(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の継手構造を備えている風力発電装置1の概略側面図である。風力発電装置1は、増速機3の出力軸35からのトルクによって発電機4の入力軸41を回転させて発電する構成であり、このような風力発電装置1に本発明の継手構造は用いられる。
この構成をさらに説明すると、風力発電装置1は、ブレード(受風部材)11、支柱12、及びナセル13を備えている。ブレード11は、主軸2の先端に設けられた複数枚の羽根により構成され、風を受けることによって主軸2を回転させる。ナセル13は、主軸2と、この主軸2を支持するための支持機構15と、主軸2の回転を増速する増速機3と、増速機3によって増速された回転動力によって発電する発電機4と、これらを収容するケーシング18等を備えている。支柱12は、上下方向の軸心回りに水平旋回可能にナセル13を支持している。
【0015】
図2は、増速機3及び発電機4を示す概略側面図である。発電機4は、例えば誘導発電機により構成されており、増速機3により増速された回転を入力して回転する入力軸41、発電機4に内蔵されたロータ42、及び図示しないステータ等を有する。ロータ42は入力軸41に一体回転可能に連結されており、発電機4は、入力軸41が回転してロータ42が駆動することに伴って発電するように構成されている。また、入力軸41には、当該入力軸41を制動するためのブレーキ44が設けられている。
【0016】
増速機3は、主軸2の回転を入力してその回転を増速する歯車機構(回転伝達機構)30を備えている。この歯車機構30は、遊星歯車機構31と、この遊星歯車機構31により増速された回転を入力してさらにその回転を増速する高速段歯車機構32とを備えている。
遊星歯車機構31は、内歯車(リングギヤ)31aと、主軸2に一体回転可能として連結された遊星キャリア(図示省略)に保持された複数の遊星歯車31bと、遊星歯車31bに噛み合う太陽歯車31cとを有している。これにより、主軸2とともに遊星キャリアが回転すると、遊星歯車31bを介して太陽歯車31cが回転し、その回転が高速段歯車機構32の低速軸33に伝達される。
【0017】
高速段歯車機構32は、低速ギヤ33aを有する低速軸33と、第1中間ギヤ34a及び第2中間ギヤ34bを有する中間軸34と、高速ギヤ35aを有する出力軸35とを備えている。
低速軸33は、その直径が例えば約1mの大型の回転軸からなり、主軸2と同心上に配置されている。低速軸33の軸方向両端部はころ軸受36a,36bにより回転自在に支持されている。
【0018】
中間軸34は、低速軸33と平行に配置されており、その軸方向両端部がころ軸受37a,37bにより回転自在に支持されている。中間軸34の第1中間ギヤ34aは低速ギヤ33aと噛み合い、第2中間ギヤ34bは高速ギヤ35aと噛み合っている。
出力軸35は、中間軸34と平行に配置されており、回転トルクを出力する。出力軸35の軸方向の一端部35b及び他端部(出力端部)35c側は、それぞれころ軸受38,39により回転自在に支持されている。
【0019】
以上の構成により、主軸2の回転は、遊星歯車機構31のギヤ比、低速ギヤ33aと第1中間ギヤ34aとのギヤ比、及び第2中間ギヤ34bと高速ギヤ35aとのギヤ比により3段階に増速されて、出力軸35の出力端部35cから回転として出力される。すなわち、風力による主軸2の回転は増速機3により3段階に増速されて、出力軸35から出力され、この出力軸35の回転トルクによって発電機4を駆動する。
【0020】
図3は、増速機3が有しているころ軸受38を示す断面図である。ころ軸受38は、円筒ころ軸受からなり、出力軸35に外嵌固定された内輪38aと、増速機3のハウジング14に固定された外輪38bと、内輪38aと外輪38bとの間に転動可能に配置された複数の円筒ころ38cと、各円筒ころ38cを円周方向に沿って所定間隔毎に保持する環状の保持器38dとを備えている。内輪38a、外輪38b、円筒ころ38cは例えば軸受鋼によって形成されており、保持器38dは例えば銅合金によって形成されている。
【0021】
内輪38aは、その外周の軸方向中央部に内輪軌道面38a1が形成されている。外輪38bは、内輪38aと同心上に配置されており、その内周の軸方向中央部に外輪軌道面38b1が形成されている。外輪軌道面38b1は、内輪軌道面38a1に対向して配置されている。また、外輪38bは、軸方向両側に形成された一対の外輪鍔部38b2を有している。外輪鍔部38b2は、外輪38bの内周の軸方向両端部から径方向内側に向かって突出して形成されており、この外輪鍔部38b2に円筒ころ38cの端面が摺接する。
【0022】
円筒ころ38cは、内輪軌道面38a1と外輪軌道面38b1との間に転動可能に配置されている。
保持器38dは、軸方向に離れて配置された一対の円環部38d1と、この円環部38d1の周方向に沿って等間隔おきに配置されて両円環部38d1同士を連結する複数の柱部38d2とを有している。一対の円環部38d1と隣接する柱部38d2との間にはポケット38d3が形成されており、このポケット38d3内に各円筒ころ38cが配置されている。なお、大型の風力発電装置1においては、増速機3の出力軸35を支持する転がり軸受には、大きな負荷が付与されるため、剛性が高く、かつ出力軸35の熱による軸方向の伸縮を好適に吸収することができるころ軸受38を用いるのが好ましい。ただし、転がり軸受として玉軸受や円錐ころ軸受を用いてもよい。
【0023】
図2において、風力発電装置1は、増速機3の出力軸35と発電機4の入力軸41との間に設けられ、これら出力軸35と入力軸41との間でトルク伝達可能とするための継手装置(継手構造、カップリング)9を備えている。そして、本実施形態では、継手装置9に一方向クラッチ7が備えられているが、継手装置9は、入力軸41用のブレーキ44よりも増速機3側に設けられている。
【0024】
図4は、継手装置9を示す半断面図であり、
図5は、
図4におけるA矢視断面図である。
図4及び
図5において、継手装置9は、出力側伝動軸80と、入力側伝動軸81と、固定ハウジング82と、出力側伝動軸用軸受94と、入力側伝動軸用軸受95と、一方向クラッチ7と、グリースニップル64を有する。
【0025】
出力側伝動軸80は、出力軸35と同心上に配置され、その入力側端部にフランジ83がキー84等により固定され、このフランジ83に、出力軸35にキー85等により固定されたフランジ86がボルト・ナット(図示省略)により固定されている。
入力側伝動軸81は、入力軸41及び出力側伝動軸80と同心上に配置され、その出力側端部にフランジ88がキー89等により固定され、このフランジ88に、入力軸41にキー90等により固定されたフランジ91がボルト・ナット(図示省略)により固定されている。入力側伝動軸81における、入力側端部と出力側伝動軸80における、出力側端部間には、例えば、10mm程度の隙間92が軸方向に設けられている。この隙間92により、継手装置9の組立(組付)誤差を吸収したり、温度上昇(変化)による出力側伝動軸80や入力側伝動軸81の伸び(伸縮)に対応するようにしている。
【0026】
固定ハウジング82は、風力発電装置1の増速機3や発電機4が設置される機械室の構造物である、ナセル13の床面にボルト・ナット(図示省略)等により設置、固定されている。固定ハウジング82には、出力側伝動軸80と入力側伝動軸81が挿入され、これら各軸80,81が、軸方向に配設された出力側伝動軸用軸受94と入力側伝動軸用軸受95を介して、固定ハウジング82により、別箇に支持されている。これら軸受94,95は、それぞれ、固定ハウジング82における、各フランジ83,88側の端部に配設される。各軸受94,95としては、玉軸受やころ軸受が用いられる。
【0027】
一方向クラッチ7は、出力側伝動軸80と入力側伝動軸81との間であって、出力側伝動軸用軸受94と入力側伝動軸用軸受95間に位置している。一方向クラッチ7は、内輪71及び外輪72と、この内輪71の外周面71aと外輪72の内周面72aとの間に配置された複数のころ(係合子)73とを備えている。内輪71は、出力側伝動軸80の出力側端部に圧入、ネジ、キー等により固定され、出力側伝動軸80における、内輪71と出力側伝動軸用軸受94間には、ワッシャ(スペーサ)96が嵌合されている。外輪72は、入力側伝動軸81の入力側端部にネジ、キー等により固定されている。なお、内輪71を出力側伝動軸80に固定する際や、外輪72を入力側伝動軸81に固定する際に、キー等を用いずに、上記部材にスプライン軸やスプライン孔等を形成して、内輪71等を出力側伝動軸80等に構造的に固定することもある。また、内輪71を入力側伝動軸81に備え、外輪72を出力側伝動軸80に備えることもある。外輪72は、入力側伝動軸81から径方向外方に延びる(突設された)円環状の径方向延在部(径方向突設部)97と、この径方向延在部97における、径方向外方側の端部から出力軸35側の軸方向に延びて(突設されて)内輪71と径方向で互いに対向する円筒状の軸方向延在部(軸方向突設部)98を有する。軸方向延在部98の先端部(出力軸35側の端部)の内周面には、ころ73の組付を容易にするための組付用テーパー98aが形成されている。尚、荷重の伝達、支持を考慮して、径方向延在部97の肉厚は、軸方向延在部98よりも大とされている。ころ73は、本実施形態では、円柱形状に形成され、周方向に8個設けられている。
【0028】
固定ハウジング82には、その内部に配置された一方向クラッチ7、出力側伝動軸用軸受94、及び入力側伝動軸用軸受95を潤滑するためのグリース(潤滑剤)が充填される。固定ハウジング82にはその外周面から内周面(前記密封空間)を径方向に貫通する給油孔61aが形成されており、この給油孔61aにグリースニップル(逆止弁付き給油口)64が取り付けられている。給油孔61aは周方向の複数箇所、例えば、周方向等間隔で4箇所に設けられており、いずれかの給油孔61aからも密封空間内にグリースを供給することが可能となる。また、いずれかの給油孔61aからグリースを供給する際に、他の給油孔61aのグリースニップル64を取り外すことで、当該他の給油孔61aから古いグリースを排出することができる。したがって、給油孔61aは、グリースの供給部としての機能だけでなく排出部としての機能をも有している。グリースは、基油にエステル、増ちょう剤にウレア系のもの等を用いた温度変化に影響を受けにくいものを用いることが好ましいが、これに限定されるものではない。
図4では、グリースニップル64は外輪72の径方向外側に配置されていたが、この位置に限定されるものではない。例えば、グリースニップル64を、出力側伝動軸用軸受94の外輪と外輪72との間でかつワッシャ96の径方向外側に配置してもよい。出力側伝動軸用軸受94、及び入力側伝動軸用軸受95の各軸方向外側端部、すなわち、出力側伝動軸用軸受94のフランジ83側の端部、及び入力側伝動軸用軸受95のフランジ88側端部には、それぞれ、シール部材(図示省略)が配置されている。
【0029】
上記のような継手装置によれば、一方向クラッチ7は、出力側伝動軸80と入力側伝動軸81とを一体回転可能に接続したり、この接続を解除したりするが、これら両軸80,81が、出力側伝動軸用軸受94と入力側伝動軸用軸受95を介して、ナセル13の床上に設置した固定ハウジング82により支持されているので、一方向クラッチ7の荷重をナセル13により十分に支えることができる。それ故、継手装置9が一方向クラッチ7の部分で大きく撓んで、一方向クラッチ7等に機械的な大きな負荷が掛ることがなく、一方向クラッチ7等をスムーズに作動させることができる。
【0030】
一方向クラッチ7について、さらに説明すると、各ころ73を円周方向に沿って所定間隔毎に保持する環状の保持器74と、各ころ73を一方向に弾性的に付勢する複数の弾性部材(付勢部材)75とをさらに備えている。
図7は、一方向クラッチの保持器を示す斜視図である。
図7において、保持器74は、軸方向に対向する一対の円環部76と、これら円環部76とは別体であって、両円環部76に軸方向両端部がそれぞれ嵌合される複数の柱部77とを有している。両円環部76と周方向に隣接する柱部77とに囲まれた空間によってポケット78が構成されており、各ポケット78に各ころ73が個別に収容されている(
図5参照)。
【0031】
円環部76は、炭素鋼やアルミ等の金属材料により形成され、例えば、外径が300mm、軸方向の厚みが15mmに設定されている。円環部76の内周には、円周方向に所定間隔をあけて複数の凹部76aが形成されている。
柱部77は、本体部77aと、本体部77aの周方向の一端面に突設された突起部77bと、本体部77aの軸方向両端部にそれぞれ形成された一対の嵌合部77cとを有している。そして、本体部77a、突起部77b、及び嵌合部77cは、合成樹脂材料を射出成形することにより一体成形されている。
【0032】
突起部77bは、
図5に示すように、ポケット78内に収容された弾性部材75を案内(位置決め)するものである。具体的には、突起部77bは、先端に向かうに従って徐々に細くなるように形成されている。そして、弾性部材75が、突起部77bの先端側から遊嵌されるようになっている。なお、弾性部材75は、軸方向に細長く形成された圧縮コイルバネからなっている。但し、弾性部材75は、板バネ等の他の形式のバネであってもよい。
【0033】
図7に示すように、嵌合部77cは、本体部77aよりも径方向の厚みが薄く形成されており、この嵌合部77cを凹部76aに嵌合させた状態で円環部76の外周面と本体部77aの外周面とがほぼ面一となるように嵌合部77cの厚さが設定されている。
【0034】
以上のように保持器74は、円環部76と柱部77とから構成され、これらは互いに別体で形成されているので、円環部76及び柱部77をそれぞれ個別に製作することができる。したがって、保持器74の全体を一体に製作する場合に比べて、保持器74を容易に製作することができる。特に、風力発電装置1に用いられる保持器74は大型であり、全体を一体に製作することが困難であるので、円環部76と柱部77とを別体で構成することがより有益である。また、円環部76を金属製とすることによって保持器74の強度を十分に確保することができ、柱部77を合成樹脂製とすることによって保持器74全体の軽量化を図ることができる。
【0035】
図5に示すように、内輪71の外周面71aにはころ73と同数(8つ)の平坦なカム面71a1が形成されており、外輪72の内周面72aは円筒面に形成されている。内輪71のカム面71a1と外輪72の円筒面72aとの間には、くさび状空間Sが周方向に複数(8箇所)形成されている。
図6は、一方向クラッチの要部を拡大して示す断面図である。
ころ73は各くさび状空間Sに個別に配置されている。また、ころ73は、弾性部材75によってくさび状空間Sが狭くなる方向に付勢されている。ころ73の外周面は、内輪71のカム面71a1及び外輪72の内周面72aに接触する接触面73aとなっており、この接触面73aは幅方向(軸方向)に真っ直ぐに形成されている。
【0036】
以上のように構成された一方向クラッチ7では、出力側伝動軸80が増速回転することにより、出力側伝動軸80の回転速度が、入力側伝動軸81の回転速度を上回る場合には、内輪71が外輪72に対して一方向(
図5の反時計回り方向;
図6の矢印a方向)に相対回転しようとする。この場合、弾性部材75の付勢力により、ころ73はくさび状空間Sが狭くなる方向(
図6の右方向)へ僅かに移動して、ころ73の接触面73aが内輪71の外周面71a(カム面71a1;被噛み合い面)及び外輪72の内周面(被噛み合い面)72aに圧接し、ころ73が内外輪71,72の間に噛み合った状態となる。これにより、内外輪71,72は前記一方向aに一体回転可能となり、出力側伝動軸80と入力側伝動軸81とを一体回転可能に接続することができる。
【0037】
また、出力側伝動軸80、すなわち、出力軸35が増速回転後に一定速回転となり、出力側伝動軸80の回転速度が、入力側伝動軸81、すなわち、入力軸41の回転速度と同一になった場合には、ころ73が内外輪71,72の間に噛み合った状態で保持される。このため、一方向クラッチ7は、内外輪71,72の前記一方向への一体回転を維持し、出力側伝動軸80及び入力側伝動軸81は一体回転し続ける。
【0038】
一方、出力側伝動軸80が減速回転することにより、出力側伝動軸80の回転速度が、入力側伝動軸81の回転速度を下回る場合には、内輪71が外輪72に対して他方向(
図5の時計回り方向;
図6の矢印b方向)に相対回転しようとする。この場合には、弾性部材75の付勢力に抗して、ころ73がくさび状空間Sが広くなる方向へ僅かに移動することにより、ころ73と内外輪71,72との噛み合いが解除される。このように、ころ73の噛み合いが解除されることで、出力側伝動軸80と入力側伝動軸81との接続が遮断される。
なお、各くさび状空間Sを形成する外輪内周面72aは、周方向に連続する円筒面の一部(円弧面)によって構成されているが、周方向に連続しない円弧面、例えば、周方向に隣接するくさび状空間Sの外輪内周面72aの間に平坦面や変曲点が介在するような独立した円弧面であってもよい。
【0039】
出力側伝動軸80に対して、一方向クラッチ7の内輪71は、所定の締め代をもって締まり嵌めによって嵌合されている。したがって、出力側伝動軸80に対する内輪71の締め付け力によって両者が一体回転可能となる。また出力側伝動軸80に対する内輪71の締め付け力は、ころ73と内外輪71,72との噛み合いによって増大するようになっている。以下、この作用について詳細に説明する。
【0040】
図6に示すように、内輪71が外輪72に対して
図6の矢印a方向に相対回転しようとしたとき、カム面71a1と外輪内周面72aとにころ73が噛み込み、ころ73は、
図8に示すように、外輪内周面72aから荷重Fa,Fbを受け、内輪71のカム面71a1は、荷重Fa,Fbの分力である垂直成分荷重Fa1,Fb1をころ73から受ける。したがって、この垂直成分荷重Fa1,Fb1によって出力側伝動軸80に対する内輪71の締め付け力は増大する。
【0041】
そのため、出力側伝動軸80と内輪71との嵌め合いによる締め付け力(以下、「初期の締め付け力」ともいう)によって出力側伝動軸80から内輪71に伝達可能なトルク(伝達トルク)T2は、風力発電装置1を作動させるための負荷トルク(発電機4のロータ42を回すための発電トルクや慣性トルク)が最大となったときに、出力側伝動軸80から内輪71に伝達されるべき最大の伝達トルクT1maxよりも小さくすることができる。すなわち、T2とT1maxとを、
T1max>T2 ・・・(1)
の関係に設定することができる。
【0042】
また、ころ73と内外輪71,72との噛み合いによる締め付け力(以下、「追加の締め付け力」ともいう)によって出力側伝動軸80から内輪71に伝達可能な伝達トルクをT3としたとき、T2とT3とを加算した値が、風力発電装置1を作動させるために必要な最小限の伝達トルクT1よりも常に大きくなっている。すなわち、
T1<T2+T3 ・・・(2)
特に、負荷トルクが最大となったときの追加の締め付け力で、出力側伝動軸80から内輪71に伝達可能な伝達トルクT3maxは、以下の条件を満たしている。
T1max<T2+T3max ・・・(3)
【0043】
以上の負荷トルクと各伝達トルクT1〜T3との関係は、
図9にグラフで示す通りである。なお、上述の最大の負荷トルクとは、風力発電装置1の設計条件として想定した最大の負荷トルクのことをいい、風力発電装置1が故障したときや異常気象により想定を超える風速の急変動が生じたときなどに発生する過大な負荷トルクのことではない。
上記(1)〜(3)の関係が満たされることによって、出力側伝動軸80と内輪71との嵌め合いによる初期の締め付け力を可及的に小さくすることができ、両者の嵌め合いに必要な締め代を小さくし、当該嵌め合いによって内輪71に生じる内部応力(特に円周方向の応力)を小さくすることができる。内輪71の内部応力を小さくすることで内輪71の耐久性を高め、一方向クラッチ7、ひいては継手装置9の寿命を高めることができる。なお、出力側伝動軸80と内輪71の間の締め代は、最小で10μmとすることができる。
【0044】
なお、一方向クラッチ7の内輪71を省略し、出力側伝動軸80に直接カム面を形成すれば、上記のような嵌め合いに伴う内輪71の応力集中を抑制することができ、好適である。しかし、本実施形態のように風力発電装置1に用いられる一方向クラッチ7は大型であるため、入力側伝動軸81に対して直接カム面を形成するのは困難であり、現実的ではない。したがって、上記(1)〜(3)のように各伝達トルクT1〜T3と負荷トルクとの関係を設定することが最も有効である。
【0045】
一方、負荷トルクの増大に伴って、ころ73と内外輪71,72との噛み合いによる締め付け力が過度に大きくなると、内輪71の負担が大きくなり、却って耐久性が低下してしまうおそれがある。そのため、本実施形態では、負荷トルクが大きくなるほど、負荷トルクの増分に対する、ころ73から内輪71(カム面71a1)に付与される垂直成分荷重の増分を小さくし、内輪71への負担を可及的に小さくできるようにしている。
【0046】
具体的には、
図6に示すように、外輪内周面72aは、円弧面に形成されているため、くさび状空間Sが狭い領域ほど、くさび角は大きくなる。
図8(a)は、くさび状空間Sが比較的広く、くさび角θaが小さい領域にころ73が位置している状態を示し、
図8(b)は、くさび状空間Sが比較的狭く、くさび角θbが大きい領域にころ73が位置している状態を示している。
【0047】
また、ころ73がくさび状空間Sの広い領域に位置するのは、ころ73と内外輪71,72との噛み合いの初期、例えば非回転の状態からカットイン風速(発電のために最低必要な風速)に達して回転し始めるときや、カットイン風速で回転が一定となり安定しているとき等のように負荷トルクが小さい場合であり、また、ころ73がくさび状空間Sの狭い領域に位置するのは、定格風速以上の風速となり定格出力に達したときなどの負荷トルクが大きい場合である。カットイン風速は、瞬間風速であってもよいし、所定時間の平均風速であってもよい。
したがって、
図8において、外輪内周面72aからころ73に付与される荷重Fa,Fbは、
Fa<Fb ・・・(4)
の関係がある。
【0048】
そして、
図8(b)において、外輪内周面72aからころ73に付与される荷重Fbに対する垂直成分荷重Fb1の割合(Fb/Fb1)は、
図8(a)において、荷重Faに対する垂直成分荷重Fa1の割合(Fa/Fa1)よりも小さくなる。そのため、負荷トルクが増大したとしても、垂直成分荷重Fb1はそれほど大きくならず、内輪71に対する負担を軽減することができる。
【0049】
ころ73と内外輪71,72との噛み合いの初期の負荷トルクが作用したときのくさび角θaと、最大の負荷トルクが作用したときのくさび角θbとは、
1.0°<θb−θa<1.5° ・・・(5)
の関係に設定されている。
くさび角θaは、4°〜9°の範囲にあることが好ましく、くさび角θbは、5.5°〜10°の範囲にあることが好ましい。くさび角θaが4°よりも小さいと、ころ73からカム面71a1に付与される垂直成分荷重Fa1が必要以上に大きくなる可能性があり、くさび角θaが9°を超えると、他方のくさび角θbが大きくなりすぎ、ころ73と両周面との噛み合いが不十分となる可能性があるからである。また、くさび角θbが、5.5°よりも小さいと、他方のくさび角θaが小さくなりすぎ、ころ73からカム面71a1に付与される垂直成分荷重Fa1が必要以上に高まる可能性があり、くさび角θbが10°を超えると、ころ73と内外輪71,72との噛み合いが不十分となる可能性があるからである。
【0050】
また、くさび角θaとθbとの比は、
1.1<θb/θa<1.4 ・・・(6)
(より好ましくは、1.11<θb/θa<1.38)
に設定されている。
くさび角θa,θbが以上のような関係に設定されることによって、ころ73と内輪71及び外輪72との噛み合いの初期から負荷トルクが最大となるまでの間、出力側伝動軸80と内輪71とのトルク伝達を確実に行うことができるとともに内輪71の負担も軽減することができる。
【0051】
上記(5)、(6)のような関係は、外輪72の内径、ころ73の外径やP.C.D、外輪内周面72aとカム面71a1との間隔等を調整することによって設定することができる。また、一方向クラッチ7におけるころ73の数は、4個〜8個に設定することが好ましい。ころ73の数が8個を超えると、外輪内周面72aから各ころ73への荷重Fa,Fbが分散し、ころ73からカム面71a1への垂直成分荷重Fa1,Fb1が小さくなり、出力側伝動軸80に対する内輪71の締め付け力を十分に得ることができなくなる可能性があるからである。また、ころ73の数が4個より少ないと、出力側伝動軸80に対する内輪71の締め付け力が大きくなりすぎ、内輪71への局所的な負担が大きくなるからである。
【0052】
本発明は、上記の実施形態に限定されることなく適宜変更して実施可能である。例えば、前記実施形態では、一方向クラッチを径方向に対向するタイプとしたが、一方向クラッチをスラスト型としてもよい。また、風力発電装置は、
図1に示す水平軸タイプのものに限らず、垂直軸タイプのものであってもよい。