特許第6237165号(P6237165)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237165
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20171120BHJP
【FI】
   F16H57/04 E
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-247877(P2013-247877)
(22)【出願日】2013年11月29日
(65)【公開番号】特開2015-105702(P2015-105702A)
(43)【公開日】2015年6月8日
【審査請求日】2016年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082337
【弁理士】
【氏名又は名称】近島 一夫
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 裕平
(72)【発明者】
【氏名】宮本 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】原田 啓輔
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−236651(JP,A)
【文献】 特開2009−103215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝達機構を収容するケースと、
前記ケースの下部に配設されると共に、油を貯留可能で、油を排出するための貫通孔を有するオイルパンと、
前記貫通孔から上方に向けて配設されると共に、油の注入時に設定する油面高さと同じ高さで上方を向いて開口する開口を最上部に有するオーバーフローチューブと、
前記貫通孔を封止可能な封止部材と、
前記伝達機構と前記開口との間において、水平方向に前記開口よりも広範囲に広がり前記開口を上方から全体的に覆うと共に、前記オーバーフローチューブとは別部材からなり、前記開口から上方側に隙間を介して設けられたカバー部と、を備える、
ことを特徴とする伝達装置。
【請求項2】
前記カバー部は、前記開口より、水平方向の外側で下方に向かって延びる油案内部を備える、
ことを特徴とする請求項1記載の伝達装置。
【請求項3】
前記オイルパンに貯留する油を吸引する吸引口を有するストレーナを備え、
前記カバー部は、前記ストレーナに一体形成される、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に適用されて好適な伝達装置に係り、詳しくは、所定量以上の油がオイルパンに貯留されることを防止するオーバーフローチューブを備える伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両に搭載される自動変速機には、潤滑や変速処理のため所定量の油が注入され、ケースの底部に固定されたオイルパンにて所定量が維持され、所定の時期に交換又は排出される。自動変速機では、オイルパンに形成された貫通孔にオーバーフローチューブが設けられたものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このオーバーフローチューブを備える自動変速機では、油の交換時に、封止部材を取り外して、オーバーフローチューブの開口よりも油面が高い場合に、油が排出されることにより、適量の油の貯留が維持されることになる。これにより、自動変速機のオイル交換の際に、油量の適正化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−255761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の自動変速機では、オーバーフローチューブの開口が、その真上に位置する変速機構、バルブボディ、ケース内壁等の内部構造物を向いて直に開口しているため、オイル交換の際にこれら内部構造物に付着した油が開口に直接落下することがあった。このように、オイルパンに貯留した油以外の油がオーバーフローチューブに入り込むと、オイル交換を行う作業者は、オイルパンに貯留した油が流出しているのか、それ以外の油が流出しているのか、すぐには判断することができず、しばらく様子を見る必要があり、作業時間が長くなってしまう可能性があった。
【0006】
そこで、本発明は、オイルパンに貯留した油以外の油がオーバーフローチューブに流入するのを抑制することで、オイル交換の作業時間を短縮できる伝達装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る伝達装置(1)は(例えば図1参照)、伝達機構(10)を収容するケース(30)と、
前記ケース(30)の下部に配設されると共に、油(2)を貯留可能で、油(2)を排出するための貫通孔(43)を有するオイルパン(40)と、
前記貫通孔(43)から上方に向けて配設されると共に、油(2)の注入時に設定する油面(2a)高さと同じ高さで上方を向いて開口する開口(61)を最上部に有するオーバーフローチューブ(60)と、
前記貫通孔(43)を封止可能な封止部材(70)と、
前記伝達機構(10)と前記開口(61)との間において、水平方向に前記開口(61)よりも広範囲に広がり前記開口(61)を上方から全体的に覆うと共に、前記オーバーフローチューブ(60)とは別部材からなり、前記開口(61)から上方側に隙間を介して設けられたカバー部(80)と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る伝達装置(1)は(例えば図1乃至図3参照)、前記カバー部(80)は、前記開口(61)より、水平方向の外側で下方に向かって延びる油案内部(81)を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る伝達装置(1)は(例えば図1参照)、前記オイルパン(40)に貯留する油(2)を吸引する吸引口(51)を有するストレーナ(50)を備え、
前記カバー部(80)は、前記ストレーナ(50)に一体形成されることを特徴とする。
【0010】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る本発明によると、伝達機構と開口との間において、開口を覆うと共に開口から上方側に隙間を介して設けられたカバー部を備えているので、例えば、伝達機構やバルブボディ、ケース内壁等、オーバーフローチューブの上方に位置する内部構造物から落下した油はカバー部により遮られ、オーバーフローチューブに入り込むことが無い。これにより、オイルパンに貯留した油以外の油がオーバーフローチューブから流出することが抑制されるので、オイル交換時には、オイルパンに貯留した油がオーバーフローチューブから流出しているか否かを容易に判断できるようになる。よって、カバー部を備えずオイルパンに貯留した油以外の油がオーバーフローチューブから流出する可能性がある場合に比べて、オイル交換の作業時間を短縮することができる。
【0012】
ここで、オーバーフローチューブの設置位置は、従来は確認試験や経験に基づく予測により、オーバーフローチューブの上方に位置する内部構造物のどの部分から油が落下しやすいのか目安を付けることによって設定されていた。これに対し、本発明によると、油の落下を気にすることなくオーバーフローチューブの設置位置を決めることができるので、設計の自由度を向上させることができる。
【0013】
請求項2に係る本発明によると、カバー部は、開口より、水平方向の外側で下方に向かって延びる油案内部を備えているので、カバー部の下面に付着した油は、重力によって油案内部によって開口より水平方向の外側で下方に案内される。これにより、カバー部の下面において、開口の上部には油が停滞しないので、カバー部の下面から油がオーバーフローチューブに落下することを防止できる。
【0014】
請求項3に係る本発明によると、オイルパンに貯留する油を吸引する吸引口を有するストレーナを備え、カバー部はストレーナに一体形成されるので、カバー部がストレーナと別体である場合に比べて、部品点数を削減することで、低コスト化を図ることができる。また、伝達装置の組み立て時において、カバー部がストレーナと別体である場合に比べて、カバー部を組み付ける作業を不要にできるので、組立時間の短縮化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係る伝達装置を示す概略図。
図2】本発明の実施の形態に係る伝達装置のカバー部の変形例を示す概略図。
図3】本発明の実施の形態に係る伝達装置のカバー部の他の変形例を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態を、図1に沿って説明する。
【0017】
まず、本発明の伝達装置を適用し得る自動変速機1の概略構成について図1に沿って説明する。尚、本実施の形態では、自動変速機1はFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型の多段変速機としている。
【0018】
本実施の形態における自動変速機1は、プラネタリギヤを有する変速機構(伝達機構)10と、変速機構10に変速動作を行わせるバルブボディ20と、これら変速機構10及びバルブボディ20等を収容するケース30と、ケース30の下部に配設されると共に、作動オイル2を貯留可能なオイルパン40と、ストレーナ50とを備えている。オイルパン40の周縁部には、全周に亘ってオイルシール41が設けられ、ケース30の下端部31との間で油密を図っている。オイルパン40の内部には、所定量の作動オイル(油)2が所定高さまで貯留されている。作動オイル2の油面2aの高さは、後述するオーバーフローチューブ60の開口61の高さとなっている。
【0019】
ストレーナ50は、オイルパン40に貯留する作動オイル2を吸引する吸引口51を備え、吸引口51をオイルパン40の底部42に向けて設置されている。オイルパン40の一部には、作動オイル2を排出するための貫通孔43が形成されている。ストレーナ50は、不図示のオイルポンプに連結され、オイルポンプの駆動によりオイルパン40に貯留する作動オイル2を吸引可能になっている。また、ストレーナ50は、例えば合成樹脂製であり、別部材である上部52と下部53とが不図示のフィルタを有して一体化されて構成されている。
【0020】
この自動変速機1は、オイルパン40の貫通孔43から上方に向けて配設されるオーバーフローチューブ60と、貫通孔43を封止可能なドレンプラグ(封止部材)70とを備えている。オーバーフローチューブ60は、上下方向を長手方向とし、最上部には作動オイル2の注入時に設定する油面2aの高さと同じ高さで上方を向いて開口する開口61を有している。また、オーバーフローチューブ60は、例えばねじ止め等により貫通孔43の周縁部に油密に固定されている。ドレンプラグ70は、オーバーフローチューブ60に対して螺合可能になっており、螺合によりオーバーフローチューブ60を封止すると同時に、貫通孔43を封止するようになっている。
【0021】
更に、この自動変速機1は、変速機構10と開口61との間において、開口61を覆うと共に開口61から上方側に隙間を介して設けられたカバー部80を備えている。このカバー部80は、オーバーフローチューブ60の開口61の上方を、開口61との間に隙間を有して覆っている。本実施の形態では、カバー部80は、ストレーナ50の上部52に一体形成されている。即ち、上部52とカバー部80とは、合成樹脂の射出成型等により一体形成されるようになっている。
【0022】
また、カバー部80は、開口61よりも水平方向に広範囲に広がる平板状で、外周部には下方に延設された油案内部81を備えている。即ち、油案内部81は、開口61より、水平方向の外側で下方に向かって延びて形成されており、開口61の上方に位置する部分より、水平方向の外側で下方に位置するようになっている。
【0023】
上述した自動変速機1における作動オイル2の交換時の流れを説明する。
【0024】
オイル交換時にケース30の上部から注入された作動オイル2は、オイルパン40に貯留される。この時、作業者によってドレンプラグ70が取り外されることにより、作動オイル2が開口61から貫通孔43を経てオイルパン40の外部に流出し、作動オイル2の油面2aの高さが開口61の高さになる。
【0025】
ここで、開口61の真上に位置する変速機構10、バルブボディ20、ケース30の内壁等からは、開口61に向けて油滴2bが滴下する。これに対し、カバー部80が設けられていることにより、開口61に向けて滴下した油滴2bは、カバー部80に遮られカバー部80の外周側に流れ、油案内部81に沿って下方に滴下される(図中、矢印参照)。これにより、開口61に向けて滴下した油滴2bが、開口61に入ることは防止される。
【0026】
以上説明したように、本実施の形態の自動変速機1によると、変速機構10と開口61との間において、開口61を覆うと共に開口61から上方側に隙間を介して設けられたカバー部80を備えているので、例えば、変速機構10、バルブボディ20、ケース30の内壁等、オーバーフローチューブ60の上方に位置する内部構造物から落下した油はカバー部80により遮られ、オーバーフローチューブ60に入り込むことが無い。これにより、オイルパン40に貯留した作動オイル2以外の油滴2b等がオーバーフローチューブ60から流出することが抑制されるので、オイル交換時には、オイルパン40に貯留した作動オイル2がオーバーフローチューブ60から流出しているか否かを容易に判断できるようになる。よって、カバー部80を備えずオイルパン40に貯留した作動オイル2以外の油滴2b等がオーバーフローチューブ60から流出する可能性がある場合に比べて、オイル交換の作業時間を短縮することができる。
【0027】
また、本実施の形態の自動変速機1によると、オーバーフローチューブ60の設置位置を設定する際には、作動オイル2の落下を気にすることなくオーバーフローチューブ60の設置位置を決めることができるので、設計の自由度を向上させることができる。
【0028】
また、本実施の形態の自動変速機1によると、カバー部80は、開口61より、水平方向の外側で下方に向かって延びる油案内部81を備えているので、カバー部80の下面に付着した油は、重力によって油案内部81により水平方向外側で下方に案内される。これにより、カバー部80の下面において、開口61の上部には作動オイル2が停滞しないので、カバー部80の下面から作動オイル2がオーバーフローチューブ60に落下することを防止することができる。
【0029】
また、本実施の形態の自動変速機1によると、オイルパン40に貯留する作動オイル2を吸引する吸引口51を有するストレーナ50を備え、カバー部80はストレーナ50に一体形成されるので、カバー部80がストレーナ50と別体である場合に比べて、部品点数を削減することで、低コスト化を図ることができる。また、自動変速機1の組み立て時において、カバー部80がストレーナ50と別体である場合に比べて、カバー部80を組み付ける作業を不要にできるので、組立時間の短縮化を図ることができる。
【0030】
尚、上述した本実施の形態においては、カバー部80は、開口61よりも水平方向に広範囲に広がる平板状としたが、これには限定されない。例えば、図2に示すように、カバー部180は、開口61よりも水平に対して傾斜した方向に広範囲に広がる平板状としてもよい。この場合、カバー部180の最下縁部が油案内部181を構成する。また、例えば、図3に示すように、カバー部280は、開口61の上部を最高部とする略球面状としてもよい。この場合、カバー部280の縁部が油案内部281を構成する。いずれの場合も、カバー部180,280は、開口61の上方に位置する部分より、水平方向の外側で下方になる油案内部181,281を備えているので、カバー部180,280の下面に付着した油は、重力によって油案内部181,281により開口61の上方から水平方向外側で下方に案内される。
【0031】
また、上述した本実施の形態においては、カバー部80は油案内部81を備えているが、これには限定されず、油案内部81を有していなくてもよい。
【0032】
また、上述した本実施の形態においては、カバー部80をストレーナ50と一体形成した場合について説明したが、これには限定されず、カバー部80とストレーナ50とが別体で、例えばねじ止め等により固定するようにしてもよい。あるいは、カバー部80をオーバーフローチューブ60、オイルパン40等の固定部材に固定するようにしてもよい。これらの場合も、オイル交換時には、オイルパン40に貯留した作動オイル2がオーバーフローチューブ60から流出しているか否かを容易に判断できるようになる。
【0033】
また、上述した本実施の形態においては、伝達装置をFRタイプの自動変速機1とした場合について説明したが、これには限定されず、ケースの下部にオイルパンを備えた伝達装置の全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 自動変速機(伝達装置)
2 作動オイル(油)
2a 油面
10 変速機構(伝達機構)
30 ケース
40 オイルパン
42 底部
43 貫通孔
50 ストレーナ
51 吸引口
60 オーバーフローチューブ
61 開口
70 ドレンプラグ(封止部材)
80 カバー部
81 油案内部
180 カバー部
181 油案内部
280 カバー部
281 油案内部
図1
図2
図3