特許第6237132号(P6237132)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スズキ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6237132-自動二輪車のキック始動装置 図000002
  • 特許6237132-自動二輪車のキック始動装置 図000003
  • 特許6237132-自動二輪車のキック始動装置 図000004
  • 特許6237132-自動二輪車のキック始動装置 図000005
  • 特許6237132-自動二輪車のキック始動装置 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237132
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】自動二輪車のキック始動装置
(51)【国際特許分類】
   F02N 3/04 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
   F02N3/04 D
   F02N3/04 C
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-231538(P2013-231538)
(22)【出願日】2013年11月7日
(65)【公開番号】特開2015-90148(P2015-90148A)
(43)【公開日】2015年5月11日
【審査請求日】2016年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中林 聡
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 英明
【審査官】 石川 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭54−069236(JP,U)
【文献】 実開昭60−015980(JP,U)
【文献】 実開昭54−093630(JP,U)
【文献】 特開平10−076986(JP,A)
【文献】 実公平02−010305(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02N 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キックレバーが設けられたキックシャフト上にキックスタータドライブギアを回転自在に軸支し、エンジンのクランク軸から出力軸へのエンジン伝動系に配置したギアを前記キックスタータドライブギアに常時噛合せ、
前記キックシャフトが前記キックスタータドライブギアに対してオーバドライブするとき、両者が結合して一体に回転し、前記キックスタータドライブギアが前記キックシャフトに対してオーバドライブするとき、両者が離間してトルクを伝達しないようにしたキック始動装置において、
前記キックスタータドライブギアを回転自在に軸支した前記キックシャフトに、このキックシャフトの回転を前記キックスタータドライブギアに選択的に伝達するラチェット機構と、前記キックシャフトを元の状態に復元させるリターンスプリング機構とが設けられ、
前記リターンスプリング機構のスプリングガイドに、凹形状のトーラス状凹溝が前記クラッチカバーの軸受端面に対向して設けられ、
前記トーラス状凹溝に、ウェーブワッシャと共に、前記キックシャフトに設けられた段部が配設され、
前記リターンスプリング機構のスプリングガイドと前記クラッチカバーの軸受端面との間に第1のプレーンワッシャが介装されるとともに、前記スプリングガイドのトーラス状凹溝内にウェーブワッシャと第2のプレーンワッシャが前記ウェーブワッシャを中にして収容され、
前記ウェーブワッシャは、前記キックシャフトの段部と前記キックシャフトを軸支するクラッチカバー軸受端部との間に設けられ、
前記ウェーブワッシャの押圧力で前記キックシャフトを前記クラッチカバーから車幅方向内側に弾力的に押圧支持し、前記キックシャフトの動きが規制されることを特徴とする自動二輪車のキック始動装置。
【請求項2】
前記リターンスプリング機構は、キックシャフトに外嵌されるスリーブ状スプリングガイドと、このスプリングガイドに巻装されるリターンスプリングとを有し、
前記リターンスプリングは、コイルスプリングを往き方向と帰り方向の二列状に巻装して構成され、リターンスプリングの一端を前記キックシャフトのスプリング受け孔に支持し、その他端をクランクケースのスプリング受け孔に支持させた請求項1に記載の自動二輪車のキック始動装置。
【請求項3】
前記ウェーブワッシャに代えてコイルスプリングが設けられた請求項1または2に記載の自動二輪車のキック始動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常時噛合いのキックスタータドライブギアを備えた自動二輪車のキック始動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車のキック始動装置では、キック操作によりキックシャフトの回転をキック始動経路を経てクランク軸に伝達してエンジンを始動させており、エンジン始動後のクランク軸の回転は、キックシャフトに伝えないようにする足動式キック始動機構を構成している。このキック始動装置には、キックスタータドライブギアをエンジン伝動系上の1つのギアと常時噛合せ、足動によるキック操作時にキックシャフトとそのキックスタータドライブギアとを機械的に結合させている。
【0003】
常時噛合い式キック始動装置は、足動によるキックレバー操作により発生した回転力がラチェット機構によりキックシャフトと同方向に回転するキックスタータドライブギアおよびこのギアに噛合うギアや一次減衰機構のギア列を構成するキック始動経路を経てクランク軸を回転させ、エンジン始動に必要な回転力を得るようになっている。
【0004】
従来の常時噛合い式キック始動装置では、エンジンのクランク軸から出力軸に至るエンジン伝動系上の1つのギアが、キックスタータドライブギアと常時噛合っており、回転しているキックスタータドライブギアを、キックシャフト上に弾装されたウェーブワッシャを介して、クラッチカバーの軸受ボス端面に押圧することによって騒音を低減させる騒音低減機構を採用している。また、逆に、ウェーブワッシャを(クランク)ケースとキックスタータドライブギアの間に装着してキックスタータドライブギアを(車幅方向)内側に押圧する構造も実施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平2−10305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の自動二輪車のキック始動装置においては、キック始動経路を構成する常時噛合いのギア類(キックスタータドライブギアやこのギアに噛合する(エンジン伝動系の)ギア)は、エンジン始動後にクランク軸の回転力を受けて常時回転している。特に、単気筒や二気筒エンジンを搭載した自動二輪車では、エンジンクランク軸の回転変動によりキックスタータドライブギアにキックシャフト軸方向へ振動が励起される。キックシャフトの軸方向振動によりクラッチカバーを叩くため、発生する騒音が生じている。
【0007】
また、常時噛合い式のキックスタータドライブギアはキックシャフトの軸方向の動きによりクランク(エンジン)ケースを叩いて発生する騒音はある程度低減させているが、常時回転しているキックスタータドライブギアに押圧力が常時作用しているため、そのギア端面に回転方向抵抗がメカロスとして発生し、エンジン効率(エンジン出力、燃費性能)を損なっている。また、キックスタータドライブギアは常時回転してそのギア端面は常時ウェーブワッシャに摺接しているため、ウェーブワッシャの摩耗損傷が激しく、寿命を損ねていることも課題となっている。
【0008】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、騒音を低減させてエンジン効率を向上させるとともに、ウェーブワッシャの摩耗損傷を軽減し、長寿命化を図ることができる自動二輪車のキック始動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る自動二輪車のキック始動装置は、上述した課題を解決するために、キックレバーが設けられたキックシャフト上にキックスタータドライブギアを回転自在に軸支し、エンジンのクランク軸から出力軸へのエンジン伝動系に配置したギアを前記キックスタータドライブギアに常時噛合せ、前記キックシャフトが前記キックスタータドライブギアに対してオーバドライブするとき、両者が結合して一体に回転し、前記キックスタータドライブギアが前記キックシャフトに対してオーバドライブするとき、両者が離間してトルクを伝達しないようにしたキック始動装置において、キックレバーが設けられたキックシャフト上にキックスタータドライブギアを回転自在に軸支し、エンジンのクランク軸から出力軸へのエンジン伝動系に配置したギアを前記キックスタータドライブギアに常時噛合せ、前記キックシャフトが前記キックスタータドライブギアに対してオーバドライブするとき、両者が結合して一体に回転し、前記キックスタータドライブギアが前記キックシャフトに対してオーバドライブするとき、両者が離間してトルクを伝達しないようにしたキック始動装置において、前記キックスタータドライブギアを回転自在に軸支した前記キックシャフトに、このキックシャフトの回転を前記キックスタータドライブギアに選択的に伝達するラチェット機構と、前記キックシャフトを元の状態に復元させるリターンスプリング機構とが設けられ、前記リターンスプリング機構のスプリングガイドに、凹形状のトーラス状凹溝が前記クラッチカバーの軸受端面に対向して設けられ、前記トーラス状凹溝に、ウェーブワッシャと共に、前記キックシャフトに設けられた段部が配設され、前記リターンスプリング機構のスプリングガイドと前記クラッチカバーの軸受端面との間に第1のプレーンワッシャが介装されるとともに、前記スプリングガイドのトーラス状凹溝内にウェーブワッシャと第2のプレーンワッシャが前記ウェーブワッシャを中にして収容され、前記ウェーブワッシャは、前記キックシャフトの段部と前記キックシャフトを軸支するクラッチカバー軸受端部との間に設けられ、前記ウェーブワッシャの押圧力で前記キックシャフトを前記クラッチカバーから車幅方向内側に弾力的に押圧支持し、前記キックシャフトの動きが規制されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、キックシャフトの段部とクラッチカバーの軸受段部との間にウェーブワッシャを設け、このウェーブワッシャの押圧力でキックシャフトを弾力的に押圧支持し、キックシャフトの動きを規制したから、キックシャフトによるケース打音を低減させ、騒音の低減を図るとともに、メカロスの発生を防いでエンジン効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】自動二輪車の車体フレームにエンジンの搭載構造を示す構成図。
図2】本発明に係る自動二輪車のキック始動装置の第1の実施形態を示す構造図。
図3図1のA−A線に沿う部分断面図。
図4図3のB部を拡大して示す要部断面図。
図5】本発明に係る自動二輪車のキック始動装置の第2の実施形態を示す要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施形態について添付図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、単気筒エンジンを搭載した自動二輪車の車体フレーム構造を示す構成図である。この車体フレーム10は、例えばセミダブルクレードルのフレーム構造に構成される。車体フレーム10は、ヘッドパイプ11から斜め後下方に延びるメインフレーム12と、メインフレーム12の後端部から下方に延びる左右一対のセンタフレーム13と、ヘッドパイプ11から下方に延びるダウンフレーム14と、ダウンフレーム14の下端に設けられ、セミダブルクレードル部を形成して水平方向後方に延び、センタフレーム13の下端に接続されるロアチューブ(図示せず)とで内部に囲まれた空間(以下、内側空間という。)が主に構成される。また、車体フレーム10は、メインフレーム12の後部から後上方に斜めに延び、図示しない運転シートを設置するシートレール16と、センタフレーム13の中程から後上方に延びてシートレール16の後部に連結されるサイドチューブ17とを有する。さらに、センタフレーム13の中程で一体に左右一対のピボットブラケット19が対向して固定され、このピボットブラケット19に設けられたピボット軸20にスイングアーム21が上下揺動自在に支持される。スイングアーム21は車体フレーム10との間にリアクッションユニット22が介装され、スイングアーム21を弾性的に緩衝支持している。なお、符号23は、マフラである。
【0014】
車体フレーム10の内側空間に搭載される単気筒エンジン25は、エンジン本体26とエンジン本体26のクランクケース27から前上方に立ち上がるシリンダアッセンブリ28とを有する。単気筒エンジン25に代えて二気筒エンジン等の多気筒エンジンを搭載してもよい。シリンダアッセンブリ28を構成するシリンダヘッド30の車両後方側にエンジン吸気系31が接続され、シリンダヘッド30車両前方側にエキゾーストチューブ32が接続される。エキゾーストチューブ32は、エンジン25の前方から下方を迂回して後方に延びる。エキゾーストチューブ32は消音器33を経てマフラ23に接続され、エンジン排気系35を構成している。
【0015】
[第1の実施形態]
単気筒エンジン25のエンジン本体26に、図2に示すように、自動二輪車のキック始動装置38が備えられる。キック始動装置38は、足動式キックレバー39に回転操作されるキックシャフト40を有する。キックシャフト40は、クランクケース27の軸受ボス27aとクラッチカバー41の軸受ボス41aに回転自在に支持される。
【0016】
キックシャフト40にはキックスタータドライブギア44が回転自在に支持される一方、キックシャフト40の回転をキックスタータドライブギア44に選択的に伝達するラチェット機構45と、キックシャフト40の回転を元に復元させるリターンスプリング機構46とを有する。
【0017】
図2は、自動二輪車のエンジン伝動系48の構成を示している。エンジン伝動系48は、エンジン駆動によるクランク軸49の回転を、(プライマリ)ドライブギア50、(プライマリ)ドリブンギア51、摩擦クラッチ機構52、カウンタ軸53、変速ギア列54を経てドライブ軸55に伝達し、さらに、ドライブ軸55からドライブスプロケットギア56を介してチェーン57によって後輪(図示せず)に伝達している。このように、エンジン伝動系48は、エンジン駆動によるクランク軸49の回転をドライブ軸55を経て後輪に伝送するようになっており、エンジン伝動系48を構成する一部のギア58は、キック始動装置38のキックスタータドライブギア44に常時噛合している。
【0018】
また、キック始動装置38は、図2に示すように、キックレバー39によって回転するキックシャフト40上に、キックスタータドライブギア44を回転自在に軸支しており、このキックスタータドライブギア44をエンジン伝動系48のドライブ軸55に支持された1つのギア58と常時噛合している。キック始動装置38のキックスタータドライブギア44はエンジン伝動系48のギア群を構成する1つのギア58と常時噛合している。
【0019】
キックスタータドライブギア44の側面にはドッグ60aが備えられ、このドッグ60aはドッグ60bと対向している。このドッグ60bは、キックシャフト40上のスプリング61を介して軸支され、キックスタータドライブギア44にキックシャフト40の回転を選択的に噛合させて伝達するラチェット機構45を構成している。
【0020】
しかして、キック始動装置38は、キックレバー39のキック操作によりキックシャフト40が回転すると、このキックシャフト40の回転は、ラチェット機構45を経て、キックスタータドライブギア44を一体に回転させ、このドライブギア44からエンジン伝動系48の一部のギア58に伝達され、エンジン伝動系48を経てクランク軸49に伝達され、エンジン25を始動させるようになっている。
【0021】
エンジン始動時には、キックレバー39を操作してキックシャフト40を回転させると、ラチェット機構45の爪がガイドキックスタータ(図示しない)上を滑り、ドッグ60bがスプリング61によって軸方向に移動してドッグ60aと噛合い、キックスタータドライブギア44をキックシャフト40と一体に回転させる。キックスタータドライブギア44の回転は、ギア58等のキックスタータ伝動系のキック始動経路63を経てクランク軸49に伝達され、エンジン25を起動させる。キックスタータ伝動系のキック始動経路63の一部は、エンジン伝動系48の一部と重複しており、兼用されている。
【0022】
エンジン始動後には、エンジンの駆動力がクランク軸49からエンジン伝動系48に伝達され、エンジン伝動系48の1つのギア58と常時噛合するキックスタータドライブギア44は回転駆動される。キックスタータドライブギア44がクランク軸49の回転で駆動され、キックスタータドライブギア44の回転がキックシャフト40の回転を上廻ると、ラチェット機構45の爪がガイドキックスタータ上を逆に滑りドッグ60bは、軸方向に押し返されてドッグ60aから離間する。このため、キックスタータドライブギア44は回転フリーとなって単独で回転し、キックシャフト40はリターンスプリング機構46のばね力で復元され、キックシャフト40が原位置に復帰させる。
【0023】
また、図3は、図1のA−A線断面を示す部分断面図であり、図4図3のB部を示す要部断面図である。
【0024】
リターンスプリング機構46は、スリーブ状のスプリングガイド65に巻装されたキックリターンスプリング66を有する。キックリターンスプリング66は、列状に多層巻き、例えば往き方向と帰り方向が折り返されるリターンの2列状に巻装されるコイルスプリングで構成される。キックリターンスプリング66の一端は図4に示すように、クランクケース27のスプリング受け孔27bに支持され、その他端はキックシャフト40の半径方向に形成されたスプリング受け孔40aに支持される。キックリターンスプリング66を往き方向と帰り方向の列が2列状に多層巻きした折り返し構造とすることで、キックシャフト40のスプリングガイド65に巻装されるキックリターンスプリング66の車幅方向の幅を短くすることができる。リターンスプリング機構46のスプリングガイド65の軸方向移動は、外周フランジ状ストッパ(突起)68で規制される。
【0025】
キックシャフト40に回転自在に軸支されるキックスタータドライブギア44は常時駆動され、ギア騒音を生じ易いので、図3および図4に示すように、キックシャフト40に設けたフランジ状ストッパ68とクラッチカバー41の軸受端部(端面)との間にウェーブワッシャ70が設けられる。ウェーブワッシャ70は波板状に構成される。ウェーブワッシャ70は、波板形状に代えて皿ばね状に構成してもよい。
【0026】
具体的には、図4に示すように、キックシャフト40に外嵌されるリターンスプリング機構46のスプリングガイド65とクラッチカバー41の軸受ボス部端面との間にウェーブワッシャ70が第1および第2のプレーンワッシャ71,72を介して挿入される。ウェーブワッシャ70の押圧力で、キックシャフト40をクラッチカバー41から車幅方向内側にシフト移動させ、弾力的に押圧支持し、キックシャフト40の動きを規制している。ウェーブワッシャ70の押圧力でクラッチカバー41とキックシャフト40を離反させることができる。
【0027】
詳細には、リターンスプリング機構46のスリーブ状スプリングガイド65は、車幅方向外側に外周フランジ65aを備え、この外周フランジ65aが第1のプレーンワッシャ71を介してクラッチカバー41の軸受ボス端面41bに摺接自在に対向している。また、スプリングガイド65には、外周フランジ65a側にキックシャフト40の外周周りを取り囲むトーラス状凹溝74が形成され、この凹溝74がクラッチカバー41の軸受ボス端面41bに対向している。凹溝74内のトーラス状収納空間74にウェーブワッシャ70およびキックシャフト40の段部75が配設され、配置される。さらに、キックシャフト40の段部75を利用してトーラス状収納空間74内にウェーブワッシャ70およびプレーンワッシャ72が仕込まれて格納される。ウェーブワッシャ70は両側のプレーンワッシャ71,72によりサンドイッチ構造に構成され、ウェーブワッシャ70の押圧力で、キックシャフト40の段部75を車幅方向内側に常時弾力的に押圧支持されている。
【0028】
[キック始動装置の作用]
自動二輪車のキック始動装置38は、キックレバー39を踏み込み、足動によるキック操作により、キックシャフト40を回転させ、ラチェット機構45を介してキックスタータドライブギア44を一体的に回転駆動させる。キックスタータドライブギア44の回転駆動力は、キックスタータ伝動系のキック始動経路63を経てクランク軸49に伝達され、このクランク軸49を回転させてエンジン25を始動させる。
【0029】
キックシャフト40は、キックスタータドライブギア44に対してオーバドライブするとき、両者(キックシャフト40とキックスタータドライブギア44)は回転一体となり、一体的に回転される。また、エンジン25が始動して、キックスタータドライブギア44がキックシャフト40に対してオーバドライブするとき、ラチェット機構45のドッグ60bがドッグ60aから離間してキックスタータドライブギア44のトルクがキックシャフト40に伝達されないように、遮断される。
【0030】
ラチェット機構45のドッグ60bがドッグ60aから離間すると、キックシャフト40はリターンスプリング機構46のばね復元力が作用して元の回転位置に復帰される。
【0031】
このように、エンジン始動後には、エンジン始動経路63を構成するギア類のうち、キックスタータドライブギア44は、クランク軸49の回転力を受けて回転するが、クランク24の回転変動等に起因して、キックスタータドライブギア44は、キックシャフト40の軸方向へ振動が励起される。キックシャフト40の軸方向の振動により、リターンスプリング機構46のスプリングガイド65がクラッチカバー41を叩き、ケース打音による騒音を発生させる虞がある。
【0032】
しかし、本実施形態のキック始動装置38では、クラッチカバー41とキックシャフト40との間に両者を離間させるウェーブワッシャ70を設け、弾装させることで、クラッチカバー41の叩き音を低減させることができる。
【0033】
また、キックスタータドライブギア44は、キックシャフト40に設けたフランジ状ストッパ(突起部)68とサークリップ溝に設けたサークリップ76との間に適正な隙間を持ってキックシャフト40に支持される構造である。キックシャフト40の押圧力でキックスタータドライブギア端面に回転方向の抵抗を発生させることがないので、エンジン効率(エンジン出力、燃費性能)を損ねることがない。
【0034】
このキック始動装置38は、キック操作時にのみ、キックシャフト40とウェーブワッシャ70に僅かな回転位相が生じる程度で、ウェーブワッシャ70をプレーンワッシャ71,72やスプリングガイド65に摺接させることがないので、ウェーブワッシャ70の摩耗損耗は軽微なものとなる。
【0035】
さらに、キックシャフト40に設けた段部75は、リターンスプリング機構46とクラッチカバー41の軸受ボス端面41bの間で、スプリングガイド65に設けたトーラス状凹溝74内にウェーブワッシャ70と共に配設され、配置されているので、ウェーブワッシャ70はスプリングガイド65のトーラス状凹溝74の中に組み入れ、仕込むことができ、自動二輪車のエンジン25の軸方向の幅を詰めることができる。
【0036】
本実施形態のキック始動装置38は、キックシャフト40に設けられた段部75と対向するクラッチカバー41の軸受ボス端部41bとの間にウェーブワッシャ70を設け、ウェーブワッシャ70のばねの反発力でキックシャフト40を車幅方向内側(エンジン内側方向)に弾力的に押圧支持することで、キックシャフト40の動き(車幅方向外側への動き)を規制することができる。
【0037】
このキックシャフト40の動きを規制することにより、キック始動装置38を構成するキックスタータドライブギア44等のギア群の軸方向運動を規制することができる。キックスタータドライブギア44はキックシャフト40に軸方向の動きが規制されて固定され、ギア自体を軸方向(車幅方向外側)に押さないため、ギア端面に回転方向の抵抗(メカロス)が軽減される。したがって、エンジン効率を損なうことなく、ケース打音を防止して騒音の発生を低減させることができる。
【0038】
[第2の実施形態]
図5は、本発明に係る自動二輪車のキック始動装置の第2の実施形態を示す要部断面図である。
【0039】
第2実施形態に示された自動二輪車のキック始動装置38Aの全体的な構成は、図1および図2に示されるキック始動装置38と異ならないので、同じ構成には同一符号を付して重複する説明や図示を省略する。
【0040】
第2実施形態のキック始動装置38Aは、キックシャフト40のリターンスプリング機構46に改良を加えたもので、リターンスプリング機構46のスプリングガイド65にトーラス状凹溝74を、クラッチカバー41の軸受ボス端面41bに対向して設け、トーラス状凹溝74にウェーブワッシャ70に代えてコイルスプリング78を設けたものである。コイルスプリング78の両側には第1および第2のプレーンワッシャ71,72が配設される。
【0041】
波打ち状ウェーブワッシャをコイルスプリング78と置換することにより、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【符号の説明】
【0042】
10…車体フレーム、11…ヘッドパイプ、12…メインフレーム、13…センタフレーム、14…ダウンフレーム、16…シートレール、17…サイドチューブ、19…ピボットブラケット、20…ピボット軸、21…スイングアーム、22…リアクッションユニット、23…マフラ、25…エンジン(単気筒エンジン)、26…エンジン本体、27…クランクケース、28…シリンダアッセンブリ、30…シリンダヘッド、31…エンジン吸気系、32…エキゾーストチューブ、33…消音器、35…エンジン排気系、38,38A…キック始動装置、39…キックレバー、40…キックシャフト、41…クラッチカバー、44…キックスタータドライブギア、45…ラチェット機構、46…リターンスプリング機構、48…エンジン伝動系、49…クランク軸、50…ドライブギア、51…ドリブンギア、52…摩擦クラッチ機構、53…カウンタ軸、54…変速ギア列、55…ドライブ軸、56…ドライブスプロケットギア、57…チェーン、58…ギア、60a,60b…ドッグ、61…スプリング、63…キック始動経路(キックスタータ伝動系)、65…スプリングガイド、66…キックリターンスプリング、68…ストッパ(フランジ状突起)、70…ウェーブワッシャ、71,72…プレーンワッシャ、74…凹溝(トーラス状内部空間)、75…段部、76…サークリップ、78…コイルスプリング。
図1
図2
図3
図4
図5