特許第6237268号(P6237268)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237268
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】リアクトル
(51)【国際特許分類】
   H01F 37/00 20060101AFI20171120BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20171120BHJP
   H01F 27/24 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   H01F37/00 A
   H01F37/00 M
   H01F27/24 D
   H01F27/24 H
   H01F27/24 K
   H01F27/24 J
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-13328(P2014-13328)
(22)【出願日】2014年1月28日
(65)【公開番号】特開2015-141975(P2015-141975A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】黒田 朋史
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 優
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀幸
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−013042(JP,A)
【文献】 特開2012−124493(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0200382(US,A1)
【文献】 特開2013−247265(JP,A)
【文献】 特開2009−071248(JP,A)
【文献】 特開2007−128951(JP,A)
【文献】 特開平09−153416(JP,A)
【文献】 実開昭56−024114(JP,U)
【文献】 国際公開第2012/147644(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0050001(US,A1)
【文献】 特開昭61−224305(JP,A)
【文献】 特開昭54−164249(JP,A)
【文献】 米国特許第04257025(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
H01F 27/24
H01F 27/255
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライトで構成された一対のヨーク部コアと、前記ヨーク部コアの対向する平面間に配置された巻回部コアと、前記巻回部コアの周囲に巻回されたコイルからなるリアクトルであって、
前記巻回部コアはコア断面積が略一定である軟磁性金属コアで構成され、
前記巻回部コアが前記ヨーク部コアと対向する間隙に板状の軟磁性金属圧粉コアで構成される接合部コアが配置され、
前記接合部コアが前記ヨーク部コアに対向する部分の面積を前記巻回部コアの断面積の1.3〜4.0倍とし、かつ、前記接合部コアの厚みが0.5mm以上2.0mm以下であることを特徴とするリアクトル。
【請求項2】
前記ヨーク部コアと前記接合部コアとが対向する間隙にギャップを設けたことを特徴とする請求項1に記載のリアクトル。
【請求項3】
前記巻回部コアと前記接合部コアとが対向する間隙にギャップを設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載のリアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電源回路や太陽光発電システムのパワーコンディショナなどに用いられるリアクトルに関し、特にインダクタンスの直流重畳特性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のリアクトル用の磁心材料としては、積層電磁鋼板や軟磁性金属圧粉コアが用いられている。積層電磁鋼板は飽和磁束密度が高いものの、電源回路の駆動周波数が10kHzを超えると鉄損が大きくなり、効率の低下を招くという問題があった。軟磁性金属圧粉コアは高周波の鉄損が積層電磁鋼板よりも小さいことから、駆動周波数の高周波化に伴い広く用いられるようになっているが、十分に低損失であるとは言い難く、また飽和磁束密度は電磁鋼板に及ばない、などの問題を有している。
【0003】
一方、高周波損鉄損の小さい磁心材料としてフェライトコアが広く知られている。しかし、積層電磁鋼板や軟磁性金属圧粉コアに比較して飽和磁束密度が低いことから、大電流を印加した際の磁気飽和を避けるために、コア断面積を大きく取る設計が必要となることから、形状が大きくなってしまうという問題があった。
【0004】
特許文献1では磁心材料として、コイル巻回部に軟磁性金属圧粉コアを、ヨーク部にフェライトコアを組み合わせた複合磁心を用いることにより、損失、サイズ、コア重量を低減したリアクトルが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−128951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フェライトコアと軟磁性金属コアを組み合わせた複合磁心とすることにより、高周波損失は低減する。しかし、軟磁性金属コアとして、飽和磁束密度の高いFe圧粉磁心やFeSi合金圧粉磁心を使用した場合、それらをフェライトコアと組み合わせて用いた複合磁心のインダクタンスの直流重畳特性は、軟磁性金属コアだけを用いた場合に比べて劣るという問題があった。特許文献1にも記載の通り、フェライトコアの飽和磁束密度は軟磁性金属コアよりも低いことから、フェライトコアのコア断面積を大きくすることで一定の改善効果は見られるが、根本的な解決は得られていない。
【0007】
図4図5は従来の形態の一例を示す。フェライトコアと軟磁性金属コアを組み合わせた複合磁心におけるインダクタンスの直流重畳特性の低下の原因の考察を図4図5を用いて説明する。図4図5はフェライトコア21と軟磁性金属コア22の接合部の構造と磁束23の流れを模式的に表したものである。
【0008】
図中の矢印は磁束23を表し、軟磁性金属コア22の磁束23がフェライトコア21の磁束23と等しい場合にはそれぞれのコアの中での矢印の数は同数で表される。単位面積あたりの磁束23が磁束密度であることから、矢印の間隔が狭いほど磁束密度が高いことを表す。
【0009】
フェライトコア21は軟磁性金属コア22に比べて飽和磁束密度が低いことから、フェライトコア中で大きな磁束を流すために、フェライトコア21の磁束方向に直交する断面積は軟磁性金属コア22の磁束方向に直交する断面積よりも大きく設定している。軟磁性金属コアの端部はフェライトコアと接合しており、軟磁性金属コア22とフェライトコア21の対向する部分の面積は、軟磁性金属コア22の断面積に等しい。
【0010】
図4はコイルに流れる電流が小さい場合、すなわち巻回部の軟磁性金属コアに励磁される磁束23が小さい場合を示している。軟磁性金属コア22の磁束密度がフェライトコア21の飽和磁束密度に比べて小さいため、軟磁性金属コア22から流出する磁束23がそのままフェライトコア21に流入することができ、磁束23の漏れはない。コイルに流れる電流が小さい場合には、インダクタンスの低下は小さく抑えられる。
【0011】
図5はコイルに流れる電流が大きい場合、すなわち巻回部コアに励磁される磁束が大きい場合を示している。軟磁性金属コア22の磁束密度がフェライトコア21の飽和磁束密度に比べて大きくなると、軟磁性金属コア22から流出する磁束23が接合部を介してそのままフェライトコア21に流入することができず、破線矢印で示すように周囲の空間を介して磁束23が流れることになる。すなわち比透磁率が1の空間を磁束23が流れるため、実効透磁率が低下し、インダクタンスが急激に低下してしまう。つまり、軟磁性金属コア22の磁束密度がフェライトコア21の飽和磁束密度に比べて大きくなるような大きな電流を重畳した場合には、インダクタンスが低下してしまうという問題がある。また、磁束23の漏れが発生するため、その磁束とコイルの鎖交によって銅損が増大するという問題もある。
【0012】
このように従来の技術では、フェライトコアと軟磁性金属コアの断面積だけを考慮していたため、接合部における磁気飽和の問題が見過ごされ、インダクタンスの直流重畳特性が不十分であった。
【0013】
本発明では、上記の問題を解決するために案出されたものであって、フェライトコアと軟磁性金属コアを組み合わせた複合磁心を用いたリアクトルにおいて、インダクタンスの直流重畳特性を改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のリアクトルは、フェライトで構成された一対のヨーク部コアと、前記ヨーク部コアの対向する平面間に配置された巻回部コアと、前記巻回部コアの周囲に巻回されたコイルからなるリアクトルであって、前記巻回部コアはコア断面積が略一定である軟磁性金属コアで構成され、前記巻回部コアが前記ヨーク部コアと対向する間隙に板状の軟磁性金属圧粉コアからなる接合部コアが配置され、前記接合部コアが前記ヨーク部コアと対向する部分の面積を前記巻回部コアの断面積の1.3〜4.0倍とする。こうすることにより、フェライトコアと軟磁性金属コアを組み合わせて用いる複合磁心のリアクトルにおいて、インダクタンスの直流重畳特性を改善することができる。
【0015】
また、本発明のリアクトルは、ヨーク部コアと接合部コアとが対向する間隙、あるいは、巻回部コアと接合部コアとが対向する間隙にギャップを設けることが好ましい。こうすることにより透磁率の調整ができ、リアクトルのインダクタンスを任意のインダクタンスに調整することが容易にできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フェライトコアと軟磁性金属コアを組み合わせて用いる複合磁心のリアクトルにおいて、インダクタンスの直流重畳特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1(a)(b)は、本発明の一実施形態に係るリアクトルの構造を示す断面図である。
図2図2(a)(b)は、本発明の別の実施形態に係るリアクトルの構造を示す断面図である。
図3図3(a)(b)は、従来例に係るリアクトルの構造を示す断面図である。
図4図4は、従来例に係るフェライトコアと軟磁性金属コアの接合部の構造と磁束の流れを模式的に表した図である。
図5図5は、従来例に係るフェライトコアと軟磁性金属コアの接合部の構造と磁束の流れを模式的に表した図である。
図6図6は、本発明の一実施形態に係るフェライトコアと軟磁性金属コアの接合部の構造と磁束の流れを模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、フェライトコアと軟磁性金属コアを組み合わせた複合磁心において、フェライトコアと軟磁性金属コアの間で磁束が流出あるいは流入する面におけるフェライトの磁気飽和を防止することで、直流電流重畳下でのインダクタンスを向上させることを可能にしたものである。本発明による、インダクタンスの直流重畳特性の改善効果について、図6を用いて説明する。
【0019】
図6は、フェライトコア21と軟磁性金属コア22との間に板状の軟磁性金属圧粉コアからなる接合部コア24が挿入されており、接合部コア24の磁束に直交する断面積は軟磁性金属コア22のコア断面積よりも大きいことが特徴である。
【0020】
断面積の大きな接合部コア24を挿入したことにより、軟磁性金属コア22の磁束密度に対して、接合部コア24の磁束密度を小さくすることができる。コイルに流れる電流が大きい場合であっても、接合部コア24で磁束密度を低減することにより、軟磁性金属コア22から流出する磁束23を、周囲に漏らすことなくフェライトコア21に流入させることができ、実効透磁率の低下を抑制することができる。その結果、直流重畳下でも高いインダクタンスを得ることが可能となる。
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0022】
図1は、リアクトル10の構造を示す図である。図1の(a)をA−A´で切った断面図を図1の(b)に示す。リアクトル10は2個の対向するヨーク部コア11とそのヨーク部コア11の間に配置された巻回部コア12と巻回部コア12に巻き回されたコイル13とを有し、さらにヨーク部コア11と巻回部コア12の間隙に接合部コア14が配置される。コイル13は巻回部コア12に直接巻回された形態であっても、ボビンに巻回された形態であってもよい。
【0023】
ヨーク部コア11にはフェライトコアを使用する。フェライトコアは、軟磁性金属コアに比べて、損失が非常に小さいが、飽和磁束密度が低い。ヨーク部コア11にはコイル13が巻回されないことから、幅や厚みを大きくしてもコイル13の寸法には影響がない。よってヨーク部コア11の断面積を大きくすることで、飽和磁束密度の低さを補うことができる。ヨーク部コア11の断面積は磁束の方向に対して直交する断面積であり、幅x厚さが断面積に相当する。フェライトコアは軟磁性金属コアに比べて成形が容易であることから、コア断面積の大きなコアも製造が容易である。フェライトコアはMnZn系フェライトを使用することが好ましい。MnZn系フェライトは他のフェライトに比べて損失が小さく、飽和磁束密度も高いため、コアの小型化に有利となる。
【0024】
巻回部コア12は軟磁性金属コアを使用する。軟磁性金属コアは、鉄圧粉コアやFeSi合金圧粉コア、積層電磁鋼板、アモルファスコアを使用することが好ましい。これらの軟磁性金属コアはフェライトコアに比べて飽和磁束密度が高いため、コア断面積を小さくすることができ、小型化に有利となる。巻回部コア12のコア断面積は磁束方向に略同一である。そうすることにより、巻回部コア12の均等な励磁が可能となる。磁束方向とはコイル13の作る磁界の方向と同義であり、コイル13の軸方向に相当する。
【0025】
接合部コア14は板状の軟磁性金属圧粉コアを使用する。接合部コア14は巻回部コア12と同種のコアである必要はない。軟磁性金属圧粉コアは鉄圧粉コアやFeSi合金圧粉コアを使用することが好ましい。鉄圧粉コアやFeSi合金圧粉コアは飽和磁束密度が高いことから、磁束の流れを改善する効果が十分に得られる。また、軟磁性金属圧粉コアは電気抵抗が比較的高いことから、板状のコアの面内に渦電流が流れにくいため、損失が増大することもない。特に、板状のコアを比較的低い圧力でも成形できることから、軟磁性金属圧粉コアは鉄圧粉コアを用いることが好ましい。
【0026】
接合部コア14の面積は、巻回部コア12のコア断面積の1.3〜4.0倍とする。接合部コア14の面積がこれより小さい場合には、巻回部コア12から流出する磁束の磁束密度を低減する効果が十分に得られず、直流電流重畳下でのインダクタンスが低下してしまう。接合部コア14の面積がこれより大きい場合には、対向するヨーク部コア11を大きくする必要があり、小型化の効果が得られなくなる。
【0027】
接合部コア14の厚みは0.5mm以上とするのが好ましい。接合部コア14の厚みが0.5mmより小さい場合には、巻回部コア12から流出する磁束の磁束密度を低減する効果が十分に得られず、直流電流重畳下でのインダクタンスが低下してしまう。接合部コア14の厚みが厚い場合にはインダクタンスの改善効果は十分に得られるが、厚くなりすぎると小型化の効果が小さくなる。また、板状の軟磁性金属圧粉コアの厚みが1.0mmよりも薄くなると、成形が難しく、取り扱い時の割れも発生しやすいことから、厚みは1.0〜2.0mm程度とするのが適当である。
【0028】
対向するヨーク部コア11の間に配置される巻回部コア12は少なくとも1組以上あればよい。小型化設計の観点から巻回部コア12は1組もしくは2組であることが好ましい。
【0029】
巻回部コア12の組数に応じて、ヨーク部コア11と巻回部コア12の対向する部分の数が変化するが、その全ての箇所において前述の接合部コア14を挿入した場合に、最もインダクタンスの改善効果が得られる。
【0030】
1組の巻回部コア12は1個の軟磁性金属コアで形成しても、2個以上に分割して形成してもよい。
【0031】
ヨーク部コア11と巻回部コア12で形成される磁気回路の途中に、透磁率調整のためのギャップ15を設けてもよい。ギャップ15の有無にかかわらず、本発明によるインダクタンスの改善効果は同様に得られ、ギャップ15を使用することでリアクトル10を任意のインダクタンスに設計するための自由度を増すことができる。ギャップ15を入れる位置は特に限定されないが、作業性の観点から、ヨーク部コア11と接合部コア14の間隙、もしくは、巻回部コア12と接合部コア14の間隙に挿入されるのが好ましい。ギャップ15は巻回部コアの透磁率よりも低い透磁率を有する材料で形成すればよく、樹脂材料やセラミクス材料などの非磁性かつ絶縁性材料などを用いるのが好適である。
【0032】
図2は、本発明の別の実施形態に係るリアクトルの構造を示す断面図である。図2の(a)をB−B´で切った断面図を図2の(b)に示す。ヨーク部コア11はコの字状のフェライトコアであり、背面部とその両端に脚部を備えている。巻回部コア12は軟磁性金属コアであり、図2のようにロの字状の磁気回路を形成するようにコの字状のヨーク部コア11を対向させ、ヨーク部コア11の中央部に、1組の巻回部コア12を配置し、ヨーク部コア11と巻回部コア12の対向する2箇所の間隙に接合部コア14を配置する。接合部コアの面積は巻回部コアのコア断面積の1.3〜4.0倍である。巻回部コア12に所定ターン数のコイル13を巻回してリアクトル10となる。図2の実施形態は、ヨーク部コア11の形状以外は図1の実施形態と大略同様である。
【0033】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0034】
<実施例1>
図1の形態において、接合部コア14の形状(面積と厚み)およびギャップ15の有無を変化させて特性を比較した。
【0035】
(実施例1−1〜1−5、比較例1−1〜1−2)
ヨーク部コアには直方体のMnZnフェライトコア(TDK製PE22材)を使用し、その寸法を長さ80mm、幅45mm、厚さ20mmとしたものを2個用意した。
【0036】
巻回部コアには鉄圧粉コアを使用した。鉄圧粉コアの寸法は高さ25mm、巻回部の直径が24mmとした。鉄粉はヘガネスAB社製Somaloy110iを使用し、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を塗布した金型に充填し、成形圧780MPaで加圧成形して、所定形状の成形体を得た。成形体を500℃でアニールを行い、鉄圧粉コアを得た。得られた2個の鉄圧粉コアを接着して1組の巻回部コアとしたものを2組用意した。
【0037】
接合部コアには板状の鉄圧粉コアを使用した。接合部コアは表1に示した形状(面積および厚み)とし、4枚の接合部コアを用意した。厚みに対して面積が大きなコアは、成形時の粉末充填が不均一となるため、実施例1−4と1−5については面積が半分のコアを2枚、接着剤で貼り合わせることにより表1の形状寸法に作製した。接合部コアに使用した鉄圧粉コアも形状以外は巻回部コアに使用した鉄圧粉コアと同様に作製した。
【0038】
2個の対向するヨーク部コアの間に、2組の巻回部コアを配置し、ヨーク部コアと巻回部コアが対向する4箇所の間隙に接合部コアを配置した。接合部コアの面積が巻回部コアのコア断面積よりも大きい場合には、巻回部コアの端部全体が接合部コアに対向するように接合部コアを配置した。接合部コアとヨーク部コアが対向する部分は、接合部コアの面積全体がヨーク部コアに対向するように、接合部コアを配置した。
【0039】
巻回部コアの巻回部に巻数44ターンのコイルを巻回してリアクトル(実施例1−1〜1−5、比較例1−1〜1−2)とした。
【0040】
(比較例1−3)
また、図3の形態において、ヨーク部コアと巻回部コアとの間隙に接合部コアを配置しない従来の構造での特性を評価した。なお、図3の(b)は、図3の(a)をC−C´で切った断面図である。ヨーク部コアと巻回部コアとの間隙に接合部コアを配置しないこと以外は比較例1−2と同じ形態でリアクトル(比較例1−3)を作製した。
【0041】
(比較例1−4)
図1の形態において、接合部コアとして積層電磁鋼板を使用した場合の特性を評価した。積層電磁鋼板は厚さ0.1mmの無方向性電磁鋼板を30mmx30mmの寸法に切断し、それを10枚積層することで1個の接合部コアとした。接合部コアの材質以外は実施例1−3と同じ形態でリアクトル(比較例1−4)を作製した。
【0042】
得られたリアクトル(実施例1−1〜1−5、比較例1−1〜1−4)について、インダクタンスと高周波鉄損の評価を行った。
【0043】
LCRメータ(アジレント・テクノロジー社製4284A)と直流バイアス電源(アジレント・テクノロジー社製42841A)を用いて、インダクタンスの直流重畳特性を測定した。必要に応じて直流電流を印加しない状態の初期インダクタンスが600μHとなるように、実施例1−2および1−4では、ヨーク部コアと接合部コアの間の4箇所にギャップ材を挿入した。ギャップ材は厚さ0.15mmのPETフィルムを一辺40mmの四角形に切断したものを用いた。直流重畳特性は定格電流20Aのときのインダクタンスを測定した。ギャップ材の厚みおよび、直流重畳特性を表1に示した。
【0044】
BHアナライザ(岩通計測社製SY−8258)を用いて、高周波の鉄損を測定した。コアロスの測定条件は、f=20kHz、Bm=50mTとした。励磁コイルは25ターン、サーチコイルは5ターンとして、片方の巻回部コアに巻回して測定を行った。鉄損の測定結果を表1に示した。
【0045】
【表1】
【0046】
表1から明らかなように、従来の構造の比較例1−3においては、直流重畳電流20Aにおけるインダクタンスが初期インダクタンス(600μH)よりも40%近く低下し、370μHの低いインダクタンスしか得られない。比較例1−1〜1−2においては接合部コアを配置しているが、接合部コアの面積が、巻回部コアのコア断面積の1.3倍よりも小さいため、直流重畳下(直流重畳電流20A)でのインダクタンスが低下し、初期インダクタンス(600μH)に対し30%以上低下している。実施例1−1〜1−5のリアクトルでは接合部コアを配置し、その接合部コアの面積が1.3〜4.0の範囲にあることから、直流重畳電流20Aにおけるインダクタンスの改善効果が十分であり、インダクタンス値は500μH以上得られ、初期インダクタンスの30%以内の低下に抑えられている。また、高周波鉄損の増大も見られないことも確認された。
【0047】
比較例1−4は接合部コアの材質が積層電磁鋼板の場合である。比較例1−4ではギャップを挿入していないにもかかわらず、初期インダクタンスが270μHしか得られず、設計値の600μHに到達していない。また、比較例1−4の高周波鉄損は、実施例1−3の高周波鉄損の約10倍に増大している。積層電磁鋼板で板状コアを作製することは比較的容易であるが、鋼板の面内方向では電気抵抗が低いという問題がある。高周波では磁束に垂直な面内に非常に大きな渦電流が流れるため、その渦電流によってインダクタンスが低下し、損失も増大する。これに対して実施例1−3は鉄圧粉コアで同形状の接合部コアとした場合であるが、直流重畳電流20Aにおけるインダクタンス値は500μH以上得られ、初期インダクタンスの30%以内の低下に抑えられており、高周波鉄損の増大も見られない。よって接合部コアには、電気抵抗が等方的に比較的高い軟磁性金属圧粉コアを用いることが必要である。
【0048】
実施例1−1は接合部コアの形状が円板の場合、実施例1−2〜1−5は接合部コアの形状が角板の場合である。いずれの場合においても直流重畳下のインダクタンスは500μH以上得られ、初期インダクタンス(600μH)の30%以内の低下に抑えられている。接合部コアの形状によらず、インダクタンスの改善効果が得られることが確認できる。
【0049】
実施例1−3および1−5は接合部コアの厚みが1.0mmの角板の場合、実施例1−2および1−4は接合部コアの厚みが2.0mmの角板の場合である。いずれの場合においても直流重畳下のインダクタンスは500μH以上得られ、初期インダクタンス(600μH)の30%以内の低下に抑えられている。接合部コアの厚みによらず、インダクタンスの改善効果が得られることが確認できる。
【0050】
実施例1−4の接合部コア(35mmx40mm)は、2枚の板状コア(35mmx20mm)を、接着剤で貼り合わせて構成したものである。このような場合でも直流重畳下のインダクタンスは500μH以上得られ、初期インダクタンス(600μH)の30%以内の低下に抑えられている。よって、接合部コアは小さな面積の板状コアを2枚以上貼り合わせて所定の面積の板状コアとしてもよい。
【0051】
実施例1−5の接合部コア(一辺40mm)をヨーク部コアに対向して配置した場合には、ヨーク部コアの長さが80mmであるため、2個の接合部コア同士が接触するような配置となる。このような場合でも直流重畳下のインダクタンスは500μH以上得られ、初期インダクタンス(600μH)の30%以内の低下に抑えられている。よって、接合部コア同士が接触するような配置であってもよい。
【0052】
なお、接合部コアの面積が巻回部コアのコア断面積の4.0倍を超える場合には接合部コアの面積が1810mmを超える。2個合わせると3620mmを超えるため、ヨーク部コアの底面積3600mm(=長さ80mm×幅45mm)よりも大きくなってしまうことから、ヨーク部コアを大きくしなければ組立できず、小型化の要求を満たしえなくなる。
【0053】
実施例1−2および1−4はヨーク部コアと接合部コアの間にギャップ(ギャップ量0.15mm)を挿入した場合、実施例1−3および1−5はギャップを挿入しない場合である。いずれの場合においてもインダクタンスは500μH以上得られ、初期インダクタンス(600μH)の30%以内の低下に抑えられている。よって、ヨーク部コアと接合部コアとの間隙にギャップを設けることで、インダクタンスの改善効果を損なうことなく、容易に初期インダクタンスを調整することができる。
【0054】
<実施例2>
図2の形態において、接合部コア14の有無による特性の比較を行った。
【0055】
(実施例2−1)
ヨーク部コア11はコの字状のMnZnフェライトコア(TDK製PC90材)であり、背面部は長さ80mm、幅60mm、厚さ10mmとし、脚部は長さ14mm、幅60mm、厚さ10mmとした。
【0056】
巻回部コアにはFeSi合金圧粉コアを使用した。FeSi合金粉の組成はFe−4.5%Siとし、水アトマイズ法にて合金粉を作製し、篩い分けによって粒子径を調整して、平均粒径を50μmとした。得られたFeSi合金粉にシリコーン樹脂を2質量%添加し、これを加圧ニーダーにて室温で30分間混合し、軟磁性粉末表面に樹脂をコーティングした。得られた混合物を目開き355μmのメッシュにて整粒し、顆粒を得た。潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を塗布した金型に充填し、成形圧980MPaで加圧成形して高さ24mm、直径24mmの成形体を得た。これを700℃、窒素雰囲気でアニールを行い、得られたFeSi合金圧粉コアを2個接着して1組の巻回部コアとした。
【0057】
接合部コアには鉄圧粉コアを使用した。形状は面積900mm(30mmx30mm)、厚さ1mmの角板とした。鉄圧粉コアの作製方法は実施例1と同様である。
【0058】
図2のようにロの字状の磁気回路を形成するように対向させたヨーク部コアの中央部に、1組の巻回部コアを配置し、ヨーク部コアと巻回部コアが対向する2箇所の間隙に接合部コアを配置した。巻回部コアの端部全体が接合部コアに対向するように接合部コアを配置した。接合部コアの面積全体がヨーク部コアに対向するように、接合部コアを配置した。巻回部コアに巻数38ターンのコイルを巻回してリアクトル(実施例2−1)とした。
【0059】
(比較例2−1)
接合部コアを配置しないこと以外は実施例2−1と同様の形態でリアクトル(比較例2−1)を作製した。
【0060】
得られたリアクトル(実施例2−1、比較例2−1)について、インダクタンスと高周波鉄損の評価を行った。
【0061】
実施例1と同様にインダクタンスの直流重畳特性を測定した。直流電流を印加しない状態の初期インダクタンスが570μHとなるように、実施例2−1の場合は接合部コアと巻回部コアの間の2箇所に、比較例2−1の場合はヨーク部コアと巻回部コアの間の2箇所に、ギャップ材を挿入した。ギャップ材は厚さ0.1mmのPETフィルムを重ねて用いた。ギャップ材を挿入するにあたっては、対向するフェライトコアの脚部の間隙がなくなるように、脚部の高さを研削で調整した。直流重畳特性は定格電流20Aのときのインダクタンスを測定し、表2に示した。
【0062】
実施例1と同様に高周波の鉄損を測定した。コアロスの測定条件は、f=20kHz、Bm=50mTとした。励磁コイルは25ターン、サーチコイルは5ターンとして、巻回部コアに巻回して測定を行った。鉄損の測定結果を表2に示した。
【0063】
【表2】
【0064】
表2から明らかなように比較例2−1のリアクトルでは直流重畳電流20Aにおけるインダクタンスが、初期インダクタンス(570μH)から50%以上低下し、280μHの低いインダクタンスしか得られていない。一方、実施例2−1のリアクトルでは直流重畳電流20Aにおけるインダクタンスが490μHとなり、初期インダクタンス(570μH)からの低下率は30%以内に抑えられている。また、高周波鉄損の増大も見られないことも確認された。
【0065】
面積比が同等となる(S2/S1=1.99)実施例1−3と実施例2−1を比較すると実施例2−1では高周波損失の低減が認められる。図2の形態のように、巻回部コアを1組で構成する場合には、複合磁心の磁路に占めるフェライトコアの割合が大きくなるため、フェライトの低損失を活かして損失を低減することが可能となる。
【0066】
実施例2−1は巻回部コアと接合部コアの間にギャップ(ギャップ量0.5mm)を挿入した場合である。直流電流重畳下のインダクタンスは、初期インダクタンス(600μH)の30%以内の低下に抑えられている。よって、巻回部コアと接合部コアとの間隙にギャップを設けることで、インダクタンスの改善効果を損なうことなく、容易に初期インダクタンスを調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上説明した通り、本発明のリアクトルは、損失を低減するとともに直流電流重畳下でも高いインダクタンスを有することから、高効率化および小型化を実現できるので、電源回路やパワーコンディショナなどの電気・磁気デバイス等に広く且つ有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0068】
10:リアクトル
11:ヨーク部コア
12:巻回部コア
13:コイル
14:接合部コア
15:ギャップ
21:フェライトコア
22:軟磁性金属コア
23:磁束
24:接合部コア
図1
図2
図3
図4
図5
図6