(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第一内側軌道面と第二内側軌道面とを外周面に有する内側部材と、前記第一内側軌道面に対向する第一外側軌道面と前記第二内側軌道面に対向する第二外側軌道面とを有し前記内側部材の外側に配置された外側部材と、前記第一内側軌道面と前記第一外側軌道面との間及び前記第二内側軌道面と前記第二外側軌道面との間にそれぞれ転動自在に配置された転動体と、を備え、前記内側部材は、外周面に直接又は内側軌道輪部材を介して前記第一内側軌道面が形成されたハブ輪と、外周面に前記第二内側軌道面が形成された内輪とが一体的に固定されてなる車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法であって、
前記ハブ輪の軸方向一端部に形成された円筒部を前記内輪に挿通し、前記内輪よりも軸方向端部側に突出する前記円筒部の先端部分に金型を押圧して揺動加締め加工を行い、前記円筒部の先端部分を径方向外方に加締め広げて形成した加締め部で前記内輪の軸方向端面を押さえることにより、前記内輪と前記ハブ輪とを一体的に固定するに際して、前記揺動加締め加工の揺動角度を15°以上30°以下とし、
前記加締め部のうち、前記円筒部の先端部分よりも基端側に位置し前記内輪の内周面に接する前記円筒部の基端部分の外周面の表面粗さがRa20μm以下となるように前記揺動加締め加工を行う車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、車輪支持用転がり軸受ユニットの構造を示す断面図である。なお、本実施形態においては、車輪支持用転がり軸受ユニットを自動車等の車両に取り付けた状態において、車両の幅方向外側を向いた部分を外端側部分と称し、幅方向中央側を向いた部分を内端側部分と称する。すなわち、
図1においては、左側が外端側となり、右側が内端側となる。
【0013】
図1の車輪支持用転がり軸受ユニット1は、略円筒状のハブ輪2と、ハブ輪2に一体的に固定された内輪3と、ハブ輪2及び内輪3の外側に同軸に配された略円筒状の外輪4と、二列の転動体5,5と、転動体5を保持する保持器6,6と、を備えている。また、外輪4の内端側部分の内周面と内輪3の内端側部分の外周面との間、並びに、外輪4の外端側部分の内周面とハブ輪2の軸方向中間部の外周面との間には、それぞれシール装置7a,7bが設けられている。
【0014】
さらに、外輪4の内側に配されたハブ輪2のうち外輪4から突出している外端側部分の外周面には、図示しない車輪を支持するための車輪取り付け用フランジ10が設けられている。そして、外輪4の外周面には、車輪取り付け用フランジ10から離間する側の端部に、懸架装置取り付け用フランジ13が設けられている。
ハブ輪2の内端側部分には外径の小さい円筒部11が形成されており、この円筒部11が内輪3の内側に挿通されて、円筒部11と内輪3が嵌合されている。そして、内輪3よりも内端側に突出している円筒部11の先端部分が径方向外方に加締め広げられており、この加締めによる塑性変形で円筒部11に形成された加締め部12で内輪3の軸方向端面3a(内端側端面)を押さえることにより、内輪3とハブ輪2とが一体的に固定されている。なお、内輪3とハブ輪2とが一体的に固定されたものが、本発明の構成要件である内側部材に相当し、外輪4が本発明の構成要件である外側部材に相当する。
【0015】
ハブ輪2の外周面の軸方向中間部及び内輪3の外周面には、それぞれ軌道面が形成されており、ハブ輪2の軌道面は第一内側軌道面20a、内輪3の軌道面は第二内側軌道面20bとされている。また、外輪4の内周面には、前記両内側軌道面20a,20bに対向する軌道面が形成されており、第一内側軌道面20aに対向する軌道面は第一外側軌道面21a、第二内側軌道面20bに対向する軌道面は第二外側軌道面21bとされている。さらに、第一内側軌道面20aと第一外側軌道面21aとの間、及び、第二内側軌道面20bと第二外側軌道面21bとの間には、それぞれ複数の転動体5が転動自在に配置されている。
【0016】
このような車輪支持用転がり軸受ユニット1を自動車等の車両に組み付けるには、懸架装置取り付け用フランジ13を図示しない懸架装置に固定し、図示しない車輪を車輪取り付け用フランジ10に固定する。そうすると、車輪支持用転がり軸受ユニット1によって車輪が懸架装置に対し回転自在に支持される。すなわち、内輪3とハブ輪2とが一体的に固定されたものが、車輪と一体に回転する回転輪となり、外輪4が、転動体5の転動を介して回転輪(内輪3とハブ輪2とが一体的に固定されたもの)を回転自在に支持する固定輪(非回転輪)となる。
【0017】
なお、図示の例では、転動体として玉を使用しているが、車輪支持用転がり軸受ユニット1の用途等に応じて、ころを使用してもよい。
また、本発明は、種々の車輪支持用転がり軸受ユニットに適用することが可能である。例えば、
図1の車輪支持用転がり軸受ユニット1のような所謂第三世代の車輪支持用転がり軸受ユニット(第一内側軌道面20aがハブ輪2の外周面に直接形成されている車輪支持用転がり軸受ユニット)に本発明を適用することも可能であるし、以下に説明するような種類の車輪支持用転がり軸受ユニット(第一内側軌道面が内側軌道輪部材を介してハブ輪の外周面に形成されている車輪支持用転がり軸受ユニット)に本発明を適用することも可能である。
【0018】
すなわち、後者の車輪支持用転がり軸受ユニットは、ハブ輪と、ハブ輪に一体的に固定された一対の内輪と、ハブ輪及び一対の内輪の外側に同軸に配された外輪と、二列の転動体と、を備えている。この車輪支持用転がり軸受ユニットは、転動体を保持する保持器を備えていてもよい。また、外輪の内端側部分の内周面と一対の内輪のうち内端側の内輪の内端側部分の外周面との間、並びに、外輪の外端側部分の内周面とハブ輪の軸方向中間部の外周面との間に、それぞれシール装置が設けられていてもよい。
【0019】
外輪の内側に配されたハブ輪のうち外輪から突出している外端側部分の外周面には、車輪を支持するための車輪取り付け用フランジが設けられている。そして、外輪の外周面には、車輪取り付け用フランジから離間する側の端部に、懸架装置取り付け用フランジが設けられている。
ハブ輪の内端側部分には外径の小さい円筒部が形成されており、この円筒部が、軸方向に並んだ一対の内輪の内側に挿通されて、円筒部と一対の内輪が嵌合されている。そして、一対の内輪のうち内端側の内輪よりも内端側に突出している円筒部の先端部分が径方向外方に加締め広げられており、この加締めによる塑性変形で円筒部に形成された加締め部で内端側の内輪の軸方向端面(内端側端面)を押さえることにより、一対の内輪とハブ輪とが一体的に固定されている。
【0020】
なお、一対の内輪とハブ輪とが一体的に固定されたものが、本発明の構成要件である内側部材に相当し、外輪が本発明の構成要件である外側部材に相当する。また、一対の内輪のうち外端側(すなわち、円筒部の基端側)の内輪が、本発明の構成要件である内側軌道輪部材に相当し、内端側(すなわち、円筒部の先端側)の内輪が、本発明の構成要件である内輪に相当する。
【0021】
一対の内輪の外周面にはそれぞれ軌道面が形成されており、外端側の内輪の軌道面は第一内側軌道面、内端側の内輪の軌道面は第二内側軌道面とされている。また、外輪の内周面には、前記両内側軌道面に対向する軌道面が形成されており、第一内側軌道面に対向する軌道面は第一外側軌道面、第二内側軌道面に対向する軌道面は第二外側軌道面とされている。さらに、第一内側軌道面と第一外側軌道面との間、及び、第二内側軌道面と第二外側軌道面との間には、それぞれ複数の転動体が転動自在に配置されている。
【0022】
このような車輪支持用転がり軸受ユニットを自動車等の車両に組み付けるには、懸架装置取り付け用フランジを図示しない懸架装置に固定し、図示しない車輪を車輪取り付け用フランジに固定する。そうすると、車輪支持用転がり軸受ユニットによって車輪が懸架装置に対し回転自在に支持される。すなわち、一対の内輪とハブ輪とが一体的に固定されたものが、車輪と一体に回転する回転輪となり、外輪が、転動体の転動を介して回転輪(一対の内輪とハブ輪とが一体的に固定されたもの)を回転自在に支持する固定輪(非回転輪)となる。
【0023】
この車輪支持用転がり軸受ユニット1の製造工程において、内輪3とハブ輪2の一体化は、前述のように加締め加工により行われる。以下に、車輪支持用転がり軸受ユニット1の製造方法について説明する。
ハブ輪2、外輪4、転動体5、保持器6,6等を、
図1に示すように組み立てた後に、ハブ輪2の円筒部11に内輪3を嵌合して車輪支持用転がり軸受ユニット1の半完成品とする。そして、この半完成品を揺動加締め加工装置に装着し、揺動加締め加工を行う。
【0024】
揺動加締め加工装置は、
図2に示すように、前記半完成品を固定するための基盤26と、ハブ輪2の円筒部11に当接して揺動加締め加工を行う金型23と、その上端部(ヘッド)に金型23を保持して回転するスピンドル24と、を備えている。
揺動加締め加工時には、車輪取り付け用フランジ10を基盤26に設けた台座28上に載置するとともに、前記半完成品の外端側部分に形成された凸部29を台座28に形成された穴部内に嵌合し、前記半完成品の中心軸線Aを鉛直にして基盤26に固定するとともに、前記半完成品の中心位置を設定する。所望により、懸架装置取り付け用フランジ13を基盤26にさらに固定してもよい。
【0025】
次に、
図3に示すように、前記半完成品の中心軸線Aに対して金型23の軸を所定角度θだけ傾けた状態のまま、金型23を円筒部11の先端部分の内周面に当接させ、
図3における下方に向けて押圧しつつ、前記半完成品の中心軸線Aを回転中心としてスピンドル24を回転させて、金型23を揺動回転させる。このとき、前記角度θ、すなわち揺動加締め加工の揺動角度を15°以上30°以下とする。
【0026】
すると、
図4に示すように、内輪3よりも内端側に突出している円筒部11の先端部分が塑性変形され、径方向外方に加締め広げられる。そして、この揺動加締め加工による塑性変形で形成された加締め部12で、内輪3の軸方向端面3a(内端側端面)を押さえることにより、ハブ輪2と内輪3との一体的な固定と、予圧の付与とが行われ、完成品の車輪支持用転がり軸受ユニット1が得られる。
【0027】
このような製造方法で車輪支持用転がり軸受ユニット1を製造すれば、揺動加締め加工の揺動角度が15°以上30°以下であるため、揺動加締め加工の最大加工荷重を低くすることができる。その結果、小型の揺動加締め加工装置を用いて揺動加締め加工を行うことができるため、設備費を抑えることができ、車輪支持用転がり軸受ユニット1を低コストで製造することができる。
【0028】
なお、加締め部12とは、円筒部11のうち揺動加締め加工により塑性変形した部分を意味するが、径方向外方に加締め広げられて内輪3の軸方向端面3aを押さえている円筒部11の先端部分のみならず、前記先端部分よりも基端側に位置し内輪3の内周面に接する円筒部11の基端部分も含む。この基端部分は、前記先端部分の塑性変形の影響を受けているからである。すなわち、
図4の網目状のハッチングを施した部分が塑性域であり、加締め部12である。
【0029】
そして、詳細は後述するが、加締め部12の中でも
図4に示した領域(すなわち、径方向外方に加締め広げられて内輪3の軸方向端面3aを押さえている円筒部11の先端部分よりも基端側に位置し、内輪3の内周面に接する円筒部11の基端部分の外周面)の表面粗さRaが、耐久性と良好な相関性を有する。
次に、揺動加締め加工の各種条件や、該条件における各数値の臨界的意義について説明する。
【0030】
〔A.揺動角度について〕
(A−1 揺動角度と設備費の関係について)
図5のグラフに示すように、揺動角度が大きいと揺動加締め加工の最大加工荷重が低くなり、揺動角度を15°以上とすれば、最大加工荷重を揺動角度が5°である場合の60%以下に低下させることができる。その結果、小型の揺動加締め加工装置を用いて揺動加締め加工を行うことができ、設備費を抑えることができるので、車輪支持用転がり軸受ユニット1を低コストで製造することができる。なお、
図5のグラフの縦軸の数値(最大加工荷重)は、揺動角度が5°の場合の最大加工荷重を100%とした相対値である。
【0031】
ただし、従来の揺動鍛造機(例えば特許文献1に開示のもの)においては、揺動角度は2〜5°であるので、上記揺動加締め加工装置として従来の揺動鍛造機を用いる場合には、15°以上の揺動角度を可能とするために揺動鍛造機を改造する必要がある。しかしながら、15°以上の揺動角度を可能とするためには、金型が装着されるスピンドルの上端部(ヘッド)が大型化してしまうため、装置全体のバランスが悪化し(装置の上側部分が下側部分よりも大きくなる)、このような改造は容易ではなかった。また、大規模な改造となるため、揺動加締め加工装置の設備費が高くなり、車輪支持用転がり軸受ユニットの製造コストが上昇する場合があった。
【0032】
そこで、上記揺動加締め加工装置としては、リベッティングマシンを用いることが好ましい。リベッティングマシンであれば、小規模な改造によって、15°以上の揺動角度を可能とすることができるので、最大加工荷重が低く小型の揺動加締め加工装置を得ることができる。よって、リベッティングマシンを改造した揺動加締め加工装置を用いれば、設備費を抑えることができるので、車輪支持用転がり軸受ユニットを低コストで製造することができる。
なお、リベッティングマシンの改造内容としては、例えば、金型の変更、スピンドルに対する金型の設置角度の変更(例えば、スピンドルの先端部に設ける金型装着用穴の回転中心に対する角度の変更)、スピンドルの先端部に金型を支持する軸受の変更などがあげられる。
【0033】
(A−2 揺動角度と加締め部の耐久性の関係について)
加締めにより塑性変形した部分は、その表面粗さが小さい方が耐久性が高いことが知られている。よって、車輪支持用転がり軸受ユニットにおいては加締め部の表面粗さが重要であり、スポーツ用多目的車(SUV:Sport Utility Vehicle )や高級車などのように加締め部の耐久性の要求が厳しい車種では、加締め部の表面粗さが特に重要である。
【0034】
加締め部のうち、円筒部の先端部分よりも基端側に位置し内輪の内周面と接する円筒部の基端部分の外周面(
図4において「表面粗さの測定範囲」と示した領域)の表面粗さと、揺動角度の関係を
図6のグラフに示す。
図6のグラフから分かるように、揺動角度を15°以上とすると、加締め部の前記外周面の表面粗さRaを小さくすることができるので、加締め部の耐久性を高くすることができる。よって、加締め部の耐久性の面からも、揺動角度を15°以上とすることが好ましい。
【0035】
ここで、揺動角度を大きくすると加締め部の表面粗さが小さくなる理由について、詳細に説明する。揺動角度を大きくすると、金型とハブ輪の円筒部の先端部分との接触面積が大きくなる。すると、加締め部の相当ひずみが低下するので、加締め部の表面粗さが小さくなる。
まず、揺動角度と接触面積の関係について説明する。ただし、ハブ輪の円筒部を加締める金型の形状は複雑なので、計算を単純化するために、
図7に示すように円錐形状の金型を考える。
図7の(a)は、金型とハブ輪を模式的に示した断面図であり、(b)は、金型とハブ輪を模式的に示した側面図である。
【0036】
円錐形状の金型でハブ輪の円筒部の先端部分を加締める際、圧下量δにおける金型と円筒部の先端部分との接触面積をSとすると、幾何的に近似することにより、接触面積Sは揺動角度αを変数とする下記式(2)で表される。そして、式(2)をグラフ化すると、
図8のグラフとなる。なお、式(2)中のA’,C’は定数、rは円錐形状の金型(上型)の半径、εはδ/rである。
【0037】
【数2】
次に、金型とハブ輪の円筒部の先端部分との接触面積と、加締め部の相当ひずみとの関係について説明する。揺動角度を5°、15°、30°、又は45°として揺動加締めを行ったハブ輪の円筒部の加締め部について、それぞれ弾塑性FEM解析を行って、加締め部(詳細には、加締め部のうち、円筒部の先端部分よりも基端側に位置し内輪の内周面と接する円筒部の基端部分)の相当ひずみを得た。結果を
図9のグラフに示す。なお、このグラフの横軸の数値(接触面積)は、揺動角度が5°の場合の接触面積を100%とした相対値である。
【0038】
次に、加締め部の相当ひずみと加締め部の表面粗さの関係について説明する。揺動角度を5°、15°、30°、又は45°として揺動加締めを行ったハブ輪の円筒部の加締め部(詳細には、加締め部のうち、円筒部の先端部分よりも基端側に位置し内輪の内周面と接する円筒部の基端部分の外周面)について、それぞれ表面粗さを測定した。そして、加締め部の相当ひずみと加締め部の表面粗さの関係をグラフ化した(
図10を参照)。なお、揺動加締め前のハブ輪の円筒部の表面粗さはRa7〜8μmである。
【0039】
図8のグラフと
図6のグラフを比べると、グラフの形状が類似していることが分かる。以下にその理由について説明する。
まず、
図8〜10のグラフの形状を関数で表す。揺動角度をαとして接触面積Sの関数をS(α)とすると、
図8のグラフを表す関数はx=S(α)となる。
図9,10のグラフは1次直線なので、
図9のグラフを表す関数はy=B・x+D(B,Dは定数)、
図10のグラフを表す関数はz=E・y+F(E,Fは定数)となる。
【0040】
図6のグラフは、
図8〜10のグラフを合成した関数で近似することができる。まず、
図8のグラフと
図9のグラフを合成すると、y=B・S(α)+Dとなる。さらに、これに
図10のグラフを合成すると、
図6のグラフは、z=E・(B・S(α)+D)+F=E・B・S(α)+E・D+Fとなる。
ところで、グラフの形状が類似しているとは、変化の仕方が同じことを意味する。定数は、グラフを平行移動させたり軸のスケールを変えたりするだけで、変化には関わりがない。したがって、定数のE・B、E・D、Fを除いて、変化に関わる関数だけにすると、
図6のグラフの変化に関わる関数はz’=S(α)となり、
図8のグラフの関数と同一となる。このことから、
図6のグラフと
図8のグラフの形状が類似していることが説明できる。
【0041】
同様に、
図5のグラフと
図8のグラフの形状が類似していることについて説明する。
図5の最大加工荷重の関数は、前記接触面積と降伏応力の積によって近似することができる。降伏応力をYとすると、
図5のグラフはw=Y・S(α)である。材料が同一なので降伏応力Yは定数となり、変化に関わる関数だけを取り出すと、
図5のグラフの変化に関わる関数はw’=S(α)となり、
図8のグラフの関数と同一となる。このことから、
図5のグラフと
図6、
図8のグラフの形状が類似していることが説明できる。
【0042】
さて、S(α)は前記式(2)のことである。式(2)は、実際の複雑な形状の金型を円錐形状に単純化して計算した近似式だが、実際の複雑な形状の金型による実験結果とよく一致する。したがって、式(2)は、加締め部の表面粗さを予測し揺動角度を決定するための設計ツールとして利用可能である。
相当ひずみは、加締め部を設計する際に、解析によって耐久性を評価する場合に利用する。加締め部の相当ひずみは、
図10のグラフに基づいて、0.015strain以下とすることが好ましい。
【0043】
ここで、加締め部の表面粗さを予測し、揺動加締め加工の揺動角度を決定する方法について説明する。まず、予備試験として、前述と同様の揺動加締め加工を行う。予備試験においては、少なくとも2つの揺動角度で揺動加締め加工を行い、形成された加締め部の表面粗さRaをそれぞれ測定する。揺動角度は任意の値を選択することができる。また、表面粗さの測定箇所は、
図4において「表面粗さの測定範囲」と示した領域である。
【0044】
揺動角度αと加締め部の表面粗さRaとの関係は前記式(1)で表されるので、予備試験で得た揺動角度と表面粗さRaのデータを式(1)に適用して、例えば最小二乗法を用いることにより、式(1)が成立する定数A及びCを算出する。この定数A及びCが決定した式(1)を用いれば、加締め部の表面粗さRaが所望の値以下となるための揺動角度の範囲を算出することができる。
よって、この算出された揺動角度で、車輪支持用転がり軸受ユニットを製造するための揺動加締め加工を行えば、加締め部の表面粗さが良好で耐久性に優れる車輪支持用転がり軸受ユニットを製造することができる。
【0045】
(A−3 揺動角度と摩耗の関係について)
図11のグラフから、揺動角度が30°を超えると加締め部の摩耗量が顕著に増加することが分かる。そのため、加締め部の耐久性を考慮すると、揺動角度を30°以下として摩耗を抑制することが好ましい。よって、好ましい揺動角度は15°以上30°以下となる。なお、
図11のグラフの縦軸の数値(摩耗量)は、揺動角度が5°の場合の摩耗量を100%とした相対値である。
【0046】
また、上記A−1項に示した揺動角度と最大加工荷重の関係(
図5のグラフを参照)と、上記A−2項に示した揺動角度と加締め部の表面粗さの関係(
図6のグラフを参照)と、本A−3項に示した揺動角度と摩耗の関係(
図11のグラフを参照)とを総合すると、揺動角度は15°以上30°以下とすることが好ましく、18°以上27°以下とすることがより好ましいと言える。
【0047】
〔B.揺動回転速度について〕
揺動鍛造機とリベッティングマシンを比較すると、使用する金型はリベッティングマシンの方が小型であるため、金型の質量はリベッティングマシンの方が小さい。質量が小さい方が金型コストは低くなるが、質量が小さい分だけ熱容量も小さくなるため、熱による溶着で金型が短寿命となるおそれがある。
【0048】
熱は、揺動回転速度を上げると増加するので、揺動加締め加工の揺動回転速度に応じて金型の熱対策を行う必要がある。そこで、種々の揺動回転速度において、金型寿命を満足する金型材質と潤滑条件を調査し、金型コストを評価した。結果を表1に示す。なお、揺動回転速度とは、所定の揺動角度だけ傾いた金型の自転軸を、公転軸(揺動加締め加工装置の回転軸)を中心に公転させたときの公転速度を意味する。
【0049】
【表1】
表1から分かるように、揺動回転速度が751〜1000min
-1であると、金型材質として超硬合金を用いる必要があり、また、揺動加締め加工において潤滑剤を用いて金型とハブ輪の潤滑を行う必要がある。よって、金型コストが高コストとなる。
【0050】
また、揺動回転速度が501〜750min
-1であると、金型材質としてJIS G4403に規定のSKH51を用いる必要があり、炭窒化チタン等をコーティングする表面処理を金型に施す必要がある。潤滑剤による潤滑は不要であるが、表面処理を必要とするため、金型コストが高コストとなる。
さらに、揺動回転速度が300〜500min
-1であると、金型材質としてJIS G4403に規定のSKH51を用いる必要がある。金型の表面処理や潤滑剤による潤滑は不要であるがSKH51を用いる必要があるため、金型コストがやや高コストとなる。
【0051】
さらに、揺動回転速度が100〜299min
-1であると、金型材質としてJIS G4404に規定のSKD11を用いることができる。また、金型の表面処理や潤滑剤による潤滑は不要である。よって、金型コストが低コストとなる。
これらの結果から、揺動回転速度100min
-1以上299min
-1以下、金型材質SKD11(表面処理なし)、潤滑剤による潤滑なしとすれば、揺動加締め加工のコストを低くすることができる。
また、上記A項及びB項に示した結果から、揺動角度15°以上30°以下、揺動回転速度100min
-1以上299min
-1以下とすれば、揺動加締め加工を低コストで行うことができるとともに、加締め部の耐久性を高くすることができる。
【0052】
〔C.リベッティングマシンと揺動鍛造機の比較について〕
揺動加締め加工装置としてリベッティングマシンを用いる場合と揺動鍛造機を用いる場合について比較して説明する。
(C−1 揺動回転の安定性について)
従来の揺動鍛造機は、金型が装着されるスピンドルと該スピンドルを回転させるモータとの間に減速機を備えているので、揺動回転速度を低くしても(例えば100min
-1以上299min
-1以下)、トルクが不十分となる心配は少ない。
【0053】
これに対してリベッティングマシンは、金型が装着されるスピンドルと該スピンドルを回転させるモータとの間に減速機を備えておらず、スピンドルとモータが直結されているので、揺動回転速度を例えば100min
-1以上299min
-1以下のように低くすると、モータの回転がインバータ制御されている場合には、揺動回転速度がインバータ制御の影響を受けるおそれがある。
【0054】
インバータ制御にはV/F制御とベクトル制御があるが、V/F制御の場合には、トルク不足となって揺動回転速度が不安定となるおそれがあるので、リベッティングマシンではインバータ制御をベクトル制御とすることが好ましい。そして、トルクと揺動回転速度を監視して、トルク不足となることを防ぐことが好ましい。設備費は、インバータ制御よりも減速機の方が高いので、減速機を用いずインバータ制御を行っても、揺動加締め加工装置の設備費が高くなることはない。
【0055】
(C−2 セット取り替えの容易性について)
通常、揺動鍛造機は、フレームの形状が枠状であるため(特許文献1を参照)、金型を交換する際に、フレームのうち上下方向に延びる柱が金型と交換作業者の間に位置することとなり、柱によって作業が遮られる。また、金型の質量が大きい。よって、金型交換(セット取り替え)の作業性が低い。さらに、揺動鍛造機は、金型を球面座にボルトで固定する構造であるため、金型交換に時間を要する。
【0056】
これに対してリベッティングマシンは、通常、フレームの形状が略C字状で(
図12を参照)、金型を交換する際には、フレームのうち上下方向に延びる柱が交換作業者から見て金型の後方に位置することとなるため、柱によって作業が遮られることがない。また、金型の質量も小さい。よって、金型交換(セット取り替え)の作業性が良好である。さらに、リベッティングマシンは、金型を軸受で支持して上方から吊る構造であるため、金型をワンタッチで交換することができ、金型交換に時間を要しない。
【0057】
(C−3 設備費について)
従来の揺動鍛造機の市販品は、最大加工荷重が200kN以上のものが多い。したがって、揺動加締め加工装置を小型とするためには、揺動鍛造機に大規模な改造を施すか、又は、新規に設備を開発する必要がある。よって、設備費を安価にしにくい。
これに対してリベッティングマシンは、最大加工荷重が150kN以下の小型のものが多い。したがって、揺動加締め加工装置を小型とするための改造はほとんど不要であり、設備費を安価にしやすい。