特許第6237167号(P6237167)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横浜ゴム株式会社の特許一覧

特許6237167ゴム被覆繊維シート部材の切断装置および方法
<>
  • 特許6237167-ゴム被覆繊維シート部材の切断装置および方法 図000003
  • 特許6237167-ゴム被覆繊維シート部材の切断装置および方法 図000004
  • 特許6237167-ゴム被覆繊維シート部材の切断装置および方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237167
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】ゴム被覆繊維シート部材の切断装置および方法
(51)【国際特許分類】
   B26D 1/14 20060101AFI20171120BHJP
   B26D 3/00 20060101ALI20171120BHJP
   B29D 30/46 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B26D1/14 Z
   B26D3/00 601E
   B29D30/46
   B26D1/14 B
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-248058(P2013-248058)
(22)【出願日】2013年11月29日
(65)【公開番号】特開2015-104777(P2015-104777A)
(43)【公開日】2015年6月8日
【審査請求日】2016年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】川口 光久
【審査官】 石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−232694(JP,A)
【文献】 特開2002−113690(JP,A)
【文献】 特開平04−063697(JP,A)
【文献】 特開平01−183396(JP,A)
【文献】 特開2007−038331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 1/14
B26D 1/18
B26D 3/00
B29D 30/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム被覆繊維シート部材を平置きするベース台と、この平置きされたゴム被覆繊維シート部材を切断する切断具と、このシート部材を切断している前記切断具を前記シート部材に対して相対移動させる移動手段とを備えたゴム被覆繊維シート部材の切断装置であって、
前記切断具が回転駆動される回転丸刃であり、この回転丸刃の前記シート部材に対する進入角度Aを25°以上35°以下の範囲内の一定角度に維持する維持機構が設けられ、前記回転丸刃の刃先の周速度Rと前記回転丸刃の前記シート部材に対する相対移動速度Vとの比R/Vが14以上16以下に設定されたことを特徴とするゴム被覆繊維シート部材の切断装置。
【請求項2】
前記比R/Vが一定に維持される請求項1に記載のゴム被覆繊維シート部材の切断装置。
【請求項3】
前記回転丸刃の刃部の両面が低摩擦処理された仕様である請求項1または2に記載のゴム被覆繊維シート部材の切断装置。
【請求項4】
前記回転丸刃で前記シート部材を切断する際の回転丸刃とシート部材との摩擦力に基づいて、前記比R/Vを自動調整する制御部が設けられた請求項1〜3のいずれかに記載のゴム被覆繊維シート部材の切断装置。
【請求項5】
ベース台に平置されたゴム被覆繊維シート部材を、切断具を前記シート部材に対して相対移動させながら切断するゴム被覆繊維シート部材の切断方法であって、
前記切断具として回転駆動される回転丸刃を用い、この回転丸刃を回転駆動して前記シート部材に対する進入角度Aを25°以上35°以下の範囲内の一定角度に維持するとともに、前記回転丸刃の刃先の周速度Rと前記回転丸刃の前記シート部材に対する相対移動速度Vとの比R/Vを14以上16以下にして前記シート部材を切断することを特徴とするゴム被覆繊維シート部材の切断方法。
【請求項6】
前記比R/Vを一定に維持する請求項5に記載のゴム被覆繊維シート部材の切断方法。
【請求項7】
前記回転丸刃として、刃部の両面が低摩擦処理された仕様のものを用いる請求項5または6に記載のゴム被覆繊維シート部材の切断方法。
【請求項8】
前記回転丸刃で前記シート部材を切断する際の回転丸刃とシート部材との摩擦力に基づいて、前記比R/Vを自動調整する請求項5〜7のいずれかに記載のゴム被覆繊維シート部材の切断方法。
【請求項9】
前記ゴム被覆繊維シート部材が、タイヤを構成するカーカス材である請求項5〜8にいずれかに記載のゴム被覆繊維シート部材の切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム被覆繊維シート部材の切断装置および方法に関し、さらに詳しくは、繊維シートの切断屑の発生および飛散を抑制しつつ、滑らかな切断面に切断することができるゴム被覆繊維シート部材の切断装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤの製造には、繊維シートを未加硫ゴムで被覆したカーカス材が使用されている。このカーカス材やインナーライナ、ベルト材、各種ゴム部材等によりグリーンタイヤを成形した後、グリーンタイヤを加硫して空気入りタイヤが製造される。カーカス材のようなゴム被覆繊維シート部材を切断するには、例えば、回転式ノコギリ刃は使用されている。回転式ノコギリ刃によってゴム被覆繊維シート部材を切断すると、滑らかな切断面にすることが難しく、繊維シートの細かい切断屑が発生し易い。そして、発生した切断屑が回転するノコギリ刃によって周囲に飛散するという問題があった。
【0003】
切断対象物がゴム被覆繊維シート部材ではないが、紙やフィルム材を切断するために、回転丸刃を用いる装置が知られている(特許文献1参照)。回転式ノコギリ刃に代えて、このような回転丸刃を用いてゴム被覆繊維シート部材を切断すると、周縁の刃部が円周方向に連続しているので、切断面が滑らかになり繊維シートの切断屑の発生量が減少し、周囲への切断屑の飛散も抑制することができる。ここで、本発明者は、ゴム被覆繊維シート部材に対する回転丸刃の進入角度(喰い込み深さ)、回転丸刃の回転速度と移動速度との比が、繊維シートの切断屑の周囲への飛散量に大きく影響することを見出した。そして、様々な検討の結果、繊維シートの切断屑の発生および飛散を抑制しつつ、滑らかな切断面に切断することができる方法および装置を発明するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−38331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、繊維シートの切断屑の発生および飛散を抑制しつつ、滑らかな切断面に切断することができるゴム被覆繊維シート部材の切断装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のゴム被覆繊維シート部材の切断装置は、ゴム被覆繊維シート部材を平置きするベース台と、この平置きされたゴム被覆繊維シート部材を切断する切断具と、このシート部材を切断している前記切断具を前記シート部材に対して相対移動させる移動手段とを備えたゴム被覆繊維シート部材の切断装置であって、前記切断具が回転駆動される回転丸刃であり、この回転丸刃の前記シート部材に対する進入角度Aを25°以上35°以下の範囲内の一定角度に維持する維持機構が設けられ、前記回転丸刃の刃先の周速度Rと前記回転丸刃の前記シート部材に対する相対移動速度Vとの比R/Vが14以上16以下に設定されたことを特徴とする。
【0007】
本発明のゴム被覆繊維シート部材の切断方法は、ベース台に平置されたゴム被覆繊維シート部材を、切断具を前記シート部材に対して相対移動させながら切断するゴム被覆繊維シート部材の切断方法であって、前記切断具として回転駆動される回転丸刃を用い、この回転丸刃を回転駆動して前記シート部材に対する進入角度Aを25°以上35°以下の範囲内の一定角度に維持するとともに、前記回転丸刃の刃先の周速度Rと前記回転丸刃の前記シート部材に対する相対移動速度Vとの比R/Vを14以上16以下にして前記シート部材を切断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ベース台に平置されたゴム被覆繊維シート部材を、回転駆動される回転丸刃を前記シート部材に対して相対移動させながら切断するに際して、回転丸刃を回転駆動して前記シート部材に対する進入角度Aを25°以上35°以下の範囲内の一定角度に維持するとともに、回転丸刃の刃先の周速度Rと前記回転丸刃の前記シート部材に対する相対移動速度Vとの比R/Vを14以上16以下にすることで、繊維シートの切断屑の発生量を効果的に抑えることができ、これに伴って切断屑の周囲への飛散を防止することができる。さらには、前記シート部材を滑らかな切断面に切断することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のゴム被覆繊維シート部材の切断装置を例示する側面図である。
図2図1の切断装置の正面図である。
図3】回転丸刃のシート部材に対する進入角度を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のゴム被覆繊維シート部材の切断装置および方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1図3に例示する本発明のゴム被覆繊維シート部材の切断装置1(以下、切断装置1という)は、繊維シートStの両面を未加硫ゴムSrで被覆したゴム被覆繊維シート部材S(以下、シート部材Sという)を切断するものである。繊維シートStは、例えば、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、アラミドなどの有機繊維からなる複数のフィラメントを撚合わせたテキスタイルコード等により形成される。シート部材Sとしては、空気入りタイヤの構成部材であるカーカス材を例示できる。
【0012】
切断装置1は、ベース台2と、このベース台2に平置きされたシート部材Sを切断する回転丸刃3と、このシート部材Sを切断している回転丸刃3をシート部材Sに対して相対移動させる移動手段7と、維持機構8とを備えている。この実施形態ではさらに制御部9が設けられている。ベース台2の平坦な表面には、回転丸刃3の移動方向に溝2aが延設されている。
【0013】
回転丸刃3は駆動モータ5の駆動軸5aに取り付けられて、駆動軸5aを中心に回転駆動される。回転丸刃3の周縁の部分に円環状の刃部4が形成されている。刃部4の刃先は溝2aに対応する位置にセッティングされる。刃部4(回転丸刃3)は、例えば超硬のチタン合金製である。刃部4の両面には、切断する際にシート部材Sとの摩擦を低減させる低摩擦処理が施されることが好ましい。例えば、刃部4の両面はフッ素コーティングにより低摩擦処理される。
【0014】
回転丸刃3の外径は例えば90mm〜1000mmである。刃部4の半径方向長さBは例えば2mm〜10mmである。刃部4の刃先の厚みCは例えば0.5mm〜1.5mmである。
【0015】
駆動モータ5が収容されたケーシングは、直線状に延設されたガイド6に内挿されている。ガイド6は中空部を有し、この中空部に駆動モータ5がガイド6の延長方向に移動可能に内挿されている。直線的に延設されたガイド6の両側面には切り欠きが延設されていて、一方の切り欠きからは駆動軸5aがガイド6の内部から外部に突出している。駆動モータ5が収容されたケーシングは、他方の切り欠きを通じて移動手段7に連結されている。移動手段7は駆動モータ5をガイド6の延設方向に移動させる。
【0016】
この実施形態の移動手段7は、一定位置に固定されたベース2台に対して回転丸刃3を水平移動させる構成であるが、一定位置に固定された回転丸刃3に対してベース台2を水平移動させる構成にすることも、ベース台2および回転丸刃3の両者を互いに対して水平移動させる構成にすることもできる。移動手段7は実施形態に示した構成に限らず、シート部材Sを切断している回転丸刃3を、シート部材Sに対して相対移動させる構成であればよい。
【0017】
維持機構8は、回転丸刃3のシート部材Sに対する進入角度Aを25°以上35°以下の範囲内の一定角度に維持する。進入角度Aとは、図3に示すように、回転駆動される回転丸刃3がシート部材Sを切り込む際の刃部4の刃先の進入角度Aである。刃部4の刃先のシート部材Sとの接触始点Pにおける刃部4の刃先に対する接線と、シート部材Sの表面に平行は直線と、により形成される鋭角の角度が進入角度Aとして算出される。
【0018】
この実施形態の維持機構8は、回転丸刃3の移動方向(ガイド6の延設方向)に間隔をあけて配置されてガイド6を上下移動させる複数のアクチュエータ8で構成されている。アクチュエータ8として例えば、油圧シリンダやエアシリンダ等の流体シリンダを用いることができる。それぞれのアクチュエータ8によるガイド6の上下移動を制御部9によりコントロールすることにより、回転丸刃3の上下位置を調整できるので、結果的に進入角度Aがコントロールされることになる。そして、進入角度Aは25°以上35°以下の範囲内の一定角度に維持される。維持機構8は実施形態に示した構成に限らず、回転丸刃3のシート部材Sに対する進入角度Aを25°以上35°以下の範囲内の一定角度に維持する構成であればよい。
【0019】
回転丸刃3の回転速度(周速度R)およびガイド6に沿った移動速度Vも制御部9に入力され、これらは制御部9によって制御される。そして、回転丸刃3の刃先の周速度Rと回転丸刃3のシート部材Sに対する相対移動速度Vとの比R/Vも制御部9によって制御される。比R/Vは、14以上16以下に設定されていて、この数値範囲内に制御される。
【0020】
回転丸刃3の刃先の周速度Rは、例えば10〜30m/sである。回転丸刃3のシート部材Sに対する相対移動速度Vは、例えば0.5〜2.0m/sである。
【0021】
この切断装置1を用いてシート部材Sを切断するには、シート部材Sをベース台2に載置して平置きする。次いで、回転駆動させた回転丸刃3を、ガイド6の延設方向に直線的に一方向に移動させて、シート部材Sに対して相対移動させつつ、ベース台2に平置されたシート部材Sを切断する。刃部4の刃先を、ベース台2の溝2aに対応する位置に位置決めして相対移動させることで、ベース台2との接触による刃部4の損傷を防止することができる。
【0022】
上記のとおり回転丸刃3を相対移動させる際には、移動手段7および維持機構8を制御して回転丸刃3の進入角度Aを25°以上35°以下の範囲内の一定角度に維持するとともに、比R/Vを14以上16以下の状態にしてシート部材Sを切断する。比R/Vもこの範囲内で一定値に維持することがより好ましい。
【0023】
このようにして、本発明では、回転駆動させた回転丸刃3のシート部材Sに対する進入角度Aを適切な範囲の一定角度に維持するとともに、比R/Vを適切な範囲にすることで、繊維シートStの切断屑の発生量を効果的に抑えることができる。これに伴って切断屑の周囲への飛散を防止することができる。さらには、シート部材Sを滑らかな切断面に切断することが可能になる。
【0024】
進入角度Aが25°未満であるとシート部材Sに対する刃部4の喰い込み深さが過小になり、進入角度Aが35°超であるとシート部材Sに対する刃部4の喰い込み深さが過大になり、いずれの場合もシート部材Sを円滑に切断し難くなる。シート部材Sに対する刃部4の喰い込み深さは6mm程度(5.6mm〜6.4m)が好ましい。
【0025】
比R/Vが14未満であると、回転丸刃3の回転数に対して回転丸刃3の相対移動速度Vが速すぎて滑らかな切断面に切断し難くなる。一方、比R/Vが16超であると、回転丸刃3の回転数に対して回転丸刃3の相対移動速度Vが遅すぎて繊維シートStの切断屑が発生し易くなる。比R/Vを14〜16の範囲内で一定に維持すると、切断状態が安定し繊維シートStの切断屑の発生量を抑えるには益々有利になる。
【0026】
回転丸刃3の刃部4の両面が低摩擦処理された仕様にすると、シート部材Sとの摩擦抵抗が小さくなるので、シート部材Sを滑らかな切断面に切断するには有利になる。また、繊維シートStの切断屑の発生を抑制するにも有利になる。回転丸刃3の耐用期間の長期化にもつながる。
【0027】
回転丸刃3でシート部材Sを切断する際の回転丸刃3とシート部材Sとの摩擦力に基づいて、比R/Vを制御部9により自動調整する構成にすることもできる。例えば、シート部材Sを切断している回転丸刃3の回転抵抗をセンサにより逐次検知し、その検知データが制御部9に入力される構成にする。制御部9には予め目標とする比R/Vを設定しておく。制御部9は、この検知データから算出された摩擦力を考慮して、相対移動速度Vを一定に維持して回転丸刃3の回転数を逐次増減することにより比R/Vを目標値にする制御を行なう。この構成によれば、シート部材Sや回転丸刃3の仕様(材質など)によらず本発明の効果を安定して得易くなる。
【実施例】
【0028】
外径が90〜100mm、刃部の半径方向長さBが2〜10mm、刃部の刃先の厚みCが0.5〜1.5mmである回転丸刃(超硬チタン製)を用いてカーカス材を切断する際に、表1に示すように、進入角度Aおよび比R/Vのみを異ならせて、繊維シートの切断屑の発生量の測定および切断面の状態を評価した。結果は表1に示すとおりであった。切断面の状態は、滑らかな場合を〇、滑らかではない場合を×として目視評価した。
【0029】
【表1】
【0030】
表1の結果から、実施例1〜4は切断屑の発生量の抑制とともに、滑らかな切断面に切断できることが分かる。
【符号の説明】
【0031】
1 切断装置
2 ベース台
2a 溝
3 回転丸刃
4 刃部
5 駆動モータ
5a 駆動軸
6 ガイド
7 移動手段
8 維持機構
9 制御部
S ゴム被覆繊維シート部材(カーカス材)
Sr 未加硫ゴム
St 繊維シート
図1
図2
図3