特許第6237112号(P6237112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6237112-ボールねじ 図000002
  • 特許6237112-ボールねじ 図000003
  • 特許6237112-ボールねじ 図000004
  • 特許6237112-ボールねじ 図000005
  • 特許6237112-ボールねじ 図000006
  • 特許6237112-ボールねじ 図000007
  • 特許6237112-ボールねじ 図000008
  • 特許6237112-ボールねじ 図000009
  • 特許6237112-ボールねじ 図000010
  • 特許6237112-ボールねじ 図000011
  • 特許6237112-ボールねじ 図000012
  • 特許6237112-ボールねじ 図000013
  • 特許6237112-ボールねじ 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237112
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】ボールねじ
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
   F16H25/22 C
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-219475(P2013-219475)
(22)【出願日】2013年10月22日
(65)【公開番号】特開2015-81636(P2015-81636A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2016年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 毅
(72)【発明者】
【氏名】橋本 浩司
【審査官】 高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−082900(JP,A)
【文献】 特開2004−028226(JP,A)
【文献】 特開2011−220376(JP,A)
【文献】 特開2003−156118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸と、ナットと、複数のボールを有し、
前記ねじ軸は前記ナットを貫通し、
前記ねじ軸の螺旋溝と前記ナットの螺旋溝とにより、前記ボールが転動する転動路が形成され、
前記ナットは、前記ボールを前記転動路の終点から始点に戻すボール戻し路が形成されたコマを有し、
前記コマは前記ナットを径方向に貫通する貫通穴内に配置され、
前記ボールは、前記転動路内と前記ボール戻し路内に配置され、
前記転動路内で転動する前記ボールを介して、前記ねじ軸と前記ナットとが相対移動するボールねじにおいて、
前記ナットは、前記貫通穴を形成する面の前記ボール戻し路の幅方向側部となる貫通穴側面に、径方向に所定寸法だけ延びる溝を有し、
前記コマは、前記ボール戻し路の幅方向側部に前記溝に係合される爪を有し、
前記コマは、前記爪を前記溝に係合させて前記ナットに取り付けられ、
前記ナットに外嵌部材が取り付けられた状態で、前記コマの前記ボール戻し路の背面部分は前記外嵌部材の内周面と接触し、前記爪と前記溝の前記ナットの径方向外側の面および径方向内側の面との間に、隙間が存在し、
前記コマは、前記爪が前記溝に接触係合している状態で、前記背面部分の一部が前記貫通穴より前記ナットの径方向外部に配置され、前記背面部分は前記ナットの外周面と同じ円弧面からなる外周面を有し、
前記外嵌部材は円柱状の内周面を有し、前記円柱の軸方向端部に、軸方向端部側に拡径されたテーパ面を有し、前記テーパ面の最大直径は、前記状態のコマの前記背面部分の外周面が前記テーパ面に接触しない大きさであり、
前記ナットに外嵌部材が取り付けられた状態で、前記コマの前記ボール戻し路の背面部分が、前記外嵌部材で前記ナットの径方向内側に押されていることを特徴とするボールねじ。
【請求項2】
少なくとも前記ボール戻し路の幅方向中心線に沿った部分の外周面が、前記外嵌部材の内周面と接触している請求項1記載のボールねじ。
【請求項3】
前記貫通穴側面と、前記溝の前記ナットの径方向外側の面および径方向内側の面と、で形成される各角部が直角である請求項1または2記載のボールねじ。
【請求項4】
前記ナットに外嵌部材が取り付けられた状態で、前記コマのボール戻し路側の底面が、前記ねじ軸に接触しない請求項1〜のいずれか一項に記載のボールねじ。
【請求項5】
前記コマは、
前記ボール戻し路が形成された本体と、腕部と、前記爪を有し、
前記本体は、略長円柱状または略円柱状であり、一方の底面に、前記ボール戻し路をなすS字状溝が形成され、
本体をなす長円柱または円柱の前記ボール戻し路の幅方向両側部のうちの少なくとも一方は凹部を有し、
前記凹部は、前記ボール戻し路が形成された底面側の一部を除いた範囲に形成され、前記底面と平行な底面を有し、
前記凹部の底面から前記腕部が立ち上がり、前記腕部の先端に前記爪が形成された形状を有する請求項1記載のボールねじ。
【請求項6】
前記コマの腕部は、前記貫通穴側面との間に隙間を形成する凹状の外側面を有する請求項記載のボールねじ。
【請求項7】
前記ナットの貫通穴は、前記コマの取り付け時に前記爪を受けて前記ナットの径方向内側に案内する案内面を有する請求項記載のボールねじ。
【請求項8】
前記コマの本体は略円柱状であり、前記本体をなす円柱の周面および前記ナットの貫通穴に互いに嵌め合う位置決め構造を有する請求項記載のボールねじ。
【請求項9】
前記コマは合成樹脂製である請求項1〜のいずれか一項に記載のボールねじ。
【請求項10】
前記コマは金属粉末射出成形法により形成されたものである請求項1〜のいずれか一項に記載のボールねじ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボール戻し路を形成する部品としてコマを有するボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじは、ねじ軸とナットと複数のボールを有する。ねじ軸はナット内に配置されている。ねじ軸の螺旋溝とナットの螺旋溝とでボールの転動路が形成される。ナットは、ボールを転動路の終点から始点に戻すボール戻し路を備えている。ボールは、転動路とボール戻し路内とからなる循環経路内に配置されている。ボールねじは、循環経路を循環し転動路内で転動(負荷状態で回転しながら移動)するボールを介して、ねじ軸とナットとが相対移動する装置である。ボール戻し路は、ナットにリターンチューブやコマを取り付けることで形成される。
【0003】
ボール戻し路を形成する部品としてコマを有するコマ式ボールねじでは、コマはナットを径方向に貫通する貫通穴内に取り付けられている。従来より、コマ式ボールねじにおいては、貫通内でのコマの位置を保持するために、例えば別部材を使ったり、カシメなどの作業を行って、貫通穴内にコマを固定している。また、作業時間やコストの低減を目的として、ナットの貫通穴に対するコマの取り付け構造に関する提案がなされている。
【0004】
特許文献1には、極めて簡易にコマを固定できると共に、組立コストを著しく低減した循環コマ式ボールネジ機構を提供することを目的として、コマにナットの貫通穴に対する係止爪とフランジを設けることが記載されている。
その一例において、コマは、ナットの貫通孔の内側縁(ナット内周面側の縁部)に係止する係止爪と、貫通孔の外側縁(ナット外周面側の縁部)に着座するフランジとを有する。この場合、コマをナットの外周面側からナットの貫通孔に嵌合する際に、係止爪を貫通孔の内側縁に係止させると共に、フランジを貫通孔の外側縁に着座させる。これにより、コマを位置決めすると共にコマの脱落を防止している。
【0005】
別の例において、コマは、ナットの貫通孔の外側縁に係止する係止爪と、貫通孔の内側縁に着座するフランジとを有する。この場合、コマを内側からナットの貫通孔に嵌合する際に、係止爪を貫通孔の外側縁に係止させると共に、フランジを貫通孔の内側縁に着座させる。これにより、コマを位置決めすると共にコマの脱落を防止している。
特許文献2には、ボールねじ装置の組立に要する作業時間を短縮すると共に製造コストを削減することを目的として、コマにナットの貫通穴に対する突縁と爪部を設けることが記載されている。
【0006】
具体的には、ナットの貫通穴(コマ取付穴)として長穴である嵌合穴を形成し、ナットの径方向外側に、嵌合穴の長手方向の両端部を長手方向に切欠いて係止面を設けている。コマには、ナットの嵌合穴に嵌合する嵌合部の長手方向の両端部に、嵌合部から長手方向に突出する突縁を設けている。
また、コマには、嵌合部の長手方向に沿った両側で嵌合部から短手方向に突出する爪部を形成し、この爪部にナットの内周面に係合する係合面を設けている。そして、コマの突縁をコマ取付穴の係止面に係止させ、爪部の係合面をナットの内周面に係合させることにより、ナットにコマを取付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−156118号公報
【特許文献2】特開2007−154974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のコマの取り付け構造においては、コマに設けた係止爪およびフランジとナットの貫通穴の内側縁および外側縁とを、ナットの径方向で接触させている。特許文献2のコマの取り付け構造においては、コマに設けた突縁および爪部とナットのコマ取付穴および内周面とを、ナットの径方向で接触させている。
このように、特許文献1および2のいずれの提案においても、ボール戻し路内のボールがコマを押し上げる力が、コマの係止部(係止爪またはフランジおよび爪部)とナットとの接触部に入力されるため、ナットの径方向内側に係止されている係止部に破損が生じるおそれがある。また、この押し上げ力によりコマが撓み、コマの係止部がナットから外れるおそれもある。
【0009】
この発明の課題は、コマに形成された係止部をナットの貫通穴に係止することでコマがナットに取り付けられているコマ式ボールねじとして、ボールがコマを押し上げる力でコマの係止部に破損が生じにくく、コマの係止部がナットから外れにくいものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、この発明の一態様は、下記の構成(1) 〜(4) (6)(7)を有するボールねじである。
(1) ねじ軸と、ナットと、複数のボールを有し、前記ねじ軸は前記ナットを貫通する。前記ねじ軸の螺旋溝と前記ナットの螺旋溝とにより、前記ボールが転動する転動路が形成されている。前記ナットは、前記ボールを前記転動路の終点から始点に戻すボール戻し路が形成されたコマを有する。前記コマは前記ナットを径方向に貫通する貫通穴内に配置されている。前記ボールは、前記転動路内と前記ボール戻し路内に配置されている。前記転動路内で転動する前記ボールを介して、前記ねじ軸と前記ナットとが相対移動するボールねじである。
【0011】
(2) 前記ナットは、前記貫通穴を形成する面の前記ボール戻し路の幅方向側部となる貫通穴側面に、径方向に所定寸法(下記の構成(4) が実現できる寸法)だけ延びる溝を有する。
(3) 前記コマは、前記ボール戻し路の幅方向側部に前記溝に係合される爪を有する。前記コマは、前記爪を前記溝に係合させて前記ナットに取り付けられている。
【0012】
(4) 前記ナットに外嵌部材が取り付けられた状態で、前記コマの前記ボール戻し路の背面部分の外周面は前記外嵌部材の内周面と接触し、前記爪と前記溝の前記ナットの径方向外側の面および径方向内側の面との間に、隙間が存在する。
この態様のボールねじにおいて、コマはナットの貫通穴に、コマの爪をナットの貫通穴の溝に係合することで容易に取り付けられる。また、このボールねじは、ナットに外嵌部材が取り付けられている使用状態で、コマの爪がナットの溝内でナットの径方向両側面に接触しないため、ボールがコマを押し上げる力は、コマのボール戻し路の背面部分の外周面と外嵌部材の内周面との接触部に入力される。すなわち、使用状態で、コマの爪とナットの溝はナットの径方向で接触しない。
【0013】
よって、この態様のボールねじは、ボール戻し路内のボールがコマを押し上げる力がコマの係止部(爪など)とナットとの接触部に入力される、従来のコマ式ボールねじと比較して、コマの係止部に破損が生じにくく、コマの係止部がナットから外れにくい。
また、従来のコマ式ボールねじでは、特に、コマが合成樹脂製の場合、コマの係止部に破損が生じ易いが、この形態のボールねじでは、コマが合成樹脂製の場合でも、爪に破損が生じにくい。
【0014】
この態様のボールねじが有するコマは合成樹脂製および金属製のいずれでもよいが、合成樹脂製のコマを用いても爪に破損が生じにくいため、合成樹脂製のコマを用いることで積極的にコストダウンと軽量化を図ることができる。
前記コマをなす合成樹脂としては、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、POM(ポリアセタール)等が挙げられる。また、これらの合成樹脂にガラス繊維、チタン酸カリウム繊維等からなる強化材が混合された樹脂組成物で前記コマを製造してもよい。また、金属製のコマの一例として、金属粉末射出成形法(MIM)により形成されたコマを用いることができる。使用するMIM用合金としては、例えば、Fe−Ni−C(1〜8%Ni、〜0.8%C)が挙げられる。
【0015】
前記コマの前記ボール戻し路の背面部分は、その外周面全体で前記外嵌部材の内周面と接触していることが好ましい。しかし、コマの軽量化や合成樹脂製とする場合に射出成形時の変形を避ける目的等で、前記背面部分の外周面に前記外嵌部材の内周面と接触しない部分を設ける場合には、少なくとも前記ボール戻し路の幅方向中心線に沿った部分の外周面は前記外嵌部材の内周面と接触していることが好ましい。
【0016】
これにより、前記ボール戻し路の幅方向中心線に沿った部分の外周面が前記外嵌部材の内周面と接触していていないものと比較して、ボールがコマを押し上げる力でコマが変形することが防止されるため、ボールの循環をスムーズに行うことができる。
この態様のボールねじが下記の構成(5) を有すると、コマの爪が溝に係合した状態で、コマの爪が弾性変形することが抑制されるため、ナットの貫通穴に対するコマの取り付け状態が良好に保持される。
【0017】
(5) 前記貫通穴側面と、前記溝の前記ナットの径方向外側の面および径方向内側の面と、で形成される各角部が直角である。
この態様のボールねじは、コマが下記の構成(6) を満たし、外嵌部材が下記の構成(7) を満たすことにより、下記の構成(8) の状態となる。すなわち、この態様のボールねじは構成(6)(7)を有することで、組立性能が向上する。
【0018】
(6) 前記コマは、前記爪が前記溝に接触係合している状態で、前記背面部分の一部が前記貫通穴より前記ナットの径方向外部に配置される。前記背面部分は前記ナットの外周面と同じ円弧面からなる外周面を有する。
(7) 前記外嵌部材は、円柱状の内周面を有し、前記円柱の軸方向端部に、軸方向端部側に拡径されたテーパ面を有する。前記テーパ面の最大直径は、前記状態のコマの前記背面部分の外周面が前記テーパ面に接触しない大きさである。
【0019】
(8) 前記ナットに外嵌部材が取り付けられた状態で、前記コマの前記ボール戻し路の背面部分が、前記外嵌部材で前記ナットの径方向内側に押されている。
この態様のボールねじは、前記溝の径方向の寸法が、下記の構成(9) が実現できる寸法であることが好ましい。
(9) 前記ナットに外嵌部材が取り付けられた状態で、前記コマのボール戻し路側の底面が前記ねじ軸または前記ナットを貫通する仮軸に接触しない
この態様のボールねじにおいて、前記コマは下記の構成(10)を有することができる。
【0020】
(10)前記コマは、前記ボール戻し路が形成された本体と、腕部と、前記爪を有する。前記本体は、略長円柱状または略円柱状であり、一方の底面に、前記ボール戻し路をなすS字状溝が形成されている。本体をなす長円柱または円柱の前記ボール戻し路の幅方向両側部のうちの少なくとも一方は凹部を有する。前記凹部は、前記ボール戻し路が形成された底面側の一部を除いた範囲に形成され、前記底面と平行な底面を有する。前記凹部の底面から前記腕部が立ち上がり、前記腕部の先端に前記爪が形成された形状を有する。
この態様のボールねじにおいて、前記コマが前記構成(10)を有する場合は、下記の構成(11)を満たすことが好ましい。
【0021】
(11)前記腕部は、前記貫通穴側面との間に隙間を形成する凹状の外側面を有する。
この態様のボールねじにおいて、前記コマが前記構成(10)を有する場合は、下記の構成(12)を満たすことが好ましい。
(12)前記ナットの貫通穴は、前記コマの取り付け時に前記爪を受けて前記ナットの径方向内側に案内する案内面を有する。
この態様のボールねじにおいて、前記コマが前記構成(10)を有し、前記コマの本体が略円柱状の場合は、前記本体をなす円柱の周面および前記ナットの貫通穴に互いに嵌め合う位置決め構造を設けることで、組立性能が向上する。
【発明の効果】
【0022】
この発明のボールねじは、コマに形成された係止部をナットの貫通穴に係止することでコマがナットに取り付けられているコマ式ボールねじであって、ボールがコマを押し上げる力でコマの係止部に破損が生じにくく、コマの係止部がナットから外れにくいものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施形態のボールねじを示す正面図である。
図2図1のボールねじを構成するコマを示す図であって、(a) はナットの外周面に配置される側から見た斜視図であり、(b) はボール戻し路が形成されている側から見た斜視図であり、(c) はボール戻し路が形成されている面を示す図である。
図3図1のボールねじを構成するナットとコマを示す斜視図である。
図4】ナットに対するコマの取り付け途中の状態を示す断面図(図1のY−Y断面に対応する図)である。
図5】ナットに対するコマの取り付け部分を示す図1のY−Y断面図である。
図6】ナットに対する外嵌部材の取り付け方法を示す図1のZ−Z断面図である。
図7】ナットに外嵌部材が取り付けられた状態のコマの取り付け部分を示す断面図(図1のY−Y断面に対応する図)である。
図8】ナットに外嵌部材が取り付けられた状態のコマの取り付け部分を示す断面図(図1のX−X断面に対応する図)である。
図9図3とは異なる形状のコマを示す図であって、ナットの外周面に配置される側から見た斜視図である。
図10図9のコマがナットに外嵌部材が取り付けられた状態のコマの取り付け部分を示す断面図(図1のY−Y断面に対応する図)である。
図11】ボールねじに外嵌部材が取り付けられた状態の一例を示す正面図である。
図12図3とは異なる形状のコマを示す図であって、(a) はナットの外周面に配置される側から見た斜視図であり、(b) はボール戻し路が形成されている側から見た斜視図である。
図13図3とは異なる形状のコマを示す図であって、(a) はナットの外周面に配置される側から見た斜視図であり、(b) はボール戻し路が形成されている側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明の実施形態について説明するが、この発明はこの実施形態に限定されない。
図1〜8に示すように、この実施形態のボールねじは、ねじ軸1、ナット2、複数のボール3、コマ(ボール戻し路41が形成されている部品)4で構成されている。ねじ軸1の外周面とナット2の内周面に、螺旋溝11,21が形成されている。ねじ軸1はナット2を貫通している。ナット2は、円筒部2Aの軸方向一端にフランジ部2Bを有する。ナット2の円筒部2Aは、径方向に貫通する貫通穴22を有する。貫通穴22は長円形の平面形状を有する。
【0025】
ねじ軸1の螺旋溝11とナット2の螺旋溝21とにより、ボール3が転動する転動路が形成される。ボール3は、転動路とコマ4のボール戻し路41とからなる循環経路内に配置されている。コマ4は、ナット2の貫通穴22に配置されている。ねじ軸1とナット2は、転動路内で転動し循環経路内を循環するボール3を介して相対移動する。
図2に示すように、コマ4は略長円柱状に形成され、ボール戻し路41が形成された本体40と、腕部42と、爪43とからなる。本体40をなす長円柱の一方の底面40aに、ボール戻し路41をなすS字状溝が形成されている。
【0026】
本体40をなす長円柱の一対の側面(ボール戻し路41の幅方向側部となる面)40bは、長手方向中央部に凹部40cを有する。凹部40cは、ボール戻し路41が形成された底面側の一部を除いた範囲に形成されている。これにより、凹部40cは長円柱の底面と平行な底面を有する。一対の凹部40cの底面から腕部42が立ち上がり、腕部42の先端に爪43が形成されている。
【0027】
本体40をなす長円柱の他方の底面40dが、ボール戻し路41の背面部分の外周面となる。外周面40dは、ナット2の外周面と同じ円弧面を有する。すなわち、コマ4が貫通穴22に取り付けられた状態で、コマ4の外周面40dはナット2の外周面の一部となる。本体40の側面40bと外周面40dとの境界部40eは円弧状に形成されている。また、コマ4はPPS(合成樹脂)の射出成形で得られたものである。
【0028】
図3に示すように、ナット2の貫通穴22を形成する面のうち、コマ4が配置された状態でボール戻し路41の幅方向側部となる貫通穴側面22aに、コマ4の爪43が係合される溝23が形成されている。図4に示すように、溝23のナット2の径方向寸法は、爪43のナット2の径方向寸法よりも大きい。貫通穴側面22aと、溝23のナット2の径方向外側の面23aおよび径方向内側の面23bとで形成される各角部は、ピン角である(直角で、面取りされていない)。
【0029】
貫通穴22はナット2の外周面側に面取り部(案内面)24を有する。面取り部24をなすテーパ面の貫通穴側面22aに対する傾斜角度は、爪43の裏面の腕部42に対する傾斜角度より小さい。
ボールねじを組み立てる際には、図4図7に示す方法で、ナット2にコマ4を取り付る。
【0030】
先ず、ボール戻し路41側をナット2の内側に向けた状態で、コマ4を貫通穴22に入れ、爪43を面取り部24に載せる。図4はこの状態を示す。次に、この状態から、コマ4の外周面40dをナット2の径方向内側に押して、腕部42を凹部40c内に曲げながら、コマ4を貫通穴22に深く入れ、爪43を溝23に嵌める。その際に、貫通穴22の面取り部24でコマ4の爪43がナット2の径方向内側に案内される。
【0031】
図5はこの状態を示す。この状態で、コマ4の外周面40dがナット2の外周面より外側に突出している。また、爪43の上端面(本体40の外周面40d側の面)が溝23のナット径方向外側に接触している。また、この状態で、コマ4の円弧状境界部40eは、一部がナット2の外周面より突出し、それ以外の部分は貫通穴22の面取り部24内に存在する。つまり、円弧状境界部40eは、図5の状態におけるコマ4のナット2の外周面からの突出量よりも大きな範囲に設けてある。
【0032】
次に、図6に示すように、円環体(外嵌部材)6をナット2の外周面に取り付ける。円環体6の内径はナット2の外径より僅かに大きく、円環体6の軸方向端部には、内周面61にテ−パ面61aが形成されている。テ−パ面61aの最大直径は、図5の状態におけるコマ4の外周面40dがテ−パ面61aに接触しない大きさである。
円環体6を取り付ける際には、円環体6の軸方向一端のテ−パ面61aを、ナット2の円筒部2Aの軸方向一端(フランジ2Bとは反対側の端部)に係合させ、円環体6をナット2に対して軸方向に相対移動する。円環体6のテ−パ面61aがコマ4の位置まで達すると、テ−パ面61aがコマ4の円弧状境界部40eと円滑に係合し、円弧状境界部40eがテ−パ面61aに押されてコマ4がナット2の内径方向に押される。円環体6の内周面61のテ−パ面61a以外の部分がコマ4に達すると、その部分でコマ4の外周面40dがナット2の内径方向にさらに押される。
【0033】
これに伴い、コマ4の爪43は溝23内でナット2の径方向内側に移動し、図7に示すように、円環体6が取り付けられた状態で、爪43と溝23のナット径方向外側の面23aおよびナット径方向内側の面23bとの間に、隙間が存在する。また、コマ4の外周面40dと円環体6の内周面61とが接触し、コマ4の外周面40dが、円環体6でナット2の径方向内側に押されている。
【0034】
また、爪43の基端(腕部42との境界部)は溝23のナット径方向内側の面23bに接触し、コマ4がこれ以上ナット径方向内側に移動できないため、コマ4のボール戻し路41側の底面40aはねじ軸1に接触しない。さらに、コマ4のナット径方向外側が円環体6で覆われているため、万が一、爪43が折れて溝23から外れた場合、爪43は本体40の凹部40cと円環体6とで囲われた空間内に存在し、ナット2の内部に入り込まない。
【0035】
また、コマ4の爪43がピン角の溝23に係合するため、係合状態で爪43の弾性変形が抑制されることにより、ナット2の貫通穴22に対するコマ4の取り付け状態が良好に保持される。
そして、図7に示す状態で、図8に示すように、ボール戻し路41内に配置されたボール3がコマ4を押し上げる力は、コマ4と円環体6との接触部に入力される。すなわち、使用状態で、コマ4の爪43とナット2の溝23はナット2の径方向で接触しない。
【0036】
したがって、この実施形態のボールねじは、特許文献1および2のボールねじと比較して、コマ4の係止部(爪43)に破損が生じにくく、コマ4の係止部(爪43)がナット2から外れにくい。よって、コマ4を合成樹脂製とすることで、積極的にコストダウンと軽量化を図ることができる。また、図2に示す形状のコマ4を用い、図4に示す形状の貫通穴22および溝23とし、図6に示す形状の環状体6を用いることにより、ボールねじの組立性能が向上する。
【0037】
この発明のボールねじは、上述のコマ4に代えて、図9に示すコマ4Aを有するものであってもよい。コマ4Aの腕部42Aは、コマ4の腕部42より薄く、本体40の側面40bより内側に配置された凹状の外側面42aを有する。コマ4Aは、その点でコマ4と異なり、それ以外の点はコマ4と同じである。
コマ4Aをナット2の貫通穴22に挿入し、ナット2に円環体6を取り付けられた状態で、図10に示すように、爪43と溝23のナット径方向外側の面23aおよびナット径方向内側の面23bとの間に、隙間が存在する。また、コマ4Aの外周面40dと円環体6の内周面61とが接触し、コマ4Aの外周面40dが、円環体6でナット2の径方向内側に押されている。
【0038】
また、ナット2の貫通穴側面22aとコマ4Aの腕部42Aとの間に隙間Sができる。つまり、コマ4Aの腕部42Aが貫通穴側面22aに接触しないことで、腕部42Aの弾性力が貫通穴22に作用しない。そのため、コマ4Aを用いることでコマ4を用いた場合よりも、本体40の外周面40dが円環体6をナット径方向外側に押す力が強くなる。
上記実施形態のボールねじでは、ナット2に円筒部2Aの略全体を覆う円環体6が取り付けられている。そのため、本体40の一対の側面40bの両方に凹部40cを設けて、腕部42と爪43を配置しているが、以下に説明するように、一方の側面40bのみに凹部40cを設けて腕部42と爪43を配置してもよい。
【0039】
自動車のアクチュエータ用ボールねじでは、例えば、図11に示すように、軸方向中央部に大径部2Cを有し、両端部に小径部2D,2Eを有するナット2を使用し、大径部2Cにギヤやプーリ等の円環状部材7を取り付け、小径部2D,2Eに転がり軸受8,9を取り付けて使用される。この場合、ナット2の円環状部材7および転がり軸受8,9で覆われない部分(露出部分)に、コマ4,4Aの爪部43が露出していると、万が一、爪43が破損した場合に外部に爪43が落下することが懸念される。
【0040】
よって、図11の例では、爪43が一個のみのコマ4Bを使用し、ナット2の爪43が存在する部分全体に転がり軸受8が嵌合され、ナット2の露出部分に爪43が配置されないようにしている。
また、本体40の一対の側面40bの両方に凹部40cを設ける場合に、上記実施形態のように、側面40bの長手方向中央部の両凹部40cが互いに向かい合う位置に設けるのではなく、側面40bの長手方向で互いにずれた位置に設けてもよい。
【0041】
また、凹部40cを側面40bの長手方向中央部に設けると、図5の状態で転動路とボール戻し路41にボールを組み込む際に、コマ4が爪43を支点にシーソー状に傾くことで、螺旋溝21とボール戻し路41との間に大きな段差が生じる場合がある。これに対して、凹部40cを、側面40bの長手方向両端部(ボール戻し路41の螺旋溝21との境界部)に近い部分に設けると、長手方向中央部に設けた場合と比較して、図5の状態で転動路とボール戻し路41にボールを組み込む際に、螺旋溝21とボール戻し路41との間に生じる段差を小さくすることができる。
【0042】
なお、一対の側面40bの両方の長手方向端部に凹部40cを設ける場合には、一方の側面40bで長手方向一端部に、他方の側面40bで長手方向他端部に設けることで、一対の凹部40cを一対の側面40bの長手方向で互いにずれた位置に配置してもよい。
上記実施形態のボールねじは、ナット2の貫通穴22の平面形状を長円形とし、略長円柱状のコマを使用しているが、ナット2の貫通穴22の平面形状を略円形として、図12または13に示すような略円柱状のコマ4C,4Dを使用してもよい。
【0043】
図12に示すコマ4Cは、略円柱状に形成され、ボール戻し路41が形成された本体40Aと、一対の腕部42と、一対の爪43と、一個の突起44からなる。本体40Aをなす円柱の一方の底面に、ボール戻し路41をなすS字状溝が形成されている。
本体40Aをなす円柱の一対の側面(ボール戻し路41の幅方向側部となる面)40bは、中央部に凹部40cを有する。凹部40cは、ボール戻し路41が形成された底面側の一部を除いた範囲に形成されている。これにより、凹部40cは円柱の底面と平行な底面を有する。一対の凹部40cの底面から腕部42が立ち上がり、腕部42の先端に爪43が形成されている。
【0044】
本体40Aをなす円柱の他方の底面が、ボール戻し路41の背面部分の外周面40dとなる。外周面40dは、ナット2の外周面と同じ円弧面を有する。突起44は、コマ4Cを本体40A外周面40d側から見た時に、ボール戻し路41の長手方向一端から略半円状に突出するように形成されている。すなわち、突起44は、本体40Aをなす円柱の周面の腕部42が形成されていない位置に形成されている。また、突起44は、本体40Aの外周面40dから連続する外周面44aを有する。
【0045】
コマ4Cを配置するナット2の貫通穴には、爪43を嵌める溝23だけでなく、突起44を嵌める凹部が一箇所に形成されている。そして、コマ4Cの本体40Aがナット2の貫通穴に取り付けられた状態で、一対の爪43が溝に嵌まり、突起44が凹部に嵌まり、コマ4Cの本体40Aの外周面40dと突起44の外周面44aがナット2の外周面の一部となる。
【0046】
この例では、一個の突起44をコマに設け、これに対応する凹部をナット2の貫通穴の一箇所に設けることにより、略円柱状のコマ4Cが正しい向きに位置決めされて取り付けられ、取り付けられたコマ4Cがナット2の貫通穴内で回転することが防止される。
図13に示すコマ4Dは、略円柱状に形成され、ボール戻し路41が形成された本体40Aと、一対の腕部42と、一対の爪43と、一対の突起45からなる。本体40Aをなす円柱の一方の底面に、ボール戻し路41をなすS字状溝が形成されている。
【0047】
本体40Aをなす円柱の一対の側面(ボール戻し路41の幅方向側部となる面)40bは、中央部に凹部40cを有する。凹部40cは、ボール戻し路41が形成された底面側の一部を除いた範囲に形成されている。これにより、凹部40cは円柱の底面と平行な底面を有する。一対の凹部40cの底面から腕部42が立ち上がり、腕部42の先端に爪43が形成されている。
【0048】
本体40Aをなす円柱の他方の底面が、ボール戻し路41の背面部分の外周面40dとなる。外周面40dは、ナット2の外周面と同じ円弧面を有する。突起45は、コマ4Cを外周面40d側から見た時に、ボール戻し路41の長手方向両端から飛行機の翼状に突出するように形成されている。すなわち、両突起45は、本体40Aをなす円柱の周面の腕部42が形成されていない位置に形成されている。また、両突起45は、本体40Aの外周面40dから連続する外周面45aを有する。
【0049】
コマ4Dを配置するナット2の貫通穴には、爪43を嵌める溝23だけでなく、突起45を嵌める一対の凹部が形成されている。そして、コマ4D本体40Aがナット2の貫通穴に取り付けられた状態で、一対の爪43が溝に嵌まり、一対の突起45が一対の凹部に嵌まり、コマ4Dの本体40Aの外周面40dと突起45の外周面45aがナット2の外周面の一部となる。
【0050】
この例では、一対の突起45をコマに設け、これに対応する一対の凹部をナット2の貫通穴に設けることにより、略円柱状のコマ4Dが正しい向きに位置決めされて取り付けられ、取り付けられたコマ4Dがナット2の貫通穴内で回転することが防止される。
【符号の説明】
【0051】
1 ねじ軸
11 ねじ軸の螺旋溝
2 ナット
2A ナットの円筒部
2B ナットのフランジ部
2C ナットの大径部
2D,2E ナットの小径部
21 ナットの螺旋溝
22 ナットの貫通穴
23 溝
23a 溝のナット径方向外側の面
23b 溝のナット径方向内側の面
24 面取り部(案内面)
3 ボール
4 コマ
4A コマ
4C コマ
4D コマ
40 本体
40A 本体
40a 本体をなす長円柱または円柱の一方の底面
40b 本体をなす長円柱または円柱の側面(ボール戻し路の幅方向側部となる面)
40c 側面の凹部
40d 本体の外周面(長円柱または円柱の他方の底面)
40e 本体の円弧状境界部(側面と外周面との境界部)
41 ボール戻し路
42 腕部
42a 腕部の凹状の外側面
43 爪
44 突起(位置決め構造)
45 突起(位置決め構造)
6 円環体(外嵌部材)
61 内周面
61a テ−パ面
7 円環状部材
8,9 転がり軸受
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13