(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237134
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】陽イオン物質分離用材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/02 20060101AFI20171120BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20171120BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20171120BHJP
B01D 53/02 20060101ALI20171120BHJP
B01D 53/04 20060101ALI20171120BHJP
B01D 15/00 20060101ALI20171120BHJP
G21F 9/12 20060101ALI20171120BHJP
G21F 9/02 20060101ALI20171120BHJP
G21F 9/28 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
B01J20/02 A
B01J20/30
B01J20/34 E
B01D53/02
B01D53/04 110
B01D15/00 A
B01D15/00 G
B01D15/00 101B
B01D53/04
G21F9/12 501B
G21F9/02 511S
G21F9/12 501J
G21F9/28 571A
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-232143(P2013-232143)
(22)【出願日】2013年11月8日
(65)【公開番号】特開2015-93208(P2015-93208A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】岡本 隆廣
【審査官】
河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−200856(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/027652(WO,A1)
【文献】
特開2005−034705(JP,A)
【文献】
特開2013−215723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00 − 20/34
G21F 9/00 − 9/36
B01D 53/02 − 53/12
B01D 15/00 − 15/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンペーパーまたはカーボンクロスを0.1〜5%濃度のプルシアンブルー水溶液に温度5〜35℃で含浸させた後、温度20〜70℃で乾燥処理を行うことを特徴とする陽イオン物質分離用材料の製造方法。
【請求項2】
カーボンペーパーまたはカーボンクロスが、空孔率40〜80%、厚さ100〜300μm、抵抗値0.2〜1Ωである請求項1記載の陽イオン物質分離用材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の製造方法により得られた陽イオン物質分離用材料を、陽イオンを存在させた液体中に浸漬または気体中に暴露することを特徴とする陽イオン物質の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽イオン物質分離用材料
の製造方法に関する。さらに詳しくは、セシウムなど陽イオン物質の選択的な分離を可能とする陽イオン物質分離用材料
の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イオン物質の分離方法としては、例えば除去対象物質を含有している液体に対しては除去対象物質吸着体としてイオン交換樹脂などを用いた方法が知られているが、これは装置の調製が難しく、操作も煩雑であり、除去対象物質が例えば泥などの不純物を含有する汚染水などの場合には、逆洗による再生も困難であった。また、除去対象が放射性物質である場合には、使用後の吸着体をどのように廃棄するのかというように放射性物質が吸着した吸着体の処理にも課題がある。
【0003】
かかる課題に対して、特許文献1にはプルシアンブルー型金属錯体を導電体上に配設した複合材料に、所定の陽イオンを含有する溶液を接触させて前記所定の陽イオンを前記プルシアンブルー型金属錯体に吸着させ、その後前記溶液の外で前記複合材料の陽イオンを脱離させるに当り、前記陽イオンの吸着の際及び/又は脱離の際に、前記複合材料に印加する電位を制御する陽イオンの処理方法が提案されている。
【0004】
ここでは導電体として金、銀、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス
スチールなどの金属や合金、酸化チタンスズや酸化亜鉛などの酸化物導電体、PEDOT-PSSなどの高分子導電体などが挙げられているが、液体中、気体中など様々な環境下における陽イオン物質の分離に機動的に対応することができるとともに、陽イオン脱離後のイオン物質分離用材料の再利用のし易さといった観点からはさらなる改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−200856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、液体中、気体中など様々な環境下における陽イオン物質の分離に効率よく、かつ機動的に対応し得るとともに、陽イオン脱離後の再利用が容易な分離用材料
の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、
カーボンペーパーまたはカーボンクロスを0.1〜5%濃度のプルシアンブルー水溶液に温度5〜35℃で含浸させた後、温度20〜70℃で乾燥処理を行う陽イオン物質分離用材料の製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る陽イオン物質分離用材料
の製造方法は、安価かつ取り扱いが容易で様々な形状への適用が可能であり、金属や酸化物導電体などの一般的なメッシュ状導電体に比べて表面積が大きいカーボンペーパーまたはカーボンクロスを基材として用いているので、液体中、気体中など様々な環境下における陽イオン物質の分離、特に微量に存在する陽イオン物質の効率的な分離や、膜面積の増加あるいは筒状の構造体とすることによる多量の陽イオン物質の分離など幅広く機動的に対応することができるといったすぐれた効果を奏する。ここで、カーボンペーパーまたはカーボンクロスは耐腐食性を有するため、海水中などでの使用にも十分に耐えることができる。また、陽イオン物質の脱離後に再利用が可能であることから、セシウムイオンなど放射性物質をはじめ、種々の陽イオン物質の分離、回収に有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ヨウ化カリウム溶液におけるヨウ素イオンのピーク225nmを含む260nmから200nmまでの吸光度を測定したグラフである
【発明を実施するための形態】
【0010】
陽イオン物質分離用材料の基材として用いられるプルシアンブルーは、フェロシアン化第2鉄に属するKFe[Fe(CN)
6]
3で表される化合物であり、一般には青色顔料として用いられており、毒性が低く、セシウム、タリウム、カリウム、ナトリウムなどの一価の陽イオンに対して結合するといった性質を持っている。
【0011】
本発明では、かかるプルシアンブルーをカーボンペーパーまたはカーボンクロスに固定せしめて陽イオン物質分離用材料が製造される。カーボンペーパーまたはカーボンクロスは、いずれも不織布であり、表面が親水性であり、また表面積が大きいことから、従来用いられてきた導電体に比べてプルシアンブルーの吸着量を増加させることができる。その一方で、導電性も有していることから陽イオン吸着後に通電を行うことで、
陽イオン
物質分離用材料に吸着している陽イオン物質の分離を容易に行うことができる。また、基材自体がフレキシブルであるため、プルシアンブルーを固定した後においても電極基材に亀裂が入りにくく、さらには耐腐食性を有することもあり、取り扱い性がよいといった利点を有する。
【0012】
かかるカーボンペーパーまたはカーボンクロスとしては、空孔率40〜80%、厚さ100〜300μm、抵抗値(JIS C2525に準拠した4端子法により測定)0.2〜1Ωものを用いることができ、例えば市販品、東レ製品トレカ等をそのまま用いることができる。また、これらの材料はフレキシブルであるため、その形状はシート状のほか筒状の構造体とするなど単位体積当りの表面積を増加させるような形状として用いることもできる。
【0013】
カーボンペーパーまたはカーボンクロスへのプルシアンブルーの固定は、0.1〜5重量%濃度のプルシアンブルー水溶液に温度5〜35℃、好ましくは15〜25℃といった常温域で例えば0.5〜3時間含浸させた後、温度20〜70℃、好ましくはプルシアンブルーの脱離が少ない25〜30℃で乾燥処理を行うことにより行われる。プルシアンブルーの濃度がこれより高い場合には、プルシアンブルーがカーボンペーパー等に多く吸着することとなり、ひいては荷電電圧が高くなって現場での実用性に欠けるようになり、一方これより低い場合には、膜へのイオン吸着量が減少するようになり好ましくない。また、含浸温度がこれより低い場合には、プルシアンブルーの溶解度が下がり、吸着量の減少が起こるようになり、一方これ以上の含浸温度では、加温によりコストアップが生じてしまうようになる。さらに、乾燥温度がこれ以上の場合には急激な温度上昇でプルシアンブルーの脱着量が増加してしまいプルシアンブルーの固定化を安定して行うことができず、一方これ以下の乾燥温度では乾燥に時間がかかりすぎるようになる。
【0014】
以上の工程により得られた陽イオン物質分離用材料は、液体中に浸漬または気体中に暴露することにより、液体中または気体中に存在する陽イオン物質の除去を可能とし、また陽イオン物質吸着材料をプラス側の電極に取り付けて、電圧5〜100V、電流0.01〜1Aで通電することにより、
陽イオン
物質分離用材料に吸着している陽イオン物質の分離を行うことができる。この時、電源としては一般的に確保が容易な12Vまたは24Vの電源が用いられる。
【実施例】
【0015】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0016】
実施例
プルシアンブルー(大日精化工業製品クロモファイン)を用いて1重量%濃度のプルシアンブルー水溶液を調製し、このプルシアンブルー水溶液中にカーボンクロス(東レ製品トレカ;空孔率50%、厚さ200μm、抵抗値0.5Ω)を室温下(25℃)で約30分間浸漬した。その後、プルシアンブルー水溶液からカーボンペーパーを引き上げ、60℃で約1時間乾燥してプルシアンブルーを固定したカーボンペーパーを得た。
【0017】
得られたプルシアンブルー固定カーボンペーパーを、0.001重量%濃度のヨウ化カリウム溶液を攪拌している溶液中に10分間浸漬し、カリウムイオンをプルシアンブルー固定カーボンペーパーに吸着させた。
【0018】
カーボンペーパー浸漬前のヨウ化カリウム溶液の吸光度およびカリウムイオンをプルシアンブルー固定カーボンペーパーに吸着させた後のヨウ化カリウム溶液の吸光度を測定したところ、カリウムイオン吸着前は
図1の最下部に示される曲線が、またカリウムイオン吸着後は
図1の中間部に示される曲線が得られた。なお、吸光度はヨウ素イオンのピーク225nmを含む260nmから200nmまでのスキャンが行われた。
【0019】
次に、ヨウ素イオン吸着カーボンペーパーをプラス側の電極に取り付けて、24V、0.01Aで通電し、カーボンペーパーに吸着しているカリウムイオンの脱離を行った。ヨウ化カリウム溶液中におけるヨウ素イオンの吸光度を再度測定したところ、
図1の最上部に示される曲線が得られた。
【0020】
図1において、ヨウ素イオンのピーク225nmにおける吸光度を比較すると、カリウムイオン脱離後において吸光度が一番高い値を示していることから、カリウムイオンがカーボンペーパーに吸着した後、脱離したことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明に係る陽イオン物質分離用材料
の製造方法は、水溶液中、気体中に存在する陽イオン、特にセシウムイオンを効率よく除去すると共にその脱離も容易に行うことができる
材料を提供することから、環境中、例えばセシウム汚染水や海水からの放射性セシウムの除去などに有効に用いられる。