特許第6237225号(P6237225)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6237225-カーボンナノチューブ合成用触媒 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237225
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ合成用触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/88 20060101AFI20171120BHJP
   C01B 32/162 20170101ALI20171120BHJP
【FI】
   B01J23/88 M
   C01B32/162
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-269811(P2013-269811)
(22)【出願日】2013年12月26日
(65)【公開番号】特開2015-123410(P2015-123410A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森田 雄
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 克己
(72)【発明者】
【氏名】名畑 信之
(72)【発明者】
【氏名】増田 幹
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−519679(JP,A)
【文献】 特開2010−024131(JP,A)
【文献】 特表2011−506255(JP,A)
【文献】 特表2010−538953(JP,A)
【文献】 特表2009−533312(JP,A)
【文献】 特開2013−166140(JP,A)
【文献】 特開2011−207758(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/076885(WO,A1)
【文献】 特開2012−218953(JP,A)
【文献】 特開平06−238165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Co、MnおよびMgを含んでなるカーボンナノチューブ合成用触媒であって、Mn/Mgのモル比が、0.01〜0.1であることを特徴とするカーボンナノチューブ合成用触媒。
【請求項2】
酸素濃度が1体積%以下の雰囲気中、500〜1000℃にて、請求項1記載のカーボンナノチューブ合成用触媒と、炭素源として炭化水素および/またはアルコールとを接触反応させることを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
体積抵抗率が、2.4×10-2Ω・cm以下であることを特徴とする請求項記載のカーボンナノチューブの製造方法
【請求項4】
嵩密度が、0.01〜0.1g/mLであることを特徴とする請求項または記載のカーボンナノチューブの製造方法
【請求項5】
請求項いずれか記載の方法により製造されるカーボンナノチューブと樹脂とを含有してなる樹脂組成物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブ合成用触媒に関する。更に詳しくは、カーボンナノチューブ合成用触媒と、それを用いて製造されるカーボンナノチューブおよびそれを用いた樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
直径が1mm以下のカーボンナノチューブは、例えば樹脂へ配合され、導電性や強度等の特性を付与するフィラーとして、種々の検討がなされている。そして、このようなカーボンナノチューブは、従来、主にアーク放電法、レーザー蒸着法、気相成長法などで製造されていた。
【0003】
その中でも、気相成長法は、アーク放電法やレーザー蒸着法に比べて効率良く不純物の少ないカーボンナノチューブが得られるという利点がある。また、気体状態の原料を使用することによって、連続反応が可能であり、更には原料ガスとなる炭化水素や一酸化炭素等の炭素を含むガスが安価に入手できるので、カーボンナノチューブの量産化に適した技術といえる。
【0004】
気相成長法によりカーボンナノチューブを得る際に使用される触媒(以下、カーボンナノチューブ合成用触媒と称する)は、例えばシリカ、アルミナ、マグネシア、ゼオライト等の担持成分に、鉄、コバルト、ニッケル等の活性成分の金属を担持させたもの等が提案されている。(例えば特許文献1参照)
【0005】
また、硝酸金属塩とクエン酸を含む混合物を乾燥した後、700℃で5時間焼成して得られたカーボンナノチューブ合成用触媒を用いて、マルチウォール型のカーボンナノチューブを得る方法が提案されているが、しかしながらこの方法では、高温での焼成条件のため触媒粒子の焼結が進行してしまい、その結果、カーボンナノチューブの析出効率が低く、生成したカーボンナノチューブ中に触媒由来の不純物が多量に残留し、生産性が著しく低くなってしまうのが現状である。(例えば非特許文献1参照)
【0006】
触媒粒子の焼結の進行による析出効率の低下を抑制することにより、カーボンナノチューブの生産効率を改善する技術も提案されているが、析出効率は十分ではなく、カーボンナノチューブ中の残留触媒が多いため、本来のカーボンナノチューブの導電性を付加する機能が得られないのが現状である。(例えば特許文献2参照)
【0007】
そこで、マンガン、モリブデンやタングステンを含むバイメタル触媒微粒子上に炭素含有ガスを通すことによって、カーボンナノチューブの生産効率を改善する方法がとられてきた。(例えば、特許文献3、特許文献4参照)しかしながら、このような方法では、気相成長時のカーボンナノチューブ同士の絡み合いが大きく、樹脂への分散性及び導電性に優れたカーボンナノチューブを得ることが困難である。
【0008】
カーボンナノチューブにおいて、樹脂や溶媒等の媒体に対する分散性は、少ない配合量で優れた導電性を得るうえで極めて重要な特性である。カーボンナノチューブの配合量を多くすることは、コストの増加のみならず、成形樹脂への配合においては、樹脂の成型性などが損なわれてしまうこと、また、インキ、導電塗料などの樹脂組成物などへの適用では高粘度となり、印刷適性、塗装適性に劣り、好ましいことではない。
【0009】
また、水溶性8族金属化合物と、クエン酸とを含む混合物を焼成してなる、8族金属酸化物を含有する触媒をカーボンナノチューブ合成用触媒として用いることによって直径や長さの分布が狭く、且つ不純物含有量を抑える技術も提案されているが、カーボンナノチューブの分散性を改善できるものではないのが現状である。(例えば特許文献5参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2010−540220号公報
【特許文献2】特開2006−181477号公報
【特許文献3】特表2003−500326号公報
【特許文献4】特表2008−519679号公報
【特許文献5】特開2006−181477号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Carbon,41,2949−2959(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、かかる諸問題を解決する、導電性に優れたカーボンナノチューブを得るためのカーボンナノチューブ合成用触媒を提供することにある。また、表面抵抗が小さく導電性に優れた樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のMn/Mgのモル比であるカーボンナノチューブ合成用触媒を用いることにより、導電性に優れたカーボンナノチューブを得ることができることを見出し、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明は、Co、MnおよびMgを含んでなるカーボンナノチューブ合成用触媒であって、Mn/Mgのモル比が、0.01〜0.1であることを特徴とするカーボンナノチューブ合成用触媒に関する。
【0015】
また、本発明は、酸素濃度が1体積%以下の雰囲気中、500〜1000℃にて、前記カーボンナノチューブ合成用触媒と、炭素源として炭化水素および/またはアルコールとを接触反応させることを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法に関する。
【0017】
また、本発明は、体積抵抗率が、2.4×10-2Ω・cm以下であることを特徴とする前記カーボンナノチューブの製造方法に関する。
【0018】
また、本発明は、嵩密度が、0.01〜0.1g/mLであることを特徴とする前記カーボンナノチューブの製造方法に関する。
【0019】
また、本発明は、前記方法により製造されるカーボンナノチューブと樹脂とを含有してなる樹脂組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のカーボンナノチューブ合成用触媒を用いることにより、導電性に優れたカーボンナノチューブを効率的に製造することができる。よって、樹脂成形体における導電性発現性にも優れ、少ない配合量で、従って、樹脂の成型性や樹脂成形体の機械的特性を損なうことなく、優れた導電性樹脂成形体を実現することができる。この導電性樹脂成形体は、帯電防止用電子部材、静電塗装用樹脂成形体、導電性透明樹脂組成物等への応用が可能である。また、本発明のカーボンナノチューブは、成形体以外にも、シート、テープ、透明フィルム、インキ、導電塗料などの樹脂組成物へ適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施例15で得られたカーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡写真(倍率:2万倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(1)カーボンナノチューブ合成用触媒(A)
本発明のカーボンナノチューブ合成用触媒(A)は、Co、MnおよびMgを含み、Mn/Mgのモル比が、0.01〜0.1であることを特徴とする。Co、MnおよびMgの原料としては、これら金属単体やその金属塩を用いることができる。具体的には、酢酸コバルト、酢酸コバルト・4水和物、水酸化コバルト、クエン酸コバルト・n水和物、硝酸コバルト・6水和物、硫酸コバルト、硫酸コバルト・7水和物、塩化マグネシウム、塩化マグネシウム・6水和物、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム・4水和物、クエン酸マグネシウム・n水和物、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム・7水和物、硝酸マグネシウム・6水和物、炭酸マンガン、酢酸マンガン・4水和物、二酸化マンガン、マンガン等が挙げられる。本発明のカーボンナノチューブ合成用触媒(A)は、上記以外の金属として、Fe、Ni、Mo、W、Al等を含有していてもよい。
【0023】
本発明のカーボンナノチューブ合成用触媒(A)中の、Coを含む金属塩とMgを含む金属塩との合計100モル%に対する前記Coの含有割合(以下、この割合を単に「コバルト成分含有率」と称す。)が40〜80モル%であることが好ましく、50〜60モル%となるような量であることがさらに好ましい。
【0024】
触媒中のコバルト成分含有量が上記範囲よりも多いと、触媒活性が低く、カーボンナノチューブの生産効率が低くなり、逆に、活性成分含有率が上記範囲よりも少ないと、活性成分の割合が少なくなり、生産効率が低下してしまう恐れがある。
【0025】
本発明のカーボンナノチューブ合成用触媒(A)の安息角は50°以下であることが好ましく、40°以下であることがさらに好ましい。安息角が50°よりも大きな場合、流動性が得られにくく、カーボンナノチューブ合成用触媒として適さない可能性がある。
【0026】
本発明のカーボンナノチューブ合成用触媒(A)の嵩密度は0.1〜0.2g/mLの範囲であることが好ましい。この範囲内であると、高密度のカーボンナノチューブが得られやすく、樹脂の含浸性に優れ、樹脂に配合したときの分散性及び導電性の発現性に優れる。
【0028】
本発明のカーボンナノチューブ合成用触媒は、種々の方法で製造することができる。マグネシウム塩への沈殿、マグネシウム塩の含浸、マグネシウム塩の存在下でコバルト塩の共沈殿、マグネシウム塩とコバルト塩との共沈殿である。また、マグネシウム塩、コバルト塩とマンガン塩を乾式で粉砕、混合処理することによっても得られる。
【0029】
カーボンナノチューブ合成用触媒(A)は得られた固形物を粉砕し平均粒径(D50)を50μm以下にすることが好ましい。固形物を粉砕し、粒径を揃えることによって、均質なカーボンナノチューブ合成用触媒が得られる。
【0030】
カーボンナノチューブ合成用触媒(A)は酸素の存在下、350℃〜550℃の温度範囲で加熱焼成することが好ましい。
【0031】
(2)カーボンナノチューブの製造方法(B)
本発明のカーボンナノチューブ(C)を製造するためには、触媒として前記カーボンナノチューブ合成用触媒(A)を用いて、酸素濃度が1体積%以下の雰囲気中、500〜1000℃にて、炭素源として炭化水素および/またはアルコールとを接触反応させて、カーボンナノチューブ(C)の析出反応を行い製造する。
【0032】
カーボンナノチューブ(C)の炭素源としての原料ガスは、従来公知の任意のものを使用でき、例えば、炭素を含むガスとしてメタンやエチレン、プロパン、ブタン、アセチレンなどの炭化水素や、一酸化炭素、アルコールなどを用いることが出来るが、特に使い易さの理由により、炭化水素やアルコールを用いることが望ましい。
【0033】
カーボンナノチューブ合成用触媒(A)は、必要に応じて、還元性ガス雰囲気下で活性化した後、又は還元性ガスと共に、酸素濃度1体積%以下の雰囲気中、炭素源としての原料ガスと接触反応させて製造することが好ましい。酸素濃度1体積%以下の雰囲気は、特に制限はないが、アルゴンガスのような希ガスや窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気が好ましい。活性化に使用する還元性ガスとしては、水素、アンモニア等を用いることができるが、特に水素が好ましく、その濃度は、原料ガス濃度100体積%に対して0.1〜70体積%、特に30〜60体積%であることが好ましい。
【0034】
製造時の温度や原料ガスの供給量は、従来公知の任意の値から、適宜選択し決定すれば良いが、本発明のカーボンナノチューブ合成用触媒(A)においては、600〜850℃、特に650〜750℃が好ましく、反応圧力は大気圧以上40kPa以下、特に常圧以上30kPa以下とすることが好ましい。反応時間は反応温度や触媒と原料ガスとの触媒比率に応じて任意に設定されるが、通常0.5〜6時間程度である。本発明での反応速度は反応開始から約20分で最大となり、その後、徐々に失速して反応開始から5〜5.5時間で停止する。従って、反応時間は0.5〜6時間の範囲で管理することが好ましい。また、反応終了後、製造装置内の雰囲気を置換する際には、アルゴンガスのような希ガスや窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気で行うことが好ましい。
【0035】
本発明の製造方法によれば、カーボンナノチューブ合成用触媒(A)を核として、屈曲したカーボンナノチューブ(C)が析出、成長し、カーボンナノチューブ(C)同士の絡まりが抑制されて、嵩密度が0.01〜0.1g/mLのカーボンナノチューブ(C)が得られ易い。
【0036】
(3)カーボンナノチューブ(C)
本発明におけるカーボンナノチューブ(C)は、屈曲したカーボンナノチューブ(C)同士が適度に絡まり合った凝集体構造を有するが、これを樹脂等の充填材として用いる場合は、適宜粉砕して用いていても良く、本発明のカーボンナノチューブ(C)は、粉砕を行った場合でも、その凝集体構造内部の空隙が大きいことによる樹脂含浸性が損なわれることなく、樹脂分散性、導電性発現性に優れたカーボンナノチューブを得ることができる。
【0037】
本発明のカーボンナノチューブの体積抵抗率は、2.4×10-2Ω・cm以下であることが好ましく、2.0×10-2Ω・cm以下であることがより好ましい。このような体積抵抗率を有するカーボンナノチューブと樹脂を含有する樹脂組成物は、低い表面抵抗を示す。樹脂組成物の態様としては、インキ、塗料、接着剤、粘着剤、塗膜、フィルム、シート、マスターバッチ、トナー、カラーフィルター、印刷物、包装材、その他成型品等が挙げられる。
【0038】
樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ウレタンウレア樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、フッ素樹脂、その他ワックス等が挙げられる。これらの樹脂は、所望とする用途や分野に応じて、単独又は複数を併用して用いることができる。
【0039】
本発明のカーボンナノチューブと樹脂とを含有してなる樹脂組成物が塗膜である場合、塗膜の表面抵抗は、1.0×105Ω/□以下であることが好ましく、1.0×104Ω/□以下であることが好ましい。
【0040】
本発明のカーボンナノチューブの嵩密度は、0.01〜0.1g/mLの範囲であることが好ましい。このような嵩密度を有するカーボンナノチューブを用いることにより、分散物を得ようとした際に、分散媒への分散が容易である傾向が認められるためである。この範囲内であると、高密度のカーボンナノチューブが得られやすく、樹脂の含浸性に優れ、樹脂に配合したときの分散性及び導電性の発現性に優れる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。例中、特に断わりのない限り、「部」とは「質量部」、「%」とは「質量%」をそれぞれ意味する。また、「カーボンナノチューブ」を「CNT」と略記することがある。
【0042】
<物性の測定方法>
後述の各実施例及び比較例において製造されたカーボンナノチューブ合成用触媒およびカーボンナノチューブの物性は、以下の方法により測定した。
【0043】
<嵩密度>
スコットボリュームメータ(筒井理化学器械社製ASTM-B-329-98型)を用いて、カーボンナノチューブ合成用触媒またはカーボンナノチューブの嵩密度を測定した。カーボンナノチューブ合成用触媒またはカーボンナノチューブをふるい(75φ×20mm、目開き2000μm)を介して、上部よりステンレス製試料容器からあふれ出るまで投入し、あふれたら直ちにスライドグラスを用いて過量分をすり落とし、その質量を秤量した。下記の計算式により、嵩密度を算出した。

嵩密度(g/mL)=(測定した質量(g))÷(試料容器密度(25mL))
【0044】
<体積抵抗率>
粉体抵抗率測定装置((株)三菱化学アナリテック社製:ロレスターGP粉体低効率測
定システムMCP−PD−51)を用い、試料重量1.2gとし、粉体用プローブユニッ
ト(四探針・リング電極、電極間隔5.0mm、電極半径1.0mm、試料半径12.5
mm)により、印加電圧リミッタを90Vとして、種々加圧下のカーボンナノチューブの
体積抵抗率Ω・cmを測定した。密度1.0g/mLにおける値をカーボンナノチュ
ーブの体積抵抗率(Ω・cm)とした。
【0045】
<カーボンナノチューブ含有塗膜の表面抵抗とカーボンナノチューブの導電性評価>
カーボンナノチューブの導電性を評価するために、カーボンナノチューブを分散した塗膜を作成し、その表面抵抗を測定することにより導電性評価を行った。
三菱化学社製エポキシ樹脂グレード1256を、ブチルカルビトールアセテートに溶解して、固形分40%のエポキシ樹脂溶液を作製し、エポキシ樹脂溶液の固形分15gに対して、評価用のカーボンナノチューブ0.789gを混合し、フーバーマーラーで150lb、100回転の条件でそれぞれ1〜3回練り、評価用のカーボンナノチューブ分散体を得た。その後、東洋紡績社製PETフィルムに、アプリケーターを用いて、乾燥後の塗膜厚さが10±1μmとなるように塗工後、電気オーブン中で150±5℃にて60分間乾燥させて、カーボンナノチューブを含有する塗膜を得た。(株)三菱化学アナリテック社製:ロレスターGP粉体低効率測定システムMCP−PD−51を用いて、上記塗膜の表面抵抗(Ω/□)を測定した。
カーボンナノチューブの導電性の評価基準は、上記塗膜の表面抵抗が104Ω/□)以下の場合を◎(良)、106Ω/□)以上の場合を×(不良)とした。

【0046】
<走査型電子顕微鏡による観察と平均粒径>
走査型電子顕微鏡(日本電子社製(JEOL、JSM―6700M))によって、カーボンナノチューブ合成用触媒またはカーボンナノチューブの形態観察を実施した。観察は、カーボンナノチューブ合成用触媒またはカーボンナノチューブをカーボンペーパー上にそのままの状態で散布して実施した。約100個のカーボンナノチューブ合成用触媒またはカーボンナノチューブの一次粒子の短軸と長軸の径の長さを計測し、その数平均値をもってカーボンナノチューブ合成用触媒またはカーボンナノチューブの平均粒径(nm)とした。
【0047】
<カーボンナノチューブ合成用触媒の製造>
(実施例1)[カーボンナノチューブ合成用触媒(a)の製造]
酢酸コバルト・四水和物200g、金属マンガン2.4g、および担持成分として酢酸マグネシウム・四水和物172gをビーカーに秤取り、水1488g加えて、均一になるまで撹拌した。耐熱性容器に移し替え、電気オーブンを用いて、190±5℃の温度で30分乾燥させ水分を蒸発させた後、乳鉢で粉砕して触媒(a)の前駆体を得た。得られた触媒(a)の前駆体400gを耐熱容器に秤取り、マッフル炉にて、空気中500℃±5℃雰囲気下で30分焼成した後、乳鉢で粉砕して触媒(a)を得た。
【0048】
(実施例2〜8)[カーボンナノチューブ合成用触媒(b)〜(h)の製造]
実施例1で使用した金属マンガン2.4gの替わりに、表1に掲載した原料(マンガン塩と担持成分の種類)と仕込み量に、また表2に掲載した焼成温度に変更した以外は、実施例1と同様な方法により、それぞれカーボンナノチューブ合成用触媒(b)〜(h)を得た。
【0049】
【表1】
【0050】
表2に、実施例1〜8で作製したカーボンナノチューブ合成用触媒を製造する際の焼成条件と、得られたカーボンナノチューブ合成用触媒の物性を示す。
【0051】
【表2】
【0052】
(比較例1〜4)[カーボンナノチューブ合成用触媒(i)〜(l)の製造]
実施例1で使用した金属マンガン2.4gの替わりに、表3に掲載した原料(マンガン塩と担持成分の種類)と仕込み量に、また表4に掲載した焼成温度に変更した以外は、実施例1と同様な方法により、それぞれカーボンナノチューブ合成用触媒(i)〜(l)を得た。
【0053】
【表3】
【0054】
表4に比較例1〜4で作製したカーボンナノチューブ合成用触媒を製造する際の焼成条件と、得られたカーボンナノチューブ合成用触媒の物性を示す。
【0055】
【表4】
【0056】
<カーボンナノチューブの製造>
(実施例9)
加圧可能で、外部ヒーターで加熱可能な、内容積が10リットルの横型反応管の中央部に、カーボンナノチューブ合成用触媒(a)1.0gを散布した石英ガラス製耐熱皿を設置した。アルゴンガスを注入しながら排気を行い、反応管内の空気をアルゴンガスで置換し、横型反応管中の雰囲気を酸素濃度1体積%以下とした。次いで、外部ヒーターにて加熱し、横型反応管内の中心部温度が700℃になるまで加熱した。700℃に到達した後、毎分0.1リットルの流速で1分間、水素ガスを反応管内に導入し、触媒を活性化処理した。その後、炭素源としてエタノールを毎分1リットルの流速で反応管内に導入し、4時間接触反応させた。反応終了後、反応管内のガスをアルゴンガスで置換し、反応管内の温度を100℃以下になるまで冷却し、得られたカーボンナノチューブを採取した。得られたカーボンナノチューブは、導電性、分散性を比較するため、80メッシュの金網で粉砕ろ過した。
【0057】
(実施例10〜19)(比較例1〜4)
実施例9で使用したカーボンナノチューブ合成用触媒(a)の替わりに、表5に掲載したカーボンナノチューブ合成用触媒および反応条件に変更した以外は、実施例9と同様な方法により、それぞれカーボンナノチューブを得た。
【0058】
【表5】
【0059】
表6に、実施例9〜19、比較例1〜4で得られたカーボンナノチューブの体積抵抗率、嵩密度、導電性の評価結果を示す。
【0060】
【表6】
【0061】
上記結果から、本発明のカーボンナノチューブ合成用触媒を用いた場合、比較例で使用した触媒を用いた場合よりも、低い表面抵抗率を示すカーボンナノチューブおよび低い体積抵抗率を示す樹脂組成物が得られ、高い導電性を有するカーボンナノチューブが効率的に得られることが明らかとなった。
図1