【実施例】
【0011】
図1は、本発明の実施例に係るVCSELの典型的な構成を示す概略断面図である。本実施例に係るVCSEL10は、n型のGaAs基板100上に、高屈折率材料の半導体層と低屈折率材料の半導体層を交互に重ねたn型の下部分布ブラック型反射鏡(Distributed Bragg Reflector:以下、DBRという)102、下部DBR102上に形成された活性領域104、活性領域104上に形成された、高屈折率材料の半導体層と低屈折率材料の半導体層を交互に重ねたp型の上部DBR106が形成される。
【0012】
上部DBR106から半導体層をエッチングすることで、基板上にメサMが形成される。メサMは、例えば円柱状に形成される。メサMの頂部には、例えば、AuまたはAu/Tiなどから構成された環状のp側電極110が形成され、p側電極110は、上部DBR106に電気的に接続される。好ましくは上部DBR106は、最上層に不純物濃度が高いp型のGaAsコンタクト層106Cを含み、p側電極110とオーミック接続される。p側電極110の中央の円形状の開口は、光出射口110Aを規定する。図示する例では、光出射口110Aが露出されているが、光出射口110Aは、発振波長に対して透明な誘電体材料からなる保護膜によって覆われるようにしてもよい。
【0013】
メサMの底部、側部および頂部の周縁を覆うように層間絶縁膜112が形成される。層間絶縁膜112は、例えば、シリコン酸化物やシリコン窒化物等から構成される。メサ頂部の層間絶縁膜112には、p側電極110を露出するように円形状のコンタクトホールが形成され、図示しない配線電極が当該コンタクトホールを介してp側電極110に接続される。基板100の裏面にはn側電極120が形成される。
【0014】
上部DBR106は、その内部に電流狭窄層(酸化狭窄層)108を有し、電流狭窄層108を境界に、第1のDBR106Aと第2のDBR106Bとが隔てられる。すなわち、第1のDBR106Aは、活性領域104と電流狭窄層108との間に位置し、第2のDBR106Bは、電流狭窄層108とp側電極110との間に位置する。
【0015】
電流狭窄層108は、メサMの側面から選択的に酸化された酸化領域108Aと、当該酸化領域108Aによって囲まれた非酸化領域108Bとを有する。電流狭窄層108は、酸化可能なp型の半導体材料から構成され、酸化領域108Aは、電気的に高抵抗または絶縁領域であり、かつ相対的に低屈折率である。非酸化領域108Bは、低抵抗の導電領域であり、かつ相対的に高屈折率である。p側電極110から注入されたキャリアは、非酸化領域108B内で横方向に閉じ込められ、密度の高いキャリアが活性領域104へ注入される。また、活性領域104で発生されたレーザ光が非酸化領域108B内で横方向に閉じ込められる。非酸化領域(酸化アパーチャ)108Bの径を適宜選択することで、基本横モードまたは高次横モードの制御が可能である。このようなVCSEL10に順方向の駆動電流が印加されたとき、基板と垂直方向に光出射口110Aから、例えば780nmのレーザ光が出射される。
【0016】
次に、本実施例のVCSELの詳細な構成について説明する。
図2は、
図1のVCSELの下部DBR102、活性領域104および上部DBR106の構成を示す模式的な断面図である。
【0017】
下部DBR102は、例えば、Al
0.9Ga
0.1As層とAl
0.3Ga
0.7As層とのペアの複数層積層体であり、各層の厚さはλ/4n
r(但し、λは発振波長、n
rは媒質の屈折率)であり、これらを40ペアで積層している。n型不純物であるシリコンをドーピングした後のキャリア濃度は、例えば、3×10
18cm
-3である。
【0018】
活性領域104は、アンドープのAl
0.6Ga
0.4As層から成る下部スペーサ層104Aと、アンドープAl
0.11Ga
0.89As量子井戸層およびアンドープのAl
0.3Ga
0.7As障壁層からなる量子井戸活性層104Bと、アンドープのAl
0.6Ga
0.4As層から成る上部スペーサ層104Cとから構成される。
【0019】
上部スペーサ層104C上に、第1のDBR106Aが形成される。第1のDBR106Aは、例えば、Al
0.95Ga
0.05As層とAl
0.25Ga
0.75As層とのペアの複数層積層体であり、各層の厚さはλ/4n
rであり、これらを2ペアで積層している。p型不純物であるカーボンをドーピングした後のキャリア濃度は、例えば、6×10
17cm
-3である。
【0020】
第1のDBR106A上に、電流狭窄層108が形成される。電流狭窄層108は、上部DBR106の1つの低屈折率材料を置換し、好ましくはAlAsから構成される。但し、電流狭窄層108は、Al組成が著しく高いAlGaAs(例えば、Al
0.98Ga
0.02As)から構成されるようにしてもよい。
【0021】
電流狭窄層108上に、第2のDBR106Bが形成される。第2のDBR106Bは、例えば、Al
0.9Ga
0.1As層とAl
0.3Ga
0.7As層とのペアの複数層積層体であり、各層の厚さはλ/4n
rであり、これらを22ペアで積層している。p型不純物であるカーボンをドーピングした後のキャリア濃度は、例えば、3×10
18cm
-3である。
【0022】
第1のDBR106Aを構成する高屈折率材料
Al0.25Ga0.75Asの屈折率n
xaは、波長780nmでn
xa=3.60であり、低屈折率材料
Al0.95Ga0.05Asの屈折率n
yaは、波長780nmでn
ya=3.07である。一方、第2のDBR106Bを構成する高屈折率材料
Al0.3Ga0.7Asの屈折率n
xbは、波長780nmでn
xb=3.50であり、低屈折率材料
Al0.9Ga0.1Asの屈折率n
ybは、波長780nmでn
ya=3.10である。
【0023】
第1のDBR106Aの高屈折率材料と低屈折率材料の屈折率差na(na=n
xa−n
ya=3.60−3.07=0.53)は、第2のDBR106Bの高屈折率材料と低屈折率材料の屈折率差nb(na=n
xa−n
ya=3.50−3.10=0.40)よりも大きい。屈折率差naの大きいペアで構成された第1のDBR106Aを電流狭窄層108と活性領域104の間に設けたことにより、定在波光強度が低減されて光閉じ込めが弱くなり、シングルモードに必要な酸化アパーチャ径(電流狭窄層の導電領域108Bの径)を、従来の例えば3μmよりも広げることができる。その結果、シングルモード高出力化が可能になり、電流狭窄層108での素子発熱が低減して寿命改善につながる。
【0024】
さらに、電流狭窄層108は、酸化されることによって体積が収縮するが、電流狭窄層108と活性領域104との間には第1のDBR106Aが存在するため、電流狭窄層108によるストレスが活性領域104へ与える影響を抑制することができ、素子の信頼性の向上を図ることができる。
【0025】
次に、本実施例の好ましい態様について説明する。第1のDBR106Aの高屈折率材料がAl
xaGa
1−xaAs、低屈折率材料がAl
yaGa
1−yaAsから構成され(xa<ya)、発振波長λに対する高屈折率材料の屈折率をn
xa、低屈折率材料の屈折率をn
yaとする。また、第2のDBR106Bの高屈折率材料がAl
xbGa
1−xbAs、低屈折率材料がAl
ybGa
1−ybAsから構成され(xb<yb)、発振波長λに対する高屈折率材料の屈折率をn
xb、低屈折率材料の屈折率n
ybとする。このとき、第1のDBR106Aの高屈折率材料の好ましい条件は、次のようになる。
【0026】
(a)第1のDBR106Aの高屈折率材料の屈折率n
xaは、第2のDBR106Bの高屈折率材料の屈折率n
xbよりも大きい(n
xa>n
xb)。すなわち、第1のDBR106Aの高屈折率材料のAl組成xaは、第2のDBR106Bの高屈折率材料のAl組成xbよりも小さい(xa<xb)。
(b)第1のDBR106Aの高屈折率材料は、発振波長λに対して光吸収が少ない材料、望ましくは光吸収がない材料から構成される。
図3は、波長780nmに対するAlGaAsの屈折率分散を示すグラフであり、縦軸は屈折率、横軸はAl組成である。同図から明らかなように、Al組成が約15%以下になると光が吸収される。従って、発振波長が780nmの場合、高屈折率材料のAl組成は、光吸収の影響を低くするため少なくとも15%以上であることが望ましく、より好ましくはAl組成が15%〜30%の範囲である。
【0027】
次に、第1のDBR106Aの低屈折率材料の好ましい条件について説明する。
(c)第1のDBR106Aの低屈折率材料は、第2のDBR106Bの高屈折率材料よりも屈折率が低い(n
ya<n
yb)。すなわち、第1のDBR106Aの低屈折率材料のAl組成yaは、第2のDBR106Bの低屈折率材料のAl組成ybよりも大きい(ya>yb)。
(d)第1のDBR106Aの低屈折率材料は、酸化狭窄工程のときの電流狭窄層108よりも酸化速度が遅い。低屈折率材料は、全面酸化による導通不良を回避するため、電流狭窄層108のAl組成よりも小さくことが必要である。電流狭窄層にAlAsを用いる場合、低屈折率材料のAl組成は100%未満である。電流狭窄層にAl
0.98Ga
0.02Asを用いる場合、低屈折率材料のAl組成は98%未満となる。但し、第2のDBR106Bよりも屈折率差を大きくするには、電流狭窄層をAlAsとした方が良い。
【0028】
図4に、本実施例に係るVCSELの上部DBR106のバンド構造を示す。同図に示すように、第1のDBR106Aの高屈折率材料と低屈折率材料のバンドギャップ差は、第2のDBR106Bのバンドギャップ差よりも大きい。そして、異なる材料の界面に生じるスパイクが直列抵抗成分となり、抵抗値が増加する。そこで、第1のDBR106Aの高屈折率材料と低屈折率材料の間に、Al組成が、xaないしyaの範囲の中間のAl組成を有する組成傾斜層(グレーデッド層)を導入することで直列抵抗増加分を抑えることが望ましい。組成傾斜層は、単一または複数のいずれであってもよい。
【0029】
また、電流狭窄層108は、
図4に示すように、AlAs層とAlGaAs層の2層構造から構成されるようにしてもよい。
図5は、このような2層構造の電流狭窄層を酸化させたときの模式的な断面図である。同図に示すように、AlAs層とAlGaAs層を酸化させたとき、AlAsの単層を酸化させたときと比較して、酸化領域108Aの端面にテーパを形成することができる。電流狭窄層108は、メサMの側面から水蒸気雰囲気において約340度で一定時間酸化され、このとき、AlAs層は、AlGaAs層よりもAl濃度が高く、横方向への酸化速度が速く進行する。AlAs層の酸化領域の終端面E1は、ほぼ直角に近いが、AlGaAs層の酸化は、垂直方向からAlAs層の酸素が侵入するため、AlAs層に近いほど酸化が進行する。このため、AlGaAs層の酸化領域の終端面E2は傾斜する。この終端面E2の傾斜角θは、AlGaAs層のAl濃度に依存し、Al濃度が低いほど、横方向の酸化が遅くなるために、傾斜角θが小さくなり、緩やかな勾配となる。
【0030】
AlGaAs層の終端面E2の傾斜角θをより小さくすることで、光閉じ込め量を軽減することができ、導電領域(酸化アパーチャ)108Bの径を実質的に大きくすることができる。このため、AlGaAsのAl組成を、第1のDBR106Aの低屈折率層のAl組成0.95よりも小さくすることが好ましく、例えばAl組成は、0.90である。また、AlAsとAlGaAsを積層したときの膜厚は、λ/4であることが望ましい。
【0031】
第1のDBR106Aは、高屈折率材料と低屈折率材料との対を少なくとも1ペア含み、好ましくは2ペア以内である。ペア数が増加すると、直列抵抗が増加し、それに伴う発熱により信頼性が低下する。さらに電流狭窄層108を活性領域(共振器)104から離すことで、電流狭窄層108で狭窄された電流が活性領域104に到達するまでに横方向に広がり、しきい値電流の増加につながる。そこで、電流狭窄層108からの電流の広がりを抑制するため、第1のDBR106Aのシート抵抗を大きくすることが望ましい。シート抵抗を大きくするには、抵抗率を大きくすれば良く、抵抗率を大きくするには、ドーピング濃度を小さくする、あるいは移動度を小さくすることが有効である。
【0032】
数式(1)に、抵抗率ρとドーピング濃度nの関係を示し、数式(2)に移動度μを示す。qは電荷、nはドーピング濃度、μは移動度、τは緩和時間、m
*は有効質量である。
【数1】
【0033】
ここで、
図6に示すように、第1のDBR106Aの高屈折率材料のドーピング濃度をDxa、低屈折率材料のドーピング濃度をDya、第2のDBR106Bの高屈折率材料のドーピング濃度をDxb、低屈折率材料のドーピング濃度をDybとする。
【0034】
1つの態様では、第1のDBR106Aの高屈折率層および低屈折率層のドーピング濃度を等しくし(Dxa=Dya)、このドーピング濃度が第2のDBR106Bの高屈折率層および低屈折率層のドーピング濃度(Dxb=Dyb)よりも小さくなるようにする。
【0035】
他の態様では、第1のDBR106Aの高屈折率層および低屈折率層の平均ドーピング濃度((Dxa+Dya)/2、Dxa≠Dya)が、第2のDBR106Bの平均ドーピング濃度((Dxb+Dyb)/2、Dxb≠Dyb)よりも小さくなるようにしてもよい。また、単に第1のDBR106Aのドーピング濃度を下げるだけでは直列抵抗が増加するため、第1のDBR106Aのキャリアの移動度の大きい高屈折率材料のみドーピング濃度Dxaを小さくするようにしてもよい(Dxa<Dya=Dxb=Dyb)。さらに組成傾斜層のドーピング濃度を低くせずに通常通りとして、直列抵抗増加を防ぐことが望ましい。例えば、第1のDBR106Aの平均ドーピング濃度は、6×10
17〜8×10
17であり、第2のDBR106Bの平均ドーピング濃度は、1×10
18〜3×10
18である。これらのドーピング濃度は、例えば有機金属気相成長法(MOCVD)において各層を成膜するときに、不純物(ドーパント)の流量または成膜の時間等によって制御することができる。
【0036】
上記実施例では、典型的な形状としてメサを円柱状としたが、これに限らずメサは楕円状であってもよい。さらに上記実施例では、基板上に単一の発光部が形成されたシングルスポットのVCSELを例示したが、複数の発光部(メサ)が形成されたマルチスポットのVCSELまたはVCSELアレイであってもよい。さらにVCSELを構成する半導体材料は、GaAs/AlGaAs系のみならず、発振波長等に応じて、III−V族の化合物半導体を適宜選択することができる。さらにGaAs基板の裏面にn側電極を形成したが、これ以外にも、n側電極120がメサの底部において下部DBR102と電気的コンタクトを取るような構成であってもよい。この場合、基板は半絶縁性であってもよい。さらに上記実施例では、基板上にメサを形成し、当該メサの側面から電流狭窄層の選択酸化を行うようにしたが、メサは選択酸化において必ずしも必要ではない。例えば、積層された半導体層の表面から電流狭窄層に至る複数の穴を形成し、当該穴から電流狭窄層の選択酸化を行うようにしてもよい。
【0037】
次に、本実施例のVCSELを利用した面発光型半導体レーザ装置、情報処理装置および光伝送装置について図面を参照して説明する。
【0038】
図7は、VCSELと光学部材を実装(パッケージ)した面発光型半導体レーザ装置の構成を示す断面図である。面発光型半導体レーザ装置300は、単一のVCSEL素子またはVCSELアレイが形成されたチップ310を、導電性接着剤320を介して円盤状の金属ステム330上に固定する。複数の導電性のリード340は、ステム330に形成された貫通孔(図示省略)内に挿入され、リード340は、対応する電極パッド60、およびチップ310のn側電極120に電気的に接続される。チップ310を含むステム330上に矩形状の中空のキャップ350が固定され、キャップ350の中央の開口352内に平板ガラス362が固定される。選択されたリード340間に順方向の駆動電流が印加されると、チップ310から垂直方向にレーザ光が出射される。チップ310と平板ガラス362との距離は、チップ310からのレーザ光の広がり角θ内に平板ガラス362が含まれるように調整される。また、キャップ内に、発光状態をモニターするための受光素子や温度センサを含ませるようにしてもよい。
【0039】
図8は、VCSELを情報処理装置の光源に適用した例を示す図である。情報処理装置370は、
図7のような単一のVCSELまたはVCSELアレイを実装した面発光型半導体レーザ装置300からのレーザ光を入射するコリメータレンズ372、一定の速度で回転し、コリメータレンズ372からの光線束を一定の広がり角で反射するポリゴンミラー374、ポリゴンミラー374からのレーザ光を入射し反射ミラー378を照射するfθレンズ376、ライン状の反射ミラー378、反射ミラー378からの反射光に基づき潜像を形成する感光体ドラム(記録媒体)380を備えている。このように、面発光型半導体レーザ装置300からのレーザ光を感光体ドラム上に集光する光学系と、集光されたレーザ光を光体ドラム上で走査する機構とを備えた複写機やプリンタなど、光情報処理装置の光源として利用することができる。
【0040】
図9は、
図7に示すVCSELを光伝送装置に適用したときの構成を示す断面図である。光伝送装置400は、ステム330に固定された円筒状の筐体410、筐体410の端面に一体に形成されたスリーブ420、スリーブ420の開口422内に保持されるフェルール430、およびフェルール430によって保持される光ファイバ440を含んで構成される。ステム330の円周方向に形成されたフランジ332には、筐体410の端部が固定される。フェルール430は、スリーブ420の開口422に正確に位置決めされ、光ファイバ440の光軸が平板ガラス362のほぼ中央に整合される。フェルール430の貫通孔432内に光ファイバ440の芯線が保持されている。チップ310の表面から出射されたレーザ光は、平板ガラス362を介して光ファイバ440の芯線に入射され、送信される。さらに、光伝送装置400は、リード340に電気信号を印加するための駆動回路を含むものであってもよい。さらに、光伝送装置400は、光ファイバ440を介して光信号を受信するための受信機能を含むものであってもよい。
【0041】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。