特許第6237210号(P6237210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237210
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】病害虫発生推定装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A01M 1/00 20060101AFI20171120BHJP
   G06Q 50/02 20120101ALI20171120BHJP
【FI】
   A01M1/00 Q
   G06Q50/02
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-264259(P2013-264259)
(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公開番号】特開2015-119646(P2015-119646A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】桃原 萌子
(72)【発明者】
【氏名】小泉 和真
【審査官】 坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−85059(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/088538(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00 − 99/00
G06Q 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境因子に関する病害虫の発生条件及び前記病害虫の発生にかかる時間を参照する参照手段と、
農作物を栽培する所定空間内の各箇所での少なくとも1種類以上の環境因子に基づき、当該環境因子に関する前記病害虫の発生条件を前記参照手段により参照することで、前記所定空間内において病害虫が発生しやすい箇所を推定する病害虫発生箇所推定手段と、
を有し、
前記病害虫発生箇所推定手段は、所定時刻での前記環境因子に基づき、前記所定時刻での前記病害虫の発生しやすさを示す度数を前記所定空間内の箇所ごとに算出し、前記病害虫の発生にかかる時間分の前記度数を時系列に加算した積算値に基づき、前記病害虫が発生しやすい箇所を推定することを特徴とする病害虫発生推定装置。
【請求項2】
前記病害虫発生箇所推定手段は、前記所定空間内の各箇所での前記環境因子が前記発生条件から離れているほど、当該箇所での前記度数を小さくすることを特徴とする請求項に記載の病害虫発生推定装置。
【請求項3】
前記病害虫発生箇所推定手段による推定結果に基づき、病害虫の発生しやすさに応じて前記所定空間内を色分けして表示する推定結果表示手段をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の病害虫発生推定装置。
【請求項4】
前記参照手段は、前記発生条件を、前記農作物の品種ごと又は/及び前記病害虫の種類ごとに参照し、
前記病害虫発生箇所推定手段は、前記農作物の品種ごと又は/及び前記病害虫の種類ごとに異なる発生条件を用いることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の病害虫発生推定装置。
【請求項5】
前記所定空間内に設置された前記環境因子を検出するセンサから、前記環境因子の情報を取得する取得手段をさらに有することを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の病害虫発生推定装置。
【請求項6】
環境因子に関する病害虫の発生条件を参照する参照手段と、
農作物を栽培する所定空間内の各箇所での少なくとも1種類以上の環境因子に基づき、当該環境因子に関する前記病害虫の発生条件を前記参照手段により参照することで、前記所定空間内において病害虫が発生しやすい箇所を推定する病害虫発生箇所推定手段と、
前記所定空間内に設置された前記環境因子を検出するセンサから、前記環境因子の情報を取得する取得手段と、
前記取得手段が取得した環境因子の情報に基づき、前記センサが設置されていない前記所定空間内の各箇所の前記環境因子の予測値を算出する予測値算出手段と
を有することを特徴とする病害虫発生推定装置。
【請求項7】
前記予測値算出手段は、前記所定空間内における前記環境因子の局所回帰を行うことで、前記予測値を算出することを特徴とする請求項に記載の病害虫発生推定装置。
【請求項8】
環境因子に関する病害虫の発生条件及び前記病害虫の発生にかかる時間を参照するコンピュータが実行するプログラムであって、
農作物を栽培する所定空間内の各箇所での少なくとも1種類以上の環境因子に基づき、
当該環境因子に関する前記病害虫の発生条件を前記参照手段により参照することで、前記所定空間内において病害虫が発生しやすい箇所を推定する病害虫発生箇所推定手段
として前記コンピュータを機能させ
前記病害虫発生箇所推定手段は、所定時刻での前記環境因子に基づき、前記所定時刻での前記病害虫の発生しやすさを示す度数を前記所定空間内の箇所ごとに算出し、前記病害虫の発生にかかる時間分の前記度数を時系列に加算した積算値に基づき、前記病害虫が発生しやすい箇所を推定することを特徴とするプログラム。
【請求項9】
環境因子に関する病害虫の発生条件を参照するコンピュータが実行するプログラムであって、
農作物を栽培する所定空間内の各箇所での少なくとも1種類以上の環境因子に基づき、
当該環境因子に関する前記病害虫の発生条件を前記参照手段により参照することで、前記所定空間内において病害虫が発生しやすい箇所を推定する病害虫発生箇所推定手段と、
前記所定空間内に設置された前記環境因子を検出するセンサから、前記環境因子の情報を取得する取得手段と、
前記取得手段が取得した環境因子の情報に基づき、前記センサが設置されていない前記所定空間内の各箇所の前記環境因子の予測値を算出する予測値算出手段
として前記コンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病害虫の発生を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、農作物などへの病害虫対策に関する技術が知られている。例えば、特許文献1には、収穫が最大になるように、農薬散布作業と施肥作業計画の案を算出する技術が開示されている。なお、特許文献2には、局所回帰分析を用いた技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−313594号公報
【特許文献2】特開2011−118883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
病害虫の早期発見を行うため、現状では、防虫ネットなどを用いて温室内に害虫を入れないようにする対策と共に、農作業者による目視チェックを行っている。しかし、目視チェックでは、作業負荷が大きい点や、病害虫の発生に気付かずに見落としてしまう点などの課題が存在する。そこで、本発明は、病害虫が発生しやすい箇所を好適に推定することが可能な病害虫発生推定装置及びそのプログラムを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの観点では、病害虫発生推定装置は、環境因子に関する病害虫の発生条件及び前記病害虫の発生にかかる時間を参照する参照手段と、農作物を栽培する所定空間内の各箇所での少なくとも1種類以上の環境因子に基づき、当該環境因子に関する前記病害虫の発生条件を前記参照手段により参照することで、前記所定空間内において病害虫が発生しやすい箇所を推定する病害虫発生箇所推定手段と、を有し、前記病害虫発生箇所推定手段は、所定時刻での前記環境因子に基づき、前記所定時刻での前記病害虫の発生しやすさを示す度数を前記所定空間内の箇所ごとに算出し、前記病害虫の発生にかかる時間分の前記度数を時系列に加算した積算値に基づき、前記病害虫が発生しやすい箇所を推定する。
【0006】
上記病害虫発生推定装置は、参照手段と、病害虫発生箇所推定手段とを備える。参照手段は、環境因子に関する病害虫の発生条件を参照する。なお、参照手段が参照する病害虫の発生条件は、病害虫発生推定装置に記憶されていてもよく、他の端末に記憶されていてもよい。病害虫発生箇所推定手段は、農作物を栽培する所定空間内の各箇所での少なくとも1種類以上の環境因子に基づき、当該環境因子に関する病害虫の発生条件を参照することで、所定空間内において病害虫が発生しやすい箇所を推定する。なお、「所定空間」とは、1次元空間、2次元空間、又は3次元空間のいずれであってもよい。この態様により、病害虫発生推定装置は、環境因子に基づき、所定空間内において病害虫が発生しやすい箇所を好適に推定することができる。
また、前記病害虫発生箇所推定手段は、所定時刻での前記環境因子に基づき、前記所定時刻での前記病害虫の発生しやすさを示す度数を前記所定空間内の箇所ごとに算出し、前記度数を時系列に加算した積算値に基づき、前記病害虫が発生しやすい程度を推定する。これにより、病害虫発生推定装置は、時系列での病害虫の発生しやすさを勘案し、病害虫が発生しやすい箇所を好適に推定することができる。より詳しくは、前記参照手段は、前記病害虫の発生にかかる時間をさらに参照し、前記病害虫発生箇所推定手段は、前記病害虫の発生にかかる時間分の前記度数を時系列に加算した積算値に基づき、前記病害虫が発生しやすい箇所を推定する。これにより、病害虫発生推定装置は、病害虫の発生にかかる時間分を対象に上述の度数の積算値を算出するため、病害虫発生危険箇所をより正確に推定することができる。
【0008】
上記病害虫発生推定装置の他の一態様では、前記病害虫発生箇所推定手段は、前記所定空間内の各箇所での前記環境因子が前記発生条件から離れているほど、当該箇所での前記度数を小さくする。この態様により、病害虫発生推定装置は、病害虫の発生しやすさに応じて、上記度数を適切に設定することができる。
【0010】
上記病害虫発生推定装置の他の一態様では、病害虫発生推定装置は、前記病害虫発生箇所推定手段による推定結果に基づき、病害虫の発生しやすさに応じて前記所定空間内を色分けして表示する推定結果表示手段をさらに備える。この態様により、病害虫発生推定装置は、病害虫が発生しやすい箇所を、病害虫の発生のし易さに応じて、明確にユーザに認識させることができる。
【0011】
上記病害虫発生推定装置の他の一態様では、前記参照手段は、前記発生条件を、前記農作物の品種ごと又は/及び前記病害虫の種類ごとに参照し、前記病害虫発生箇所推定手段は、前記農作物の品種ごと又は/及び前記病害虫の種類ごとに異なる発生条件を用いる。これにより、病害虫発生推定装置は、病害虫が発生しやすい箇所を、農作物の品種や病害虫の種類ごとに、より高精度に推定することができる。
【0012】
上記病害虫発生推定装置の他の一態様では、病害虫発生推定装置は、前記所定空間内に設置された前記環境因子を検出するセンサから、前記環境因子の情報を取得する取得手段をさらに有する。この態様により、病害虫発生推定装置は、所定空間内の環境因子を好適に取得することができる。
【0013】
本発明の他の観点では、病害虫発生推定装置は、環境因子に関する病害虫の発生条件を参照する参照手段と、農作物を栽培する所定空間内の各箇所での少なくとも1種類以上の環境因子に基づき、当該環境因子に関する前記病害虫の発生条件を前記参照手段により参照することで、前記所定空間内において病害虫が発生しやすい箇所を推定する病害虫発生箇所推定手段と、前記所定空間内に設置された前記環境因子を検出するセンサから、前記環境因子の情報を取得する取得手段と、前記取得手段が取得した環境因子の情報に基づき、前記センサが設置されていない前記所定空間内の各箇所の前記環境因子の予測値を算出する予測値算出手段と、を有する。この態様により、病害虫発生推定装置は、設置に必要なセンサの数を好適に削減することができる。
【0014】
上記病害虫発生推定装置の他の一態様では、前記予測値算出手段は、前記所定空間内における前記環境因子の局所回帰を行うことで、前記予測値を算出する。この態様により、病害虫発生推定装置は、所定空間内の環境因子の予測値を高精度に算出することができる。
【0015】
本発明のさらに別の観点では、環境因子に関する病害虫の発生条件及び前記病害虫の発生にかかる時間を参照するコンピュータが実行するプログラムであって、農作物を栽培する所定空間内の各箇所での少なくとも1種類以上の環境因子に基づき、当該環境因子に関する前記病害虫の発生条件を前記参照手段により参照することで、前記所定空間内において病害虫が発生しやすい箇所を推定する病害虫発生箇所推定手段として前記コンピュータを機能させ、前記病害虫発生箇所推定手段は、所定時刻での前記環境因子に基づき、前記所定時刻での前記病害虫の発生しやすさを示す度数を前記所定空間内の箇所ごとに算出し、前記病害虫の発生にかかる時間分の前記度数を時系列に加算した積算値に基づき、前記病害虫が発生しやすい箇所を推定する。
また、本発明のさらに別の観点では、環境因子に関する病害虫の発生条件を参照するコンピュータが実行するプログラムであって、農作物を栽培する所定空間内の各箇所での少なくとも1種類以上の環境因子に基づき、当該環境因子に関する前記病害虫の発生条件を前記参照手段により参照することで、前記所定空間内において病害虫が発生しやすい箇所を推定する病害虫発生箇所推定手段と、前記所定空間内に設置された前記環境因子を検出するセンサから、前記環境因子の情報を取得する取得手段と、前記取得手段が取得した環境因子の情報に基づき、前記センサが設置されていない前記所定空間内の各箇所の前記環境因子の予測値を算出する予測値算出手段として前記コンピュータを機能させる。
コンピュータは、これらのプログラムを実行することで、所定空間内において病害虫が発生しやすい箇所を好適に推定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、温室内等の農作物を栽培する空間内において、病害虫が発生しやすい箇所を自動検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る表示システムの概略構成を示す。
図2】温度の測定記録を示すテーブルである。
図3】病害虫発生条件DBのデータ構造を示す。
図4】実施形態においてコンピュータ装置が実行するフローチャートである。
図5】局所回帰式を表すグラフの一例である。
図6】局所回帰式に基づき求めた温度のグラフである。
図7】病害虫発生度の算出処理を示すフローチャートを示す。
図8】病害虫発生箇所推定部の推定結果を示す表示例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る実施形態について説明する。
【0019】
[システム構成]
図1は、本実施形態に係る表示システム10の概略構成を示す図である。表示システム10は、農作物の栽培等を行う温室1内の温度及び湿度に基づき、温室1内で病害虫が発生しやすい条件に該当する箇所(「病害虫発生危険箇所」とも呼ぶ。)を認識し、可視化するためのシステムである。表示システム10は、主に、温室1内に設けられた温度及び湿度を計測する複数(図1では8個)のセンサ3と、センサ3の出力に基づき病害虫発生危険箇所の算出及び可視化を行うコンピュータ装置4とを備える。
【0020】
センサ3は、温室1内に複数配置され、それぞれ、温度及び湿度を所定間隔(例えば5分)ごとに計測し、生成した計測値、計測日時の情報、及び当該センサ3の識別情報等を含む検出信号を、コンピュータ装置4に送信する。この場合、センサ3は、無線又は有線により検出信号を直接コンピュータ装置4へ送信してもよく、他の装置を介して検出信号をコンピュータ装置4に送信してもよい。
【0021】
また、図1の例では、センサ3は、温室1内の破線により示される直方体の頂点を構成するように配置されている。この場合、温室1内の破線により示される直方体は、コンピュータ装置4がセンサ3の検出信号により温度及び湿度を可視化することが可能な範囲(「可視化範囲Rtag」とも呼ぶ。)に相当する。以後の説明では、可視化範囲Rtagを、図示のように、水平方向をX軸及びY軸方向とし、高さ方向をZ軸方向とするXYZ座標空間により適宜表現する。温度及び湿度は、本発明における「環境因子」の一例であり、可視化範囲Rtagは、本発明における「所定空間」の一例である。
【0022】
コンピュータ装置4は、ハードウェアとして、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリ、ディスプレイ、マウスやキーボード等の入力装置、センサ3と通信するための通信装置等を備える。そして、コンピュータ装置4は、センサ3から送信された検出信号に基づき、センサ3間の温度及び湿度のデータ補間処理を行ったり、病害虫発生危険箇所の推定及び可視化を行ったりする。
【0023】
[コンピュータ装置の機能構成]
コンピュータ装置4は、機能的には、図1に示すように、データ受信部41と、温度・湿度分布推定部42と、病害虫発生条件DB(Dtata Base)43と、病害虫発生箇所推定部44と、表示部45と、とを備える。
【0024】
データ受信部41は、各センサ3から所定間隔により温度及び湿度に関する検出信号を受信する。そして、データ受信部41は、受信した検出信号を、温度・湿度分布推定部42に供給する。図2は、センサ3から送信された温度の計測値の受信履歴を示すテーブルである。図2の「測定日時」は、検出信号に含まれる計測日時を示す。図2の例では、データ受信部41は、5分ごとに、「No.1」等の番号が割り当てられた各センサ3から、温度の計測値を含む検出信号を受信している。データ受信部41は、本発明における「取得手段」の一例である。
【0025】
再び温度・湿度分布推定部42について説明する。温度・湿度分布推定部42は、全てのセンサ3から図2に示す一行分の温度の計測値及びそれに付随する湿度の計測値をデータ受信部41から供給された場合、これらの計測値と、各センサ3の位置情報とに基づき、センサ3間の位置での温度及び湿度のデータの補間処理を行う。この場合、温度・湿度分布推定部42は、各センサ3の位置情報を予め記憶してもよく、ユーザ入力に基づき認識してもよい。
【0026】
具体的には、まず、温度・湿度分布推定部42は、上述の各センサ3の計測値及び位置情報に基づき、近傍のデータを特に重み付けする局所回帰分析により、可視化範囲Rtag内の温度及び湿度を部分ごとにそれぞれモデル化した局所回帰式を算出する。そして、温度・湿度分布推定部42は、温度及び湿度に対してそれぞれ生成した局所回帰式に基づき、可視化範囲Rtag内の各座標位置での温度及び湿度の予測値を算出する。ここでは、温度・湿度分布推定部42は、可視化範囲Rtagを各XYZ軸と垂直な面により所定の間隔(即ちメッシュ幅)で区切った場合に生成される各単位空間の中心位置を、温度及び湿度の予測値を算出する座標位置とする。なお、温度・湿度分布推定部42は、上述の各メッシュ幅を、例えばユーザ入力に基づき定めてもよく、予め定められた間隔に定めてもよい。温度・湿度分布推定部42は、本発明における「予測値算出手段」の一例である。
【0027】
病害虫発生条件DB43は、温室1内で栽培する品種(例えばとまと、いちご、なす等)ごとに発生する病害虫の種類とその発生条件を記憶する。図3は、品種「とまと」に関する病害虫の種類とその発生条件とを病害虫発生条件DB43から抽出したテーブルである。図3の例では、病害虫発生条件DB43は、品種「とまと」について、病害虫の種類を示す「病名」の項目と、時期、温度及び湿度に関する「発生条件」の項目と、「病原菌の発芽にかかる時間」の項目と、温度及び湿度に関する「重み付けパラメータ」の項目とを有する。なお、病害虫発生条件DB43が記憶する病名と発生条件との関係を示す情報は、例えば、農薬メーカや各都道府県の農業団体などによって公開されている情報であってもよい。そして、病害虫発生条件DB43は、図3に示す情報を、品種ごとに予め記憶しておく。
【0028】
なお、図3の「重み付けパラメータ」の項目は、瞬時的な病害虫の発生しやすさを示す度数(「病害虫発生度Fg」とも呼ぶ。)を、後述する病害虫発生箇所推定部44が可視化範囲Rtag内の座標位置ごとに算出する際に用いるパラメータである。以後では、温度に関する重み付けパラメータを「σ」、湿度に関する重み付けパラメータを「σ」と表記する。ここでは、パラメータσは、対応する「病名」の項目が示す病害虫が発生している場合の温度の標準偏差に設定され、パラメータσは、上記病害虫が発生している場合の湿度の標準偏差に設定される。
【0029】
病害虫発生箇所推定部44は、病害虫発生条件DB43を参照し、温度・湿度分布推定部42が算出した可視化範囲Rtagの各座標位置での温度及び湿度の予測値から、病害虫発生度Fgを算出する。この場合、病害虫発生箇所推定部44は、病害虫発生条件DB43に記録された発生条件が示す温度及び湿度に、温度及び湿度の予測値が近いほど、対象の病名に対する病害虫発生度Fgを高く設定する。そして、病害虫発生箇所推定部44は、算出した病害虫発生度Fgを、病害虫発生度Fgの算出に用いたセンサ3からの検出信号に含まれる計測日時の情報と関連付けて記憶する。
【0030】
さらに、病害虫発生箇所推定部44は、病害虫発生条件DB43の「病原菌の発芽にかかる時間」の項目を参照し、当該項目が示す時間分だけ病害虫発生度Fgを時系列で足し合わせた値(「発生度積算値Fgs」とも呼ぶ。)を座標位置ごと及び病名ごとに算出する。即ち、病害虫発生箇所推定部44は、「病原菌の発芽にかかる時間」の項目が示す時間だけ現在日時より前の日時から、現在日時までに計測された温度及び湿度の計測値に基づく病害虫発生度Fgを、座標位置ごと及び病名ごとに積算する。そして、病害虫発生箇所推定部44は、算出した発生度積算値Fgsが所定の閾値を超えた座標位置に対応する単位空間を、病害虫発生危険個所であると認識する。
【0031】
また、本実施形態では、病害虫発生箇所推定部44は、病害虫発生危険個所における病害虫の発生のしやすさを段階的に表現するため、上述の閾値として2つの異なる値(低い方を「第1閾値」、高い方を「第2閾値」とも呼ぶ。)を設定する。そして、表示部45は、発生度積算値Fgsが第1閾値と第2閾値との間にある座標位置を中心とする単位空間を、病害虫発生危険箇所のうち病害虫が発生する可能性が比較的低い空間として表示し、発生度積算値Fgsが第2閾値より大きい座標位置を中心とした単位空間を、病害虫発生危険箇所のうち病害虫が発生する可能性が比較的高い空間として表示する。なお、病害虫発生箇所推定部44は、本発明における「参照手段」及び「病害虫発生箇所推定手段」の一例である。
【0032】
[処理概要]
図4は、本実施形態においてコンピュータ装置4が実行するフローチャートの一例である。コンピュータ装置4は、図4に示すフローチャートの処理を繰り返し実行する。
【0033】
まず、データ受信部41は、温室1内の全センサ3から検出信号を受信したか否か判定する(ステップS101)。例えば、温室1内の各センサ3が検出信号を5分おきにコンピュータ装置4へ送信する場合、データ受信部41は、5分間隔により、温室1内の全てのセンサ3から検出信号を受信したと判断する。そして、データ受信部41は、温室1内の全てのセンサ3から検出信号を受信した場合(ステップS101;Yes)、ステップS102へ処理を進める。一方、温室1内の全てのセンサ3から検出信号を受信していない場合(ステップS101;No)、データ受信部41は、全てのセンサ3から検出信号を受信するまで待機する。
【0034】
次に、温度・湿度分布推定部42は、データ受信部41が全てのセンサ3の検出信号を受信後、当該各検出信号が示す温度及び湿度の計測値に基づき、温度及び湿度のそれぞれに対応する可視化範囲Rtag内の局所回帰式を算出する(ステップS102)。さらに、温度・湿度分布推定部42は、可視化範囲Rtagを所定のメッシュ間隔により区切った場合の単位空間の中心となる各座標位置での温度及び湿度の予測値を、上述の局所回帰式により算出する。この場合、温度・湿度分布推定部42は、局所回帰式により可視化範囲Rtag内の温度及び湿度をモデル化しているため、予測値を算出する座標位置に近いセンサ3の計測値ほど大きい重みを付けて温度及び湿度の予測値を決定することができる。
【0035】
次に、病害虫発生箇所推定部44は、各座標位置の温度及び湿度の予測値に基づき、座標位置及び病名ごとに、病害虫発生度Fgを算出する(ステップS103)。この場合、病害虫発生箇所推定部44は、病害虫発生条件DB43から温度及び湿度の発生条件等を病名ごとに参照し、温度及び湿度の予測値が、発生条件の温度及び湿度に近いほど、病害虫発生度Fgを高く設定する。病害虫発生度Fgの具体的な設定例については、図7のフローチャートを参照して後述する。
【0036】
そして、病害虫発生箇所推定部44は、所定期間内に算出した病害虫発生度Fgを時系列で加算した発生度積算値Fgsを、病名及び座標位置ごとに算出する(ステップS104)。具体的には、病害虫発生箇所推定部44は、病害虫発生条件DB43の「病原菌の発芽にかかる時間」の項目を参照し、現在から当該項目が示す時間分だけ遡った期間内に算出した病害虫発生度Fgを、病名及び座標位置ごとに時系列で足し合わせることで、発生度積算値Fgsを算出する。
【0037】
そして、病害虫発生箇所推定部44は、時系列で病害虫発生度Fgを加算した発生度積算値Fgsが第1閾値より大きくなるような座標位置があるか否か判定する(ステップS105)。そして、病害虫発生箇所推定部44は、発生度積算値Fgsが第1閾値より大きくなるような座標位置があると判断した場合(ステップS105;Yes)、ステップS106へ処理を進める。一方、病害虫発生箇所推定部44は、各座標位置の発生度積算値Fgsが全ての第1閾値以下であると判断した場合(ステップS105;No)、可視化範囲Rtag内に病害虫発生危険箇所は存在しないと判断し、フローチャートの処理を終了する。この場合、病害虫発生箇所推定部444は、例えば、可視化範囲Rtag内に病害虫発生危険箇所は存在しない旨を表示部45に表示させる。
【0038】
また、ステップS106では、病害虫発生箇所推定部44は、ステップS105で第1閾値よりも高い発生度積算値Fgsのうち、第2閾値よりも高いものが存在するか否か判定する(ステップS106)。そして、そして、表示部45は、第2閾値よりも高い発生度積算値Fgsが存在する場合(ステップS106;Yes)、第1閾値より高く第2閾値以下の発生度積算値Fgsに対応する座標位置に相当する箇所を黄色で表示し、第2閾値より高い発生度積算値Fgsに対応する座標位置に相当する箇所を赤色により表示する(ステップS107)。この場合、黄色のエリアは気象予報等における注意報に相当し、赤色のエリアは警報に相当する。なお、表示部45は、第1閾値以下の発生度積算値Fgsに対応する座標位置に相当する箇所を、例えば白または透明色により表示する。また、表示部45は、第2閾値よりも高い発生度積算値Fgsが存在しない場合(ステップS106;No)、第1閾値より高く第2閾値以下の発生度積算値Fgsに対応する座標位置に相当する単位空間を黄色で表示する(ステップS108)。この場合も同様に、表示部45は、第1閾値以下の発生度積算値Fgsに対応する座標位置に相当する箇所を、例えば白または透明色により表示する。
【0039】
[局所回帰分析]
上述したように、温度・湿度分布推定部42は、近傍のデータを特に重み付けする局所回帰分析により、可視化範囲Rtag内の温度及び湿度を部分ごとにモデル化した局所回帰式を算出する。これにより、温度・湿度分布推定部42は、各座標位置での予測値を算出する際に、当該座標位置に近いセンサ3の計測値ほど大きい重みを付けて予測値を好適に算出することができる。
【0040】
ここで、局所回帰式の具体例について、図5を参照して説明する。図5は、温度センサを直線上に並べ、当該直線を1次元座標とした場合の、温度の計測値から算出した局所回帰式を表すグラフの一例である。図5のプロット点30a〜30fは、座標値が2m、6m、10m、14m、18m、30mの各地点で温度センサが計測した温度と計測位置との関係を示す。また、各プロット点30a〜30eを中心とする円31a〜31eは、破線32に示す位置(即ち、座標位置「12m」)の温度の予測値を算出する際の各計測値に対する重み付けの大きさを示す。
【0041】
図5のグラフに示すように、温度・湿度分布推定部42は、この場合、線形の回帰式を所定の区分ごとに局所的に算出している。ここで、円31a〜31eが示す各計測値に対する重み付けは、算出対象となる予測値の地点と計測値の計測地点との距離が短い計測値ほど大きくなる。なお、破線32が示す地点から最も遠い地点(座標位置「30m」)で計測されたプロット点30fが示す計測値は、算出対象となる予測値の地点(即ち座標位置「12m」)との距離が所定距離よりも長いことから、算出対象から除外されている。このように、温度・湿度分布推定部42は、局所回帰式を算出することで、近傍の計測値を重視した回帰モデルを生成することができる。従って、病害虫発生条件DB43は、例えば、特定領域で突出した値となった計測値を、不必要に全ての可視化範囲Rtagの予測値の算出に用いることを防ぐことができる。
【0042】
次に、局所回帰分析による可視化範囲Rtag内の各座標位置での温度の予測値の算出結果について、図6を参照して説明する。
【0043】
図6(A)は、局所回帰式に基づく可視化範囲Rtag内の温度分布を示す。図6(B)は、図6(A)の例と異なる計測日時に得られた温度の計測値に基づく可視化範囲Rtag内の温度分布を示す。ここで、図6(A)のグラフ50Aは、高さ1mと2mと3mでの温度分布を階層的に示し、グラフ51A〜53Aは、高さ1mと2mと3mでの温度分布をそれぞれ個別に示している。また、グラフ54Aは、グラフ中の表示の濃さと温度との対応関係を示す。同様に、図6(B)のグラフ50Bは、高さ1mと2mと3mでの温度分布を階層的に示し、グラフ51B〜53Bは、高さ1mと2mと3mでの温度分布をそれぞれ個別に示している。また、グラフ54Bは、グラフ中の表示の濃さと温度との対応関係を示す。
【0044】
図6(A)、(B)の例では、温度・湿度分布推定部42は、温度の計測値を用いて、局所回帰分析により局所回帰式を算出することで、可視化範囲Rtag内の任意の座標位置での温度の予測値を決定している。このように、温度・湿度分布推定部42は、局所回帰分析により、センサ3間の任意の位置での温度及び湿度の補間データを好適に作成することができる。
【0045】
[病害虫発生度の算出]
次に、病害虫発生度Fgの算出例について説明する。図7は、病害虫発生度Fgの算出処理を示すフローチャートを示す。図7のフローチャートでは、病害虫が発生しているときの温度及び湿度の分布が2次元の正規分布に従うと仮定した場合の病害虫発生度Fgの算出例を示す。また、以後の説明では、温度及び湿度の予測値が17℃及び65%である座標位置に対し、図3に示す病害虫発生条件DB43の病名「疫病」を対象に病害虫発生度Fgを算出する例(「代表例」とも呼ぶ。)について適宜言及しながら説明する。なお、図7の例では、病害虫発生度Fgは、0から1までの値に設定される。
【0046】
まず、病害虫発生箇所推定部44は、病害虫発生条件DB43を参照し、対象の座標位置での温度及び湿度の予測値が、共に、対象の病名の発生条件の温度及び湿度に合致するか否か判定する(ステップS201)。そして、温度及び湿度の予測値が、共に、対象の病名の発生条件の温度及び湿度に合致する場合(ステップS201;Yes)、病害虫発生箇所推定部44は、病害虫発生度Fgを最大値である「1」に設定する(ステップS202)。一方、温度の予測値が発生条件の温度に合致しない場合、又は、湿度の予測値が発生条件の湿度に合致しない場合(ステップS201;No)、病害虫発生箇所推定部44は、ステップS203へ処理を進める。なお、代表例の場合、温度の予測値(17℃)が発生条件の温度(18〜22℃)に該当せず、湿度の予測値(65%)が発生条件の湿度(70%以上)に該当しないため、病害虫発生箇所推定部44は、ステップS203へ処理を進める。
【0047】
次に、病害虫発生箇所推定部44は、温度の予測値と、当該予測値に最も近い発生条件の温度との差分「ΔT」、及び、湿度の予測値と、当該予測値に最も近い発生条件の湿度との差分「ΔH」をそれぞれ算出する(ステップS203)。代表例の場合、病害虫発生箇所推定部44は、差分ΔTを1(=18−17)に設定すると共に、差分ΔHを5(=70−65)に設定する。
【0048】
次に、病害虫発生箇所推定部44は、温度及び湿度の重み付けパラメータσ、σと、差分ΔT、ΔHとを、2次元正規分布の式から導出した以下の式(1)に当てはめることで、対象の病名の場合に温度及び湿度が上述の予測値になる確率密度に相当する値(「基準値F」とも呼ぶ。)を算出する(ステップS204)。
【0049】
【数1】
【0050】
代表例の場合、病害虫発生箇所推定部44は、病害虫発生条件DB43を参照して得られるパラメータσ(=1)及びσ(=5)と、ステップS203で求めた差分ΔT(=1)及びΔH(=5)を式(1)に代入することで、基準値F(=0.012)を算出する。
【0051】
そして、病害虫発生箇所推定部44は、基準値Fが所定の閾値より小さいか否か判定する(ステップS205)。上述の閾値は、例えば、基準値Fが無視できる程度に小さいか否かを判定するための閾値である。そして、基準値Fが閾値よりも小さい場合(ステップS205;Yes)、病害虫発生箇所推定部44は、病害虫発生度Fgを最小値「0」に設定する(ステップS206)。一方、基準値Fが閾値以上である場合(ステップS205;No)、病害虫発生箇所推定部44は、病害虫発生度Fgを、基準値Fに所定の定数「C」を乗じた値に設定する(ステップS207)。これにより、病害虫発生度Fgは、0より大きく1より小さい値に定められる。
【0052】
なお、病害虫発生箇所推定部44は、さらに病害虫発生条件DB43の時期に関する発生条件を参照し、現在の時期が当該時期と外れている場合には、上述の処理に関わらず病害虫発生度Fgを0に設定してもよい。
【0053】
[表示例]
図8は、表示部45が表示する病害虫発生箇所推定部44の推定結果の表示例を示す。図8のグラフ60は、高さ1mと2mと3mでの病害虫発生危険箇所の有無を階層的に表示しており、グラフ61〜63は、高さ1mと2mと3mでの病害虫発生危険箇所の有無をそれぞれ個別に示している。
【0054】
図8の例では、表示部45は、病害虫発生箇所推定部44の推定結果に基づき、高さ2mの所定範囲65Aを含む空間がうどんこ病のおそれがあることから、うどんこ病のおそれがある旨を表示した吹き出しとともに、当該範囲65Aを黄色で表示している。従って、この例では、病害虫発生箇所推定部44は、範囲65A内の各座標位置に対応する発生度積算値Fgsが第1閾値と第2閾値との間に存在すると判断し、表示部45に範囲65Aを黄色で表示させている。また表示部45は、高さ3mの所定範囲65Bを含む空間が疫病のおそれが高いことから、疫病の可能性が高い旨を表示した吹き出しと共に、当該範囲65Bを赤色で表示している。この場合、病害虫発生箇所推定部44は、範囲65B内の各座標位置に対応する発生度積算値Fgsが第2閾値より高いと判断し、表示部45に範囲65Bを赤色で表示させている。
【0055】
このように、表示部45は、図4のステップS107またはステップS108に従い、発生度積算値Fgsが第1閾値以下の座標位置を含む範囲と、発生度積算値Fgsが第1閾値と第2閾値との間にある座標位置を含む範囲と、発生度積算値Fgsが第2閾値より大きい座標位置を含む範囲とで、色分けして表示する。これにより、表示部45は、病害虫発生危険箇所及びその発生可能性の程度をユーザに好適に認識させることができる。
【0056】
[本実施形態の作用・効果]
本実施形態によれば、コンピュータ装置4は、可視化範囲Rtag内の各座標位置での温度及び湿度の予測値に基づき、病害虫発生条件DB43を参照して病害虫発生度Fgを算出し、さらに病害虫発生度Fgを時系列で積算した発生度積算値Fgsを算出する。これにより、コンピュータ装置4は、特定の期間での病害虫の発生のしやすさを好適に数値化し、病害虫発生危険箇所を好適に推定することができる。また、コンピュータ装置4は、発生度積算値Fgsと、第1及び第2閾値との比較結果に基づき、可視化範囲Rtagを色分けして表示することで、病害虫発生危険箇所及びその発生可能性の程度をユーザに好適に認識させることができる。また、コンピュータ装置4は、センサ3間の各座標位置での温度及び湿度のデータを補間する場合に、局所回帰分析を用いることで、近傍の計測値を重視した回帰モデルを生成し、温度及び湿度の予測値を高精度に算出することができる。
【0057】
[変形例]
以下では、上記した実施形態の変形例について説明する。なお、下記の変形例は、任意に組み合わせて実施形態に適用することができる。
【0058】
(変形例1)
図7の例では、病害虫発生度Fgの値域は、0から1の範囲に設定されていたが、本発明が適用可能な病害虫発生度Fgの値域は、これに限定されない。これに代えて、病害虫発生度Fgの値域は、負値を含むもの(例えば−1から1までの範囲)であってもよい。
【0059】
この場合、例えば、図7の例において、コンピュータ装置4は、ステップS205で基準値Fが閾値より小さいと判断した場合、ステップS206で病害虫発生度Fgを所定の負値に設定する。また、他の例では、コンピュータ装置4は、病害虫の発生のしにくさを示す度数を算出し、図7に基づき算出した病害虫発生度Fgから当該度数を減算する。
【0060】
(変形例2)
図7のステップS204では、病害虫発生箇所推定部44は、病害虫が発生する場合の温度及び湿度の分布が正規分布であると仮定して基準値Fを算出した。これに代えて、病害虫発生箇所推定部44は、病害虫が発生する場合の温度及び湿度の分布を正規分布以外によりモデル化して病害虫発生度Fgを算出してもよい。例えば、病害虫発生箇所推定部44は、病害虫発生条件DB43の発生条件に該当する温度及び湿度の範囲が最大値を取るような略台形型の分布を用いて基準値Fを算出してもよい。
【0061】
(変形例3)
コンピュータ装置4は、病害虫発生条件DB43の「病原菌の発芽にかかる時間」を参照して病害虫発生度Fgの加算期間を定めたが、本発明が適用可能な発生度積算値Fgsの算出方法は、これに限定されない。
【0062】
例えば、発生度積算値Fgsに加算する病害虫発生度Fgの期間を設定しなくともよい。この場合、コンピュータ装置4は、算出した病害虫発生度Fgを病名及び座標位置ごとに時系列で全て加算した発生度積算値Fgsを算出する。この場合、好適には、変形例1と組み合わせて、病害虫発生度Fgの値域が負値を含むようにするとよい。
【0063】
別の例では、コンピュータ装置4は、発生度積算値Fgsを、加算対象となる最初の病害虫発生度Fgの算出時からの経過時間により割ることで時間平均してもよい。
【0064】
(変形例4)
温度・湿度分布推定部42は、局所回帰式に基づき、温度及び湿度の予測値を算出した。これに代えて、温度・湿度分布推定部42は、局所回帰式を用いることなく、温度及び湿度の予測値を算出してもよい。例えば、温度・湿度分布推定部42は、回帰式を算出することなく、計測値の加重平均により、各予測値を算出してもよい。この場合、温度・湿度分布推定部42は、予測値を求める座標位置と、各センサ3の計測位置との距離を、当該センサ3の計測値に対する重み付け係数に設定する。
【0065】
(変形例5)
図1の構成例において、コンピュータ装置4は、温度・湿度分布推定部42を有しなくともよい。この場合、例えば、可視化範囲Rtagには多数のセンサ3が設置され、コンピュータ装置4は、センサ3から受信した検出信号に基づく温度及び湿度の計測値に基づき、病害虫発生度Fgなどの算出処理を行う。
【0066】
(変形例6)
コンピュータ装置4は、センサ3が計測した温度及び湿度に基づき、病害虫発生危険箇所を認識した。しかし、病害虫発生危険箇所を認識するのに必要な環境因子は、温度及び湿度に限定されない。
【0067】
例えば、コンピュータ装置4は、温度及び湿度のいずれか一方のみを用いて病害虫発生度Fg及び発生度積算値Fgsを算出し、病害虫発生危険箇所を認識してもよい。他の例では、コンピュータ装置4は、温度又は/及び湿度に加えて、又はこれに代えて、二酸化炭素の濃度を用いて、局所回帰式や病害虫発生度Fg、発生度積算値Fgs等を算出し、病害虫発生危険箇所を認識してもよい。
【0068】
(変形例7)
実施形態では、コンピュータ装置4は、3次元空間を可視化範囲Rtagとしたが、これに限らず、2次元空間又は1次元空間を可視化範囲Rtagとしてもよい。
【0069】
例えば、可視化範囲Rtagを2次元空間とする場合、各センサ3は、病害虫発生危険箇所を推定したい高さに設置され、コンピュータ装置4は、各センサ3が設けられた高さでの2次元空間の各座標位置での病害虫発生度Fg及び発生度積算値Fgsを算出して病害虫発生危険箇所を表示する。他の例では、温度・湿度分布推定部42は、実施形態と同様に、3次元空間での温度及び湿度の予測値を算出し、病害虫発生箇所推定部44は、ユーザ入力等により指定された2次元空間(例えば高さに相当するZ座標を指定された場合にはXY平面)の各座標位置での病害虫発生度Fg及び発生度積算値Fgsを算出して病害虫発生危険箇所を表示してもよい。
【0070】
(変形例8)
図5の例では、コンピュータ装置4は、各センサ3の測定値に基づき、現在時刻での病害虫発生危険箇所を表示した。これに代えて、例えば、コンピュータ装置4は、ユーザ入力に基づき指定された日時に対する病害虫発生危険箇所を表示してもよい。
【0071】
この場合、例えば、コンピュータ装置4は、各センサ3から取得した温度及び湿度の計測値を、図2に示すようにデータベース化して記憶しておき、ユーザ入力に基づき指定された日時に対する発生度積算値Fgsを算出する。なお、この場合、コンピュータ装置4は、各センサ3から検出信号を受信するかわりに、他の装置が生成した温度及び湿度の計測値のデータベースを記憶してもよい。
【0072】
(変形例9)
コンピュータ装置4が病害虫発生危険箇所を可視化した表示を行うのに代えて、コンピュータ装置4と通信可能な他の端末装置が上記表示を行ってもよい。
【0073】
例えば、この場合、コンピュータ装置4は、病害虫発生箇所推定部44が病害虫発生危険箇所の推定処理のみを行い、推定結果を示す情報を、表示部を有する端末装置に送信する。そして、端末装置は、受信した情報に基づき、図8に示すような病害虫発生危険箇所を可視化した表示を行う。
【0074】
(変形例10)
コンピュータ装置4は、病害虫発生条件DB43を記憶する代わりに、病害虫発生条件DB43を記憶するサーバ装置から、病害虫発生度Fg等の算出に必要な情報を受信してもよい。この態様によっても、コンピュータ装置4は、好適に病害虫発生条件DB43を参照し、病害虫発生度Fg等を算出することができる。
【0075】
(変形例11)
コンピュータ装置4は、センサ3から送信される検出信号に含まれる計測日時を参照する代わりに、センサ3からの検出信号の受信時に生成した日時情報を計測値と共に記憶し、以後の処理に用いてもよい。
【0076】
(変形例12)
図4のステップS101では、データ受信部41は、温室1内の全センサ3から検出信号を受信したか否か判定した。これに代えて、データ受信部41は、所定個数以上のセンサ3から検出信号を受信したか否か判定し、所定個数以上のセンサ3から検出信号を受信した場合に、ステップS102以降へ処理を進めてもよい。上述の所定個数は、例えば、温度及び湿度のそれぞれに対応する可視化範囲Rtag内の局所回帰式を算出することが可能な個数に設定される。これにより、コンピュータ装置4は、何らかの原因により一部のセンサ3から検出信号を受信できない場合であっても、可視化範囲Rtag内の病害虫発生危険箇所を好適に推定することができる。
【符号の説明】
【0077】
3 センサ
4 コンピュータ装置
10 表示システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8