特許第6237129号(P6237129)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 6237129-ポリエステルの製造方法 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237129
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】ポリエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/78 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
   C08G63/78
【請求項の数】6
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-229410(P2013-229410)
(22)【出願日】2013年11月5日
(65)【公開番号】特開2014-129512(P2014-129512A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2016年6月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-261359(P2012-261359)
(32)【優先日】2012年11月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川口 高明
(72)【発明者】
【氏名】川辺 雅之
(72)【発明者】
【氏名】木村 寿
(72)【発明者】
【氏名】矢次 豊
(72)【発明者】
【氏名】小澤 佳加
【審査官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−126096(JP,A)
【文献】 特開昭60−163918(JP,A)
【文献】 国際公開第2001/083582(WO,A1)
【文献】 特開2004−124068(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0171789(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを原料とし、前記ジカルボン酸成分と前記ジオール成分とのスラリーを調製するスラリー化工程、得られたスラリーをエステル化反応及び/又はエステル交換反応させオリゴマーを得るエステル化工程、及び得られたオリゴマーを溶融重縮合反応させる重縮合工程を有するポリエステルの製造方法であって、
エステル化工程及び/又は重縮合工程から留出するエチレングリコールを主成分とする液の少なくとも一部を、原料エチレングリコールとして前記スラリー化工程及び場合によ
り前記エステル化工程に供給し、かつ前記原料エチレングリコールが下記式(1)〜(3)で表される化合物の少なくとも一つを含み、それらの含有量が下記式(I)を満たすこ
とを特徴とするポリエステルの製造方法。
0.01≦r≦60 ・・・(I)
但し、r=a+b+2c
a:前記原料エチレングリコールに含まれる純エチレングリコールに対する下記式(1)で表される化合物の含有量 (モルppm)
b:前記原料エチレングリコールに含まれる純エチレングリコールに対する下記式(2)で表される化合物の含有量 (モルppm)
c:前記原料エチレングリコールに含まれる純エチレングリコールに対する下記式(3)で表される化合物の含有量 (モルppm)
【化1】
【請求項2】
更に前記エステル化工程から留出するエチレングリコールを主成分とする液の一部を原料エチレングリコールとしてエステル化工程に供給し、
原料エチレングリコールとしてエステル化工程に供給する液の質量流量をd(質量部/時)、エステル化工程からの留出物の質量流量をe(質量部/時)としたとき、下記式(II)を満たす請求項1に記載のポリエステルの製造方法。
0≦d≦e/2.3 ・・・(II)
【請求項3】
更にエチレングリコールの精製工程を有し、スラリー化工程及び/又はエステル化工程に供給する原料エチレングリコールの一部が該精製工程を経由したものである請求項1又は2に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項4】
前記重縮合工程が重縮合反応触媒を用いるものであって、該重縮合反応触媒がチタン化合物を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項5】
前記重縮合反応触媒を、前記エステル化工程で得られるポリエステルオリゴマーを前記重縮合工程へ移送する配管中に添加する請求項4に記載のポリステルの製造方法。
【請求項6】
前記エステル化工程及び重縮合工程から留出するエチレングリコールを主成分とする液
の全量をスラリー化工程に供給する請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルの製造方法に関する。特に、原料として使用されるエチレングリコール中の特定の不純物の濃度を制御し、また、ポリエステルを製造する過程で留出する、エチレングリコールを主成分とする液をスラリー化工程又はエステル化工程に供給することにより、良好な色調のポリエステルを経済的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、機械的強度、化学的安定性など、その優れた性質の故に、広く種々の分野、例えば、衣料用や産業資材用の繊維、包装用や磁気テープ用などの各種フィルムやシート、ボトルやエンジニアリングプラスチック等の成形物などの分野で使用されている。中でも、ポリエチレンテレフタレートは、ガスバリヤ性、衛生性などに優れ、比較的安価で軽量であるために、各種食品、飲料包装容器として幅広く使用され、その応用分野はますます拡大している。
【0003】
一般にポリエステルは、ジカルボン酸成分とジオール成分を原料として、エステル化反応により生成する水や、原料であるジオール成分の一部を留出させながら、低重合反応物を得た後、得られたオリゴマーを重縮合触媒の存在下、重縮合反応により、ジオール成分と水とを留出させながら、重縮合反応物であるポリエステルを得る方法により製造されている。通常、ポリエステルの重縮合は、200℃以上の高温下で行われるため、熱分解により好ましくない黄色の着色を惹起することが知られている。特に、チタン化合物を触媒とし、原料であるジオールとしてエチレングリコールを用いて製造したポリエステルは、強く黄色に着色することが知られている。
【0004】
チタン触媒を使用した場合に起きる前記の様な好ましくない着色を防止するために、リン化合物及びコバルト化合物を添加する方法が知られている(例えば特許文献1、2)。また、有機系調色剤を添加してポリエステルの黄味を抑える方法も知られている(例えば特許文献3)。一方、チタン触媒についても、チタン三核触媒を使用することで着色を抑制することが知られている(例えば特許文献4)。
【0005】
しかしながら、リン化合物及びコバルト化合物の添加ではチタン化合物を触媒とした場合には重縮合活性が低下するという問題がある上、色調改良も不十分であった。また、有機系調色剤を添加してポリエステルの黄味を抑える方法では、ポリエステルのくすみを増大させる問題があった。また、チタン三核触媒は、触媒の製造工程が複雑であり、生産コストがかかるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−256452号公報
【特許文献2】特開平8−73581号公報
【特許文献3】特開2005−23203号公報
【特許文献4】特開2004−43716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の現状に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ポリエステルを製造する際の着色を防止し、色調が良好なポリエステルを得る、ポリエステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題の解決に向けて鋭意検討した結果、ポリエステルを製造する過程で留出する、エチレングリコールを主成分とする液(以下、留出液と称することがある)を原料として再利用する場合に、当該液をポリエステル製造における特定の工程に原料エチレングリコールとして供給すること、及び当該液の再利用率を制御すること、さらには、当該液をエチレングリコール精製工程、凝縮器、分離塔等を経由して当該液に含まれる特定化合物の量を低減して原料エチレングリコールとして再利用することにより、色調が良好なポリエステルを経済的に製造することが可能となることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
[1]ジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを原料とし、前記ジカルボン酸成分と前記ジオール成分とのスラリーを調製するスラリー化工程、得られたスラリーをエステル化反応及び/又はエステル交換反応させオリゴマーを得るエステル化工程、及び得られたオリゴマーを溶融重縮合反応させる重縮合工程を有するポリエステルの製造方法であって、
エステル化工程及び/又は重縮合工程から留出するエチレングリコールを主成分とする液の少なくとも一部を、原料エチレングリコールとして前記スラリー化工程及び場合により前記エステル化工程に供給し、かつ前記原料エチレングリコールが下記式(1)〜(3)で表される化合物の少なくとも一つを含み、それらの含有量が下記式(I)を満たすこ
とを特徴とするポリエステルの製造方法。
【0009】
0.01≦r≦60 ・・・(I)
但し、r=a+b+2c
a:前記原料エチレングリコールに含まれる純エチレングリコールに対する下記式(1)で表される化合物の含有量(モルppm)
b:前記原料エチレングリコールに含まれる純エチレングリコールに対する下記式(2)で表される化合物の含有量(モルppm)
c:前記原料エチレングリコールに含まれる純エチレングリコールに対する下記式(3)で表される化合物の含有量(モルppm)
【0010】
【化1】
【0011】
[2]更に前記エステル化工程から留出するエチレングリコールを主成分とする液の一部を原料エチレングリコールとしてエステル化工程に供給し、
原料エチレングリコールとしてエステル化工程に供給する液の質量流量をd(質量部/時)、エステル化工程からの留出物の質量流量をe(質量部/時)としたとき、下記式(II)を満たす[1]に記載のポリエステルの製造方法。
【0012】
0≦d≦e/2.3 ・・・(II)
[3]更にエチレングリコールの精製工程を有し、スラリー化工程及び/又はエステル化工程に供給する原料エチレングリコールの一部が前記該精製工程を経由したものである[1]又は[2]に記載のポリエステルの製造方法。
[4]前記重縮合工程が重縮合反応触媒を用いるものであって、該重縮合反応触媒がチタン化合物を含有する[1]〜[3]のいずれかに記載のポリエステルの製造方法。
[5]前記重縮合反応触媒を、前記エステル化工程で得られるポリエステルオリゴマーを前記重縮合工程へ移送する配管中に添加する[4]に記載のポリステルの製造方法。
[6]前記エステル化工程及び重縮合工程から留出するエチレングリコールを主成分とする液の全量をスラリー化工程に供給する[1]〜[5]のいずれかに記載のポリエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリエステルを製造する際の黄色の着色を抑制し、色調が良好なポリエステルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の製造方法を実施するための、ポリエステルの製造装置における全体フローの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、ジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするジオール成分とを原料とするポリエステルの製造方法であって、前記エチレングリコールに対する特定化合物の含有量が特定の範囲であり、エステル化工程から留出する液の少なくとも一部をスラリー化工程に供給するポリエステルの製造方法に係るものである。なお、本発明は、前記のエステル化工程から留出する液の一部を、エステル化工程に戻す製造方法にも係るものである。
【0016】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これらは本発明の実施態様の一例であり、これらの内容に特定されるものではない。
尚、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲であることを意味する。
なお、本発明において「エステル化工程」とは、エステル化反応とエステル交換反応の両方を含む工程を指すものとする。
【0017】
また、本発明に用いるジオール成分において、「エチレングリコールを主成分とする」とは、エチレングリコールが全ジオール成分の85モル%以上を占めることを意味する。
同様に、本発明に用いるジカルボン酸成分において、「テレフタル酸及び/又はテレフタル酸エステルを主成分とする」、若しくは、「ナフタレンジカルボン酸及び/又はナフタレンジカルボン酸エステルを主成分とする」とは、テレフタル酸及び/又はテレフタル酸エステル若しくは、ナフタレンジカルボン酸及び/又はナフタレンジカルボン酸エステルが、全ジカルボン酸成分の85モル%以上を占めることを意味する。
【0018】
<原料>
(ジオール成分)
本発明に用いるジオール成分は、エチレングリコールを主成分とするものであって、下記式(1)〜(3)で表される化合物(以下、「アセタール化合物」と称することがある)を含有し、それぞれの該エチレングリコールに対する含有量をa、b、cモルppmとしたとき、a+b+2cから求められる値rが、0.01モルppm以上60モルppm以下である。
【0019】
【化2】
【0020】
本発明に用いるジオール成分において、エチレングリコールが全ジオール成分の85モル%以上を占めることが好ましく、90モル%以上を占めることがより好ましく、は95モル%以上を占めることがさらに好ましい。エチレングリコールの割合が前記下限以上であれば、得られるポリエステルの成形体としての機械的強度、ガスバリア性、及び耐熱性の点で優位である。
【0021】
工業用のエチレングリコールには、通常、純エチレングリコールに対し、式(1)の化合物が1〜60モルppm程度、式(2)の化合物が0〜20モルppm程度、式(3)の化合物が1〜30ppm程度含有されている。本発明のポリエステルの製造において、工業用のエチレングリコールをそのまま原料エチレングリコールとして使用することができる。又、エチレングリコール製造に際して、エチレングリコールの工業的原料であるエチレンオキシドの製造時に精留塔で副生アルデヒド等を除去する方法などによって得られた、前記式(1)〜(3)の化合物の含有量が低いエチレングリコールを原料エチレングリコールとして使用することもできる。
【0022】
また、工業用のエチレングリコールを、蒸留する方法、吸着剤で吸着する方法等により、前記アセタール化合物の含有量を低減させた後に原料エチレングリコールとして使用することもできる。
本発明に用いるジオール成分は、エチレングリコール以外にその他のジオール化合物を含有していて構わない。その他のジオール化合物としては、1,4−ブタンジオール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタ
メチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール等の脂肪族ジオール;1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール、2,5−ノルボルナンジメチロール等の脂環式ジオール;キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等の芳香族ジオール;ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物等のポリエーテル等が挙げられる。これらのその他のジオール化合物は、一種を単独で用いてもよく、複数種のものを併用しても構わない。
【0023】
(ジカルボン酸成分)
本発明に用いるジカルボン酸成分は、ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を含有するものである。ここで、前記エステル形成性誘導体としては、ジカルボン酸エステルの他にジカルボン酸無水物、ジカルボン酸塩化物等が挙げられる。本発明に用いるジカルボン酸成分としてより具体的には、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び/又はそれらのエステル形成性誘導体を含有するものであって、脂肪族ジカルボン酸の炭化水素基部分は脂環式構造であっても分岐構造を有していても構わない。
【0024】
芳香族ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を用いる場合、反応性や経済性の観点から、好ましくは芳香族環の数が4以下のジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体が用いられ、より好ましくは芳香族環の数が2以下のジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体が用いられる。具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸、ジブロモイソフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等及びこれらのエステル形成性誘導体が用いられる。
【0025】
脂肪族ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を用いる場合、反応性や経済性の観点から、好ましくは炭素数が2以上18以下の直鎖脂肪族ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体、又は炭素数が4以上10以下の脂環式ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体が用いられ、より好ましくは炭素数が2以上10以下の直鎖脂肪族ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体が用いられる。より具体的には、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環式ジカルボン酸及びこれらのエステル形成性誘導体;グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸等及びこれらのエステル形成性誘導体等が用いられる。
【0026】
前記芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸がエステル形成性誘導体である場合、エステル形成性誘導体としては、アルコールとのエステルであることが好ましい。該アルコールとしては、炭素数1〜4のアルコールが挙げられる。具体的には、メタノール、エタノールとのジエステルが好ましく用いられる。
本発明に用いるジカルボン酸成分において、上記のジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体は、一種を単独で用いても複数種のものを併用しても構わない。
【0027】
なかでも本発明に用いるポリエステルの製造方法を好ましく適用できるポリエステルに
おいては、テレフタル酸及び/又はテレフタル酸エステル、若しくは、ナフタレンジカルボン酸及び/又はナフタレンジカルボン酸エステルを主成分とするものが好ましい。ここで「主成分」とは、テレフタル酸及び/又はテレフタル酸エステル、若しくは、ナフタレンジカルボン酸及び/又はナフタレンジカルボン酸エステルが、ジカルボン酸成分中の全ジカルボン酸に対して85モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上を占めることを意味する。
【0028】
(その他の共重合成分)
本発明のポリエステルの製造方法により製造するポリエステルは、3官能以上の化合物、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸などのポリカルボン酸及びこれらの無水物;トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロール、ヘキサントリオール等のポリオール;リンゴ酸、クエン酸などのヒドロキシカルボン酸等を、得られるポリエステルの物性を調整する等の目的により必要に応じて共重合成分として使用してもよい。
【0029】
<r値>
本発明者らの知見によれば、前記アセタール化合物の加水分解等により生成するグリコールアルデヒド及び/又はジエチレングリコールアルデヒドが、本発明の製造方法により得られるポリエステルの黄着色要因となる。また、式(1)の化合物1分子からは1分子のグリコールアルデヒドが生成し、式(2)の化合物1分子からは1分子のジエチレングリコールアルデヒドが生成し、式(3)の化合物1分子からは2分子のグリコールアルデヒドが生成する。このため、黄着色への影響度を勘案し、本発明の製造方法においては、ポリエステル製造工程の中で、原料のエチレングリコールが含有するそれぞれのアセタール化合物の量(a、b、c)から算出される値rを、特定の値に制御することにより前記課題を達成することができる。
【0030】
本発明において、r値とは、本発明のポリエステルの製造方法において、原料エチレングリコールを供給する全ての工程、即ちスラリー化工程及びエステル化工程で、原料エチレングリコール中の(a+b+2c)を求め、各工程の原料エチレングリコール供給量を重みとした加重平均値のことである。
本発明においては、上記r値が特定範囲にあればよく、それぞれの工程における原料エチレングリコール中の(a+b+2c)値が本願規定の範囲を満たす必要はない。
【0031】
なお、a、b、cは、ジオール成分に含まれる純エチレングリコールの含有量(モル)に対する前記式(1)〜(3)の含有量(モル)の比のことであり、モルppm単位で表示する。また、「純エチレングリコール」とは純物質としてのエチレングリコールのことである。
前記アセタール化合物の含有量a、b、c値は、汎用ガスクロマトグラフィーを用い、例えば、ポリエチレングリコールカラム、検出器温度210℃、フレームイオンディテクター(FID)、感度補正あり、の条件で前記ジオール成分を測定し、純エチレングリコールと前記アセタール化合物を定量して、下記計算式に従ってa、b、c値を求める。
【0032】
なお、当該保持時間と各アセタール化合物の対応は、GCMS(ガスクロマトグラフィーを直結した質量分析装置)を使用し、電子イオン化法(EI)、及び化学イオン化法(CI)により同定できる。
エチレングリコール中のジエチレングリコールの感度に対して、炭素数、および、官能基による感度の補正を施し、ジエチレングリコールに対するFID相対質量感度0.95を用いる。ジエチレングリコールの濃度は標品により定量する。得られる濃度より、式(1)〜(3)の化合物の質量濃度を、現代化学シリーズ11 クロマトグラフィー(第3版)東京化学同人、p111、表7.7 (1981)に記載される、以下の表1のFID相対
質量感度補正を行って算出する。
【0033】
【表1】
【0034】
上記の方法で求められた式(1)〜(3)の化合物の質量濃度から、下記[式A]、[式B]、[式C]により、ジオール成分中の、エチレングリコールに対する各アセタール化合物の含有量のモル比(a、b、c)を算出し、モルppm単位で表示する。
[式A] a = (式(1)で表される化合物の質量濃度/148.16)/(純エチレングリコールの質量濃度/62.07)
[式B] b = (式(2)で表される化合物の質量濃度/148.16)/(純エチレングリコールの質量濃度/62.07)
[式C] c = (式(3)で表される化合物の質量濃度/120.10)/(純エチレングリコールの質量濃度/62.07)
本発明において、(a+b+2c)から求められる前記r値は、下記式(I)を満たす
【0035】
0.01≦r≦60 ・・・(I)
本発明において、r値の上限は60モルppm以下であり、45ppm以下が好ましく、35ppm以下がより好ましく、30ppm以下が特に好ましい。r値が前記上限値以下の場合、得られるポリエステルの黄着色が抑制されるため好ましい。一方、ポリエステルの黄着色を低減しながら経済性を高めるという観点から、r値の下限は0.01モルppm以上であり、0.5モルppm以上であることが好ましい。r値を0.01モルppm未満とするには、高純度のエチレングリコールを得るための精製設備とエネルギーを必要とし、経済性の面で不利であり製造方法として好ましくない。
【0036】
(原料エチレングリコール)
なお、ポリエステル重縮合反応触媒液を、エステル化工程で得られるポリエステルオリゴマーを重縮合工程へ移送する配管中に添加する場合、その触媒液に含まれるエチレングリコールは、原料エチレングリコールと称せず、本発明の規定するジオール成分中のエチレングリコールには含めない。
又、エステル化工程又は重縮合工程の留出液であっても、スラリー化工程及びエステル化工程に供給されないエチレングリコールは、原料エチレングリコールと称せず、後述のr値の算出には用いない。
【0037】
(r値の制御方法)
原料エチレングリコールの前記r値を本発明の規定範囲内に制御する方法としては、ポリエステル製造工程から留出した、前記(a+b+2c)の値が本発明のr値の規定上限値より高い、エチレングリコールを主成分とする液(留出液)を、エチレングリコール精製工程を経由して、(a+b+2c)の値が本発明のr値の規定上限値以下にして、原料エチレングリコールの一部として使用する方法が挙げられる。
【0038】
一般に、エチレングリコールを原料に使用するポリエステルの製造における留出液は、
純エチレングリコールに対し、式(1)の化合物が40モルppmを越えることがあり、式(2)の化合物が10モルppmを越えることがあり、式(3)の化合物が30モルppmを越えることがある。本発明の製造方法においては、前記留出液を原料エチレングリコールとして再利用することにより、前記留出液によって原料エチレングリコール中の前記アセタール化合物の含有量が増加するため、ポリエステルの着色を抑制できないことがある。
【0039】
そこで、市販エチレングリコール又は前記留出液を精製して前記アセタール化合物の含有量を減少させた上で原料エチレングリコールとして使用することにより、原料エチレングリコール中の前記アセタール化合物の含有量を低く抑え、得られるポリエステルの着色を抑制することができる。この精製方法としては、高沸点成分である前記アセタール化合物を蒸留分離する方法、アセタール化合物と親和性が高い物質を用いて、前記アセタール化合物を吸着除去する方法等を適宜組み合わせて用いることができる。
【0040】
前記精製方法によって得られたエチレングリコールの(a+b+2c)の値を本発明のr値の規定上限値以下に維持する方法としては、該エチレングリコールを、空気や太陽光への暴露を避けるため、窒素等の不活性ガス雰囲気下でステンレス製容器に密閉保管する方法が例示できる。又、(a+b+2c)の値が本発明のr値の規定上限値以下であるエチレングリコールをポリエステルの製造工程で用いる方法としては、該エチレングリコールを原料としてスラリーを調製してもよく、該エチレングリコールをエステル化工程で使用してもよい。
【0041】
又、原料エチレングリコールの前記r値を本発明の規定範囲内に制御する方法としては、前記留出液の一部を原料エチレングリコールとして使用し、前記留出液の残りを廃棄することで前記r値が規定範囲内に保たれるようにする方法も挙げられる。
又、原料エチレングリコールの前記r値を本発明の規定範囲内に制御する方法としては、前記留出液の一部と、前記(a+b+2c)の値が本発明の規定する上限値以下のエチレングリコールを混合して、原料エチレングリコールとして供給することによりr値を本発明の規定する範囲内となるようにする方法も挙げられる。
【0042】
尚、上記混合時、(a+b+2c)の値が本発明の規定上限値以下のエチレングリコールとしては、原料として受け入れたエチレングリコールであっても良く、後述のエチレングリコール精製工程を経由したエチレングリコールであっても良い。ここで、「原料として受け入れたエチレングリコール」とは、本発明の製造方法に用いる原料エチレングリコールのうち、まだ、本発明の製造方法を行う各工程に供給されたことがないエチレングリコールのことである。
【0043】
尚、上記の混合に際しては、前記留出液の一部と、前記(a+b+2c)の値が本発明の規定上限値以下のエチレングリコールとの混合比を制御することによって原料エチレングリコールのr値を本発明の規定範囲内に制御することが好ましく、ポリエステルの連続製造法においては、それぞれの液の質量流量を制御することで混合比を制御する方法が好ましく用いられる。
【0044】
これらの原料エチレングリコールのr値を本発明の規定範囲内に制御する方法は単独で用いても良く、複数の方法を組み合わせて用いても良いが、中でも、エチレングリコールの精製工程を経由したエチレングリコールをスラリー化工程に供給する方法、及び/又は
上記精製工程を経由したエチレングリコールの一部をエステル化工程に供給する方法が特に好ましい。
【0045】
本発明のポリエステルの製造方法においては、原料エチレングリコールに対する式(1
)〜(3)で表される化合物の含有量をそれぞれa、b、cモルppmとしたとき、スラリー化工程やエステル化工程の原料エチレングリコールの(a+b+2c)を求め、各工程のエチレングリコール供給量を重みとした加重平均値rが前記特定範囲にあることを満たす限り、上記方法に限らず、エステル化工程及び/又は重縮合工程から留出させた留出物は、そのまま又は凝縮器を経て原料エチレングリコールの一部としてスラリー化工程やエステル化工程などに用いてもよいし、分離塔にて水等の軽沸点成分を除去し、エチレングリコールを主成分とする液としてから原料の一部としてスラリー化工程やエステル化工程などに用いてもよいし、エチレングリコール精製工程を経てエチレングリコール以外の成分を蒸留分離してから、原料の一部として用いても構わない。特に、エチレングリコール精製工程を経由させ、エチレングリコール供給工程で用いることが好ましい。
【0046】
<ポリエステルの製造方法>
本発明のポリエステルの製造方法は、スラリー化工程、エステル化工程、重縮合工程を有する。また、原料として用いるエチレングリコールの供給安定化のため、エチレングリコール供給工程を有することが好ましく、更には本発明におけるr値を制御するためにエチレングリコール精製工程を有することが好ましい。
尚、本発明のポリエステルの製造方法は、反応方式が回分式や半回分式でもよいし、連続式であってもよい。更には、これらを組み合わせた方式であってもよいが、連続式であることが好ましい。
【0047】
本発明のポリエステルの製造方法における、ポリエステルの製造装置の全体フローの一例を図1に示す。この例では、ジカルボン酸成分とジオール成分とを原料として、エステル化反応及び/又はエステル交換反応を行うエステル化工程、エステル化工程で得られたエステル化物を溶融重縮合する重縮合工程を経て、ポリエステルが製造される。本発明における好ましい態様としては、ジカルボン酸成分とジオール成分とを、スラリー調製槽に投入して攪拌・混合するスラリー化工程を経て原料スラリーを得る。得られた該原料スラリーをエステル化反応槽で減圧下〜加圧下、加熱下で、過剰に仕込んだジオールや、エステル化反応によって生ずる水又はエステル交換反応によって生ずる炭素数1〜4のアルコールを留出させながら反応を進めるエステル化工程を経て、ポリエステル低分子量体(以下、「オリゴマー」と称することがある)を得る。得られたオリゴマーを、必要に応じてフィルターを介して接続された重縮合反応槽に移送し、重縮合触媒を使用して、減圧下、加熱下で、過剰に仕込んだジオールや反応によって生ずる水や炭素数1〜4のアルコールを留出させつつ溶融重縮合反応させる重縮合工程を経てポリエステルを得る。
【0048】
エステル化工程の留出液は、前述の通りその一部をスラリー調製槽又はエステル化反応槽に直接供給してもよいが、分離塔にて水等の軽沸点成分を除去し、エチレングリコールを主成分とする液としてから、その一部をスラリー調製槽又はエステル化反応槽に供給することが好ましい。重縮合工程の留出液は、その一部をスラリー調製槽に直接供給してもよいが、凝縮器を経て、スラリー槽に直接供給することが好ましい。
また、図示していないが、本発明の製造方法においては、原料として受け入れたエチレングリコールや、エステル化工程、及び/又は、重縮合工程で留出された留出液から、ろ過、蒸留、吸着等の方法により不純物を分離し、エチレングリコールを精製回収する工程を有していても良い。
【0049】
(エステル化工程)
エステル化工程は、エステル化反応槽を用いて、ジカルボン酸成分とジオール成分とを原料として、エステル化反応及び/又はエステル交換反応を行う工程である。より具体的には、原料となるジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応槽で減圧下〜加圧下、加熱下で、過剰に仕込んだジオール成分や反応によって生ずる水や炭素数1〜4のアルコールなどを留出させつつエステル化反応させて、ポリエステル低分子量体であるオリ
ゴマーを得る。
【0050】
本発明のポリエステルの製造方法は、スラリー化工程に供給する原料エチレングリコールに含まれる特定の化合物の含有量が規定範囲であること以外は、公知の製造方法に基づくものである。これら公知の方法として、原料ジカルボン酸成分としてジカルボン酸を主原料として用いるいわゆる直接重合法と、ジカルボン酸ジアルキルエステルを主原料として用いるエステル交換法とがある。前者は初期のエステル化反応で水が生成し、後者は初期のエステル交換反応でアルコールが生成するという違いがあるが、原料の入手安定性、留出物の処理の容易さ、原料原単位の高さ、また本発明による改良効果という観点からは直接重合法が好ましい。
【0051】
エステル化工程を行うエステル化反応槽は、通常、温度を制御するための熱媒体ジャケットを具備するものを用いるが、温度制御を容易にするため、エステル化反応槽内部に熱媒体コイルを具備することが好ましい。また、外部に、オリゴマーを循環させ、熱交換器で加熱するライン(外部循環ライン)を有していてもよい。エステル化反応槽は、攪拌装置を具備してもよく、攪拌翼としてはアンカー翼、パドル翼、ファウドラー翼など従前知られるものを利用することができる。また、エステル化工程から留出した液から水等の軽沸点成分を除去する分離塔を具備していても構わない。
【0052】
なお、エステル化反応工程からの留出物としては、例えば、ポリエステルの製造においてテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体より通常、過剰に添加する原料エチレングリコール由来のエチレングリコール、エステル化反応によって生成する水又はエステル交換反応で生成する炭素数1〜4の炭素数1〜4のアルコール、副生成物として式(1)〜(3)の化合物、アセトアルデヒド等が含まれる。なお、エステル化反応工程からの留出物中に含まれる成分のうち、エチレングリコールより沸点が低い物質、例えば水や炭素数1〜4のアルコールが、前記留出物中に気体として含まれていることがある。
【0053】
前記分離塔の塔底液は、エチレングリコールを主成分とするため、廃棄コスト低減の観点から、廃棄せずに再利用する方法が好ましく用いられる。なお、分離塔の塔底液を再利用する場合、熱負荷を削減する観点からは、分離塔の塔底液を再びエステル化工程に戻すことが好ましい。しかしながら、分離塔の塔底液をエステル化工程に戻すことは、得られるポリエステル樹脂の色調が悪化する要因になるので、ポリエステルの色調を良好にする観点からは、分離塔の塔底液をスラリー化工程のみに戻し、エステル化工程には戻さないことがより好ましい。
【0054】
本発明においては、エステル化工程からの、(a+b+2c)が高い留出物の一部を原料エチレングリコールとしてエステル化工程に供給し、r値が本願規定の範囲内になるように、前記供給量を制御することが好ましく、得られるポリエステル樹脂の色調が許容範囲となるように前記供給量を制御することがより好ましい。前記供給量を制御する方法として具体的には、原料エチレングリコールとしてエステル化工程に供給する液の質量流量をd(質量部/時)、エステル化工程からの留出物の質量流量をe(質量部/時)としたとき、下記計算式(II)を満たすことが好ましい。
【0055】
0≦d≦e/2.3 ・・・(II)
本発明において、原料として受け入れたエチレングリコールの(a+b+2c)が一定であれば、エステル化工程からの留出物を原料エチレングリコールとして再利用する割合が少ないほど、即ちdが小さいほど、r値を小さくすることができ、その結果ポリエステルの色調が良好になる傾向がある。dの下限は0である。一方、dの上限はr値の上限で決定されるが、e/3が好ましく、e/4がより好ましく、e/9がさらに好ましく、e/14が特に好ましい。dが高いほど、エステル化工程からの留出物を原料エチレングリ
コールとして再利用する割合が高く経済性がある。
【0056】
本発明において、エステル化反応の温度は通常240〜305℃で行われ、エステル交換反応の温度は通常130〜250℃で行われる。特に、テレフタル酸とエチレングリコールとを原料としてポリエチレンテレフタレートを製造する場合、エステル化反応は、通常エステル化反応槽内部を250℃以上305℃以下の範囲に制御して行われ、好ましくは255℃以上290℃以下の範囲で行われる。
【0057】
また、エステル化反応及び/又はエステル交換反応における反応槽内部の圧力は、通常100kPaA(Aは絶対圧力であることを示す、以下同様)以上500kPaA以下の範囲に制御して行われ、好ましくは105kPaA以上300kPaA以下の範囲で行われる。
エステル化反応に要する時間は、得られるオリゴマーのエステル化率を測定しその範囲を一定にするように調整されるが、通常1時間以上8時間以下である。エステル化工程を連続式で行う場合、エステル化反応槽での平均滞留時間をエステル化反応に要する時間とみなす。なお、連続式で行う場合の平均滞留時間とは、エステル化反応槽に保有するオリゴマーの質量を、連続的に供給されるオリゴマー質量流量で、除した時間と定義する。また、エステル化率を一定の範囲に調整するために、ジオール成分を、エステル化反応槽へ供給しても良い。
【0058】
(重縮合工程)
重縮合工程を行う重縮合反応槽は、通常、温度を制御するための熱媒体ジャケットを具備するものを用いるが、温度制御を容易にするため、重縮合反応槽内部に熱媒体コイルを具備してもよい。重縮合反応槽は、通常、鉛直又は水平方向を中心線とする攪拌装置を具備する。攪拌翼としては、鉛直方向を中心線とする攪拌装置の場合、アンカー翼、パドル翼、ファウドラー翼など、水平方向を中心線とする攪拌装置の場合、メガネ翼、車輪翼など、それぞれ、従前知られるものを利用することができる。また、廃棄コスト低減の観点から、重縮合工程の留出液は、凝縮器を経てスラリー化工程に戻して再利用する方法が好ましく用いられる。
【0059】
本発明のポリエステルの製造方法において、重縮合反応における反応槽内部の温度は250〜305℃が好ましい。特に、テレフタル酸とエチレングリコールとを原料としてポリエチレンテレフタレートを製造する場合、重縮合反応は、通常重縮合反応槽内部を260℃以上305℃以下の範囲に制御して行われ、好ましくは265℃以上290℃以下の範囲で行われる。また、重縮合反応槽内部の圧力は、通常0.01kPaA以上100kPaA以下の範囲に制御して行われ、好ましくは0.05kPaA以上5kPaA以下の範囲で行われる。
【0060】
重縮合反応に要する時間は、得られるポリエステルの溶融粘度や固有粘度を測定しその範囲を一定にするように調整されるが、通常2時間以上8時間以下である。重縮合工程を連続式で行う場合、重縮合反応槽での平均滞留時間を重縮合反応に要する時間とみなす。なお、連続式で行う場合の平均滞留時間とは、重縮合反応槽に保有するポリエステルの質量を、連続的に供給されるポリエステルの質量流量で除した時間と定義する。
【0061】
(重縮合反応触媒)
本発明のポリエステルの製造方法に用いられる重縮合反応では、反応を促進させるために重縮合反応触媒を用いることが好ましい。この場合用いる重縮合反応触媒としては特に制限されず、公知の触媒を用いることができる。例えば、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、蓚酸ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラ−n−ブトキシド等のゲルマニウム化合物、三酸化アンチモン、五酸
化アンチモン、酢酸アンチモン、メトキシアンチモン等のアンチモン化合物、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム等のチタン化合物等が用いられる。これらの化合物は、一種を単独で用いても、複数種のものを併用しても構わない。なかでも、本発明のポリエステルの製造方法においては、チタン化合物を使用することが、重縮合反応活性が高いため好ましい。触媒使用量は、得られるポリエステルに対して、チタン原子として通常1〜400質量ppm、好ましくは1〜150質量ppm、更に好ましくは1〜80質量ppm、より好ましくは1〜20質量ppmである。
【0062】
なお、重縮合触媒として用いられる前記の各化合物は、エステル化工程におけるエステル化反応触媒として用いても構わない。
本発明のポリエステルの製造方法に用いられる重縮合反応触媒の添加方法としては特に制限されず、例えば、スラリー化工程に添加する方法、エステル化工程に添加する方法、重縮合工程に添加する方法、及び、各工程間の移送配管に添加する方法が用いられる。特に、本発明のポリエステルの製造方法が連続式の場合は、スラリー化工程から重縮合工程の直近手前の移送配管までの間に添加する方法が、好ましく用いられる。また、特に、重縮合触媒としてチタン化合物を用いる場合は、エステル化工程が複数のエステル化反応槽からなる場合には、より下流側のエステル化反応槽に添加する方法が好ましく、更に、エステル化工程で得られるオリゴマーを重縮合工程へ移送する配管中に添加する方法が、特に好ましく用いられる。
【0063】
また、正リン酸、正リン酸アルキルエステル、エチルアシッドホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェート、亜リン酸、亜リン酸アルキルエステル等のリン化合物を安定剤として用いることができる。その使用量は、得られるポリエステルに対して1〜1000質量ppmとなる量とするのが好ましく、2〜200質量ppmとなる量とするのが特に好ましい。
【0064】
更に、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)における「第1族元素」及び/又は「第2族元素」の金属化合物(以下、「1族金属化合物」、「2族金属化合物」と称することがある。)を前記重縮合反応触媒と共に、助触媒として使用することもできる。1族金属化合物としては、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、2族金属化合物としては、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、炭酸マグネシウム等のマグネシウム化合物、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0065】
(エチレングリコール供給工程)
本発明のポリエステルの製造方法においては、エチレングリコール供給工程とは、原料として受け入れたエチレングリコール、エステル化工程及び/又は重縮合工程から留出して得られたエチレングリコール、並びに、後述のエチレングリコール精製工程で精製されたエチレングリコールを混合、貯蔵し、スラリー化工程、エステル化工程、及び/又は、重縮合工程に供給する工程である。
【0066】
エチレングリコール供給工程は、通常、エチレングリコールを保持するタンクとそれに配管で接続されたポンプからなり、必要に応じ、流量計やフィルターを備える。エチレングリコールを保持するタンクは、通常、気相部を有しない浮き屋根式タンクか、気相部を有するコーンルーフ型等の固定屋根式タンクである。気相部を有するタンクの場合は、好ましくは、窒素シール状態とし、気相部分の酸素濃度を0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下とする。
【0067】
(エチレングリコール精製工程)
また、本発明のポリエステルの製造方法においては、エチレングリコール精製工程を備えることが好ましい。エチレングリコール精製工程とは、原料として受け入れたエチレングリコールや、エステル化工程、及び/又は、重縮合工程で留出された留出液から、ろ過、蒸留、吸着等の方法により不純物を分離し、エチレングリコールを精製回収する工程である。
【0068】
これらの精製方法は、単独で用いてもよいし、適宜、組み合わせて用いてもよい。なかでも、濾過と蒸留とを組み合わせた方法が好ましい。具体的には、まず、金属フィルターや濾布等で、エチレングリコール中の固形不純物を除去し、その後、蒸留塔にて、エチレングリコールの沸点以上に加熱し、必要に応じて還流を掛けながら、高沸点の不純物等を塔底から抜き出して分離し、エチレングリコールを塔頂に留出させて回収する方法である。このようなエチレングリコール精製工程を用いることで、エチレングリコール中に含まれる前記アセタール化合物を効率よく分離できるため、特に好ましい。なお、エチレングリコール精製工程は、更に、別個の蒸留塔にて、エチレングリコール中の低沸点の不純物等を塔頂に留出させて分離し、エチレングリコールを塔底から抜き出して回収する方法を含んでもよい。特に、前記の低沸点の不純物等を塔頂に留出させて分離させる方法を含む場合、水の存在下でエチレングリコールを加熱することで、エチレングリコールに含まれるアセタール化合物をグリコールアルデヒド及びジエチレングリコールアルデヒドとエチレングリコールに変成させ、生成したアルデヒドを塔頂に留出させて分離することが可能であるため、一層好ましい。
【0069】
上記のエチレングリコール精製工程において、エチレングリコールを蒸留塔にて精製する場合は、エチレングリコールを、200℃未満の温度で精製すると、エチレングリコール中のアセタール化合物の副生が抑制されるため好ましい。また、蒸留精製前及び/又は後のエチレングリコールを窒素等の不活性ガスでバブリングすることにより、アセタール化合物の含有量を低減させることもできる。その際、エチレングリコールの温度は特に制限されないものの、20〜120℃であることが好ましく、20〜50℃であることがより好ましい。また、上記バブリングする際、精製するエチレングリコールには水分が含まれていてもよいが、精製するエチレングリコールに対する水分量として1重量%未満であるとアセタール化合物をより効率的に除去できるため好ましい。
【0070】
このようにして精製されたエチレングリコールは、通常、エチレングリコール供給工程を経由させ、単独で、及び/又は、原料として受け入れたエチレングリコールと混合させて、本発明のポリエステルの製造方法の原料として用いられる。なお、エチレングリコール供給工程には、r値が本発明の規定を満たす範囲で、エステル化工程及び/又は重縮合工程から留出して得られたエチレングリコールを主成分とする留出液を精製せずに用いてもよい。
【0071】
(製造装置の材質)
本発明のポリエステルの製造方法に用いる装置の材質は、原料であるジカルボン酸成分やジオール成分だけでなく、添加する触媒、助剤、安定剤、更には、エステル化反応や熱分解により生成する化合物やこれらの混合物も含めた物質に対する耐食性を考慮して選定することが好ましい。なかでもステンレス鋼が好ましく、モリブデン含有ステンレス鋼が特に好ましい。具体的には例えば、日本工業規格にて規定されているステンレス鋼のうち、SUS304、SUS316、SUS316L、SUS317L、SUS410、SUS430等が好ましく用いられる。
【0072】
(後工程)
溶融重縮合反応で得られたポリエステルは、溶融重縮合反応槽に少なくとも配管、ギヤ
ポンプ、フィルターのいずれか又はそれらを組み合わせて接続されたダイヘッドに供給し、ダイの先端に設けられた複数のダイホールから、ストランド状に吐出される。吐出されたポリエステルは、例えばストランドカッターなどで粒子化される。粒子化されたポリエステルは、そのまま、成形材料として用いてもよい。又は、更に、固体状態で熱処理を行い、所定の固有粘度まで固相重縮合した後、成形材料として用いてもよい。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。次に、以下の実施例に用いた各種測定法について示す。
(式(1)〜(3)の化合物の定量)
エチレングリコール供給工程、エステル化工程分離塔の塔底、重縮合工程凝縮器から、エチレングリコール液試料を採取した。この試料をガスクロマトグラフィーを用い、下記条件で純エチレングリコールとアセタール化合物の質量濃度を測定した。
【0074】
[ガスクロマトグラフィーの条件]
ガスクロマトグラフィー:Agilent technologies 6890N
検出器:フレームイオンディテクター(FID)
分析カラム:Agilent J&W GCカラム DB−WAX
カラム内径:0.25mm
カラム長:30m
カラム膜厚:0.25μm
昇温条件:100℃(2分)→10℃/分→250℃(8分)
注入口温度:270℃
検出器温度:270℃
キャリアーガス:ヘリウム 1mL/分
注入モード:スプリット 10:1
サンプル注入量:1μL
保持時間:
ジエチレングリコール:8.6分
式(1)の化合物:11.7分
式(2)の化合物:11.8分
式(3)の化合物:13.8分
なお、当該保持時間と各アセタール化合物の対応は、GCMSを使用し、電子イオン化法(EI)、及び化学イオン化法(CI)により同定した。
【0075】
ガスクロマトグラフィーの測定で得られた、エチレングリコール中のジエチレングリコールの感度に対して、炭素数、および、官能基による感度の補正を施した。エチレングリコールの濃度は標品の定量により同様に求めた。
上記の方法で算出された、各アセタール化合物の質量濃度から、前記[式A]、[式B]、[式C]により、前記試料中の、エチレングリコールの含有量に対する各アセタール化合物の含有量のモル比a、b、c(モルppm)を算出した。
【0076】
(エステル化率)
粉砕した試料0.5gをビーカーに精秤しベンジルアルコール40mLを加えて撹拌しながら、200℃に加熱して完全に溶解させた。室温まで放冷した後、自動滴定装置(平沼産業 COM−1600)を用いて、0.1Nのメタノール性水酸化カリウム溶液で滴定を行った。その結果をもとに、以下の式(III)に従ってカルボキシル末端量を求めた。
更に、得られたカルボキシル末端量を用いて、以下の式(IV)に従ってエステル化率を計算した。
【0077】
カルボキシル末端量(当量/樹脂グラム)=0.1×A×f×1000/W ・・・(III) A:中
和に要した0.1Nのメタノール性水酸化カリウム溶液量(mL)
F:0.1Nメタノール性水酸化カリウム溶液の力価
W:試料の重量(g)
エステル化率(%)=(1000−カルボキシル末端量)/100 ・・・(IV)
(固有粘度(IV)の測定)
試料0.25gをフェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合液を溶媒として、濃度(c)を1.0g/dLとして、110℃で30分間溶解させた後、ウベローデ型毛細粘度管を用いて、30℃で測定を行い、溶媒の通過時間(t)と溶液の通過時間(t)から次式より溶媒との相対粘度(ηrel)を求め、
ηrel = t/t
相対粘度から次式より比粘度(ηsp)を求めた。
【0078】
ηsp = ηrel−1
さらに比粘度を濃度(c)で除して、濃度(c)が1.0g/dLにおける還元粘度(ηsp/c)を求めた。
同じく濃度(c)を0.5g/dL、0.2g/dL、0.1g/dLとしたときについてもそれぞれの還元粘度を求め、これらの値より、濃度(c)を0に外挿して固有粘度(IV)(dL/g)を求めた。
【0079】
(色調)
試料を、内径30mm、深さ12mmの円柱状の粉体測色用セルに充填し、測色色差計(日本電色工業社製「ZE−2000」)を使用し、JIS Z8730の参考例1に記載されるLab表色系におけるハンターの色差式のCo−b値を、反射法により測定セルを90℃ずつ回転させて4箇所測定した値の単純平均値として求めた。
【0080】
(末端カルボキシル基(AV))
試料を粉砕した後、熱風乾燥機にて140℃で15分間乾燥させ、デシケーター内で室温まで冷却した試料から、0.1gを精秤して試験管に採取し、ベンジルアルコール3mLを加えて、乾燥窒素ガスを吹き込みながら195℃、3分間で溶解させ、次いで、クロロホルム5mLを徐々に加えて室温まで冷却した。この溶液にフェノールレッド指示薬を1〜2滴加え、乾燥窒素ガスを吹き込ながら攪拌下に、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で滴定し、黄色から赤色に変じた時点で終了とした。又、ブランクとして試料を使用せずに同様の操作を実施し、以下の式(V)によって末端カルボキシル
基量を算出した。
【0081】
末端カルボキシル基量(当量/樹脂トン)=(A-B)×0.1×f/W ・・・(V) A:滴定に
要した0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μL) B:ブラン
クでの滴定に要した0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μL)
W:試料の量(g)
f:0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価
尚、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価(f)は、乾燥窒素ガ
スを吹き込みながら、試験管にメタノール5mLを採取し、フェノールレッドのエタノール溶液を指示薬として1〜 2滴加え、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコー
ル溶液0.4mLで変色点まで滴定し、次いで、力価既知の0.1Nの塩酸水溶液を標準液として0.2mL採取して加え、再度、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で変色点まで滴定し、以下の式(VI)によって力価(f)を算出した。
【0082】
力価(f)=0.1Nの塩酸水溶液の力価×0.1Nの塩酸水溶液の採取量(μL)/0.
1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の滴定量(μL) ・・・(VI)
(ポリエチレンテレフタレートの製造例)
【0083】
[実施例1]
図1に示すポリエステルの製造フローにしたがって、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、ジオール成分としてエチレングリコールを用い、ポリエステルの製造を連続的に行った。即ち、エチレングリコール供給工程として、窒素シールされたコーンルーフ型エチレングリコール貯槽1(槽内面の材質はSUS304)を用い、スラリー化工程として、撹拌機、ジカルボン酸仕込み配管及びジオール仕込み配管を具備するスラリー調製槽2と、撹拌機を具備するスラリー貯槽3とを用い、エステル化工程として、撹拌機、分離塔、原料受入れ口、触媒仕込み配管、反応物移送配管を具備する完全混合型第一エステル化反応槽4と、撹拌機、分離塔、原料受入れ口、触媒仕込み配管、反応物移送配管を具備する完全混合型第二エステル化反応槽5を用い、重縮合工程として、撹拌機、凝縮器、オリゴマー受入れ口、触媒仕込み配管を具備する完全混合型第一溶融重縮合反応槽6と、撹拌機、凝縮器、ポリマー受入れ口、ポリマー抜き出し口を具備するプラグフロー型第二融重縮合反応槽7及び第三溶融重縮合反応槽8を用い、ポリエステルの製造を連続的に行った。ここで、エチレングリコール貯槽1、スラリー調製槽2、スラリー貯槽3、第一エステル化反応槽4、第二エステル化反応槽5、第一溶融重縮合反応槽6、第二溶融重縮合反応槽7、第三溶融重縮合反応槽8は、この順に配管で接続されており、各反応槽は熱媒が流れるジャケットを具備するものを用いた。また、反応により得られるポリエステルは、第三溶融重縮合反応槽8から、ポリマーフィルターを経由させてダイプレートからストランド状に取り出し、水冷しながら、ペレタイザーを用いて粒子化した。
【0084】
スラリー化工程は、スラリー調製槽2とスラリー貯槽3にて行った。テレフタル酸255質量部と、原料として受け入れたa、b、cが表2に示される値の市販エチレングリコール56質量部と、後記の留出エチレングリコール液84質量部をスラリー調製槽2に供給し、更に、得られるポリエステルに対して、リンとしての添加量が7質量ppmとなる量のエチルアシッドホスフェートをエチレングリコール1質量部に溶解した溶液を添加し、撹拌・混合してスラリーを調製した。スラリー調製槽2で得られるスラリーを、3時間毎にスラリー貯槽3に移送し、エステル化工程で用いるスラリーとした。従って、原料として受け入れたエチレングリコールとして19質量部/時、留出エチレングリコール液として29質量部/時がスラリー調製槽2に供給された。 ここで留出エチレングリコール液とは、第一エステル化反応槽4に接続した分離塔9及び第二エステル化反応槽5に接続した分離塔10から抜き出されたエチレングリコールを主成分とする塔底液、及び第一溶融重縮合反応槽6、第二溶融重縮合反応槽7、第三溶融重縮合反応槽8の凝縮器11、12、13から得られたエチレングリコールを主成分とする液のことである。
【0085】
エステル化工程は、第一エステル化反応槽4及び第二エステル化反応槽5にて行った。第一エステル化反応槽4では、前記スラリーを、スラリー貯槽3から第一エステル化反応槽4へ135質量部/時にて連続的に供給し、温度263℃、圧力209kPaA、平均滞留時間4.5〜5.0時間にて、エチレングリコール及び水等の副生物を第一エステル化反応槽4から留出させながら行った。第一エステル化反応槽4におけるエステル化率は87%であった。
【0086】
第一エステル化反応槽4の分離塔9では、温度190℃、圧力209kPaAにて、水等の低沸点成分を塔頂から除去し、液面が略一定となるよう、塔底からエチレングリコールを主成分とする塔底液を抜き出した。この塔底液は、全量、留出エチレングリコール液貯槽1’に、連続的に送液した。
第二エステル化反応槽5には、第一エステル化反応槽4で得られたオリゴマーを、配管を経由させて連続的に供給し、また、原料として受け入れたa、b、cが表2に示される
値のエチレングリコール4質量部/時を連続的に供給し、温度260℃、圧力106kPaA、平均滞留時間1.8〜2.2時間にて、エチレングリコール及び水等の副生物を第二エステル化反応槽5から留出させながらエステル化反応を行った。
【0087】
第二エステル化反応槽5に接続した分離塔10では、温度190℃、圧力106kPaAにて、塔頂から水等の低沸点成分を除去し、液面が略一定となるよう、塔底からエチレングリコールを主成分とする塔底液を抜き出した。この塔底液は、全量、留出エチレングリコール液貯槽1’に、連続的に送液した。
第二エステル化反応槽10におけるエステル化率は96%であった。
【0088】
第二エステル化反応槽10で得られたオリゴマーを重縮合工程へ移送する配管中に、得られるポリエステルに対してマグネシウムとしての添加量が11質量ppmとなるように、酢酸マグネシウムのエチレングリコール溶液を連続的に添加した。また、得られるポリエステルに対して、チタンとしての添加量が5質量ppmとなるようにテトラブトキシチタンのエチレングリコール溶液を連続的に添加した。
【0089】
重縮合工程は、第一溶融重縮合反応槽6、第二溶融重縮合反応槽7、及び、第三溶融重縮合反応槽8にて行った。重縮合工程の反応条件は、第一溶融重縮合反応槽6が268℃、3.5kPaA、平均滞留時間1時間であり、第二溶融重縮合反応槽7が276℃、0.6kPaA、平均滞留時間1時間、第三溶融重縮合反応槽8が277℃、0.3kPaA、平均滞留時間1時間であった。第二エステル化反応槽5で得るオリゴマーに、前記のとおり酢酸マグネシウムのエチレングリコール溶液とテトラブトキシチタンのエチレングリコール溶液とを添加した液を、第一溶融重縮合反応槽6に供給し、引き続き、第二融重縮合反応槽7及び、第三溶融重縮合反応槽8に移送した。第一、第二、第三重縮合反応槽の凝縮器11〜13から得られたエチレングリコールを主成分とする液は、留出エチレングリコール液貯槽1’に、連続的に送液した。
【0090】
得られたポリエステルは、第三溶融重縮合反応槽8から、ポリマーフィルターを経由させてダイプレートからストランド状に取り出し、水冷しながら、ペレタイザーを用いて、質量が20〜26mg/粒のポリエステルの粒子とした。このポリエステル粒子の固有粘度(IV)は0.63dL/g、末端カルボキシル基量(AV)は22eq/t、Co−b値は2.6であった。
得られたポリエステルの粒子は、透明性に優れ、ほぼ無色であった。
スラリー調製槽2、及び第二エステル化反応槽5に供給されたエチレングリコール中のa,b,c、および(a+b+2c)について各エチレングリコール供給量を重みとした加重平均から求められたr値、得られたポリマーの品質を表2に示す。
【0091】
[実施例2]
原料エチレングリコールを表2に示す純度の高い市販のエチレングリコールに変更し、また、エチルアシッドホスフェートのエチレングリコール溶液を調製するのに用いるエチレングリコールを、表2記載の原料として受け入れたエチレングリコールに変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエステルの粒子を得た。
【0092】
スラリー調製槽2、及び第二エステル化反応槽5に供給されたエチレングリコール中のa、b、c、および各工程における(a+b+2c)の加重平均から求められたr値、得られたポリマーの品質を表2に示す。
得られたポリエステル粒子の固有粘度(IV)は0.63dL/g、末端カルボキシル
基量(AV)は25eq/t、Co−b値は1.9であった。得られたポリエステルの粒
子は、透明性に優れ、ほぼ無色であった。また、実施例1で得られるポリエステルの粒子に比べ、黄色みは薄かった。
【0093】
[比較例1]
2つのエステル化反応槽4、5に接続する2つの分離塔9、10の塔底液を留出エチレングリコール液としてスラリー調製槽2に供給するのでなく、2つのエステル化反応槽4、5に全量供給するように変更し、重縮合工程の留出液を反応系外に排出した以外は、実施例1と同様にポリエステルの製造を行った。
【0094】
スラリー化工程は、スラリー調製槽2とスラリー貯槽3にて行った。テレフタル酸260質量部と、表2に示す組成の原料として受け入れたa、b、cが表2に示される値のエチレングリコール116質量部とをスラリー調製槽2に供給し、更に、得られるポリエステルに対して、リンとしての添加量が7質量ppmとなるようにエチルアシッドホスフェートのエチレングリコール溶液を添加し、撹拌・混合してスラリーを調製した。スラリー調製槽2で得られるスラリーを、3時間毎にスラリー貯槽3に移送し、エステル化工程で用いるスラリーとした。
【0095】
エステル化工程は、第一エステル化反応槽4及び第二エステル化反応槽5にて行った。第一エステル化反応槽4では、前記スラリーを、スラリー貯槽3から第一エステル化反応槽4へ125質量部/時にて連続的に供給し、また、第一エステル化反応槽4に接続した分離塔9から抜き出したエチレングリコールを主成分とする塔底液を原料エチレングリコールとして連続的に供給し、温度270℃、圧力244kPaA、平均滞留時間2.0〜2.5時間にて、エチレングリコール及び水等の副生物を第一エステル化反応槽4から留出させながら行った。第一エステル化反応槽4におけるエステル化率は89%であった。
【0096】
第一エステル化反応槽4に接続した分離塔9では、温度190℃、圧力244kPaAにて、水等の低沸点成分を塔頂から除去し、液面が略一定となるよう、塔底からエチレングリコールを主成分とする塔底液を抜き出した。この塔底液は、系外に4.4質量部/時で連続的に送液し、第二エステル化反応槽5に1.9質量部/時で、第一エステル化反応槽4に残りを、それぞれ原料エチレングリコールとして連続的に供給した。
【0097】
第二エステル化反応槽5には、第一エステル化反応槽4で得るオリゴマーを、配管を経由して連続的に供給し、前記の第一エステル化反応槽4に接続した分離塔9から抜き出したエチレングリコールを連続的に供給し、また、第二エステル化反応槽5に接続した分離塔10から抜き出したエチレングリコールを主成分とする塔底液を連続的に供給し、また、原料エチレングリコールとして受け入れたa、b、cが表2に示される値のエチレングリコール1質量部を連続的に供給し、温度266℃、圧力106kPaA、平均滞留時間1.6〜2.0時間にて、エチレングリコール及び水等の副生物を第二エステル化反応槽5から留出させながらエステル化反応を行った。
【0098】
第二エステル化反応槽5に接続した分離塔10では、温度190℃、圧力106kPaAにて、水等の低沸点成分を塔頂から除去し、液面)が略一定となるよう、塔底からエチレングリコールを主成分とする塔底液を抜き出した。この塔底液は全量、第二エステル化反応槽10に連続的に供給した。
第二エステル化反応槽10におけるエステル化率は96%であった。
【0099】
第二エステル化反応槽10で得るオリゴマーを重縮合工程へ移送する配管中に、得られるポリエステルに対して、マグネシウムとしての添加量が11質量ppmとなるように酢酸マグネシウムのエチレングリコール溶液を連続的に添加した。また、得られるポリエステルに対して、チタンとしての添加量が5質量ppmとなるようにテトラブトキシチタンのエチレングリコール溶液を連続的に添加した。
【0100】
重縮合工程の留出液を反応系外に排出した以外は、実施例1と同様に重縮合工程を行い、ポリエステルの粒子を得た。
このポリエステル粒子の固有粘度(IV)は0.63dL/g、末端カルボキシル基量
(AV)は20eq/t、Co−b値は4.5であった。得られたポリエステルの粒子は
、透明性には優れるが、実施例1及び2で得られるポリエステルの粒子に比べ、やや黄色に着色していた。
【0101】
スラリー調製槽2、第一エステル化反応槽4、及び第二エステル化反応槽5に供給されたエチレングリコール中のa,b,cおよび(a+b+2c)について各エチレングリコール供給量を重みとした加重平均から求められたr値、得られたポリマーの品質を表2に示す。
【0102】
【表2】
【0103】
表2に示すように、エステル化工程、重縮合工程から留出したエチレングリコールを主成分とする液を、スラリー化工程に供給した実施例1及び2では、r値が本発明の規定を満たすと同時に色調が良好であった。特にエチレングリコール製造工程において精製工程を追加することによりr値を低くした実施例2では、Co−b値が実施例1より低くなり、色調が更に良好であった。一方で、エステル化工程から留出したエチレングリコールを主成分とする液をエステル化工程に供給し、r値が本願規定範囲外の比較例1では、色調が悪くなった。比較例1はd値が19.1、e値が41.5で、d値は式(II)の上限より高いが、d値を下げるにつれ、エステル化工程から留出した(a+b+2c)の値が高い液がエステル化工程に供給されなくなることから、r値が低下する傾向となり、d値が
式(II)を満たす場合、実施例1と同等の効果が得られる。
【0104】
(エチレングリコールの精製例)
市販のエチレングリコール(SABIC社製)(以下、精製前EGと略する。)中の各アセタール化合物の含有量を、前記(式(1)〜(3)の化合物の定量)に記載の方法に従い、同定した。得られた分析結果を、表3及び表4に示す。
【0105】
(窒素バブリングによる精製)
(1)精製1
90mLスケールの側管付きガラス製試験管に、上記精製前EGを45mL入れ、2本のガラス管を通したゴム栓を接続した。ガラス管のうち一方の先端はエチレングリコールの液面より下へ届くように、長さを調節し、さらに、もう一方のガラス管は、流動パラフィンを入れたトラップ管に接続し、先端を流動パラフィンに浸漬した。その後、エチレングリコールに浸漬させたガラス管の上部から窒素ガスを2L/分になるように流通させ、25℃下で、4時間バブリングした。得られたエチレングリコールを試験管から取り出し、前記(式(1)〜(3)の化合物の定量)に記載の方法に従い、各アセタール化合物の含有量を同定した。得られた分析結果を、表3に示す。
【0106】
(2)精製2
上記精製前EGの単位重量に対し、1重量%となるようにイオン水を添加したこと以外は、上記(1)精製1と同様にして、各アセタール化合物の含有量を同定した。得られた分析結果を、表3に示す。
(3)精製3
バブリングの際、試験管を100℃のオイルバスに浸漬した以外は、上記(1)精製1と同様にして、各アセタール化合物の含有量を求めた。得られた分析結果を、表3に示す。
【0107】
(減圧蒸留による精製)
(1)精製4
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計、リービッヒ冷却器を接続した留出管及び減圧用排気口を備えた500mLスケールのガラス容器に上記精製前EGを、180mLを入れ、攪拌しながら、窒素流通下、100℃、533.3〜666.6PaAで、減圧蒸留した。4時間後、留出管から主留分44mL、500mLスケールのガラス容器から釜残分120mLを採取した。主留分及び釜残分の各アセタール化合物の含有量を、上記(1)精製1と同様にして求めた。得られた分析結果を、表4に示す。
【0108】
(2)精製5
上記精製前EGの単位重量に対し、1重量%となるようにイオン水を添加し、加熱装置の温度を170℃、19.6~20.7kPaAで減圧蒸留をとした以外は、(1)精製
4と同様に行った。4時間後、留出管から主留分111mL、500mLスケールのガラス容器から釜残分79mLを採取した。主留分、釜残分の各アセタール化合物の含有量を、上記(1)精製1と同様にして求めた。得られた分析結果を、表4に示す。
【0109】
【表3】
【0110】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明によれば、ポリエステルを製造する際の着色を防止することができるため、色調が良好なポリエステルを得ることができる。
【符号の説明】
【0112】
1: エチレングリコール貯槽
1’:留出エチレングリコール液貯槽
2: スラリー調製槽
3: スラリー貯槽
4: 第一エステル化反応槽
5: 第二エステル化反応槽
6: 第一溶融重縮合反応槽
7: 第二溶融重縮合反応槽
8: 第三溶融重縮合反応槽
9: 第一分離塔
10: 第二分離塔
11:第一溶融重縮合反応槽凝縮器
12:第二溶融重縮合反応槽凝縮器
13:第三溶融重縮合反応槽凝縮器
図1