特許第6237235号(P6237235)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237235
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】タイヤ用積層体
(51)【国際特許分類】
   B60C 5/14 20060101AFI20171120BHJP
   B32B 25/08 20060101ALI20171120BHJP
   C08L 61/06 20060101ALI20171120BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20171120BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B60C5/14 A
   B32B25/08
   C08L61/06
   C08K3/04
   C08L9/00
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-554130(P2013-554130)
(86)(22)【出願日】2013年6月25日
(86)【国際出願番号】JP2013067367
(87)【国際公開番号】WO2014007110
(87)【国際公開日】20140109
【審査請求日】2016年6月10日
(31)【優先権主張番号】特願2012-149918(P2012-149918)
(32)【優先日】2012年7月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100164563
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 貴英
(72)【発明者】
【氏名】柴田 寛和
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4858654(JP,B1)
【文献】 特開平11−240108(JP,A)
【文献】 特開2012−101612(JP,A)
【文献】 特開2010−162703(JP,A)
【文献】 特開昭62−62848(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0118465(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00−19/12
B32B 1/00−43/00
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルムとゴム組成物の層との積層体であって、前記フィルムの動歪0.1%条件での貯蔵弾性率が70℃で30MPa以上であり、前記フィルムの厚みが60μm以上であり、前記ゴム組成物の動歪0.1%条件での貯蔵弾性率が−20℃で400MPa未満であり、70℃で8.5MPa以上であり、前記ゴム組成物の厚みが150μm以上であり、そして前記フィルムと前記ゴム組成物との剥離強度が180度剥離試験で30N/inch以上であることを特徴とするタイヤ用積層体。
【請求項2】
ゴム組成物が、式(1):
【化1】
(式中、R1、R2、R3、R4およびR5は、水素、ヒドロキシル基または炭素原子数が1〜8個のアルキル基である。)
で表される化合物とホルムアルデヒドとの縮合物およびメチレンドナーを含み、ここで前記縮合物の配合量がゴム成分100重量部に対して0.5〜20重量部であり、前記メチレンドナーの配合量がゴム成分100重量部に対して0.25〜200重量部であり、前記メチレンドナーの配合量/前記縮合物の配合量の比が0.5〜10であることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用積層体。
【請求項3】
ゴム組成物が、ゴム成分100重量部に対して充填剤を30〜80重量部含み、ここで前記充填剤が、窒素吸着比表面積40m2/g以上のカーボンブラックであることを特徴とする請求項1又は2に記載のタイヤ用積層体。
【請求項4】
ゴム組成物が、ゴム成分100重量部に対してブタジエンゴムを10〜100重量部含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のタイヤ用積層体。
【請求項5】
熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルムとゴム組成物の層との積層体であって、前記ゴム組成物が、式(1):
【化2】
(式中、R1、R2、R3、R4およびR5は、水素、ヒドロキシル基または炭素原子数が1〜8個のアルキル基である。)
で表される化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、メチレンドナーおよび充填剤を含み、ここで前記縮合物の配合量がゴム成分100重量部に対して0.5〜20重量部であり、前記メチレンドナーの配合量がゴム成分100重量部に対して0.25〜200重量部であり、前記メチレンドナーの配合量/前記縮合物の配合量の比が0.5〜10であり、前記充填剤の配合量がゴム成分100重量部に対して30〜80重量部であり、ここで前記充填剤が、窒素吸着比表面積40m2/g以上のカーボンブラックであることを特徴とするタイヤ用積層体。
【請求項6】
ゴム組成物が、ゴム成分100重量部に対してブタジエンゴムを10〜100重量部含むことを特徴とする請求項5に記載のタイヤ用積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用積層体に関する。より詳しくは、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルムとゴム組成物の層とのタイヤ用積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート状物を空気入りタイヤのインナーライナーに使用するという提案がされ、検討されている(特許文献1)。この熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシート状物を、実際に空気入りタイヤのインナーライナーに使用するにあたっては、通常、熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物のシートと、該熱可塑性樹脂組成物のシートと加硫接着されるゴム(タイゴム)シートの積層体シートを、タイヤ成形ドラムに巻き付けてオーバーラップスプライスして加硫成形をするという製造手法がとられる。
【0003】
特許文献2には、空気入りタイヤのインナーライナー層として用いることのできるポリアミド系樹脂層とゴム層の積層体が開示され、ポリアミド系樹脂層とゴム層の接着性を改善するために、少なくともゴム層にN−アルコキシメチル尿素誘導体を含有させ、かつゴム層および/またはポリアミド系樹脂層にレゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物を含有させている。
【0004】
空気入りタイヤに用いることを教示していないが、特許文献3には、2層のポリアミド樹脂層の間に防振ゴム層が介在している積層体であって、上記防振ゴム層が、(A)ジエン系ゴムまたはメチレン基を有するゴム、(B)加硫剤、(C)レゾルシノール系化合物、(D)メラミン系樹脂を必須成分とするゴム組成物の加硫物からなり、ポリアミド樹脂層と化学的接着していることを特徴とする積層体が開示されている。
【0005】
空気入りタイヤに用いることを教示していないが、特許文献4には、(A)アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴムおよび水素添加アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴムの少なくとも一方、(B)過酸化物加硫剤、(C)レゾルシノール系化合物、(D)メラミン樹脂を用いて形成されたゴム層の外周面に、金属箔と樹脂フィルムとを積層してなる積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−241855号公報
【特許文献2】特開平9−239905号公報
【特許文献3】特開2003−97644号公報
【特許文献4】特開2004−42495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートと、該熱可塑性樹脂または該熱可塑性樹脂組成物と加硫接着するゴムを積層した積層体シートを所定長さで切断し、タイヤ成形ドラムに巻き付けて、該積層体シートの両端部をオーバーラップスプライスし、さらに加硫成形を経て、該積層体シートから形成されたインナーライナー層を有する空気入りタイヤにおいて、該タイヤの走行後、積層体シートのオーバーラップスプライス部にクラックが発生するという外観上の問題があった。
【0008】
したがって本発明の目的は、タイヤ走行後における該クラックの発生を抑制できるタイヤ用積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、該クラックがオーバーラップスプライス部における応力の集中により発生するとの考えの下に鋭意検討した結果、オーバーラップスプライス部に貯蔵弾性率の高いゴム組成物を配することでオーバーラップスプライス部における応力集中を緩和し、それによりクラックを抑制できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の[1]の構成を有する。
[1]熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルムとゴム組成物の層との積層体であって、前記フィルムの動歪0.1%条件での貯蔵弾性率が70℃で30MPa以上であり、前記フィルムの厚みが60μm以上であり、前記ゴム組成物の動歪0.1%条件での貯蔵弾性率が−20℃で400MPa未満であり、70℃で8.5MPa以上であり、前記ゴム組成物の厚みが150μm以上であり、そして前記フィルムと前記ゴム組成物との剥離強度が180度剥離試験で30N/inch以上であることを特徴とするタイヤ用積層体。
【0011】
また本発明は、好ましくは以下の[2]〜[4]の構成を有する。
[2]ゴム組成物が、式(1):
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、R1、R2、R3、R4およびR5は、水素、ヒドロキシル基または炭素原子数が1〜8個のアルキル基である。)
で表される化合物とホルムアルデヒドとの縮合物およびメチレンドナーを含み、ここで前記縮合物の配合量がゴム成分100重量部に対して0.5〜20重量部であり、前記メチレンドナーの配合量がゴム成分100重量部に対して0.25〜200重量部であり、前記メチレンドナーの配合量/前記縮合物の配合量の比が0.5〜10であることを特徴とする上記[1]に記載のタイヤ用積層体。
【0014】
[3]ゴム組成物が、ゴム成分100重量部に対して充填剤を30〜80重量部含み、ここで前記充填剤が、窒素吸着比表面積40m2/g以上のカーボンブラックであることを特徴とする上記[1]または[2]に記載のタイヤ用積層体。
【0015】
[4]ゴム組成物が、ゴム成分100重量部に対してブタジエンゴムを10〜100重量部含むことを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載のタイヤ用積層体。
【0016】
また本発明は、以下の[5]の構成を有する。
[5]熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルムとゴム組成物の層との積層体であって、前記ゴム組成物が、式(1):
【0017】
【化2】
【0018】
(式中、R1、R2、R3、R4およびR5は、水素、ヒドロキシル基または炭素原子数が1〜8個のアルキル基である。)
で表される化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、メチレンドナーおよび充填剤を含み、ここで前記縮合物の配合量がゴム成分100重量部に対して0.5〜20重量部であり、前記メチレンドナーの配合量がゴム成分100重量部に対して0.25〜200重量部であり、前記メチレンドナーの配合量/前記縮合物の配合量の比が0.5〜10であり、前記充填剤の配合量がゴム成分100重量部に対して30〜80重量部であり、ここで前記充填剤が、窒素吸着比表面積40m2/g以上のカーボンブラックであることを特徴とするタイヤ用積層体。
【0019】
また本発明は、好ましくは以下の[6]の構成を有する。
[6]ゴム組成物が、ゴム成分100重量部に対してブタジエンゴムを10〜100重量部含むことを特徴とする上記[5]に記載のタイヤ用積層体。
【発明の効果】
【0020】
本発明の積層体を空気入りタイヤのインナーライナーとして使用することにより、該タイヤの走行後において、該インナーライナーのオーバーラップスプライス部におけるクラック発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のタイヤ用積層体を構成するフィルムは、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなる。
【0022】
フィルムを構成する熱可塑性樹脂としては、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、イミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等を挙げることができる。ポリアミド系樹脂としては、ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66(N6/66)、ナイロン6/66/12(N6/66/12)、ナイロン6/66/610(N6/66/610)、ナイロンMXD6(MXD6)、ナイロン6T、ナイロン6/6T、ナイロン9T、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体等が挙げられる。ポリエステル系樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミド酸/ポリブチレートテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル等が挙げられる。ポリニトリル系樹脂としては、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体等が挙げられる。ポリメタクリレート系樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル等が挙げられる。ポリビニル系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体等が挙げられる。セルロース系樹脂としては、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース等が挙げられる。フッ素系樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)等が挙げられる。イミド系樹脂としては、芳香族ポリイミド(PI)等が挙げられる。ポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレン(PS)等が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。
なかでも、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66、ナイロンMXD6、ナイロン6Tが、耐疲労性と空気遮断性の両立という点で好ましい。
【0023】
熱可塑性樹脂には、加工性、分散性、耐熱性、酸化防止性などの改善のために、充填剤(炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナなど)、補強剤(カーボンブラック、ホワイトカーボンなど)、加工助剤、安定剤、酸化防止剤などの、樹脂組成物に一般的に配合される配合剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で配合してもよい。可塑剤は、空気遮断性および耐熱性の観点から配合しない方がよいが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば配合してもよい。
【0024】
フィルムを構成する熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性樹脂成分にエラストマー成分を分散させた組成物であり、熱可塑性樹脂成分がマトリックス相を構成し、エラストマー成分が分散相を構成しているものである。
【0025】
熱可塑性エラストマー組成物を構成する熱可塑性樹脂成分としては、前記の熱可塑性樹脂と同一のものが使用できる。
【0026】
熱可塑性エラストマー組成物を構成するエラストマー成分としては、ジエン系ゴムおよびその水添物、オレフィン系ゴム、含ハロゲンゴム、シリコーンゴム、含硫黄ゴム、フッ素ゴム等を挙げることができる。ジエン系ゴムおよびその水添物としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)(高シスBRおよび低シスBR)、アクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR等が挙げられる。オレフィン系ゴムとしては、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体(変性EEA)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー等が挙げられる。含ハロゲンゴムとしては、臭素化ブチルゴム(Br−IIR)や塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)等のハロゲン化ブチルゴム、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体(BIMS)、ハロゲン化イソブチレン−イソプレン共重合ゴム、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM)等が挙げられる。シリコーンゴムとしては、メチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム等が挙げられる。含硫黄ゴムとしては、ポリスルフィドゴム等が挙げられる。フッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコーン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム等が挙げられる。
なかでも、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体が、空気遮断性の観点から好ましい。
【0027】
エラストマー成分には、補強剤(カーボンブラック、シリカなど)、軟化剤、老化防止剤、加工助剤などの、ゴム組成物に一般的に配合される配合剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で配合してもよい。
【0028】
熱可塑性エラストマー組成物を構成するエラストマー成分と熱可塑性樹脂成分との組み合わせは、限定するものではないが、ハロゲン化ブチルゴムとポリアミド系樹脂、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合ゴムとポリアミド系樹脂、ブタジエンゴムとポリスチレン系樹脂、イソプレンゴムとポリスチレン系樹脂、水素添加ブタジエンゴムとポリスチレン系樹脂、エチレンプロピレンゴムとポリオレフィン系樹脂、エチレンプロピレンジエンゴムとポリオレフィン系樹脂、非結晶ブタジエンゴムとシンジオタクチックポリ(1,2−ポリブタジエン)、非結晶イソプレンゴムとトランスポリ(1,4−イソプレン)、フッ素ゴムとフッ素樹脂等が挙げられるが、空気遮断性に優れたブチルゴムとポリアミド系樹脂の組み合わせが好ましく、なかでも、変性ブチルゴムである臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合ゴムとナイロン6/66もしくはナイロン6またはナイロン6/66とナイロン6のブレンド樹脂との組み合わせが、耐疲労性と空気遮断性の両立という点で特に好ましい。
【0029】
熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分とを、たとえば2軸混練押出機等で溶融混練し、マトリックス相を形成する熱可塑性樹脂成分中にエラストマー成分を分散相として分散させることにより製造することができる。熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分の重量比率は、限定するものではないが、好ましくは10/90〜90/10であり、より好ましくは15/85〜90/10である。
【0030】
熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、各種添加剤を含むことができる。
【0031】
本発明のタイヤ用積層体を構成するフィルムの動歪0.1%条件での貯蔵弾性率は、70℃において30MPa以上であり、好ましくは30MPa〜400MPa、より好ましく30MPa〜300MPaである。貯蔵弾性率を30MPa未満とするためにはゴム配合量を増やしたりオイルを多量に配合する必要があり、材料のガスバリア性を大きく損なう。本発明におけるフィルムの貯蔵弾性率は、東洋精機製作所製の粘弾性スペクトロメータを使用して、静歪10%、動歪±0.1%、周波数20Hzの条件にて、温度を−100℃から開始して昇温速度2℃/秒にて70℃まで昇温して測定されるものである。
【0032】
該フィルムの厚みは60μm以上であり、好ましくは60〜500μm、より好ましくは90〜200μmである。厚みが薄すぎると所望のガスバリア性能が得られず、逆に厚すぎるとフィルムをタイヤ内面に保持する事が困難となる。
【0033】
本発明のタイヤ用積層体を構成するゴム組成物は、ゴム成分を含む。ゴム成分としては、ジエン系ゴムおよびその水添物、オレフィン系ゴム、含ハロゲンゴム、シリコーンゴム、含硫黄ゴム、フッ素ゴム等を挙げることができる。ジエン系ゴムおよびその水添物としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)(高シスBRおよび低シスBR)、アクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR等が挙げられる。オレフィン系ゴムとしては、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体(変性EEA)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー等が挙げられる。含ハロゲンゴムとしては、臭素化ブチルゴム(Br−IIR)や塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)等のハロゲン化ブチルゴム、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体(BIMS)、ハロゲン化イソブチレン−イソプレン共重合ゴム、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM)等が挙げられる。シリコーンゴムとしては、メチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム等が挙げられる。含硫黄ゴムとしては、ポリスルフィドゴム等が挙げられる。フッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコーン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム等が挙げられる。なかでも、隣接ゴム材料との共架橋性の観点から、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、含ハロゲンゴムが好ましい。ゴム成分は、2種以上のゴム成分の混合物であってもよい。
【0034】
ゴム成分は、より好ましくはジエン系ゴムを含む。ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。なかでも、隣接ゴム材料との共架橋性の観点から、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、それらの混合物が好ましい。
ゴム成分は、より好ましくは、ゴム成分100重量部に対してブタジエンゴムを10〜100重量部、さらに好ましくは40〜98重量部含む。ゴム成分がブタジエンゴム以外のゴム成分を含む場合は、ブタジエンゴム以外のゴム成分としては、天然ゴムまたはイソプレンゴムが好ましい。すなわち、ゴム成分は、ブタジエンゴムと天然ゴムの組み合わせまたはブタジエンゴムとイソプレンゴムの組み合わせからなるものが特に好ましい。
【0035】
ゴム組成物は、さらに、式(1)
【0036】
【化3】
【0037】
(式中、R1、R2、R3、R4およびR5は、水素、ヒドロキシル基または炭素原子数が1〜8個のアルキル基である。)
で表される化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、およびメチレンドナーを含むことが好ましい。この縮合物およびメチレンドナーを含むことにより、フィルムとゴム組成物の層との界面の接着強度をさらに向上させることができる。
【0038】
式(1)で表される化合物の1つの好ましい例は、R1、R2、R3、R4およびR5のうち少なくとも1つが炭素原子数が1〜8個のアルキル基で、残りが水素または炭素原子数が1〜8個のアルキル基であるものである。式(1)で表される化合物の好ましい具体例の1つはクレゾールである。
【0039】
式(1)で表される化合物のもう1つの好ましい例は、R1、R2、R3、R4およびR5のうち少なくとも1つが水酸基で、残りが水素または炭素原子数が1〜8個のアルキル基であるものである。式(1)で表される化合物の好ましい具体例のもう1つはレゾルシンである。
【0040】
式(1)で表される化合物とホルムアルデヒドとの縮合物としては、クレゾール・ホルムアルデヒド縮合体、レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合体等が挙げられる。また、これらの縮合物は、本発明の効果を損なわない範囲で変性されていてもよい。たとえば、エポキシ化合物で変性された変性レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合体も本発明に使用することができる。これらの縮合物は市販されており、本発明に市販品を使用することができる。
【0041】
式(1)で表される化合物とホルムアルデヒドとの縮合物は、好ましくは、式(2)または式(3)で表される化合物である。
【0042】
【化4】
【0043】
(式中、nは整数であり、好ましくは1〜5の整数である。)
【0044】
【化5】
【0045】
(式中、mは整数であり、好ましくは1〜3の整数である。)
【0046】
メチレンドナーとは、加熱等によりホルムアルデヒドを発生する塩基化合物をいい、たとえば、ヘキサメチレンテトラミン、ペンタメチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン、メチロールメラミン、エーテル化メチロールメラミン、変性エーテル化メチロールメラミン、エステル化メチロールメラミン、ヘキサメトキシメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサキス(エトキシメチル)メラミン、ヘキサキス(メトキシメチル)メラミン、N,N′,N″−トリメチル−N,N′,N″−トリメチロールメラミン、N,N′,N″−トリメチロールメラミン、N−メチロールメラミン、N,N′−ビス(メトキシメチル)メラミン、N,N′,N″−トリブチル−N,N′,N″−トリメチロールメラミン、パラホルムアルデヒド等が挙げられる。なかでも、ホルムアルデヒドの放出温度の観点から、変性エーテル化メチロールメラミンが好ましい。
【0047】
式(1)で表される化合物とホルムアルデヒドとの縮合物(以下、単に「縮合物」ともいう。)の配合量は、ゴム成分100重量部に対して0.5〜20重量部であり、好ましくは1〜10重量部である。縮合物の配合量が少なすぎると、良好な接着を得るのに必要な熱量、時間が増大するため加硫効率が悪化し、逆に多すぎると、得られるゴム組成物の加硫伸びが損なわれ、破断しやすくなる。
【0048】
メチレンドナーの配合量は、ゴム成分100重量部に対して0.25〜200重量部であり、好ましくは0.5〜80重量部、より好ましくは1〜40重量部である。メチレンドナーの配合量が少なすぎると、ゴム組成物系内における樹脂反応にドナーが消費されて界面反応での反応が進まなくなり接着が悪化する。逆に多すぎると、ゴム組成物系内での反応が促進されすぎたり、被着対象樹脂系内での架橋反応を誘発して接着が悪化する。
【0049】
メチレンドナーの配合量/縮合物の配合量の比は0.5〜10であり、好ましくは1〜4、より好ましくは1〜3である。この比が小さすぎると、ゴム組成物系内における樹脂反応にドナーが消費されて界面反応での反応が進まなくなり接着が悪化する。逆に大きすぎると、ゴム組成物系内での反応が促進されすぎたり、被着対象樹脂系内での架橋反応を誘発して接着が悪化する。
【0050】
本発明のタイヤ用積層体を構成するゴム組成物は、充填剤としてカーボンブラックを含んでもよい。該カーボンブラックは、ASTM D1765−96によるゴム用カーボンブラックの分類において、窒素吸着比表面積(N2SA)が40m2/g以上のものであり、好ましくは40〜150m2/gのもの、より好ましくは70〜130m2/gのものである。例えばFEF(N2SA:41m2/g)、HAF(N2SA:79m2/g)、ISAF(N2SA:115m2/g)が挙げられる。該カーボンブラックの配合量は、ゴム成分100重量部に対して30〜80重量部であり、好ましくは45〜65重量部である。
【0051】
ゴム組成物にはさらに、加硫剤、加硫促進助剤、加硫促進剤、スコーチ防止剤、老化防止剤、素練促進剤、有機改質剤、粘着付与剤など、一般にタイヤの製造において使用される各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0052】
本発明におけるゴム組成物の動歪0.1%条件での貯蔵弾性率は、−20℃において400MPa以下であり、好ましくは1MPa〜400MPa、より好ましくは10MPa〜300MPaである。−20℃における貯蔵弾性率が400MPaを超えると、タイヤの低温走行後において、該タイヤのタイヤ最内面層に配している熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂とエラストマーをブレンドした熱可塑性樹脂組成物からなるシートにクラックが発生する。
【0053】
また、本発明におけるゴム組成物の動歪0.1%条件での貯蔵弾性率は、70℃において8.5MPa以上であり、好ましくは8.5MPa〜50MPa、より好ましくは10MPa〜30MPaである。70℃における貯蔵弾性率が8.5MPa未満だと、タイヤの走行後において、該タイヤのインナーライナーのオーバーラップスプライス部におけるゴム層のクラック発生を抑制することができない。
【0054】
本発明におけるゴム組成物の貯蔵弾性率は、東洋精機製作所製の粘弾性スペクトロメータを使用して、静歪10%、動歪±0.1%、周波数20Hzの条件にて、温度を−100℃から開始して昇温速度2℃/秒にて70℃まで昇温して測定されるものである。
【0055】
ゴム組成物の層の厚みは150μm以上であり、好ましくは150〜5000μm、より好ましくは500〜1000μmである。ゴム層の厚みが薄すぎると所望のクラック抑制効果が得られず、逆に厚すぎるとタイヤの重量増を引き起こす。
【0056】
本発明におけるフィルムとゴム層との剥離強度は、180度剥離試験で30N/inch以上であり、好ましくは60 N/inch以上、より好ましくは100N/inch以上である(1 inch=2.54cm)。剥離強度が小さすぎるとインナーライナーのゴム層とオーバーラップスプライスシートの界面で剥離が生じやすくなる。本発明における剥離強度は、積層体の試料を、加硫後、幅25mmに切断し、その短冊状試験片の剥離強度をJIS−K6256に従って、剥離試験機(イマダ社製)により測定する。
【0057】
本発明の、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルムとゴム組成物の層との積層体であって、前記フィルムの動歪0.1%条件での貯蔵弾性率が70℃で30MPa以上であり、前記フィルムの厚みが60μm以上であり、前記ゴム組成物の動歪0.1%条件での貯蔵弾性率が−20℃で400MPa未満であり、70℃で8.5MPa以上であり、前記ゴム組成物の厚みが150μm以上であり、そして前記フィルムと前記ゴム組成物との剥離強度が180度剥離試験で30N/inch以上であることを特徴とするタイヤ用積層体は、例えば、ゴム組成物に高補強性の充填剤を配合したり、原料ゴムとしてあらかじめ高ビニルのブタジエンゴムなどの高硬度かつ高弾性率のゴム組成物が得られる原料を選択することで、該ゴム組成物の貯蔵弾性率をフィルムの貯蔵弾性率に近づけることによって製造することができる。上記充填剤としては、例えばASTM D1765−96によるゴム用カーボンブラックの分類において、窒素吸着比表面積(N2SA)が40m2/g以上のカーボンブラックを使用することができる。
【0058】
本発明の積層体は、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物のフィルムにゴム組成物を積層することによって製造することができる。限定するものではないが、具体的には次のようにして製造することができる。まず、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物を、インフレーション成形装置、Tダイ押出機等の成形装置でフィルム状に成形し、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物のフィルムを製造する。次に、ゴム組成物をTダイ押出機等で、前記フィルムの上に押出すと同時に積層して、積層体を製造する。
【0059】
本発明の積層体をインナーライナーとして使用する空気入りタイヤは、例えば次のようにして製造することができる。本発明の積層体のシートを所定長さへと切断し、該シートを成形用ドラムの上にオーバーラップスプライスして巻き付け、その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、成形後、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとし、次いでこのグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫し、タイヤを製造する。熱可塑性エラストマー組成物をフィルムとして用いた場合における本発明の積層体の所定長さへの切断は、該積層体中の熱可塑性樹脂の融点以上の温度での熱切断により行うことが好ましい。これにより、熱可塑性エラストマー組成物中の熱可塑性樹脂成分が溶融して流動し、切断面上に存在するエラストマー成分を被覆するため、フィルム層とゴム組成物層との間の加硫接着力の低下を防ぐことができる。
【実施例】
【0060】
(1)フィルムの製造
表1に示す配合比率で原料を配合して熱可塑性エラストマー組成物を調製し、該熱可塑性エラストマー組成物をインフレーション成形装置で成形し、厚さ100μmのフィルムを製造した。製造したフィルムをフィルムAという。
【0061】
【表1】
【0062】
宇部興産株式会社製ナイロン6/66「UBEナイロン5013B」をインフレーション成形装置で成形し、厚さ60μmのフィルムを製造した。製造したフィルムをフィルムBという。
【0063】
(2)ゴム組成物の製造
下記の原料を表2および表3に示す配合比率で配合し、9種類のゴム組成物を製造した。
スチレンブタジエンゴム: 日本ゼオン株式会社製「Nipol 1502」
ブタジエンゴム: 日本ゼオン株式会社製「Nipol BR1220」
天然ゴム: SIR−20
エポキシ化天然ゴム: Muang Mai Guthrie Public Company Limited社製「ENR−50」
カーボンブラック(GPF): 東海カーボン株式会社製「シーストV」
カーボンブラック(FEF): 新日鐵カーボン社製「HTC−100」
カーボンブラック(HAF): 昭和キャボット社製「ショウブラック N330T」
カーボンブラック(ISAF): 昭和キャボット社製「ショウブラックN220」
ステアリン酸: 工業用ステアリン酸
アロマオイル: 昭和シェル石油株式会社製「デソレックス3号」
酸化亜鉛: 正同化学工業株式会社製「亜鉛華3号」
変性レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合体: 田岡化学工業株式会社製「スミカノール620」
メチレンドナー: 変性エーテル化メチロールメラミン(田岡化学工業株式会社製「スミカノール507AP」)
硫黄: 5%油展処理硫黄
加硫促進剤: 大内新興化学工業(株)製社製「ノクセラーCZ−G」
【0064】
(3)積層体の製造
(1)で製造したフィルムAおよびフィルムBの上に、(2)で製造したゴム組成物をそれぞれ700μmの厚さで押出積層し、18種類の積層体を作製した。
【0065】
(4)空気入りタイヤの製造
(3)で製造した積層体のシートをインナーライナーとして使用した、215/70R15サイズのタイヤを以下の通り製造した。該積層体シートを、ヒートカッタ(電熱線カッタ(0.6mm径))を用いて所定長さに熱切断(切断温度300℃)した。切断された該シートを、成形用ドラムの上にオーバーラップスプライスして巻き付け、その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、成形後、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとし、次いでこのグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫し、タイヤを製造した。
【0066】
(5)評価
製造したフィルムおよびゴム組成物の貯蔵弾性率を評価した。また、製造した積層体について剥離強度を評価した。さらに、該積層体をインナーライナーとして使用して製造した空気入りタイヤを用いて、インナーライナー材として用いた積層体の剥離、フィルムの低温耐久性およびオーバーラップスプライス部の耐久性を評価した。評価結果を表2および3に示す。なお、各評価項目の評価方法は次のとおりである。
【0067】
[動的粘弾性の測定]
(1)および(2)で製造したフィルムおよびゴム組成物について、東洋精機製作所製の粘弾性スペクトロメータを使用して、静歪10%、動歪±0.1%、周波数20Hzの条件にて、温度を−100℃から開始して昇温速度2℃/秒にて70℃まで昇温し、−20℃および70℃における値を測定した。表2および3において、ゴム組成物の貯蔵弾性率を示す。
なお使用されたフィルムAおよびBの貯蔵弾性率は、70℃においてそれぞれ58.6MPa、257MPaであった。
【0068】
[剥離強度]
(3)で製造した積層体の試料を、加硫後、幅25mmに切断し、その短冊状試験片の剥離強度をJIS−K6256に従って、剥離試験機(イマダ社製)により180度剥離試験を行い、得られた値を剥離強度とした(単位:N/inch)。
【0069】
[接着評価]
(4)で製造した空気入りタイヤを、リム15×6JJ、内圧200kPaとして、排気量1800ccのFF乗用車に装着し、市街地を30,000km走行した。その後、タイヤをリムから外し内面観察を行い、インナーライナー材として用いた積層体の剥離故障の有無を確認した。剥離がなかった場合を○で、剥離があった場合を×で表す。
【0070】
[フィルムの低温耐久性評価]
(4)で製造した空気入りタイヤ(リム15×6JJ)を用いて、空気圧140kPa×荷重5.5kNの試験条件下に、−35℃で、1707mmφドラム上で、速度80km/hで10,000km走行させた後に、タイヤ内側のインナーライナー層のオーバーラップスプライス部にクラックが発生したか否かを目視観察した。クラックが認められなかった場合を○で、クラックが認められた場合を×で表す。
【0071】
[オーバーラップスプライス部の耐久性評価]
(4)で製造した空気入りタイヤ(リム15×6JJ)を用いて、空気圧140kPa×荷重5.5kNの試験条件下に、室温38℃で、1707mmφドラム上で、速度80km/hで10,000km走行させた後に、タイヤ内側のインナーライナー層のオーバーラップスプライス部のゴム層にクラックが発生したか否かを目視観察した。クラックが認められなかった場合を○で、クラックが認められた場合を×で表す。
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
比較例1は、ゴム組成物を構成するゴム成分としてスチレンブタジエンゴムおよび天然ゴムを使用し、充填剤としてカーボンブラック(GPF)を使用するものであって、変性レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合体およびメチレンドナーを使用しない従来技術に相当するものである。剥離強度が低く、インナーライナー材として用いた積層体の剥離があった。
【0075】
比較例2は、スチレンブタジエンゴムの代わりにエポキシ化天然ゴムを使用した他は比較例1と同様である。剥離強度が向上したため、インナーライナー材として用いた積層体の剥離はなかった。しかし、低温時における貯蔵弾性率が高すぎることに起因して、フィルムの低温耐久性試験においてインナーライナー層のオーバーラップスプライス部にクラックが発生した。また、オーバーラップスプライス部の耐久性試験においてもインナーライナー層のオーバーラップスプライス部のゴム層にクラックが発生した。
【0076】
比較例3は、変性レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合体およびメチレンドナーを使用した他は、比較例1と同様である。剥離強度がさらに向上し、インナーライナー材として用いた積層体の剥離はなかった。また、低温時における貯蔵弾性率がそれほど高くないことに起因して、フィルムの低温耐久性試験においてインナーライナー層のオーバーラップスプライス部にクラックは発生しなかった。しかし、高温時における貯蔵弾性率が低いことに起因して、オーバーラップスプライス部の耐久性試験においてインナーライナー層のオーバーラップスプライス部のゴム層にクラックが発生した。
【0077】
比較例4は、スチレンブタジエンゴムからブタジエンゴムへと変更した他は、比較例3と同様である。剥離強度がさらに向上し、インナーライナー材として用いた積層体の剥離はなかった。また、低温時における貯蔵弾性率がそれほど高くないことに起因して、フィルムの低温耐久性試験においてインナーライナー層のオーバーラップスプライス部にクラックは発生しなかった。しかし、高温時における貯蔵弾性率が低いことに起因して、オーバーラップスプライス部の耐久性試験においてインナーライナー層のオーバーラップスプライス部のゴム層にクラックが発生した。
【0078】
実施例1〜3は、カーボンブラックとしてそれぞれFEF、HAF、ISAFを用いた他は、比較例4と同様である。いずれの場合もインナーライナー材として用いた積層体の剥離はなかった。またフィルムの低温耐久性試験においてインナーライナー層のオーバーラップスプライス部にクラックは発生せず、オーバーラップスプライス部の耐久性試験においても、インナーライナー層のオーバーラップスプライス部のゴム層にクラックは発生しなかった。
【0079】
実施例4は、FEFの配合量を50重量部から60重量部へと変更した他は、実施例1と同様である。また実施例5は、ゴム成分として天然ゴムのみを使用した場合である。いずれの場合においても、インナーライナー材として用いた積層体の剥離はなかった。またフィルムの低温耐久性試験においてインナーライナー層のオーバーラップスプライス部にクラックは発生せず、オーバーラップスプライス部の耐久性試験においても、インナーライナー層のオーバーラップスプライス部のゴム層にクラックは発生しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の積層体は、空気入りタイヤのインナーライナー材として好適に利用することができる。