特許第6237277号(P6237277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6237277
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】肌焼鋼及びこれを用いた浸炭部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20171120BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   C22C38/00 301N
   C22C38/60
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-16210(P2014-16210)
(22)【出願日】2014年1月30日
(65)【公開番号】特開2015-140482(P2015-140482A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】中山 恭平
(72)【発明者】
【氏名】森田 敏之
(72)【発明者】
【氏名】井上 圭介
【審査官】 蛭田 敦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−080882(JP,A)
【文献】 特開2010−229508(JP,A)
【文献】 特開2010−007120(JP,A)
【文献】 特開2007−031787(JP,A)
【文献】 特開2006−274373(JP,A)
【文献】 特開平11−071613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 〜 38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で
C:O.1O〜O.30%
Si:0.O1〜1.50%
Mn:O.40〜1.50%
S:O.01〜O.1O%
P:O.03%以下
Cu:0.05〜1.00%
Ni:O.05〜1.00%
Cr:1.12〜2.00%
Mo:O.01〜0.50%
Nb:0.OO1%以下
s-Al:O.O05〜O.050%
N:O.005〜O.030%
Ti:O.001〜O.150%
Zr:O.000〜O.300%
残部Fe及び不可避的不純物の組成を有し、
且つTi,Zr,Nの含有量[Ti],[Zr],[N]が以下の式(2)を満たし、
|[Ti]/47.9+[Zr]/91.2−[N]/14|/100≦3.5×10-6モル/g・・・式(2)
下記冷間鍛造試験により求めた最大変形抵抗(σMAX(MPa))とジョミニー焼入試験により求めたDI値との関係が以下の式(1)
σMAX<12.8×DI+745・・・式(1)
を満たす冷間鍛造性及び焼入性に優れた肌焼鋼。
(冷間鍛造試験)
球状化焼鈍後の材料から切り出したφ15×22.5mmの試験片を、端面拘束状態且つ圧縮率70%で、冷間で圧縮変形させたときの最大変形抵抗を測定する。
【請求項2】
質量%で
C:O.1O〜O.30%
Si:O.01〜1.50%
Mn:O.40〜1.50%
S:O.O1〜O.lO%
P:O.03%以下
Cu:0.05〜1.00%
Ni:O.05〜1.00%
Cr:0.98〜2.00%
Mo:O.01〜O.50%
Nb:O.OO1%以下
s-A1:O.001〜O.008%
N:O.005〜O.030%
Ti:<0.OO1%
Zr:<0.001%
残部Fe及び不可避的不純物の組成を有し、
下記冷間鍛造試験により求めた最大変形抵抗(σMAX(MPa))とジョミニー焼入試験により求めたDI値との関係が以下の式(1)
σMAX<12.8×DI+745・・・式(1)
を満たす冷間鍛造性及び焼入性に優れた肌焼鋼。
(冷間鍛造試験)
球状化焼鈍後の材料から切り出したφ15×22.5mmの試験片を、端面拘束状態且つ圧縮率70%で、冷間で圧縮変形させたときの最大変形抵抗を測定する。
【請求項3】
量%で
B:O.001〜O.O1O%
を更に含有していることを特徴とする請求項1,2の何れかに記載の肌焼鋼。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の肌焼鋼を用いて冷間鍛造にて部品形状に加工した上で浸炭焼入れを施して得た部品であって、
浸炭焼入後における旧オーステナイト粒の粒界面積1mm2当りのTiC,AlN,ZrCの析出物粒子量が4.5×10-10モル以下であることを特徴とする浸炭部品。
【請求項5】
前記浸炭焼入れが、ガス焼入れを用いた浸炭焼入れであることを特徴とする請求項に記載の浸炭部品。
【請求項6】
前記浸炭焼入後における組織が、JIS G 0551に規定される前記旧オーステナイト粒の平均結晶粒度が6番以下の組織であることを特徴とする請求項4,5の何れかに記載の浸炭部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は冷間鍛造性及び焼入性に優れた肌焼鋼及びこれを用いた浸炭部品に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材を歯車その他の部品形状に加工する手段の1つとして、高温下で鋼材を鍛造する熱間鍛造が広く行われている。
しかし熱間鍛造では被鍛材を高温に加熱しなければならないとともに、金型もまた加熱が必要であることから熱エネルギーを多く消費し、また加工の工数も多くなって所要コストが高くなってしまう問題がある。
そこで加工手段として、熱間鍛造を冷間鍛造に置き換えることが進められている。冷間鍛造では加熱が不要であり、加工の工数も少なくなって所要コストを低減することができる。
【0003】
しかしながら冷間鍛造では熱間鍛造と比較して被鍛材の変形抵抗が大きくなるため、金型の摩耗や割れが大きな問題となる。
この問題を解決するため、従来にあっては合金元素の添加を抑制することで素材(鋼材)の硬さを低下させ、鍛造加工する際の変形抵抗を小さくする等の対策が取られてきた。
しかしながら合金元素の添加を減らすことで硬さ,変形抵抗を小さくすることは、部品の強度を低下させてしまうことに繋がる。
【0004】
ところで、例えば歯車は、通常切削や鍛造等にて部品形状に成形した後、耐摩耗性,疲労強度を向上させるべく浸炭焼入れを施し、表面硬化処理して使用している。
従来、浸炭の際の焼入れとして油焼入れが主流であったが、近年、小型の浸炭炉においてガス冷却による焼入れが行われることもある。ガス冷却による焼入れは、従来の油焼入れよりも焼入時の歪みが小さい利点がある。
しかしながら、ガス冷却は油冷却よりも冷却速度が遅いため、強度を確保できる硬さを得るためには多量の合金元素を添加しなければならない。焼入性を向上させるために多量の合金元素を添加すれば鋼材の硬さも高くなり、先に述べた冷間鍛造性が悪化してしまう。
即ち冷間鍛造性と焼入性とは、従来トレードオフの関係にあり、両特性をともに両立させることに技術的な困難があった。
【0005】
尚、下記特許文献1には「冷間加工性と浸炭時の粗大粒防止特性に優れた肌焼用鋼材およびその製造方法」についての発明が示され、そこにおいて冷間加工性を確保するためCrを1.25%以下としてB添加で焼入性を確保し、また結晶粒の異常粒成長を抑制することを狙いとして、直径0.2μm以下のTiC,NbC析出物粒子を10個/μm以上とするようにTiやNbの析出物粒子量を規定する点が開示されている。
この特許文献1に記載のものでは、TiCを析出するためにTiを多く添加しており(Ti-Nバランスは本発明とは異なったものとなっている)、また本発明では不純物成分の扱いとなるNbを添加したものがあり、本発明とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−183064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上のような事情を背景とし、冷間鍛造性に優れ、またガス焼入れ(ガス冷却)による浸炭焼入れを可能とする上で必要な焼入性も改善できる肌焼鋼及びこれを用いた浸炭部品を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
而して請求項1は肌焼鋼に関するもので、質量%でC:O.1O〜O.30%,Si:0.O1〜1.50%,Mn:O.40〜1.50%,S:O.01〜O.1O%,P:O.03%以下,Cu:0.05〜1.00%,Ni:O.05〜1.00%,Cr:1.12〜2.00%,Mo:O.01〜0.50%,Nb:0.OO1%以下,s-Al:O.O05〜O.050%,N:O.005〜O.030%,Ti:O.001〜O.150%,Zr:O.000〜O.300%,残部Fe及び不可避的不純物の組成を有し、且つTi,Zr,Nの含有量[Ti],[Zr],[N]が以下の式(2)を満たし、
|[Ti]/47.9+[Zr]/91.2−[N]/14|/100≦3.5×10-6モル/g・・・式(2)
下記冷間鍛造試験により求めた最大変形抵抗(σMAX(MPa))とジョミニー焼入試験により求めたDI値との関係が以下の式(1)
σMAX<12.8×DI+745・・・式(1)
を満たし冷間鍛造性及び焼入性に優れたことを特徴とする。
(冷間鍛造試験)
球状化焼鈍後の材料から切り出したφ15×22.5mmの試験片を、端面拘束状態且つ圧縮率70%で、冷間で圧縮変形させたときの最大変形抵抗を測定する。
【0009】
請求項2のものは、質量%でC:O.1O〜O.30%,Si:O.01〜1.50%,Mn:O.40〜1.50%,S:O.O1〜O.lO%,P:O.03%以下,Cu:0.05〜1.00%,Ni:O.05〜1.00%,Cr:0.98〜2.00%,Mo:O.01〜O.50%,Nb:O.OO1%以下,s-A1:O.001〜O.008%,N:O.005〜O.030%,Ti:<0.OO1%,Zr:<0.001%,残部Fe及び不可避的不純物の組成を有し、
下記冷間鍛造試験により求めた最大変形抵抗(σMAX(MPa))とジョミニー焼入試験により求めたDI値との関係が以下の式(1)
σMAX<12.8×DI+745・・・式(1)
を満たし冷間鍛造性及び焼入性に優れたことを特徴とする。
(冷間鍛造試験)
球状化焼鈍後の材料から切り出したφ15×22.5mmの試験片を、端面拘束状態且つ圧縮率70%で、冷間で圧縮変形させたときの最大変形抵抗を測定する。
【0010】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、質量%でB:0.001〜0.010%を更に含有していることを特徴とする。
【0011】
請求項4は浸炭部品に関するもので、請求項1〜3の何れかに記載の肌焼鋼を用いて冷間鍛造にて部品形状に加工した上で浸炭焼入れを施して得た部品であって、浸炭焼入後における旧オーステナイト粒の粒界面積1mm2当りのTiC,AlN,ZrCの析出物粒子量が4.5×10-10モル以下であることを特徴とする。
【0012】
請求項5のものは、請求項4において、前記浸炭焼入れが、ガス焼入れを用いた浸炭焼入れであることを特徴とする。
【0013】
請求項6のものは、請求項4,5の何れかにおいて、前記浸炭焼入後における組織が、JIS G 0551に規定される前記旧オーステナイト粒の平均結晶粒度が6番以下の組織であることを特徴とする。
【0015】
上記請求項1において、DI(理想臨界直径)値は焼入性を表す指標となる値である。
本発明において、このDI値はJIS G 0561に規定するジョミニー焼入試験の結果に基づいて定められる。
詳しくは、先ずジョミニー焼入試験でJI値を求める。ここでJI値は50%マルテンサイト硬さと定義される。
ジョミニー焼入試験では、規定の焼入温度に加熱した状態の円柱状の試験片の下端面を噴水で冷却して焼入れし、その後側面を規定の厚みで平坦に削って、下端面から高さ1.5mmの位置の硬さ(HRC)を測定する。この1.5mm高さ(位置)の硬さから、以下のようにしてJI値を求める。
JI=1.5mm位置硬さ(HRC)−12(HRC)
以上により求めたJI値を、以下の式に代入してDI値を算出する。
【数1】
一方最大変形抵抗σMAXは、冷間鍛造を行ったときの鍛造性を表す指標となる値で、この値が小さいほど冷間鍛造性は良く、逆に値が大きいほど冷間鍛造性は悪い。
一般則として、鋼材の焼入性を高くするには、前述したように焼入れに関連した合金元素を多く添加する。このとき鋼材のDI値は高くなる。
これと同時に鋼材の冷間鍛造性は悪化し、上記のσMAXの値は大となる。即ちDI値,σMAXの値の何れもが高くなる。
【0016】
本発明では、浸炭部品を製造するに際してDI値とσMAXの値とが式(1)の関係を満たす鋼材(肌焼鋼)を用いる。
この肌焼鋼は、DI値を大きくして焼入性を高めても、最大変形抵抗値σMAXは一定以下の低い値に保持される。従って良好な冷間鍛造性と良好な焼入性との両特性をともに確保することが可能で、冷間鍛造での部品成形を可能としつつ、浸炭処理に際しての焼入れをガス冷却にて行うのに必要な焼入性を改善することができる。
ここでガス冷却とは、窒素,アルゴンガス等の不活性ガス等の非酸化性ガスを対象物に吹き付けて冷却する手法を意味する。
【0017】
本発明では、浸炭後における旧オーステナイト粒の粒界面積1mm当りのTiC,AlN,ZrCの析出量が4.5×10−10モル以下であるようにして、浸炭の際に析出物粒子による結晶粒界のピンニングを極力しないようにし、そのことによって結晶粒の粒度番号を小さく、即ち結晶粒を大粒化してDI値を高め、併せて冷間鍛造性を高めるようにすることができる。
【0018】
浸炭処理前の製造工程でAlN等の粒子を析出分散させて粒界をピンニング(ピン止め)する技術は、結晶粒の粗大化を抑制することを狙いとして広く実施されている。
しかしながらこの種の析出物粒子によって粒界をピンニング(ピン止め)する技術にあっては、局部的に結晶粒が異常に粗大化する異常粒成長の現象を十分には防ぐことができない。
【0019】
ここで異常粒成長とは、浸炭初期には析出物粒子によるピンニング力が結晶粒成長の駆動力よりも大であったものが、浸炭中に力関係が逆転し、析出物粒子のピンニング力よりも結晶粒成長の駆動力が大となることによって起る現象で、こうした力関係の逆転は、浸炭中における析出物粒子の固溶、析出物粒子がオストワルド成長し粗大化することによってピンニング力が小さくなること等が要因となって生じる。
また冷間鍛造を施した部品では、鍛造時に部品内部に塑性歪分布が導入され、歪みが大きい領域では浸炭中に結晶粒成長の駆動力とピンニング力の逆転が起きることで、結晶粒の異常粒成長が起る。
【0020】
図1(ロ)は、このような異常成長粒の発生をモデル的に示している。
図1(ロ)(A)は浸炭初期の状態を示したもので、pは析出物粒子(ピン止め粒子)を表している。浸炭初期の状態ではこれら析出物粒子pが多数粒界に介在して結晶粒qの粒界をピンニングし拘束しており、結晶粒qが大きくなろうとするのを妨げている。
ところが粒界をピンニングしている一部析出物粒子pが、浸炭中に固溶により消失し、析出物粒子pによるピンニング(拘束)が破れると(外れると)、ここにおいて粒界でのピンニングの外れた隣接結晶粒同士が合体して1つの結晶粒に粒成長する。
【0021】
このようにしてサイズ増大した結晶粒は粒成長のパワーを増し、相対的な析出物粒子pのピンニング力の低下の下に、析出物粒子pによる結晶粒界のピンニングを破って次々と隣の結晶粒を呑み込んで粒成長して行く。
即ち一旦析出物粒子pによる結晶粒界のピンニングが破れると、そのピンニングの破れた結晶粒界を中心として結晶粒の粒成長が連鎖的に発生し、図1(ロ)(B)に示すように異常粒成長が生じて遂には異常に巨大化した結晶粒Qが発生する。
【0022】
図1(ロ)(C)は、このような異常粒成長した実例(浸炭後結晶粒写真)を示したものである。
このような異常粒成長が起ると、局部的な焼入性の上昇のために熱処理歪みが生じて、これが騒音や振動の原因となったり、また疲労強度が低下してしまうといった問題が生ずる。
【0023】
従来にあっては、こうした場合に析出物粒子をより多く分散析出させ、析出物粒子による粒界のピンニング力をより一層増大させることで対策しているが、そのような対策にては異常粒成長を十分に防止できない。
またこのように析出物粒子を多く分散析出させたときには、析出物粒子そのものが冷間鍛造時の変形抵抗を上げる1つの要因となる。
特に近年においては、浸炭時間の短縮を目的とした浸炭温度の高温化、部品製造コスト低減のための冷間鍛造化、生産中のCO2削減や強度の向上を目的とした真空浸炭等の環境対応技術が普及しているが、これらの技術の下では上記の異常粒成長がより生じ易い。
そこで請求項では、浸炭後における旧オーステナイト粒の粒界面積1mm2当りのTiC,AlN,ZrCの合計の析出物粒子量が4.5×10-10モル(mol)以下となるように析出物粒子密度を少なくするもので、浸炭初期から「析出物粒子のピンニング力<結晶粒成長の駆動力」の状態とするものである。
【0024】
以下この点を図1(イ)のモデル図に基づいて説明する。
図1(イ)のモデル図において(ここでは理解を容易にするため便宜的に析出物粒子が析出していないものとして示している)、(A)の浸炭初期においては、各結晶粒qはほぼ同じような大きさでそれぞれの結晶粒界で互いに接している。
析出物粒子によって結晶粒界をピンニングする従来の技術にあっては、その後、先に述べたように浸炭中に析出物粒子が一部固溶し消失する等によって、ある結晶粒が特異的に粒成長を続けて粗大化し、巨大結晶粒となる異常粒成長を生じる。
これに対して本発明のモデル図1(イ)の場合には、当初から析出物粒子が結晶粒界を拘束し、ピンニングしていないため、浸炭中に結晶粒qは析出物粒子によるピンニング作用を受けないで自由に粒成長しようとする。
【0025】
ところが析出物粒子によるピンニング作用を受けずに、自由に粒成長しようとする点は何れの結晶粒qも同じであり、結果として何れの結晶粒qも、周りの他の結晶粒qの粒成長しようとする圧力を自身の粒成長に対する抑制圧力として受けることとなり、その結果何れかの結晶粒qが特異的に粒成長するといったことはできず、何れの結晶粒qも均等にある程度の大きさまで結晶粒成長できるに留まる。
【0026】
この結果、粒成長を止めるための析出物粒子が存在していないにも拘らず(寧ろそのような析出物粒子が存在していないからこそ)、各結晶粒qはそれぞれが互いに均等にある程度の大きさまで粒成長するのに留まって、何れか特定の結晶粒qが特異的に異常粒成長してしまうのが有効に抑制される。
因みに図1(イ)(C)は、析出物粒子の析出を極力少なくすることで異常粒成長が抑制されている実例写真(浸炭後結晶粒写真)を示したものである。
尚、析出物粒子を極力少なくすることで異常粒成長を抑制し、各結晶粒を均等に粒成長させ得る点は、本出願人の出願に係る特願2013-134262,特願2013-134263(何れも未公開)に開示されている。
このように請求項では析出物粒子の析出を極力少なくすることで、異常粒成長を抑制しつつ結晶粒を均等に大粒化させ、そのことによって変形抵抗を小さくして冷間鍛造性を高めるとともに、焼入性を高める。析出物粒子を少なくすることで、析出物粒子自体が冷間鍛造時の変形抵抗を増す原因となるのを防ぎ、冷間鍛造性を高める。
【0027】
このような異常粒成長を抑制した状態の下での結晶粒成長は、本発明者らの研究によれば、浸炭後における旧オーステナイト粒の粒界面積1mm当りのTiC,AlN,ZrCの合計の析出物粒子量が4.5×10−10モル以下となるように鋼中の析出物粒子密度を極力少なくすることで達成できることを知得した。
【0028】
本発明において、TiC,AlN,ZrCの合計の析出物粒子量を旧オーステナイト粒の粒界面積1mm当りの単位面積で規定している理由は、
第1に、析出物粒子によるピンニング(ピン止め)の効果は粒界面積によって異なり、粒界面積が大きければ沢山の析出物粒子が必要で、逆に粒界面積が小さければ粒子の数は少なくて済むこと、
第2に、析出物粒子量はあくまで浸炭部品中に測定される析出物の粒子量であって、これには旧オーステナイト粒界に存在しているものも存在していないものも含まれている。但しその析出量が多ければ、当然に粒界に存在する量も多くなること、
第3に、本発明において問題となるのは結晶粒界における析出物粒子の量であるが、トータルの析出物量が多ければ結晶粒界に存在する析出物量も多くなるから、全体の析出物量を旧オーステナイト粒の単位面積当りに換算して整理することで、析出物粒子によるピンニングへの影響を判断できると考えられること、等による。
【0029】
本発明では、上記の浸炭焼入れを、ガス焼入れを用いた浸炭焼入れとすることができる(請求項)。
この場合、浸炭焼入れに伴って生ずる歪みを小さくすることができる。
【0030】
本発明では浸炭焼入後における組織が、旧オーステナイト粒の平均結晶粒度で6番以下としておくことができる(請求項)。
このようにすることで、浸炭前における平均結晶粒度番号を小さくしておくこと、即ち結晶粒を大粒化しておくことができ、冷間鍛造性と焼入性を高めることができる。
【0031】
本発明では、請求項に規定する化学組成の鋼材(肌焼鋼)を用いて浸炭部品を得ることができる。
請求項の化学組成の肌焼鋼では、上記の式(2)を充足するようにTi,Zr,Nの含有量を規制することで、結晶粒界のピンニングに働く析出物粒子密度を極力少なくすることができる。
【0032】
具体的には、例えばTi,Zrを添加することで、鋼の鋳造時に鋼中に含まれるNとTi,Zrとの結合により結晶粒界のピンニングに対して寄与しないTiN,ZrNを晶出せしめ、鋼中のNがAlと結合してピンニング作用を持つAlNを析出するのを抑制する。
但しTi,Zrを過剰に添加するとTiC,ZrCが析出し、これらがピンニング作用を有する析出物粒子となってしまうため、それらが過剰とならないように式(2)を満たすようにすることが重要である。
【0033】
要するに式(2)は次のような意味を有している。
即ち鋼中のAlと反応してAlNと成り得るNが鋼中に多くあったり、或いは鋼中のCと反応してTiC,ZrCと成り得るTi,Zrが多くあったりすると、何れの場合にも析出物粒子が鋼中に望ましくない量で析出してしまうことから、鋼中のNとTi及びZrを凝固時に晶出物として晶出せしめることで、析出物粒子形成可能なN,Ti及びZrを固定し(消費し)、以て余剰のTi,Zr,Nを式(2)で規定し、その値を目標とする3.5×10−6モル/g以下とする。
【0034】
但し浸炭部品用の鋼材を請求項に規定する化学組成とすることで、結晶粒界のピンニングに働く析出物粒子の密度を極力少なくするようになすこともできる。
具体的にはこの請求項では、鋼中のNを晶出物形成によって消費するTi及びZrを無添加とする一方で、これに伴って析出物粒子を形成するS-Alの添加量を微量とし、以て析出物粒子の密度を極力少なくするようにしている。
【0035】
尚本発明では、上記鋼材に質量%でB:0.001〜0.010%を選択的成分として含有させるようになすことができる(請求項)。
【0036】
本発明では、旧オーステナイト粒の粒界面積,TiC,AlN,ZrCの析出物量を次のようにして求めることができる。
(粒界面積の求め方)
浸炭品の表面を垂直に切断し、浸炭品から観察用試料を切り出し、表層を含む断面を研磨し、旧オーステナイト粒界を現出させた後、JlS G 0551で規定された方法で平均結晶粒度nを測定する(測定の際、表層(浸炭層)を含めて測定してもよい)。そして以下の式より旧オーステナイト粒半径rを算出する。
r=(3/2×1/(2(n+3)×π))0.5 ・・・式(3)
尚、式(3)は以下のようにして求めたものである。
JlS G 0551における単位面積(1mm)当たりの結晶粒の数mと平均結晶粒度nとの間には、m=2(n+3)の関係がある。この関係式より、旧オーステナイト粒を半径rの球形と仮定した場合の結晶粒の断面積はπr=3/2×1/m=3/2×1/(2(n+3))となる。これより半径rは式(3)で表すことができる。
ここで係数3/2は、測定した断面が一般には結晶粒の中心からずれていることを考慮して定めた係数である。
【0037】
そして粒界面積は、上記半径rを用いて以下の式(4)にて表すことができる。
粒界面積=(鋼材単位質量(1g)中に含まれる旧オーステナイト粒の個数)×旧オーステナイト粒1個の表面積×1/2=(1OOO/7.8)/(4/3×π×r)×4πr×1/2 ・・・式(4)
ここで(1OOO/7.8)は鋼の密度の逆数、1/2は隣接する結晶粒が互いに接していることを考慮した係数である。
従って上記式(3)及び式(4)より、旧オーステナイト粒の粒界面積は、平均結晶粒度nを測定することにより求めることができる。
【0038】
(TiCの定量法)
10%アセチルアセトン-1%塩化テトラメチルアンモニウム-メタノール(1O%AA溶液)を用いた電解法により全析出物の抽出を行う。電解後、孔径O.2μmのニュークリポアフィルターによって吸引ろ過し、得られた残渣の一部を混酸分解による融解で溶液としたのち、全析出物中の金属元素成分をICP発光分析法によって定量し、所定質量当りのTiの析出物量を求めて単位g当りの析出物量に換算する。また得られた残渣の他の一部を1O%臭素-メタノール溶液に浸漬処理することによりTiNのみ残渣として抽出し、質量測定によって所定質量当りのTiNを定量し、単位g当りの量に換算する。そしてTiC量=(全Tiの析出物量)−(TiN量)からTiC量(単位g当りのTiC量)を求める。
【0039】
(ZrCの定量法)
TiCと同様の方法で行う。
【0040】
(AlNの定量法)
14%ヨウ素-メタノール溶液による母材の溶解での残渣の一部をICP発光分析法により単位g当りの全A1(AlN,A1)の定量を行う。また残渣の他の一部を硫酸で酸分解することにより、窒化物と酸化物を分離すると残渣中には酸化物が残る。元素分析しA1量を定量すると、A1量を定量したことになる。よって、AlN量=全Al(AlN,A1)−A1量で求めることができる。
上記の方法で求めた粒界面積、析出物量より
旧オーステナイト粒界1mmあたりの析出物量=(析出物量)/(旧オーステナイト粒界面積)・・で求めることができる。
【0041】
以下に本発明における各化学成分等の限定理由を説明する。
C:O.lO〜O.30%
Cは硬さ,強度を確保する上で0.10%以上含有させる。但し0.30%を超えて多量に含有させると、鋼材から歯車等の部品形状を冷間鍛造にて加工する際の加工性が低下するため、上限を0.30%とする。
【0042】
Si:O.O1〜1.50%
Siは焼入性、強度確保のために0.01%以上含有させる必要がある。但し1.50%を超えて多量に含有させると鍛造性、被削性の低下をもたらすため、上限を1.50%とする。
【0043】
Mn:O.40〜1.50%
MnはMnS等の介在物形態制御を図るとともに、焼入性を確保するために0.40%以上含有させる。またMnは0.40%未満であると芯部にフェライトを生成し、強度低下を生じるため、この意味においても0.40%以上を含有させる。但し1.50%を超えて多量に含有させると被削性の低下をもたらすため、上限を1.50%とする。
【0044】
S:O.O1〜O.10%
Sは被削性確保のため0.01%以上含有させる。但し0.10%を超えて多量に含有させると強度の低下をもたらすため、上限を0.10%とする。
【0045】
P:O.03%以下
Pは本発明において強度低下をもたらす不純物成分であり、0.03%以下にこれを規制する。
【0046】
Cu:O.05〜1.00%
Cuは0.05%以上含有させることで焼入性確保に有用である。一方1.00%を超えて多量に含有させると熱間加工性の低下をもたらすため、上限を1.00%以下とする。
【0047】
Ni:O.05〜1.00%
Niは0.05%以上含有させることで焼入性確保に有用である。一方1.00%を超えて多量に含有させると、炭化物析出量が減少し強度低下を招くため、上限を1.00%とする。
【0048】
Cr:1.12〜2.00%(請求項1),Cr:0.98〜2.00%(請求項2)
Crは焼入性を良くし、強度向上させるのに有効な元素で、そのために請求項1においては1.12%以上、請求項2においては0.98%以上含有させる。但し2.00%を超えて多量に含有させると加工性、特に被削性の低下を招くため、上限を2.00%とする。
【0049】
Mo:0.01〜0.50%
Moは強度向上させる元素であり、0.01%以上含有させる。Moによる強度向上の効果をより求める場合には0.15%以上含有させることが望ましい。但し0.50%を超えて多量に含有させると、加工性の劣化を招くとともにコスト高をもたらすので、上限を0.50%とする。
【0050】
Nb:O.001%以下
本発明においてNbは不純物元素となるものであり、Nbが含有されているとNbCが析出し、結晶粒界をピンニングするため、0.001%以下に含有量を規制する。
【0051】
s-A1:0.O05〜O.050%(請求項),O.001〜O.008%(請求項
Alは脱酸剤としての使用により鋼に含有される。請求項においては0.005%以上、0.050%以下の範囲内の含有量とする。
一方請求項においては、鋼の含有成分としてのZr,Tiが実質無添加となるため、AlNの生成を抑制するために含有量が0.008%以下に規制される。
【0052】
N:O.005〜0.030%
Ti:O.OO1〜O.150%(請求項),<0.001%(請求項
Zr:O.OO0〜0.300%(請求項),<0.001%(請求項
これらN,Ti,Zrはそれぞれが互いに相互に作用し合うことで有害な析出物粒子の析出密度を極力少なくする。その条件は請求項においては式(2)を満たす範囲内である。
また請求項においても、同様に有害な析出物粒子の析出密度を極力少なくするために必要な範囲内である。
尚請求項においては、Ti及びZrのうちTiだけを含有することで式(2)を満たすこともできる。この場合にはZrの含有は不要である。即ち請求項においてはZrは任意成分であり、含有量は0.000を含む範囲である。
【0053】
B:0.001〜0.010%
Bは焼入性を向上させる元素であり、必要に応じて0.001%以上含有させることができる。但し0.010%を超えて含有させた場合粒界にBの析出物を形成し、強度を低下させる。
【0054】
TiC,AlN,ZrCの合計の析出物粒子量が4.5×10−10モル以下
浸炭後の部品の旧オーステナイト粒の粒界面積1mm当りのTiC,AlN,ZrNの合計の析出物粒子量が4.5×10−10モル以下であることは、浸炭初期から析出物粒子を極力少なくし、析出物粒子が結晶粒界を実質的にピンニングし拘束しないように若しくはピンニングの力を弱めるようにし、異常結晶粒の発生を防ぎつつ結晶粒を大粒化する上で重要である。
【発明の効果】
【0055】
以上のような本発明によれば、冷間鍛造性に優れ、またガス冷却による浸炭焼入れを可能とする上で必要な焼入性も改善できる肌焼鋼及びこれを用いた浸炭部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】(イ)ピンニング粒子(析出物粒子)を極力少なくしたときの結晶粒の変化挙動を模式的に示したモデル図である。(ロ)異常成長粒の発生を説明するために示した比較例の図である。
図2】実施例における冷間鍛造の工程説明図である。
図3】実施例及び比較例についてDI値と最大変形抵抗との関係を表した図である。
図4】実施例及び比較例についての球状化焼鈍後の硬さと油焼入れ,ガス焼入れを行ったときの焼入後硬さとの関係を表した図である。
【実施例】
【0057】
表1に示す化学組成の鋼材を溶解し、1250℃に加熱し、4h保持した後、950℃以上で熱間圧延し、JIS G 0561に規定するジョミニー焼入試験用の円柱状の試験片及びφ30mmの棒鋼を作製した。
そしてジェミニー焼入試験用の試験片を用いてジョミニー焼入試験を実施し、DI値を求めた。
またφ30mmの棒鋼を用いて以下の鍛造試験を含む各種試験を行った。
通常、冷間鍛造される部品は鍛造前に軟化熱処理を行うので、その後、この棒鋼を760℃×4hで保持した後に、15℃/hで650℃まで温度を下げ、空冷する軟化熱処理を行い、軟化処理後の硬さ(ロックウェル硬さHRB)を測定した。
また軟化熱処理を施した棒鋼からφ15×22.5Lmmの冷間鍛造用試験片10(図2(I)参照)を作製した。この試験片10を図2(II),(III)に示すように一対の鍛造型12A,12Bを用い、試験片10の各端面に鍛造型12A,12Bを当て、端面拘束状態でプレスし、圧下率=70%,圧下速度(ひずみ速度)6.7(1/S)で冷間鍛造をして、最大変形抵抗を測定した。最大変形抵抗は各鋼種n=3で試験を実施し、その平均を求めた。
【0058】
次に冷間鍛造したものを950℃で浸炭焼入れし、硬さ測定及び旧オーステナイトの結晶粒度測定を行った。
浸炭条件は温度950℃,CP(カーボンポテンシャル):0.8%で2h保持した後、850℃,CP:0.8%で0.5h保持の条件とした。その後に80℃の油での焼入れ(油焼入れ)と、ガス冷却(ガス吹付けによる冷却)即ちガス焼入れとを行い、それぞれの焼入れ後の硬さ(HRC)の測定を行った。
尚ガス冷却では、冷却ガスとしてNガスを用い、これをガス圧力9barで、冷却ファンにより回転数60Hzで対象物に吹き付けた。
また硬さ測定は、冷間鍛造及び浸炭焼入れした試験片を横断面で切断し、R/2(R:半径)部をロックウェル硬度計で周方向に90°ごと隔たった4点硬さ測定し、その平均値を求めた。
【0059】
一方結晶粒観察は、試験片(冷間鍛造後において油焼入れにより浸炭焼入処理を行ったもの)を縦断面で半分に切断し、切断面を鏡面研磨した後に、過飽和ピクリン酸を用いて腐食し、旧オーステナイト結晶粒界の現出を行って、結晶粒度の測定を行った。測定は縦断面の中心部について行い、測定方法はJIS G 0551に準じ、光学顕微鏡の100倍視野且つ5視野で行い、平均値を求めた。
【0060】
また実施例1,6,11に関しては、結晶粒度の安定性を確認するために1050℃での浸炭も行い、結晶粒度測定を行った。
尚1050℃の浸炭処理は、950℃の浸炭に代えて1050℃で浸炭を行う他、その他の条件は上記と同様の条件(焼入れは油焼入れ)とした。
1050℃での浸炭のときと、950℃の浸炭とで結晶粒度に大きな差はなく、本実施例の鋼材から作られる部品は、高温でも結晶粒度特性が安定している。
【0061】
また、上記温度950℃の条件で浸炭焼入処理(焼入れは油焼入れ)を行ったものについて、前述した方法にて鋼材中に含まれるTiC,AlN,ZrCの析出物粒子量(モル)を定量化して鋼材100g当りに換算するとともに、測定した旧オーステナイトの平均結晶粒度nから求めた鋼材1g当りの旧オーステナイト粒の粒界面積(mm)を鋼材100g当りに換算し、これらから旧オーステナイト粒界面積1mm当りの析出物粒子量を算出した。
これらの結果が表2及び表3と図3及び図4とに示してある。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
表1,表2の結果に示しているように、比較例では式(2)の値が何れも請求項の条件を満たしていないとともに、浸炭後における旧オーステナイト粒の粒界単位面積当りのTiC,AlN,ZrCの析出物粒子量が4.5×10−10モルを超えて多量である。
そして比較例のものは、何れも浸炭後の旧オーステナイト粒の平均結晶粒度が8以上で結晶粒が微細であり、冷間鍛造時における最大変形抵抗の値が大きい。即ち冷間鍛造性が良くない。
【0066】
一方実施例のものは、何れも式(2)の値が請求項の条件を満たしているとともに、浸炭後における旧オーステナイト粒の粒界単位面積当りのTiC,AlN,ZrCの析出物粒子量が4.5×10−10モル以下の少量である。
そして実施例のものは、何れも浸炭後の旧オーステナイト粒の平均結晶粒度が6以下で結晶粒が大粒であり、これに起因して冷間鍛造時における圧縮の最大変形抵抗σMAXの値が800(MPa)以下と小さく、冷間鍛造性が良いことを示している。
【0067】
因みに、図3は表2の実施例,比較例について横軸にDI値を、縦軸に最大変形抵抗σMAXをとって、それらの関係を表したものである。
この図から、本実施例では比較例に比べて同じDI値の下で最大変形抵抗が小さいことが見て取れる。或いは同一の最大変形抵抗σMAXの下ではDI値が高いことが見て取れる。
【0068】
この図において、本実施例のものは何れもσMAXの値が12.8×DI+745よりも小さく、DI値とσMAX値との関係が式(1)の関係を満たしている。
これに対して比較例のものは、σMAXの値が12.8×DI+745よりも大であり、式(1)の関係を満たしていない。
即ち、比較例及び実施例において、DI値が高くなると何れもσMAXの値がこれに対応して大となっているが、比較例ではσMAXの値のレベルが、実施例のものに比べて高く、焼入性を高くするとσMAXの値が高いレベルを保ちつつ、より大となり、焼入性を高くした上で冷間鍛造をすることが困難である一方、実施例では良好な冷間鍛造性を確保しつつ、焼入性を効果的に高め得ることが分る。
【0069】
図4には実施例,比較例それぞれについて球状化焼鈍後の硬さと油焼入れ,又はガス焼入れを用いた浸炭焼入後の硬さの関係が示してある。
この図4の結果から、本実施例のものはガス焼入れを用いた浸炭焼入後の硬さが、比較例において油焼入れを用いた浸炭焼入後の硬さとほぼ同等の硬さが得られていることが見て取れる。
【0070】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。
図1
図2
図3
図4