特許第6237085号(P6237085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237085
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/06 20060101AFI20171120BHJP
   B60K 6/543 20071001ALI20171120BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20171120BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20171120BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20171120BHJP
   B60W 20/50 20160101ALI20171120BHJP
   B60L 11/14 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B60W10/06 900
   B60K6/543ZHV
   B60K6/48
   B60W10/08 900
   B60W10/02 900
   B60W20/50
   B60L11/14
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-210731(P2013-210731)
(22)【出願日】2013年10月8日
(65)【公開番号】特開2015-74298(P2015-74298A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100082670
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 民雄
(74)【代理人】
【識別番号】100180068
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 怜史
(72)【発明者】
【氏名】折田 崇一
(72)【発明者】
【氏名】勝呂 洋明
(72)【発明者】
【氏名】米田 健児
【審査官】 増子 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−309379(JP,A)
【文献】 特開2009−180094(JP,A)
【文献】 特開2010−127105(JP,A)
【文献】 実開昭62−108645(JP,U)
【文献】 国際公開第2013/128992(WO,A1)
【文献】 特開2005−233160(JP,A)
【文献】 特開2013−159330(JP,A)
【文献】 特開2011−220354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 − 6/547
B60W 10/00 − 20/50
F02D 29/00 − 29/06
F02D 43/00 − 45/00
B60L 1/00 − 3/12
B60L 7/00 − 13/00
B60L 15/00 − 15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動系に、エンジン及びダンパーと、クラッチと、モータと、を備え、
駆動態様として、前記クラッチを締結することで前記エンジンと前記モータを駆動源とするハイブリッドモードを有するハイブリッド車両において、
前記ハイブリッドモードのとき、前記ダンパーを共振から保護するダンパー保護制御手段を設け、
前記ダンパー保護制御手段は、エンジン回転数の変動成分による振動の大きさと周波数を検知して前記ダンパーの共振を判定するダンパー共振判定部と、前記ダンパーの共振が判定されると前記ダンパーの保護動作制御を行うダンパー共振保護部と、を有する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記ダンパー共振判定部は、エンジン回転と、モータ回転と、前記エンジンと前記モータの差回転と、のそれぞれについて回転変動成分による振動の大きさと周波数を検知し、少なくとも一つの回転振動周波数が前記ダンパーの共振周波数領域に近づいていると検知されると、前記ダンパーが共振であると判定する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記ダンパー共振保護部は、前記ダンパーの共振が判定されたら、前記エンジンへの燃料をカットすると共に、前記クラッチを開放する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記モータにより駆動されるオイルポンプを設け、
前記ダンパー共振保護部は、前記ダンパーの共振が判定されたら、前記モータのモータ回転数を所定回転数に維持する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記ダンパー共振保護部は、前記ダンパーの共振が判定されたら、少なくとも締結されている前記クラッチを開放するのに要する時間までは保護動作制御を継続する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記ダンパー保護制御手段は、前記ダンパーを共振から保護する保護動作制御が完了した後、前記エンジンを始動し、前記クラッチを締結して元のハイブリッドモードの状態に復帰する復帰制御部を有する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記復帰制御部は、前記ハイブリッドモードの状態に復帰させるときのエンジン/モータ回転数を、前記ダンパーの共振判定時の回転数よりも高い回転数にする
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動系に、エンジン及びダンパーと、クラッチと、モータと、を備えたハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動系に、エンジン及びダンパーと、クラッチと、モータと、を備えたハイブリッド車両が知られている(例えば、特許文献1参照)。そして、音振性能を向上するためにエンジンと同軸にダンパーを搭載することが周知であり、ダンパーの共振周波数は、通常使用するエンジン回転領域から離れて設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−159330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、駆動系にエンジン及びダンパーを備えたハイブリッド車両において、意図せずにダンパーの共振周波数領域にエンジン回転数が突入するとダンパーが共振してしまう。このため、ダンパーを構成するプレート部材やスプリングに過度な力が入力され、ダンパーの耐久信頼性を損なう、という問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、エンジンに設けられたダンパーを共振から保護することで、ダンパーの耐久信頼性を向上させることができるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、駆動系に、エンジン及びダンパーと、クラッチと、モータと、を備える。駆動態様として、前記クラッチを締結することで前記エンジンと前記モータを駆動源とするハイブリッドモードを有する。
このハイブリッド車両において、前記ハイブリッドモードのとき、前記ダンパーを共振から保護するダンパー保護制御手段を設ける。
前記ダンパー保護制御手段は、エンジン回転数の変動成分による振動の大きさと周波数を検知して前記ダンパーの共振を判定するダンパー共振判定部と、前記ダンパーの共振が判定されると前記ダンパーの保護動作制御を行うダンパー共振保護部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
よって、ハイブリッドモードのとき、エンジン回転数の変動成分による振動の大きさと周波数を検知してダンパーの共振が判定されるとダンパーの保護動作制御が行われる。
すなわち、エンジンは回転起振力(4気筒:回転2次、6気筒:回転3次)で回転振動が発生するため、その回転振動周波数がダンパー共振周波数領域に近づくと、共振現象が発生して回転振動が大きくなり、ダンパーに過度な力が入力される。
このように、ダンパー共振現象の発生原因であるエンジンの回転起振力に着目し、エンジン回転数の変動成分(振動)を監視し、ダンパーの共振を判定するようにした。そして、ダンパーの共振が判定されると、ダンパーへの過度な入力を抑える保護動作制御を行うようにした。
この結果、エンジンに設けられたダンパーを共振から保護することで、ダンパーの耐久信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1の制御装置が適用されたFFハイブリッド車両を示す全体システム図である。
図2】実施例1のダンパー保護制御の制御構成例を示すブロック図である。
図3】実施例1のハイブリッドコントロールモジュールにて実行されるダンパー保護制御処理の流れを示すフローチャートである。
図4】実施例1のダンパー保護制御処理のうち作動/非作動条件判定とダンパー共振判定の制御構成例を示すブロック図である。
図5】実施例1のダンパー保護制御処理のうちダンパー保護ロジック中の各アクチュエータの状態を示すダンパー保護動作表である。
図6】車速とC2入力回転数の関係特性と車速とC2出力回転数の関係特性によるダンパー共振領域の一例を示すダンパー共振領域図である。
図7】実施例1のダンパー保護制御処理によるダンパー保護ロジック作動シーンを示す作動シーン表である。
図8】実施例1のダンパー保護制御処理のうちエンジン回転振動でダンパー共振を判定した場合のMG回転数・エンジン回転数・エンジン回転数振動検知タイマー・振動検知カウンター・ダンパー共振判定信号・ダンパー保護動作中信号・自動復帰要求信号・システム状態の各特性を示すタイムチャートである。
図9】実施例1のダンパー保護制御処理のうちエンジン回転振動によるダンパー共振判定演算の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
実施例1の制御装置が適用されたFFハイブリッド車両(ハイブリッド車両の一例)の構成を、「全体システム構成」「ダンパー保護制御の詳細構成」に分けて説明する。
【0011】
[全体システム構成]
図1はFFハイブリッド車両の全体システムを示す。以下、図1に基づいて、FFハイブリッド車両の全体システム構成を説明する。
【0012】
FFハイブリッド車両の駆動系としては、図1に示すように、スタータモータ1と、横置きエンジン2と、第1クラッチ3(略称「CL1」)と、モータ/ジェネレータ4(略称「MG」)と、第2クラッチ5(略称「CL2」)と、ベルト式無段変速機6(略称「CVT」)と、を備えている。ベルト式無段変速機6の出力軸は、終減速ギヤトレイン7と差動ギヤ8と左右のドライブシャフト9R,9Lを介し、左右の前輪10R,10Lに駆動連結される。なお、左右の後輪11R,11Lは、従動輪としている。
【0013】
前記スタータモータ1は、横置きエンジン2のクランク軸に設けられたエンジン始動用ギヤに噛み合うギヤを持ち、エンジン始動時にクランク軸を回転駆動するクランキングモータである。
【0014】
前記横置きエンジン2は、クランク軸方向を車幅方向としてフロントルームに配置したエンジンであり、電動ウォータポンプ12と、横置きエンジン2の逆転を検知するクランク軸回転センサ13と、を有する。横置きエンジン2のクランク軸には、同軸上にフライホイール兼ダンパー17(ダンパー)が設けられる。フライホイール兼ダンパー17は、クランク軸と共に回転するプレート部材と、第1クラッチ3の入力軸と共に回転するプレート部材と、の間で周方向に形成された隙間に、複数のコイルスプリングを介装した構成とされる。そして、ダンパー機能は、2つのプレート間でのトルク伝達を、コイルスプリングを介して行い、相対回転によりプレート隙間が変化するのに応じてコイルスプリングが周方向に伸縮することで得られる。
【0015】
前記第1クラッチ3は、横置きエンジン2とモータ/ジェネレータ4との間に介装された油圧作動によるノーマルオープンの乾式多板摩擦クラッチであり、第1クラッチ油圧により完全締結/スリップ締結/開放が制御される。
【0016】
前記モータ/ジェネレータ4は、第1クラッチ3を介して横置きエンジン2に連結された三相交流の永久磁石型同期モータである。このモータ/ジェネレータ4は、後述する強電バッテリ21を電源とし、ステータコイルには、力行時に直流を三相交流に変換し、回生時に三相交流を直流に変換するインバータ26が、ACハーネス27を介して接続される。
【0017】
前記第2クラッチ5は、モータ/ジェネレータ4と駆動輪である左右の前輪10R,10Lとの間に介装された油圧作動による湿式の多板摩擦クラッチであり、第2クラッチ油圧により完全締結/スリップ締結/開放が制御される。実施例1の第2クラッチ5は、遊星ギヤによるベルト式無段変速機6の前後進切替機構に設けられた前進クラッチ5aと後退ブレーキ5bを流用している。つまり、前進走行時には、前進クラッチ5aが第2クラッチ5とされ、後退走行時には、後退ブレーキ5bが第2クラッチ5とされる。
【0018】
前記ベルト式無段変速機6は、プライマリ油室とセカンダリ油室への変速油圧によりベルトの巻き付き径を変えることで無段階の変速比を得る変速機である。このベルト式無段変速機6には、メインオイルポンプ14(メカ駆動)と、サブオイルポンプ15(モータ駆動)と、メインオイルポンプ14からのポンプ吐出圧を調圧することで生成したライン圧PLを元圧として第1,第2クラッチ油圧及び変速油圧を作り出す図外のコントロールバルブユニットと、を有する。なお、メインオイルポンプ14は、モータ/ジェネレータ4のモータ軸(=変速機入力軸)により回転駆動される。サブオイルポンプ15は、主に潤滑冷却用油を作り出す補助ポンプとして用いられる。
【0019】
前記第1クラッチ3とモータ/ジェネレータ4と第2クラッチ5により1モータ・2クラッチの駆動システムが構成され、この駆動システムによる主な駆動態様として「EVモード」と「HEVモード」と「HEV WSCモード」を有する。「EVモード」は、第1クラッチ3を開放し、第2クラッチ5を締結してモータ/ジェネレータ4のみを駆動源に有する電気自動車モードであり、「EVモード」による走行を「EV走行」という。「HEVモード」は、両クラッチ3,5を締結して横置きエンジン2とモータ/ジェネレータ4を駆動源に有するハイブリッド車モードであり、「HEVモード」による走行を「HEV走行」という。「HEV WSCモード」は、「HEVモード」において、モータ/ジェネレータ4をモータ回転数制御とし、第2クラッチ5を要求駆動力相当の容量にてスリップ締結するCL2スリップ締結モードである。この「HEV WSCモード」は、駆動系にトルクコンバータのような回転差吸収継手を持たないことで、「HEVモード」での停車からの発進域等において、横置きエンジン2(アイドル回転数以上)と左右前輪10L,10Rの回転差をCL2スリップ締結により吸収するために選択される。
【0020】
なお、図1の回生協調ブレーキユニット16は、ブレーキ操作時、原則として回生動作を行うことに伴い、トータル制動トルクをコントロールするデバイスである。この回生協調ブレーキユニット16には、ブレーキペダルと、横置きエンジン2の吸気負圧を用いる負圧ブースタと、マスタシリンダと、を備える。そして、ブレーキ操作時、ペダル操作量に基づく要求制動力から回生制動力を差し引いた分を液圧制動力で分担するというように、回生分/液圧分の協調制御を行う。
【0021】
FFハイブリッド車両の電源システムとしては、図1に示すように、モータ/ジェネレータ電源としての強電バッテリ21と、12V系負荷電源としての12Vバッテリ22と、を備えている。
【0022】
前記強電バッテリ21は、モータ/ジェネレータ4の電源として搭載された二次電池であり、例えば、多数のセルにより構成したセルモジュールを、バッテリパックケース内に設定したリチウムイオンバッテリが用いられる。この強電バッテリ21には、強電の供給/遮断/分配を行うリレー回路を集約させたジャンクションボックスが内蔵され、さらに、バッテリ冷却機能を持つ冷却ファンユニット24と、バッテリ充電容量(バッテリSOC)やバッテリ温度を監視するリチウムバッテリコントローラ86と、が付設される。
【0023】
前記強電バッテリ21とモータ/ジェネレータ4は、DCハーネス25とインバータ26とACハーネス27を介して接続される。インバータ26には、力行/回生制御を行うモータコントローラ83が付設される。つまり、インバータ26は、強電バッテリ21の放電によりモータ/ジェネレータ4を駆動する力行時、DCハーネス25からの直流をACハーネス27への三相交流に変換する。また、モータ/ジェネレータ4での発電により強電バッテリ21を充電する回生時、ACハーネス27からの三相交流をDCハーネス25への直流に変換する。
【0024】
前記12Vバッテリ22は、補機類である12V系負荷の電源として搭載された二次電池であり、例えば、エンジン車等で搭載されている鉛バッテリが用いられる。強電バッテリ21と12Vバッテリ22は、DC分岐ハーネス25aとDC/DCコンバータ37とバッテリハーネス38を介して接続される。DC/DCコンバータ37は、強電バッテリ21からの数百ボルト電圧を12Vに変換するものであり、このDC/DCコンバータ37を、ハイブリッドコントロールモジュール81により制御することで、12Vバッテリ22の充電量を管理する構成としている。
【0025】
FFハイブリッド車両の制御システムとしては、図1に示すように、車両全体の消費エネルギーを適切に管理する機能を担う統合制御手段として、ハイブリッドコントロールモジュール81(略称:「HCM」)を備えている。このハイブリッドコントロールモジュール81に接続される制御手段として、エンジンコントロールモジュール82(略称:「ECM」)と、モータコントローラ83(略称:「MC」)と、CVTコントロールユニット84(略称:「CVTCU」)と、リチウムバッテリコントローラ86(略称:「LBC」)と、を有する。ハイブリッドコントロールモジュール81を含むこれらの制御手段は、CAN通信線90(CANは「Controller Area Network」の略称)により双方向情報交換可能に接続される。
【0026】
前記ハイブリッドコントロールモジュール81は、各制御手段、イグニッションスイッチ91、アクセル開度センサ92、車速センサ93等からの入力情報に基づき、様々な制御を行う。エンジンコントロールモジュール82は、横置きエンジン2の燃料噴射制御や点火制御や燃料カット制御等を行う。モータコントローラ83は、インバータ26によるモータジェネレータ4の力行制御や回生制御等を行う。CVTコントロールユニット84は、第1クラッチ3の締結油圧制御、第2クラッチ5の締結油圧制御、ベルト式無段変速機6の変速油圧制御等を行う。リチウムバッテリコントローラ86は、強電バッテリ21のバッテリSOCやバッテリ温度等を管理する。
【0027】
[ダンパー保護制御の詳細構成]
図2は、ダンパー保護制御の制御構成例を示す。以下、ダンパー保護制御構成をあらわす図2の各ブロックについて説明する。
【0028】
ダンパー保護制御構成は、図2に示すように、ダンパー共振判定演算ブロックB1と、CL1制御ブロックB2と、CL2制御ブロックB3と、エンジン制御ブロックB4と、目標MG回転数演算ブロックB5と、自動復帰要求判定ブロックB6と、を備えている。
【0029】
前記ダンパー共振判定演算ブロックB1は、他の各ブロック情報と、エンジン回転と、MG回転と、CVT出力回転と、シフトレンジ、CL1状態(締結、開放、slip)、CL2状態(締結、開放、slip)、目標HEVモード、等を入力し、ダンパー共振判定の演算を行う。そして、ダンパー共振が判定されるとダンパー共振判定信号を、他の各ブロックB2,B3,B4,B5,B6へ出力する。
【0030】
前記CL1制御ブロックB2は、ダンパー共振判定演算ブロックB1からダンパー共振判定信号を入力すると、締結されている第1クラッチ3を開放する。自動復帰要求判定ブロックB6から自動復帰要求信号を入力すると、第1クラッチ3を締結して元に戻す。
【0031】
前記CL2制御ブロックB3は、ダンパー共振判定演算ブロックB1からダンパー共振判定信号を入力すると、スリップ締結/締結されている第2クラッチ5を開放する。自動復帰要求判定ブロックB6から自動復帰要求信号を入力すると、第2クラッチ5をスリップ締結/締結して元に戻す。
【0032】
前記エンジン制御ブロックB4は、ダンパー共振判定演算ブロックB1からダンパー共振判定信号を入力すると、横置きエンジン2への燃料供給をカットする。自動復帰要求判定ブロックB6から自動復帰要求信号を入力すると、横置きエンジン2への燃料噴射を再開する。
【0033】
前記目標MG回転数演算ブロックB5は、ダンパー共振判定演算ブロックB1からダンパー共振判定信号を入力すると、モータ/ジェネレータ4を所定の回転数に維持する。自動復帰要求判定ブロックB6から自動復帰要求信号を入力すると、モータ/ジェネレータ4を元の回転数よりも高い回転数に戻す。
【0034】
前記自動復帰要求判定ブロックB6は、ダンパー保護作動判定信号又はダンパー共振判定演算ブロックB1からダンパー共振判定信号を入力すると、ダンパー保護動作中信号をONとする。そして、ダンパー保護動作中信号がONとなってからの経過時間がダンパー保護時間Tに到達したらダンパー保護動作中信号をOFFにすると共に、自動復帰要求信号を他の各ブロックB1,B2,B3,B4,B5に出力する。ここで、ダンパー保護時間Tは、少なくとも締結されている第1クラッチ3を開放するのに要する時間よりも長い時間に設定されている。
【0035】
図3は、ハイブリッドコントロールモジュール81にて実行されるダンパー保護制御処理流れを示す(ダンパー保護制御手段)。以下、ダンパー保護制御処理構成をあらわす図3の各ステップについて説明する。
【0036】
ステップS01では、現在のハイブリッドシステムの状態を判定し、ダンパー保護制御を作動する否かを判定する。YES(ダンパー保護制御作動条件成立)の場合はステップS02へ進み、NO(ダンパー保護制御非作動条件成立)の場合はリターンへ進む。
ここで、現在のハイブリッドシステムの状態は、図4に示す作動/非作動条件判定ブロックB41において、エンジン回転数、MG回転数、CVT出力回転数、シフトレンジ、CL1状態、CL2状態に基づき判定する。そして、現在のハイブリッドシステムの状態が、HEVモード、或いは、HEV WSCモードであるとき、ダンパー保護制御作動条件成立とする。なお、目標ハイブリッドシステムモードで判定する条件を追加してもよい。
【0037】
ステップS02では、ステップS01でのダンパー保護制御作動条件成立であるとの判定、或いは、ステップS03でのダンパー共振判定無しの判断に続き、エンジン回転、MG回転、(エンジン−MG)回転でダンパー共振判定を実施し、ステップS03へ進む。
すなわち、ダンパー共振判定は、図4に示すように、エンジン回転での共振判定ブロックB42と、MG回転での共振判定ブロックB43と、(エンジン−MG)回転での共振判定ブロックB44と、で実施される。
【0038】
ステップS03では、ステップS02でのダンパー共振判定実施に続き、ダンパー共振判定したか否かを判断する。YES(ダンパー共振判定有り)の場合はステップS04へ進み、NO(ダンパー共振判定無し)の場合はステップS02へ戻る。
ここで、ダンパー共振判定は、図4に示すORブロックB45にて行われ、共振判定ブロックB42,B43,B44のうち、少なくとも一つのブロックにて共振が判定されるとダンパー共振判定有りと判断する。また、ダンパー共振判定は、エンジン回転、MG回転、差回転の変動成分(振動)の大きさと周波数で判定するものであり、誤判定しないように、振動継続時間を追加してもよい。
【0039】
ステップS04では、ステップS03でのダンパー共振判定有りとの判断、或いは、ステップS05でのダンパー保護動作中であるとの判断に続き、ダンパー17を保護するため各アクチュエータを図5のように動かすダンパー保護動作を実施し、ステップS05へ進む。
ここで、ダンパー保護動作は、図5に示すように、横置きエンジン2の燃料カット、第1クラッチ3の開放、モータ/ジェネレータ4の所定回転維持、第2クラッチ5の開放により行われる。
【0040】
ステップS05では、ステップS04でのダンパー保護動作の実施に続き、ダンパー保護動作が完了したか否かを判断する。YES(ダンパー保護動作完了)の場合はステップS06へ進み、NO(ダンパー保護動作中)の場合はステップS04へ戻る。
ここで、ダンパー保護動作の完了判断は、エンジン回転数が所定回転数以下であり、かつ、MG回転数が所定回転数付近にいることによりダンパー保護動作ができていることを判定し、この状態が所定時間(ダンパー保護時間T)を継続することで行う。
【0041】
ステップS06では、ステップS05でのダンパー保護動作完了であるとの判断に続き、横置きエンジン2を始動し、元のハイブリッドシステムモードに復帰させる自動復帰制御を実施し、リターンへ進む。
ここで、自動復帰制御では、エンジン回転数とモータ回転数の復帰に関しては、ダンパー共振の繰り返しを避けるため、ダンパー保護制御に入る前の元の回転数より高い回転数まで復帰させる。
【0042】
次に、作用を説明する。
実施例1のFFハイブリッド車両の制御装置における作用を、[ダンパー共振作用]、[エンジン回転振動によるダンパー共振判定作用]、[ダンパー保護制御作用]、に分けて説明する。
【0043】
[ダンパー共振作用]
ダンパー共振作用について、図6及び図7に基づき説明する。
【0044】
ダンパー共振領域は、図6に示すように、車速軸と回転数軸を持つ二次元座標に書きあらわすと、CL2入力回転数がCL2出力回転数以上であるCL2スリップ/開放領域であり、かつ、CL2入力回転数上限値とCL2入力回転数下限値により囲まれる領域である。なお、CL2入力回転数とCL2出力回転数が一致するCL2締結線をA1とし、CL2入力回転数上限線をA2とし、CL2入力回転数下限線をA3とすると、3つの線A1,A2,A3にて囲まれる領域である。
【0045】
このダンパー共振領域に突入するパターンは、図6の矢印(a)に示すように、CL2入力回転が下がってダンパー共振領域に突入するパターンと、図6の矢印(b)に示すように、CL2入力回転が上がってダンパー共振領域に突入するパターンと、がある。さらに、ダンパー共振領域に停滞するパターンは、図6の矢印(c)に示すように、ダンパー共振領域のCL2入力回転がそのままダンパー共振領域に停滞するパターンである。
【0046】
このうち、ダンパー共振領域に突入するパターンは、図7のNo.1に示すように、横置きエンジン2が稼働、第1クラッチ3が締結、モータ/ジェネレータ4が稼働、第2クラッチ5がslip/開放であるHEV WSCモード(P,Nレンジ含む)のときである。すなわち、HEV WSCモードでの登坂走行時等において、第2クラッチ5の入力回転数が低下すると、CL2入力回転が下がってダンパー共振領域に突入する(図6の矢印(a)パターン)。また、HEV WSCモードで第2クラッチ5の入力回転数が低い停車時等において、第2クラッチ5の入力回転数が上昇すると、CL2入力回転が上がってダンパー共振領域に突入する(図6の矢印(b)パターン)。
【0047】
ダンパー共振領域に停滞するパターンは、図7のNo.2に示すように、横置きエンジン2が始動制御中、第1クラッチ3がslip→締結、モータ/ジェネレータ4が稼働、第2クラッチ5がslip/開放であるエンジン始動のときである。すなわち、停車状態でのエンジン始動時等において、エンジン始動開始時にダンパー共振領域のCL2入力回転がダンパー共振領域にあると、そのままCL2入力回転がダンパー共振領域の回転数を維持する(図6の矢印(c)パターン)。
【0048】
[エンジン回転振動によるダンパー共振判定作用]
エンジン回転振動によるダンパー共振判定作用について、図8及び図9に基づき説明する。
【0049】
エンジン回転振動によるダンパー共振判定演算は、図9に示すように、振幅が振動検知上限閾値と振動検知下限閾値を超え、振動周期時間が回転数振動検知タイマー閾値より短いエンジン回転振動を検知すると1回の振動がカウントされる。そして、カウントされる振動が連続することでカウント回数が振動検知カウンター閾値を以上になると、エンジン回転によるダンパー共振判定信号が出力される。なお、カウント回数が振動検知カウンター閾値未満のときに振動が中断すると、振動カウントはリセットされる。
ここで、エンジン回転振動によるダンパー共振判定演算において、下記の判定閾値は、検知する回転数によって変更する。
・振動検知上限閾値
・振動検知下限閾値
・回転数振動検知タイマー閾値
・振動検知カウンター閾値
なお、MG回転数や差回転数(エンジン−MG回転数)によるダンパー共振判定演算においても同様である。
【0050】
次に、エンジン回転振動によるダンパー共振判定は、図8に示すようなタイムチャートにしたがってなされる。時刻t1〜t2は、振動周期時間が回転数振動検知タイマー閾値より長いためカウントされない。時刻t2〜t3は、振動周期時間が回転数振動検知タイマー閾値より短いため時刻t3にてカウントされる。時刻t3〜t4は、振動周期時間が回転数振動検知タイマー閾値より短いため時刻t4にてカウント加算される。時刻t4〜t6は、時刻t5にて振動周期時間が回転数振動検知タイマー閾値を超えるため、時刻t6にてカウント値がリセットされる(振動検知カウンター)。
【0051】
そして、時刻t6〜t7は、振動周期時間が回転数振動検知タイマー閾値より短いため時刻t7にてカウント(カウント値=1)される。時刻t7〜t8は、振動周期時間が回転数振動検知タイマー閾値より短いため時刻t8にてカウント加算(カウント値=2)される。時刻t8〜t9は、振動周期時間が回転数振動検知タイマー閾値より短いため時刻t9にてカウント加算(カウント値=3)される。時刻t9〜t10は、振動周期時間が回転数振動検知タイマー閾値より短いため時刻t10にてカウント加算(カウント値=4)される。時刻t10〜t11は、振動周期時間が回転数振動検知タイマー閾値より短いため時刻t11にてカウント加算(カウント値=5)される。
【0052】
時刻t11では、カウント値(=5)が、振動検知カウンター閾値以上になるため、ダンパー共振判定信号がOFF→ONとされ、ダンパー保護動作(燃料カット、CL1開放、MG所定回転維持、CL2開放)の実施が開始される。そして、時刻t12にてMG回転数が所定回転数まで低下し、エンジン回転数が停止したことを確認すると、時刻t13までのダンパー保護時間Tの間、MG回転数を所定回転数に維持し、エンジン回転数が停止させるダンパー保護モードとする。時刻t13〜t14は、ダンパー保護モードからエンジン始動モードに切り替え、MG回転数とエンジン回転数を元の回転数より高い回転数まで復帰し、さらに、時刻t14以降は、ダンパー保護モードに入る前のHEV WSCモードに復帰する。
【0053】
[ダンパー保護制御作用]
図3のフローチャートに基づき、ダンパー保護制御処理作用を説明する。
【0054】
ダンパー保護制御作動条件成立であると判定されると、図3のフローチャートにおいて、ステップS01→ステップS02→ステップS03へと進む。そして、ステップS03にてダンパー共振判定無しと判断されている間、ステップS02→ステップS03へと進む流れが繰り返される。ステップS02では、エンジン回転、MG回転、(エンジン−MG)回転でダンパー共振判定が実施される。
【0055】
その後、ステップS03にてダンパー共振判定有りと判断されると、図3のフローチャートにおいて、ステップS03からステップS04→ステップS05へと進む。そして、ステップS05にてダンパー保護動作中と判断されている間、ステップS04→ステップS05へと進む流れが繰り返される。ステップS04では、ダンパー17を保護するためのダンパー保護動作として、図5に示すように、横置きエンジン2の燃料カット、第1クラッチ3の開放、モータ/ジェネレータ4の所定回転維持、第2クラッチ5の開放が行われる。
【0056】
ここで、ダンパー保護ロジックの考え方は、下記の通りである。
・横置きエンジン2の燃料をカットするのは、横置きエンジン2からの回転起振力を止めるためである。
・第1クラッチ3を開放するのは、フライホイール兼ダンパー17の出力端を開放して共振現象を止めるためである。
・モータ/ジェネレータ4を所定回転に維持するのは、メカオイルポンプ14を駆動し、ベルト式無段変速機6や両クラッチ3,5への油量を確保するためである。
・第2クラッチ5を開放するのは、次の自動復帰(エンジン始動)に備えるためである。
【0057】
その後、ステップS05にてダンパー保護動作完了と判断されると、ステップS05からステップS06へと進み、ステップS06では、横置きエンジン2を始動し、元のハイブリッドシステムモードに復帰させる自動復帰制御が実施される。但し、この自動復帰制御では、エンジン回転数とモータ回転数の復帰に関しては、ダンパー共振の繰り返しを避けるため、ダンパー保護制御に入る前の元の回転数より高い回転数まで復帰させる。
【0058】
上記のように、実施例1では、HEVモード(HEV WSCモードを含む。)のとき、エンジン回転数の変動成分による振動の大きさと周波数を検知してダンパーの共振が判定されるとダンパーの保護動作制御を行なう構成を採用した。
すなわち、横置きエンジン2は、回転起振力(4気筒:回転2次、6気筒:回転3次)で回転振動が発生するため、その回転振動周波数がダンパー共振周波数領域に近づくと、共振現象が発生して回転振動が大きくなり、フライホイール兼ダンパー17に過度な力が入力される。
このように、ダンパー共振現象の発生原因である横置きエンジン2の回転起振力に着目し、エンジン回転数の変動成分(振動)を監視することでフライホイール兼ダンパー17の共振を判定するようにした。そして、フライホイール兼ダンパー17の共振が判定されると、フライホイール兼ダンパー17への過度な入力を抑える保護動作制御を行うようにした。
この結果、横置きエンジン2に設けられたフライホイール兼ダンパー17を共振から保護することで、フライホイール兼ダンパー17の耐久信頼性を向上させることができる。
【0059】
実施例1では、エンジン回転と、MG回転と、エンジン回転とMG回転の差回転と、のそれぞれについて回転変動成分による振動の大きさと周波数を検知し、少なくとも一つの回転振動周波数がフライホイール兼ダンパー17の共振周波数領域に近づいていると検知されると、フライホイール兼ダンパー17が共振であると判定する構成を採用した。
すなわち、フライホイール兼ダンパー17を共振させる振動は、図8のエンジン回転数特性とMG回転数特性に示すように、エンジン回転数に限らず、MG回転数や差回転数のいずれにも生じる。
これに対し、例えば、エンジン回転数のみを監視することによりフライホイール兼ダンパー17の共振を判定しようとすると、仮に、エンジン回転数の回転変動成分を誤検知した場合、共振判定が遅れる。
したがって、3つの回転数振動を監視することで、早期に精度良くフライホイール兼ダンパー17が共振であると判定することができる。
【0060】
実施例1では、フライホイール兼ダンパー17の共振が判定されたら、横置きエンジン2への燃料をカットすると共に、第1クラッチ3を開放する構成を採用した。
すなわち、横置きエンジン2の燃料カットにより、横置きエンジン2からの回転起振力が止められ、第1クラッチ3の開放により、フライホイール兼ダンパー17の出力端が開放されて共振現象が止められる。
したがって、フライホイール兼ダンパー17への入力カットにより、直ちにダンパー共振現象が止められることで、確実にフライホイール兼ダンパー17を過度な入力から保護することができる。
【0061】
実施例1では、フライホイール兼ダンパー17の共振が判定されたら、モータ/ジェネレータ4のMG回転数を所定回転数に維持する構成を採用した。
すなわち、ダンパー保護モードに入っても、モータ/ジェネレータ4を所定回転に維持することで、メカオイルポンプ14が駆動される。
したがって、ダンパー保護制御中においても第1クラッチ3や第2クラッチ5やベルト式無段変速機6等の油圧系への必要油量を確保することができる。特に、ベルト式無段変速機6への油量確保によりベルトの滑りを防止する。
【0062】
実施例1では、フライホイール兼ダンパー17の共振が判定されたら、少なくとも締結されている第1クラッチ3を開放するのに要する時間までは保護動作制御を継続する構成を採用した。
すなわち、ダンパー保護動作制御中は、車両の駆動力が発生しないので、なるべく短い時間にしたいという要求がある。一方、ダンパー保護動作をあまりにも短い時間で終了すると、共振現象を止めることができない場合がある。
これに対し、少なくとも第1クラッチ3を開放するのに要する時間を待つことにより、ダンパー保護動作を長い時間継続することなく、共振現象を確実に止めることができる。
【0063】
実施例1では、フライホイール兼ダンパー17を共振から保護する保護動作制御が完了した後、横置きエンジン2を始動し、第1クラッチ3を締結して元のハイブリッドモードの状態に復帰する復帰制御部を有する構成を採用した。
すなわち、ダンパー保護動作制御中は、横置きエンジン2の停止により車両の駆動力が発生しないので、ドライバーにとっては迷惑になる。
これに対し、保護動作制御が完了した後、直ちに横置きエンジン2を始動し、ハイブリッドモードの状態に復帰することで、ドライバーへの迷惑を軽減することができる。
【0064】
実施例1では、ハイブリッドモードの状態に復帰させるときのエンジン/モータ回転数を、フライホイール兼ダンパー17の共振判定時の回転数よりも高い回転数にする構成を採用した。
例えば、ハイブリッドモードの状態に復帰させるときのエンジン/モータ回転数を、フライホイール兼ダンパー17の共振判定時の回転数と同じ回転数にすると、再度、フライホイール兼ダンパー17に共振が発生する可能性が高くなる。
これに対し、エンジン/モータ回転数を、共振判定時の回転数よりも高い回転数に復帰することで、フライホイール兼ダンパー17に共振が再発生することを未然に防止することができる。
【0065】
次に、効果を説明する。
実施例1のFFハイブリッド車両の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0066】
(1) 駆動系に、エンジン(横置きエンジン2)及びダンパー(フライホイール兼ダンパー17)と、クラッチ(第1クラッチ3)と、モータ(モータ/ジェネレータ4)と、を備え、
駆動態様として、前記クラッチ(第1クラッチ3)を締結することで前記エンジン(横置きエンジン2)と前記モータ(モータ/ジェネレータ4)を駆動源とするハイブリッドモード(HEVモード、HEV WSCモード)を有するFFハイブリッド車両において、
前記ハイブリッドモード(HEVモード、HEV WSCモード)のとき、前記ダンパー(フライホイール兼ダンパー17)を共振から保護するダンパー保護制御手段(ハイブリッドコントロールモジュール81)を設け、
前記ダンパー保護制御手段(ハイブリッドコントロールモジュール81、図3)は、エンジン回転数の変動成分による振動の大きさと周波数を検知して前記ダンパー(フライホイール兼ダンパー17)の共振を判定するダンパー共振判定部(S01,S02,S03)と、前記ダンパー(フライホイール兼ダンパー17)の共振が判定されると前記ダンパー(フライホイール兼ダンパー17)の保護動作制御を行うダンパー共振保護部(S04,S05)と、を有する。
このため、エンジン(横置きエンジン2)に設けられたダンパー(フライホイール兼ダンパー17)を共振から保護することで、ダンパー(フライホイール兼ダンパー17)の耐久信頼性を向上させることができる。
【0067】
(2) 前記ダンパー共振判定部(S01,S02,S03)は、エンジン回転と、モータ回転(MG回転)と、前記エンジン(横置きエンジン2)と前記モータ(モータ/ジェネレータ4)の差回転と、のそれぞれについて回転変動成分による振動の大きさと周波数を検知し、少なくとも一つの回転振動周波数が前記ダンパー(フライホイール兼ダンパー17)の共振周波数領域に近づいていると検知されると、前記ダンパー(フライホイール兼ダンパー17)が共振であると判定する。
このため、(1)の効果に加え、3つの回転数振動を監視することで、早期に精度良くダンパー(フライホイール兼ダンパー17)が共振であると判定することができる。
【0068】
(3) 前記ダンパー共振保護部(S04,S05)は、前記ダンパー(フライホイール兼ダンパー17)の共振が判定されたら、前記エンジン(横置きエンジン2)への燃料をカットすると共に、前記クラッチ(第1クラッチ3)を開放する。
このため、(1)又は(2)の効果に加え、共振判定により直ちにダンパー共振現象が止められることで、確実にダンパー(フライホイール兼ダンパー17)を過度な入力から保護することができる。
【0069】
(4) 前記モータ(モータ/ジェネレータ4)により駆動されるオイルポンプ(メカオイルポンプ14)を設け、
前記ダンパー共振保護部(S04,S05)は、前記ダンパー(フライホイール兼ダンパー17)の共振が判定されたら、前記モータ(モータ/ジェネレータ4)のモータ回転数(MG回転数)を所定回転数に維持する。
このため、(1)〜(3)の効果に加え、ダンパー保護制御中においてもシステムに有する油圧系への必要油量を確保することができる。
【0070】
(5) 前記ダンパー共振保護部(S04,S05)は、前記ダンパー(フライホイール兼ダンパー17)の共振が判定されたら、少なくとも締結されている前記クラッチ(第1クラッチ3)を開放するのに要する時間までは保護動作制御を継続する。
このため、(1)〜(4)の効果に加え、ダンパー保護動作を長い時間継続することなく、共振現象を確実に止めることができる。
【0071】
(6) 前記ダンパー保護制御手段(図3)は、前記ダンパー(フライホイール兼ダンパー17)を共振から保護する保護動作制御が完了した後、前記エンジン(横置きエンジン2)を始動し、前記クラッチ(第1クラッチ3)を締結して元のハイブリッドモード(HEVモード、HEV WSCモード)の状態に復帰する復帰制御部(S06)を有する。
このため、(1)〜(5)の効果に加え、保護動作制御が完了した後、直ちにハイブリッドモード(HEVモード)の状態に復帰することで、ドライバーへの迷惑を軽減することができる。
【0072】
(7) 前記復帰制御部(S06)は、前記ハイブリッドモード(HEVモード)の状態に復帰させるときのエンジン/モータ回転数を、前記ダンパー(フライホイール兼ダンパー17)の共振判定時の回転数よりも高い回転数にする。
このため、(6)の効果に加え、ダンパー(フライホイール兼ダンパー17)に共振が再発生することを未然に防止することができる。
【0073】
以上、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0074】
実施例1では、ダンパー共振判定部(S01,S02,S03)として、エンジン回転と、MG回転と、差回転と、のそれぞれについて回転変動成分による振動の大きさと周波数を検知し、少なくとも一つの回転振動周波数によりフライホイール兼ダンパー17の共振を判定する例を示した。しかし、ダンパー共振判定部としては、エンジン回転のみ、MG回転のみ、差回転のみの何れかにてダンパーの共振を判定する例としても良いし、何れか2つの回転にてダンパーの共振を判定する例としても良い。さらに、振動継続時間をダンパーの共振判定条件に加えても良い。
【0075】
実施例1では、本発明の制御装置をFFハイブリッド車両に適用する例を示した。しかし、本発明の制御装置は、FFハイブリッド車両に限らず、FRハイブリッド車両や4WDハイブリッド車両に対しても適用することができる。要するに、駆動系に、エンジン及びダンパーと、クラッチと、モータと、を備えたハイブリッド車両であれば適用できる。
【符号の説明】
【0076】
1 スタータモータ
2 横置きエンジン(エンジン)
3 第1クラッチ(クラッチ)
4 モータ/ジェネレータ(モータ)
5 第2クラッチ
6 ベルト式無段変速機
10R,10L 左右前輪
11R,11L 左右後輪
17 フライホイール兼ダンパー(ダンパー)
21 強電バッテリ
22 12Vバッテリ
81 ハイブリッドコントロールモジュール(ダンパー保護制御手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9