(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る分散剤、導電性基板用金属粒子分散体、及び導電性基板の製造方法について説明する。
なお、本発明において(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルのいずれかであることを意味し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートのいずれかであることを意味する。
【0024】
[分散剤]
本発明に係る分散剤は、下記一般式(I)で表される構成単位と、下記一般式(II)で表される構成単位を有するグラフト共重合体を含有する。
【0025】
【化4】
(一般式(I)中、Aは、直接結合又は2価の連結基、R
1は、水素原子又はメチル基、R
2は、水素原子、炭化水素基、−[CH(R
4)−CH(R
5)−O]
s−R
6、−[(CH
2)
t−O]
u−R
6、又は−O−R
7で示される1価の基であり、R
7は、炭化水素基、−[CH(R
4)−CH(R
5)−O]
s−R
6、−[(CH
2)
t−O]
u−R
6、−C(R
8)(R
9)−C(R
10)(R
11)−OH、又は、−CH
2−C(R
12)(R
13)−CH
2−OHで示される1価の基である。
R
4及びR
5は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。R
6は、水素原子、炭化水素基、−CHO、−CH
2CHO、−CO−CH=CH
2、−CO−C(CH
3)=CH
2又は−CH
2COOR
14で示される1価の基であり、R
14は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である。R
8、R
9、R
10、R
11、R
12及びR
13は、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基、又は、炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基であって、R
8及びR
10は、互いに結合して環構造を形成してもよい。上記環状構造を形成した場合、置換基R
15を有していてもよく、R
15は、水素原子、炭化水素基、又は、炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基である。
上記炭化水素基は置換基を有していてもよい。
sは1〜18の整数、tは1〜5の整数、uは1〜18の整数を示す。
一般式(II)中、Lは、直接結合又は2価の連結基、R
3は、水素原子又はメチル基、Polymerは、下記一般式(III)又は一般式(IV)で表される構成単位を少なくとも1種有するポリマー鎖を表す。)
【0026】
【化5】
(一般式(III)及び一般式(IV)中、R
17は水素原子又はメチル基であり、R
18は炭化水素基、シアノ基、−[CH(R
19)−CH(R
20)−O]
x−R
21、−[(CH
2)
y−O]
z−R
21、−[CO−(CH
2)
y−O]
z−R
21、−CO−O−R
22又は−O−CO−R
23で示される1価の基である。R
19及びR
20は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。
R
21は、水素原子、炭化水素基、−CHO、−CH
2CHO又は−CH
2COOR
24で示される1価の基であり、R
22は、炭化水素基、シアノ基、−[CH(R
19)−CH(R
20)−O]
x−R
21、−[(CH
2)
y−O]
z−R
21、−[CO−(CH
2)
y−O]
z−R
21で示される1価の基である。R
23は炭素数1〜18のアルキル基であり、R
24は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。
上記炭化水素基は、置換基を有していてもよい。
mは1〜5の整数、n及びn’は5〜200の整数を示す。xは1〜18の整数、yは1〜5の整数、zは1〜18の整数を示す。)
【0027】
本発明の分散剤に含まれるグラフト共重合体は、上記一般式(I)で表される構成単位が有するホスフィン(P−H)部位が、分散される粒子表面に吸着することにより、分散性及び分散安定性が向上する。更に当該ホスフィン部位は、還元性を有するため、当該リン原子部位が吸着した粒子は、酸化が抑制されるものと推定される。
【0028】
<一般式(I)で表される構成単位>
一般式(I)において、Aは、直接結合又は2価の連結基である。直接結合とは、一般式(I)のリン原子が、連結基を介することなく一般式(I)の炭素原子に直接結合していることを意味する。
【0029】
Aにおける2価の連結基としては、主鎖骨格の炭素原子と、リン原子とを連結可能であれば、特に制限はない。Aにおける2価の連結基としては、例えば、直鎖、分岐又は環状のアルキレン基、水酸基を有する、直鎖、分岐又は環状のアルキレン基、アリーレン基、−CONH−基、−COO−基、−NHCOO−基、エーテル基(−O−基)、チオエーテル基(−S−基)、及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。なお、本発明において、2価の連結基の結合の向きは任意である。すなわち、2価の連結基に−CONH−が含まれる場合、−COが主鎖の炭素原子側で−NHが側鎖のリン原子側であっても良いし、反対に、−NHが主鎖の炭素原子側で−COが側鎖のリン原子側であっても良い。
【0030】
中でも、分散性の点から、一般式(I)におけるAは、−CONH−基、又は、−COO−基を含む2価の連結基であることが好ましい。
例えば、Aが−COO−基を含む2価の連結基である場合、一般式(I)で表される構成単位は下記式(I−1)で表される構造が挙げられる。
【0031】
【化6】
(一般式(I−1)中、R
1、及びR
2は、一般式(I)と同様であり、A’は、水酸基を有していても良い炭素数1〜8のアルキレン基、−[CH(R
a)−CH(R
b)−O]
x−、又は−[(CH
2)
y−O]
z−(CH
2)
y−O−、−[CH(R
c)]
w−O−、であり、R
a、R
b及びR
cは、それぞれ独立に水素原子、メチル基、又は水酸基である。xは1〜18の整数、yは1〜5の整数、zは1〜18の整数、wは1〜18の整数を表す。)
【0032】
A’における炭素数1〜8のアルキレン基は、直鎖状、分岐状、又は環状のいずれであってもよく、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、各種ブチレン基、各種ペンチレン基、各種へキシレン基、各種オクチレン基などであり、一部の水素が水酸基に置換されていても良い。
xは1〜18の整数、好ましくは1〜4の整数、より好ましくは1〜2の整数であり、yは1〜5の整数、好ましくは1〜4の整数、より好ましくは2又は3である。zは1〜18の整数、好ましくは1〜4の整数、より好ましくは1〜2の整数である。wは1〜18の整数、好ましくは1〜4の整数である。
【0033】
一般式(I)におけるAの好適な具体例としては、例えば、−COO−CH
2CH(OH)CH
2−O−、−CONH−、−COO−等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
R
6及びR
7、並びに、R
8、R
9、R
10、R
11、R
12及びR
13における炭化水素基としては、例えば、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、アラルキル基、及びアリール基などが挙げられる。
【0035】
上記炭素数1〜18のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ボルニル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、アダマンチル基、低級アルキル基置換アダマンチル基などを挙げることができる。
上記炭素数2〜18のアルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。このようなアルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、プロペニル基などを挙げることができる。アルケニル基の二重結合の位置には限定はないが、得られたポリマーの反応性の点からは、アルケニル基の末端に二重結合があることが好ましい。
アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基等が挙げられ、更に置換基を有していてもよい。アリール基の炭素数は、6〜24が好ましく、更に6〜12が好ましい。
また、アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ビフェニルメチル基等が挙げられ、更に置換基を有していてもよい。アラルキル基の炭素数は、7〜20が好ましく、更に7〜14が好ましい。
【0036】
上記アルキル基やアルケニル基は置換基を有していても良く、当該置換基としては、F、Cl、Brなどのハロゲン原子、ニトロ基等が挙げられる。
また、上記アリール基やアラルキル基等の芳香環の置換基としては、炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキル基の他、アルケニル基、ニトロ基、ハロゲン原子などを挙げることができる。
なお、上記好ましい炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。
【0037】
R
2及びR
7において、sは1〜18の整数、tは1〜5の整数、uは1〜18の整数である。sは、好ましくは1〜4の整数、より好ましくは1〜2の整数であり、tは、好ましくは1〜4の整数、より好ましくは2又は3である。uは、好ましくは1〜4の整数、より好ましくは1〜2の整数である。
【0038】
R
8、R
9、R
10、R
11、R
12及びR
13における、炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基とは、−R’−O−R”、−R’−(C=O)−O−R”、又は−R’−O−(C=O)−R”(R’及びR”は、炭化水素基、又は、炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基)で表される基である。1つの基の中に、エーテル結合及びエステル結合を2つ以上有していてもよい。炭化水素基が1価の場合としては、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基が挙げられ、炭化水素基が2価の場合としては、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、及びこれらの組み合わせの基が挙げられる。
【0039】
R
8とR
10が結合して環構造を形成する場合、環構造を形成する炭素原子数は、5〜8であることが好ましく、6であること、即ち6員環であることがより好ましく、シクロヘキサン環を形成することが好ましい。
置換基R
15における、炭化水素基、又は、炭化水素基をエーテル結合及びエステル結合の少なくとも1つで結合した基は、前記R
8、R
9、R
10、R
11、R
12及びR
13におけるものと同様のものとすることができる。
【0040】
上記一般式(I)で表される構成単位としては、前記一般式(I)におけるR
2が、水素原子、水酸基、メチル基、エチル基、置換基を有していても良いアリール基又はアラルキル基、ビニル基、アリル基、−[CH(R
4)−CH(R
5)−O]
s−R
6、又は−[(CH
2)
t−O]
u−R
6、あるいは、−O−R
7で示される1価の基であり、且つ、R
7が、メチル基、エチル基、置換基を有していても良いアリール基又はアラルキル基、ビニル基、アリル基、−[CH(R
4)−CH(R
5)−O]
s−R
6、又は−[(CH
2)
t−O]
u−R
6であり、R
4及びR
5が、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R
6が−CO−CH=CH
2又は−CO−C(CH
3)=CH
2であるものが分散される粒子の分散性及び分散安定性に優れる点から好ましい。中でも、置換基を有していてもよいアリール基が分散性の点からより好ましい。一方、還元力を高め、分散された粒子の酸化を抑制する点からは、R
2が、水素原子であることが好ましい。
【0041】
<一般式(II)で表される構成単位>
上記グラフト共重合体は、側鎖にポリマー鎖を含む前記一般式(II)で表される構成単位を有することにより、溶剤親和性が良好になり、粒子の分散性及び分散安定性が良好なものとなる。
【0042】
前記一般式(II)において、Lは、直接結合又は2価の連結基である。Lにおける2価の連結基としては、エチレン性不飽和二重結合由来の炭素原子とポリマー鎖を連結可能であれば、特に制限はない。Lにおける2価の連結基としては、例えば、直鎖、分岐又は環状のアルキレン基、水酸基を有する、直鎖、分岐又は環状のアルキレン基、アリーレン基、−CONH−基、−COO−基、−NHCOO−基、エーテル基(−O−基)、チオエーテル基(−S−基)、及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。なお、本発明において、2価の連結基の結合の向きは任意である。すなわち、2価の連結基に−CONH−が含まれる場合、−COが主鎖の炭素原子側で−NHが側鎖のポリマー鎖側であっても良いし、反対に、−NHが主鎖の炭素原子側で−COが側鎖のポリマー鎖側であっても良い。
【0043】
前記一般式(II)において、Polymerは、前記一般式(III)又は前記一般式(IV)で表される構成単位を少なくとも1種有するポリマー鎖を表す。
式(III)中、R
17は水素原子又はメチル基であり、R
18は炭化水素基、シアノ基、−[CH(R
19)−CH(R
20)−O]
x−R
21、−[(CH
2)
y−O]
z−R
21、−[CO−(CH
2)
y−O]
z−R
21、−CO−O−R
22又は−O−CO−R
23で示される1価の基である。
R
18における炭化水素基としては、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、アラルキル基、又はアリール基であることが好ましい。
上記炭素数1〜18のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ボルニル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、アダマンチル基、低級アルキル基置換アダマンチル基などを挙げることができる。
上記炭素数2〜18のアルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。このようなアルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、プロペニル基などを挙げることができる。
【0044】
R
18における、アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基等が挙げられる。アリール基の炭素数は、6〜24が好ましく、更に6〜12が好ましい。
R
18における、アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ビフェニルメチル基等が挙げられる。アラルキル基の炭素数は、7〜20が好ましく、更に7〜14が好ましい。
【0045】
R
21は、水素原子、あるいは炭素数1〜18のアルキル基、アラルキル基、アリール基、−CHO、−CH
2CHO又は−CH
2COOR
24で示される1価の基であり、R
22は、炭素数1〜18のアルキル基、アラルキル基、アリール基、シアノ基、−[CH(R
19)−CH(R
20)−O]
x−R
21、−[(CH
2)
y−O]
z−R
21、又は−[CO−(CH
2)
y−O]
z−R
21で示される1価の基である。R
23は、炭素数1〜18のアルキル基であり、R
24は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。
上記R
21、及びR
22のうちの炭素数1〜18のアルキル基、アラルキル基、アリール基は、前記のR
18で示したとおりである。
上記R
23、及びR
24のうちのアルキル基は、前記のR
18で示したとおりである。
上記R
18、R
21、R
22、及びR
23が、芳香環を有する基である場合、当該芳香環はさらに置換基を有していてもよい。当該置換基としては、例えば炭素数1〜5の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基の他、アルケニル基、ニトロ基、F、Cl、Br等のハロゲン原子などが挙げられる。
なお、上記好ましい炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。
上記R
18及びR
22おいて、xは1〜18の整数、yは1〜5の整数、zは1〜18の整数である。xは、好ましくは1〜4の整数、より好ましくは1〜2の整数であり、yは、好ましくは1〜4の整数、より好ましくは2又は3である。zは、好ましくは1〜4の整数、より好ましくは1〜2の整数である。
【0046】
さらに、上記R
18、R
21、R
22、及びR
23は、上記グラフト共重合体の分散性能等を妨げない範囲で、更に、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、水素結合形成基等の置換基によって置換されたものとしてもよい。また、これらの置換基を有するグラフト共重合体を合成した後に、当該置換基と反応する官能基と重合性基とを有する化合物を反応させて、重合性基を付加したものとしてもよい。例えば、カルボキシル基を有するグラフト共重合体にグリシジル(メタ)アクリレートを反応させたり、イソシアネート基を有するグラフト共重合体にヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを反応させたりして、重合性基を付加することができる。
【0047】
一般式(III)で表される構成単位に含まれるポリマー鎖は、上記した構成単位の中でもメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルシクロヘキサンなど由来の構成単位を有するものが好ましい。しかしながら、これらに限定されるものではない。
【0048】
一般式(IV)において、mは1〜5の整数であり、好ましくは2〜5の整数、より好ましくは4又は5の整数である。また、ポリマー鎖の構成単位のユニット数n及びn’は、5〜200の整数であればよく、特に限定されないが、5〜100の範囲内であることが好ましい。
【0049】
本発明において、上記R
18及びR
22としては、中でも、後述する有機溶剤との溶解性に優れたものを用いることが好ましく、金属粒子分散体に使用する有機溶剤に合わせて適宜選択されれば良い。具体的には、例えば上記有機溶剤が、金属粒子分散体の有機溶剤として一般的に使用されているエーテルアルコールアセテート系、エーテル系、エステル系などの有機溶剤を用いる場合には、メチル基、エチル基、イソブチル基、n−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ベンジル基等が好ましい。
ここで、上記R
18及びR
22をこのように設定する理由は、上記R
18及びR
22を含む構成単位が、上記有機溶剤に対して溶解性を有し、上記モノマーの塩基部分が形成する塩形成部位が金属粒子に対して高い吸着性を有するものであることにより、金属粒子の分散性、及び安定性を特に優れたものとすることができるからである。
【0050】
Polymerにおけるポリマー鎖の質量平均分子量Mwは、500〜15000の範囲内であることが好ましく、1000〜8000の範囲内であることがより好ましい。上記範囲であることにより、分散剤としての十分な立体反発効果を保持できるとともに、立体効果による金属粒子の分散に要する時間の増大を抑制することもできる。
【0051】
また、Polymerにおけるポリマー鎖は、目安として、組み合わせて用いられる有機溶剤に対して、23℃における溶解度が50(g/100g溶剤)以上であることが好ましい。
当該ポリマー鎖の溶解性は、グラフト共重合体を調製する際のポリマー鎖を導入する原料が上記溶解度を有することを目安にすることができる。例えば、グラフト共重合体にポリマー鎖を導入するために、ポリマー鎖及びその末端にエチレン性不飽和二重結合を有する基を含む重合性オリゴマーを用いた場合、当該重合性オリゴマーが上記溶解度を有すれば良い。また、エチレン性不飽和二重結合を有する基を含むモノマーにより共重合体が形成された後に、共重合体中に含まれる反応性基と反応可能な反応性基を含むポリマー鎖を用いて、ポリマー鎖を導入する場合、当該反応性基を含むポリマー鎖が上記溶解度を有すれば良い。
【0052】
上記ポリマー鎖は、単独重合体でもよく、共重合体であってもよい。また、一般式(II)で表される構成単位に含まれるポリマー鎖は、グラフト共重合体において、1種単独でも良いが、2種以上混合していても良い。
【0053】
上記グラフト共重合体において、前記一般式(I)で表される構成単位は、3〜80質量%の割合で含まれていることが好ましく、5〜50質量%がより好ましく、10〜40質量%がさらに好ましい。グラフト共重合体中の一般式(I)で表される構成単位の含有量が上記範囲内にあれば、グラフト共重合体中の粒子との親和性部位の割合が適切となり、かつ有機溶剤に対する溶解性の低下を抑制できるので、金属粒子に対する吸着性が良好となり、優れた分散性、及び分散安定性が得られる。
なお、上記構成単位の含有割合は、一般式(I)で表される構成単位を有するグラフト共重合体を合成する際の仕込み量から算出される。
【0054】
また、上記グラフト共重合体の質量平均分子量Mwは、1000〜100000の範囲内であることが好ましく、3000〜30000の範囲内であることがより好ましく、5000〜20000の範囲内であることがさらに好ましい。上記範囲であることにより、金属粒子を均一に分散させることができる。
【0055】
なお、上記質量平均分子量Mwは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定された値である。測定は、東ソー製のHLC−8120GPCを用い、溶出溶剤を0.01モル/リットルの臭化リチウムを添加したN−メチルピロリドンとし、校正曲線用ポリスチレンスタンダードをMw377400、210500、96000、50400、20650、10850、5460、2930、1300、580(以上、Polymer Laboratories製 Easi PS−2シリーズ)及びMw1090000(東ソー製)とし、測定カラムをTSK−GEL ALPHA−M×2本(東ソー製)として行われたものである。
【0056】
本発明に用いられる前記グラフト共重合体は、前記一般式(I)で表される構成単位と前記一般式(II)で表される構成単位以外に、更に他の構成単位を有していても良い。前記一般式(I)で表される構成単位を誘導するエチレン性不飽和二重結合含有モノマー等と共重合可能な、エチレン性不飽和二重結合含有モノマーを適宜選択して共重合し、他の構成単位を導入することができる。
中でも、本発明においては、前記グラフト共重合体が、更に、下記一般式(V)で表される構成単位を有することが好ましい。
【0057】
【化7】
(一般式(V)中、R
25は水素原子、又はメチル基、Qは、直接結合又は2価の連結基である。)
【0058】
上記一般式(V)で表される構成単位は、分散される各種粒子と吸着すると共に、還元性を有するため、吸着された粒子は酸化を抑制され、或いは、酸化物粒子は還元されるものと推定される。そのため、上記グラフト共重合体が、上記一般式(V)で表される構成単位を有する場合には、分散された粒子の酸化による分解等を抑制し、導電性基板用の微粒子分散体とした場合には、得られた導電性基板が導電率に優れたものとなる。
【0059】
上記化学式(V)において、Qは、直接結合又は2価の連結基である。直接結合とは、ピロリドンの窒素原子が、連結基を介することなく化学式(V)の炭素原子に直接結合していることを意味する。
Qにおける2価の連結基としては、例えば、炭素数1〜10のアルキレン基、アリーレン基、−CONH−基、−COO−基、炭素数1〜10のエーテル基(−R’−OR”−:R’及びR”は、各々独立にアルキレン基)及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。
化学式(V)におけるQは、直接結合、炭素数1〜10のアルキレン基、又は、−COO−基を含む2価の連結基であるものが好適に用いられる。
【0060】
(グラフト共重合体の製造方法)
本発明において、グラフト共重合体の製造方法としては、前記一般式(I)で表される構成単位と、前記一般式(II)で表される構成単位とを有するグラフト共重合体を製造することができる方法であればよく特に限定されない。例えば、下記一般式(I’)で表されるモノマーと、前記一般式(III)又は前記一般式(IV)で表される構成単位を少なくとも1種有するポリマー鎖及びその末端にエチレン性不飽和二重結合を有する基からなる重合性オリゴマーと、必要に応じて、ビニルピロリドンとを共重合成分として含有して共重合し、グラフト共重合体を製造する方法や、前記一般式(II)で表される構成単位と、グリシジル基などの反応性基を有するモノマーとを共重合した後、所望の構造を有するホスフィン酸を、反応性基を有するモノマーに付加することにより、前記一般式(I)で表される構成単位とする方法が挙げられる。必要に応じて更にその他のモノマーも用い、公知の重合手段を用いてグラフト共重合体を製造することができる。
【0061】
【化8】
(一般式(I’)中、R
1、R
2、及びAは、一般式(I)と同様である。)
【0062】
また、前記一般式(I’)で表されるモノマーとその他のエチレン性不飽和二重結合を有する基を含むモノマーとを付加重合して共重合体が形成された後に、共重合体中に含まれる反応性基と反応可能な反応性基を含むポリマー鎖を用いて、ポリマー鎖を導入しても良い。具体的には例えば、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、水素結合形成基等の置換基を有する共重合体を合成した後に、当該置換基と反応する官能基を含むポリマー鎖とを反応させて、ポリマー鎖を導入したものであっても良い。
例えば、側鎖にカルボキシル基を有する共重合体に、末端にグリシジル基を有するポリマー鎖を反応させたり、側鎖にイソシアネート基を有する共重合体に、末端にヒドロキシ基を有するポリマー鎖を反応させたりして、ポリマー鎖を導入することができる。
なお、上記重合においては、重合に一般的に用いられる添加剤、例えば重合開始剤、分散安定剤、連鎖移動剤などを用いてもよい。
【0063】
前記一般式(I’)で表されるモノマーの製造方法は、例えば、所望の構造を有するホスフィン酸化合物を、グリシジル基、オキセタン基、又は水酸基等と、エチレン性不飽和二重結合とを有する化合物と反応させることにより、得ることができる。
【0064】
上記グラフト共重合体において、前記一般式(I)で表される構成単位は、3〜80質量%の割合で含まれていることが好ましく、5〜50質量%がより好ましく、10〜40質量%がさらに好ましい。グラフト共重合体中の一般式(I)で表される構成単位の含有量が上記範囲内にあれば、粒子との親和性を有する部位の割合が適切となり、かつ有機溶剤に対する溶解性の低下を抑制できるので、金属粒子に対する吸着性が良好となり、優れた分散性、及び分散安定性が得られる。
なお、本発明において、グラフト共重合体中の構成単位の含有割合は、グラフト共重合体を合成する際の、各構成単位の仕込み量から算出される。
【0065】
また、上記グラフト共重合体において、前記一般式(V)で表される構成単位を含む場合、当該一般式(V)で表される構成単位は、5〜50質量%の割合で含まれていることが好ましく、10〜40質量%がより好ましい。
【0066】
本発明に係る分散剤で分散可能な粒子は、後述する金属粒子に限定されない。本発明の分散剤は、例えば、金属粒子、金属酸化物、顔料等を好適に分散可能である。本発明の分散剤は、前記一般式(I)で表される構成単位が、分散される粒子との親和性が高いと共に、還元性を有するため、例えば、有機顔料を分散した場合には、当該有機顔料の分散性及び分散安定性に優れていると共に、酸化による退色等を防ぐことができる。
【0067】
[導電性基板用金属粒子分散体]
本発明に係る導電性基板用金属粒子分散体は、金属粒子と、分散剤と、有機溶剤とを含有し、前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位と、下記一般式(II)で表される構成単位を有するグラフト共重合体であることを特徴とする。
【0068】
【化9】
(一般式(I)、及び一般式(II)中の各符号は、上述したとおりである。)
【0069】
本発明の導電性基板用金属粒子分散体は、金属粒子を、前記本発明に係る分散剤を用いて分散するため、有機溶剤中で、沈降を生じることなく、分散性及び分散安定性に優れ、金属粒子の酸化が抑制され、或いは、金属粒子中に含まれる金属酸化物が還元されることにより、得られた導電性基板は導電性に優れたものとなる。
【0070】
上記特定の組み合わせにより、上記のような特定の効果を発揮する作用としては、未解明の部分もあるが、以下のように推定される。
従来、金属粒子分散体は、焼成時に有機成分が残存するのを抑制するために、比較的低分子量の分散剤が用いられてきた。しかしながら、低分子量の分散剤では、分散性や分散安定性が不十分であった。特に、金属粒子は、分散体中の各成分と比較して、比重が大きいことから、保存時に金属粒子が沈降するという問題があった。
本発明の金属粒子分散体は、分散剤として、一般式(I)で表される構成単位を有するグラフト重合体を用いて金属粒子を分散することにより、分散剤中のリン含有部位が、溶媒不溶性となり、金属粒子の表面に強く吸着することで安定化するものと推定される。このように、上記特定の分散剤が、金属粒子を取り囲んで、有機溶剤中で安定して存在するため、金属粒子同士の凝集が生じにくく、分散性及び分散安定性に優れ、金属粒子が沈降することを抑制することができるものと推測される。
また、上記特定の分散剤を用いると、低温或いは短時間で焼成した場合であっても、膜中から有機成分が分解乃至除去されやすいため、分散剤の残存が少なく、得られた金属膜は体積抵抗率が低く優れた導電性を有するものとなる。このメカニズムは未解明ではあるが、上記特定の分散剤を用いると、従来の高分子分散剤と比べて、金属粒子の分散性が向上し、分散粒子が小さくなることにより融着しやすくなること、及び、上記特定の分散剤が、比較的低温であっても分解乃至揮発しやすいことが推定される。
更に、上記特定の分散剤は、一般式(I)で表される構成単位に含まれるホスフィン(P−H)部が、還元性や酸化抑制効果を有しているのではないかと推定される。これらの相乗効果で、優れた導電性を達成できると推定される。
【0071】
本発明の導電性基板用金属粒子分散体は、金属粒子と、分散剤と、有機溶剤とを含有するものであり、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて更に他の成分を含有してもよいものである。
以下、このような本発明の導電性基板用金属粒子分散体の各成分について説明するが、分散剤については、前記本発明に係る分散剤の通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0072】
<金属粒子>
本発明において金属粒子は、焼成後に導電性を生じる金属粒子の中から適宜選択すればよい。金属の種類としては、例えば、金、銀、銅、ニッケル、スズ、鉄、クロム、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム、インジウム、亜鉛、モリブデン、マンガン、チタン、アルミニウム等が挙げられる。なお、本発明において金属粒子とは、金属状態の粒子に加えて、合金状態の粒子や、金属化合物の粒子等も含まれるものである。また、例えば、金属状態の粒子の表面が酸化されて金属酸化物となっている場合や、2種以上の金属がコアシェル構造を形成している場合等のように、1つの粒子中に、金属、合金、及び金属化合物の1種以上が含まれていてもよいものである。
金属粒子としては、中でも、高い導電性を有し、かつ微粒子を容易に維持できる点から、金、銀、銅、ニッケル及びこれらの酸化物から選ばれる1種以上を含む金属粒子であることが好ましく、金、銀、銅及びこれらの酸化物から選ばれる1種以上を含む金属粒子であることがより好ましい。
【0073】
上記金属化合物としては、例えば、金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物等が挙げられる。これらの金属化合物は、焼成時に分解されて、金属状態となるものが好ましい。銀を有する金属化合物としては、例えば、酸化銀、有機銀化合物等が挙げられる。また、銅を有する金属化合物としては、例えば、酸化第一銅、酸化第二銅、及びこれらの混合物などの銅酸化物等が挙げられる。
また、合金としては、例えば、銅−ニッケル合金、銀−パラジウム合金、銅−スズ合金、銀−銅合金、銅−マンガン合金等が挙げられる。
上記金属粒子は、有機保護剤によって表面が被覆されているものであってもよい。
【0074】
金属粒子は、上記金属、合金、及び金属化合物粒子の1種以上を含む金属粒子のうち、1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0075】
上記金属粒子の調製方法は、従来公知の方法から適宜選択すればよい。例えば、メカノケミカル法などにより金属粉を粉砕する物理的な方法;化学気相法(CVD法)や蒸着法、スパッタ法、熱プラズマ法、レーザー法のような化学的な乾式法;熱分解法、化学還元法、電気分解法、超音波法、レーザーアブレーション法、超臨界流体法、マイクロ波合成法等による化学的な湿式法等を用いて金属粒子を得ることができる。
【0076】
例えば、蒸着法では、高真空下で分散剤を含む低蒸気圧液体中に加熱蒸発した金属の蒸気を接触させて微粒子を製造する。
また、化学還元法の1種としては、錯化剤及び有機保護剤の存在下で、金属酸化物と還元剤とを有機溶剤中で混合して生成する方法が挙げられる。
【0077】
上記錯化剤とは、当該錯化剤が有する配位子のドナー原子と、金属イオン又は金属原子とが結合して、金属錯体化合物を形成するものである。上記ドナー原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子が好適に挙げられる。窒素原子がドナー原子である錯化剤としては、例えば、アミン類、イミダゾール及びピリジン等の窒素含有複素環式化合物類等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、上記有機保護剤は、精製した金属粒子の分散安定化や、粒径制御のために用いられるものであり、具体的には、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等のタンパク質系;デンプン、デキストリン等の天然高分子;ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系;ポリビニルアルコール等の親水性合成高分子の他、脂肪酸、アルキルアミン等の比較的低分子量の化合物であってもよい。中でも、分散安定性の点からは、タンパク質系の有機保護剤が好ましい。
なお、上記の方法の他、市販の金属粒子を適宜用いることができる。
【0078】
金属粒子の平均一次粒径は、用途に応じて適宜設定すればよいものであるが、通常、1〜1000nmの範囲で設定される。中でも、分散性、分散安定性に優れ、沈降物を生じにくい点から、金属粒子の平均一次粒径が2〜500nmであることが好ましい。
なお、上記金属粒子の平均一次粒径は、電子顕微鏡写真から一次粒子の大きさを直接計測する方法で求めることができる。具体的には、個々の一次粒子の短軸径と長軸径を計測し、その平均をその粒子の粒径とした。次に100個以上の粒子についてそれぞれ粒子の体積(質量)を、求めた粒径の直方体と近似して求め、体積平均粒径として求めそれを平均粒径とした。なお、電子顕微鏡は透過型(TEM)、走査型(SEM)又は走査透過型(STEM)のいずれを用いても同じ結果を得ることができる。
【0079】
本発明の導電性基板用金属粒子分散体において、金属粒子の含有量は、用途に応じて適宜選択されれば良いが、分散性の点から、金属粒子分散体の全量に対して、5〜95質量%であることが好ましく、更に、20〜90質量%の範囲内であることがより好ましい。本発明においては、後述する分散剤と組み合わせて用いることにより、従来に比べて金属粒子の含有量を高めた場合であっても、金属粒子の分散性や分散安定性に優れ、沈降物を生じにくいものとすることができる。
【0080】
<有機溶剤>
本発明の金属粒子分散体において、有機溶剤は、金属粒子分散体中の各成分とは反応せず、これらを溶解もしくは分散可能な有機溶剤であればよく、特に限定されない。具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、N−プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系;メトキシアルコール、エトキシアルコール、メトキシエトキシエタノール、エトキシエトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテルアルコール系;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸3−メトキシブチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、乳酸エチルなどのエステル系;アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトンなどのケトン系;メトキシエチルアセテート、メトキシプロピルアセテート、メトキシブチルアセテート、エトキシエチルアセテート、エチルセロソルブアセテート、メトキシエトキシエチルアセテート、エトキシエトキシエチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエーテルアルコールアセテート系;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどの非プロトン性アミド系;γ−ブチロラクトンなどのラクトン系;ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレンなどの不飽和炭化水素系;n−ヘプタン、n−ヘキサン、n−オクタンなどの飽和炭化水素系などの有機溶剤が挙げられる。
【0081】
これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテルアルコール系;メトキシエチルアセテート、エトキシエチルアセテート、エチルセロソルブアセテート、メトキシエトキシエチルアセテート、エトキシエトキシエチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエーテルアルコールアセテート系;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル系;酢酸3−メトキシブチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、乳酸エチルなどのエステル系等を好適に用いることができる。
中でも、本発明に用いられる有機溶剤としては、MBA(酢酸3−メトキシブチル)、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、DMDG(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、PGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)又はこれらを混合したものが、分散剤の溶解性や塗布適性の点から好ましい。
【0082】
本発明の金属粒子分散体における有機溶剤の含有量は、該金属粒子分散体の各構成を均一に溶解又は分散することができるものであればよく、特に限定されない。本発明においては、該金属粒子分散体中の固形分含有量が、5〜95質量%の範囲が好ましく、20〜90質量%の範囲がより好ましい。上記範囲であることにより、塗布に適した粘度とすることができる。
【0083】
<その他の成分>
本発明の金属粒子分散体には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、例えば、錯化剤、有機保護剤、還元剤、濡れ性向上のための界面活性剤、密着性向上のためのシランカップリング剤、消泡剤、ハジキ防止剤、酸化防止剤、凝集防止剤、粘度調製剤等が挙げられる。また、本発明の効果が損なわれない限り、他の分散剤が含まれていてもよい。
【0084】
<金属粒子分散体の製造方法>
本発明において、金属粒子分散体の製造方法は、金属粒子が良好に分散できる方法であればよく、従来公知の方法から適宜選択して用いることができる。具体的には、例えば、前記分散剤を前記有機溶剤に混合、攪拌し、分散剤溶液を調製した後、当該分散剤溶液に、金属粒子と、必要に応じて他の成分を混合し、公知の攪拌機、又は分散機等を用いて分散させることによって、金属粒子分散体を調製することができる。
分散処理を行うための分散機としては、超音波分散機、2本ロール、3本ロール等のロールミル、アトライター、バンバリーミキサー、ペイントシェイカー、ニーダー、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、ビーズミル等が挙げられる。
【0085】
[導電性基板の製造方法]
本発明に係る導電性基板の製造方法は、金属粒子と、分散剤と、有機溶剤とを含有し、前記分散剤が、下記一般式(I)で表される構成単位と、下記一般式(II)で表される構成単位を有するグラフト共重合体である、導電性基板用金属粒子分散体を含む塗布液を、基材上に塗布して塗膜を形成する工程と、当該塗膜を焼成処理する工程とを有することを特徴とする。
【0086】
【化10】
(一般式(I)、及び一般式(II)中の各符号は、上述したとおりである。)
【0087】
本発明の導電性基板の製造方法によれば、焼結後の有機成分の残存が抑制され、優れた導電性を有する導電性基板が得られる。
【0088】
本発明の導電性基板の製造方法は、少なくとも塗膜を形成する工程と、当該塗膜を焼成処理する工程とを有するものであり、本発明の効果が損なわれない限り、必要に応じて他の工程を有していてもよいものである。
以下、このような本発明の導電性基板の製造方法の各工程について、順に説明する。
【0089】
<導電性基板用金属粒子分散体を含む塗布液を、基材上に塗布して塗膜を形成する工程>
本工程は、導電性基板用金属粒子分散体を含む塗布液を基材上に塗布して塗膜を形成する工程である。以下、本工程の詳細を説明する。なお、当該導電性基板用金属粒子分散体の構成成分は、上記本発明に係る導電性基板用金属粒子分散体と同様のものとすることができるのでここでの説明は省略する。
【0090】
(導電性基板用金属粒子分散体を含む塗布液)
導電性基板用金属粒子分散体を含む塗布液は、上記本発明に係る導電性基板用金属粒子分散体をそのまま塗布液とすることもできるが、必要に応じて、有機溶剤や、その他の成分を加えて塗布液としてもよいものである。
有機溶剤及びその他の成分としては、例えば、上記本発明に係る導電性基板用金属粒子分散体で挙げられた有機溶剤や、界面活性剤、シランカップリング剤、消泡剤、ハジキ防止剤、酸化防止剤、凝集防止剤、粘度調整剤等を用いることができる。更に、本発明の効果が損なわれない範囲で、造膜性、印刷適性や分散性の点から、アクリル樹脂やポリエステル樹脂等の樹脂バインダーを添加してもよい。
【0091】
(基材)
本発明に用いられる基材は、導電性基板に用いられる基材の中から、用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、高歪点ガラス、石英ガラス等のガラス、アルミナ、シリカなどの無機材料を用いることができ、さらに高分子材料や、紙などを用いることもできる。前記本発明に係る導電性基板用金属微粒子分散体は、従来よりも低温で焼成処理しても導電性に優れた金属膜が得られることから、従来適用が困難であったソーダライムガラスや、高分子材料であっても好適に用いることができ、特に樹脂フィルムを用いることができる点で非常に有用である。
【0092】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ガラス−エポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリノルボルネン等のポリシクロオレフィン、液晶性高分子化合物等が挙げられる。
【0093】
また、基材表面には、前記金属粒子分散体を含む塗布液の塗膜をパターン状に形成した場合におけるパターンの形状を制御したり、前記金属粒子分散体を含む塗布液の塗膜との間の密着性を付与するための処理を行ってもよい。基材表面の処理方法としては、従来公知の方法の中から適宜選択することができる。具体的には、例えば、コロナ処理、UV処理、真空紫外ランプ処理、プラズマ処理などのドライ処理、アミン系シランカップリング剤、イミダゾール系シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミニウムカップリング剤処理などの薬液処理、多孔質シリカや、セルロース系受容層などの多孔質膜形成処理、活性エネルギー線硬化型樹脂層、熱硬化型樹脂層、熱可塑性樹脂層などの樹脂層形成処理を行うことができる。当該処理により、基材表面に撥液性を持たせることにより、基材に金属粒子分散体を含む塗布液の塗膜をパターン状に形成した際、塗布液の濡れ広がりを抑え、高精細なパターンを形成することが可能である。また、基材表面に多孔質膜などのインク受容層を形成することにより、溶媒成分が浸透し、高精細なパターンを形成することが可能である。逆に、基材表面に親液性を持たせることで、基材に対する塗布性を向上させることができる。これらの基材表面の処理は、用途や目的に応じて使い分けることができる。
【0094】
当該基材の形状は、用途に応じて適宜選択すればよく、平板状であっても、曲面を有するものであってもよいが、通常は平板状である。平板状の基材を用いる場合、当該基材の厚みは、用途に応じて適宜設定すればよく、例えば10μm〜1mm程度のものとすることができる。
【0095】
(塗布方法)
上記塗布液を上記基材上に塗布する方法は、従来公知の方法の中から適宜選択すればよい。例えば、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、反転オフセット印刷、スクリーン印刷、スプレーコート、スピンコート、コンマコート、バーコート、ナイフコート、スロットダイコート、オフセット印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、ディスペンサ印刷等の方法が挙げられる。中でも、微細なパターニングを行うことができる点から、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、反転オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、及びインクジェット印刷が好ましい。特に、本発明において用いられる金属粒子分散体は、分散性に優れているため、インクジェットの吐出ノズルにつまりが生じたり、吐出曲がりが生じることがないため、インクジェット印刷にも好適に用いることができる。
【0096】
基材上の塗布液は、印刷後、通常の方法で乾燥してもよい。乾燥後の印刷部分の膜厚は、適宜塗布量や金属粒子の平均一次粒子径等を変化させて制御することができ、用途に応じて適宜調整すればよいものであるが、通常、0.01〜50μmの範囲であり、好ましくは、0.1〜20μmである。
【0097】
<塗膜を焼成処理する工程>
本工程は、上記工程で得られた塗膜を焼成処理して、金属膜を形成する工程である。
焼成方法は、従来公知の焼成処理方法の中から適宜選択して用いることができる。焼成方法の具体例としては、例えば、焼成炉(オーブン)により加熱する方法の他、赤外線加熱、還元ガス雰囲気下での焼成、レーザーアニールによる焼成、マイクロ波加熱などの方法が挙げられる。
本発明の導電性基板用金属粒子分散体は、低温で焼成した場合や、短時間で焼成した場合であっても有機成分の残留が少ない金属膜を形成することが可能であるため、従来の方法よりも低温で焼成処理してもよい。
【0098】
本発明においては、中でも、焼成処理する工程が、マイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマにより焼成処理する工程(以下、プラズマ焼成と称することがある。)、又は、パルス光の照射により焼成処理する工程(以下、パルス光焼成と称することがある。)のいずれかであることが、有機成分の残留が少なく導電性に優れた金属膜が得られる点から好ましい。
これらの方法を用いると、基材への熱ダメージを少なくすることができると共に、焼成時の金属の酸化も抑制できる。また、短時間焼成であるため、生産性が高いというメリットもある。
【0099】
(プラズマ焼成)
マイクロ波表面波プラズマを用いた焼成は、不活性ガス雰囲気下又は還元性ガス雰囲気下で行うのが、得られる焼結膜の導電性の観点から好ましい。
特に、本発明においては、マイクロ波表面波プラズマを、還元性ガス雰囲気下で発生させることが好ましく、中でも、水素ガス雰囲気下で発生させることがより好ましい。これにより、金属粒子表面に存在する絶縁性の酸化物が還元除去され、導電性能の良好な導電パターンが形成される。
【0100】
還元性雰囲気を形成する還元性気体としては、水素、一酸化炭素、アンモニアなどのガス、或いはこれらの混合ガスが挙げられるが、特に、副生成物が少ない点で水素ガスが好ましい。
なお、還元性気体には、窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、クリプトン、キセノン等の不活性ガスを混合して用いれば、プラズマが発生しやすくなるなどの効果がある。
【0101】
マイクロ波表面波プラズマ処理の前に、金属粒子分散体を含む塗布液を塗布した塗膜に含まれる分散剤等の有機物を除去するために、大気下又は酸素を含む雰囲気下、50〜200℃程度の温度で1分から2時間程度焼成してもよい。なお、この処理は減圧下で行ってもよい。この焼成により、有機物が酸化分解除去され、マイクロ波表面波プラズマ処理において、金属粒子の焼結が促進される。
【0102】
前記マイクロ波表面波プラズマの発生方法は、従来公知の方法の中から適宜選択すればよい。例えば、減圧状態の焼成処理室の照射窓からマイクロ波エネルギーを供給し、該焼成処理室内に照射窓に沿う表面波プラズマを発生させる無電極プラズマ発生手段等を用いることができる。
【0103】
上記無電極プラズマ発生手段の具体例としては、例えば、焼成処理室の照射窓から周波数2450MHzのマイクロ波エネルギーを供給し、該処理室内に、電子温度が約1eV以下、電子密度が1×10
11〜1×10
13cm
−3のマイクロ波表面波プラズマを発生させることができる。
なお、マイクロ波エネルギーは、一般に周波数が300MHz〜3000GHzの電磁波であるが、例えば、2450MHzの電磁波が用いられる。この際、マイクロ波発振装置にマグネトロンを用いた場合には、精度誤差等のために2450MHz/±50MHzの周波数範囲を持っている。
【0104】
このようなマイクロ波表面波プラズマは、プラズマ密度が高く、電子温度が低い特性を有し、前記塗膜を低温かつ短時間で焼成処理することが可能であり、緻密かつ平滑な金属粒子焼結膜を形成することができる。マイクロ波表面波プラズマは、処理面に対して、面内で均一の密度のプラズマが照射される。その結果、他の焼成方式と比べて、面内で部分的に粒子の焼結が進行する等、不均一な膜が形成されることが少なく、また粒成長を防ぐことができるため、非常に緻密で、平滑な膜が得られる。また、面内処理室内に電極を設ける必要がないので、電極由来の不純物のコンタミネーションを防ぐことができ、また処理材料に対して異常な放電によるダメージを防ぐことができる。
更に、マイクロ波表面波プラズマは、電子温度が低いため、基材をエッチングする能力が小さく、基材に対するダメージを小さくすることができると推察される。
【0105】
(パルス光焼成)
パルス光焼成とは、パルス光の照射により極めて短時間で焼成する方法である。ここで、本発明においてパルス光とは、点灯時間が比較的短時間の光のことをいい、当該点灯時間をパルス幅という。パルス光の光源は特に限定されないが、キセノン等の希ガスが封入されたフラッシュランプやレーザー等が挙げられる。中でも、紫外線から赤外線までの連続的な波長スペクトルをもつ光を照射することが好ましく、具体的には、キセノンフラッシュランプを用いることが好ましい。このような光源を用いた場合には、加熱と同時にUV照射を行ったのと同様の効果を得ることができ、極めて短時間で焼成が可能となる。また、このような光源を用いた場合には、パルス幅と照射エネルギーを制御することにより、金属粒子分散体を含む塗布液の塗膜、及びその近傍のみを加熱することができ、基材に対する熱の影響を抑えることができる。
本発明において、パルス光のパルス幅は、適宜調整すればよいものであるが、1μs〜10000μsの間で設定されることが好ましく、10μs〜5000μsの範囲内とすることがより好ましい。また、パルス光の1回あたりの照射エネルギーは、0.1J/cm
2〜100J/cm
2が好ましく、0.5J/cm
2〜50J/cm2がより好ましい。
パルス光焼成においてパルス光の照射回数は、塗膜の組成や、膜厚、面積などに応じて適宜調整すればよく、照射回数は1回のみであってもよく、2回以上繰り返し行ってもよい。中でも、照射回数を1〜100回とすることが好ましく、1〜50回とすることが好ましい。パルス光を複数回照射する場合には、パルス光の照射間隔は適宜調整すればよい。中でも照射間隔を10μ秒〜2秒の範囲内で設定することが好ましく、100μ秒〜1秒の範囲内に設定することがより好ましい。
パルス光を上記のように設定することにより、基材への影響を抑えるとともに、金属粒子の酸化を抑制することが可能であり、且つ、金属粒子分散体に含まれる分散剤も脱離乃至分解しやすく導電性に優れた導電性基板を得ることができる。
【0106】
このようなパルス光焼成は、金属粒子分散体を含む塗布液の塗膜、及びその近傍のみを加熱することができ、前記塗膜を低温かつ短時間で焼成処理することが可能であり、緻密かつ平滑な金属粒子焼結膜を形成することができる。パルス光焼成は、パルス光のパルス幅と照射エネルギーを適宜調整することで、加熱温度と処理深さを制御することができる。その結果、不均一な膜が形成されることが少なく、また粒成長を防ぐことができるため、非常に緻密で、平滑な膜が得られる。また、極めて短時間で焼成が可能であるので、金属粒子の酸化を抑えることができ、導電性に優れた焼結膜を得ることができる。
上記パルス光焼成は、大気中、大気圧下で行うことが可能であるが、不活性雰囲気下、還元雰囲気下、減圧下で行ってもよい。また、塗膜を加熱しながら、パルス光焼成を行ってもよい。
【0107】
このようにして得られた導電性基板の金属膜の厚みは、用途に応じて適宜調整すればよいものであるが、通常、厚みが0.01〜50μm程度であり、0.05〜30μmであることが好ましく、0.1〜20μmであることがより好ましい。
また、上記金属膜の体積抵抗率は、1.0×10
−4Ω・cm以下であることが好ましい。
【0108】
本発明の製造方法は、基材上に、金属粒子分散体を含む塗布液をパターン状に塗布して、塗布膜を形成し、該塗布膜を焼成処理して、パターン状の金属膜を形成するパターン状導電性基板の製造方法であってもよい。
【0109】
本発明の導電性基板の製造方法により得られた導電性基板は、焼結後の有機成分の残存が抑制され、優れた導電性を有する。このような導電性基板を用いた電子部材としては、表面抵抗の低い電磁波シールド用フィルム、導電膜、フレキシブルプリント配線板などに有効に利用することができる。
【実施例】
【0110】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。
【0111】
(合成例1 銅粒子の製造)
酸化第二銅64gと、有機保護剤としてゼラチン5.1gを650mLの純水に添加し、混合して混合液とした。15%のアンモニア水を用いて、当該混合液のpHを10に調整した後、20分かけて室温から90℃まで昇温した。昇温後、攪拌しながら錯化剤として1%のメルカプト酢酸溶液6.4gと、80%のヒドラジン一水和物75gを150mLの純水に混合した液を添加し、1時間かけて酸化第二銅と反応させて、銅粒子を得た。得られた銅粒子を走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察したところ、平均一次粒径は、50nmであった。
【0112】
(合成例2 リン含有モノマー1の合成)
冷却管、添加用ロート、機械的攪拌機、デジタル温度計を備えた反応器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)100.23質量部とフェニルホスフィン酸(東京化成製)50.00質量部、p−メトキシフェノール0.13質量部を仕込み、乾燥空気でバブリングしながら、温度100℃まで加温した。PGMEA50.00質量部、メタクリル酸グリシジル50.02質量部の混合溶液を30分かけて滴下し、1時間加熱攪拌することで、下記化学式(1)で表されるリン含有モノマー1の40.00%溶液を得た。
1H−NMR測定によりエポキシ基の消失を確認した。また、
31P−NMR測定によりホスフィン酸エステルの生成を確認した。
【0113】
【化11】
【0114】
(合成例3 リン含有モノマー2の合成)
冷却管、添加用ロート、機械的攪拌機、デジタル温度計を備えた反応器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)70.00質量部と次亜リン酸溶液(Wako製)50.00質量部、p−メトキシフェノール0.14質量部を仕込み、乾燥空気でバブリングしながら、温度100℃まで加温した。PGMEA48.48質量部、メタクリル酸グリシジル53.84質量部の混合溶液を30分かけて滴下し、1時間加熱攪拌することで、下記化学式(2)で表されるリン含有モノマー2の35.50%溶液を得た。
1H−NMR測定によりエポキシ基の消失を確認した。また、
31P−NMR測定によりホスフィン酸エステルの生成を確認した。
【0115】
【化12】
【0116】
(比較合成例1 リン含有モノマー3の合成)
冷却管、添加用ロート、窒素用インレット、機械的攪拌機、デジタル温度計を備えた反応器に、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(EMDG)142.61質量部とフェニルホスホン酸(日産化学製)50.00質量部、p−メトキシフェノール0.10質量部を仕込み、窒素気流下攪拌しながら、温度120℃まで加温した。メタクリル酸グリシジル44.96質量部を30分かけて滴下し、2時間加熱攪拌することで、ホスフィン(P−H)部位を有しないリン含有モノマー3の40.0質量%溶液を得た。
1H−NMR測定によりエポキシ基の消失を確認した。また、
31P−NMR測定によりホスホン酸エステルの生成を確認した。
【0117】
(合成例4 マクロモノマーMM−1の合成)
冷却管、添加用ロート、窒素用インレット、機械的攪拌機、デジタル温度計を備えた反応器に、PGMEA 100.0質量部を仕込み、窒素気流下攪拌しながら、温度90℃に加温した。メタクリル酸メチル50.0質量部、メタクリル酸ブチル15.0質量部、メタクリル酸ベンジル15.0質量部、メタクリル酸エトキシエチル20.0質量部、2−メルカプトエタノール4.0質量部、パーブチルO(日油製)1.3質量部の混合溶液を1.5時間かけて滴下し、さらに3時間反応した。次に、窒素気流を止めて、この反応溶液を80℃に冷却し、カレンズMOI(昭和電工製)8.74質量部、ジラウリン酸ジブチルすず0.125質量部、p−メトキシフェノール0.125質量部、及びPGMEA10質量部、を加えて3時間攪拌することで、マクロモノマーMM−1の49.8質量%溶液を得た。得られたマクロモノマーMM−1を、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)にて、N−メチルピロリドン、0.01mol/L臭化リチウム添加/ポリスチレン標準の条件で確認したところ、質量平均分子量(Mw)3657、数平均分子量(Mn)1772、分子量分布(Mw/Mn)は2.06であった。
【0118】
(実施例1 グラフト共重合体GP−1の合成)
冷却管、添加用ロート、窒素用インレット、機械的攪拌機、デジタル温度計を備えた反応器に、PGMEA85.0質量部を仕込み、窒素気流下攪拌しながら、温度85℃に加温した。1−ビニル−2−ピロリドン8.33質量部、合成例2のリン含有モノマー1を20.82質量部、合成例4のマクロモノマーMM−1溶液66.93質量部(有効固形分33.33質量部)、n−ドデシルメルカプタン1.25質量部、PGMEA20.0質量部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.5質量部の混合溶液を1.5時間かけて滴下し、3時間加熱攪拌したのち、AIBN0.10質量部、PGMEA10.0質量部の混合液を10分かけて滴下し、さらに同温で1時間熟成することで、グラフト共重合体GP−1の24.8質量%溶液を得た。得られたグラフト共重合体GP−1は、GPC測定の結果、質量平均分子量(Mw)10235、数平均分子量(Mn)4264、分子量分布(Mw/Mn)は2.40であった。
【0119】
(実施例2 グラフト共重合体GP−2の合成)
冷却管、添加用ロート、窒素用インレット、機械的攪拌機、デジタル温度計を備えた反応器に、PGMEA85.0質量部を仕込み、窒素気流下攪拌しながら、温度85℃に加温した。合成例2のリン含有モノマー1を41.63質量部、合成例4のマクロモノマーMM−1溶液66.93質量部(有効固形分33.33質量部)、n−ドデシルメルカプタン1.25質量部、PGMEA20.0質量部、AIBN0.5質量部の混合溶液を1.5時間かけて滴下し、3時間加熱攪拌したのち、AIBN0.10質量部、PGMEA10.0質量部の混合液を10分かけて滴下し、さらに同温で1時間熟成することで、グラフト共重合体GP−2の23.5質量%溶液を得た。得られたグラフト共重合体GP−2は、GPC測定の結果、質量平均分子量(Mw)11050、数平均分子量(Mn)4702、分子量分布(Mw/Mn)は2.35であった。
【0120】
(実施例3 グラフト共重合体GP−3の合成)
冷却管、添加用ロート、窒素用インレット、機械的攪拌機、デジタル温度計を備えた反応器に、PGMEA85.0質量部を仕込み、窒素気流下攪拌しながら、温度85℃に加温した。1−ビニル−2−ピロリドン8.33質量部、合成例3のリン含有モノマー2を23.46質量部、合成例4のマクロモノマーMM−1溶液66.93質量部(有効固形分33.33質量部)、n−ドデシルメルカプタン1.25質量部、PGMEA20.0質量部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.5質量部の混合溶液を1.5時間かけて滴下し、3時間加熱攪拌したのち、AIBN0.10質量部、PGMEA10.0質量部の混合液を10分かけて滴下し、さらに同温で1時間熟成することで、グラフト共重合体GP−3の24.00質量%溶液を得た。得られたグラフト共重合体GP−3は、GPC測定の結果、質量平均分子量(Mw)12500、数平均分子量(Mn)4800、分子量分布(Mw/Mn)は2.60であった。
【0121】
(実施例4 グラフト共重合体GP−4の合成)
冷却管、添加用ロート、窒素用インレット、機械的攪拌機、デジタル温度計を備えた反応器に、PGMEA85.0質量部を仕込み、窒素気流下攪拌しながら、温度85℃に加温した。合成例3のリン含有モノマー2を46.92質量部、合成例4のマクロモノマーMM−1溶液66.93質量部(有効固形分33.33質量部)、n−ドデシルメルカプタン1.25質量部、PGMEA20.0質量部、AIBN0.5質量部の混合溶液を1.5時間かけて滴下し、3時間加熱攪拌したのち、AIBN0.10質量部、PGMEA10.0質量部の混合液を10分かけて滴下し、さらに同温で1時間熟成することで、グラフト共重合体GP−4の22.40質量%溶液を得た。得られたグラフト共重合体GP−4は、GPC測定の結果、質量平均分子量(Mw)10420、数平均分子量(Mn)4220、分子量分布(Mw/Mn)は2.47であった。
【0122】
(比較例1 グラフト共重合体GP−5の合成)
実施例1において、合成例2のリン含有モノマー1の代わりに、比較合成例1のホスフィン(P−H)部位を有しないリン含有モノマー3を20.82質量部用いた以外は、実施例1と同様にして、グラフト共重合体GP−5の24.8質量%溶液を得た。得られたグラフト共重合体GP−5は、GPC測定の結果、質量平均分子量(Mw)11030、数平均分子量(Mn)4300、分子量分布(Mw/Mn)は2.57であった。
【0123】
(実施例5 金属粒子分散体の調製)
合成例1で得られた銅粒子6.0質量部、実施例1で得られたグラフト共重合体GP−1 1.81質量部、PGMEA7.19質量部を混合し、ペイントシェーカー(浅田鉄工製)にて予備分散として2mmジルコニアビーズで1時間、さらに本分散として0.1mmジルコニアビーズ4時間分散し、金属粒子分散体1を得た。
【0124】
(実施例6 金属粒子分散体の調製)
実施例5において、グラフト共重合体GP−1の代わりに、実施例2のグラフト共重合体GP−2 1.91質量部を用いた以外は、実施例5と同様にして金属粒子分散体2を得た。
【0125】
(実施例7 金属粒子分散体の調製)
実施例5において、グラフト共重合体GP−1の代わりに、実施例3のグラフト共重合体GP−3 1.88質量部を用いた以外は、実施例5と同様にして金属粒子分散体3を得た。
【0126】
(実施例8 金属粒子分散体の調製)
実施例5において、グラフト共重合体GP−1の代わりに、実施例4のグラフト共重合体GP−4 2.01質量部を用いた以外は、実施例5と同様にして金属粒子分散体4を得た。
【0127】
(実施例9 金属粒子分散体の調製)
実施例5において、銅粒子の代わりに、コアシェル粒子(コア(銅)、シェル(酸化銅))(QSI−Nano製:平均一次粒径35nm)6.0質量部を用いた以外は、実施例5と同様にして金属粒子分散体5を得た。
【0128】
(実施例10 金属粒子分散体の調製)
実施例5において、銅粒子の代わりに、コアシェル粒子(コア(銅)、シェル(酸化銅))(QSI−Nano製:平均一次粒径35nm)6.0質量部を用い、グラフト共重合体GP−1の代わりに、実施例2のグラフト共重合体GP−2 1.91質量部を用いた以外は、実施例5と同様にして金属粒子分散体6を得た。
【0129】
(比較例2 比較金属粒子分散体の調製)
実施例5において、グラフト共重合体GP−1の代わりに、ポリビニルピロリドン(質量平均分子量10,000、日本触媒製、K−15)を固形分換算で0.45質量部とし、PGMEAの代わりにIPA8.55質量部とした以外は、実施例5と同様にして比較金属粒子分散体1を得た。
【0130】
(比較例3 比較金属粒子分散体の調製)
実施例5において、グラフト共重合体GP−1の代わりに、ポリビニルピロリドン(質量平均分子量10,000、日本触媒製、K−15)を固形分換算で0.45質量部を用いた以外は、実施例5と同様にして比較金属粒子分散体2を得た。
【0131】
(比較例4 比較金属粒子分散体の調製)
実施例5において、グラフト共重合体GP−1の代わりに、比較例1のグラフト共重合体GP−5 1.81質量部を用いた以外は、実施例5と同様にして比較金属粒子分散体3を得た。
【0132】
(比較例5 比較金属粒子分散体の調製)
比較例2において、銅粒子の代わりに、コアシェル粒子(コア(銅)、シェル(酸化銅))(QSI−Nano製:平均一次粒径35nm)6.0質量部を用いた以外は比較例2と同様にして、比較金属粒子分散体4を得た。
【0133】
(比較例6 比較金属粒子分散体の調製)
比較例3において、銅粒子の代わりに、コアシェル粒子(コア(銅)、シェル(酸化銅))(QSI−Nano製:平均一次粒径35nm)6.0質量部を用いた以外は比較例3と同様にして、比較金属粒子分散体5を得た。
【0134】
(評価)
(1)金属粒子分散体の分散性評価
金属粒子の分散性の評価として、各実施例及び比較例で得られた金属粒子分散体中の金属粒子の平均分散粒径の測定を行った。平均分散粒径の測定には、日機装製「マイクロトラック粒度分布計UPA−EX150」を用いた。
また、各実施例及び比較例で得られた金属粒子分散体を、冷蔵(5℃)で1週間静置し、静置後の金属微粒子分散体中の沈降物を目視で観察した。
[分散性評価基準]
○:平均分散粒径が150nm以下で且つ沈降物なし
×:平均分散粒径が150nm超過で且つ沈降物あり
分散性の評価結果を表1に示す。
【0135】
(2)導電性基板の製造
各実施例及び比較例で得られた金属粒子分散体を、ポリイミドフィルム(商品名:カプトン300H、東レ・デュポン製、厚さ75μm)上にワイヤーバーで塗布して、100℃で15分乾燥して、膜厚が1μmの塗膜とした。
パルスドキセノンランプ装置(SINTERON 2000 (Xenon Corporation製))を用いて、パルス幅500μ秒、印加電圧3.8kVで1回照射して、光焼成により導電性基板を作製した。
【0136】
<塗布適性評価>
各実施例及び比較例で得られた金属粒子分散体の塗膜を形成した後、焼成前に金属粒子分散体の塗膜の膜質を目視で観察することにより塗布適性評価を行った。
[塗布適性評価基準]
○:はじきがなく、塗膜が均一である。
×:はじきがあり、塗膜が不均一である。
【0137】
<導電性評価>
光焼成を行い得られた導電性基板について、導電性評価を行った。
表面抵抗計(ダイアインスツルメンツ製「ロレスタGP」、PSPタイププローブ)を用いて、各実施例及び比較例の導電性基板の金属膜に4探針を接触させ、4探針法によりシート抵抗値を測定した。結果を表1に示す。シート抵抗値が低いほど導電性に優れている。なお、本測定法によるシート抵抗値の測定上限は10
8Ω/□であった。
【0138】
【表1】
【0139】
[結果のまとめ]
実施例1〜4により得られた、一般式(I)で表される構成単位と、一般式(II)で表される構成単位を有するグラフト共重合体GP−1〜GP−4を用いた、実施例5〜10の金属粒子分散体は沈降物を生じず、分散性に優れていた。また、実施例5〜10の金属粒子分散体の塗膜は、はじきがなく均一な塗膜を形成することができた。更に、実施例5〜10の金属粒子分散体を用いて形成された導電性基板は導電性に優れていた。比較例3及び比較例6の通り、分散剤としてポリビニルピロリドンを用いた場合には、PGMEA中で、金属粒子を分散することができなかった。比較例2及び5の通り、溶剤を水性溶剤であるIPAとすることにより、ポリビニルピロリドンを用いて金属粒子を分散することは可能であるが、平均分散粒径が大きく、沈降物が生じていた。比較例2及び5の通り水性溶剤を用いた金属粒子分散体は、はじきが生じ、均一に塗布することができなかった。また、このような比較例2及び5の金属粒子分散体を用いて得られた導電性基板は、実施例よりも導電性が劣るものであった。
比較例4の金属微粒子分散体は、沈降物を生じず、分散性に優れ、塗布適性も良好であった。しかしながら、比較例4の導電性基板は、実施例5〜10よりも導電性が劣っていた。比較例4の分散剤は、ホスフィン(P−H)部位を有しないため、還元性が弱く、金属粒子の酸化抑制が不十分であったと推測される。一方、実施例1〜4により得られた、一般式(I)で表される構成単位と、一般式(II)で表される構成単位を有するグラフト共重合体GP−1〜GP−4は、一般式(I)で表される構成単位が、還元性を有するホスフィン(P−H)部位を有するため、吸着した金属粒子の酸化を抑制し、優れた導電性が得られたものと推定される。実施例9及び10の結果から、本発明の分散剤を用いることにより、表面が酸化銅であるコアシェル粒子を用いた場合であっても優れた導電性が得られることが明らかとなった。