変化量が大きいほど、上記目標エンジントルクが大きく、クラッチ伝達トルクが減少する方向への上記パラメータの単位時間あたりの変化量が大きいほど、上記目標エンジントルクが小さくなるよう、エンジンを制御する。よって、上記エンジン制御装置によれば、エンジンのトルクが無駄に増加したり減少したりするのが抑制されやすい。
【0008】
また、上記エンジン制御装置では、上記係数は変更可能である。よって、上記エンジン制御装置によれば、各部の状態に応じて係数を変更することで、現時点より後(未来)の時点でのパラメータに対応したトルクにより精度良く制御しやすい。
【0009】
また、上記エンジン制御装置では、上記制御部は、上記第二の補正値の単位時間あたりの変化量が閾値を超えないように上記第二の補正値を変更する。よって、上記エンジン制御装置によれば、エンジンのトルクが無駄に増加したり減少したりするのが抑制されやすい。
【0010】
また、上記エンジン制御装置では、上記可動部が動く範囲には、当該可動部の変位に対応してクラッチで伝達可能なトルクが変化する伝達範囲と、当該可動部の変位によらずクラッチで伝達可能なトルクが0である非伝達範囲と、が含まれ、上記制御部は、上記可動部が上記伝達範囲にある状態で、上記第二の補正値の単位時間あたりの変化量が閾値を超えないように上記第二の補正値を変更する。よって、上記エンジン制御装置によれば、車両の走行に影響の無い非伝達範囲では、エンジンのトルクが、より早く変化しやすい。
【0011】
また、上記エンジン制御装置では、上記可動部が動く範囲には、当該可動部の変位の変化に対応してクラッチで伝達可能なトルクが変化する伝達範囲と、当該可動部の変位の変化によらずクラッチで伝達可能なトルクが0である非伝達範囲と、が含まれ、上記制御部は、上記可動部が上記非伝達範囲にある状態で当該可動部の変位が上記伝達範囲に近付くにつれて上記目標エンジントルクを増加する。よって、上記エンジン制御装置によれば、非伝達範囲からエンジンのトルクが増加するため、エンジンのトルクがより早く増加しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態のエンジン制御装置を含む車両の構成の一例が示された概略図である。
図2図2は、実施形態のエンジン制御装置における可動部の変位とクラッチ伝達トルクとの関係の一例が示されたグラフである。
図3図3は、実施形態のエンジン制御装置による制御の手順の一例が示されたフローチャートである。
図4図4は、実施形態のエンジン制御装置の一例が示された機能ブロック図である。
図5図5は、実施形態のエンジン制御装置による制御が実施された場合におけるパラメータの経時変化の一例が示されたタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、あくまで一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能であるとともに、基本的な構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)を得ることが可能である。
【0014】
本実施形態では、図1に例示されるように、車両1(例えば、四輪の自動車)は、駆動源としてエンジン2を備える。車両1では、エンジン2のトルク(回転)は、シャフト31や、クラッチ4、シャフト32、トランスミッション5、シャフト33、デファレンシャルギヤ6、シャフト34等を介して、車輪7に伝達される。なお、本実施形態では、車両1は、後輪駆動車として構成されているが、車両1は、前輪駆動車あるいは四輪駆動車(全輪駆動車)としても構成されうる。また、エンジン制御システム100は、制御装置10(エンジン制御装置)や、センサ23,25,48,49,52〜54、アクチュエータ45等を有する。また、車両1は、駆動源としてモータジェネレータ(図示されず)を備えてもよい。
【0015】
エンジン2(内燃機関)は、ガソリンや、軽油、アルコール、水素等の燃料を用いる内燃機関であり、例えば、ポート噴射式や、筒内噴射式(直噴式)等のエンジンである。エンジン2は、制御装置10によって制御される。制御装置10は、例えば、エンジン2のスロットルバルブ21の開度や、燃料噴射弁22の噴射量等を制御することにより、エンジン2のトルク(エンジントルク)や回転速度(回転数)等を制御することができる。また、エンジン2の出力側のシャフト31に対応して、当該シャフト31の回転速度を検出するためのセンサ23が設けられている。制御装置10は、センサ23から得た信号により、エンジン2の回転速度(回転数、出力回転速度、出力回転数)を得ることができる。なお、エンジン2の回転速度は、他の部分(シャフト等)の回転速度からも得られる。また、制御装置10は、センサ23から、回転速度を示すデータを得てもよい。
【0016】
また、制御装置10は、エンジン2のトルク、回転速度等を、操作部24(例えば、アクセルペダル)の可動部材24a(例えば、アーム)の変位(位置、ストローク、操作量)に応じて変化させる。可動部材24aに対応して、当該可動部材24aの変位を検出するためのセンサ25が設けられている。制御装置10は、当該可動部材24aの変位をセンサ25の信号から得る。また、制御装置10は、センサ25から、可動部材24aの変位を示すデータを得てもよい。
【0017】
制御装置10は、例えばECU(Electronic Control Unit)として構成される。ECUは、例えば、MCU(Micro Control Unit)や、電源回路、ドライバ(コントローラ)、入出力変換回路、入出力保護回路等(いずれも図示されず)を有する。ECUは、回路基板に実装された電子部品(図示されず)で構成される。回路基板は、ケース(図示されず)に収容される。MCUは、CPU(Central Processing Unit)や、主記憶装置(メモリ)、補助記憶装置、インタフェース(入出力装置)、通信装置、バス等(いずれも図示されず)を有する。主記憶装置は、例えば、ROM(Read Only Memory)や、RAM(Random Access Memory)等である。補助記憶装置は、例えば、フラッシュメモリ等である。また、制御装置10は、統合ECUとして構成されうるし、あるいは、エンジン2用のECUであるエンジンECUや、トランスミッション5のECUであるトランスミッションECU等を有することができる。MCUにおいて、CPUは、主記憶装置等にインストールされたプログラムにしたがって演算処理を実行し、エンジン2等の各部を制御することができる。
【0018】
クラッチ4は、例えば、乾式単板クラッチである。クラッチ4は、シャフト31からシャフト32にトルク(回転)が伝達される接続状態(伝達状態)、シャフト31からシャフト32にトルクが伝達されない遮断状態(非伝達状態)、およびシャフト31とシャフト32とが互いに滑る半クラッチ状態のうちいずれかの状態にある。クラッチ4は、回転部材41(例えば、フライホイール、プレッシャプレート等)と、回転部材42(例えば、クラッチディスク)とを有する。回転部材41は、入力側のシャフト31と一体で回転し、回転部材42は、出力側のシャフト32と一体で回転する。回転部材41,42の間には、摩擦部材43が介在している。クラッチ4では、これら回転部材41,42(例えば、回転部材41と摩擦部材43)の滑り状態が変化することにより、シャフト31からシャフト32へのトルク(回転)の伝達状態(伝達率、伝達度)が変化する。可動部材44は、一方の回転部材(本実施形態では、回転部材42)の他方の回転部材(本実施形態では、回転部材41)に対する位置(軸方向の相対的な位置、距離、近接状態、離間状態)を変化させる。可動部材44は、部材44a(例えば、レリーズベアリング)と部材44b(例えば、ダイヤフラムスプリング)とを有する。アクチュエータ45(例えば、ピストン機構や、リニアアクチュエータ、モータ、移動機構、駆動機構)が、可動部材44を動かすことで、回転部材42の回転部材41に対する相対位置が変化する。
【0019】
また、アクチュエータ45によって動かされる可動部材44の変位(位置、ストローク、操作量)は、操作部46(例えば、クラッチペダル)の可動部材46a(例えば、アーム)の変位(位置、ストローク、操作量)に応じて変化する。アクチュエータ45は、油圧式の場合には、油圧機構47を介して動かされる。油圧機構47は、マスタシリンダ47aと、スレーブシリンダ47bと、配管47cと、を有する。マスタシリンダ47aのピストン(図示されず)が可動部材46aによって押されて生じた油圧が、配管47c内の油路を介してスレーブシリンダ47bのピストン(図示されず)に伝達され、スレーブシリンダ47bのピストンが可動部材44を動かす。この構成では、スレーブシリンダ47bは、アクチュエータ45の少なくとも一部である。また、アクチュエータ45は、電気的なアクチュエータ(例えば、リニアアクチュエータや、モータ等、図示されず)として構成されうる。この場合、制御装置10がアクチュエータ45を制御することにより、可動部材44が動き、これにより、クラッチ4の接続状態が変化する。また、センサ48は、可動部材46aの変位(位置)を検出する。すなわち、制御装置10は、当該センサ48から得た信号またはデータにより、可動部材46aの変位を得ることができる。また、センサ49は、スレーブシリンダ47b内の可動部の変位を検出する。スレーブシリンダ47bの可動部の変位は、可動部材44の変位と対応している。すなわち、制御装置10は、センサ49から得た信号またはデータにより、可動部材44の変位を得ることができる。また、可動部材44を動かすアクチュエータ45の制御量は、可動部材44の変位に対応している。よって、制御装置10は、アクチュエータ45を制御してクラッチ4を動かす場合、当該アクチュエータ45の制御量から、可動部の変位を得ることができる。本実施形態では、可動部材44や、可動部材46a等が、可動部の一例である。なお、クラッチ4は、本実施形態では、乾式単板クラッチであるが、摩擦式の他の形式のクラッチ(例えば、湿式多板クラッチ)としても構成されうる。
【0020】
トランスミッション5(変速装置)は、本実施形態では、ドライバの手動操作によって変速するマニュアルトランスミッションとして構成されている。トランスミッション5は、有段の変速装置であり、各段(変速段)に対応したギヤ対を有する。ギヤ対のそれぞれは、シャフト32と一体で回転可能な主動ギヤと、シャフト33と一体で回転可能な従動ギヤと、を有し、当該ギヤ対のギヤ比(変速比)は互いに異なる。トランスミッション5では、シフトレバー51の動作(変位、位置)に応じて、複数のギヤ対のうち一つが選択的に有効となる状態、すなわち、当該選択されたギヤ対の主動ギヤがシャフト32と一体で回転するとともに当該主動ギヤと噛み合う従動ギヤがシャフト33と一体で回転する状態が得られ、シャフト32の回転速度が当該選択されたギヤ対のギヤ比に応じた回転速度に変化(増加または減少)する。すなわち、トランスミッション5の出力側のシャフト33の回転速度は、当該トランスミッション5の入力側のシャフト32の回転速度と、選択されたギヤ対(のギヤ比)とに応じて定まる。また、トランスミッション5の入力側(クラッチ4の出力側)のシャフト32、ならびにトランスミッション5の出力側のシャフト33のそれぞれに対応して、それらシャフト32,33の回転速度(回転数)を検出するためのセンサ52,53が設けられている。制御装置10は、センサ52,53から得た信号により、シャフト32,33の回転速度(回転数)を得ることができる。また、制御装置10は、センサ52,53から、回転速度を示すデータを得てもよい。
【0021】
制御装置10は、トランスミッション5に設けられたセンサ54(例えば、シフトセンサ)から得た信号により、トランスミッション5で選択されているあるいは選択されようとしているギヤ対(ギヤ段)の他、変速操作の開始や変速操作の終了等を得ることができる。また、制御装置10は、センサ54から、ギヤ段や、変速操作の開始、変速操作の終了を示すデータを得てもよい。
【0022】
また、本実施形態では、一例として、制御装置10は、変速操作中には、操作部24の可動部材24aの変位xa(位置、ストローク、操作量、図5参照)によらず、エンジン2のトルクが目標エンジントルクとなるよう、エンジン2を制御する。目標エンジントルクTeは、例えば、クラッチ4で伝達可能なトルクTc(x)、エンジン2の回転を維持するトルクTk、エンジン2の回転速度を調整するトルクTaの和であり、次の式(1)で表すことができる。
Te=Tc(x)+Tk+Ta ・・・ (1)
トルクTc(x)は、変位xに応じて変化する。変位xは、トルクTc(x)を変化させるパラメータであって、可動部の変位に対応して変化するパラメータの一例(トルクTc(x)を変化させるパラメータ、この場合は、可動部の変位そのもの)である。なお、トルクTc(x)は、変位x以外のパラメータ(制御量、操作量、ストローク等)に対応して変化するようにも、設定されうる。なお、以下では、クラッチ4で伝達可能なトルクTc(x)は、単にTcと記される場合もある。
【0023】
クラッチ4で伝達可能なトルクTc(x)は、クラッチ4でのトルクの伝達状態を変化させる可動部の変位x(変位、位置、角度、ストローク)に関連付けられたクラッチ伝達トルクの値(推定値、設定値)である。クラッチ伝達トルクは、クラッチ4で伝達されるトルクであり、エンジン2からクラッチ4を介して当該クラッチ4の後段(出力側、車輪7側、エンジン2とは反対側、例えば、トランスミッション5の入力軸等)に伝達されるトルクである。また、トルクTc(x)は、例えば、変位xに対応したマップ(テーブル)として与えられる。可動部は、例えば、操作部46(クラッチペダル)の可動部材46aや、クラッチ4の互いに対向する二つのトルク伝達部材のうち一方を他方に近付けたり遠ざけたりしてトルクの伝達状態(摺動状態)を変化させる可動部材44(コンセントリックスレーブシリンダ)等である。可動部の変位xに対応したトルクTc(x)は、当該可動部の変位xが変化していない(一定の)状態での値と言うことができる。図2には、変位xとトルクTc(x)との相関関係の一例が示されている。図2から明らかとなるように、可動部が一方(図2では右側)に移動するにつれて、トルクTc(x)は増加し、可動部が他方(図2では左側)に移動するにつれて、トルクTc(x)は減少する。本実施形態では、一例として、可動部が可動部材46a(フットペダル)である場合において、当該可動部材46aがそれ以上踏み込めない位置(他方側の位置)で、変位xが0(x=0)と定義されている。操作者が可動部材46aの踏み込みを緩めて可動部材46aが一方側(図2では右側)に移動すると、クラッチ4の二つのトルク伝達部材が摺動を開始してトルクTc(x)が増加して0以上となり、さらに、操作者が可動部材46aの踏み込みを緩めて変位xが増加し可動部材46aが一方側に移動するにつれてトルクTc(x)が増加する。また、図2に示されるように、可動部材46a(可動部)が動く範囲には、可動部材46aの変位x(位置の変化)によらずクラッチ4で伝達可能なトルクTc(x)が0である非伝達範囲Rnと、可動部材46aの変位xに対応してクラッチ4で伝達可能なトルクTc(x)が変化する伝達範囲Rtとがある。なお、可動部が可動部材44の部材44a(例えば、レリーズベアリング)等、他の部材であった場合も、図2と同様の特性が得られる。
【0024】
クラッチ4で伝達可能なクラッチ伝達トルクTc(x)を示すデータ(特性量、特徴量、係数、値等)は、可動部の変位x(位置)と対応付けて、不揮発性の書き換え可能な記憶部12(例えば、補助記憶装置等)に記憶される。これにより、経時変化やばらつきを補償することができる。記憶部12は、新車時のような車両使用初期においては、実験結果や、計算結果、シミュレーション結果等に基づく初期値を、可動部の変位xならびに当該変位xに対応したトルクTc(x)の値として記憶する。そして、制御装置10は、車両1の走行中や停車中等に、センサ48やセンサ49等の検出結果やアクチュエータ45の制御量等から得られた可動部の変位xや、センサ23やセンサ25等の検出結果等から得られたエンジン2のトルクTer等に基づいて、トルクTc(x)を算出し、記憶部12が記憶するトルクTc(x)の値を更新する。すなわち、制御装置10は、可動部の変位xならびにトルクTc(x)の学習処理を行い、その学習結果としての可動部の変位xならびにトルクTc(x)の更新値(学習値)を記憶部12に書き込む。この際、制御装置10は、記憶部12に、例えば、古いデータを消去して新しいデータを更新値(学習値)として記憶させることができるし、あるいは、古いデータと新しいデータとを用いた相加平均や、加重相加平均、移動平均等の値を、更新値(学習値)として記憶させることができる。記憶部12は、複数の可動部の変位xと、各可動部の変位xに対応したトルクTc(x)の値と、を互いに対応付けて記憶する。制御装置10は、記憶部12が記憶していない可動部の変位xでのトルクTc(x)を、記憶部12が記憶する可動部の変位xでのトルクTc(x)の値から、内挿等で算出する。なお、クラッチ4で伝達可能なトルクTc(x)の値は、二つの回転部材41,42の相対的な位置によって定まる。クラッチ4の接続状態(完全接続状態)におけるクラッチ4で伝達可能なトルクTc(x)の最大値は、エンジン2のトルクTerより大きい。実際のクラッチ伝達トルクTcrは、エンジン2のトルクTer以下である。よって、クラッチ伝達トルクTcrの最大値は、クラッチ4の接続状態におけるエンジン2のトルクTerと同じであり、クラッチ4で伝達可能なトルクTc(x)の最大値より小さい。
【0025】
エンジン2の回転を維持するトルクTkは、例えば、エンジン2のフリクショントルクや、補機類(例えば、エアコンのコンプレッサ等)の駆動に必要なトルク(負荷トルク)、マージン等を含む。
【0026】
また、エンジン2の回転速度を調整するトルクTaは、エンジン2の回転速度Nrを、目標回転速度Naに調整するために必要なトルクである。目標回転速度Naは、ダウンシフト時には、例えば、エンジン2の回転速度Nr(シャフト31の回転速度)が低いことによって車両1の減速や変速ショックが生じるのを抑制できるよう、設定される。また、目標回転速度Naは、アップシフト時には、例えば、エンジン2の回転速度Nr(シャフト31の回転速度)とシャフト32の回転速度Nsとの差が大きいことによって変速ショックが生じるのを抑制できるとともに、クラッチ4が接続状態から遮断状態に移行した際にエンジン2の回転速度Nrの上昇による騒音の増大を抑制できるよう、設定される。
【0027】
本実施形態によれば、制御装置10によるこのようなエンジン2のトルクや回転数の制御により、一例としては、エンジン2の無駄な回転や、回転速度の急変等が低減されやすく、ひいては、燃料消費率(車両1の単位走行距離あたりの燃料の消費量)の低下や、騒音の軽減、変速ショックの軽減等の利点が得られやすい。
【0028】
発明者らは、上述した変速時のエンジン2の制御について鋭意研究を重ねた結果、上記式(1)のような、クラッチ4で伝達されるトルクTc(x)に応じて増減する目標エンジントルクTeとなるようエンジン2を制御した場合、クラッチ4で伝達されるトルクTc(x)の制御応答性よりもエンジン2の制御応答性が低いことにより、エンジン2を制御し難くなる場合があることを見出した。エンジン2では、例えば、目標エンジントルクTeを40[Nm]に設定しても、その瞬間に実際のエンジントルクTerが40[Nm]になるわけではなく、0.2〜0.5秒の遅れをもって、40[Nm]になる。そこで、本実施形態では、一例として、制御装置10は、エンジン2の実際のトルクTerをより迅速に変化させるため、クラッチ4で伝達可能なトルクTc(x)の補正されたトルクTcmを用いて、エンジン2を、上記式(1)の目標エンジントルクTeに替えて、次の式(2)の目標エンジントルクTemとなるように制御する。
Tem=Tcm+Tk+Ta ・・・ (2)
ここで、補正されたトルクTcmは、補正された変位xmを用いた次の式(3)で表せる。
Tcm=Tc(xm) ・・・ (3)
ここで、Tc(x)とTc(xm)とは、算出に用いる変位の値が異なるものの(すなわち、x≠xm)、同じ関数、数式、手順で算出することができる。
補正された変位xmは、調整係数k(第二の係数)、遅れ係数α(第一の係数)、ならびに現在の(演算時点での)変位xの時間微分dx/dtを用いた次の式(4)で表せる。
xm =x+k・α・dx/dt ・・・ (4)
ここで、変位xの時間微分dx/dtは、例えば、現タイムステップでの変位xと前のタイムステップでの変位xとの差を、タイムステップ間の時間間隔で除した(割り算した)値として、得ることができる。また、遅れ係数αは、エンジン2の制御指令に対する応答遅れ相当の時間の値である。また、調整係数kは、例えば、クラッチ4の経時変化や、状態変化、個体差等に応じて、可変設定されうるし、変更(学習)されうる。補正された変位xmは、エンジン2の制御応答遅れ相当時間を補償した未来の変位xの予測値である、ということができる。また、例えば、エンジン2の回転数の増加および減少によりエンジン2の応答遅れが異なる場合には、調整係数kによってそれらの差異を補償することができる。なお、本実施形態では、調整係数kと遅れ係数αとの積(k・α)が、係数の一例である。
【0029】
本実施形態では、補正された変位xmの値が、現時点(演算時点)から遅れ係数αに相当する時間が経過した時点(現時点より後の時点、未来)での変位xに近い値となるよう、遅れ係数αや調整係数kが設定される。よって、本実施形態によれば、制御装置10が式(2)の目標エンジントルクTemを用いたエンジン2の制御を行った場合における現時点から遅れ係数αに相当する時間が経過した時点でのエンジン2の実際のトルクTerは、制御装置10が式(1)の目標エンジントルクTeを用いたエンジン2の制御を行った場合における現時点から遅れ係数αに相当する時間が経過した時点でのエンジン2の実際のトルクTerに比べて、より好適である。すなわち、式(2)によるエンジン2のトルクの制御は、エンジン2の応答遅れをより好適に補償した制御であると言うことができる。
【0030】
ここで、変速時における処理部11(制御装置10)による上記式(2)〜(4)を用いた演算処理ならびにエンジン2の制御の手順の一例が、図3図4が参照されて説明される。図4に示されるように、制御装置10は、処理部11(例えば、CPU)と、記憶部12(例えば、補助記憶装置)とを有する。処理部11は、ハードウエアとソフトウエア(プログラム)との協働により、図4に示されるような、第一の取得部11aや、第二の取得部11b、第三の取得部11c、第四の取得部11d、第五の取得部11e、第六の取得部11f、第一の算出部11g、第二の算出部11h、比較部11i、第三の算出部11j、エンジン制御部11k等として機能(動作)することができる。すなわち、プログラムには、一例としては、図4に示される処理部11の各ブロックに対応したモジュールが含まれる。第一の取得部11aは、エンジン2の回転速度Nrを取得する。第二の取得部11bは、シャフト32の回転速度Nsを取得する。第三の取得部11cは、シャフト33の回転速度を取得する。第四の取得部11dは、可動部の変位xを取得する。第五の取得部11eは、可動部材24aの変位を取得する。また、第六の取得部11fは、センサ54からの信号を取得する。なお、図4に示される構成例は、あくまで一例であるとともに、制御装置10の一部である。また、第四の取得部11dは、取得部の一例である。
【0031】
まず、処理部11は、第四の取得部11dとして機能し、現時点での変位xを得る(S10)。次に、処理部11は、第一の算出部11gとして機能し、式(2)〜(4)により、目標エンジントルクTemを得る(S11)。S11に関し、記憶部12は、調整係数kを変更可能とするデータ(テーブル、マップ、所定の物理量(パラメータ)に対応した調整係数kの値)を記憶している。すなわち、処理部11は、記憶部12を参照して、現時点(演算時点)でのエンジン2やクラッチ4の状態等に応じた調整係数kを得ることができる。次に、処理部11は、第二の算出部11hとして機能し、補正された変位xmに対応したクラッチ4で伝達可能なトルクTc(xm)と変位xに対応したクラッチ4で伝達可能なトルクTc(x)とのトルク差ΔTc(x)を算出する(S12)。そして、処理部11は、比較部11iとして機能し、トルク差ΔTc(x)の絶対値|ΔTc(x)|と予め設定されている閾値Thとを比較する(S13)。ここで、現時点の変位xに対応したクラッチ4で伝達可能なトルクTc(x)が0以上であり、かつ当該トルク差ΔTc(x)の絶対値|ΔTc(x)|が予め設定されている閾値Thと同じかあるいは大きい場合には(S13でYes)、処理部11は、第三の算出部11jとして機能し、式(2)で、トルクTc(xm)を(トルクTc(x)±閾値Th)に変更して、目標エンジントルクTemを算出する(S14)。このS14では、処理部11は、トルクTc(x)が増大している状態では、トルクTc(xm)を(トルクTc(x)+閾値Th)に入れ替える一方、トルクTc(x)が減少している状態で、トルクTc(xm)を(トルクTc(x)−閾値Th)に入れ替える。なお、トルク差ΔTc(x)は、クラッチ4で伝達可能なトルクTc(x)の単位時間当たりの変化量に対応した値となる。また、処理部11は、S13でNoの場合には、トルクTc(xm)を変更しない。なお、S11ならびにS14で、第一の算出部11g(処理部11)は、記憶部12を参照して、エンジン2の回転を維持するトルクTk、ならびにエンジン2の回転速度Nrを調整するトルクTaを得る。記憶部12には、トルクTk,Taの値は、これらトルクTk,Taが変化するパラメータの値(例えば、エンジン2の回転速度Nr、シャフト32の回転速度Ns、油温、水温、エンジン2の履歴情報等)に対応付けて記憶されている。処理部11は、記憶部12が記憶していないパラメータの値に対応したトルクTk,Taを、記憶部12が記憶する可動部の変位xでのトルクTk,Taの値から、内挿等で算出する。次に、処理部11は、エンジン制御部11kとして機能し、目標エンジントルクTemとなるよう、エンジン2を制御する(S15)。
【0032】
上記式(2)〜(4)を用いた制御では、可動部の変位xの増加に対応して、実際のクラッチ伝達トルクTcrが増加している状態では、クラッチ4で伝達可能なトルクTc(x)(算出された値)も増加するため、補正されたトルクTcm(Tc(xm))は、トルクTc(x)より大きな値になる。よって、実際のクラッチ伝達トルクTcrが増加している状態では、式(2)の目標エンジントルクTemの値は、式(1)の目標エンジントルクTeの値より大きい。したがって、制御装置10は、式(1)で算出した目標エンジントルクTeとなるようにエンジン2を制御する場合に比べて、より迅速に、エンジン2のトルクTerが増加しやすい。なお、ある時点(時刻)での目標エンジントルクTemは、当該時点でのスロットル開度や、当該時点でのエンジン2の回転速度Nr、当該時点での燃料噴射量等の検出結果等に基づいて、算出することができる。
【0033】
また、上記式(2)〜(4)を用いた制御では、可動部の変位xの減少に対応して、実際にクラッチ伝達トルクTcrが減少している状態では、クラッチ4で伝達可能なトルクTc(x)(算出された値)も減少するため、補正されたトルクTcm(Tc(xm))は、トルクTc(x)より小さな値になる。よって、実際のクラッチ伝達トルクTcrが減少している状態では、式(2)の目標エンジントルクTemの値は、式(1)の目標エンジントルクTeの値より小さい。したがって、制御装置10は、式(1)で算出した目標エンジントルクTeとなるようにエンジン2を制御する場合に比べて、より迅速に、エンジン2のトルクTerが減少しやすい。
【0034】
すなわち、本実施形態では、一例として、制御装置10は、クラッチ伝達トルクTcrが増加している状態での可動部の変位x(位置)に対応した目標エンジントルクTemが、クラッチ伝達トルクTcrが減少している状態での当該変位xに対応した目標エンジントルクTemより大きくなるよう、エンジン2を制御する。よって、本実施形態によれば、一例としては、クラッチ伝達トルクTcrが増加している状態では、エンジン2のトルクTerがより迅速に増大しやすく、クラッチ伝達トルクTcrが減少している状態では、エンジン2のトルクTerがより迅速に減少しやすい。よって、本実施形態によれば、一例としては、クラッチ伝達トルクTcrの大きさを変化させる可動部の変位xに応じてエンジン2を制御する場合に、エンジン2の応答遅れによる不都合がより生じ難い。
【0035】
次に、図5が参照されて、本実施形態の制御装置10によるエンジン2の制御の一例が説明される。図5では、アップシフト時における各パラメータの経時変化(タイムチャート)が示されている。なお、図5の例では、操作部46(例えば、クラッチペダル)の可動部材46aが、可動部の一例である。また、図5に含まれる複数のグラフのそれぞれで、横軸は時間である。
【0036】
時刻T1で、ドライバ(オペレータ)は、変速にあたり、可動部材46aの操作を開始する。これにより、クラッチ4は、接続状態から遮断状態へ移行し始める。可動部材46aの変位xは減少し、これに伴って、単位時間あたりの可動部材46aの変位xの変化速度v(dx/dt)も減少する。
【0037】
時刻T1〜T2で、制御装置10は、式(2)〜(4)にしたがって、補正された変位xm、補正されたトルクTcm(Tc(xm))、ならびに目標エンジントルクTem(図示されず)を算出するとともに、当該目標エンジントルクTemとなるよう、エンジン2を制御する。変位xの減少に伴って、クラッチ4で伝達可能なトルクTc(Tc(x))、補正されたトルクTcm、目標エンジントルクTem、ならびにエンジン2の実際のトルクTerは、いずれも減少する。よって、本実施形態によれば、エンジン2のトルクTerをより迅速に減少することができる。また、上述したように、本実施形態によれば、エンジン2のトルクTerは、応答遅れを考慮した値となる。よって、本実施形態によれば、エンジン2の応答遅れによる不都合が生じ難い。
【0038】
時刻T2で、クラッチ4は遮断状態となり、クラッチ4で伝達可能なトルクTc、ならびに補正されたトルクTcmは0(ゼロ)となる。時刻T1〜T2で、エンジン2のトルクTerが減少し、エンジン2の回転速度Nrも減少しているため、クラッチ4が遮断状態となる際に、本実施形態の制御を採用しない場合のようにエンジン2の回転速度Nrが上昇するのが抑制される。すなわち、本実施形態によれば、無駄なエンジン2の回転速度Nrの上昇が抑制される。よって、一例としては、燃料消費率や騒音の増大が抑制される。
【0039】
時刻T2から時刻T3までの間に、ドライバは、異なるギヤ対を選択するためのシフトレバー51(例えば、シフトレバー)の移動を完了する。
【0040】
時刻T3で、ドライバは、変速後のクラッチ伝達トルクを復帰させる動作として、可動部材46aの操作を開始する。上述したように、可動部材46a(可動部)が動く範囲には、可動部材46aの変位x(位置)の変化によらずクラッチ4で伝達可能なトルクTcが0である非伝達範囲Rnがある。時刻T4までは、可動部材46aは、非伝達範囲Rnで移動する。すなわち、変位xならびに単位時間あたりの可動部材46aの変位xの変化速度v(dx/dt)が増加する。このため、時刻T3から時刻T4までの間では、クラッチ4で伝達可能なトルクTcは0(ゼロ)であるが、変位xの増大に伴って式(4)で得られる補正された変位xmが増大するため、補正されたトルクTcm(Tc(xm))は増大し、これに伴ってエンジン2のトルクTerも増大を開始する。よって、本実施形態によれば、クラッチ4が伝達状態となる前の遮断状態でも、エンジン2のトルクTerをより迅速に増大することにより、より好適な制御効果を得ることができる。
【0041】
時刻T4でクラッチ4で伝達可能なトルクTcが0を超えても、可動部材46aの変位xならびに変位xの変化速度vは引き続き増大する。ただし、上述したように、制御装置10は、クラッチ4で伝達可能なトルクTcが0(ゼロ)以上であり、かつトルク差ΔTc(x)の絶対値|ΔTc(x)|が閾値Thと同じかあるいは大きい場合には、トルクTc(xm)を(トルクTc(x)±閾値Th)に入れ替えて、目標エンジントルクTemを算出する(図3のS13およびS14参照)。よって、補正されたトルクTcmの増大する速度、ならびにエンジン2のトルクTerの増大する速度は、減少する(図5の補正されたトルクTcm1)。なお、時刻T4で、クラッチ4が遮断状態から接続状態に変化した際に、エンジン2のトルクが負のトルクであると、振動や加速度の変化等が生じる場合がある。この点、本実施形態によれば、エンジン2のトルクTerがより大きいため、振動や加速度の変化等がより小さくなりやすい。
【0042】
時刻T5から時刻T6までの間は、ドライバの可動部材46aの操作によって、クラッチ4は半クラッチ状態に維持される。この区間では、変位xの変化速度v(dx/dt)が小さいため、変位xと補正された変位xmとの差が小さくなるとともに、クラッチ4で伝達可能なトルクTcと補正されたトルクTcmとの差も小さくなる。
【0043】
時刻T6から時刻T7までの間に、ドライバは可動部材46aの操作を終了し、これにより、変位xは初期位置に向けて変化する。クラッチ4が伝達可能なトルクTc、ならびに補正値Tcmは、変位xの増大とともに増大するものの、エンジン2のトルクTerを超えた範囲であるため、エンジン2の制御とは関係無くなる。時刻T6以降は、車両1の駆動力は、エンジン2のトルクTerに応じて変化する。
【0044】
以上、説明されたように、本実施形態では、一例として、制御装置10は、クラッチ伝達トルクTcrが増加している状態での可動部材46a(可動部)の変位x(位置)に対応した目標エンジントルクTem(または補正されたトルクTcm)が、クラッチ伝達トルクTcrが減少している状態での当該変位xに対応した目標エンジントルクTem(または補正されたトルクTcm)より大きくなるよう、エンジン2を制御する。よって、本実施形態によれば、一例としては、クラッチ伝達トルクTcrが増加している状態では、エンジン2のトルクTerがより迅速に増大しやすく、クラッチ伝達トルクTcrが減少している状態では、エンジン2のトルクTerがより迅速に減少しやすい。よって、本実施形態によれば、一例としては、クラッチ伝達トルクTcrの大きさを変化させる可動部材46aの変位xに応じてエンジン2を制御する場合に、エンジン2の応答遅れをより好適に補償することができる。
【0045】
また、本実施形態では、一例として、式(2)〜(4)から明らかとなるように、制御装置10は、クラッチ4で伝達可能なトルクTcが増加する方向への可動部材46aの変位xの単位時間あたりの変化速度(v、dx/dt、変化量)が大きいほど、目標エンジントルクTemを大きく設定し、クラッチ4で伝達可能なトルクTcが減少する方向への可動部材46aの単位時間あたりの変位の変化量が大きいほど、上記目標エンジントルクTemを小さく設定する。よって、本実施形態によれば、一例としては、エンジン2のトルクTerが無駄に増加したり減少したりするのが抑制されやすい。
【0046】
また、本実施形態では、一例として、制御装置10は、可動部材46aの変位xとクラッチ4で伝達可能なトルクTc(x)との対応関係に基づいて、可動部材46aの変位xの単位時間あたりの変化速度(v、dx/dt、変化量)と係数(k・α)とを乗算した値と可動部材46aの変位xとを加算した可動部材46aの変位xの補正値xm(第一の補正値)、に対応した、クラッチ4で伝達可能なトルクTcの補正値Tcm(Tc(xm)、補正されたトルク、第二の補正値)を取得し、当該補正値Tcmに応じて目標エンジントルクTemを変化させる。よって、本実施形態によれば、一例としては、例えば、エンジン2を、現時点より後(未来)の時点での可動部材46aの変位xに対応したトルクTeに制御しやすい。
【0047】
また、本実施形態では、一例として、調整係数k(第二の係数)や遅れ係数α(第一の係数)は変更可能である。よって、本実施形態によれば、一例としては、各部の状態に応じて調整係数kや遅れ係数αを変更することで、現時点より後(未来)の時点での可動部材46aの変位xに対応したトルクTeにより精度良く制御しやすい。
【0048】
また、本実施形態では、一例として、制御装置10は、クラッチ4で伝達可能なトルクTcの補正値Tcm(補正されたトルク、第二の補正値)の単位時間あたりの変化量(本実施形態では、例えば、当該変化量に対応したトルク差ΔTc(x))が閾値(本実施形態では、例えば、閾値Th)を超えないように当該補正値Tcmを変更する。よって、本実施形態によれば、一例としては、エンジン2のトルクTerが無駄に増加したり減少したりするのが抑制されやすい。
【0049】
また、本実施形態では、一例として、制御装置10は、可動部材46aが伝達範囲Rtにある状態で、補正値Tcmの単位時間あたりの変化量(トルク差ΔTc(x))が閾値Thを超えないように補正値Tcmを変更する。よって、本実施形態によれば、一例としては、車両1の走行に影響の無い非伝達範囲Rnでは、エンジン2のトルクTerが制限を受けることなく、より早く変化しやすい。
【0050】
また、本実施形態では、一例として、制御装置10は、可動部材46aが非伝達範囲Rnにある状態で可動部材46aの変位xが伝達範囲Rtに近付くにつれて目標エンジントルクTeを増加する。よって、本実施形態によれば、一例としては、非伝達範囲Rnからエンジン2のトルクTerが増加するため、エンジン2のトルクTerがより早く増加しやすい。
【0051】
以上、本発明の実施形態を例示したが、上記実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。
【0052】
例示した実施形態にかかる構成は、上記のようなマニュアルトランスミッションの変速を電気信号に基づいてアクチュエータが行う自動変速式のマニュアルトランスミッション(AMT,automated manual transmission)にも適用することができる。その場合、制御部は、パラメータとして、可動部の変位に替えて、当該可動部の変位に対応した制御量(制御指令)に基づいて、各部の制御を実行することができる。また、可動部は、クラッチの回転部材の軸方向の変位(位置)に応じて移動する他の部材であってもよい。また、クラッチの状態変化(温度変化、経時変化等)に対応して係数が設定されることにより、上記エンジン制御がより好適に実行されうる。また、本発明は、例えば、マニュアルトランスミッションが搭載されクラッチを自動制御する車両にも搭載可能であるし、DCT(Double Clutch Transmission)や、CVT(Continuously Variable Transmission)等を搭載した車両等の他の車両にも適用可能である。また、本発明は、エンジン後段(車輪側)に、当該エンジンのトルクの伝達状態を切り替えるクラッチが設けられた車両に、適用可能である。また、本発明の制御は、変速時に限らず、クラッチ伝達トルクが変化する状態で適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
2…エンジン、4…クラッチ、10…制御装置(エンジン制御装置)、11d…第四の取得部(取得部)、46a…可動部材。
図1
図2
図3
図4
図5