【実施例】
【0037】
<実施例1>
図1の形態において、巻回部コア12の巻回部121のコア断面積S1を一定とし、コア対向部122の面積S2を変化させて特性を比較した。
【0038】
(実施例1−1〜1−4、比較例1−1)
ヨーク部コアには直方体のMnZnフェライトコア(TDK製PE22材)を使用し、その寸法は長さ80mm、幅45mm、厚さ20mmとした。
【0039】
巻回部コアには鉄圧粉コアを使用した。鉄圧粉コアの寸法は高さ25mm、巻回部の直径が24mmとし、コア対向部の面積S2が表1の面積となるように、一方の端部の直径を増加させた。端部の直径増加部分の厚みは2mmとした。鉄粉はヘガネスAB社製Somaloy110iを使用し、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を塗布した金型に充填し、成形圧780MPaで加圧成形して、所定形状の成形体を得た。成形体を500℃でアニールを行い、鉄圧粉コアを得た。得られた2個の鉄圧粉コアのコイル巻回部を接着して1組の巻回部コアとした。
【0040】
2個の対向するヨーク部コアの間に、2組の巻回部コアを配置し、巻回部コアの巻回部に巻数44ターンのコイルを巻回してリアクトル(実施例1−1〜1−4、比較例1−1)とした。
【0041】
また、
図3の形態において、巻回部コアとヨーク部コアの接合部の断面積を考慮しない従来の構造での特性を評価した。なお、
図3(a)をC−C´で切った断面図を
図3(b)で示している。
【0042】
(比較例1−2)
ヨーク部コアには直方体のMnZnフェライトコア(TDK製PE22材)を使用し、その寸法は長さ80mm、幅45mm、厚さ20mmとした。
【0043】
巻回部コアには鉄圧粉コアを使用した。鉄圧粉コアの寸法は高さ25mm、直径が24mmとした。鉄粉はヘガネスAB社製Somaloy110を使用し、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を塗布した金型に充填し、成形圧780MPaで加圧成形して成形体を得た。成形体を500℃でアニールを行い、鉄圧粉コアを得た。得られた2個の鉄圧粉コアを接着して1組の巻回部コアとした。
【0044】
2個の対向するヨーク部コアの間に、2組の巻回部コアを配置し、巻回部コアの巻回部に巻数44tsのコイルを巻回してリアクトル(比較例1−2)とした。
【0045】
得られたリアクトル(実施例1−1〜1−4、比較例1−1〜1−2)について、インダクタンスと高周波鉄損の評価を行った。
【0046】
LCRメータ(アジレント・テクノロジー社製4284A)と直流バイアス電源(アジレント・テクノロジー社製42841A)を用いて、インダクタンスの直流重畳特性を測定した。作製した巻回部コアの透磁率にはばらつきがあったため、必要に応じて直流電流を印加しない状態の初期インダクタンスが600μHとなるように、ヨーク部コアと巻回部コアの間の4箇所にギャップ材を挿入した。ギャップ材には非磁性かつ絶縁性材料である樹脂フィルムとしてPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを用いた。直流重畳特性は定格電流20Aのときのインダクタンスを測定した。ギャップ材の厚みおよび、直流重畳特性を表1に示した。
【0047】
BHアナライザ(岩通計測社製SY−8258)を用いて、高周波の鉄損を測定した。コアロスの測定条件は、f=20kHz、Bm=50mTとした。励磁コイルは25ターン、サーチコイルは5ターンとして、片方の巻回部コアに巻回して測定を行った。鉄損の測定結果を表1に示した。
【0048】
【表1】
【0049】
表1から明らかなように、従来の構造の比較例1−2においては、直流重畳電流20Aにおけるインダクタンスが初期インダクタンス(600μH)よりも40%近く低下し、370μHの低いインダクタンスしか得られない。比較例1−1においては面積S2をコア断面積S1よりも大きくすることで、直流重畳下(直流重畳電流20A)でのインダクタンス値が410μHまで改善しているが、面積比S2/S1が1.3よりも小さいためにやはり初期インダクタンス(600μH)に対し30%以上低下している。実施例1−1〜1−4のリアクトルでは面積比S2/S1が1.3〜4.0の範囲にあることから、直流重畳電流20Aにおけるインダクタンスの改善効果が十分であり、インダクタンス値は500μH以上得られ、初期インダクタンスの30%以内の低下に抑えられている。また、高周波鉄損もほぼ同等であることも確認された。
【0050】
実施例1−1および1−4はヨーク部コアと巻回部コアの間にギャップ(ギャップ量0.30mm)を挿入した場合、実施例1−2および1−3はギャップを挿入しない場合である。いずれの場合においてもインダクタンスは500μH以上得られ、初期インダクタンス(600μH)の30%以内の低下に抑えられている。よって、ヨーク部コアと巻回部コアとの間隙にギャップを設けることで、インダクタンスの改善効果を損なうことなく、容易に初期インダクタンスを調整することができる。
【0051】
なお、面積比S2/S1が4.0を超える場合には巻回部コア端部の面積S2が1810mm
2を超える。2組では3620mm
2を超えるため、ヨーク部コアの底面積3600mm
2(=長さ80mm×幅45mm)よりも大きくなってしまうことから、ヨーク部コアを大きくしなければ組立できず、小型化の要求を満たしえなくなる。
【0052】
<実施例2>
図1の形態において、巻回部コア12の巻回部121のコア断面積S1を一定とし、コア対向部122の面積S2を変化させて特性を比較した。
【0053】
(実施例2−1〜2−4、比較例2−1)
ヨーク部コアには直方体のMnZnフェライトコア(TDK製PE22材)を使用し、その寸法は長さ88mm、幅48mm、厚さ20mmとした。
【0054】
巻回部コアにはFeSi合金圧粉コアを使用した。FeSi合金圧粉コアは寸法を高さ24mm、巻回部の直径が26mmとしたものを3個用意し、うち2個はコア対向部の面積S2が表2の面積となるように、一方の端部の直径を増加させた。端部の直径増加部分の厚みは2mmとした。FeSi合金粉の組成はFe−4.5%Siとし、水アトマイズ法にて合金粉を作製し、篩い分けによって粒子径を調整して、平均粒径を50μmとした。得られたFeSi合金粉にシリコーン樹脂を2質量%添加し、これを加圧ニーダーにて室温で30分間混合し、軟磁性粉末表面に樹脂をコーティングした。得られた混合物を目開き355μmのメッシュにて整粒し、顆粒を得た。潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を塗布した金型に充填し、成形圧980MPaで加圧成形して直径26mm、高さ24mmの成形体を得た。これを700℃、窒素雰囲気でアニールを行い、得られた3個のFeSi合金圧粉コアのコイル巻回部を接着して1組の巻回部コアとした。
【0055】
2個の対向するヨーク部コアの間に、2組の巻回部コアを配置し、巻回部コアの巻回部に巻数50ターンのコイルを巻回してリアクトル(実施例2−1〜2−4、比較例2−1)とした。
【0056】
また、
図3の形態において、巻回部コアとヨーク部コアの接合部の断面積を考慮しない従来の構造での特性を評価した。
【0057】
(比較例2−2)
ヨーク部コアには直方体のMnZnフェライトコア(TDK製PE22材)を使用し、その寸法は長さ88mm、幅48mm、厚さ20mmとした。
【0058】
巻回部コアにはFeSi合金圧粉コアを使用した。FeSi合金圧粉コアの寸法は直径26mm、高さ24mmとした。実施例2−1〜2−4と同様にして得られた、3個のFeSi合金圧粉コアを接着して1組の巻回部コアとした。
【0059】
2個の対向するヨーク部コアの間に、2組の巻回部コアを配置し、巻回部コアの巻回部に巻数50ターンのコイルを巻回してリアクトル(比較例2−2)とした。
【0060】
得られたリアクトル(実施例2−1〜2−4、比較例2−1〜2−2)について、インダクタンスと高周波鉄損の評価を行った。
【0061】
実施例1と同様に、インダクタンスの直流重畳特性を測定した。作製した巻回部コアの透磁率によるインダクタンスの増減を調整するため、直流電流を印加しない状態の初期インダクタンスが700μHとなるように、ヨーク部コアと巻回部コアの間の4箇所にギャップ材を挿入した。直流重畳特性は定格電流26Aのときのインダクタンスを測定した。ギャップ材の厚みおよび、直流重畳特性を表2に示した。
【0062】
実施例1と同様に、高周波の鉄損を測定した。コアロスの測定条件は、f=20kHz、Bm=50mTとした。励磁コイルは25ターン、サーチコイルは5ターンとして、片方の巻回部コアに巻回して測定を行った。鉄損の測定結果を表2に示した。
【0063】
【表2】
【0064】
表2から明らかなように、従来の構造の比較例2−2においては、直流重畳電流26Aにおけるインダクタンスが初期インダクタンス(700μH)から40%以上も低下し、400μHの低いインダクタンスしか得られていない。比較例2−1においては面積S2をコア断面積S1よりも大きくすることで、直流重畳下でのインダクタンスが430μHまで改善しているが、面積比S2/S1が1.3よりも小さいため、初期インダクタンス(700μH)よりも30%以上低下している。実施例2−1〜2−4のリアクトルでは直流重畳電流26Aにおけるインダクタンスが525μH以上得られ、初期インダクタンス(700μH)からの低下率は30%以内に抑えられている。また、高周波鉄損もほぼ同等であることも確認された。コアの寸法やコイルの巻数を変えてもインダクタンスの直流重畳特性の改善効果が得られる。
【0065】
なお、面積比S2/S1が4.0を超える場合には巻回部コア端部の面積S2が2120mm
2を超える。2組では4240mm
2を超えるため、ヨーク部コアの底面積4224mm
2(=長さ88mm×幅48mm)よりも大きくなってしまうことから、ヨーク部コアを大きくしなければ組立できず、小型化の要求を満たしえなくなる。
【0066】
<実施例3>
図2の形態において、巻回部コア12の巻回部121のコア断面積S1を一定とし、コア対向部122の面積S2を変化させて特性を比較した。
【0067】
(実施例3−1)
ヨーク部コア11はコの字状のMnZnフェライトコア(TDK製PC90材)であり、背面部は長さ80mm、幅60mm、厚さ10mmとし、脚部は長さ14mm、幅60mm、厚さ10mmとした。
【0068】
巻回部コアにはFeSi合金圧粉コアを使用した。FeSi合金粉の組成はFe−4.5%Siとし、水アトマイズ法にて合金粉を作製し、篩い分けによって粒子径を調整して、平均粒径を50μmとした。得られたFeSi合金粉にシリコーン樹脂を2質量%添加し、これを加圧ニーダーにて室温で30分間混合し、軟磁性粉末表面に樹脂をコーティングした。得られた混合物を目開き355μmのメッシュにて整粒し、顆粒を得た。潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を塗布した金型に充填し、成形圧980MPaで加圧成形して直径30mm、高さ28mmの成形体を得た。得られた成形体について、両端部の直径は30mmとしたまま、コイル巻回部に相当する部分を切削して巻回部の直径が24mmとなるように加工した。これを700℃、窒素雰囲気でアニールを行い、得られたFeSi合金圧粉コアを巻回部コアとした。
【0069】
図2のようにロの字状の磁気回路を形成するように対向させたヨーク部コアの中央部に、1組の巻回部コアを配置し、巻回部コアの巻回部に巻数38ターンのコイルを巻回してリアクトル(実施例3−1)とした。
【0070】
(比較例3−1)
ヨーク部コア11はコの字状のMnZnフェライトコア(TDK製PC90材)であり、背面部は長さ60mm、幅60mm、厚さ10mmとし、脚部は長さ14mm、幅60mm、厚さ10mmとした。
【0071】
巻回部コアにはFeSi合金圧粉コアを使用した。FeSi合金圧粉コアの寸法は高さ24mm、巻回部の直径が24mmとした。コア形状以外は、実施例3−1と同様にして得られたFeSi合金圧粉コアを巻回部コアとした。
【0072】
図2のようにロの字状の磁気回路を形成するように対向させたヨーク部コアの中央部に、1組の巻回部コアを配置し、巻回部コアに巻数38ターンのコイルを巻回してリアクトル(比較例3−1)とした。
【0073】
得られたリアクトル(実施例3−1、比較例3−1)について、インダクタンスと高周波鉄損の評価を行った。
【0074】
実施例1と同様にインダクタンスの直流重畳特性を測定した。直流電流を印加しない状態の初期インダクタンスが570μHとなるように、ヨーク部コアと巻回部コアの間の2箇所に厚さ0.5mmのギャップ材を挿入した。ギャップ材を挿入するにあたっては、対向するフェライトコアの脚部の間隙がなくなるように、脚部の高さを研削で調整した。直流重畳特性は定格電流20Aのときのインダクタンスを測定し、表3に示した。
【0075】
実施例1と同様に高周波鉄損を測定した。コアロスの測定条件は、f=20kHz、Bm=50mTとした。励磁コイルは25ターン、サーチコイルは5ターンとして、巻回部コアに巻回して測定を行った。鉄損の測定結果を表3に示した。
【0076】
【表3】
【0077】
表3から明らかなように比較例3−1のリアクトルでは直流重畳電流20Aにおけるインダクタンスが、初期インダクタンス(570μH)から50%以上低下し、280μHの低いインダクタンスしか得られていない。一方、実施例3−1のリアクトルでは直流重畳電流20Aにおけるインダクタンスが500μHとなり、初期インダクタンス(570μH)からの低下率は30%以内に抑えられている。また、高周波鉄損もほぼ同等であることも確認された。
【0078】
実施例2−1と実施例3−1を比較すると高周波鉄損の低減が認められる。
図2の形態のように、巻回部コアを1組で構成する場合には、複合磁心の磁路に占めるフェライトコアの割合が大きくなるため、フェライトの低損失を活かして損失を低減することが可能となる。
【0079】
実施例1−1〜1−4は1組の巻回部コアを2個の軟磁性金属コアに分割して構成している。実施例2−1〜2−4は1組の巻回部コアを3個の軟磁性金属コアに分割して構成している。実施例3−1は1組の巻回部コアを1個の軟磁性金属コアで構成している。いずれの場合もインダクタンスの直流重畳特性の改善効果は同様に認められるが、実施例3−1の形態ではコアの切削加工が必要となるため、実施例1−1〜1−4あるいは実施例2−1〜2−4に示したように2個以上の軟磁性金属コアを接着して構成する方がより簡便である。