(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に、電気機器に電力を制御して供給する電力制御機器には、用途に応じて様々なパワー半導体装置が用いられている。具体的には、高電圧用途ではパワーMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)が主に用いられ、大電流用途ではIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor 絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)が主に用いられている。このパワー半導体装置は、その構造からプレーナ型とトレンチゲート型に分類される。近年、更なる低On抵抗化が要求されており、この要求に応えるために、構造上微細化によるOn抵抗低減が可能なトレンチゲート型のパワー半導体装置が使用されている。
【0003】
一方で、一般に、電車、電気自動車、ハイブリッド車等の電動車両は、駆動輪を回転駆動するために電動モータを備えると共に、該電動モータにバッテリに蓄えられた電力を制御して供給する電力制御機器としてインバータを備えている。このインバータには、通常、IGBT等のパワー半導体装置が用いられている。
【0004】
ここで、電気自動車やハイブリッド車等の電気駆動自動車では、例えば、急加速時や段差乗り越え走行時に、電車等では想定されないような一時的な負荷の増大があり、このとき、インバータ内の半導体装置に大電力が供給される。この大電流が一瞬でもインバータの定格電流を超えると、半導体装置は発熱量が補償範囲を超えて熱破壊してしまうおそれがある。そのため、高々数パーセントのこのような利用シーンのために、インバータに大容量の半導体装置を用いなければならなかった。その結果、インバータが大型化し、車両重量が増大することで、燃費性能にも影響していた。
【0005】
上述の課題に対処するために、例えば、特許文献1には、
図7に示すように、トレンチゲート型のIGBT300において、半導体本体部301の複数のゲート電極302間に板状の放熱部材303が埋め込まれ、該放熱部材303とこの上端面に接合されたN型またはP型の熱電半導体層304等によりペルチェ素子305が構成され、放熱部材303を介して半導体本体部301の内部から積極的に冷却する技術が開示されている。
【0006】
ところが、特許文献1の技術では、放熱部材303を別途設けるので、その分、デバイスサイズが大きくなる懸念があった。また、ゲート電極302間に放熱部材303を設けるので、ゲート電極302間の本来の電流経路を制限して放熱部材303の周囲が抵抗となり、On抵抗が増加する懸念があった。さらに、本構造の場合、電流密度が高いゲート電極302の側壁部が大きな発熱部となるが、この発熱部と放熱部材303との間が離れているので、この間で伝熱に時間的遅れが生じて冷却性能に影響していた。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明をnチャネル型のMOSFETを備えた半導体装置に具体化した実施例を
図1〜
図6に従って説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
(第1実施例)
図1に示すように、半導体装置100は、炭化ケイ素からなる基板の片面にドレイン電極11が設けられ、該ドレイン電極11の表面には、n型のドリフト層12が設けられている。ドリフト層12の表面には、チャネル領域形成層であるP型のボディ層13が設けられている。ボディ層13の表面の一部にN+型のソース層14が設けられている。ソース層14とボディ層13を貫いてドリフト層12に達するようにトレンチ15が複数設けられている。トレンチ15の内壁面には、後述する所定材料からなるゲート絶縁膜16が形成され、ゲート絶縁膜16の上からトレンチ15を埋めて、さらにトレンチ15の外部へ突出するように、後述する所定材料から形成されたゲート電極17が設けられている。すなわち、ゲート電極17の下部はトレンチ15内にゲート絶縁膜16を介して埋設されている。ゲート絶縁膜16のトレンチ15の開口側端部と、ソース層14の一部とを覆うように絶縁層18が設けられている。ボディ層13とソース層14の露出表面と、絶縁層18とを覆うようにソース電極19が設けられている。ソース電極19とドレイン電極11には、ソース端子Sとドレイン端子Dがそれぞれ接続されている。MOSFETとして高速スイッチングを行う半導体本体部20は、上述のドレイン電極11、ドリフト層12、ボディ層13、ソース層14、ゲート絶縁膜16、ゲート電極17、絶縁層18およびソース電極19を備えている。
【0026】
本実施例の場合、ソース電極19の表面には、トレンチ15の外部に突出しているゲート電極17の上部の端面が露出するように絶縁層21が設けられている。絶縁層21の表面には、ゲート電極17の露出端面と接続するゲート層22が設けられている。ゲート層22には、ゲート端子Gが接続されている。ゲート層22の表面には、絶縁性を有する伝熱層23が設けられている。伝熱層23の表面には、ペルチェ素子30が設けられている。
【0027】
ペルチェ素子30は、導電体からなる複数の吸熱面部31と、複数のP型およびN型半導体部32a、32bと、導電体からなる複数の放熱面部33を有している。吸熱面部31は、伝熱層23に接するように設けられ、放熱面部33は、半導体本体部20と反対側に設けられた後述する放熱層35に絶縁層34を介して接するように設けられている。そして、一対のP型およびN型半導体部32a、32bは、その一端が同一の吸熱面部31に接し、他端が隣接する異なる放熱面部33にそれぞれ接するように設けられており、これによって、複数のP型半導体部32aとN型半導体部32bが全体として直列に接続されている。この直列に接続された複数のP型およびN型半導体部32a、32bのうちの両端にあるP型半導体部32aとN型半導体部32bにそれぞれ接する放熱面部33は、外部直流電源Vの陽極と陰極に各々接続されている。外部直流電源Vは、外部からの制御信号に基づいて、ペルチェ素子30への電力供給のON/OFFを切換可能に構成されている。なお、P型およびN型半導体部32a、32bの個数や大きさは、半導体装置100のエネルギ損失から必要とされる単位面積当たりの吸熱能力に応じて決定すればよい。
【0028】
ペルチェ素子30の放熱面部33には、ペルチェ素子30の外部に熱を放出するための放熱層35が設けられている。放熱層35は、アルミ等の高熱伝導材で形成されており、半導体装置100の一部として半導体本体部20と一体的に形成されている。なお、放熱層35は、半導体装置100と別体で用意されたものを後で半導体装置100に接合してもよい。このような別体の放熱層35としては、周知の冷却手段を用いることができる。例えば、別体の空冷ファン等で冷却するためのヒートシンクや、その内部に、油、水、液体窒素等の冷媒が流れる流路を備え、該流路に別体のタンクに貯留された冷媒を別体のポンプにより供給する、または、流路を環状に設けてポンプにより循環させる冷却装置であってもよい。また、当該車両を構成する熱容量が比較的大きな部品を放熱層35として用いてもよい。
【0029】
なお、半導体装置100のOn抵抗は、ソース電極19からドレイン電極11までキャリアが移動する経路の抵抗の総和で決められる。特に、ドリフト層12の抵抗とボディ層13のチャネル抵抗がこれら電極間の抵抗の総和に占める比率が大きい。そのため、電極間に通電時にドリフト層12の抵抗とボディ層13のチャネル抵抗で発生するジュール熱が半導体装置100全体の発熱量に占める比率が大きい。
【0030】
ここで、従来の半導体装置は、ゲート絶縁膜とゲート電極として、下記の表1に示すような材料が主に用いられている。
【0032】
本実施例は、従来よりも熱伝導率が高い材料を用いてゲート絶縁膜16とゲート電極17を形成している。そして、ゲート絶縁膜16については、熱伝導率が高い材料のうち、バンドギャップがケイ素(Si 1.12eV)、炭化ケイ素(4H−SiC 3.06eV)等の半導体材料よりも十分に高く、従来よりも比誘電率が高くチャネル(反転層)の生じやすい材料が望ましい。なお、ゲート絶縁膜16は、耐圧の観点から数百nm以上が望ましい。
【0033】
具体的には、ゲート絶縁膜16は、例えば、アルミナまたはサファイア(Al
2O
3)、窒化ケイ素(Si
3N
4)、六方晶窒化硼素(h−BN)、ダイアモンド、窒化アルミニウム(AlN)等を用いて形成してもよい。また、ゲート電極17は、例えば、アルミニウム、銅、多結晶炭化ケイ素(Poly−SiC)等を用いて形成してもよい。例示した材料について、各材料特性(熱伝導率、バンドギャップ、比誘電率)を下記の表2に示す。なお、表2におけるマーク※を付した数値は、『化学便覧 応用化学編 第6版』丸善(2003年)に記載されたデータに基づく。
【0035】
次に、上述のように構成された半導体装置100の作用について、
図2を参照しながら説明する。
【0036】
ドレイン電極11の電位がソース電極19の電位より高く、ゲート電極17の電位がソース電極19の電位より高くなるようにゲート電圧を印加しゲート電圧が閾値電圧を超えると、
図2(破線の囲みを参照)に示すように、トレンチ15の側面を一部構成するボディ層13の内表面部に電子が流れるチャネル13a、13bが形成される。この電子は、ソース層14からチャネル13a、13bを介してドリフト層12およびドレイン電極11に流れ込み、半導体装置100がオン状態になる。半導体装置100がオン状態になると、ドリフト層12とチャネル13a、13bでジュール熱が多く発生する。
【0037】
ドリフト層12とチャネル13a、13bで発生した熱は、ゲート絶縁膜16とゲート電極17を介して上方のゲート層22および伝熱層23に伝えられる。そして、伝熱層23は、ダイヤモンドライクカーボン等の高熱伝導材料で形成されているので、ドリフト層12とチャネル13a、13bで発生した熱は、伝熱層23で均一化された状態で上方のペルチェ素子30の吸熱面部31に伝えられる。
【0038】
ここで、ペルチェ素子30に外部直流電源Vにより直流を流した場合、吸熱面部31に伝えられた熱は、ペルチェ効果によりP型およびN型半導体部32a、32bによって吸収されると共に、放熱面部33へ放熱される。放熱面部33へ放熱された熱は、これに接する放熱層35に伝えられて、放熱層35から半導体装置100の外部に放出される。
【0039】
一方で、ペルチェ素子30に外部直流電源Vにより直流を流すのを止めた場合、吸熱面部31に伝えられた熱は、ペルチェ効果が働かないので、P型およびN型半導体部32a、32bによって吸熱されない。したがって、ごく僅かな量の熱しかP型およびN型半導体部32a、32bを介して放熱面部33に伝えられない。
【0040】
(第2実施例)
図3に示すように、半導体装置200は、上述の第1実施例の半導体装置100と比較すると、MOSFETとしての半導体本体部20とペルチェ素子30の構成は共通するが、ゲート層22と伝熱層23が設けられていない点で異なる。なお、同様の構成や機能を有する部材については、同じ符号を付している。
【0041】
本実施例の場合、ソース電極19の表面には、トレンチ15の外部に突出しているゲート電極17の上部の端面が露出するように絶縁層21が設けられている。絶縁層21の表面とゲート電極17の露出端面は、同面になるように形成されており、これらの表面には、ペルチェ素子30が設けられている。ペルチェ素子30の各吸熱面部31は、各ゲート電極17の露出端面に接するように設けられている。
【0042】
この半導体装置200の場合も、第1実施例の半導体装置100と同様に、ドリフト層12とチャネル13a、13bでジュール熱が発生する。この第2実施例の場合、ドリフト層12とチャネル13a、13bで発生した熱は、ゲート電極17の端部からこれに接するペルチェ素子30の吸熱面部31に直接伝えられる。その後のペルチェ素子30による吸熱作用については、第1実施例の半導体装置100と同様である。
【0043】
次に、上述の実施例の半導体装置100(または200)を電気自動車に具体的に適用した場合について説明する。
【0044】
まず、本実施例の半導体装置が適用される電気自動車の構成について簡単に説明する。この電気自動車は、駆動輪を回転駆動するために電動モータを備えると共に、該電動モータにバッテリに蓄えられた電力を制御して供給するインバータを備えている。このインバータには、高速スイッチングのために半導体装置100が用いられている。また、この電動モータは、発電機としての機能も有するオルタネータであり、該オルタネータを介して減速時に発生する回生エネルギをバッテリに蓄電することができる。さらに、この電気自動車は、車両を統合的に制御する車両用コントローラを備えている。
【0045】
この車両用コントローラは、インバータ内のペルチェ素子30への外部直流電源Vによる電力供給のON/OFFを切り換え制御するためのペルチェ素子制御部を備えている。このペルチェ素子制御部は、温度センサから半導体本体部20の温度(以下、「パワー素子温度」という)を示す信号と、アクセルペダルの操作量センサからアクセルペダルの操作角度(以下、「アクセル角」という。)を示す信号と、ブレーキペダルの操作量センサからブレーキペダルの操作角度(以下、「ブレーキ角」という。)を示す信号と、車速センサから車速を示す信号と、電流センサから半導体装置100への入力電流(以下、「パワー素子電流」という)を示す信号と、がそれぞれ入力される。また、これらの入力信号に基づいて、ペルチェ素子制御部は、ペルチェ素子30の通電のON/OFF信号を外部直流電源Vに出力する。さらに、ペルチェ素子制御部は、ペルチェ素子30の通電時間を計測する内部タイマを備えている。
【0046】
このペルチェ素子制御部は、電気自動車の利用シーンに応じてペルチェ素子30への外部直流電源Vによる電力供給のON/OFFを切り換え制御する。ペルチェ素子30に通電されている間は、このペルチェ素子30によって発熱部である半導体本体部20が冷却されるので、半導体装置100全体が所望の温度以下に制御することができる。
【0047】
ここで、上述の電気自動車において、一時的に電動モータへの負荷が増大してインバータ内の半導体装置100に大電力が供給されることで半導体本体部20での発熱量が急増する利用シーン、例えば、段差の乗り越え時、高速走行開始時等におけるペルチェ素子30の制御方法について、
図3のフローチャートの各ステップに従って、
図5のタイムチャートを適宜参照しながら説明する。
【0048】
まず、電動モータを停止状態から作動させた時点(始動スイッチがON時)では、ペルチェ素子30への通電は行わない(ステップS1)。
【0049】
次に、パワー素子温度が所定温度よりも高いか否かを判定する(ステップS2)。
【0050】
このステップS2で、パワー素子温度が所定温度よりも高くない、すなわち、所定温度以下であると判定されると、次に、アクセル角が急変化である、すなわち、アクセル角の単位時間当たりの変化量が所定値よりも大きいか否かを判定する(ステップS3)。
【0051】
このステップS3で、アクセル角が急変化ではないと判定すると、次に、アクセル角が所定値以上であるか否かを判定する(ステップS4)。
【0052】
このステップS4で、アクセル角が所定値より小さいと判定すると、次に、パワー素子電流の増加率が所定値よりも大きいか否かを判定する(ステップS5)。
【0053】
このステップS5で、パワー素子電流の増加率が所定値以下であると判定すると、パワー素子電流が所定値よりも大きいか否かを判定する(ステップS6)。
【0054】
このステップS6で、パワー素子電流が所定値以下であると判定すると、ステップS1へ戻る。
【0055】
一方で、ステップS2〜S6において、いずれかの判定がYESになると、すなわち、パワー素子温度が所定温度よりも高い、アクセル角が急変化である、アクセル角が所定値以上である、パワー素子電流の増加率が所定値より大きい、または、パワー素子電流が所定値より大きいと判定されると、ペルチェ素子30への通電を開始(ON)し、内部タイマによってペルチェ素子30への通電時間を計測する(ステップS7)。例えば、
図6に示すように、時刻t1において自動車が段差を乗り越える際、ステップS3でアクセル角が急変化であると判定されると(図中矢印a参照)、ペルチェ素子30への通電が開始される。また、時刻t3において自動車が高速走行を開始し、ステップS4でアクセル角が所定値θ
ON以上であると判定されると(図中矢印c参照)、ペルチェ素子30への通電が開始される。
【0056】
次に、パワー素子温度が正常に戻った、すなわち、所定の正常温度以下であるか否かを判定する(ステップS8)。
【0057】
このステップS8で、パワー素子温度が正常に戻ったと判定すると、次に、アクセル角の急変化がなくなったか、すなわち、アクセル角の単位時間当たりの変化量が所定値以下であるか否かを判定する(ステップS9)。
【0058】
このステップS9で、アクセル角の急変化がなくなったと判定すると、次に、アクセル角が所定値以下か否かを判定する(ステップS10)。
【0059】
このステップS10で、アクセル角が所定値以下であると判定すると、次に、パワー素子電流の増加率が所定値よりも小さいか否かを判定する(ステップS11)。
【0060】
このステップS11で、パワー素子電流の増加率が所定値よりも小さいと判定すると、次に、パワー素子電流が所定値よりも小さいか否かを判定する(ステップS12)。
【0061】
このステップS12で、
図6(時刻t2における矢印bを参照)に示すように、パワー素子電流が所定値I
ONよりも小さいと判定すると、次に、ペルチェ素子30に通電開始してから所定時間Δt(数秒間)経過したか否かを判定する(ステップS13)。
【0062】
このステップS13で、ペルチェ素子30に通電開始してから所定時間Δt経過したと判定すると、ステップS1へ戻り、ペルチェ素子30への通電を遮断(OFF)する。一方で、ペルチェ素子30に通電開始してから所定時間Δt経過していないと判定すると、ステップS7へ戻り、ペルチェ素子30へ通電を継続(ON)する。
【0063】
一方で、ステップS8〜S12において、いずれかの判定がNOになると、すなわち、パワー素子温度が正常に戻っていない、アクセル角の急変化がある、アクセル角が所定値より大きい、パワー素子電流の増加率が所定値より大きい、または、パワー素子電流が所定値より大きいと、次に、ペルチェ素子30への通電開始から一定時間経過したか否かを判定する(ステップS14)。
【0064】
このステップS14で、ペルチェ素子30への通電開始から一定時間経過していないと判定すると、ステップS7に戻ってペルチェ素子30に通電を継続(ON)する。一方で、ペルチェ素子30への通電開始から一定時間経過したと判定すると、次に、フェールセーフ制御を実行する(ステップS15)。このフェールセーフ制御として、例えば、バッテリからインバータに流れる電流を制限することでパワー素子電流を制限して発熱を減少させてもよい。
【0065】
このステップS15を実行後、パワー素子温度が正常値に戻ったか否かを判定し(ステップS16)、正常値に戻っていないと判定すると、ステップS15へ戻り、フェールセーフ制御を実行する。一方で、正常値に戻ったと判定すると、ステップS1へ戻り、ペルチェ素子30への通電を遮断(OFF)する。
【0066】
なお、上述のフローは、電動モータの停止時(始動スイッチがOFF時)に実行を終了する。
【0067】
ここでさらに、上述の電気自動車において、一時的に電動モータによる発電量が増大してインバータ内の半導体装置100に大電力が供給されることで半導体本体部20での発熱量が急増する利用シーン、例えば、高速走行終了時および急回生時のペルチェ素子30の制御方法について、
図4のフローチャートの各ステップに従って、
図5のタイムチャートを適宜参照しながら説明する。
【0068】
まず、電動モータを停止状態から作動させた時点(始動スイッチがON時)では、ペルチェ素子30への通電は行わない(ステップS21)。
【0069】
次に、パワー素子温度が所定温度よりも高いか否かを判定する(ステップS22)。
【0070】
このステップS22で、パワー素子温度が所定温度よりも高くない、すなわち、所定温度以下であると判定されると、次に、ブレーキ角が急変化である、すなわち、ブレーキ角の単位時間当たりの変化量が所定値よりも大きいか否かを判定する(ステップS23)。
【0071】
このステップS23で、ブレーキ角が急変化ではないと判定すると、次に、車速が急変化である、すなわち、車両の加速度が所定値以上であるか否かを判定する(ステップS24)。
【0072】
このステップS24で、車速が急変化であると判定すると、次に、パワー素子電流の増加率が所定値よりも大きいか否かを判定する(ステップS25)。
【0073】
このステップS25で、パワー素子電流の増加率が所定値以下であると判定すると、パワー素子電流が所定値よりも大きいか否かを判定する(ステップS26)。
【0074】
このステップS26で、パワー素子電流が所定値以下であると判定すると、ステップS21へ戻る。
【0075】
一方で、ステップS22〜S26において、いずれかの判定がYESになると、すなわち、パワー素子温度が所定温度よりも高い、
図6(時刻t5における矢印eを参照)に示すように、ブレーキ角が急変化である、車速が急変化である、パワー素子電流の増加率が所定値より大きい、または、パワー素子電流が所定値より大きいと判定されると、ペルチェ素子30への通電を開始(ON)し、内部タイマによってペルチェ素子30への通電時間を計測する(ステップS27)。
【0076】
次に、パワー素子温度が正常に戻った、すなわち、所定の正常温度以下であるか否かを判定する(ステップS28)。
【0077】
このステップS28で、パワー素子温度が正常に戻ったと判定すると、次に、ブレーキ角の急変化がなくなったか、すなわち、ブレーキ角の単位時間当たりの変化量が所定値以下であるか否かを判定する(ステップS29)。
【0078】
このステップS29で、ブレーキ角の急変化がなくなったと判定すると、次に、車速の急変化が無くなったか否かを判定する(ステップS30)。
【0079】
このステップS30で、車速の急変化が無くなったと判定すると、次に、パワー素子電流の増加率が所定値よりも小さいか否かを判定する(ステップS31)。
【0080】
このステップS31で、パワー素子電流の増加率が所定値よりも小さいと判定すると、次に、パワー素子電流が所定値よりも小さいか否かを判定する(ステップS32)。
【0081】
このステップS32で、
図6(時刻t4の矢印d、時刻t6の矢印fを参照)に示すように、パワー素子電流(絶対値)が所定値I
ONよりも小さいと判定すると、次に、ペルチェ素子30に通電開始してから所定時間Δt(数秒間)経過したか否かを判定する(ステップS33)。
【0082】
このステップS33で、ペルチェ素子30に通電開始してから所定時間Δt経過したと判定すると、ステップS21へ戻り、ペルチェ素子30への通電を遮断(OFF)する。一方で、ペルチェ素子30に通電開始してから所定時間Δt経過していないと判定すると、ステップS27へ戻り、ペルチェ素子30へ通電を継続(ON)する。
【0083】
一方で、ステップS28〜S32において、いずれかの判定がNOになると、すなわち、パワー素子温度が正常に戻っていない、ブレーキ角の急変化がある、車速の急変化がある、パワー素子電流の増加率が所定値より大きい、または、パワー素子電流が所定値より大きいと、次に、ペルチェ素子への通電開始から一定時間経過したか否かを判定する(ステップS34)。
【0084】
このステップS34で、ペルチェ素子30への通電開始から一定時間経過していないと判定すると、ステップS27に戻ってペルチェ素子30に通電を継続(ON)する。一方で、ペルチェ素子30への通電開始から一定時間経過したと判定すると、次に、フェールセーフ制御を実行する(ステップS35)。このフェールセーフ制御として、例えば、電動モータからインバータに流れる電流を制限することでパワー素子電流を制限して発熱を減少させてもよい。
【0085】
このステップS35を実行後、パワー素子温度が正常値に戻ったか否かを判定し(ステップS36)、正常値に戻っていないと判定すると、ステップS35へ戻り、フェールセーフ制御を実行する。一方で、正常値に戻ったと判定すると、ステップS21へ戻り、ペルチェ素子30への通電を遮断(OFF)する。
【0086】
なお、上述のフローは、電動モータの停止時(始動スイッチがOFF時)に実行を終了する。
【0087】
以上により、これら実施例によれば、ゲート電極17の半導体本体部20の表面に露出する端部に接続され、半導体本体部20の内部で発生した熱をゲート電極17を介して吸熱するペルチェ素子30が設けられている。そのため、半導体本体部20の内部の発熱部、特に電流密度が高いゲート電極17の側壁部を直接冷却することができるので、この発熱部とゲート電極17の間で伝熱に時間的遅れが生じず、従来よりもさらに冷却性能を向上させることができる。また、ゲート電極17自体が伝熱部材を兼ねているので、別体の伝熱部材を設ける必要が無く、デバイスサイズが大きくなるおそれがない。さらに、新たに抵抗となる別体の伝熱部材を設ける必要が無いので、On抵抗は増加する懸念がない。したがって、デバイスサイズやOn抵抗を維持しながら冷却性能を向上させることができる。
【0088】
また、これら実施例によれば、P型及び/またはN型半導体部32a、32bで形成されたペルチェ素子30が設けられるので、このペルチェ素子30は、半導体装置100(200)の一部として半導体本体部20に対して積層して形成することができる。したがって、一体的に冷却機能が設けられた小型の半導体装置100(200)を実現することができる。
【0089】
また、第2実施例によれば、ゲート電極17を複数備え、各ゲート電極17の半導体本体部20の表面に露出する端部は、ペルチェ素子30の吸熱面部31に直接接続されている、すなわち、ゲート電極17とペルチェ素子30との間が離れていないので、この間で伝熱に時間的遅れが生じることがない。したがって、瞬間的に大電流が流れた際に急増する発熱を周囲の部材に影響する前に素早くペルチェ素子30まで伝熱して冷却することができる。
【0090】
また、第1実施例によれば、ゲート電極17を複数備え、各ゲート電極17の半導体本体部20の表面に露出する端部は、各ゲート電極17を介して伝わる熱を均一化して伝達する伝熱層23を介してペルチェ素子30の吸熱面部31に接続されているので、各ゲート電極17の端部から伝熱層23に伝えられた局所的な熱が伝熱層23を伝わる間に均熱化され、ペルチェ素子30の吸熱面部31には平均化された状態で熱が伝わる。したがって、伝熱層23を介さずにペルチェ素子30の吸熱面部31に局所的に熱が伝えられる場合に比べて、各ペルチェ素子30による伝達可能な熱量が多くなり、半導体装置200全体として冷却性能が向上する。また、各ゲート電極17を介して伝わる熱量に偏りがある場合にも、伝熱層23を介して各ペルチェ素子30まで熱が伝わることで各ペルチェ素子30に吸熱される熱量が平均化される。したがって、各ゲート電極17を伝わる熱量のうちで最大の熱量を吸熱可能な最大定格を有する、高価でサイズが大きなペルチェ素子30を選択しなくてもよい。さらに、各ゲート電極17の端部の直上に各ペルチェ素子30を必ずしも設けなくてよいので、ゲート電極17に対するペルチェ素子30の相対的な位置やペルチェ素子30を設ける個数を比較的自由に設定することができる。
【0091】
また、これら実施例によれば、ペルチェ素子30の放熱面部33に接続され、ペルチェ素子30の外部に熱を放出する放熱層35を備えるので、ペルチェ素子30からの自然放熱に比べて、さらに冷却性能を向上させることができる。
【0092】
なお、本発明は例示された実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良および設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【0093】
例えば、本実施例では、Nチャネル型のMOSFETで説明したが、Pチャネル型であってもよい。また、MOSFETに限らず、トレンチ構造を有するIGBTであってもよい。
【0094】
また、本実施例では、ペルチェ素子30を半導体本体部20と一体的に形成したが、別体の部材として予め用意して後に接合してもよい。また、ペルチェ素子30を用いてゲート電極17から吸熱したが、これに限るものではなく、例えば、液体窒素、油、水等の公知の冷媒を用いて伝熱層23または絶縁層21を直接冷却してもよい。また、ゲート電極17が半導体装置の外部まで延びたヒートシンク状の構成にして自然放熱または別体の空冷ファンを用いて強制空冷してもよい。
【0095】
また、本実施例として電気自動車のインバータに適用したパワー半導体装置について説明してきたが、モータ駆動が可能なハイブリッド車のインバータ、さらには、大電力の高速スイッチングが必要とされる電力制御装置一般において、同様に本発明を適用することができ、同様の作用効果が得られる。例えば、太陽光発電のDC/AC、風力発電のDC/DC等の急激な電流変動がある電力変換装置において、特に利用価値が高い。